説明

ジェットエンジン

【課題】タービンディスクの回転数が変化しても、圧力損失が発生することなく、動力の冷却に必要な十分な二次空気流量を得ることができるジェットエンジンを提供する。
【解決手段】二次空気及び燃焼ガスが導かれることにより回転されるタービンディスク25と、タービンディスク25の前面側に設けられこのタービンディスク25とともに回転するフロントシール27と、二次空気をフロントシール27に向けてフロントシール27の回転方向に傾斜した方向に排出するダクト28とを備える。フロントシール27には、ダクト28から排出される二次空気をタービンディスク25側に導く複数の孔30が形成され、複数の孔30の間の梁部31は、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成され、複数の孔30の前面投影総面積が、梁部31の前面投影総面積よりも広い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に用いられるジェットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なジェットエンジンは、航空機に用いられるものであって、筒状のケースをベースとして備えている。ケースの内側には、燃焼器を装備する筒状の燃焼器ライナが一体的に設けられており、燃焼器ライナの内側には、主流路が形成されている。エンジン本体は、圧縮機と、燃焼器と、タービンとを備えている。ケースの内周面と燃焼器ライナの外周面との間には、環状の二次空気流路(バイパス流路)が形成されている。
【0003】
ジェットエンジンを稼働させると、主流路及び二次空気流路に空気を送り込むことができる。そして、主流路に送り込まれた空気は、圧縮工程及び燃焼工程等を経て、燃焼ガスとして主流路から後方向へ噴出される。また、二次空気流路に送り込まれた空気は、燃焼ガスを覆うようにバイパス流路から後方向へ噴出される。これにより、ジェットエンジンから推進力を得ることができる。
【0004】
本発明に関連する先行技術として、特許文献1に記載されたジェットエンジンにおいては、図4に示すように、タービンディスク101の動翼102を冷却する二次空気を高圧の圧縮機最終段から導くため、静止系から回転系のフロントシール103を介して、タービンディスク101の前段に二次空気を供給するTOBIダクト104が採用されている。
【0005】
フロントシール103において二次空気を取り込む形状は、図5中の(a)及び(b)に示すように、圧力損失を少なくするために円形孔が採用され、図6中の(b)に示すように、エンジン定格点において二次空気と円形孔105の相対角度がゼロになるように、図6中の(a)に示すように、TOBIダクト104からの二次空気流出角度を設定するのが一般的である。
【0006】
【特許文献1】米国特許4822244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、TOBIダクト104を採用したジェットエンジンにおいては、円形孔105で二次空気を取り込み、定格点において二次空気と円形孔105との相対角度がゼロとなるように設定するのが一般的である。
【0008】
ところが、タービンディスク101の回転数が変化すると、図7に示すように、二次空気は円形孔105に対して相対的な角度を有して流入し、圧力損失が発生し、動力の冷却に必要な二次空気流量が得られなくなる問題が発生する。
【0009】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであり、タービンディスクの回転数が変化しても、圧力損失が発生することなく、動力の冷却に必要な十分な二次空気流量を得ることができるジェットエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0011】
〔構成1〕
本発明に係るジェットエンジンは、燃焼器ライナの外周部を囲んで設けられ冷却空気が流入可能な環状の二次空気通路を形成し後部に二次空気を排出する排出口を有するケースと、前記燃焼器ライナの後方に配置され外周側に動翼を有しこの動翼に前記二次空気通路から排出される二次空気及び燃焼ガスが導かれることにより回転されるタービンディスクと、前記タービンディスクの前面側に設けられこのタービンディスクとともに回転するフロントシールと、前記二次空気を前記フロントシールに向けて該フロントシールの回転方向に傾斜した方向に排出するダクトとを備え、前記フロントシールには、前記ダクトから排出される二次空気をタービンディスク側に導く複数の孔が形成されており、前記複数の孔の間の梁部は、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成されており、前記複数の孔の前面投影総面積は、前記複数の孔の間の梁部の前面投影総面積よりも広いことを特徴とするものである。
【0012】
〔構成2〕
構成1を有するジェットエンジンにおいて、前記複数の孔の間の梁部は、断面が翼形状となっており、前記二次空気の流動によって、このフロントシールの回転方向の揚力を生ずることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
構成1を有する本発明に係るジェットエンジンにおいては、前記フロントシールには、前記ダクトから排出される二次空気をタービンディスク側に導く複数の孔が形成されており、前記複数の孔の間の梁部は、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成されており、流入角度が変化しても滑らかに二次空気をタービンディスク側に導くことができるので、タービンディスクの回転数が変化しても、圧力損失が発生することがない。
【0014】
また、構成2を有する本発明に係るジェットエンジンにおいては、前記複数の孔の間の梁部の断面が翼形状となっており、前記二次空気の流動によって梁部に生ずる揚力により、フロントシールの回転力が助長される。
【0015】
すなわち、本発明は、タービンディスクの回転数が変化しても、圧力損失が発生することがなく、動力の冷却に必要な十分な二次空気流量を流すことができ、また、フロントシールの回転力が損失することがないジェットエンジンを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るジェットエンジンにおける要部拡大図である。
【0018】
本発明の実施の形態に係るジェットエンジンは、航空機に用いられるエンジンであって、図1に示すように、筒状のエンジンケース3をベースとしている。このエンジンケース3の内側には、燃焼器5を装備する筒状の燃焼器ライナ7が一体的に設けられており、この燃焼器ライナ7の内側には、主流路(エンジン流路)9が形成されている。エンジンケース3と燃焼器ライナ7との間は、冷却用の二次空気が導入される環状の二次空気流路(ダクト)10となっている。
【0019】
このジェットエンジンにおける燃焼器5の構成について簡単に説明すると、次のようになる。すなわち、燃焼器ライナ7の前部には、燃料を案内する燃料ノズル17が設けられている。また、エンジンケース3内には、主流路9に送り込まれた空気を低圧圧縮する低圧圧縮機が設けられており、この低圧圧縮機の後方側には、低圧圧縮された圧縮空気をさらに高圧圧縮する高圧圧縮機が設けられている。そして、高圧圧縮機の後側には、高圧圧縮された圧縮空気を燃焼させる燃焼器が設けられている。
【0020】
また、燃焼器ライナ7の後側には、タービンディスク25が設けられており、このタービンディスク25は、燃焼器からの燃焼ガスの膨張によって駆動されるとともに、高圧圧縮機を連動して駆動するものである。
【0021】
なお、燃焼器ライナ7の後部には、主流路9から噴出された燃焼ガスを案内する排気流路29が設けられている。主流路9に送り込まれた空気は、圧縮工程及び燃焼工程等を経て、燃焼ガスとして主流路9から後方向へ噴出される。また、二次空気流路10に送り込まれた二次空気は、燃焼器ライナ7を覆うように二次空気流路10から後方向へ噴出される。これにより、ジェットエンジンから推進力を得ることができる。
【0022】
また、タービンディスク25の動翼26を冷却する二次空気を高圧の圧縮機最終段から導くため、静止系から回転系のフロントシール27を介して、タービンディスク25の前段に二次空気を供給するTOBIダクト28が採用されている。
【0023】
図2は、本発明に係るジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の形状を示す要部正面図(a)及び要部斜視図(b)である。
【0024】
フロントシール27において二次空気を取り込むため、図2中の(a)及び(b)に示すように、フロントシール27には、二次空気流路10から排出される二次空気をタービンディスク25側に導く複数の孔30が形成されている。このジェットエンジンにおいて、エンジン定格点においては、二次空気と複数の孔30との相対角度がゼロになるように、TOBIダクト28からの二次空気流出角度が設定してある。
【0025】
図3は、本発明に係るジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の間の梁部の形状を示す断面図である。
【0026】
これら複数の孔30の間の梁部31は、図3中の(a)に示すように、圧力損失を少なくするために、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成されており、複数の孔30の前面投影総面積は、複数の孔の間の梁部31の前面投影総面積よりも広くなっている。そのため、タービンディスク25の回転数が変化し、二次空気が複数の孔30に対して相対的な角度を有して流入しても、圧力損失が発生せず、動力の冷却に必要な二次空気流量が得られる。
【0027】
さらに、複数の孔30の間の梁部31は、図3中の(b)に示すように、断面を翼形状とし、二次空気の流動によって、フロントシール27の回転方向の揚力を生ずるようにすることが好ましい。
【0028】
次に、本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0029】
このジェットエンジンにおいては、適宜の図示しないスタータ装置の作動によって高圧圧縮機を駆動させ、空気を圧縮する。そして、燃焼器によって圧縮空気の中で燃料を燃焼させることにより、燃焼ガスの膨張によってタービンディスク25を駆動させ、このタービンディスク25により、高圧圧縮機を連動して駆動させる。これにより、ジェットエンジンを稼働させて、一連の動作が連続して行われる。
【0030】
また、このジェットエンジンを稼働させると、主流路9に送り込まれた空気は、圧縮工程,燃焼工程等を経て、燃焼ガスとして主流路9から後方向へ噴出される。また、二次空気流路10に送り込まれた空気は、燃焼器ライナ7を覆うように二次空気流路10から後方向へ噴出される。これにより、ジェットエンジンから推進力を得ることができる。
【0031】
そして、このジェットエンジンにおいては、二次空気流路10から排出される二次空気が、フロントシール27の複数の孔30を介して、タービンディスク25側に導かれる。TOBIダクト28からの二次空気流出角度が適切に設定してあることにより、エンジン定格点においては、二次空気と複数の孔30との相対角度がゼロになる。
【0032】
また、このジェットエンジンにおいては、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成されていることにより、タービンディスク25の回転数が変化し、二次空気が複数の孔30に対して相対的な角度を有して流入しても、圧力損失が発生せず、動力の冷却に必要な二次空気流量が得られる。
【0033】
さらに、複数の孔30の間の梁部31を、断面を翼形状とした場合には、二次空気の流動によって、フロントシール27の回転方向の揚力が生じ、圧力損失の発生がより確実に防止される。
【0034】
なお、本発明は、前述の発明の実施の形態の説明に限るものではなく、適宜の変更を行うことにより、その他種々の態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るジェットエンジンにおける要部拡大図である。
【図2】本発明に係るジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の形状を示す要部正面図(a)及び要部斜視図(b)である。
【図3】本発明に係るジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の間の梁部の形状を示す断面図である。
【図4】従来のジェットエンジンにおける要部拡大図である。
【図5】従来のジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の形状を示す要部正面図(a)及び要部斜視図(b)である。
【図6】従来のジェットエンジンにおけるフロントシールの孔の間の梁部の形状を示す断面図である。
【図7】従来のジェットエンジンにおいてフロントシールの回転数が変化したときの二次空気の流れを示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
3 エンジンケース
5 燃焼器
7 燃焼器ライナ
9 主流路
17 燃料ノズル
25 タービンディスク
27 フロントシール
28 TOBIダクト
29 排気流路
30 複数の孔
31 梁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼器ライナの外周部を囲んで設けられ、冷却空気が流入可能な環状の二次空気通路を形成し、後部に二次空気を排出する排出口を有するケースと、
前記燃焼器ライナの後方に配置され、外周側に動翼を有しこの動翼に前記二次空気通路から排出される二次空気及び燃焼ガスが導かれることにより回転されるタービンディスクと、
前記タービンディスクの前面側に設けられ、このタービンディスクとともに回転するフロントシールと、
前記二次空気を前記フロントシールに向けて該フロントシールの回転方向に傾斜した方向に排出するダクトと
を備え、
前記フロントシールには、前記ダクトから排出される二次空気をタービンディスク側に導く複数の孔が形成されており、
前記複数の孔の間の梁部は、二次空気の流入側となる前面部が曲面によって構成されており、
前記複数の孔の前面投影総面積は、前記複数の孔の間の梁部の前面投影総面積よりも広い
ことを特徴とするジェットエンジン。
【請求項2】
前記複数の孔の間の梁部は、断面が翼形状となっており、前記二次空気の流動によって、このフロントシールの回転方向の揚力を生ずる
ことを特徴とする請求項1記載のジェットエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−243443(P2009−243443A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94256(P2008−94256)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】