説明

ジェット推進器用ケーシング

【課題】既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船を、ウォータージェット推進器により推進する船への改造を可能とし、また、インペラーを船外に設置することで振動を抑制できるようにする。
【解決手段】船S1に用いられるウォータージェット推進器Aの外殻を形成するケーシングXとして、後端部が水上に存するように前記船S1の船底後部から船尾板に沿って設けられる、水流が通る管体からなるケーシング本体と、前記ケーシング本体10の後端部に形成される水流を噴射する噴射ノズル12と、前記ケーシング本体10内部の先端開口部側に設けられる前記ウォータージェット推進器Aのインペラーを収容するインペラー収容部11とを含むように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船に用いられるウォータージェット推進器用のケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
船の推進装置として用いられるウォータージェット推進器は、スクリュープロペラ推進器に比較して、キャビテーションの影響が少なく、船速を大きくできるという利点を持つ。ウォータージェット推進器は、通常、船底に設けた穴から水を取り込み、船内に設けたインペラーを含むポンプにより、水を後方の噴射ノズルから噴射するような構造を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ウォータージェット推進器は、上述のように船底に穴を形成する必要があるので、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船をウォータージェット推進器により推進する船に改造することはきわめて困難である。また、ウォータージェット推進器を構成する水流を発生させるインペラーが船内に設けられるので船内へ振動が伝わりやすいという問題もある。
本発明は、このような問題に鑑みて、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船を、ウォータージェット推進器により推進する船への改造を可能とし、また、インペラーを船外に設置することで振動を抑制できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。
請求項1に記載の発明は、船に用いられるウォータージェット推進器の外殻を形成するケーシングであって、後端部が水上に存するように前記船の船底後部から船尾板に沿って設けられる、水流が通る管体からなるケーシング本体と、前記ケーシング本体の後端部に形成される水流を噴射する噴射ノズルと、前記ケーシング本体内部の先端開口部側に設けられる前記ウォータージェット推進器のインペラーを収容するインペラー収容部とを有するウォータージェット推進器用ケーシングである。
請求項2に記載の発明は、前記ウォータージェット推進器用ケーシングにおいて、前記ウォータージェット推進器用ケーシングは、既存のスクリュープロペラ推進器を有する船であるスクリュー船に取り付けられるものであって、前記インペラーは当該スクリュー船のスクリュープロペラが用いられるものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のウォータージェット推進器用ケーシングにおいて、当該ウォータージェット推進器用ケーシングは、既存のスクリュープロペラ推進器を有する船であるスクリュー船に取り付けられるものであって、この船のスクリュープロペラは軸流ポンプに用いられるインペラーに交換されるものであり、このインペラーを前記インペラーとしたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のウォータージェット推進器用ケーシングを有するウォータージェット推進器が設けられた船である。
請求項5に記載の発明は、前記スクリュー船に請求項2に記載されるウォータージェット推進器用ケーシングを設けた船である。
請求項6に記載の発明は、前記スクリュー船において、スクリュープロペラを前記軸流ポンプに用いられるインペラーに交換し、請求項3に記載のウォータージェット推進器用ケーシングを設けた船である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載の発明に係るウォータージェット推進器用ケーシングを用いれば、ウォータージェット推進器を船底後部から船尾板に沿って設けることができるので、船体に穴を空ける必要がなく、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船をウォータージェット推進器により推進する船に容易に改造することができ、また、インペラーが船外に存するので、船体内への振動が生じにくい。
請求項2に記載の発明は、スクリュープロペラ推進器を有する船のスクリュープロペラをそのまま利用してウォータージェット推進器により推進する船に改造することができる。
請求項3に記載の発明は、スクリュープロペラ推進器を有する船のエンジンと推進軸をそのまま利用してウォータージェット推進器により推進する船に改造することができる。
請求項4に記載の発明は、インペラーが船外に存するので振動を押さえることができる。
請求項5、6に記載の発明は、既存のスクリュー船をそのまま使用して簡易かつ低コストでウォータージェット推進器を有する船として製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に実施形態に係るウォータージェット推進器用ケーシングXを含むウォータージェット推進器Aの構造を模式的に示す一部破断側面図を示し、図2に当該ウォータージェット推進器Aの背面図を示す。本ウォータージェット推進器Aは、スクリュープロペラ推進器Pを有する小型の船S1に設けられている。
ウォータージェット推進器用ケーシングXは、船底Dの後部から船尾板Bに沿って形成される屈曲した管体からなるケーシング本体10と、ケーシング本体10の先端側に設けられるスクリュープロペラ推進器PのスクリュープロペラPsを収納するインペラー収納部11と、ケーシング本体10の後端側に設けられる噴射ノズル12とから構成される。ケーシング本体10の噴射ノズル12が設けられる位置は船S1に取り付けられた状態で、水上に存するように形成される。また、インペラー収納部11から噴射ノズル12に向かって内径が小さくなるように構成されている。ここでは噴射ノズル12の開口部面積はスクリュープロペラPsの面積の約2分の1に設定される。インペラー収納部11は、船S1のスクリュープロペラPsの羽根の回転軸からもっとも離れた位置を通る軌跡にほぼ接する短円筒状の覆いにより形成される。覆いの外周面はケーシング本体10内部を封止するようにケーシング本体10に一体に形成されている。
【0007】
このような構成を有するウォータージェット推進器用ケーシングXは既存の船S1から舵を取り去り、舵が設けられていた位置に、図1、2に示すような形で取り付けることにより、ウォータージェット推進器用ケーシングXに水を送るスクリュープロペラPsが内蔵されることとなり、これによりウォータージェット推進器Aが形成される。なお、舵が取り去られることで、方向転換のために、噴射ノズル11外部に左右に稼動するデフレクターを設けたり、噴射ノズルの外側にさらに、左右に稼動するノズルを設ける必要があり、また、後進を可能とするためには、リバーサーを設ける必要があるが、ここでは省略している。
以上のようにこのような構造を有するウォータージェット推進器用ケーシングXを用いれば、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船を、比較的容易にウォータージェット推進器により推進する船に改造することが可能となる。
なお、ここでは、小型の船S1を例に挙げたが、図3、4に示すように大型船S2に対しても同様の構造を有するウォータージェット推進器用ケーシングX2を用いることで、やはり、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船を、比較的容易にウォータージェット推進器A2により推進する船に改造することが可能となる。なお、大型船の場合は、スクリュープロペラに代えて、軸流ポンプに用いられるインペラーIpに交換することが望ましい。この場合、インペラー収納部15は交換したインペラーIpの大きさに適合する大きさとする必要がある。また、ウォータージェット推進器用ケーシングX2の噴射ノズル14は、複数の開口からなるものが採用されている。これは、噴射した水流に空気を取り込みやすくすることで、推進力の低下を抑制するためである。また、ここではインペラーIpの大きさは、元のスクリュープロペラの直径の約70%とし、噴射口の開口面積の総和をインペラーIpの面積の約50%としている。
【0008】
なお、上記実施形態では、既存のスクリュープロペラ推進器により推進する船を改造することを示したが、新造船において、本願に係るウォータージェット推進器用ケーシングを用いて上述のような構造の船を作ることも可能である。また、小型船においても、インペラーとしてスクリュープロペラに変えて軸流ポンプに用いられるインペラーなどに適宜変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係るウォータージェット推進器用ケーシングを含むウォータージェット推進器の構造を模式的に示す一部破断側面図である。
【図2】実施形態に係るウォータージェット推進器の背面図である。
【図3】実施形態に係る、大型船に用いられるウォータージェット推進器用ケーシングを含むウォータージェット推進器の構造を模式的に示す一部破断側面図である。
【図4】実施形態に係る、大型船に用いられるウォータージェット推進器の背面図である。
【符号の説明】
【0010】
X、X2 ウォータージェット推進器用ケーシング
A、A2 ウォータージェット推進器
S1、S2 船
Ps スクリュープロペラ
Ip 軸流ポンプ用インペラー
10 ケーシング本体
11、15 インペラー収納部
12、14 噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船に用いられるウォータージェット推進器の外殻を形成するケーシングであって、
後端部が水上に存するように前記船の船底後部から船尾板に沿って設けられる、水流が通る管体からなるケーシング本体と、
前記ケーシング本体の後端部に形成される水流を噴射する噴射ノズルと、
前記ケーシング本体内部の先端開口部側に設けられる前記ウォータージェット推進器のインペラーを収容するインペラー収容部とを有する
ウォータージェット推進器用ケーシング。
【請求項2】
前記ウォータージェット推進器用ケーシングは、既存のスクリュープロペラ推進器を有する船であるスクリュー船に取り付けられるものであって、
前記インペラーは当該スクリュー船のスクリュープロペラが用いられる
請求項1に記載のウォータージェット推進器用ケーシング。
【請求項3】
前記ウォータージェット推進器用ケーシングは、既存のスクリュープロペラ推進器を有する船であるスクリュー船に取り付けられるものであって、
前記船のスクリュープロペラを軸流ポンプに用いられるインペラーに交換し、当該インペラーを前記インペラーとする
請求項1に記載のウォータージェット推進器用ケーシング。
【請求項4】
請求項1に記載のウォータージェット推進器用ケーシングを有するウォータージェット推進器が設けられた船。
【請求項5】
前記スクリュー船に請求項2に記載されるウォータージェット推進器用ケーシングを設けた船。
【請求項6】
前記スクリュー船のスクリュープロペラを前記軸流ポンプに用いられるインペラーに交換して、請求項3に記載のウォータージェット推進器用ケーシングを設けた船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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