説明

ジグリシルテレフタル酸化合物の製造方法

【課題】ポリインジゴの合成中間体であるジグリシルテレフタル酸化合物を効率的に製造する事ができ、工業的な大量生産にも適用し得る方法を提供すること。
【解決手段】1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサジエンとメタノール−アンモニアを反応させて、1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノ−1,4−シクロヘキサンジエンを得(工程A),次に濃硫酸中、臭素と反応させ脱水素して1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノベンゼンを得る(工程B)。生成物をグリオキサル酸及び水素と反応させ(還元アミノ化)1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−(N,N’−ジメトキシカルボニルメチルメチル)ジアミノベンゼンを得(工程C)、これを加水分解して目的物の2,5−ジグリシルテレフタル酸を得る(工程D)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジグリシルテレフタル酸化合物を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極めて優れた耐熱性や耐溶剤性などを有する樹脂として、ポリインジゴが知られている。かかるポリインジゴは、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、ポリインジゴの合成経路の1つとして下記が記載されており、その実施例もある。
【0004】
【化1】

【0005】
しかし、本発明者らが上記合成経路を追試しようとしたところ、フェニレンジアミンに酢酸基を導入する最初の工程で、目的化合物を単離さえすることができなかった。実際、特許文献1には、当該反応の例が実施例8として記載されているものの、目的化合物が含まれている濾液を減圧濃縮しているのみで精製は行われておらず、当該未精製物がそのまま次工程の実施例12で用いられている。よって、特許文献1の実施例で得られたポリインジゴには、多量の不純物が含まれていると考えられる。
【0006】
その原因を明らかにすべく、上記最初の工程の反応終了後における反応液をNMRにより分析したところ、一方のアミノ基に2つの酢酸基が結合した化合物や、3つ或いは4つの酢酸基が結合した化合物が副生しており、目的化合物の生成率はせいぜい30%程度であった。この様に、当該工程の目的化合物はその生成率が低い上に、副生成物と構造が近いことから、単離が困難であると考えられる。
【0007】
また、特許文献1には、2,5−ジクロロテレフタル酸を出発原料とし、これをグリシル化した後に閉環するポリインジゴの製法も開示されている。当該方法は、閉環反応において構造異性体が生じない点で効率がよい。
【0008】
【化2】

【0009】
上記製法の最初の工程は特許文献1の実施例1に記載されており、収率は約70%である。しかし、特許文献1の実施例1では生成物を沈殿させるのみでそれ以上精製しておらず、かなりの不純物が含まれていることが想定された。
【0010】
実際、本願発明者らが当該工程を再現実験し、反応終了時における反応溶液と得られたジグリシルテレフタル酸をHPLCにより分析したところ、反応終了時の純度は約30%であり、最終物の純度は約70%と低いことが判明した。また、得られたジグリシルテレフタル酸を用いて、ベンゾジケトビスピロールのテトラアセチル化物を製造しようとしたが、閉環反応工程で生成物がタール状になってしまい、目的とする閉環化合物を単離することはできなかった。さらに、上記製法で得られたジグリシルテレフタル酸を精製しようとしたが、不純物の構造が目的化合物と近いためか、十分に精製することはできなかった。
【0011】
また、出発原料化合物である2,5−ジクロロテレフタル酸は高価であり大量には入手し難いことから、上記製法は工業的な大量合成に適するものではない。
【特許文献1】米国特許第3,414,545号明細書(第3カラムのルートA、第4カラムのルートB、実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した様に、従来、ポリインジゴを製造する方法は知られていた。しかし、その合成中間体であるジグリシルテレフタル酸を高純度で得られるものではなく、その結果、後続の反応における目的化合物の純度や収率も低いといった問題を有しており、ポリインジゴを工業的に生産する方法としては不適であった。また、出発原料化合物が高価であるという問題もあった。
【0013】
そこで、本発明が解決すべき課題は、ポリインジゴの合成中間体であるジグリシルテレフタル酸化合物を効率的に製造することができ、工業的な大量生産にも適用し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ジグリシルテレフタル酸化合物の製造条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、比較的安価なシクロヘキサンジエン化合物を出発原料とすれば、工程数は増えるものの、高純度のジグリシルテレフタル酸化合物を効率よく製造できることを見出して本発明を完成した。
【0015】
本発明に係るジグリシルテレフタル酸化合物の製造方法は、下記式(1)のジグリシルテレフタル酸化合物を製造する方法であって、
【0016】
【化3】

[式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、およびアリール上に置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群より選択される置換基を示す]
【0017】
下記工程A〜Cを含み、
【0018】
【化4】

[式中、R3〜R8は、互いに独立して、水素原子、C1−C6アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、またはアリール上に置換基を有していてもよいアラルキル基を示す]
【0019】
5、R6またはR8の少なくとも1つが水素原子でない場合、さらに下記工程Dを行うことを特徴とする。
【0020】
【化5】

[式中、R1、R2、R5、R6およびR8は、上述したものと同義を示す]
【0021】
上記製造方法において、上記アリール基およびアラルキル基の置換基としては、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、ハロゲン原子、水酸基およびベンジルからなる群より選択される1または2以上が好適である。また、出発原料として、R3およびR4が水素原子である化合物(2)を用い、且つR5、R6およびR8を全てメチル基とし、R1およびR2が水素原子であるジグリシルテレフタル酸化合物(1)を製造した実験結果が、後述する実施例として記載されている。よって、かかる場合は、本発明の効果が実証されているものとして好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明方法によれば、高い耐熱性や耐溶剤性といった優れた特性を有するポリインジゴの合成中間体であるジグリシルテレフタル酸化合物を、高純度で効率的に製造することができる。従って本発明は、ポリインジゴの工業的な大量生産を可能にするものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において、「ハロゲン」にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が含まれ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、または臭素原子である。
【0024】
「C1−C6アルキル」は、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等である。好ましくは(C1−C4)アルキルであり、より好ましくはメチル、エチル、またはt−ブチルであり、さらに好ましくはメチルである。
【0025】
「C1−C6アルコキシ」は、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基を意味する。例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシ等である。好ましくは(C1−C4)アルコキシであり、より好ましくはメトキシ、エトキシまたはt−ブトキシであり、さらに好ましくはメトキシである。
【0026】
「アリール基」とは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基をいい、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、インデニルを挙げることができる。
【0027】
「アラルキル基」とは、1個のアリール基で置換されたアルキル基であり、一般的には炭素数7〜13のものをいう。例えば、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ビフェニルメチルを挙げることができ、ベンジルが好ましい。
【0028】
上記アリール基および上記アラルキル基中のアリール基は、一般的な置換基を有していてもよい。置換基としては、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、ハロゲン原子、水酸基およびベンジルからなる群より選択される1または2以上を挙げることができる。上記置換基のうちベンジルは、さらに、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、ハロゲン原子および水酸基からなる群より選択される1または2以上で置換されていてもよい。なお、置換基の数は、置換可能であれば特に制限されないが、好適には1〜4個であり、さらに1または2個が好ましく、さらに2個が好ましい。また、置換基が複数存在する場合、それらは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
置換基を有するアリール基としては、4−メチルフェニル、4−エチルフェニル、2,4,5−トリメチルフェニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、4−ブロモフェニル、2,5−ジクロロフェニル、2,5−ジブロモフェニルを挙げることができる。
【0030】
アリール上に置換基を有するアラルキル基としては、4−メチルベンジル、4−エチルベンジル、2,4,5−トリメチルベンジル、4−フルオロベンジル、4−クロロベンジル、4−ブロモベンジル、2,5−ジクロロベンジル、2,5−ジブロモベンジルを挙げることができる。
【0031】
上記工程A〜Dにおいて、R1とR2、R3とR4、およびR5とR6は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、合成のし易さから同一であることが好ましい。
【0032】
本発明方法は、 下記工程A〜Cを含み、
【0033】
【化6】

[式中、R3〜R8は、互いに独立して、水素原子、C1−C6アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、またはアリール上に置換基を有していてもよいアラルキル基を示す]
【0034】
5、R6またはR8の少なくとも1つが水素原子でない場合、さらに下記工程Dを行うことを特徴とする。
【0035】
【化7】

[式中、R1、R2、R5、R6およびR8は、上述したものと同義を示す]
【0036】
以下、各工程につき説明する。
【0037】
・工程A
工程Aは、シクロヘキサンジエン化合物(2)の水酸基をアミノ基へ官能基変換する工程である。本工程では、脱水溶媒中で、シクロヘキサンジエン化合物(2)とアンモニアを反応させ、ジアミン化合物(3)を得る。
【0038】
シクロヘキサンジエン化合物(2)は、比較的シンプルな構造を有することから、市販のものを購入して用いることができ、或いは有機化学分野の当業者に周知の方法で市販化合物から合成してもよい。
【0039】
シクロヘキサンジエン化合物(2)としては、例えば、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3−フェニル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−フェニル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−フェニル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−フェニル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−フェニル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3−クロロ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−ブロモ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−クロロ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−クロロ−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−エチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3−tert−ブチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−tert−ブチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3−tert−ブチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−3,6−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−メトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3,6−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジエトキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3,6−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジフェノキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3,6−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジエン、1,4−ジベンジルオキシカルボニル−2,5−ジヒドロキシ−3,6−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジエン等が挙げられる。勿論、本発明範囲は、これら例示に限定されるものではない。
【0040】
工程Aは、一般的に、アンモニアの脱水溶媒溶液を事前に調製し、シクロヘキサンジエン化合物(2)を加えて、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気下で反応させればよい。アンモニアの脱水溶媒溶液の濃度は、一般的に1〜30質量%程度であり、当該溶液は当業者公知の方法により製造することができる。
【0041】
使用する溶媒の種類は特に制限されないが、例えばメタノールやエタノール等のアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;これらの混合溶媒を挙げることができる。溶媒は、事前に生石灰と共に還流加熱し蒸留するなど当業者公知の脱水処理をした上で用いられる。
【0042】
特に、シクロヘキサンジエン化合物(2)のR3およびR4が水素原子である場合、即ちカルボキシル基がエステル化されていない場合には、溶媒として脱水アルコールを用いることによって、水酸基からアミノ基の官能基変換反応と共に、アンモニアが触媒となりカルボキシル基のエステル化反応も進行せしめることができる。また、R3およびR4がC1−C6アルキル基である場合、即ちカルボキシル基がエステル化されている場合であっても、エステル基がアミド化するおそれがあるので、当該エステル基のアルコール部分に該当するアルコールを溶媒として用いることが好ましい。
【0043】
シクロヘキサジエン化合物(2)の反応溶液中の濃度は、必要に応じてさらに脱水溶媒を加え、1〜50質量%程度に調節することが好ましい。また、具体的な反応条件は特に制限されないが、反応温度は室温〜100℃程度とし、反応時間は5〜24時間程度とする。
【0044】
反応後は、一般的な方法により精製すればよい。例えば、反応溶液を−10〜10℃程度に冷却して、析出する目的化合物を濾別し乾燥するのみであっても、十分に高純度のジアミン化合物(3)が得られる。必要に応じて、さらに再結晶などの方法により精製してもよい。
【0045】
・工程B
工程Bは、ジアミン化合物(3)を脱水素反応に付して、シクロヘキサンジエン環をベンゼン環に変換することによって、ベンゼン化合物(4)を得る工程である。
【0046】
当該反応は、通常、濃硫酸を溶媒とし、ヨウ素や臭素などのハロゲンを作用させる。反応溶液におけるジアミン化合物(3)の濃度は、1〜20質量%程度にすることが好ましく、また、ハロゲンは全反応溶液において5〜20質量%程度用いることが好ましい。
【0047】
より詳しくは、氷等により冷却した濃硫酸へ、過剰に温度が上昇しない様に少量ずつジアミン化合物(3)を加え、さらに冷却しつつ、同様に過剰に温度が上昇しない様にハロゲンを滴下する。滴下後は、反応温度を室温〜80℃程度に上げ、30分〜6時間程度反応させることが好ましい。
【0048】
反応終了後は、窒素ガス等を吹き込むなどして過剰のハロゲンを除去した上で、反応溶液を氷へ投入し、析出したベンゼン化合物(4)を濾別し乾燥すればよい。さらに、残留した硫酸を除去するために、炭酸ナトリウム水溶液などに得られたベンゼン化合物(4)を加えて攪拌し、沈殿を濾別してもよい。当該工程でも、かかる簡便な精製でも、高純度のベンゼン化合物(4)が得られる。但し、必要時応じて、アルコール等を用いた再結晶により精製してもよい。
【0049】
・工程C
工程Cは、ベンゼン化合物(4)とグリオキサル酸またはグリオキサル酸エステルを用いて還元的アミノ化反応を行ない、ジグリシルエステル化合物(5)を得る工程である。
【0050】
当該反応の条件は、当業者公知のものを採用すればよい。即ち、ベンゼン化合物(4)、グリオキサル酸またはグリオキサル酸エステル、およびパラジウムカーボン等の触媒を溶媒に加え、水素雰囲気下で反応を行う。
【0051】
工程Cで使用する溶媒の種類は、還元的アミノ化反応で一般的に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ベンジルアルコール等のアルコールが好適に用いられる。なお、グリオキサル酸とアルコールを用いる場合には、グリオキサル酸のカルボキシル基は用いたアルコールによりエステル化され、R8がC1−C6アルキル基である化合物(5)が得られる。よって、R8が水素原子である化合物(5)が所望の場合には、グリオキサル酸と共に、エーテル類などアルコールでない溶媒を用いる。
【0052】
反応溶液中、ベンゼン化合物(4)の濃度は溶液全体に対して1〜30質量%程度に調整することが好ましい。グリオキサル酸またはグリオキサル酸エステルは、ベンゼン化合物(4)に対して2当量以上必要である。パラジウムカーボン等の触媒は、通常の触媒量で用いればよい。
【0053】
当該反応の条件は特に制限されず、適宜調整すればよいが、反応温度は室温〜還流条件程度であり、反応時間は1〜10時間程度とする。
【0054】
反応終了後は触媒を濾別し、濾液を濃縮した後、残渣を再結晶すればよい。目的化合物であるジグリシルエステル化合物(5)が反応溶液中で析出する場合には、析出物を濾別してクロロホルム等の溶媒に溶解した後に触媒を除去するために濾過し、得られた濾液につき上記と同様の操作を行えばよい。
【0055】
・工程D
工程Dは、ジグリシルエステル化合物(5)中、R5、R6またはR8の少なくとも1が水素原子でない場合、加水分解によって、ジグリシルテレフタル酸化合物(1)を得る工程である。
【0056】
加水分解の条件は、一般的なエステルの加水分解反応の条件を用いればよい。例えば酸性または塩基性の水溶液へジグリシルエステル化合物(5)を加え、室温〜加熱還流条件で1〜10時間程度攪拌すればよい。ここで用いる酸としては塩酸や硫酸等、塩基としてはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。また、反応溶液におけるジグリシルエステル化合物(5)の濃度は、5〜20質量%程度とすることができる。
【0057】
反応終了後は、一般的な方法により精製することができる。例えば、目的化合物であるジグリシルテレフタル酸化合物(1)はテトラカルボン酸化合物であるため、反応終了後の溶液へ濃塩酸等を滴下して酸性とし、析出した目的化合物を濾別し乾燥すればよい。さらなる精製のために、再結晶を行ってもよい。
【0058】
本発明方法により得られたジグリシルテレフタル酸化合物(1)は、ポリインジゴの合成中間体として利用できる。具体的には、下記式の通り、グリシル基の2級アミノ基を保護して閉環した後に重合させる。
【0059】
【化8】

【0060】
[式中、Acはアセチル基を示し、R1とR2は前述したものと同義を示す。また、nは正の整数を示し、具体的な数値は特に特定されないが、本願発明によれば、高純度のジピロール化合物(7)が得られることから、分子量が3000以上の高分子量のポリインジゴを良好に製造できると考えられる。]
【0061】
・工程EとF
工程EとFは、ジグリシルテレフタル酸化合物(1)の2級アミノ基をアセチル化した後に、閉環する工程である。
【0062】
工程Eでは、一般的なアセチル化の条件を用いればよい。例えば、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水中にジグリシルテレフタル酸化合物(1)を溶解した後、無水酢酸を加えればよい。反応条件は特に制限されないが、室温〜加熱還流条件で10分〜6時間程度攪拌すればよい。反応終了後は、上記工程Dと同様に、反応溶液を冷却して濃塩酸等で酸性化し、析出したアセチル体(6)を濾別すればよい。
【0063】
工程Fでは、アセチル体(6)、無水酢酸、および酢酸ナトリウムの混合物を、窒素雰囲気下、30分〜6時間程度加熱還流して閉環することにより、ジピロール化合物(7)を得る。
【0064】
反応終了後は、過剰の無水酢酸を減圧留去した後、水を加えてからクロロホルム等の無極性溶媒でジピロール化合物(7)を抽出する。抽出液を減圧濃縮して得られた残渣は、1,4−ジオキサン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒を用いた再結晶を繰り返すことによって、HPLC分析による純度が99%以上のジピロール化合物(7)が得られる。かかる高純度のジピロール化合物(7)は、次工程の重合反応の原料化合物として適しており、高純度のポリインジゴを製造することができる。
【0065】
なお、ジグリシルテレフタル酸化合物(1)を用いて、上記工程Fと同様の条件によって、2級アミノ基のアセチル化と閉環反応を同時に行うこともできる。
【0066】
・工程G
次に、ジピロール化合物(7)を重合することによって、ポリインジゴ(8)を製造することができる。当該重合反応の条件は、公知方法を用いることができる。
【0067】
例えば、窒素雰囲気下で加熱還流して脱酸素した水酸化ナトリウム溶液を冷却し、ジピロール化合物(7)を加え、次いで酸素を加えることにより重合反応を進行させる。一方、濃硫酸、リン酸、濃塩酸、濃硝酸、メタンスルホン酸などの酸性溶液中で同様に重合反応を進行させることもできる。酸性条件下で重合反応を行う方が、高品質のものが効率よく製造できる。当該反応における反応混合液中のジピロール化合物(7)の濃度としては、1〜20質量%程度とすることができる。
【0068】
ジピロール化合物(7)の添加後は、反応混合液を室温で5〜40時間程度攪拌すればよい。反応を促進するために、反応混合液を30〜100℃程度に加温してもよい。
【0069】
反応終了後は、一般的な条件で精製することができる。例えば、反応混合液を中和した後、生じた析出物を濾過等により分離し、水;メタノールやエタノール等のアルコール;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド;これらの混合溶媒などの極性溶媒により洗浄すればよい。
【0070】
上記ポリインジゴ(8)としては、以下のものを例示できる。
【0071】
【化9】

【0072】
上記例において、Phはフェニル基を示し、Tolは4−メチルフェニル基を示し、Bnはベンジル基を示す。
【0073】
各モノマー単位間は炭素−炭素二重結合により結合されており自由回転が阻害されている。よって、ポリインジゴ内には上下が逆のまま重合しているモノマーが存在し、実際には、各モノマーの上下はランダムに重合されていると考えられる。
【0074】
このようにして製造されたポリインジゴは、様々な成形体に加工され得る。例えば、以下の方法により繊維に加工することができる。
【0075】
先ず、ポリインジゴの溶液を調整する。ポリインジゴは汎用溶媒にはほとんど不溶であるが、塩基性条件下でハイドロサルファイトを用いて還元することによって、その水溶液を得ることができる。また、メタノールやエタノール等のアルコール中で水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素カリウムを用いて還元することにより、溶液を得ることができる。これら水溶液を濾過して不溶物を濾別した後、溶液を濃縮して曳糸性のある溶液とする。
【0076】
上記で得られたポリインジゴ溶液を紡糸口金から押し出す。紡糸口金を出たドープは、紡糸口金と洗浄バス間の空間で引き伸ばされてフィラメントとなる。この空間は一般にエアギャップと呼ばれており、空気または酸素で満たされていることが必要である。このエアギャップを通過する際に、溶液中のポリインジゴは酸化され、ロイコ体からケトン体に変化し、溶媒に対する溶解度が減じて系から析出して繊維状に成形される。成形されたフィラメントは、水やアルコール等の溶剤により洗浄され還元剤や酸化剤等が除去される。その後、フィラメントに対して、乾燥や加熱などの処理を必要に応じて行なってもよい。
【0077】
その他、上記ポリインジゴ溶液をダイから押し出してキャスト製膜したり、スピンコートすることによりシートやフィルムに加工することもできる。より具体的には、基板上に塗布した溶液に空気を接触させて酸化を行うと同時に、溶媒を蒸発させる。基板上からポリインジゴフィルムを剥がし、水洗して還元剤を除去した後収縮しないように、フィルムを枠に固定して乾燥する。乾燥は、風乾または50〜300℃の加熱乾燥、または減圧下100℃以下で行うことができる。その後、ポリインジゴフィルムに対して、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。
【0078】
こうして得られたポリインジゴ成形体は、優れた耐熱性や強度、弾性率、耐溶剤性といったポリインジゴ本来の特性をそのまま享有するため、極めて有用である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0080】
なお、以下で用いたHPLCの測定条件は、以下の通りである。
カラム: GLサイエンス社製、GC−Pack
溶離液: 水/アセトニトリル=20/80(0.02Mリン酸)
検出波長: 230nm
【0081】
実施例1−1 1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノ−1,4−シクロヘキサンジエンの合成
メタノール(2000mL)に酸化カルシウム(500g)を添加して24時間還流することにより乾燥した後、メタノールを蒸留した。蒸留したメタノールへ、粒状水酸化カリウムを通じたアンモニアガスを吹き込み、16wt%アンモニア−メタノールを調製した。このアンモニア−メタノール(210g)、1,4−ジカルボキシ−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサジエン(150.5g)および脱水メタノール(1200ml)をオートクレーブに仕込んだ。反応系内を窒素で置換した後、徐々に昇温し、85℃で12時間撹拌した。次いで5℃まで冷却し、析出物を濾取した。得られた析出物を真空下20℃で5時間乾燥することによって、目的化合物を得た(収量:126.8g、収率:84.8%)。HPLCにより測定した純度は98.9%であった。
1H-NMR(CDCl3)δ3.13ppm(singlet,4H,CH2),3.71ppm(singlet,6H,CH3),6.20ppm(broad,4H,NH2
【0082】
実施例1−2 1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノベンゼンの合成
氷浴により10℃以下に冷却した濃硫酸(1750g)中に、実施例1−1で得た1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノ−1,4−シクロヘキサンジエン(126.8g)を、15℃を超えないように加えて溶解させた。臭素(250g)を25℃以下で滴下した。氷浴を外し、当該反応混合液を45〜50℃で1.5時間撹拌した。室温まで放冷後、窒素を吹き込み、過剰の臭素を反応混合液から除いた。この反応混合液を氷(1200g)中へゆっくり注ぎ入れ、生じた析出物を濾取した。濾取した析出物を3wt%炭酸ナトリウム水溶液(3000ml)に入れて撹拌し、再び濾過した。得られた沈殿物を水(300ml)で洗浄し、20℃で減圧乾燥することによって、目的化合物を得た(収量:103.2g、収率:81.3%)。HPLCにより測定した純度は99.0%であった。
1H-NMR(DMSO-d6)δ3.80ppm(singlet,6H,CH3), 5.76ppm(singlet,4H,NH2), 7.26ppm(broad,2H,CH(benzene ring))
【0083】
実施例1−3 1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−(N,N’−ジメトキシカルボニルメチル)ジアミノベンゼンの合成
実施例1−2で得た1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−ジアミノベンゼン(50g)、10wt%Pd/C(2g)、40wt%グリオキサル酸水溶液(125g)、およびメタノール(1400ml)を、内容量2000mlのオートクレーブ中に仕込んだ。反応系内を水素ガス窒素で置換した後、激しく撹拌しながら徐々に昇温して、85℃で4時間反応させた。反応混合液を室温まで冷却後、析出物を濾別した。得られた析出物をクロロホルム(1200ml)中に入れ、還流下30分間撹拌後、熱時濾過してPd/Cを除去した。クロロホルムを減圧留去し、反応混合液を約300mlまで濃縮した。反応混合液を5℃まで冷却した後、析出した赤色結晶である目的化合物を濾別した(収量:50.0g、収率:60.0%)。HPLCにより測定した純度は98.7%であった。
1H-NMR(DMSO-d6)δ3.58ppm(singlet,6H,CH3(amino group)),3.84ppm(singlet,6H,CH3(carboxly group)),4.05ppm(doublet,4H,CH2(amino group)),7.09ppm(singlet,2H,CH(benzene ring)),7.18ppm(triplet,2H,NH)
【0084】
実施例1−4 2,5−ジグリシルテレフタル酸の合成
実施例1−3で得た1,4−ジ(メトキシカルボニル)−2,5−(N,N’−ジメトキシカルボニルメチル)ジアミノベンゼン(120g)と水酸化ナトリウム(75g)とを水(1000ml)に加え、4時間加熱還流した。反応混合液を室温まで放冷後、濃塩酸を滴下してpHを3に調整した。生じた析出物を濾別し、20℃で10時間減圧乾燥することによって、目的化合物を得た(収量:40.0g、収率:94.0%)。HPLCにより測定した純度は98.8%であった。
1H-NMR(NaOD in D2O)δ3.53ppm(singlet,4H,CH2),6.95ppm(singlet,2H,CH(benzene ring))
【0085】
実施例1−5 2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロールの合成
200ml容フラスコにジグリシルテレフタル酸(18.8g、0.0602mol)、酢酸ナトリウム(27.5g、0.335mol)、および無水酢酸(93ml、0.996mol)を仕込み、窒素気流下で2時間還流加熱した。反応混合液を室温まで冷却した後、無水酢酸を減圧留去した。残渣へ蒸留水(250ml)を加え、80℃で30分間撹拌した。反応混合液を静置して室温まで冷却した後、生じた沈殿物を濾別した。得られた沈殿物を水洗し、50℃で減圧乾燥することによって、粗生成物を得た(収量:14.8g、収率:73.1%)。この粗生成物をクロロホルム(2000ml)に加え、3時間加熱還流した。未溶解物を濾別し、得られた濾液を約100mlまで減圧濃縮した。得られた濃縮液を室温まで放冷した後、生じた析出物を濾別した。さらに、ジメチルホルムアミドからの再結晶を3回繰り返すことによって、目的化合物を得た(収量:7.6g)。HPLCにより測定した純度は99.5%であった。
【0086】
実施例1−6 ポリインジゴの合成
窒素気流下、水(150ml)と水酸化ナトリウム(28.0g)からなる塩基性水溶液に、窒素を室温で30分間吹き込んだ。この塩基性水溶液に、実施例1−5で得た高純度の2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(5g)を、激しく撹拌しながら加えた。当該反応混合液を室温で1時間撹拌した後、酸素ガスを吹き込んだ。70分間撹拌した後、1N塩酸を滴下することにより反応混合液を酸性にした。生成した黒色物質を濾別した。得られた黒色物質を水(30ml)で洗浄後、50℃で減圧乾燥することによって、黒色のポリインジゴ(1.9g)を得た。
【0087】
以上の通り、本発明方法によれば、非常に高純度のジグリシルテレフタル酸化合物を製造することができる。その結果、後続する閉環反応や重合反応も効率良く進行し、高品質のポリインジゴを製造することが可能になる。
【0088】
比較例1−1 ジグリシルテレフタル酸の合成
比較のために、特許文献1のルートBの方法を追試験した。
【0089】
500ml容フラスコに、水(320ml)、炭酸カリウム(20.0g、0.144mol)、および水酸化カリウム(20.3g、0.357mol)を仕込み、全て溶解するまで撹拌した。当該反応混合液の温度を40℃に保ち、窒素気流下、銅粉末(0.53g、0.008mol)、および2,5−ジクロロテレフタル酸(18.8g、0.080mol)を添加した。銅粉末以外の試薬が溶解した後、グリシン(20.0g、0.266mol)を添加した。その後、反応混合液を4時間加熱還流した。反応混合液を室温まで冷却した後、銅粉を濾別した。濾液を砕氷(750g)に注ぎ、濃塩酸を滴下してpHを1〜2に調整して生じた析出物を濾別した。得られた析出物を水(200ml)で洗浄した後、50℃で10時間減圧乾燥することによって、目的化合物を得た(収量:19.0g、収率:76.1%)。当該反応混合液中におけるHPLCにより測定した純度は39.1%であった。
【0090】
比較例1−2 2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール
200ml容フラスコに、比較例1−1で得たジグリシルテレフタル酸(18.8g、0.0060 mol)、酢酸ナトリウム(27.5g、0.335mol)、無水酢酸(93ml、0.996mol)を仕込み、窒素気流下、当該反応混合液を2時間加熱還流した。当該反応混合液を室温まで冷却した後、無水酢酸を減圧留去した。その後、蒸留水(250ml)を加えて80℃で30分間撹拌した。当該反応混合液を室温まで冷却した後、生じた沈殿物を濾別し水洗した。得られた沈殿物を50℃で減圧乾燥することによって、目的化合物を得た(7.3g)。HPLCにより測定した純度は28.5%であった。
【0091】
比較例1−3 ポリインジゴの合成
窒素気流下、水(150ml)と水酸化ナトリウム(24.0g)からなる塩基性水溶液に、窒素を室温で30分間吹き込んだ。この塩基性水溶液に、比較例1−3で得た2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(5g)を、激しく撹拌しながら加えた。当該反応混合液を室温で1時間撹拌した後、酸素ガスを吹き込んだ。70分間撹拌した後、1N塩酸を滴下することにより反応混合液を酸性にした。生成した黒色物質を濾別した。得られた黒色物質を水(30ml)で洗浄後、減圧乾燥することによって、茶色の粉末(1.2g)を得た。得られた粉末の赤外吸収スペクトルを測定したが、全く吸収は観測されず、目的物であるポリインジゴは製造できなかった。
【0092】
上記実施例の通り、従来方法によれば、ポリインジゴを製造することができなかった。このことは、合成中間体であるジグリシルテレフタル酸の純度が低く、以降の閉環反応と重合反応が良好に進行しなかったことによると考えられる。
【0093】
一方、本発明方法によれば、ジグリシルテレフタル酸を高純度で効率的に得ることができる。実際、上記実施例1−1〜1−6の通り、従来方法に比して工程数は多いものの、各合成中間体の純度は非常に高く、且つ各工程の収率は比較的高い。その結果、ポリインジゴを従来方法に比して良好に製造することができた。
【0094】
以上の通り、本発明がポリインジゴの製造に有用であることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)のジグリシルテレフタル酸化合物を製造する方法であって、
【化1】

[式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、およびアリール上に置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群より選択される置換基を示す]
下記工程A〜Cを含み、
【化2】

[式中、R3〜R8は、互いに独立して、水素原子、C1−C6アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、またはアリール上に置換基を有していてもよいアラルキル基を示す]
5、R6またはR8の少なくとも1つが水素原子でない場合、さらに下記工程Dを行うことを特徴とするジグリシルテレフタル酸化合物の製造方法。
【化3】

[式中、R1、R2、R5、R6およびR8は、上述したものと同義を示す]
【請求項2】
上記アリール基およびアラルキル基の置換基が、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、ハロゲン原子、水酸基およびベンジルからなる群より選択される1または2以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
1およびR2が水素原子であるジグリシルテレフタル酸化合物(1)を製造するためのものである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
出発原料として、R3およびR4が水素原子である化合物(2)を用いる請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
5、R6およびR8を全てメチル基とする請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−127321(P2008−127321A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313084(P2006−313084)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】