説明

ジスアゾ顔料組成物の製造方法および印刷インキ組成物

【課題】オフセットインキ等の印刷インキに使用すると、色相緑味でありながら優れた透明性、着色力、流動性を与えるジスアゾ顔料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるカップラー成分、バルビツール酸類を必須カップラー成分として構成されるカップラー溶液Aとテトラゾ溶液とでカップリング反応させた後、一般式(1)で示されるカップラー成分、一般式(2)で示されるカップラー成分を必須カップラー成分とするカップラー溶液Bとテトラゾ溶液とで反応させる事を特徴とするジスアゾ顔料組成物の製造方法。一般式(1)CH3COCH2CONH−X(式中、Xは置換基を表す。)一般式(2)CH3COCH2CONH−Z(式中、Zは置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスアゾ顔料組成物の製造方法ならびにジスアゾ顔料組成物を含有してなる印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なプロセス出版のオフセットインキは、顔料の水性ウエットケーキをインキ用ビヒクルないしは溶剤とフラッシングによって相転換を行ってインキ化する方法と、水性ウエットケーキの乾燥物を強力な剪断力によってインキ用ビヒクルに分散することによって得られている。しかし、前者の方法は顔料の水性ウエットケーキ自身の安定性に欠ける性質や、フラッシング性が悪いことによって長時間受ける熱によって不透明化、着色力低下等の品質に対する影響が大きく安定した品質が得られにくかった。
【0003】
そこでこれら品質に対する影響の少ない後者の方法が永続的に継承されているが、水性ウエットケーキ顔料の乾燥物をインキ化したものは乾燥しなかったものからインキ化したものに比較して透明性、流動性、着色力の点で著しく劣っている。ジスアゾ顔料の場合、これら乾燥物からのインキ化物と非乾燥物からのインキ化物の品質の差は、もっぱら乾燥時の熱により著しく結晶が成長してしまうことによって引き起こされている。
【0004】
この結晶成長による品質の低下を解決する手段として二成分の同時カップリングによる解決手段が知られている。たとえば特許文献1ではアセトアセトアニリドとそのフェニル基に極性基を持つものとの混合カップリングする方法が紹介されており、また、特許文献2ではアセトアセトアニリド、アセトアセトオルソアニシジド、アセトアセトオルソトルイジド、アセトアセトオルソクロロアニリド、アセトアセト−2,4−キシリジド、及びアセトアセト−2,5−ジメトキシ−4−クロロアニリドから選ばれる2種類またはそれ以上の混合物をカップリングさせる方法が紹介されているが、いずれの方法も生成したジスアゾ顔料の乾燥物のインキ化物の品質は透明性、流動性、着色力の点でウエットケーキからのインキ化物に対して著しく劣っていた。
【0005】
一方、ウエットケーキからのインキ化物の品質向上に対しても永続的に検討がなされており、透明性・流動性を改良する方法として乾燥物からのインキ化同様に、例えば、特許文献3では、ジスアゾ顔料にそれらのスルホン酸化合物を混合する方法が、特許文献4では、カップリング成分としてカルボキシ基および/またはスルホン酸基を有する極性カップリング成分と非極性カップリング成分との混合物を使用して成るジスアゾ顔料を用いる方法が、特許文献5及び特許文献6では、極性カップリング成分と非極性カップリング成分から成る非対称型ジスアゾ化合物を含有するジスアゾ顔料組成物を用いる方法が開示されている。なかでも、特許文献4で開示された製造方法より得られたジスアゾ顔料が印刷インキの透明性を改良する効果が大きいこと、特許文献6で開示されたジスアゾ顔料組成物が印刷インキの流動性を改良する効果が大きいことが開示されており、特許文献7ではアセト酢酸−m−キシリダイド2〜40モル%、アセト酢酸o−トルイダイド97.9〜60モル%、2−アセトアセトアミノ安息香酸0.1〜10モル%をカップラー成分としてジスアゾ化合物混合物を製造する例が開示されているが、これら使用された極性カップラー成分は水に対して溶解性を示すため、フラッシングが極端に遅くなり結果として長時間の熱履歴によって結晶が成長してしまったり、色相が変化、不透明化したりする事が知られていた。
【0006】
また、透明性を改良する方法として、特許文献8には非極性カップリング成分とベンジジン類のテトラゾ成分とのカップリング方法に関して開示されており、極性基を有するカップラー成分を使用することなく透明性を改良する効果が大きいことが報告されているが、先に示した極性カップラー類を一切含んでいないためインキとしての性能は不十分であった。
【0007】
また、特許文献9には、特許文献8で示された製造方法を行う際に特許文献5及び特許文献6等で示された極性カップラー成分を併用する方法が開示しているが、顔料と印刷インキ用ビヒクルとのフラッシング直後の透明性は大幅に改良されているものの、着色力が低下する問題は解消していない。
【0008】
透明性や着色力の低下について改良する方法としては、特許文献10に、バルビツール酸類を用いる方法が記載されている。しかし透明性、着色力の低下は防止されるものの、バルビツール酸類の効果により粒子が微細になりすぎるため静置流動性が劣る問題、色相が非常に赤味によってしまう問題が残っていた。
【0009】
着色力と流動性を同時に改良する方法については、特許文献11に、ジスアゾ顔料の組成物が開示されている。外層部に特定構造のジスアゾ化合物が局在的に配置されているため高い着色力が得られるものの、逆に透明性については内層側にジスアゾ顔料のみを含有するためカップリング反応中に粒子成長が顕著に発生し、透明性については他の開示されている方法に比べ極めて劣る問題が残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭55−10630号公報
【特許文献2】特開平1−110578号公報
【特許文献3】特公昭45−11026号公報
【特許文献4】特公昭55−49087号公報
【特許文献5】特開昭63−72762号公報
【特許文献6】特開昭63−178169号公報
【特許文献7】特開平3−59606号公報
【特許文献8】国際公開第97/31067号パンフレット
【特許文献9】特開2000−7931号公報
【特許文献10】特開2009−215332号公報
【特許文献11】特開2007−284641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、オフセットインキ、グラビアインキ等の印刷インキに使用すると、優れた透明性、着色力、流動性を与えるジスアゾ顔料組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、酸性水溶液中にベンジジン類のテトラゾ成分を含むテトラゾ溶液と、数種のカップラー成分を含むカップラー成分とのモル比が1:2〜2.5の比率になるように連続して注入して反応させるジスアゾ顔料組成物の製造方法において、一般式(1)で示されるカップラー成分、バルビツール酸類を必須カップラー成分として構成されるカップラー溶液Aとテトラゾ成分とをカップリング反応させた後、一般式(1)で示されるカップラー成分、一般式(2)で示されるカップラー成分を必須カップラー成分とするカップラー溶液Bとテトラゾ成分とを反応させる事を特徴とするジスアゾ顔料組成物の製造方法に関する。
一般式(1)

CH3COCH2CONH−X

(式中、Xは炭素数1〜4のアルキル基、−OR基、塩素原子から成る群から選ばれる同一または異なる置換基を有するフェニル基を示す。Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
一般式(2)

CH3COCH2CONH−Z

(式中、Zはメチル基、メトキシ基、塩素原子、カルボキシ基もしくはそのアルカリ金属塩、−CONR2(R3)基から成る群から選ばれる同一または異なる置換基を有するフェニル基であって、該フェニル基はアセトアセチルアミノ基に対してオルソ位もしくはパラ位のいずれかにカルボキシ基もしくはそのアルカリ金属塩、−CONR2(R3)基の少なくとも1種で置換されているフェニル基を有する。ただし、R2、R3は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(該アルキル基は互いに結合して環を形成しても良い。)を表す。)
【0013】
さらに、本発明はカップラー溶液Aとカップラー溶液Bにそれぞれ含まれるカップラー成分のモル比が1:0.25〜3.0となることを特徴とする上記ジスアゾ顔料組成物の製造方法に関する。
【0014】
さらに、本発明は上記製造方法にて製造されるジスアゾ顔料組成物に関する。
【0015】
さらに、本発明はX線回折図(CuKα線)において、ブラッグ角度2θの10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅が1.3〜1.6度である上記ジスアゾ顔料組成物に関する。
【0016】
さらに、本発明は20回繰り返し製造時において、X線回折図(CuKα線)ブラッグ角度2θの10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の変動係数が、6%以下であることを特徴とする上記ジスアゾ顔料組成物に関する。
【0017】
さらに、本発明は上記ジスアゾ顔料組成物と印刷インキ用ビヒクルとからなる印刷インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ジスアゾ顔料組成物の製造方法において、カップラー成分として、カップラー溶液A、カップラー溶液Bを用意し、カップラー溶液Aには一般式(1)、バルビツール酸類を必須構成成分として、カップラー溶液Bには一般式(1)、一般式(2)を必須構成成分として、テトラゾ溶液とカップラー溶液して並行して注入するカップリングを行う方法にてジスアゾ顔料組成物を製造することで、色相緑味でありながら着色力が高く、流動性、透明性に優れるジスアゾ顔料組成物が得られる。また本発明によれば、特に印刷インキで重要な透明性に関係する、ジスアゾ顔料組成物のX線回折図における半価幅は20回繰り返し製造時において、きわめて安定しており、繰り返し製造時において高い製造安定性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に用いる酸性水溶液は、カップリング反応系を、好ましくはpH3.5〜6.3に保つことができれば良く、従来法のカップリングで使われる公知の酸の水溶液でよい。上記pH領域の保持は、テトラゾの分解や縮合などの副反応を最小化するために必要であり、反応開始から終了時まで上記pHの範囲に維持することが好ましい。このためには、反応途中において酸あるいはアルカリを断続的にあるいは連続的に添加することによっても良いが、操作の容易さの面からはpH緩衝性のある水溶液系、例えば、従来のカップリング反応で良く使われる酢酸−酢酸ナトリウム系やギ酸−ギ酸ナトリウム系等の緩衝性水溶液を用いると、pHの変動が少なく、pHの維持が容易となり好ましいものとなる。
【0020】
本発明で使用するテトラゾ成分は、3,3’−ジクロロベンジジンや2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジンや3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジスルホベンジジン等のベンジジン類を公知の方法でテトラゾ化して得られるものでよく、酸性水溶液として調製する。
【0021】
本発明で使用されるカップラー溶液としては、カップラー溶液Aとカップラー溶液Bを準備する必要がある。それぞれのカップラー溶液は、カップラー成分がアルカリによって溶解している事が好ましく、数種類のカップラー成分を同時に溶解することが出来る。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基が用いられる。
【0022】
カップラー溶液Aには一般式(1)で表されるカップラー成分、バルビツール酸類を必須成分とし、他にカップラーを含んでも良い。バルビツール酸類のモル比率が高すぎると顔料粒子が微細になりすぎて流動性が阻害される事になり、モル比率が低すぎると好ましい透明性が得られない。そのためカップラー溶液Aにおけるカップラー成分の比率としては、一般式(1)で表されるカップラー成分と、バルビツール酸類のモル比率は100:0.3〜3.0である事が好ましく、さらには100:0.5〜2.0である事がさらに好ましい。他にカップラーを含む場合には、一般式(1)で表されるカップラー成分、バルビツール酸類、他に含まれるカップラーとのモル比率は100:0.5〜2.0:0.1〜1.2である事が好ましく、モル比率に関してバルビツール酸類のモル数が他に含まれるカップラーのモル数より高い事が好ましい。
【0023】
本発明において一般式(1)で表されるカップラー成分としては、アセトアセトアニリド、アセトアセト−o−トルイジド、アセトアセト−p−トルイジド、アセトアセト−o−キシリダイド、アセトアセト−m−キシリダイド、アセトアセト−p−キシリダイド、アセトアセト−o−キシリダイド、アセトアセト−o−メトキシアニリド、アセトアセト−m−メトキシアニリド、アセトアセト−p−メトキシアニリド、アセトアセト−2,3−ジメトキシアニライド、アセトアセト−2,4−ジメトキシアニリド、アセトアセト−2,5−ジメトキシアニリド、アセトアセト−2,6−ジメトキシアニリド、アセトアセト−2,3−ジメトキシ−4−クロロアニリド、アセトアセト−2,3−ジメトキシ−5−クロロアニリド、アセトアセト−2,3−ジメトキシ−6−クロロアニリド、アセトアセト−2,4−ジメトキシ−3−クロロアニリド、アセトアセト−2,4−ジメトキシ−5−クロロアニリド、アセトアセト−2,4−ジメトキシ−6−クロロアニリド、アセトアセト−2,5−ジメトキシ−3−クロロアニリド、アセトアセト−2,5−ジメトキシ−4−クロロアニリド、アセトアセト−2,5−ジメトキシ−6−クロロアニリド、アセトアセト−2,6−ジメトキシ−3−クロロアニリド、アセトアセト−2,6−ジメトキシ−4−クロロアニリド、アセトアセト−2,6−ジメトキシ−5−クロロアニリド、アセトアセト−o−クロロアニリド、アセトアセト−m−クロロアニリド、アセトアセト−p−クロロアニリドなどがあるが、これに限定されるものではない。一般式(1)で表されるものであれば異なる2種類以上の成分を併用してもよい。
【0024】
この中でも、アセトアセトアニリド、アセトアセト−m−キシリダイド、アセトアセト−o−トルイジドが本発明においてより効果が発現するため好ましい。
【0025】
本発明において、バルビツール酸類とは、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、2−チオバルビツール酸、1,3−ジエチル−2−チオ−バルビツール酸、2−イミノ−バルビツール酸、2,4−ジイミノ−バルビツール酸等が挙げられる。好ましくは、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸が挙げられる。透明性に与える効果の点で、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸が好ましく、着色力や流動性の改良効果も加味すると、バルビツール酸が最も好ましい。
【0026】
カップラー溶液Aに一般式(1)、バルビツール酸類の他に含んでもよいカップラーとしては、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸、2−ヒドロキシ−5−アセトアセチルアミノ安息香酸、3−アセトアセチルアミノ−6−メトキシ安息香酸、3−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸、3−アセトアセチル−5−メチルベンゼンスルホン酸、3−アセトアセチル−5−ヒドロキシ−ベンゼンスルホン酸、4−アセチルアミノ−アセトアセチルアニライド、4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−3−クロロ−4−メチルベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノ−3−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−5−メトキシ−4−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−3,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノテレフタル酸、2−アセトアセチルアミノフェノール、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン等及びこれらのアルカリ金属塩が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0027】
カップラー溶液Bには、一般式(1)で表されるカップラー成分、一般式(2)で表されるカップラー成分を必須成分とし、他にカップラーを含んでも良い。一般式(2)で表されるカップラー成分は色相緑味を与えるものであり、必要な要求特性に応じて構造を選択することができる。そのためモル比率が低すぎると着色力改良効果、流動性改良効果、色相緑味が得られず、モル比率が高すぎると色相は大きく緑味になるものの生成するジスアゾ化合物がジスアゾ顔料表面に吸着せず、排水負荷が増大する事になる。カップラー溶液Bにおけるカップラー成分の比率としては、一般式(1)で表されるカップラー成分と一般式(2)で表されるカップラー成分のモル比率は100:0.5〜25.0である事が好ましく、さらには100:2.0〜20.0である事がさらに好ましい。他にカップラーを含む場合には、一般式(1)で表されるカップラー成分、一般式(2)で表されるカップラー成分、他に含まれるカップラーとのモル比率は100:2.0〜20.0:0.5〜7.0である事が好ましい。
【0028】
本発明において、一般式(2)で表されるカップラー成分としては、2−アセトアセチルアミノ安息香酸、4-アセトアセチルアミノ安息香酸、3−ヒドロキシ−4−アセトアセチルアミノ安息香酸、3−ヒドロキシ−4−アセトアセチルアミノ安息香酸、3−メチル−4−アセトアセチル安息香酸、3−メチル−2−アセトアセチル安息香酸、3−クロロ−4−アセトアセチル安息香酸、またはこれらの金属塩、4−アセトアセチルアミノベンズアミド、2−アセトアセチルアミノベンズアミド、N,N’−ジメチル−4−アセトアセチルアミノベンズアミド、N,N’−ジエチル−4−アセトアセチルアミノベンズアミド、N,N’−ジメチルアミノプロピル−4−アセトアセチルベンズアミド、N,N’−ジブチルアミノプロピル−4−アセトアセチルベンズアミドなどがあるが、これに限定されるものではなく、一般式(2)で表されるものであれば異なる2種類以上の成分を併用しても良い。
【0029】
この中でも2−アセトアセチルアミノ安息香酸、4-アセトアセチルアミノ安息香酸、N,N’−ジメチル−4−アセトアセチルアミノベンズアミド、4−アセトアセチルアミノベンズアミドが好ましい。一般式(2)で表されるものであれば異なる2種類以上の成分を併用しても良い。
【0030】
カップラー溶液Bに一般式(1)、一般式(2)で表されるカップラー成分の他に含まれるカップラーとしては、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸、2−ヒドロキシ−5−アセトアセチルアミノ安息香酸、4−アセチルアミノ−アセトアセチルアニライド、4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−3−クロロ−4−メチルベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノ−3−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−5−メトキシ−4−メチルベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ−3,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノテレフタル酸、3−アセトアセチルアミノ−6−メトキシ安息香酸、2−アセトアセチルアミノフェノール、2−メチル−5−アセトアセチルアミノベンズアミド、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン等及びこれらのアルカリ金属塩が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0031】
本発明において、カップラー溶液Aとカップラー溶液Bにそれぞれ含まれるカップラー成分のモル比が1:0.25〜3.0となることが必要となる。モル比が1:0.25未満であると、着色力低下、鮮明性の不足を引き起こし、逆に1:3.0より大きいと流動性の低下を引き起こす。
【0032】
本発明において、カップラー溶液Aに含まれるバルビツール酸類のモル比率に対して、カップラー溶液Bに含まれるカップラー成分中の一般式(2)で表されるカップラー成分比率の方が高いことが好ましい。これは、最良の着色力、流動性、透明性の改良効果を得るためには、粒子の微細化度に比して一般式(2)で表されるカップラー成分由来のジスアゾ化合物が必要であるためである。またバルビツール酸類により得られる赤味色相を打ち消す上でも、一般式(2)で表されるカップラー成分由来のジスアゾ化合物が多く必要であるためである。
【0033】
またカップラー溶液Aに含まれるバルビツール酸類のモル比率に対して、カップラー溶液Bに含まれるカップラー成分中の一般式(2)で表されるカップラー成分比率の方が高いことは、顔料製造工程における反応温度など合成諸条件に対する感度が低くなり、繰り返し製造時において、品質が非常に安定することに寄与する。粒子径の指標であるX線回折図における半価幅の平均と標準偏差から求められる変動係数は6%以下となり、従来技術では得ることの出来ない製造安定性が得られる。
【0034】
本発明の製造方法においてジスアゾ顔料組成物は、酸性水溶液中にカップラー成分とテトラゾ成分とを並行して注入し、酸性水溶液中でカップラー成分とテトラゾ成分とをカップリングさせることにより製造される。
【0035】
本発明の製造方法においては、カップラー成分が実質的に析出することがないように、ベンジジン類のテトラゾ溶液とカップラー溶液を同時に並行して注入することが好ましい。(以下並行注入と呼ぶ)。好ましくはすべての時間において並行して注入する事が望ましいが、必要に応じていずれか一方のみが注入される時間があっても良い。カップラー溶液とテトラゾ溶液が直接接触すると、カップラーの析出が起こり固体となるため、カップリング反応が急激に遅延する。そのため本発明の効果は小さくなる場合がある。
【0036】
これを避けるため、酸性水溶液が満たされた撹拌槽へテトラゾ溶液とカップラー溶液の注入管の出口を互いに離して注入を行いつつ十分に撹拌を行う事で、確実にテトラゾニウム塩とカップラーとが酸性溶液中で反応するようにする事が好ましい。
【0037】
本発明においては、カップラー溶液Aとテトラゾ溶液の並行注入をまず行い、カップリング反応によりジスアゾ顔料粒子を形成させる。透明性はカップラー溶液Aの組成によって決定されるため、特にバルビツール酸類がカップラー溶液A中に均一に溶解していることが必要である。カップラー溶液Aとテトラゾ溶液のカップリング反応が終了した後に、引き続きカップラー溶液Bとテトラゾ溶液との並行注入を行い、カップリング反応を行う。未反応で残っているカップラー析出による反応率低下を防止するためにも前者のカップリング反応終了から後者のカップリング反応が始まるまでの時間は短い方がよく、設備の切り替えにかかる時間など必要最低限の時間以外には、実質的に連続である事が好ましい。
【0038】
カップラー溶液Aとテトラゾ溶液の並行注入、カップラー溶液Bとテトラゾ溶液の並行注入におけるテトラゾ成分とカップラー成分の総量のモル比率は1:2〜1:2.5である必要がある。比率が1:2以下ではテトラゾ成分過剰になり色相が汚れ、1:2.5より大きい場合、未反応カップラーが顔料粒子に取り込まれ品質低下を引き起こす。
【0039】
供給するモル速度は一定である必要はなく、カップラー成分とテトラゾ成分のモル比率は上記比率の範囲内で変化させても良い。またカップラー溶液の注入を先行させても良い。さらに界面活性剤やロジンなどを同時に注入し顔料粒子の表面処理を同時に行う事も出来る。
【0040】
本発明においてジスアゾ顔料の顔料特性を向上させるために、ジスアゾ顔料の水スラリーに対して硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムおよび塩化カルシウムからなる群から選ばれる水溶性無機塩を添加すること、あるいはロジン類あるいは印刷インキ用ビヒクルまたはその金属塩によって顔料の表面処理を施してもよい。表面処理用のロジンの種類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、水添ロジン、マレイン化ロジン等の顔料のロジン処理に一般的に使用されるロジンの水酸化ナトリウム溶液もしくは水酸化カリウム溶液などがある。表面処理用の印刷インキ用ビヒクルとしては、酸価が高くアルカリ水溶液となるロジン変性フェノール樹脂が好ましく、これにアルキッド樹脂、石油樹脂等を併用しても良い。ロジンまたは印刷インキ用ビヒクルの添加量は、固形分換算でカップリングして生成されるジスアゾ顔料に対して、2〜150重量%、好ましくは3〜80重量%である。
【0041】
本発明の製造法によって得られたジスアゾ顔料組成物は、X線回折図(CuKα線)において、ブラッグ角度2θの10.3〜12.0度にある最大ピークの半価幅が1.3〜1.6度であることを特徴とする。X線回折図における半価幅はインキにした場合の透明性に良く相関しており、1.3度を下回る顔料である場合は透明性が不足し、1.6度を超える場合は、分散不良を起こすことからやはり透明性が不足することになる。
【0042】
本発明の製造法によって得られたジスアゾ顔料組成物は繰り返し製造時において、品質が非常に安定することを特徴とする。粒子径の指標であるX線回折図における半価幅の平均と標準偏差から求められる変動係数は6%以下となり、従来技術では得ることの出来ない製造安定性である。
【0043】
本発明の製造法によって得られたジスアゾ顔料組成物は、印刷インキ用ビヒクルと混練されて、透明性と流動性に優れた印刷インキに使用することができる。オフセットインキ用ビヒクルとしては、例えば、ロジン変成フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂またはこれら乾性油変成樹脂等の樹脂と、必要に応じて、アマニ油、桐油、大豆油等の植物油と、n−パラフィン、イソパラフィン、アロマテック、ナフテン、α−オレフィン等の溶剤から成るものであって、それらの混合割合は、重量比で樹脂:植物油:溶剤=20〜50部:0〜30部:10〜60部の範囲が好ましい。本発明のジスアゾ顔料を配合したオフセットインキ用ビヒクルは、必要に応じて、インキ溶剤、ドライヤー、レベリング改良剤、増粘剤等の公知の添加剤を適宜配合して印刷インキとすることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例中「部」及び「%」は、特に断りのない限りいずれも「重量部」、「重量%」を示す。
【0045】
<実施例1>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別の容器にカップラーA液として水592gに対しアセトアセトアニライド73.49g、バルビツール酸0.81g、水酸化ナトリウム24gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水1333gに対し、アセトアセトアニライド137.28g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸7.99g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド7.95g、水酸化ナトリウム48gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0046】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0047】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが40分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに80分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0048】
上記反応液をpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0049】
<比較例1>
実施例1のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例1と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0050】
<実施例2>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別の容器にカップラーA液として水1600gに対しアセトアセトアニライド176.92g、バルビツール酸1.55g、水酸化ナトリウム57.6gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水400gに対し、アセトアセトアニライド41.19g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸2.24g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド2.23g、水酸化ナトリウム14.4gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0051】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0052】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが96分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに24分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0053】
上記反応液をpH10.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを6.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し10分間撹拌を行って、顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0054】
<実施例3>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別の容器にカップラーA液として水800gに対しアセトアセトアニライド87.74g、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸0.6g、バルビツール酸0.97g、水酸化ナトリウム28.8gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水1200gに対し、アセトアセトアニライド123.56g、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸5.39g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸5.03g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド3.34g、水酸化ナトリウム43.2gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0055】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0056】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが40分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに80分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0057】
上記反応液をpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0058】
<比較例2>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別の容器にカップラーA液として水800gに対しアセトアセトアニライド89.53g、水酸化ナトリウム28.8gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水1200gに対し、アセトアセトアニライド121.77g、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸5.99g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸5.03g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド3.34g、バルビツール酸0.97g、水酸化ナトリウム43.2gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0059】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0060】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが48分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに72分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0061】
上記反応液をpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0062】
<比較例3>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別ウエットケーキラーA液として水800gに対しアセトアセトアニライド89.53g、水酸化ナトリウム28.8gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水1200gに対し、アセトアセトアニライド123.56g、4−ヒドロキシ−3−アセトアセチルアミノ安息香酸5.39g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸5.03g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド3.34g、水酸化ナトリウム43.2gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0063】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0064】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが48分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに72分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0065】
上記反応液をpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0066】
<実施例4〜9>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。表1、表2にしたがってカップラー溶液A、カップラー溶液Bを用意し、表の滴下時間に従ってカップリング反応を行い、反応液を得た。
【0067】
得られた反応液それぞれに対しをpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーをそれぞれ得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキをそれぞれ得た。
【0068】
<実施例10>
3,3’−ジクロロベンジジン塩酸塩を4倍モルの塩酸と、2倍モルの亜硝酸ナトリウムを用いてテトラゾ化し、0.300mol/Lのテトラゾ溶液を得た。別の容器にカップラーA液として水667gに対しアセトアセトメタキシリダイド85.56g、バルビツール酸0.54g、水酸化ナトリウム24.0gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。別の容器にカップラーB液として、水1333gに対し、アセトアセトメタキシリダイド164.20g、2−アセトアセチルアミノ安息香酸5.59g、4−アセトアセチルアミノベンズアミド3.71g、水酸化ナトリウム48.0gを投入し、カップラーが溶解してクリアになるまで撹拌した。
【0069】
さらに反応缶に、80%酢酸104g、水酸化ナトリウム28g、水2000gを投入し十分に攪拌した。
【0070】
反応缶に対し、テトラゾ溶液の連続滴下を開始し、カップラー溶液Aが40分で滴下が終了するよう、H酸のチェックで過剰のテトラゾが存在しないようテトラゾ溶液と同時に注入開始した。カップラー溶液Aの注入が終了した後、速やかにカップラー溶液Bに切り替え、さらに80分でカップラー溶液Bの注入が終わるように注入を行った。反応の際、H酸によるチェックにて、過剰のテトラゾ液が存在していなかった。さらにテトラゾ溶液を注入し、テトラゾ溶液がわずかに過剰になるまで注入し、10分間撹拌し反応を完結させた。
【0071】
上記反応液をpH12.0に調整し、60℃まで加熱撹拌した後、不均化ロジンを固形分で18.8g投入し、塩酸でpHを8.5に調整した後、硫酸アルミニウム6.3gを添加し、塩酸にてpHを5.5に調整し顔料スラリーを得た。このスラリーのろ過を行い、十分に水洗を行った後、顔料ウエットケーキを得た。
【0072】
<比較例4>
実施例1のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例10と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0073】
<実施例11>
実施例10のカップラー溶液Aのアセトアセトメタキシリダイド85.56gをアセトアセトオルソトルイジド79.71g、カップラー溶液Bのアセトアセトメタキシリダイド164.20gをアセトアセトオルソトルイジド152.98gとしたほかは、実施例10と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0074】
<比較例5>
実施例11のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例11と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0075】
<実施例12>
実施例10のカップラー溶液Aのアセトアセトメタキシリダイド85.56gをアセトアセトオルソアニシジド85.95g、カップラー溶液Bのアセトアセトメタキシリダイド164.20gをアセトアセトオルソアニシジド165.78gとしたほかは、実施例10と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0076】
<比較例6>
実施例12のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例12と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0077】
<実施例13>
実施例10のカップラー溶液Aのアセトアセトメタキシリダイド85.56gをアセトアセト−5−ジメトキシ−4−クロロアニライド113.26g、カップラー溶液Bのアセトアセトメタキシリダイド164.20gをアセトアセト−2、5−ジメトキシ−4−クロロアニライド217.36gとしたほかは、実施例10と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0078】
<比較例7>
実施例13のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例11と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0079】
<実施例14>
実施例10のカップラー溶液Aのアセトアセトメタキシリダイド85.56g、バルビツール酸0.54g、をアセトアセトメタキシリダイド50.82g、アセトアセトオルソトルイジド47.34g、バルビツール酸1.08gとし、カップラー溶液Bのアセトアセトメタキシリダイド164.20gをアセトアセトメタキシリダイド73.89g、アセトアセトオルソトルイジド68.84gとしたほかは、実施例10と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0080】
<比較例8>
実施例14のカップラー溶液Aとカップラー溶液Bを混ぜ合わせカップラー溶液とし、その溶液が120分で滴下が終了するよう滴下した以外は、実施例11と同様にして顔料ウエットケーキを得た。
【0081】
実施例の条件をまとめると表1のようになる。なお、表1の中で(a)〜(m)で表されるカップラーは表2のとおりである。
【0082】
表1
【表1】

【0083】
表2
【表2】

【0084】
<顔料ウエットケーキのX線回折測定>
上記実施例もしくは比較例で得られた顔料ウエットケーキに対し、X 線回折測定において、10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の測定を行い、顔料粒子径の測定方法とした。
X 線回折スペクトルは下記条件で測定を実施した。表3に測定結果を示した。
装置: RIGAKU Ultima2001
X線源: CuKα
電圧: 40kV
電流: 40mA
測定範囲: 5.0° から35.0°
ステップ角: 0.02°
【0085】
表3
【表3】

【0086】
<実施例15>
オフセットインキ化方法
フラッシングによるインキ化は1Lフラッシャーを用いて行った。すなわち実施例1で得られた顔料ウエットケーキを乾燥重量で80部と、予め100℃に温めたオフセットインキ用ビヒクル190部をフラッシャー中に同時に投入し、フラッシングを行った(オープンフラッシング工程:トータル時間15分)。次にフラッシングで出てきた水を除去後、減圧(1〜8×103 Pa)及びインキ内の温度が100℃になるまで加熱を60分間行いインキ中の水を完全に除去した(バキュームフラッシング工程)。このインキにオフセットインキ用ビヒクル390部と溶剤44部を徐々に加えたのちフラッシャーから取り出した。その後、3本ロールを用いてロール温度60℃、10Barrの圧力をかけて練肉し粗大粒子を除去し、ベースインキを得た。このベースインキ62部にオフセットインキ用ビヒクル25部、溶剤10部、補助剤3部加えタック5.8〜6.0に調整して最終インキを得た。
【0087】
<実施例16〜28、比較例9〜16>
実施例1で得られた顔料ウエットケーキを、実施例2〜14および比較例1〜8で得られた顔料ウエットケーキにそれぞれ置き換えた以外は、実施例15と同様にして最終インキを得た。
【0088】
<インキ評価>
得られた各最終インキについて、色相、着色力、光沢、流動性を測定した。測定した結果は表4に示す。着色力は、得られたインキをオフ輪インキ用の展色紙に対してJIS K 5701−1によって定められた展色方法に則ってインキ0.15gを展色し、常法により乾燥して展色物を得た。
【0089】
この展色物の反射率濃度を調べ、比較例12は実施例24で得られた着色力を100としたとき、比較例13は実施例25で得られた着色力を100としたとき、比較例14は実施例26で得られた着色力を100としたとき、比較例15は実施例27で得られた着色力を100としたとき、比較例16は実施例28で得られた着色力を100としたときの数値を示した。色相に関しては、得られた展色物を測色し、比較例12〜16をそれぞれ基準としてΔa*の数字が大きければ赤味、小さければ緑味を示す。
【0090】
流動性に関しては、傾斜版のインキ壺に各最終インキを入れ、1時間静置した後に、90°に傾け、30分間流動した長さ(静置したインキの下端から下方に向かって流動したインキの先端までの長さ)をmm単位で測定した。透明性に関しては、10段階で評価した。黒帯のある展色紙に対して展色したうえで、黒帯上の透過具合を見て判断した。
【0091】
表4
【表4】

【0092】
表4から明らかなように、従来技術である比較例9〜16においては、色相緑味、着色力、流動性、透明性すべてを併せ持つ顔料組成物を製造することは難しかったが、本発明の技術を用いることで、従来技術では難しいとされていた色相緑味と高着色力、透明性、高い流動性を併せ持つ顔料組成物が製造できることがわかる。
【0093】
<実施例29>
実施例1について、20回繰り返し製造を行い、それぞれ顔料ウエットケーキを得た。得られた顔料ウエットケーキに対し、X 線回折測定において、10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の測定を行った。それぞれ測定した結果をまとめると半価幅の平均値1.550、標準偏差0.0656、変動係数4.23%となった。
【0094】
<実施例30>
実施例3について、20回繰り返し製造を行い、それぞれ顔料ウエットケーキを得た。得られた顔料ウエットケーキに対し、X 線回折測定において、10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の測定を行った。それぞれ測定した結果をまとめると半価幅の平均値1.454、標準偏差0.0787、変動係数5.41%となった。
【0095】
<比較例17>
比較例1について、20回繰り返し製造を行い、それぞれ顔料ウエットケーキを得た。得られた顔料ウエットケーキに対し、X 線回折測定において、10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の測定を行った。それぞれ測定した結果をまとめると半価幅の平均値1.082、標準偏差0.0841、変動係数7.76%となった。
【0096】
<比較例18>
比較例3について、20回繰り返し製造を行い、それぞれ顔料ウエットケーキを得た。得られた顔料ウエットケーキに対し、X 線回折測定において、10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の測定を行った。それぞれ測定した結果をまとめると半価幅の平均値0.855、標準偏差0.0980、変動係数11.2%となった。
【0097】
実施例29、30、および、比較例17、18の結果から明らかなように、本発明の技術を用いることで、従来技術では難しいとされてきた高い製造安定性が得られた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性水溶液中にベンジジン類のテトラゾ成分を含むテトラゾ溶液と、数種のカップラー成分を含むカップラー成分とのモル比が1:2〜2.5の比率になるように連続して注入して反応させるジスアゾ顔料組成物の製造方法において、一般式(1)で示されるカップラー成分、バルビツール酸類を必須カップラー成分として構成されるカップラー溶液Aとテトラゾ溶液とでカップリング反応させた後、一般式(1)で示されるカップラー成分、一般式(2)で示されるカップラー成分を必須カップラー成分とするカップラー溶液Bとテトラゾ溶液とで反応させる事を特徴とするジスアゾ顔料組成物の製造方法。
一般式(1)

CH3COCH2CONH−X

(式中、Xは炭素数1〜4のアルキル基、−OR基、塩素原子から成る群から選ばれる同一または異なる置換基を有するフェニル基を示す。Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
一般式(2)

CH3COCH2CONH−Z

(式中、Zはメチル基、メトキシ基、塩素原子、カルボキシ基もしくはそのアルカリ金属塩、−CONR2(R3)基から成る群から選ばれる同一または異なる置換基を有するフェニル基であって、該フェニル基はアセトアセチルアミノ基に対してオルソ位もしくはパラ位のいずれかにカルボキシ基もしくはそのアルカリ金属塩、−CONR2(R3)基の少なくとも1種で置換されているフェニル基を有する。ただし、R23は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(該アルキル基は互いに結合して環を形成しても良い。)を表す。)
【請求項2】
カップラー溶液Aとカップラー溶液Bにそれぞれ含まれるカップラー成分のモル比が1:0.25〜3.0となることを特徴とする請求項1記載のジスアゾ顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1ないし2いずれか記載の製造方法にて製造されるジスアゾ顔料組成物。
【請求項4】
X線回折図(CuKα線)において、ブラッグ角度2θの10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅が1.3〜1.6度である請求項3記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項5】
20回繰り返し製造時において、X線回折図(CuKα線)ブラッグ角度2θの10.3〜 12.0度(2θ)にある最大強度ピークの半価幅の変動係数が、6%以下であることを特徴とする請求項3ないし4いずれか記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項6】
請求項3ないし5いずれか記載のジスアゾ顔料組成物と印刷インキ用ビヒクルとからなる印刷インキ組成物。

【公開番号】特開2012−62375(P2012−62375A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206196(P2010−206196)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】