説明

ジアセトンアルコールの製造方法

【課題】固体塩基性触媒の存在下、アセトンの縮合反応を行ってジアセトンアルコールを製造するに際し、高活性かつ高寿命の触媒を用いて、副生成物であるアセトンの多量体の生成が少なく、ジアセトンアルコールを高い選択率で効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物で処理された、水酸化バリウム固体塩基性触媒の存在下に、アセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造する。
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。RとRの炭素数の合計は30以下。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子。0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4、a+b+c=4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジアセトンアルコールの製造方法に係り、特にアセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造するに当たり、副生成物の生成を抑制して、高い選択率でジアセトンアルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造するための触媒としては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を主体とする固体塩基性触媒が使用されており、高活性で高寿命の触媒の製造方法について、いくつかの報告がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水酸化バリウム八水塩、不活性固体、結合剤及び水を含む混合物を成形して触媒を製造する際に、結合剤と不活性固体とを接触させる前に、結合剤と水酸化バリウム八水塩を接触させる方法が開示されている。また、特許文献2には、特定の細孔径と細孔容量を有した固体塩基性触媒を用いることで、触媒活性の経時的な低下を抑制することが示されている。
【0004】
しかしながら、これら従来の方法で製造した触媒を用いて、アセトンからジアセトンアルコールを製造した場合、トリアセトンアルコール(アセトン三量体)等の副生成物が比較的多量に生成するため、二量体であるジアセトンアルコールを高選択率、高収率で得ることは困難であった。
【0005】
一方、特許文献3には、Ti、Zr、Ce、Nbなどの金属酸化物あるいは金属水酸化物を有機ケイ素化合物で処理した触媒とパラジウム触媒の共存下で、アセトンと水素を原料に、二量化、脱水及び水添反応を1段で行ってメチルイソブチルケトンを製造する方法が開示されている。特許文献3には、触媒を有機ケイ素化合物で処理することで、三量体の生成を抑制できることが記載されているが、特許文献3に開示される触媒をアセトンからのジアセトンアルコールの製造に適用した場合には、二量化反応活性と触媒寿命において満足のいくものではなかった。
【特許文献1】特開昭63−123440号公報
【特許文献2】特開2004−359678号公報
【特許文献3】特開平4−217938号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固体塩基性触媒の存在下、アセトンの縮合反応を行ってジアセトンアルコールを製造するに際し、高活性かつ高寿命の触媒を用いて、副生成物であるアセトンの多量体の生成が少なく、ジアセトンアルコールを高い選択率で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アセトンからジアセトンアルコールを効率的に製造する方法の開発に鋭意努めた結果、水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒を用い、特定の有機ケイ素化合物の共存下に、好ましくは、該有機ケイ素化合物で処理した固体塩基性触媒の存在下に縮合反応を行うことにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒の存在下に、アセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造する方法において、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の共存下に反応を行うことを特徴とするジアセトンアルコールの製造方法。
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)
【0010】
[2] 前記固体塩基性触媒が前記有機ケイ素化合物で処理されたものであることを特徴とする[1]に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【0011】
[3] 前記固体塩基性触媒が、水酸化バリウムを結合剤により固定化したものであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【0012】
[4] 前記一般式(I)におけるRの炭素数が1〜15であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【0013】
[5] 前記固体塩基性触媒における前記有機ケイ素化合物による表面処理量が0.1〜10mg−炭素/mであることを特徴とする[2]ないし[4]のいずれかに記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【0014】
[6] 前記固体塩基性触媒の細孔容量が、次の(1)及び/又は(2)の条件を満たすことを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載のジアセトンアルコールの製造方法。
(1)細孔径0.1〜1μmの細孔容量が0.9ml/g以上、かつ、細孔径0.01〜0.1μmの細孔容量が0.9ml/g以上
(2)細孔径0.01〜1μmの細孔容量が1.8ml/g以上
【0015】
[7] アルカリ土類金属の水酸化物を含む固体塩基性触媒の存在下に、アルデヒド及び/又はケトンを縮合して二量体を製造する方法において、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の共存下に反応を行うことを特徴とする二量体の製造方法。
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アセトンからジアセトンアルコールを製造する方法において、反応副生成物の生成を大幅に低減することができ、また、触媒活性を長期に亘り高く維持してジアセトンアルコールを安定かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明のジアセトンアルコールの製造方法の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0018】
本発明のジアセトンアルコールの製造方法は、水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒の存在下に、アセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造する方法において、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の共存下に反応を行うことを特徴とする。
【0019】
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)
【0020】
本発明に従って、水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒を用い、上記特定の有機ケイ素化合物の共存下でアセトンの縮合反応を行うことにより、アセトンを二量化してジアセトンアルコールを製造するための触媒として、触媒活性の高い水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒の表面を、特定の有機ケイ素化合物で修飾することにより、当該固体塩基性触媒の高活性かつ低劣化性能性を維持しながら、三量体等の副生成物の生成を大幅に低減することができる。
【0021】
本発明によるこのような優れた効果の作用機構の詳細は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。
【0022】
即ち、本発明で用いる特定の構造を持つ有機ケイ素化合物により処理された固体塩基性触媒表面では、原料であるアセトンと、目的生成物であるジアセトンアルコール、及び多量体(以後、本発明において多量体とは、注釈ない限りアセトンの二量体であるジアセトンアルコールを含まない、三量体以上のアセトンの重合物をさす。)との間で、平衡反応が成り立っており、多量体が触媒表面に常時存在(固定化)すれば、反応液と触媒の間を原料と二量体が移動することで反応は進み、多量体の反応液への移動が抑制される。これにより、実質的に反応液中の多量体の濃度が低減され、ジアセトンアルコールの選択性が向上すると考えられる。従って、用いる有機ケイ素化合物の種類に関しては、原料のアセトンや二量体であるジアセトンアルコールよりも、多量体に対しての親和性(吸着選択率)が高い有機基を触媒表面に配することができるものであることが重要である。
【0023】
なお、本発明において、固体塩基性触媒は、水酸化バリウムを含むものに限らず、アルカリ土類金属の水酸化物を含む固体塩基性触媒であっても、有機ケイ素化合物の共存による改善効果が得られる。ここで用いられるアルカリ土類金属の水酸化物としては、好ましくは、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、特に好ましいのは水酸化バリウムである。
【0024】
このように、水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒である場合に、最も良い結果が得られることから、以下においては、固体塩基性触媒として水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒を用いる場合について説明する。
【0025】
本発明において、このような固体塩基性触媒の表面に、特定の有機ケイ素化合物を固定化し、表面修飾して反応に供するが、この場合、固体塩基性触媒は必ずしも予め有機ケイ素化合物で処理した後反応に供する必要はなく、固体塩基性触媒と有機ケイ素化合物とを別々に反応系に供給しても、有機ケイ素化合物は、その固体塩基性触媒表面の水酸基と反応するため、有機ケイ素化合物で表面修飾された固体塩基性触媒となる。しかしながら、一般的には、固体塩基性触媒を予め有機ケイ素化合物で処理して反応に供することが、反応を制御しやすく、有機ケイ素化合物の使用量が少なくてすむ等、作業効率の面で好ましいことから、以下においては、固体塩基性触媒を予め有機ケイ素化合物で処理する場合について主に説明する。
【0026】
また、本発明の方法は、アセトンからのジアセトンアルコールの製造に限らず、塩基性触媒でアルデヒド及び/又はケトンを縮合して二量体を製造するあらゆる縮合反応にも適用可能である。
【0027】
[固体塩基性触媒]
本発明で用いる固体塩基性触媒は、好ましくは水酸化バリウムを含むものである。この固体塩基性触媒は、水酸化バリウムのみからなるものであっても良いが、好ましくは水酸化バリウムを結合剤により固定化したもの、より好ましくは、水酸化バリウムに不活性固体及び結合剤を配合し、これを水で混練して所望の形状に成形し、必要に応じて加熱処理して固化させることにより製造されたものであることが好ましい。
【0028】
この場合、不活性固体としては、タルク、珪藻土、カオリン、酸化チタンなどの1種又は2種以上が挙げられ、好ましくはタルクである。
【0029】
また、結合剤としては、ポルトランドセメント、アルミナセメントなどのセメントの1種又は2種以上が挙げられる。
【0030】
触媒製造に際しての水酸化バリウムの配合量は、酸化物換算の水酸化バリウム、不活性固体及び結合剤の合計に対して、酸化物換算の水酸化バリウムが通常10重量%以上、好ましくは40重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下となるようにするのが好ましい。また、不活性固体及び結合剤は、いずれも所望の機械的強度が得られる量であればよいが、酸化物換算の水酸化バリウムに対し、不活性固体は60重量%以下、特に10〜50重量%となるようにするのが好ましく、結合剤は30〜200重量%、特に50〜100重量%となるようにするのが好ましい。
【0031】
これらの触媒原料を混練するのに用いる水の量は、原料配合物の重量(但し、水酸化バリウムは酸化物に換算)に対して添加する水と水酸化バリウムの結晶水の合計が10〜100重量%となるようにするのが好ましい。
混練は任意の装置を用いて行えばよい。
混練物は次いで押出成形機で押し出し、一定の長さに切断するのが好ましい。
【0032】
得られた成形体は、成形体中の水分の揮発を防止するために、成形が終了したら速やかに密閉された系に導入することが好ましい。
【0033】
得られた成形体を加熱処理する場合、通常、密閉された系で、50〜60℃で、2時間以上、好ましくは20〜30時間行われる。
【0034】
このようにして製造された固体塩基性触媒は水の含有割合が40〜50重量%であることが好ましい。なお、固体塩基性触媒中の水分量は、固体塩基性触媒を550℃まで乾燥させた時の減量から求める。
【0035】
また、550℃で1時間乾燥させた固体塩基性触媒に占めるバリウムの割合が酸化物換算で40〜55重量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
本発明では、このようにして得られた固体塩基性触媒のうち、細孔容量が次の(1)及び(2)の少なくともいずれか一方の条件を満たす触媒を反応に用いることが好ましい。
【0037】
(1)細孔径0.1〜1μmの細孔容量が0.9ml/g以上、かつ、細孔径0.01〜0.1μmの細孔容量が0.9ml/g以上。
固体塩基性触媒の細孔のうち、細孔径0.01〜0.1μmの細孔容量は活性の低下と相関があり、この範囲の細孔容量が0.9ml/g以上、好ましくは1.0ml/g以上と、細孔容量が大きいほど活性の低下が小さい傾向にある。
また、細孔径0.1〜1μmの細孔容量は初期活性と相関があり、この範囲の細孔容量が、0.9ml/g以上、好ましくは1.0ml/g以上と、細孔容量が大きいほど初期活性が大きくなる傾向がある。
【0038】
(2)細孔径0.01〜1μmの細孔容量が1.8ml/g以上。
細孔径0.01〜1μmの細孔容量が1.8ml/g以上、好ましくは2.0ml/g以上であれば、初期活性が高く、触媒活性の低下が小さい。
【0039】
固体塩基性触媒が上記(1)、(2)の条件を満たすか否かを判断するための分析方法としては、水銀圧入法が挙げられ、細孔容積の測定は以下の方法に従って行うことができる。
【0040】
(1)サンプル重量を精秤する(この値をAとする)。
(2)ペネトロメーターにサンプルを充填しグリース、キャップを装填し、再度精秤する。(この値をBとする)。
(3)ポアサイザーで高速排気条件で10分間真空脱気し、10分後の真空度を水銀充填圧とする。
(4)大気圧まで戻し、全体重量を精秤する(この値をCとする)。
(5)重量減少量から水銀圧入測定前のサンプル重量を下記式に従って算出する。
A−(B−C)
(6)再装填し真空度を(3)で得た所定真空度まで減圧し、水銀を充填し細孔容積/細孔径分布を測定する。
【0041】
なお、本発明で用いる固体塩基性触媒の大きさには特に制限はないが、通常、取り扱い性、反応活性点となる表面積等の面から、粒径1〜5mm程度のものが用いられる。
【0042】
[有機ケイ素化合物]
本発明で用いる有機ケイ素化合物は、下記一般式(I)で表されるものである。
【0043】
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)
【0044】
一般式(I)で表される有機ケイ素化合物のうち、クロロシラン類として具体的には、トリメチルククロシラン、ジメチルジグロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルヒドリドジクロロシラン、ジメチルヒドリドクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、クロロプロピルメチルジクロロシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
一般式(I)で表される有機ケイ素化合物のうち、一般式(I)中のXの数(cの値)は、R及びRに置換基としてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれる数によって異なるが、R、Rにフッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含むものを用いる場合は特にc=0のものを使用することが好ましい。すなわち上記アルコキシシラン類が好ましい。
【0046】
また、一般式(I)で表される有機ケイ素化合物のうち、アルコキシシラン類として具体的には、クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリエトキシシラン、クロロプロピルメチルジメトキシシラン、クロロプロピルメチルジエトキシシラン、メチルヒドリドジメトキシシラン、メチルヒドリドジエトキシシラン、ジメチルヒドリドエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アミノプロピルプロピルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−オクチルトリエトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
一般式(I)においてR、Rは水素原子、或いは官能基を有していても良い炭素数が30以下の、アルキル基、ビニル基及びアリール基からなる群から選ばれるものであって、官能基として、ハロゲン原子であるフッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子を含むものが好ましい。この場合、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子数の合計が炭素数の2倍より少ないもの、さらに好ましくは、1倍かそれより少ないものが好ましい。また、これらの有機基は、塩基性の官能基を有していてもよく、その場合は、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのアルキル置換アミノ基やピリジル基、ピペリジル基、キノリル基などの含窒素塩基性置換基を含むものが好ましい。
また、一般式(I)におけるRの炭素数は、多量体生成抑制効果を向上できる点から、1以上であることが好ましく、有機ケイ素化合物の調整のしやすさの点から、15以下が好ましい。
【0048】
このような有機ケイ素化合物としては、特にクロロプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリエトキシシラン、クロロプロピルメチルジメトキシシラン、クロロプロピルメチルジエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−オクチルトリエトキシシランが挙げられる。
本発明においては、これらの有機ケイ素化合物の1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0049】
[固体塩基性触媒の有機ケイ素化合物による処理]
前記したような有機ケイ素化合物による固体塩基性触媒の処理は、液相又は液相で実施される。
【0050】
液相で処理を実施する場合には有機ケイ素化合物を炭化水素、ハロゲン化炭化水素などの溶媒に溶解した溶液に、固体塩基性触媒を添加し、室温であるいは加熱して静置あるいは撹拌する処理が通常行われる。
使用する溶媒自体が有機ケイ素化合物と反応することを軽減するために、溶媒は水分を除去してから使用することが好ましい。
該溶媒に対する有機ケイ素化合物の濃度は通常、0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜30重量%である。
また、固体塩基性触媒の重量に対する有機ケイ素化合物の重量は、5倍以下、好ましくは0.01〜1倍、さらに好ましくは0.05〜0.5倍の範囲である。
【0051】
有機ケイ素化合物による固体塩基性触媒の処理はより具体的には、トルエン、ベンゼンなどの溶媒を用い、例えばトルエンを使用して、蒸留あるいは脱水剤など添加して水分を除去した後、有機ケイ素化合物を添加溶解させ、そこに固体塩基性触媒を添加する。処理を実施する温度に関しては、室温で長時間静置しておいても処理をすすめることは可能であるが、処理を十分に、また、固体塩基性触媒全体にわたり、均質に処理するためには撹拌することが好ましい。さらに加熱することにより、有機ケイ素化合物による処理を短時間で完了させることができ、有利である。このように加熱、撹拌する方法として、使用した有機溶媒の沸点において加熱撹拌する加熱還流処理が簡便である。この加熱還流処理は、大気圧あるいは溶媒によっては、減圧下で実施される。処理に要する時間は温度により異なるが通常1〜50時間である。なお、上記の様にして、有機ケイ素化合物により、固体塩基性触媒を処理する際に微量の酸性あるいは塩基性物質、具体的にはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、キノリンなどの含窒素化合物を添加すると処理が促進され有利である。
【0052】
このようにして有機ケイ素化合物により処理した後、濾過により処理された固体塩基性触媒を有機ケイ素化合物を含む溶液から分離し、次いで炭化水素ハロゲン化炭化水素、あるいはアルコール、エーテルなどにより洗浄した後、大気圧あるいは減圧下で乾燥する。
【0053】
一方、有機ケイ素化合物による処理を気相で実施する場合は、有機ケイ素化合物を単独で、あるいは前記した様な有機溶媒に溶解させた溶液の蒸気を真空中あるいは不活性ガス中で固体塩基性触媒に接触させて、処理を行う。この場合の処理温度や蒸気圧力は、使用する有機ケイ素化合物及び有機溶媒の蒸気圧によって決定される。
【0054】
このようにして、有機ケイ素化合物により処理された固体塩基性触媒の表面処理量は0.01〜50mg−炭素/m、特に0.02〜20mg−炭素/m、とりわけ0.05〜10mg−炭素/mであることが好ましい。この表面処理量が少な過ぎると有機ケイ素化合物を用いることによる本発明の効果を十分に得ることができず、逆に多過ぎると、固体塩基性触媒の触媒活性が損なわれる。即ち、有機ケイ素化合物は固体塩基性触媒の表面に吸着し、この固体塩基性触媒表面の有機ケイ素化合物に由来する表面修飾点で多量体を吸着して捕捉することにより、反応液への多量体の移動を抑制するが、固体塩基性触媒表面が過度に有機ケイ素化合物で覆われると、固体塩基性触媒中の水酸化バリウムに由来する触媒活性を十分に得ることができない。従って、表面処理量は上記範囲内とすることが好ましい。
【0055】
なお、本発明において、固体塩基性触媒の有機ケイ素化合物による表面処理量とは次のように定義され、次のようにして求められる。
処理前の固体触媒は無機質であって炭素化合物は存在していないため、有機ケイ素化合物による処理後の触媒を元素分析することで、触媒単位重量あたりの表面に存在する炭素の量(mg−炭素/g−触媒)、つまり本発明における表面処理量を知ることができる。炭素の量は表面に固定化された有機基の量に比例している。一方、有機ケイ素化合物は触媒表面の活性点と反応し、活性点の量は触媒の比表面積(m/g−触媒)と相関している。
従って、表面処理量は次式(数式1)で算出される。
(数式1)
表面処理量(mg−炭素/m)=[1(g−触媒)×{G(%)/100}
×1000]/[1(g−触媒)×M(m/g−触媒)]
G:元素分析から測定される炭素の重量パーセント(%)
M:BET法で測定される触媒の比表面積(m/g−触媒)
【0056】
なお、上記のG,Mの測定方法は、次の通りである。
予め固定化されていない未反応有機ケイ素化合物を軽沸点有機溶媒で洗浄し、減圧乾燥で軽沸点有機溶媒を除去した試料を得る。試料をCHN元素分析計(使用装置:パーキンエルマー社製2400II CHN−O元素分析計(CHNモード)カラム分離方法(フロンタルクロマトグラフィー)、TCD検出。使用標準物質:アセトアニリド/和光純薬工業(株)元素分析用標準グレード)で測定し、その結果、触媒重量中の炭素組成 G%を得る。
【0057】
一方、上記試料の比表面積は、Quantachrome社製 Autosorb-3Bを用いて吸着等温線(液体窒素温度、吸着質:窒素ガス)を測定し、BET多点法解析にて算出して求めることができる。
【0058】
[アセトンの縮合反応]
本発明に係る触媒を用いたアセトンの縮合反応は、常法により液相で固定床、流動床または移動床反応装置などを用いて行われる。反応温度は通常0〜40℃、好ましくは5〜30℃であり、固定床反応の場合の空間速度は通常1〜10h−1であり、好ましくは3〜5h−1である。
例えば、有機ケイ素化合物で処理した固体塩基性触媒を断熱あるいは等温反応器に存在させ、そこにアセトンを通じるいわゆる固定床流通反応や、有機ケイ素化合物で処理した固体塩基性触媒をアセトン中に懸濁させる方法などがある。この場合、反応を回分式または連続式のいずれの方法で行っても良い。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
[実施例1]
<触媒の調製>
双腕型ニーダーで、粉砕した水酸化バリウム八水塩61重量部と水12重量部を混練した。次に、ポルトランドセメント20重量部を加えて混練し、最後にタルク7重量部を加えて混練した。その後、押出機により直径1.5mm、長さ1〜4mmのペレット状に成形した。得られた成形体を金属トレイの上に均等に敷き、トレイを密閉容器に入れた。成形体を密閉状態で55℃の恒温槽内で25時間保持した後、室温まで放冷した。
得られた固体塩基性触媒のうち、8メッシュと16メッシュの篩を用いてふるいわけし、2つの篩いの間のものを次の有機ケイ素化合物による表面処理に供した。
【0061】
なお、この固体塩基性触媒について、細孔容量を水銀圧入法で前述の手順に従って測定した。また、この固体塩基性触媒を550℃まで乾燥させて、触媒中の水分量を求めた。さらに、550℃で1時間乾燥させた触媒中のバリウムの割合を酸化バリウムに換算して求めた。細孔容量、組成を以下に示す。
【0062】
(細孔容量)
細孔径0.1〜1μm:1.0ml/g
細孔径0.01〜0.1μm:1.2ml/g
細孔径0.01〜1μm:2.2ml/g
(組成)
酸化バリウム含有量:49.5重量%
水分含有量:43.5重量%
【0063】
<有機ケイ素化合物による表面処理>
上記の固体塩基性触媒1gを真空中100℃で脱水後、蒸留したトルエン溶媒40ml及び有機ケイ素化合物としてトリエトキシクロロプロピルシランを80mg加え、アルゴン雰囲気下、24時間還流した。反応後、固体塩基性触媒をドライボックス内で濾過し、次いでトルエン及びメタノールで洗浄して回収した。
この表面処理固体塩基性触媒の表面処理量は0.66mg−炭素/mであった。
【0064】
<アセトンの縮合反応>
アセトン10gを50ccの三角フラスコに入れ、温度制御した低温インキュベータ内で予め10℃に冷却した。100℃で真空乾燥した上記有機ケイ素化合物処理加熱還流103mgを前記アセトンに添加し、低温インキュベータ内で攪拌し、反応温度10℃で反応させた。このときの反応液を経時的にサンプリングして分析した。
サンプリング時には、ガラス製シリンジで液体を約1cc取った後、触媒粉を除去するためのシリンジフィルターを取り付け、液体を濾過しながらガラスサンプル瓶に押し出し、それをマイクロシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィーで二量体生成物、三量体生成物を定量分析した。なお、二量体生成物とは、ジアセトンアルコールとメシチルオキシドであり、三量体生成物とはトリアセトンアルコール及びその脱水生成物である。
分析結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例2]
実施例1において、トリエトキシクロロプロピルシランの代りにトリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−オクチルシラン300mgを用いたこと以外は同様にして固体塩基性触媒の表面処理を行った。この表面処理固体塩基性触媒の表面処理量は0.64mg−炭素/mであった。
触媒としてこの表面処理固体塩基性触媒を用いたこと以外は実施例1と同様にしてアセトンの縮合反応を行い、同様に分析を行って、結果を表2に示した。
【0067】
【表2】

【0068】
[実施例3]
実施例1において、トリエトキシクロロプロピルシランの代りにトリエトキシシラン400mgを用いたこと以外は同様にして固体塩基性触媒の表面処理を行った。この表面処理固体塩基性触媒の表面処理量は0.58mg−炭素/mであった。
触媒としてこの表面処理固体塩基性触媒を用いたこと以外は実施例1と同様にしてアセトンの縮合反応を行い、同様に分析を行って、結果を表3に示した。
【0069】
【表3】

【0070】
[比較例1]
触媒として有機ケイ素化合物による表面処理を行っていない固体塩基性触媒を用いたこと以外は実施例1と同様にしてアセトンの縮合反応を行い、同様に分析を行って、結果を表4に示した。
【0071】
【表4】

【0072】
以上の結果から、有機ケイ素化合物による表面処理を施した固体塩基性触媒を用いることにより、長期に亘り、ジアセトンアルコールを高選択率、高収率で製造することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化バリウムを含む固体塩基性触媒の存在下に、アセトンを縮合してジアセトンアルコールを製造する方法において、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の共存下に反応を行うことを特徴とするジアセトンアルコールの製造方法。
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)
【請求項2】
前記固体塩基性触媒が前記有機ケイ素化合物で処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記固体塩基性触媒が、水酸化バリウムを結合剤により固定化したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるRの炭素数が1〜15であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記固体塩基性触媒における前記有機ケイ素化合物による表面処理量が0.1〜10mg−炭素/mであることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記固体塩基性触媒の細孔容量が、次の(1)及び/又は(2)の条件を満たすことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のジアセトンアルコールの製造方法。
(1)細孔径0.1〜1μmの細孔容量が0.9ml/g以上、かつ、細孔径0.01〜0.1μmの細孔容量が0.9ml/g以上
(2)細孔径0.01〜1μmの細孔容量が1.8ml/g以上
【請求項7】
アルカリ土類金属の水酸化物を含む固体塩基性触媒の存在下に、アルデヒド及び/又はケトンを縮合して二量体を製造する方法において、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の共存下に反応を行うことを特徴とする二量体の製造方法。
(ORSi …(I)
((I)式中、R及びRはそれぞれ、水素原子、或いはアルキル基、ビニル基、及びアリール基からなる群から選ばれ、これら置換基は更に官能基を有していてもよい。また、R及びRは互いに同一であっても異なっていても良く、RとRの炭素数の合計は30以下である。Xは水素、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選ばれる原子を表し、a、b及びcは0≦a<4、0≦b≦4、0≦c≦4であり、且つa+b+c=4である。)

【公開番号】特開2008−201684(P2008−201684A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36596(P2007−36596)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】