説明

ジェットフローゲート

【課題】大きな吐口面積のジェットフローゲートの製造を可能とする。
【解決手段】放水用流路1に介設された弁胴体の径方向に移動可能に設けられて放水用流路1を開閉する扉体2を備えたジェットフローゲートである。扉体2と相対する放水用流路1の吐口1aの形状を、たとえば上下に配置した同一半径の半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ形状とする。必要に応じて、扉体2の縁部に、閉扉時には放水用流路外に位置し、開扉動作に伴い放水用流路1を開放する欠円状の切欠き2bを形成する。
【効果】より大きな吐口面積のジェットフローゲートの製造が可能になる。また、同じ吐口面積の場合は、最小流量制御量を小さくすることができる。また、欠円状の切欠きを形成すれば、切欠きに起因する剛性低下や応力集中を抑制しつつ、容易に、水理的な流れの不安定現象を軽減して高い精度で微量放流時の放水量の調整が行えるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばダムの放水用流路に介設されるジェットフローゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばダムには放水用の流路が設けられ、必要に応じて放水が行われるが、この放水は、放水用流路に介設されたジェットフローゲートの操作によって行われる。
このジェットフローゲートは、図6に示したように、放水用流路1に接続される円筒状の弁胴体(図示せず)に矩形状の扉体2を備えさせ、弁胴体の径方向に扉体2を油圧シリンダで移動させることにより放水用流路1を開閉する構成である。
【0003】
このような構成のジェットフローゲートでは、閉扉時の水密は、扉体2と相対する放水用流路1の吐口1aに設けたリングシール3が、水圧によって扉体2に圧接されることで維持される。
【0004】
ところで、ジェットフローゲートが介設される放水用流路1の吐口形状は、図6に示したように、通常は円形状である。このような円形状の吐口1aでは、当然、リングシール3も円形であるが、良好なシール性を得るために、このリングシール3は、工場で機械加工した一体物を、施工現場に輸送している。
【0005】
また、ダムは、発電時や洪水時のように大量の放水を行う場合と、水位の調整や水位を維持するために微量の放水を行う場合がある。このような放水の制御を行う場合、矩形状の扉体2では、上下水脈の干渉が強く作用して水理的な不安定化が生じる領域(図6(b)に矢印イで示す)が広く、微量放水時の開度調整が難しい。
【0006】
そこで、特許文献1では、図7に示したように、扉体2の下端部に、扉体2の幅中心から両外側に向かって先広がりの逆V字型の切欠き2aを形成したジェットフローゲートが提案されている。これによれば、閉扉時には放水用流路の外に位置する切欠きが、開扉動作に伴い放水用流路を開放するので、微量放水時の放水量調整を精度よく行うことができるとしている。
【特許文献1】特開平11−270706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の円形状の吐口を有するジェットフローゲートでは、トラック等によるリングシールの輸送を考慮すれば、その口径は最大で2.8mで、吐口面積は6.157m2が限度であり、これ以上吐口面積を大きくすることはできない。この点については、特許文献1で提案されたものも何ら変わりはない。
【0008】
また、発明者による微量放水時の実機テストによれば、特許文献1で提案された逆V字型の切欠きを形成したジェットフローゲートは、以下の問題を有していることが判明している。
【0009】
(1) 扉体の開度に対して放水水脈が相互に干渉し、切欠き部2aのA点及びB点(図7(b)参照)における水脈4が飛沫化し易く(図8(a)(b)参照)、キャビテーションや振動など放流の管理上問題となる。
(2)高圧を受けるため、扉体には強度部材が設けられているが、それでも逆V字型切欠きの存在により扉体の剛性が低下し、放水時、振動や騒音が発生する。
(3) 逆V字型切欠き部に応力が集中し、疲労する。
【0010】
本発明が解決しようとする問題点は、従来のジェットフローゲートでは、リングシールの輸送限界から最大吐口面積が決定され、また、微量放水時の放水量調整を精度良く行おうとして逆V字型切欠きを設けた場合、キャビテーションが発生する等の問題があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のジェットフローゲートは、
輸送限界を向上させてより大きな吐口面積のジェットフローゲートの製造を可能とするために、
放水用流路に介設された筒状の弁胴体の径方向に移動可能に設けられて放水用流路を開閉する扉体を備えたジェットフローゲートにおいて、
前記扉体と相対する前記放水用流路の吐口形状を、(1) 上下に配置した同一半径の半円弧を直線で結んだ形状、(2) 長軸を上下方向とする楕円形状、(3) 左右にのみ対称であって、吐口の中間部分から下方に行くに従って幅方向の距離が減少するように、或いは吐口の中間部分から下方が、同一幅を維持した後下方に行くに従って減少するように、円弧、楕円弧、直線の何れかを用いて結んだ形状、としたことを最も主要な特徴としている。
【0012】
本発明のジェットフローゲートにおいて、前記扉体の縁部に、閉扉時には放水用流路外に位置し、開扉動作に伴い放水用流路を開放する欠円状の切欠きを形成した場合には、微量放水時の放水量調整を精度良く行え、しかも微量放水時、キャビテーションなどが発生しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジェットフローゲートは、扉体と相対する放水用流路の吐口形状を、(1) 上下に配置した同一半径の半円弧を直線で結んだ形状、(2) 長軸を上下方向とする楕円形状、(3) 左右にのみ対称であって、吐口の中間部分から下方に行くに従って幅方向の距離が減少するように、或いは吐口の中間部分から下方が、同一幅を維持した後下方に行くに従って減少するように、円弧、楕円弧、直線の何れかを用いて結んだ形状としたので、円形の吐口形状に比べて、より大きな吐口面積のリングシールであってもトラック等により輸送できる。したがって、より大きな吐口面積のジェットフローゲートの製造が可能になる。また、同じ吐口面積の場合は、円形の吐口形状に比べて口径を小さくできるので、最小流量制御量を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明のジェットフローゲートにおいて、扉体の縁部に、閉扉時には放水用流路外に位置し、開扉動作に伴い放水用流路を開放する欠円状の切欠きを形成すれば、切欠きに起因する剛性低下や応力集中を抑制しつつ、容易に、水理的な流れの不安定現象を軽減して高い精度で微量放流時の放水量の調整が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図3を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の第1の例を説明する概略図、図2は本発明の第2〜6の例について説明する図、図3は本発明の第7の例を説明する概略図である。
【0016】
図1は本発明のジェットフローゲートの第1の例を説明する図である。この第1の例では、弁胴体の径方向に移動可能に設けられた扉体2と相対する放水用流路1の吐口1aの形状を、たとえば吐口形状を円形状とした場合の最大口径(2.8m)と略同じ吐口面積となる、直径が共に1.9mの、上下に配置した半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ、幅が1.9mで、上下方向の最大長さが3.65mの形状としている。
【0017】
このように吐口1aを同一半径の半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ形状とした本発明では、同じ吐口面積の場合、円形状に比べて口径を小さくできる(前記の例では2.8mから1.9m)。したがって、従来よりも大きな吐口面積のリングシール3でもトラック輸送できることになり、より大きなジェットフローゲートの製作が可能になる。また、同様の理由により、最小流量制御量を小さくすることもできる。
【0018】
また、このように同一半径の半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ形状の吐口1aを採用した本発明のジェットフローゲートでは、同じ吐口面積の場合、円形状に比べて口径を小さくできることから、扉体2の支間距離を小さくできる。したがって、使用する強度部材も少なくてすみ、扉体重量を小さくできる。
【0019】
本発明のフロージェットゲートの吐口形状は、図1に示したような、同一半径の半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ形状に限るものではなく、たとえば図2(a)〜(e)に示したような形状のものでも良い。
【0020】
図2(a)は、最小流量制御量を小さくする観点から、上方の円弧r1の直径を下方の円弧r2の直径よりも大きくし、直径の大きな上方の円弧r1と直線s1,s2を小さな円弧rs1を介して結んだものである。また、図2(b)は、長軸を上下方向とする楕円形状のものである。
【0021】
また、図2(c)〜(e)は、左右対称であって、吐口の中間部分から下方に行くに従って、幅方向の距離が小さくなるように、図2(c)は短軸を上下方向として半径の小さい楕円弧ro1を上方に、長軸を上下方向とする半径の大きい楕円弧ro2を下方に配置し、これら両楕円弧ro1,ro2を結んだものである。また、図2(d)は逆三角形状の頂点を小さな半径の円弧rs1としたもの、図2(e)は野球の本塁ベースの形状の頂点を小さな半径の円弧rs1としたものである。
【0022】
本発明のフロージェットゲートは、その吐口1aの形状を、図1や図2に示したような形状にするだけでも、最小流量制御量を小さくできて、微量放水時の放水量調整を精度良く行えるが、図3に示すように、扉体2の下端部に欠円状の切欠き2bを形成した場合には、微量放水時の放水量調整をさらに精度良く行えるようになる。
【0023】
この図3に示した例では、微量放流時、図3(a)に実線で示す全閉状態から、同図想像線で示す位置まで扉体2を上昇させると、図1や図2に示す切欠きを設けない扉体2を上昇させた場合と比べて、噴流開口が欠円状切欠き2bの分だけ加算される。
【0024】
したがって、微小開度での噴流水脈、扉体2の下端部からの水脈4とリングシール3からの水脈4が干渉する領域が狭くなって、水理的な流れの不安定現象が軽減されることになる(図3(b)(c)参照)。
【0025】
そして、この放水時、扉体2の開度と放水流量が連続関数で表されて水脈4が噴流全域で連続するので、水脈4の飛沫化がなく、また、微量放流量に対する開度精度が良くなって放水量の調整が容易に行えるようになる。
【0026】
加えて、この図3に示した例では、切欠き2bは欠円状であることから、切欠き部に応力が集中せず、また、切欠き2bに起因する扉体2の剛性低下が少ないので、放水時、振動や騒音の発生が少なくなる。
【0027】
この場合、放水用流路1の吐口1aが同一半径の半円弧rf1,rf2を直線s1,s2で結んだ形状を有するものであるときには、前記欠円状の切欠き2bは、切欠き部の幅を前記放水用流路1の幅と同一となし、かつ、切欠きの欠円直径を放水用流路1の幅よりも大きく、好ましくは1.5倍以上となすと、切欠きを設けた扉体縁部の両端の剛性低下がさらに少なくなる。
【0028】
ちなみに、図6に示した従来のジェットフローゲート(図4、図5で、標準という。)と、特許文献1で提案されたジェットフローゲート(図4、図5で、切欠三角という。)と、図1に示した本発明のジェットフローゲート(図4、図5で、長孔という。)と、図3に示した本発明のジェットフローゲート(図4、図5で、長孔+円弧という。)の、ゲート開度と吐口の開口面積との関係を、図4および図5に示す。
【0029】
扉体の開度が微小な場合は、図4に示すように、特許文献1で提案されたジェットフローゲート、図3に示した本発明のジェットフローゲート、図1に示した本発明のジェットフローゲート、従来のジェットフローゲートの順に開度精度が良いことがわかる。
【0030】
一方、扉体の開度が大きくなると、図5に示すように、図3に示した本発明のジェットフローゲート、図1に示した本発明のジェットフローゲート、特許文献1で提案されたジェットフローゲート、従来のジェットフローゲートの順に開度精度が良いことがわかる。
【0031】
これら図4及び図5より明らかなように、本発明のジェットフローゲートは、扉体の開度が微小な場合は、特許文献1で提案されたジェットフローゲートよりは開度精度が若干劣るものの、扉体の開度が大きい場合は、従来のジェットフローゲートは勿論のこと、特許文献1で提案されたジェットフローゲートよりも良い。
【0032】
本発明は、前記の例に限るものではなく、扉体の開閉は油圧シリンダに限らず、スピンドルやラックを用いて行うものを使用しても良いなど、各請求項に記載の技術的思想の範囲内において、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、放水に使用するゲートに限らず、あらゆる種類のゲートに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の例を説明する概略図で、(a)は正面から見た閉扉時の図、(b)は正面から見た微量放水時の図である。
【図2】(a)〜(e)は本発明の第2〜6の例について説明する図である。
【図3】本発明の第7の例を説明する図で、(a)は正面から見た図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
【図4】従来と特許文献1と本発明のジェットフローゲートの、ゲート開度と吐口の開口面積との関係を示した図で、微小開度の場合を示した図である。
【図5】従来と特許文献1と本発明のジェットフローゲートの、ゲート開度と吐口の開口面積との関係を示した図で、開度が大きい場合を示した図である。
【図6】従来のジェットフローゲートの説明図で、(a)は正面から見た図、(b)は上下水脈の干渉領域の説明図、(c)は(a)の側面図である。
【図7】特許文献1で提案されたジェットフローゲートの要部説明図で、(a)は正面から見た図、(b)は切欠き部の拡大図である。
【図8】特許文献1で提案されたジェットフローゲートの説明図で、(a)は図7(b)のA−A断面図、(b)は図7(b)のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 放水用流路
1a 吐口
2 扉体
2b 欠円状切欠き
3 リングシール
rf1,rf2 半円弧
r1,r2 円弧
ro1,ro2 楕円弧
s1,s2 直線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放水用流路に介設された筒状の弁胴体の径方向に移動可能に設けられて放水用流路を開閉する扉体を備えたジェットフローゲートにおいて、
前記扉体と相対する前記放水用流路の吐口形状を、上下に配置した同一半径の半円弧を直線で結んだ形状としたことを特徴とするジェットフローゲート。
【請求項2】
放水用流路に介設された筒状の弁胴体の径方向に移動可能に設けられて放水用流路を開閉する扉体を備えたジェットフローゲートにおいて、
前記扉体と相対する前記放水用流路の吐口形状を、長軸を上下方向とする楕円形状としたことを特徴とするジェットフローゲート。
【請求項3】
放水用流路に介設された筒状の弁胴体の径方向に移動可能に設けられて放水用流路を開閉する扉体を備えたジェットフローゲートにおいて、
前記扉体と相対する前記放水用流路の吐口形状を、左右にのみ対称であって、吐口の中間部分から下方に行くに従って幅方向の距離が減少するように、或いは吐口の中間部分から下方が、同一幅を維持した後下方に行くに従って減少するように、円弧、楕円弧、直線の何れかを用いて結んだ形状としたことを特徴とするジェットフローゲート。
【請求項4】
前記扉体の縁部に、閉扉時には放水用流路外に位置し、開扉動作に伴い放水用流路を開放する欠円状の切欠きを形成したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のジェットフローゲート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−92507(P2007−92507A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361675(P2005−361675)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】