説明

ジアミン誘導体の結晶

【課題】血栓性および/または塞栓性疾患の予防および/または治療用の医薬化合物として有用な活性化血液凝固第X因子阻害作用を有する化合物(I)の結晶を提供すること。
【解決手段】下記の式(I)
【化1】


で表される、N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 一水和物の結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化血液凝固第X因子(FXa)の阻害作用を示し、血栓性疾患の予防剤および/または治療剤として有用な化合物の結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
活性化血液凝固第X因子(FXa)の阻害作用を示し、血栓性疾患の予防および/または治療薬として有用な化合物として、下記の一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
で表されるN−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物(以下、化合物Iと称する場合がある。)が知られている(特許文献1〜特許文献5)。
【0005】
これまでに、医薬化合物として有用である化合物(I)の結晶に関する詳細な報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/000657号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/000680号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/016302号パンフレット
【特許文献4】国際公開第04/058715号パンフレット
【特許文献5】国際公開第07/032498号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、血栓性および/または塞栓性疾患の予防および/または治療用の医薬化合物として有用である化合物Iの結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は
[1]下記の式(I)
【化2】

【0009】
で表される、N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物の結晶;
[2]粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.38、8.08、10.8、13.5、15.0、16.9、17.6、20.5、21.1、22.7、23.5、26.0、27.3、27.6および30.0(°)に特徴的ピークを有する[1]に記載の結晶;
[3]さらに、下記の(a)〜(c):
(a)約250℃〜約270℃に2本の吸熱ピークを有する熱分析(DTA)プロフィール;
(b)1675、1614、1503、1222、1171、1033および1012cm−1付近に特徴的な吸収帯を有する赤外吸収スペクトルパターン;および
(c)融点(分解)が約246℃〜約250℃;
からなる群より選ばれる1つ以上の特徴を有する、[2]に記載の結晶;
[4][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶を含有する医薬;
[5][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶を含有する活性化血液凝固第X因子(FXa)阻害剤;
[6][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶を含有する血液凝固抑制剤;
[7][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶を含有する血栓または塞栓の予防および/または治療剤;
[8][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶を含有する脳梗塞、脳塞栓、肺梗塞、肺塞栓、心筋梗塞、狭心症、非弁膜性心房細動(NVAF)に伴う血栓および/または塞栓症、深部静脈血栓症、外科的手術後の深部静脈血栓症、人工弁/関節置換後の血栓形成、股関節全置換術(THR)後の血栓塞栓症、膝関節全置換術(TKR)後の血栓塞栓症、股関節骨折手術(HFS)後の血栓塞栓症、血行再建後の血栓形成および/または再閉塞、バージャー病、汎発性血管内凝固症候群、全身性炎症性反応症候群(SIRS)、多臓器不全(MODS)、体外循環時の血栓形成あるいは採血時の血液凝固の予防剤および/または治療剤;
[9][1]〜[3]のいずれか1に記載の結晶および薬理上許容される担体を含有する医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血栓性および/または塞栓性疾患の予防および/または治療用の医薬化合物として有用である化合物Iの結晶が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】化合物Iの結晶の粉末X線回折パターンを示す。縦軸に強度(cps)を横軸に回折角(2θ(°))を示す。
【図2】化合物Iの結晶の粉末X線回折の特徴的ピークおよびその相対強度を示す。
【図3】化合物Iの結晶の熱分析(TG/DTA)パターンを示す。縦軸に重量変化(%)と熱量(μV)、横軸に温度(℃)を示す。
【図4】化合物Iの結晶の赤外吸収スペクトルパターンを示す。縦軸に透過率(%)と横軸に波数(cm−1)を示す。
【図5】化合物Iの結晶の赤外吸収スペクトルの特徴的な吸収帯およびその強度を示す。
【図6】化合物Iの結晶の吸脱湿挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
下記の式(II)
【化3】

【0013】
で表される、N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド(N1-(5-chloropyridin-2-yl)-N2-((1S, 2R, 4S)-4-[(dimethylamino)carbonyl]-2-{[(5-methyl-4, 5, 6, 7-tetrahydrothiazolo[5, 4-c] pyridin-2-yl)carbonyl]amino}cyclohexyl) ethanediamide)(以下、化合物IIと称する場合がある。)は、化合物Iのフリー体であり、国際一般名称(International Nonproprietary Names、INN)を、エドキサバン(edoxaban)、N-(5-クロロピリジン-2-イル)-N'-[(1S, 2R, 4S)-4-(N, N-ジメチルカルバモイル)-2-(5-メチル-4, 5, 6, 7-テトラヒドロ [1, 3]チアゾロ [5, 4-c]ピリジン-2-カルボキサミド)シクロヘキシル]オキサミド(N-(5-chloropyridin-2-yl)-N'-[(1S, 2R, 4S)-4-(N, N-dimethylcarbamoyl)-2-(5-methyl-4, 5, 6, 7-tetrahydro[1, 3]thiazolo[5, 4-c]pyridine-2-carboxamido)cyclohexyl]oxamide)という。
【0014】
化合物IIを製造する方法は特に限定されないが、例えば、特許文献1〜5に記載の方法またはこれらに準ずる方法で製造することができる。
【0015】
化合物Iの結晶は、例えば、化合物IIにp−トルエンスルホン酸のエタノール溶液を添加後、含水エタノールを追加で添加して化合物IIを溶解し、その後反応液を冷却して結晶を析出させることによって得ることができる。
【0016】
本発明の化合物Iの結晶としては、例えば、図1に示される粉末X線回折パターンを示すものが好ましい。また、本発明の化合物Iの結晶としては、例えば、粉末X線回折による回折角(2θ)として、図2で表されるような特徴的ピークおよび相対強度を示す結晶が好ましい。また、本発明の化合物Iの結晶としては、例えば、5.38、8.08、10.8、13.5、15.0、16.9、17.6、20.5、21.1、22.7、23.5、26.0、27.3、27.6および30.0(°)に特徴的ピークを示す結晶が好ましい。
【0017】
さらに、本発明の化合物Iの結晶としては、上述した粉末X線回折パターンによる特徴に加え、下記の(a)〜(c):
(a)図3に示される熱分析(TG/DTA)プロフィール、具体的には、約250℃〜約270℃に2本の吸熱ピークを有する熱分析(DTA)プロフィール;
(b)図4に示される赤外吸収スペクトルパターン、例えば、1675、1614、1503、1222、1171、1033および1012cm−1付近に特徴的な吸収帯を有する赤外吸収スペクトルパターン;および
(c)融点(分解)が約246℃〜約250℃;
からなる群より選ばれる1つ以上の特徴を有する結晶が好ましい。
【0018】
このようにして得られた本願発明の化合物Iの結晶は、高い活性化血液凝固第X因子(FXaと称する場合もある。)阻害作用を示すことから、血液凝固抑制剤、血栓または塞栓の予防および/または治療剤として有用である。本願発明の化合物Iの結晶は、ヒトを含む哺乳類のための医薬、活性化血液凝固第X因子阻害剤、血液凝固抑制剤、血栓および/または塞栓の予防および/または治療剤、血栓性疾患の予防および/または治療薬、さらには脳梗塞、脳塞栓、肺梗塞、肺塞栓、心筋梗塞、狭心症、非弁膜性心房細動(Non−Valvular Atrial Fibrillation、NVAF)に伴う血栓および/または塞栓症、深部静脈血栓症、外科的手術後の深部静脈血栓症、人工弁/関節置換後の血栓形成、股関節全置換術(Total Hip Replacement、THR)後の血栓塞栓症、膝関節全置換術(Total Knee Replacement、TKR)後の血栓塞栓症、股関節骨折手術(Hip Fracture Surgery、HFS)後の血栓塞栓症、血行再建後の血栓形成および/または再閉塞、バージャー病、汎発性血管内凝固症候群、全身性炎症性反応症候群(Sytemic Inflammatory Response Syndrome、SIRS)、多臓器不全(Multiple Organ Dysfunction Syndrome、MODS)、体外循環時の血栓形成あるいは採血時の血液凝固の予防剤(本明細書において、予防とは2次予防を含む。)および/または治療剤、あるいは、これら予防剤および/または治療剤の医薬品原体として有用である。
【0019】
本願発明の化合物Iの結晶を有効成分として含む医薬は、好ましくは、本願発明の化合物Iの結晶と1種または2種以上の薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物の形態で提供される。本発明の医薬の投与形態は特に制限されず、経口的または非経口的に投与することができるが、好ましくは、経口的に投与される。
【0020】
上記の医薬組成物の製造に用いる薬学的に許容可能な担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤または粘着剤を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0021】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性ないし水性の懸濁液等を例示できる。また、非経口投与に適する製剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤または貼付剤を挙げることができる。
【0022】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の年齢、体重、症状などの種々の条件に応じて適宜選択することができるが、有効成分を体重1kg当たり0.01mg〜1000mg、好ましくは0.1mg〜200mg、より好ましくは0.5mg〜100mgを、1日当り1回〜数回、症状に応じて投与することが望ましい。
【0023】
以下に実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(実施例1)N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド(化合物II)の合成
化合物IIは、特許文献1〜5に記載の方法に準じて合成した。
【0025】
(実施例2)N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 一水和物(化合物I)の結晶
実施例1で得た化合物4.1gを60℃にて15%含水エタノール50mLに懸濁させ、1mol/L p−トルエンスルホン酸エタノール溶液7.42mLを添加後、15%含水エタノール40mLを追加し、溶解した。その後、室温まで冷却し、1日撹拌した。析出晶を濾取し、エタノールで洗浄後、室温にて2時間減圧乾燥し、標記結晶4.7g(86%)を得た。
融点(分解)246〜250℃。
【0026】
(試験例1)
実施例2の結晶を調製し、粉末X線測定装置を用いて結晶形の測定を実施した。
粉末X線測定の条件:線源:Cu−Kα線、電圧:40kV、電圧:20mA、装置:RINT−ULTIMA(リガク)
粉末X線回折パターンの結果を図1に、特徴的なピークおよびその相対強度を図2に示す。
【0027】
(試験例2)
実施例2の結晶を調整し、熱分析(TG/DTA)の測定を実施した。
熱分析(TG/DTA)測定の条件:昇温速度:10℃/分、雰囲気:窒素100mL/分、装置:TG/DTA220U(セイコーインスツルメンツ)
結果を図3に示す。実施例2の結晶は、約250℃〜約270℃に2本の吸熱ピークを有し、室温〜約150℃に2.3%の重量減少を示した。
【0028】
(試験例3)
実施例2の結晶を調整し、赤外吸収スペクトルの測定を実施した。
赤外吸収スペクトル測定の条件:測定法:KBr錠剤法、装置:FT−IR−8200(島津製作所)
赤外吸収スペクトルパターンを図4に、特徴的な吸収帯およびその強度を図5に示す。
【0029】
(試験例4)
実施例2の結晶について吸脱湿性を評価した。結晶約20mgをマイクロバランス(自動水蒸気吸着装置)中、相対湿度(RH)範囲0〜93%での経時的重量変化を測定することにより水分の吸脱着量を評価した。
【0030】
結果を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の化合物Iの結晶は、血栓性および/または塞栓性疾患の予防および/または治療薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)
【化1】


で表される、N−(5−クロロピリジン−2−イル)−N−((1S,2R,4S)−4−[(ジメチルアミノ)カルボニル]−2−{[(5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチアゾロ[5,4−c]ピリジン−2−イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p−トルエンスルホン酸塩 1水和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折による回折角(2θ)として、5.38、8.08、10.8、13.5、15.0、16.9、17.6、20.5、21.1、22.7、23.5、26.0、27.3、27.6および30.0(°)に特徴的ピークを有する請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
さらに、下記の(a)〜(c):
(a)約250℃〜約270℃に2本の吸熱ピークを有する熱分析(DTA)プロフィール;
(b)1675、1614、1503、1222、1171、1033および1012cm−1付近に特徴的な吸収帯を有する赤外吸収スペクトルパターン;および
(c)融点(分解)が約246℃〜約250℃;
からなる群より選ばれる1つ以上の特徴を有する、請求項2に記載の結晶。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶を含有する医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶を含有する活性化血液凝固第X因子(FX
a)阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶を含有する血栓または塞栓の予防および/または治療剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶を含有する脳梗塞、脳塞栓、肺梗塞、肺塞栓、心筋梗塞、狭心症、非弁膜性心房細動(NVAF)に伴う血栓および/または塞栓症、深部静脈血栓症、外科的手術後の深部静脈血栓症、人工弁/関節置換後の血栓形成、股関節全置換術(THR)後の血栓塞栓症、膝関節全置換術(TKR)後の血栓塞栓症、股関節骨折手術(HFS)後の血栓塞栓症、血行再建後の血栓形成および/または再閉塞、バージャー病、汎発性血管内凝固症候群、全身性炎症性反応症候群(SIRS)、多臓器不全(MODS)、体外循環時の血栓形成あるいは採血時の血液凝固の予防剤および/または治療剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶および薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254615(P2010−254615A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106176(P2009−106176)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】