説明

シール部材及びこれを用いた直線運動案内装置

【課題】シールに過大な締め代を設けることなく、確実に、軸部材に対してシールを接触させることで、直線運動案内装置の移動部材の外部からの塵埃等の侵入を確実に防止でき、微細な塵埃等も確実にシールすることができる高防塵シール機能を備えたシール部材及びこのシール部材を有するボールねじ装置又は直線運動案内装置を提供する。
【解決手段】シール部材は、移動部材に取り付けられる本体部42と、軸部材の外周に接触するリップ部43とを有し、前記リップ部は、軸方向の断面形状が前記軸方向に対して傾斜した斜面43aを備え、前記本体部は、前記リップ部を前記軸部材の径方向に付勢する付勢手段44を備えると共に、前記斜面側に、前記本体部を補強する補強部42aを備え、前記リップ部の軸方向の断面形状において、前記付勢手段は、前記リップ部の先端よりも前記補強部側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置などの直線運動案内装置に用いられるシール部材及びこのシール部材が適用されたボールねじ装置などの直線運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配列された複数の転動体とを備えている。また、ナットには、ナットの螺旋溝の一端と他端を連絡する無限循環路が形成されており、ナットの螺旋溝の一端まで転走した転動体は、無限循環路を通過してナットの螺旋溝の他端まで循環する。このような構成により、ボールねじ装置はナットがねじ軸の回転に従ってねじ軸の軸線方向に直線往復運動することが可能となっている。
【0003】
このボールねじ装置においてはナットが長尺のねじ軸に沿って移動していることから、ねじ軸にワークの切削粉や塵芥などの塵埃が異物として付着した状態でナットが移動すると、転動体転走溝を転走する転動体がこれらの異物を噛み込んでしまい、ねじ軸の回転に対するナットの移動精度が早期に低下してしまう。このため、ボールねじ装置を実際に使用するに当たっては、ナットの軸方向の両端にナットとねじ軸との隙間を密封するシール部材を装着し、ナットの移動に併せてねじ軸に付着した異物をシール部材で除去するように構成するのが一般的である。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載されているように、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、ナットの軸方向両端または一端にそれぞれ複数配置されたリング状のシールを備え、前記シールはナットに固定される縁部を備えた本体と、ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部とを有し、隣り合うシールの間に潤滑材含有部材が配置されているボールねじ装置が知られている。
【0005】
このようなボールねじ装置によると、隣り合うシールの間に潤滑剤含有部材が配置されているため、グリースを充填した場合のようなトルクの増加を招くことなく、両シールのリップ部の潤滑がなされ、高いシール性を確保することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−185516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のボールねじ装置は、シールを弾性変形させてねじ軸の外周面および螺旋溝に接触させることで、シールに締め代を設けて取り付けを行っているため、シールやねじ軸の加工誤差が生じることによって精度よくシールを取り付けることができず、ボールねじ装置をレーザー加工機などに適用した場合、レーザー加工機の加工によって生じる粒径が数10μm程度の微細な加工粉をシールすることができないといった問題があった。
【0008】
また、従来のボールねじ装置は、シールを弾性変形させてねじ軸の外周面および螺旋溝に接触させているので、接触による摩擦熱の発生、トルクの増大といった課題を有しており、さらに、経年使用により、シールが摩耗した場合、シール性能が著しく低下するといった問題があった。
【0009】
さらに、転動体転走部を有する軸部材と、前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部を有する移動部材と、前記転動体転走部と前記負荷転動体転走部との間に転がり運動可能に配列される複数の転動体と、前記移動部材の少なくとも一端に取り付けられるシール装置を備える直線運動案内装置においても、同様の問題を有していた。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、シールに過大な締め代を設けることなく、確実に、軸部材に対してシールを接触させることで、直線運動案内装置の移動部材の外部からの塵埃等の侵入を確実に防止でき、微細な塵埃等も確実にシールすることができる高防塵シール機能を備えたシール部材及びこのシール部材を有するボールねじ装置又は直線運動案内装置を提供することを目的とする。また、移動部材内部に保持されたグリースなどの潤滑剤が移動部材外部に飛散することを防止することができるシール部材及びこのシール部材を有するボールねじ装置及び直線運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシール部材は、軸部材と移動部材との間に転がり運動可能に複数の転動体を介在させた直線運動案内装置における前記移動部材の軸方向の端面に取り付けられるシール部材において、前記シール部材は、前記移動部材に取り付けられる本体部と、前記軸部材の外周に接触するリップ部とを有し、前記リップ部は、軸方向の断面形状が前記軸方向に対して傾斜した斜面を備え、前記本体部は、前記リップ部を前記軸部材の径方向に付勢する付勢手段を備えると共に、前記斜面側に、前記本体部を補強する補強部を備え、前記リップ部の軸方向の断面形状において、前記付勢手段は、前記リップ部の先端よりも前記補強部側に位置していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るボールねじ装置は、外周面に螺旋状の転動体転走溝を有するねじ軸と、内周面に前記転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝を有するナットと、前記転動体転走溝と、前記負荷転動体転走溝との間に転がり運動可能に配列される複数の転動体と、前記ナットの少なくとも一端に取り付けられるシール装置を備えるボールねじ装置において、前記シール装置は、前記ナットに取り付けられる本体部と、前記ねじ軸の外周または前記転動体転走溝に接触するリップ部とを有するシール部材を備え、前記リップ部は、軸方向の断面形状が前記軸方向に対して傾斜した斜面を備え、前記本体部は、前記リップ部を前記ねじ軸の径方向に付勢する付勢手段を備えると共に、前記斜面側に、前記本体部を補強する補強部を備え、前記リップ部の軸方向の断面形状において、前記付勢手段は、前記リップ部の先端よりも前記補強部側に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール部材が一定の締め代をもって線接触で軸部材に接触するため、発熱量が少なく、確実に異物を除去することができる。また、付勢手段によってシール部材を軸部材の径方向に付勢しているので、リップ部の先端が摩耗しても常に接触状態を維持することができる。さらに、リップ部の一端面を斜面に形成すると共に、付勢手段がリップ部先端よりも補強部側にずらして配置しているので、リップ部を常に一定の方向に変形させることができ、ボールねじ装置又は直線運動案内装置の外部から塵埃等が侵入することを確実に防止できる他、移動部材の内部から潤滑剤が飛散することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るボールねじ装置の実施形態を示す一部断面斜視図。
【図2】本発明に係るボールねじ装置の実施形態の構造を示す一部断面図。
【図3】本発明に係るボールねじ装置の実施形態のシール装置の分解図。
【図4】本発明に係るボールねじ装置の実施形態に用いられるシール部材の正面図。
【図5】図4におけるA−A断面図。
【図6】図5におけるB部拡大図。
【図7】シール部材がねじ軸に接触する状態を示す状態図。
【図8】本発明に係るボールねじ装置の実施形態の潤滑手段を軸方向から示した図。
【図9】本発明に係るボールねじ装置の実施形態に用いられるシール部材の接触状態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るボールねじ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るボールねじ装置の構造を示す一部断面斜視図であり、図2は、本実施形態に係るボールねじ装置の構造を示す一部断面図であり、図3は、本実施形態に係るボールねじ装置のシール装置の分解図であり、図4は、本実施形態に係るボールねじ装置に用いられるシール部材の正面図であり、図5は、図4におけるA−A断面図であり、図6は、図5におけるB部拡大図であり、図7は、シール部材がねじ軸に接触する状態を示す状態図であり、図8は、本実施形態に係るボールねじ装置の潤滑手段を軸方向から示した図であり、図9は、本発明に係るボールねじ装置の実施形態に用いられるシール部材の接触状態を説明するための図である。
【0017】
図1は、本実施形態に係るボールねじ装置1を示すものである。本実施形態に係るボールねじ装置1は、外周面に所定のリードで螺旋状の転動体転走溝11が形成された軸部材としてのねじ軸10と、複数の転動体30を介してねじ軸10に螺合するとともに該転動体30の無限循環路(不図示)を備えた移動部材としてのナット20とから構成されており、これらねじ軸10とナット20との相対的な回転により該ナット20がねじ軸10の軸方向へ運動するように構成されている。また、この転動体転走溝11は、円滑な転動体30の転走が実現できるような精度での表面加工が施されている。なお、転走面の形状については、ゴシックアーチ形状であってもサーキュラアーク形状であっても構わない。
【0018】
図1及び2に示すように、ナット20は、内周面に転動体転走溝11に対向する負荷転動体転走溝22が形成され、略円筒形状をしたナット本体21と、転動体転走溝11およびねじ軸10の外周面に潤滑剤を塗布する潤滑手段50とを備えている。なお、上述したように転動体転走溝11と負荷転動体転走溝22の間には複数の転動体30が配列されており、ナット20は、ねじ軸10に対して転動体30を介して組み付けられている。
【0019】
ナット20の軸方向の端部には、ナット20の内部と外部とをシールするシール装置40が取り付けられている。シール装置40は、潤滑手段50を介してナット20に組み付けられる略円環状の本体部42と、ねじ軸10の外周面および転動体転走溝11に接触するように、本体部42の内周面から径方向内側に向けて斜めに延びるリップ部43とを有するシール部材41を一対隣接させて組み付けられている。リップ部43は、ねじ軸10の外周面や転動体転走溝11に付着した塵埃等を掻き取る機能を有している。一対のシール部材41,41は、互いに背面を合わせるように隣接しており、リップ部43が、隣接する本体部42の当接面から互いに離間する方向に延び、断面略ハの字状に配置されている。
【0020】
さらに、シール部材41の端部には、軸方向の投影形状がシール部材41と略同一形状に形成された板部材48が取り付けられている。板部材48はシール部材41を軸方向に保持するように組み付けられた円環状の部材であり、その内周面は、ねじ軸10の外周面および転動体転走溝11の転走面から所定の隙間を有して組み付けられている。この内周面は、所定の隙間よりも大きな塵埃等をシールするスクレーパ部48aとして作用する。
【0021】
図3に示すように、一対のシール部材41,41は、潤滑手段50の端部にカラー41aを介して組み付けられている。カラー41aは、後述するボルト60が挿通される部材であり、シール部材41,41の位置決めを行っている。このように、シール装置40は、一対のシール部材41,41および板部材48をこの順に配置した状態でケース49を最外周及び最端部に被覆させ、ボルト60で締結することによってシール装置40が構成されている。
【0022】
次に図4から6を参照してシール部材41について詳述する。図4に示すように、本体部42は略円環状に形成されている。図5に示すように、リップ部43は本体部42の内周面から内径方向に向かって突出して形成されている。なお、リップ部43は、断面舌片状に形成されており、ねじ軸10との摺動接触がなされる部位を意味する。
【0023】
図6に示すように、シール部材41は、本体部42に形成された溝部45に付勢手段44が組み付けられている。本実施形態において、付勢手段44はばね部材として円環状のコイルスプリングが用いられている。本体部42の斜面43a側の軸方向の端部には本体部42を補強する補強部42aが取り付けられている。補強部42aは、円環状の金属板によって構成されていると好適である。
【0024】
リップ部43は、軸方向の断面形状が、一端面が軸方向に対して傾斜した斜面43aに形成されており、この斜面43aの反対面は軸方向と略垂直に交わる垂直面43bに形成されている。また、斜面43aの本体部42と連続する連結部は、薄肉に形成された変形部42bが形成されている。
【0025】
また、リップ部43の先端位置は、付勢手段44が取り付けられる溝部45に対して垂直面43b側にずらされて配置されている。即ち、付勢手段44の中心C1は、リップ部43の先端C2と軸方向に沿って互いに離間しており、リップ部43の先端は垂直面43b側に、付勢手段44の中心C1は斜面43a側にそれぞれ配置されている。なお、付勢手段44を取り付ける溝部45は、上述したように斜面43a側に配置されるので、変形部42bをより薄肉に形成することができる。
【0026】
さらに、図4に示すように、リップ部43は、内周形状が円弧状の円弧部46と、円弧形状から内径方向に膨出した膨出部47とを備えている。円弧部46は、ねじ軸10の外周面と接触してねじ軸10の外周面をシールするように作用し、膨出部47は、転動体転走溝11の転走面と接触して転動体転走溝11の転走面をシールするように作用する。
【0027】
このように、シール部材41は、付勢手段44によってねじ軸10方向に一定の圧力を付与されて接触しているので、図7に示すように、ねじ軸10の外周面および転動体転走溝11の転走面のいずれに対しても一定の圧力で接触することができる。また、リップ部43の先端形状はR形状に形成されているので、転動体転走溝11の転走面とねじ軸10の外周面とが連続する箇所においても柔軟に接触することができる。なお、シール部材41は、ねじ軸10に対して一定の圧力を付与できるように柔軟性のある部材で形成されており、例えばゴムで形成されている。なお、ゴムは、耐熱・耐油・耐摩耗性に優れた水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム(H−NBR)が好適に用いられる。
【0028】
また、図9に示すように、シール部材41は、軸方向の断面形状が軸方向に対して傾斜した斜面43aと垂直面43bによって形成されているので、垂直面43b側の剛性は、斜面43a側の剛性よりも高く形成されている。さらに、リップ部43の先端が付勢手段44の中心よりも垂直面43b側に形成されているので、付勢手段44の付勢力によってリップ部43を変形方向Dに沿ってリップの先端が垂直面43b側に屈曲するようにリップ部43を変形させてねじ軸10の外周面及び転動体転走溝11の転走面に接触させることができる。
【0029】
さらに、シール部材41は、斜面43a側に補強部42aを備えて本体部の42の斜面43a側の剛性を向上させると共に、斜面43aと本体部42との連結部には変形部42bが形成してリップ部43の斜面43a側の剛性を低くしているので、より変形方向Dに沿った変形を促すことができる。
【0030】
このように、シール部材41は、リップ部43がねじ軸10の外周面及び転動体転走溝11の転走面に接触した状態において、変形方向Dに沿って一定の方向に変形するので、変形方向Dを塵埃等の侵入方向又は潤滑剤の漏出方向と対向するように配置すれば、容易にシール性能を向上させることができる。
【0031】
次に図2および図8を参照して、潤滑手段50について説明を行う。潤滑手段50は、転動体転走溝11の転走面やねじ軸10の外周面に塗布される潤滑剤を保持する潤滑剤保持部51と、転動体転走溝11およびねじ軸10の外周面に摺接して潤滑剤を転動体転走溝11およびねじ軸10の外周面に塗布する潤滑剤供給部52とを備えている。潤滑剤保持部51は、内部に潤滑剤を貯蔵する貯蔵体51aを有しており、該貯蔵体51aは、例えば、フェルトからなっている。なお、貯蔵体51aのフェルトには、潤滑剤を適切に貯蔵できる材質が用いられ、例えば空隙率約80%のレーヨン+羊毛フェルトが用いられる。
【0032】
また、潤滑剤供給部52は、貯蔵体51aと接触する一定の厚みのフェルトからなっており、潤滑剤供給部52のフェルトの空隙率は貯蔵体51aの空隙率よりも低く設定されている。潤滑剤供給部52のフェルトには、例えば空隙率50%程度の羊毛フェルトが用いられる。さらに、図8に示すように、潤滑剤供給部52は、潤滑剤保持部51からナット20の内周方向に突出するように複数形成されている。複数の潤滑剤供給部52は、突出量の大きい第1潤滑剤供給部52aと、突出量の小さな第2潤滑剤供給部52bとを有している。第1潤滑剤供給部52aは、転動体転走溝11の転走面に接触し、第2潤滑剤供給部52bはねじ軸10の外周面に接触する。
【0033】
このように、潤滑手段50は、転動体転走溝11およびねじ軸10の外周面に接触することで、転動体転走溝11およびねじ軸10の外周面に潤滑剤を塗布することができる。転動体転走溝11に塗布された潤滑剤は、円滑な転動体の転走に寄与し、ねじ軸10の外周面に塗布された潤滑剤は、ねじ軸10の外周面とリップ部43とが摺接することによる摩耗からリップ部43を保護することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係るボールねじ装置1は、リップ部43が軸方向に対して傾斜した斜面43aを備え、斜面43aの反対面に補強部42aを備えると共に、付勢手段44の中心C1がリップ部43の先端よりも補強部側に位置しているので、シール部材41は、リップ部43がねじ軸10の外周面及び転動体転走溝11の転走面に接触した状態において、変形方向Dに沿って一定の方向に変形させることができ、変形方向Dを塵埃等の侵入方向又はグリースの飛散方向と対向するように配置すれば、容易にシール性能を向上させることができる。
【0035】
また、リップ部43の他端面は、軸方向と略垂直に交わる垂直面43bに形成されているので、リップ部43の垂直面43b側の剛性を向上させることができ、リップ部43がねじ軸10の外周面及び転動体転走溝11の転走面に接触した状態において、変形方向Dに沿って常に一定の方向に変形させるように促すことができる。
【0036】
また、リップ部43の斜面43aと本体部42との連結部は、薄肉に形成された変形部42bが形成されているので、リップ部43がねじ軸10の外周面及び転動体転走溝11の転走面に接触した状態において、変形方向Dに沿って常に一定の方向に変形させるように促すことができる。
【0037】
また、シール部材41は、一対用いられ、リップ部43が互いに隣接する本体部42の当接面から互いに離間する方向に延びるように配置されているので、塵埃等の侵入を防止及びグリースの飛散防止の両立を図ることができる高防塵シールを達成することができる。
【0038】
また、付勢手段44は、シール部材41の本体部42に形成された溝部45に組み付けられたばね部材として構成されているので、簡便な構成で高防塵シールを達成することができる。
【0039】
さらに、リップ部43は、ねじ軸10の外周面に接触する円弧部と転動体転走溝11の転走面に接触する膨出部とを備えるので、ねじ軸10の外周面と転動体転走溝11の転走面の両方を確実にシールすることができる。また、互いに隣接するシール部材41の本体部42の当接面から互いに離間する方向に略ハの字状に配置されているので、一対のシール部材41,41のうち内側(ナット20側)に配置されたシール部材41がナット20の内部からのグリース等の飛散を防止し、且つ外側に配置されたシール部材41がナット20の外部から塵埃等が侵入することを防止することができる。
【0040】
またさらに、シール装置40の端部には、ねじ軸10の外周面および転動体転走溝11の転走面に対して所定の隙間を持って配置されるスクレーパ部48aを備える板部材48を備えているので、スクレーパ部48aによって所定の隙間よりも大きな塵埃等が侵入することを防止することができる。
【0041】
また、ナット20は、ねじ軸10の外周面および転動体転走溝11の転走面に潤滑剤を塗布する潤滑手段50を備えているので、円滑な転動体の転走に寄与するとともに、ねじ軸10の外周面とリップ部43とが摺接することによる摩耗からリップ部43を保護することができる。
【実施例】
【0042】
本実施形態に係るボールねじ装置と従来のシール部材を備えたボールねじ装置の異物侵入量,密封性能,発熱量を測定した。従来のシール部材は、非接触式および接触式の2種類について測定を行った。
【0043】
異物侵入量の測定はねじ軸の外周面および転動体転走溝に粒径が60μm以下の異物を混入したグリースを一定量塗布し、ナットを連続的に往復運動させた後、ナット内のグリースの異物の濃度を測定して行った。
【0044】
その結果、本実施形態に係るボールねじ装置は、異物濃度が0.017〜0.034%Wtという結果が得られ、従来の非接触式のシール部材では、0.175〜0.278%Wt、従来の接触式のシール部材では、0.145〜0.205%Wtという結果が得られた。このように、本実施形態に係るボールねじ装置は、従来のシール部材に比べて大幅に異物の侵入を防止しており、粒径が数10μmの塵埃に対しても高い防塵性能を有しているという結果となった。
【0045】
密封性能の測定は、ナットの内部に一定量のグリースを封入し、ナットを連続的に往復運動させた後、ねじ軸に付着したグリースの量を計量することで、ナットの外部に飛散したグリースの量を測定した。
【0046】
その結果、本実施形態に係るボールねじ装置は、グリースの飛散量が0.23〜0.36gという結果が得られ、従来の非接触式のシール部材では、2.34〜3.28g、従来の接触式のシール部材では、0.50〜0.55gという結果が得られた。このように、本実施形態に係るボールねじ装置は、従来のシール部材に比べてグリースの飛散量が小さく、ナット内の密封性能が高いという結果を得た。
【0047】
発熱量の測定は、ナットを連続的に往復運動させ、30分毎のナットの外表面およびねじ軸の外表面の温度を測定した。また、測定した温度のうち最も高い温度を集計してその増加量を比較した。
【0048】
その結果、本実施形態に係るボールねじ装置1は、ナット側で3.2℃/ねじ軸側で5.2℃の発熱の増加量が得られ、従来の非接触式のシール部材では、ナット側で10.0℃/ねじ軸側で9.3℃、従来の接触式シール部材では、ナット側で20℃/ねじ軸側で28.7℃という結果が得られた。このように、本実施形態に係るボールねじ装置は、従来の非接触式及び接触式のシール部材に比べて大幅に低い値を示しており、発熱量が非常に小さいという結果を得た。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では、ボールねじ装置に適用した場合について説明したが、ボールスプライン等の直線運動案内装置に適用しても構わない。
【0050】
ボールスプラインは、長手方向に沿って複数条の転動体転走部が形成された軌道部材としてのスプライン軸と、このスプライン軸が貫通する中空孔を有して略円筒形状に形成されるとともに、複数の転動体を介してスプライン軸に取り付けられた移動部材としてのスプラインナットとから構成されている。スプラインナットには転動体転走部の条数と同数の無限循環路が形成されており、スプライン軸の転動体転走部を転走した転動体がスプラインナットに形成された無限循環路を循環することにより、かかるスプラインナットがスプライン軸に沿って自在に直線往復運動することが可能となっている。
【0051】
また、転動体にはボールのほか、円筒状のローラを用いても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0052】
1 ボールねじ, 10 ねじ軸, 11 転動体転走溝, 20 ナット, 40 シール装置, 41 シール部材, 42 本体部, 42a 補強部, 42b 変形部, 43 リップ部, 43a 斜面, 43b 垂直面, 44 付勢部材, 45 溝部, 46 円弧部, 47 膨出部, 48 板部材, 48a スクレーパ部, 50 潤滑手段, 51 潤滑剤保持部, 52 潤滑剤供給部, C1 付勢部材の中心線, C2 リップ部先端の中心線, D 変形方向。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と移動部材との間に転がり運動可能に複数の転動体を介在させた直線運動案内装置における前記移動部材の軸方向の端面に取り付けられるシール部材において、
前記シール部材は、前記移動部材に取り付けられる本体部と、前記軸部材の外周に接触するリップ部とを有し、
前記リップ部は、軸方向の断面形状が前記軸方向に対して傾斜した斜面を備え、
前記本体部は、前記リップ部を前記軸部材の径方向に付勢する付勢手段を備えると共に、前記斜面側に、前記本体部を補強する補強部を備え、
前記リップ部の軸方向の断面形状において、前記付勢手段は、前記リップ部の先端よりも前記補強部側に位置していることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
請求項1に記載のシール部材において、
前記リップ部の前記斜面の反対面は前記軸方向と略垂直に交わる垂直面に形成されることを特徴とするシール部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシール部材において、
前記斜面と前記本体部の連結部は、変形部が形成されることを特徴とするシール部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシール部材において、
前記シール部材は一対形成され、
前記リップ部は互いに隣接する前記シール部材の前記本体部の当接面から互いに離間する方向に延びることを特徴とするシール部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のシール部材において、
前記移動部材は、潤滑剤を保持する潤滑剤保持部と、前記軸部材に形成された転動体転走溝および前記軸部材の外周面に摺接して前記潤滑剤を前記転動体転走溝および前記ねじ軸の外周面に塗布する複数の潤滑剤供給部とを備えた潤滑手段を有することを特徴とするシール部材。
【請求項6】
外周面に螺旋状の転動体転走溝を有するねじ軸と、
内周面に前記転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝を有するナットと、
前記転動体転走溝と、前記負荷転動体転走溝との間に転がり運動可能に配列される複数の転動体と、
前記ナットの少なくとも一端に取り付けられるシール装置を備えるボールねじ装置において、
前記シール装置は、前記ナットに取り付けられる本体部と、前記ねじ軸の外周または前記転動体転走溝に接触するリップ部とを有するシール部材を備え、
前記リップ部は、軸方向の断面形状が前記軸方向に対して傾斜した斜面を備え、
前記本体部は、前記リップ部を前記ねじ軸の径方向に付勢する付勢手段を備えると共に、前記斜面側に、前記本体部を補強する補強部を備え、
前記リップ部の軸方向の断面形状において、前記付勢手段は、前記リップ部の先端よりも前記補強部側に位置していることを特徴とするボールねじ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−145221(P2012−145221A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267221(P2011−267221)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】