説明

ジェットミルおよびジェット粉砕方法

【課題】コンタミの抑制、処理効率の向上を可能にするとともに、粒度バラツキを少なくして粉砕処理後の分級処理を省略または簡略化し、また、機材の損耗を抑制し、発熱が少なく品質への影響が少ない微細化を可能にする。
【解決手段】水平円盤状の破砕室12内に導入された砕料を、その破砕室の側壁に沿って円陣状に配設された複数の噴射ノズル20,21からの気体噴射により生成される高速旋回流によって微細化するジェットミルであって、各噴射ノズル20,21はそれぞれ、破砕室を形成するハウジングを貫通した状態で装着されるとともに、各ノズル20,21の先端面211が破砕室の内壁面と同一円周面を形成する曲面形状とする。これにより、同心円状の高速旋回流を安定に生成して、砕料粒子の粉砕を粒子間衝突に依存して行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平円盤状の破砕室内に導入された砕料を、その破砕室の側壁に沿って円陣状に配設された複数の噴射ノズルからの気体噴射により生成される高速旋回流によって微細化するジェットミルおよびジェット粉砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットミルは、破砕室内に導入された砕料を高速ジェットによる旋回流によって粉砕・微細化するものであって、たとえば粉体冶金の材料製造、農薬やトナー等のように熱に弱い粉体の生成、あるいはセラミック粉体の生成等、多種多様の微粉体生成に用いて有効である。
【0003】
図5は従来のジェットミルの概略構成を示す。同図は、破砕室12の横断面を模式的に示す。同図に示すジェットミルは、水平円盤状の破砕室12を形成するハウジング11に複数の気体噴射ノズル20,21が装着されている。各噴射ノズル20,21はそれぞれ、ハウジング11を貫通した状態で装着されるとともに、その噴射口が破砕室12内の所定方向に向くように設置されている。
【0004】
同図に示す例では、複数の気体噴射ノズル20,21のうち、その1つ(20)が破砕室12内に砕料を供給する固気混合エゼクタノズルを形成している。このエゼクタノズル20は、ホッパー状の砕料供給部32から供給された砕料を、駆動ノズル31から噴射される高速気体流と共に、破砕室12内に噴射・導入する。
【0005】
気体噴射ノズル20,21および駆動ノズル31にはそれぞれ、高圧作動気体供給装置(図示省略)から送気チューブ41を介して高圧気体(空気または不活性気体などの適宜なガス)が送り込まれるようになっている。
【0006】
破砕室12内に導入された砕料は、その破砕室12を囲む側壁に沿って円陣状に配設された複数の気体噴射ノズル20,21からの気体噴射により生成される高速旋回流に巻き込まれて粉砕・微細化される。微細化された粉体は破砕室12中央部の上方に位置する微粉体排出口14から取り出される。
【0007】
なお、この種のジェットミルは、たとえば特許文献1などに開示されている。
【特許文献1】特許第3335312号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジェットミルにおいて粉砕能力を高めるためには、ノズル20,21からの噴射速度を高める必要がある。とくに、ジェットミル特有の粉砕効果を発揮させるには、破砕室内で超音速の高速(気体)旋回流を形成させる必要がある。
【0009】
従来のジェットミルでは、砕料が破砕室12の壁面に衝突することによる衝撃で粉砕を行っていた。つまり、破砕室に導入された砕料が高速の気体旋回流で破砕室の壁面に衝突するように構成されていた。このような作用原理に基づいた場合、粉砕効果を高めるためには、破砕室壁面への衝突衝撃は大きい方が良く、このためには旋回流を高速化する必要があった。
【0010】
上記のような作用原理で動作するように構成されたジェットミルでは、砕料の粉砕効果を高めるためには破砕室12壁面への衝突衝撃が大きくなければならないが、壁面への衝突衝撃が大きくなると、壁面の磨耗が著しくなって、機材が損耗しやすくなるとともに、生成された微粉体中に混入する不純物、いわゆるコンタミが多くなってしまうという背反が生じる。
【0011】
また、壁面への衝突によって生成された粉砕処理品は粒度バラツキが大きく、たとえば図6に示す粒度分布曲線BまたはCのように、粒度分布が広がったり、あるいは粒度分布の山が分かれたりするといった問題があった。このため、従来のジェットミルを使って粒度バラツキの少ない微粉体を生成するためには、そのジェットミルによる粉砕処理の後で面倒な分級処理が不可欠であった。
【0012】
ここで、本発明者らは、ジェットミルによる粉砕を、従来とは異なる作用原理で行うことにより、上述した従来の問題を解決できることを明らかにした。
【0013】
すなわち、従来のジェットミルでは砕料と壁面の衝突による衝撃を利用して粉砕を行っていたが、本発明者らが明らかにした作用原理では、高速で旋回運動させられる粒子間の衝突によって粉砕を行わせる。
【0014】
この粒子間衝突による粉砕は、壁面への衝突による粉砕と異なり、粒度バラツキの少ない均質な粉砕処理が可能であることが判明した。この粒子間衝突による粉砕では、壁面への衝突による粉砕と異なり、壁面を磨耗させる必然性がないことにより、コンタミ(不純物混入)を抑制することができるとともに、機材の損耗を低減させる効果が得られる。
【0015】
また、粒子間衝突は砕料の密度が高いほど高頻度になるので、処理量の増大による処理効率の向上とランニングコストの低減が可能である。
【0016】
さらに、壁面への衝突を利用する粉砕では、噴射気体の供給圧力を高めるのにともない、壁面との衝突摩擦による発熱が増大するが、粒子間衝突の依存性を高めた破砕ではその発熱が少なく、むしろ気体は噴射にともなう圧力解放によって温度が低下する。これにより、発熱を少なくして破砕品への熱影響を軽減させることが可能となり、熱に弱い粉体も品質を損なうことなく高効率に粉砕・微細化することができるようになる。
【0017】
上記のように、本発明者等は、ジェットミルにおける砕料の破砕・微細化を粒子間衝突に依存して行わせることが、上述した従来の問題を解決するのに非常に有効であることを突き止めた。
【0018】
そして、壁面衝突による破砕を少なくし、粒子間衝突による破砕の割合を特異的に高めるためには、破砕室内で同心円状の高速旋回流を生成させることが有効であることを知得するに至った。この同心円状の旋回流を超音速で安定的に生成させることにより、砕料の破砕・微細化はほとんど粒子間衝突だけで行われるようになることが判明した。
【0019】
ところが、たとえば図5に示した従来のジェットミルでは、そのオペレーション条件をどのように設定しても、粒子間衝突による破砕の割合を特異的に高めることはできないことが判明した。
【0020】
これは、破砕室12内で安定な同心円状の高速旋回流が生成されないことが原因であると判明した。そして、その安定な同心円状の高速旋回流の生成を妨げる大きな原因が、その旋回流を生じさせるために装着された噴射ノズル20,21にあることが、本発明者らによって明らかにされた。
【0021】
すなわち、たとえば図5に示した従来のジェットミルでは、ケーシング11を貫通した状態で装着された噴射ノズル20,21の先端部が、破砕室12内での気体の高速旋回流に干渉し、局部的な乱流を生じさせたり、安定な同心状の高速旋回の生成を妨げたりする障害物となっていた。
【0022】
上述した技術的背景および課題の主要部分は本発明者等によって明らかにされた事項である。
本発明は以上のような技術背景および課題を鑑みたもので、その目的は、ジェットミルおよびジェット粉砕方法において、壁面衝突ではなく、粒子間衝突による粉砕割合を特異的に高めるのに有効な技術を提供することにある。
【0023】
これにより、コンタミの抑制、処理効率の向上を可能にするとともに、粒度バラツキを少なくして粉砕処理後の分級処理を省略または簡略化することを可能にする。
【0024】
また、機材の損耗を抑制し、発熱が少なく品質への影響が少ない微細化を可能にする。
【0025】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明が提供する解決手段は以下のとおりである。
(1)水平円盤状の破砕室内に導入された砕料を、その破砕室の側壁に沿って円陣状に配設された複数の噴射ノズルからの気体噴射により生成される高速旋回流によって微細化するジェットミルにおいて、各噴射ノズルはそれぞれ、破砕室を形成するハウジングを貫通した状態で装着されるとともに、各ノズルの先端面が破砕室の内壁面と同一円周面を形成する曲面形状をなしていることを特徴とするジェットミル。
【0027】
(2)上記手段(1)において、上記複数の噴射ノズルには砕料導入のための噴射ノズルが含まれることを特徴とするジェットミル。
【0028】
(3)上記手段(1)または(2)において、上記破砕室の側壁は上記噴射ノズルと共に真円状の破砕空間を形成し、上記噴射ノズルはその真円の接線方向に向けて気体を噴射するように装着されていることを特徴とするジェットミル。
【0029】
(4)水平円盤状の破砕室内に導入された砕料を、その破砕室内への気体噴射により生成される高速旋回流によって粉砕・微細化するジェット粉砕方法であって、砕料粒子の粉砕が壁面への衝突よりも粒子間の衝突に依存して行われるようにしたことを特徴とするジェット粉砕方法。
【0030】
(5)上記手段(4)において、破砕室内で同心円状の高速旋回流を生成させることにより破砕発生の粒子間衝突への依存性を高めたことをジェット粉砕方法。
【0031】
(6)上記手段(4)または(5)において、上記手段(1)〜(3)のいずれかに記載のジェットミルを用いて破砕発生の粒子間衝突への依存性を高めたことをジェット粉砕方法。
【発明の効果】
【0032】
ジェットミルおよびジェット粉砕方法において、壁面衝突ではなく、粒子間衝突による粉砕割合を特異的に高めるのに有効である。
【0033】
これにより、コンタミの抑制、処理効率の向上を可能にするとともに、粒度バラツキを少なくして粉砕処理後の分級処理を省略または簡略化することが可能になる。
【0034】
また、機材の損耗を抑制し、発熱が少なく品質への影響が少ない微細化が可能になる。
【0035】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1および図2は、本発明に係るジェットミルの概略構成を断面図で示す。図1は、破砕室12を水平方向に破断した横断面図であって、(a)は全体の概略断面図、(b)は要部の断面図をそれぞれ示す。また、図2は破砕室12の側断面図を示す。
【0037】
同図に示すジェットミルは、水平円盤状の破砕室12を形成するハウジング11に複数の気体噴射ノズル20,21が装着されている。各噴射ノズル20,21はそれぞれ、ハウジング11を貫通した状態で着脱可能に装着されるとともに、その噴射口が破砕室12内の所定方向に向くように設置されている。
【0038】
ハウジング11は、本体部110の内側にライナー部111,112が配設され、このライナー部111,112に囲まれた中に円盤状の破砕室12が形成されている。
【0039】
複数の気体噴射ノズル20,21のうち、その1つ(20)が破砕室12内に砕料を供給する固気混合エゼクタノズルを形成している。このエゼクタノズル20は、ホッパー状の砕料供給部32から供給された砕料を、駆動ノズル31から噴射される高速気体流と共に、破砕室12内に噴射・導入する。
【0040】
気体噴射ノズル20,21および駆動ノズル31にはそれぞれ、高圧作動気体供給装置(図示省略)から送気チューブ41を介して高圧気体(空気または不活性気体などの適宜なガス)が送り込まれるようになっている。
【0041】
破砕室12内に導入された砕料は、その破砕室12を囲む側壁に沿って円陣状に配設された複数の気体噴射ノズル20,21からの気体噴射により生成される高速旋回流に巻き込まれて粉砕・微細化される。微細化された粉体は破砕室12中央部の上方に位置する微粉体排出口14から取り出される。
【0042】
破砕室12の中央下部は、水平な旋回流を誘導するための円錐コア部171が設けられている。
【0043】
さらに、ここで示すジェットミルの場合、とくに図1の(a)と(b)に示すように、各噴射ノズル20,21はそれぞれ、その先端面211が破砕室12の内壁面と同一円周面を形成する曲面形状をなしている。
【0044】
この場合、ノズル先端面211が破砕室12の側壁面と同一の曲率(r)となるように形成されている。破砕室12の側壁は噴射ノズル20,21と共に円盤状の破砕空間を形成する。
【0045】
これにより、ノズル20,21の先端部が破砕室12内での気体の高速旋回流に干渉して局部的な乱流を生じさせたりすることなく、安定な同心状の高速旋回の生成が可能になることが判明した。
【0046】
図3は、上記破砕室12の横断面をモデル化したものであって、とくに破砕室12内での旋回流の状態(破線矢印)を模式的に示す。同図に示ように、破砕室12の側壁が噴射ノズル20,21と共に真円状の破砕空間を形成することにより、噴射ノズル20,21はその真円の接線方向に向けて気体を噴射して同心円状の高速旋回流(図中の破線矢印参照)を良好かつ安定に生成することができる。
【0047】
この同心円状の安定な高速旋回流により、砕料粒子の粉砕・微細化を壁面への衝突ではなく、粒子間衝突によって行わせることができるようになって、コンタミの抑制、処理効率の向上が可能となる。
【0048】
このような作用原理による粉砕・微細化処理により、たとえば図4に示す粒度分布曲線Aのように、粒度バラツキの少ない微粉体を高効率に得ることができた。これにより、粉砕処理後の分級処理を省略または簡略化することができる。
【0049】
また、粉砕・微細化における粒子間衝突への依存性が高くなったことにより、超音速の高速旋回流下でも機材の損耗が抑制される。発熱も少なくなり、品質への影響が少ない微細化が可能となり、さらに、粒子間衝突は砕料の密度が高いほど高頻度になるので、処理量の増大による処理効率の向上とランニングコストの低減も可能になった。
【0050】
噴射ノズル20,21は、破砕室を形成するハウジングを貫通した状態で装着されているので、ノズル20,21の交換による運転条件の変更にも簡単に対応可能である。
【0051】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、ノズル20,21の本数や設置方向などは適宜設定可能である。また、砕料を導入するエゼクタノズル20は2本以上設置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ジェットミルおよびジェット粉砕方法において、壁面衝突ではなく、粒子間衝突による粉砕割合を特異的に高めるのに有効である。これにより、コンタミの抑制、処理効率の向上を可能にするとともに、粒度バラツキを少なくして粉砕処理後の分級処理を省略または簡略化することが可能になる。また、機材の損耗を抑制し、発熱が少なく品質への影響が少ない微細化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係るジェットミルの概略構成を断面図で示す横断面図および要部断面図である。
【図2】図1に示したジェットミルの側断面図である。
【図3】本発明に係るジェットミルにおいて、破砕室内での旋回流の状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明により得られる粉砕処理品の粒度分布状態を示すグラフである。
【図5】従来のジェットミルの概略構成を示す横断面図である。
【図6】従来のジェットミルで得られる粉砕処理品の粒度分布状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
10 ジェットミル、
11 ハウジング、
110 半鵜人グ本体部、
111 ライナー部、
112 ライナー部、
12 破砕室、
14 微粉体排出口、
171 円錐コア部、
20 気体噴射ノズル(エゼクタノズル)、
21 気体噴射ノズル、
211 ノズル先端面、
31 駆動ノズル、
32 砕料供給部、
41 送気チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平円盤状の破砕室内に導入された砕料を、その破砕室の側壁に沿って円陣状に配設された複数の噴射ノズルからの気体噴射により生成される高速旋回流によって微細化するジェットミルにおいて、各噴射ノズルはそれぞれ、破砕室を形成するハウジングを貫通した状態で装着されるとともに、各ノズルの先端面が破砕室の内壁面と同一円周面を形成する曲面形状をなしていることを特徴とするジェットミル。
【請求項2】
請求項1において、上記複数の噴射ノズルには砕料導入のための噴射ノズルが含まれることを特徴とするジェットミル。
【請求項3】
請求項1または2において、上記破砕室の側壁は上記噴射ノズルと共に真円状の破砕空間を形成し、上記噴射ノズルはその真円の接線方向に向けて気体を噴射するように装着されていることを特徴とするジェットミル。
【請求項4】
水平円盤状の破砕室内に導入された砕料を、その破砕室内への気体噴射により生成される高速旋回流によって粉砕・微細化するジェット粉砕方法であって、砕料粒子の粉砕が壁面への衝突よりも粒子間の衝突に依存して行われるようにしたことを特徴とするジェット粉砕方法。
【請求項5】
請求項4において、破砕室内で同心円状の高速旋回流を生成させることにより破砕発生の粒子間衝突への依存性を高めたことをジェット粉砕方法。
【請求項6】
請求項4または5において、請求項1〜3のいずれかに記載のジェットミルを用いて破砕発生の粒子間衝突への依存性を高めたことをジェット粉砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−275849(P2007−275849A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109132(P2006−109132)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(504265075)サンレックス工業株式会社 (4)
【出願人】(303043380)株式会社エース技研 (3)
【出願人】(504149454)株式会社ナノプラス (3)
【Fターム(参考)】