説明

ジスルフィド化合物ならびにそれを用いた電極および二次電池

【課題】高容量で、酸化還元電位が高く、耐溶出性、化学的安定性、電気化学的安定性に優れる上に、2次電池としたときに高出力、高エネルギー密度、かつ、優れた安全性と充放電サイクル特性を達成することができるジスルフィド化合物、およびそれからなる電極材料、電極ならびに2次電池を提供する。
【解決手段】ジスルフィド化合物は、下記一般式(M1)を構成単位として含有し、nが3以上のものである。


(一般式(M1)において、RおよびRはそれぞれ独立して任意の有機基、mおよびmは0以上の整数、m+mは1〜8の整数を表し、Arは芳香環、縮環芳香環を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量でエネルギー密度が高く、充放電サイクル特性と安全性に優れた電極材料ならびにそれを用いた電極および二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や携帯電子機器等の普及に伴い、その電源として用いられる蓄電デバイスの高性能化に対する要求が高まっている。具体的には、高出力、高容量、安全性およびサイクル特性に優れた蓄電デバイスが要求され、様々な取り組みがなされている。特に、電極材料の高容量化は、蓄電デバイス自体の高エネルギー密度化に直接的に繋がるため、積極的に検討されている。
【0003】
現在、リチウムイオン電池の正極材料には、金属リチウムに対して3.5〜4.0V程度の高電位でリチウムイオンを可逆的に脱離・挿入できる金属酸化物が用いられている。そのレドックス中心となる遷移金属元素としては、主にコバルト、ニッケル、マンガン等が用いられてきたが、いずれも高コストである上、重量が大きく、反応電子数が少ないため、さらに高容量で高エネルギー密度のリチウム二次電池を得ることは困難であった。
【0004】
高容量で高エネルギー密度が得られる正極材料として、硫黄原子間結合(ジスルフィド結合)を有する有機化合物(以下「ジスルフィド化合物」とする)を用いた2次電池が提案されている。これは、S−S結合の開裂・再結合(解重合・重合)を伴う電気化学反応を蓄電反応に利用したものある。ジスルフィド化合物は、酸化還元電位が比較的高いので、電池の高電圧化が期待でき、硫黄原子2個あたり2個の電子を酸化還元反応に利用できるので、高容量な電極材料となりうる。加えて、還元されて有機チオレートとなる際、対カチオンを取り込むため、リチウム等を負極とした場合、ロッキングチェア型の電池構成が可能であり、電解液削減による電池容量向上が期待できる。
【0005】
特許文献1では、ポリマー主鎖にS−S結合を有したポリマー電極材料が開示されている。しかしながら、元々は分子内にあるS−S結合であるが、それが開裂(解重合)するともはや別の分子となってしまい、次に再結合(重合)しようとしても、分子間ジスルフィドであるため、酸化還元反応の速度が遅く、常温では大電流を取り出せないという課題があった。また、前記ジスルフィド化合物は、還元されて有機チオレートとなる際に低分子化するため、電解液に溶出し、サイクル特性に劣るという課題があった。
【0006】
酸化還元反応速度、耐溶出性向上のためには、解裂後も元々の基本分子骨格を維持するジスルフィド化合物が候補として挙げられる。
【0007】
非特許文献1には、下記式(H1)で表される1分子内にS−S結合(環状ジスルフィド部位)を3個導入したベンゼン誘導体が記載されている。
【0008】
【化1】

【0009】
非特許文献2には、下記式(H2)で表される分子内に環状ジスルフィド部位を有したベンゼン誘導体(低分子ジスルフィド)についての試みが記載されている。
【0010】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,833,048号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」(Journal of Organic Chemistry), 72, (2007) 6382-6389.
【非特許文献2】「エレクトロキミカ アクタ」(Electrochimica Acta), 51, (2006) 2589-2593.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者らは、従来技術には以下の課題があることを見出した。H1で表されるベンゼン誘導体は、1分子内に環状ジスルフィド部位を3個以上導入したものの、低理論容量であるのに加え、立体的に入り組んだ構造を有するため、結晶性が低く、耐溶出性に劣るほか、酸化還元に対しても不安定であり、電極材料として不適であった。
【0014】
そしてH2で表される低分子ジスルフィドは、比較的高い理論容量を有するものの、結晶性が十分でなく、酸化還元に伴う電解液への溶出によりサイクル特性に劣るものであった。
【0015】
このように、従来技術では、高容量化と電解液への溶出抑制の両立は困難であった。
【0016】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、高容量で、酸化還元電位が高く、耐溶出性、化学的安定性、電気化学的安定性に優れる上に、2次電池としたときに高出力、高エネルギー密度、かつ、優れた安全性と充放電サイクル特性を達成することができるジスルフィド化合物およびそれからなる電極材料、電極ならびに2次電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者らは新たにジスルフィド化合物の結晶性に着目した。そして、S−S結合解裂後も元々の基本分子骨格を維持しながら、分子の平面性が高く、1分子内に環状ジスルフィド部位を3個以上導入したジスルフィド化合物の分子設計と合成を検討し、さらに得られたジスルフィド化合物の結晶性と充放電サイクル特性、電気化学特性と充放電特性を比較検討し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のジスルフィド化合物は、下記一般式(M1)を構成単位として含有し、nが3以上のものである。
【0019】
【化3】

【0020】
(一般式(M1)において、RおよびRはそれぞれ独立して任意の有機基、mおよびmは0以上の整数、m+mは1〜8の整数を表し、Arは芳香環、縮環芳香環を表す。)
さらに、本発明の電極材料、電極および2次電池は、かかるジスルフィド化合物を用いて構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高容量で、酸化還元電位が高く、耐溶出性、化学的安定性、電気化学的安定性に優れる上に、2次電池としたときに高出力、高エネルギー密度、かつ、優れた安全性と充放電サイクル特性を達成することができるジスルフィド化合物およびそれからなる電極材料、電極ならびに2次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明は、前記課題、すなわち高容量で、酸化還元電位が高く、耐溶出性、化学的安定性、電気化学的安定性に優れる上に、2次電池としたときに高出力、高エネルギー密度、かつ、優れた安全性と充放電サイクル特性を達成することができるジスルフィド化合物について、鋭意検討し、下記一般式(M1)で表される構成単位を含有し、nが3以上の化合物を使用した場合に、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0024】
【化4】

【0025】
(一般式(M1)において、RおよびRはそれぞれ独立して任意の有機基、mおよびmは0以上の整数、m+mは1〜8の整数を表し、Arは芳香環、縮環芳香環を表す。)
本発明において、前記一般式(M1)で表されるジスルフィド化合物は、Arと一辺を共有する環状ジスルフィド部位をn個有するものと定義する。特にnが3〜5の場合は下記一般式(M4)〜(M6)で表されるが、この範囲に限定されるものでない。
【0026】
【化5】

【0027】
本発明のジスルフィド化合物は、分子の平面性を高めながら、分子間相互作用が強く、高い結晶性を付与する環状ジスルフィド部位を一分子内に3個以上導入することで、高電圧、更なる高容量化と耐溶出性を両立したものである。
従来技術のH1で表されるベンゼン誘導体は、1分子内に環状ジスルフィド部位を3個以上導入したものの、低理論容量であるのに加え、立体的に入り組んだ構造を有するため、結晶性が悪く、耐溶出性に劣るほか、酸化還元に対しても不安定であり、電極材料として不適であった。
【0028】
そして、低分子ジスルフィド(H2)では、比較的高い理論容量を有するものの、結晶性が十分でなく、酸化還元に伴う電解液への溶出によりサイクル特性に劣っていた。
【0029】
これに対し、本発明者らは新たにジスルフィド化合物の結晶性に着目し、ジスルフィド部位を導入する骨格を芳香環または縮環芳香環とすることで、分子の平面性を高め、さらに、高い結晶性を付与する環状ジスルフィド部位3個以上を1低分子内に導入することで、耐溶出性を向上させ、高容量と高サイクル特性の両立が可能となった。
【0030】
本発明のジスルフィド化合物の化学構造は、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)により確認できる。結晶性により、溶媒溶解性が不足する場合は、溶液13C−NMR、固体13C−NMRおよび赤外線吸収スペクトル等によって、化学構造や副生成物の有無を確認することができる。
【0031】
本発明の化合物においては、前記一般式(M1)の中m、mは0以上の整数で、m+mは1〜8の整数であることが必要である。酸化還元反応の速度に基づく充放電レート特性の点で、m+mは1〜3の整数であることがより好ましく、製造コストの点で1または2がさらに好ましく、合成の容易さの点で2、すなわち、m、mが1であることが最も好ましい。
【0032】
本発明のジスルフィド化合物において、前記一般式(M1)中のArは、任意の芳香環、縮環芳香環を表し、特に限定されるものではなく、任意の置換基を有していても良い。コアとなる芳香環Arとしては、ベンゼン環に加え、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環、ピセン環、トリフェニレン環、ペリレン環、コロネン環などの縮環芳香環が好適な具体例として挙げられる。また、結晶性および導電性の点で、Ar中にチオフェン、ピロール、ピリジン、フラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、トリアジン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、フェノキサジン、フェナジン、フェノチアジンのようなヘテロ環などを含んでいてもよい。
【0033】
前記Arとしては、理論容量の点で、ベンゼン環またはナフタレン環がより好ましい。結晶性向上の観点では、p-p相互作用の大きな縮環芳香環がより好ましく、必要となる容量密度に合わせて適宜選択することができる。
【0034】
特に好ましい具体例として、下記一般式(M7)〜(M44)を挙げることができる。また、これらは必要に応じて併用することも可能である。中でも、製造コストと充放電レート特性の点で、(M7)〜(M11)、(M16)〜(M30)が好ましく、(M7)〜(M9)、(M16)〜(M23)がさらに好ましく、(M7)および(M16)が最も好ましい。
【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
(一般式(M4)〜(M41)においてRおよびRはそれぞれ独立してH、アルキル基およびアリール基から選ばれた少なくとも1種の基を表す。)
本発明のジスルフィド化合物において、前記一般式(M1)中のRおよびRは、それぞれ独立して任意の有機基を表す。好適な具体例として、H、F,脂肪族基および芳香族基から選ばれた少なくとも1種の基が挙げられる。前記脂肪族基はハロゲン原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでいてもよく、還元速度の点で、R−C−Rが電子求引性のC=O、C=S、C=N−R(Rは任意の有機基)などであっても良い。RおよびRは、製造コストの点で、H、アルキル基、またはH、Hであることがより好ましく、RまたはRがともにHであることがさらに好ましい。
【0039】
アルキル基の具体例としては、CH−、CHCH−、CHCHCH−、(CHCH−、CHCHCHCH−、CHCH(CH)CH−、(CHC−、CHCHCHCHCH−、(CHCCH−、CHCHCHCHCHCH−、CHCHCHCH(CHCH)CHCH−、CHCHCHCHCHCHCHCH−などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
上記のとおり、より好ましくは下記式(M2)または(M3)で表される化合物があげられる。
【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
本発明において、前記一般式(M1)で表される化合物の好適な具体的合成方法について説明する。例えば、下記式(M2)で表されるジスルフィド化合物を合成する場合、下記式(S1)で表される化合物を出発物質として、アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)などのラジカル開始剤存在下、N-ブロモスクシンイミド(NBS)とを反応させることにより下記式(S2)で表される化合物を合成することできる。
【0044】
さらに、下記式(S3)で表される化合物は、下記式(S2)で表される化合物とチオ酢酸カリウム(KSAc)とを反応させることにより容易に合成することできる。下記式(S3)で表される化合物を、加水分解によりアセチル基を脱保護後、ヨウ素等を用いた酸化反応によりジスルフィド化し、下記式(M2)で表される化合物を得ることができる。前記式(M1)で表される化合物の合成方法は、これらに限定されるものではない。
【0045】
【化11】

【0046】
また、下記式(M3)で表されるジスルフィド化合物についても、前記式(M2)で表されるジスルフィド化合物と同様にして、下記式(S6)〜(S9)で表される化合物を経由して合成することができる。
【0047】
【化12】

【0048】
本発明の電極材料は、正極および負極のうち少なくとも一方に、少なくとも本発明のジスルフィド化合物を含む電極材料である。例えば、正極および負極のうちいずれか一方の電極に、本発明のジスルフィド化合物を用い、他方の電極に、二次電池で常用されている活物質を使用できる。
【0049】
また、本発明の電極は、本発明の電極材料を含む電極である。本発明の電極材料は、正極としてより好ましく用いることができる。
【0050】
本発明の二次電池は、本発明の電極を用いて構成される二次電池であり、たとえば、正極と、負極と、セパレータと、電解質とを含む。正極と負極とは、セパレータを介して対向するように配置される。正極は、正極集電体と正極活物質層とを含み、正極活物質層がセパレータ側に位置するように配置される。
【0051】
正極集電体としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ニッケル、アルミニウム、金、銀、銅、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金などの金属材料からなる多孔質または無孔のシート状物またはフィルム状物を使用できる。界面抵抗低減の点で、少なくとも銅からなる集電体がより好ましい。シート状物またはフィルム状物とは、具体的には、金属箔、メッシュ体などである。また、正極集電体の表面にカーボンなどの炭素材料を塗布し、抵抗値の低減、触媒効果の付与、正極活物質層と正極集電体とを化学的または物理的に結合させることによる正極活物質層と正極集電体と結合強化などを図ってもよい。
【0052】
正極活物質層は正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられ、正極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含む。本発明の電極活物質を正極活物質として用いる場合には、負極活物質としては、たとえば、黒鉛化炭素(グラファイト)、活性炭などの非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素酸化物、珪素合金などの珪素化合物、錫、錫酸化物、錫合金などの錫化合物などを好ましく使用できる。
【0053】
電子伝導補助剤およびイオン伝導補助剤は、たとえば、電極の抵抗を低減するために用いられる。電子伝導補助剤としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラックなどの炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物などが挙げられる。また、イオン伝導補助剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリエチレンオキシドなどの固体電解質、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチルなどのゲル電解質などが挙げられる。さらに、本発明の化合物は、銅化合物や銅粉末の添加により、界面抵抗低減や耐溶出性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
【0054】
結着剤は、たとえば、電極の構成材料の結着性を向上させるために用いられる。結着剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0055】
正極活物質層は、たとえば、正極合剤スラリーを正極集電体表面に塗布し、乾燥し、圧延することにより形成できる。正極合剤スラリーは、正極活物質および必要に応じて電子伝導補助剤、伝導補助剤、結着剤などを有機溶媒に溶解または分散させることにより調製できる。有機溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノンなどを使用できる。また、非水溶媒を使用せず、正極活物質および必要に応じて電子伝導補助剤、伝導補助剤、結着剤などを混合し、この混合物を正極集電体に圧着させて、正極活物質層を形成してもよい。
【0056】
負極は、負極集電体と負極活物質層とを含み、負極活物質層がセパレータ側に位置するように配置される。負極集電体には、正極集電体と同様の金属材料からなる多孔性または無孔のシート状物またはフィルム状物を使用できる。具体的には、たとえば、金属箔、メッシュ体などである。負極集電体の表面にも、正極集電体と同様に、カーボンなどの炭素材料を塗布し、抵抗値の低減、触媒効果の付与、負極活物質層と負極集電体との結合強化などを図ってもよい。
【0057】
負極活物質層は負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられ、負極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含む。本発明の電極活物質を負極活物質として用いる場合には、正極活物質として、たとえば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム含有金属酸化物などを好ましく使用できる。負極活物質層に含まれる電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤および結着剤は、正極活物質層に含まれる電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤と同じものを使用できる。
【0058】
負極活物質層は、たとえば、負極集電体の表面に負極合剤スラリーを塗布し、乾燥し、圧延することによって形成できる。負極合剤スラリーは、負極活物質を含み、必要に応じて電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤、増粘剤などを有機溶媒に溶解または分散させることにより調製できる。有機溶媒は、正極合剤スラリーの調製に用いられる有機溶媒と同様のものを使用できる。また、非水溶媒を使用せず、負極活物質および必要に応じて電子伝導補助剤、伝導補助剤、結着剤などを混合し、この混合物を負極集電体に圧着させて、負極活物質層を形成してもよい。また、負極活物質として珪素化合物または錫化合物を用いる場合は、真空蒸着、スパッタリングなどにより負極活物質層を形成できる。さらに、負極には、リチウム金属板と負極集電体との積層体を用いてもよい。
【0059】
セパレータは、正極と負極との間に設けられる。セパレータには、所定のイオン透過度、機械的強度、絶縁性などを併せ持つシート状物またはフィルム状物が用いられる。セパレータの具体例としては、たとえば、微多孔膜、織布、不織布などの、多孔性のシート状物またはフィルム状物が挙げられる。セパレータの材料には各種樹脂材料を使用できるが、耐久性、シャットダウン機能、電池の安全性などを考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。なお、シャットダウン機能とは、電池の異常発熱時に貫通孔が閉塞し、それによりイオンの透過を抑制し、電池反応を遮断する機能である。
【0060】
電解質は、主にセパレータに含浸される液状電解質である。液状電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解可能な支持塩とを含む。支持塩としては、以下に挙げるカチオンとアニオンとからなる支持塩が挙げられる。カチオンとしては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のカチオン、マグネシウムなどのアルカリ土類金属のカチオン、テトラエチルアンモニウム、1,3−エチルメチルイミダゾリウムなどの4級アンモニウムカチオンを使用できる。カチオンは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、リチウムのカチオン、4級アンモニウムカチオンなどが好ましい。
【0061】
アニオンとしては、たとえば、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、四ホウフッ化物アニオン、トリフルオロリン6フッ化物アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。アニオンは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。支持塩の具体例としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロロメタンスルホン酸リチウム、四ホウフッ化リチウム、ビストリフロロメチルスルホニルイミドリチウム、チオシアン酸リチウム、過塩素酸マグネシウム、トリフロロメタンスルホン酸マグネシウム、四ホウフッ化ナトリウムなどが挙げられる。
【0062】
二次電池において電気化学反応を生じさせるためには、例えば、支持塩を非水溶媒中で溶解させて解離させる必要がある。このため、非水溶媒の比誘電率が高いことが要求される。また、本発明の電極活物質の種類により、電極活物質が比誘電率の高い非水溶媒に溶解しやすい場合がある。従って、本発明の蓄電デバイスにおいて、適切な比誘電率を有する非水溶媒を電解質に用いる必要がある。
【0063】
上記の観点から、非水溶媒としては比誘電率10以上30以下の非水溶媒が好ましい。比誘電率が10以上30以下の非水溶媒としては、前記範囲の比誘電率を有する非水溶媒をそのまま用いてもよい。また、比誘電率の異なる複数の非水溶媒を混合し、得られる混合物の比誘電率を前記範囲に調整してもよい。より具体的には、たとえば、比誘電率10以下の非水溶媒と比誘電率30以上の非水溶媒とを混合することにより、比誘電率が前記範囲である非水溶媒が得られる。
【0064】
比誘電率が10未満では、支持塩の非水溶媒に対する溶解性が低下し、電気化学的な酸化還元反応が円滑に進行しない場合が生ずるおそれがある。支持塩と非水溶媒とを含む液状電解質を用いる蓄電デバイスにおいて、電気化学的な酸化還元反応を行うためには、非水溶媒が支持塩を溶解し、支持塩を構成するイオンの結合および解離を可逆的に行い得る状態にする必要がある。比誘電率が30を超えると、本発明の電極活物質が有機溶媒に対して溶解性を示すおそれがある。本発明の電極活物質は誘導体化がなされているものの、比誘電率が30を超える有機溶媒に対しては、蓄電デバイスの各種特性を低下させる程度
の溶解性を示すおそれがある。
【0065】
比誘電率が10以下の溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、鎖状エーテルが挙げられる、これらの中から1または2以上を使用できる。比誘電率が30以上の溶媒としては、環状炭酸エステル、環状エーテルが挙げられ、これらの中から1または2以上を使用できる。
【0066】
鎖状炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジn−プロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどが挙げられる。鎖状エステルとしては、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、吉草酸メチルなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、例えば、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテルが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートが挙げられる。環状エーテルとしては、例えば、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル−1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソランなどが挙げられる。
【0067】
また、電解質として、耐溶出性向上やサイクル特性向上のために、固体電解質やゲル状ポリマー電解質を用いてもよい。固体電解質としては、Li2S−SiS2−リチウム化合物(ここでリチウム化合物はLi3PO4、LiIおよびLi4SiO4よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。)、Li2S−P2O5、Li2S−B2S5、Li2S−B2S5、Li2S−P2S5−GeS2、ナトリウム/アルミナ(Al2O3)、相転移温度(Tg)の低い無定形ポリエーテル、無定形フッ化ビニリデンコポリマー、異種ポリマーのブレンド体、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0068】
ゲル状ポリマー電解質としては、たとえば、液状電解質をポリマーでゲル化したものを使用できる。液状電解質としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの低分子量非水溶媒を含むものが好ましい。ポリマーとしては、たとえば、ポリアクリロニトリル、エチレンとアクリロニトリルとのコポリマー、これらの架橋物などを使用できる。
【0069】
本発明の二次電池は、電気化学的な酸化還元反応によって得られた電気エネルギーを内部に蓄えることができる装置である。二次電池以外の具体的な用途としては、たとえば、一次電池、電気化学キャパシタ、電解コンデンサ、センサー、エレクトロクロミック素子などが挙げられる。また、本発明の二次電池は、電子機器、車両などの主電源または補助電源として好適に使用できる。電子機器としては、たとえば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどの携帯用電子機器が挙げられる。車両としては、たとえば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料自動車などの、電池を主電源または補助電源とする車両が挙げられる。
【実施例】
【0070】

以下、この発明の実施例に係るジスルフィド化合物の合成方法および電池の電極材料に用いた例を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるのではない。本発明のポリマーの用途は、下記の実施例に示す電池の電極に限定されるものではなく、本発明のポリマーのレドックス特性を利用するその他の用途にも適用できるものである。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0071】
(1)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、H−NMRの測定を行い、化学構造の確認を行った。
【0072】
装置 :日本電子社製EX−270
共鳴周波数 :270MHz(H−NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :CDClまたはDMSO−d
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(2)二次電池の性能評価 作製した電極を正極とし、金属リチウムを負極および参照極として用いた。LiPF6 を炭酸エチレン/炭酸ジエチル(体積分率3/7)の混合溶液に溶解し、1Mに調製したものを電解質溶液とした。上記正極、負極、参照極を3極式セル中にワニ口クリップで挟みこみ、電解液を注入、摺り付き電極蓋により密閉し電池セルを得た。電池セルの作製は全て窒素ガスフローのグローブボックス中で行った。電池反応は、放電下限2.5V、充電上限4.2V、電流値0.05mAの定電流充放電を繰り返し行った。各充放電サイクルにおける活物質の単位質量あたりの放電容量(単位mAh/g)の推移を比較することで、充放電サイクル特性を評価した。尚、(M2)、(M3)、(H2)の理論容量はそれぞれ461mAh/g、438mAh/g、414mAh/gである。

(合成例1)
下記式(M2)で表されるジスルフィド化合物を以下の反応スキームに従って合成した。
【0073】
【化13】

【0074】
ヘキサメチルベンゼン(30g)、N−ブロモスクシンイミド237g、アゾイソブチロニトリル9.1gを脱水ベンゼン1155mlに溶解させ、12時間沸点還流した。ニ亜硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を停止後、濾過、水洗により得られた白色固体をクロロホルムにて再結晶し、S2を白色固体として110g得た。収率は94%であった。
【0075】
化合物S2(30g)、チオ酢酸カリウム35.5gを脱水N, N−ジメチルホルムアミド602mlに溶解し、室温で2時間撹拌した。酢酸エチルで希釈した後、分液ロートで水洗を3回行った。酢酸エチルをエバポレーターにて減圧留去した後、メタノールにて洗浄し、化合物S3を白色固体として26.7g得た。収率は93%であった。
【0076】
化合物S3(10g)をテトラヒドロフラン484mlに溶解し、水酸化カリウム6.6g/エタノール592ml溶液を添加、室温で1時間撹拌した。1M塩酸でPH5に調整した後、濾過により白色固体を得た。この白色固体を水300mlに分散、30分撹拌した後、濾過、メタノール洗浄を経て、化合物S4を白色固体として5.5g得た。収率は94%であった。
【0077】
化合物S4(2g)をジクロロメタン592mlに溶解し、ピリジン26mlを加えた。ヨウ素10.1g/エタノール152ml溶液を添加し、室温で2時間撹拌した。ニ亜硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を停止した後、分液ロートに移し、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンをエバポレーターにて減圧留去した後、メタノール、ヘキサン洗浄を経て、化合物M2を白色固体として1.73g得た。収率は88%であった。
【0078】
(合成例2)
下記式(M3)で表されるジスルフィド化合物を以下の反応スキームに従って合成した。
【0079】
【化14】

【0080】
ナフタレン(S5) 80gをニトロベンゼン600mlに溶解し、塩化アルミニウム25.0gを添加し、氷浴にて冷却した。系中にクロロメタンを導入し、氷浴下1時間撹拌した。
氷浴を外し、さらに室温で4時間反応させた。反応溶液を氷水1000ml中にゆっくり滴下した後、反応溶液を分液ロートに移し、ジクロロメタンで抽出した。ロータリーエバポレーターによりジクロロメタンを減圧留去した後、メタノールによる再結晶精製により化合物S6を白色固体として93.0g得た。収率は62%であった。

化合物S6(44.4g)、N−ブロモスクシンイミド316g、アゾイソブチロニトリル12.1gを脱水ベンゼン1200mlに溶解させ、12時間沸点還流した。ニ亜硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を停止後、濾過、水洗により得られた白色固体をクロロホルムにて再結晶し、S7を白色固体として145g得た。収率は90%であった。
【0081】
化合物S7(41.0g)、チオ酢酸カリウム47.3gを脱水N, N−ジメチルホルムアミド610mlに溶解し、室温で2時間撹拌した。酢酸エチルで希釈した後、分液ロートで水洗を3回行った。酢酸エチルをエバポレーターにて減圧留去した後、メタノールにて洗浄し、化合物S8を白色固体として36.8g得た。収率は94%であった。
【0082】
化合物S8(13.7g)をテトラヒドロフラン485mlに溶解し、水酸化カリウム8.8g/エタノール700ml溶液を添加、室温で1時間撹拌した。1M塩酸でPH5に調整した後、濾過により白色固体を得た。この白色固体を水300mlに分散、30分撹拌した後、濾過、メタノール洗浄を経て、化合物S9を白色固体として7.68g得た。収率は94%であった。
【0083】
化合物S9(2.74g)をジクロロメタン595mlに溶解し、ピリジン8mlを加えた。ヨウ素13.5g/エタノール200ml溶液を添加し、室温で2時間撹拌した。ニ亜硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を停止した後、分液ロートに移し、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンをエバポレーターにて減圧留去した後、メタノール、ヘキサン洗浄を経て、化合物M2を白色固体として2.26g得た。収率は84%であった。 (実施例1)

得られたジスルフィド化合物(M2)の粉末0.4gを乳鉢上でよく粉砕した。これにNMP50mLを加え、混練しペーストとした後に、PVdF(クレハ製)の20wt%溶液1g(PVdF 0.2g相当)を加え、混練した。更に、アセチレンブラック0.4gを加え、粉砕混練し、黒色の混合ペーストを得た。このペーストを、大きさ3×5cm、厚さ9μmのアルミニウム箔上に3×3cmのサイズでコートした後、80℃で3時間真空加熱処理を行った。これを1×5cmに切出し、電極とした。評価結果は表1にまとめた。 (実施例2)

実施例1で使用したジスルフィド化合物(M2)を(M3)に変えたこと以外は、実施例1に記載の方法で電極の作製を行った。評価結果は表1にまとめた。 (比較例1)

実施例1で使用したジスルフィド化合物(M2)を(H2)に変えたこと以外は、実施例1に記載の方法で電極の作製を行った。評価結果は表1にまとめた。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1、2、比較例1の各評価結果を表1に示す。一分子内に環状ジスルフィド部位を2個しか持たない(H2)では、充放電に伴い溶出し、10サイクルで測定不能となった。これに対し、環状ジスルフィド部位を3個有する(M2)では、結晶性良く、10サイクル後も初期容量の95%を維持した。さらに中心を縮環芳香環とし、環状ジスルフィド部位を4個有する(M3)は、10サイクル後もほとんど容量低下なく、良好なサイクル特性が得られた。
【0086】
上記のように、高い結晶性を付与する環状ジスルフィド部位を一低分子内に3個以上導入し、好ましくは中心芳香環を縮環構造とし、結晶性をより高めることで、酸化還元に伴う電解液への溶出が抑制され、高出力、高エネルギー密度、かつ優れた安定性と充放電サイクル特性を有するジスルフィド化合物およびそれらからなる電極材料、電極ならびに二次電池を提供することができる。二次電池以外の具体的な用途としては、たとえば、一次電池、電気化学キャパシタ、電解コンデンサ、センサー、エレクトロクロミック素子などが挙げられる。また、本発明の二次電池は、電子機器、車両などの主電源または補助電源として好適に使用できる。電子機器としては、たとえば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどの携帯用電子機器が挙げられる。車両としては、たとえば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料自動車などの、電池を主電源または補助電源とする車両が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(M1)を構成単位として含有し、nが3以上であることを特徴とするジスルフィド化合物。
【化1】

(一般式(M1)において、RおよびRはそれぞれ独立して任意の有機基、mおよびmは0以上の整数、m+mは1〜8の整数を表し、Arは芳香環、縮環芳香環を表す。)
【請求項2】
、mがともに1である請求項1記載のジスルフィド化合物。
【請求項3】
Arがベンゼン環またはナフタレン環である請求項1または2に記載のジスルフィド化合物。
【請求項4】
およびRが水素原子である請求項1〜3のいずれかに記載のジスルフィド化合物。
【請求項5】
下記式(M2)または(M3)で表される請求項1〜4のいずれかに記載のジスルフィド化合物。
【化2】

【化3】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のジスルフィド化合物を含有することを特徴とする電極材料。
【請求項7】
請求項6記載の電極材料を用いて構成されることを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極を用いて構成されることを特徴とする二次電池。

【公開番号】特開2012−197248(P2012−197248A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62743(P2011−62743)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】