ジスルフィド化学療法剤およびその使用方法
【解決手段】 癌治療のための組成物および方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年11月20日に出願された米国仮出願第60/989,383号に対する米国特許法119条(e)の下における優先権を主張するものである。前記出願はこの参照によって本願明細書に組み込まれるものである。
【0002】
米国特許法202条(c)に準じて、その一部は米国国立衛生研究所からの助成金である助成金番号CA109604によって成され、ここに記述する本発明における、一定の権利を米国政府が有することを承認する。
【0003】
本発明は、ジスルフィド化学療法剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
本発明が関連する最新技術を記述するために、本願明細書を通して幾つかの刊行物および特許文書を引用する。それら引用のそれぞれは、参照によって完全に説明したのと同様に本願明細書に取り込まれるものである。
【0005】
放射線および化学療法剤はヒトの癌、特に固形腫瘍の治療において有効である。しかし、初期治療で生き残った癌細胞はそれに続く治療に対して耐性となる。この後続の治療に対する耐性は、それら患者の全体の生存率低下の主因である。低酸素もまた、癌治療の結果において主要な役割を果たすことが知られている。ヒト固形腫瘍の大部分は低酸素を示す。残念なことに、低酸素の腫瘍細胞は、放射線治療および化学療法に対して正常酸素圧の腫瘍細胞よりも耐性が高く、それら低酸素の細胞は疾患再発の重要な要因と考えられている(例えば、Teicher et al.(1990) Cancer Res., 50:3339〜3344;Grau and Overgaard (1988) Radiother. Oncol. 13:301〜309を参照)。幾つかの研究では、低酸素の固形腫瘍細胞はグルコースもまた欠乏していることが示されている。
【0006】
低酸素および正常酸素圧の両方から成るグルコース欠乏癌細胞は、化学療法剤に対してさらに耐性がある(Cui et al.(2007) Cancer Res.,67:3345〜55)。高い代謝活性および、乱れた血管系による灌流の欠如のため、多くの固形腫瘍ではグルコース枯渇が良く見られる。それはまた、ストレス耐性を誘導するとも考えられている。グルコースの全体の定常状態レベルは固形腫瘍、特に低酸素の腫瘍において低いと考えられるため、グルコース欠乏の癌細胞に対する影響の理解について複数の研究室の興味が近年急増している(Aronen et al.(2000) Clin. Cancer Res.,6:2189〜200;Rajendran et al.(2004)Clin. Cancer Res.,10:2245〜52;Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。グルコース量の減少は癌細胞の高い代謝活性によるものであろうと提唱されている(Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。乱れた血管系によって引き起こされる虚血状態もまた、固形腫瘍における低レベルのグルコースに関与している可能性がある(Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。最近の幾つかの研究では、癌細胞に対するグルコース欠乏の影響をインビトロで検証している(Yun et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:9963〜9972;Katol et al.(2002)Oncogene,21:6082〜6090;Ryoo et al.(2006)Biol.Pharm.Bull.29:817〜820)。それらの研究は、グルコース欠乏腫瘍細胞の生存における複数の分子機構の関与を示している。グルコース欠乏にも関わらずに、癌細胞の生存および治療に対する反応性の低下を可能にする生存分子(survival molecule)を誘導することから、グルコース枯渇癌細胞を標的とする重要性を、それらの研究は示した。
【0007】
グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)は、酸化的ペントースリン酸回路(oxidative pentose phosphate cycle:OPPC)の1番目のおよび律速段階の酵素である。OPPCの基質であるグルコースは、OPPCを介した酸化体/ジスルフィドの解毒に必要である。グルコースは、還元体を生成するために酸化的ペントースリン酸回路によって基質として利用される。それら還元体は、酸化体/ジスルフィドに曝露された場合に、哺乳類細胞中で還元型グルタチオンの恒常性を維持するために利用される。グルタチオンは、グリシン、システイン、およびグルタミン酸から成るトリペプチドである。通常状態の哺乳類細胞中では、還元型GSHは酸化型GSH(GSSG)の100倍まで多くなる。しかし、酸化体/ジスルフィドによって生産される酸化型GSHは癌細胞にとって有害である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1態様に従って、治療を必要とする患者での癌治療方法を提供する。1実施形態では、方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および医薬的に許容可能な担体を含む組成物の投与の工程を有する。ジスルフィド含有化合物は、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド(グリシンプロピオニルジスルフィド)、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されることができる。他の1実施形態では、癌細胞は、低酸素、正常酸素圧、グルコース欠乏、正常グルコース、および/または放射線および/または化学療法剤に対して耐性である。
【0009】
他の1実施形態に従って、癌が低酸素癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法を提供する。1実施形態において、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線を投与する工程を有する。特定の実施形態では、化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択される。他の1実施形態では、低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択される。さらに他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素剤、および/または放射線と続けて、および/または同時に投与される。
【0010】
他の1態様に従って、癌がグルコース欠乏正常酸素圧の癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法を提供する。1実施形態では、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線を投与する工程を有する。特定の実施形態では、化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択される。さらに他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線と続けて、および/または同時に投与される。
【0011】
癌が正常グルコースを有する正常酸素圧の癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法もまた提供する。1実施形態では、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤および/または少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線を投与する工程を有する。G6PDの阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDを標的としたsiRNA/shRNA分子から成る群から選択されることができる。
【0012】
本発明の他の1実施形態に従って、癌治療のための組成物を提供する。特定の実施形態において、この組成物は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む。特定の実施形態では、前記組成物は、さらに、少なくとも1つの化学療法剤を含む。他の1実施形態では、組成物は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの低酸素毒、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む。前記組成物は、さらに、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤を含む。特定の実施形態では、前記組成物は、MPGのジスルフィド、少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体、および、選択的に、少なくとも1つの他のジスルフィド含有化合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図2】図2は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露した放射線感受性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図3】図3は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図4】図4は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露した放射線耐性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図5】図5は、グルコース存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数としてメルカプトエタノール量を提供するグラフである。
【図6】図6は、グルコース存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数としてメルカプトエタノール量を提供するグラフである。
【図7】図7は、グルコース存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数として細胞内チオール量を描いたグラフである。
【図8】図8は、グルコース存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数として細胞内チオール量を描いたグラフである
【図9】図9は、コントロールのラットおよび、HEDS、エトポシド、またはHEDSおよびエトポシドで処理したラットにおける長期間にわたる乳癌異種移植片の体積のグラフである。
【図10】図10は、グルコース濃度に対する関数としての、ヒト結腸癌細胞中のHEDSの解毒(メルカプトエタノール濃度に基づく)のグラフである。
【図11】図11は、異なるグルコース濃度における、ヒト結腸癌細胞中のチオールの細胞内濃度を描いたグラフである。
【図12】図12は、HEDSおよび異なる濃度のグルコースで処理したヒト結腸癌細胞中のチオールの細胞内濃度を示すグラフである。
【図13】図13は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の増加倍率のグラフである。小さな腫瘍(約139mm3)を有するラットに対して、未処理(コントロール)または40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドの投与のいずれかを施した。
【図14】図14は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の増加倍率のグラフである。大きな腫瘍(約2837mm3)を有するラットに対して、未処理(コントロール)または40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドの投与のいずれかを施した。
【図15】図15は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の変化倍率のグラフである。大きな腫瘍(約2837mm3)を有するラットを、40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドと共にまたは無しで、シスプラチン(2mg/Kg体重)にて処理した。
【図16】図16は、グルコース存在下または非存在下における様々な癌細胞中でのHEDSの解毒(メルカプトエタノール濃度に基づく)のグラフである。
【図17】図17は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露したヒト前立腺癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図18】図18は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露したヒト乳癌細胞の生存を描いたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に記述するとおり、放射線耐性p53変異体HT29結腸癌細胞は、グルコース欠乏時には、より放射線に耐性となることが示された。このことは、グルコース欠乏癌細胞を標的とすることが可能な薬剤同定の重要性を提起する。本発明に従って、酸化的ペントースリン酸回路が異常な細胞に特異的な酸化体/ジスルフィドは、低酸素癌細胞、グルコース欠乏癌細胞、正常酸素圧の癌細胞、およびグルコース含有癌細胞等の固形腫瘍中の様々な種類の癌細胞を標的とするために利用可能であることが決定された。このアプローチは、低酸素および非低酸素の両方の癌細胞を含む全てのグルコース欠乏癌細胞を標的とすることから、放射線および化学療法剤の効率を高める。本発明に従って、グルコースを欠乏した低酸素および非低酸素細胞および酸化的ペントースリン酸回路異常癌細胞に特異的な新規の酸化体もまた提供する。実際、グルコースを介する細胞内代謝活性の欠如は、そうした酸化体/ジスルフィド等が細胞内に蓄積する結果となり、それは細胞死へと導くGSH枯渇を介した酸化ストレス、および放射線および化学療法剤へのヒト癌細胞の応答促進を引き起こす。
【0015】
本発明に従って、癌を治療する方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を、それを必要とする患者に投与する工程を有する。1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、選択的に、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線(例えば、電離放射線)と併用して、低酸素癌細胞および/またはグルコース欠乏癌細胞へと投与される。特定の実施形態では、化学療法剤は少なくとも1つのトポイソメラーゼII阻害剤および/または白金錯体を含む。他の1実施形態では、低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群の少なくとも1つを含む。ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、薬剤および/または放射線と続けて(例えば、その前に、または後に)および/または同時に投与可能である。
【0016】
他の1実施形態では、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤および少なくとも1つのジスルフィド含有化合物の投与によって、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線に対して正常酸素圧の癌細胞の感受性を高めることが可能である。従って、本発明は、治療を必要とする患者における癌治療方法を包含し、ここで、癌は正常酸素圧の細胞を含み、方法は少なくとも1つのG6PD阻害剤および少なくとも1つのジスルフィド含有化合物の、選択的に、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線の前、および/または同時での投与を含む。特定の実施形態では、化学療法剤は少なくとも1つのトポイソメラーゼII阻害剤および/または白金錯体を含む。
【0017】
ジスルフィド含有化合物は容易に入手可能である(例えば、Sigma Aldrich 2006〜2007 catalogを参照)。1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、ジアルキルジスルフィド(例えば、少なくとも1つの硫黄原子を含む低級アルキルのジスルフィド)またはジアリールジスルフィドであり、ここでジスルフィドの構成要素は同じ(対称ジスルフィド)または異なる(非対称ジスルフィド)。他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、限定するわけではないが、チアミンジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィド、およびチアミンテトラヒドロフリルジスルフィド等、チアミンを含むジスルフィドである。他の1実施形態では、例となるジスルフィド含有化合物は、限定するわけではないが、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS;メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)のジスルフィド)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、MPGおよび低級アルキルのジスルフィド、MPGおよびMEのジスルフィド、mesna(2−sulfanylethanesulfonate(2−スルファニルエタンスルホン酸))のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドを含む。特定の実施形態では、ジスルフィド含有化合物はMPGのジスルフィドである。
【0018】
本発明は、少なくとも1つの上述の薬剤(例えば、ジスルフィド含有化合物、G6PD阻害剤、化学療法剤、低酸素毒、等)および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む組成物もまた包含する。特定の実施形態では、本発明の組成物は、癌の治療または予防のために、それを必要とする患者へ投与可能である。
【0019】
本プロトコルを用いて治療できる癌は、限定するわけではないが、前立腺癌、結腸直腸、結腸、膵臓、頸部、胃、子宮内膜、脳、肝臓、膀胱、卵巣、精巣、頭部、首、皮膚(メラノーマおよび基底細胞癌を含む)、中皮ライニング、白血球(リンパ腫および白血病を含む)、食道、胸部、筋肉、結合組織、肺(小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む)、副腎、甲状腺、腎臓、または骨;膠芽腫、中皮腫、腎細胞癌、胃癌、肉腫、絨毛癌、皮膚基底細胞癌、および精巣セミノーマを含む。特定の実施形態では、癌は固形腫瘍である。
【0020】
グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤は、限定するわけではないが、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびsiRNA/shRNA分子(例えば(Park et al.(2005)Mol.Cell Biol.,25:5146〜57;Ho et al.(2006)Cytometry Part A,69A:1054〜1061;WO/2006/117048;Lamberton et al.(2003)Mol.Biotech. 24:111〜119;Invitrogen(カリフォルニア州Carlsbad);Santa Cruz Biotechnologies(カリフォルニア州Santa Cruz);および OriGene Technologies(メリーランド州Rockville)を参照)。
【0021】
定義
本願明細書で用いる場合、「アルキル」という用語は、約1〜20の炭素、特に約1〜10の炭素、およびさらに特に約1〜5の炭素を含む(すなわち、低級アルキル)、直鎖、分岐、および環状鎖の炭化水素を含む。アルキル基の炭化水素鎖は、1若しくはそれ以上の酸素、窒素、または硫黄原子(特に1〜約3個のヘテロ原子、より特に1ヘテロ原子)が間に入ることができ、不飽和(1若しくはそれ以上の2重結合または3重結合を含む)とすることができる。アルキル基は選択的に置換することができる(例えば、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アルコキシル、アルキルチオ、水酸基、メトキシ基、カルボキシル基、オキソ、エポキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アミノ基、カルバモイル、尿素、アルキル尿素、アリール基、エーテル、エステル、チオエステル、ニトリル、ニトロ基、アミド、カルボニル、カルボン酸、スルホン酸、およびチオールによって)。好ましい実施形態では、本発明のアルキルは少なくとも1つの硫黄原子を含む。
【0022】
本願明細書で用いる場合、「アリール」という用語は、環状部分に約6〜10の炭素を含む単環および2環の芳香族基に言及するものである。アリール基は選択的に有効炭素原子を介して置換することができる。芳香族基はヘテロアリール(少なくとも1つの硫黄、酸素、または窒素のヘテロ原子環構成員を含む環系)とすることができる。
【0023】
「医薬的に許容可能」とは、連邦政府または州政府の規制当局による承認を示す。「医薬的に許容可能」な薬剤は、米国薬局方、または動物、およびより詳しくはヒトでの使用についての他の一般的に認知されている薬局方に記載されているであろう。
【0024】
「担体」は、例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤、助剤、または本発明の活性薬剤と共に投与する媒体に言及する。そうした医薬的担体は無菌の液体、例えば水、および石油、動物、野菜または合成起源のものを含む油、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、およびそれらに類するものとすることが可能である。水または水性食塩水および水性D型グルコースおよびグリセロール溶液は、特に注射可能な溶液に、担体として好ましく用いる。適切な医薬的担体は、E.W.Martin著の「Remington‘s Pharmaceutical Sciences」に記述されている。
【0025】
本願明細書で用いる場合、「低酸素(の)」という用語は、正常細胞または組織と比較して低レベルの細胞または組織内の酸素または酸素圧に言及する。それら特定の細胞または組織中の正常な酸素量よりもO2濃度が低い場合に、細胞または組織は低酸素である。「低酸素腫瘍細胞」または「低酸素癌細胞」という用語は、それらに対応する正常細胞または組織よりも低い酸素量または酸素圧を有する腫瘍細胞または組織に言及する。本願明細書で用いる場合、「正常酸素圧(の)」という用語は、目的の細胞および/または組織に対して正常な酸素濃度に言及する。
【0026】
本願明細書で用いる場合、「グルコース欠乏」という用語は、正常細胞または組織と比較して低い細胞または組織中のグルコース量に言及する。それら特定の細胞または組織中でのグルコースの正常量よりもグルコース濃度が低い場合、細胞または組織はグルコース欠乏である。「グルコース欠乏癌細胞」という用語は、対応する正常細胞または組織よりも低レベルのグルコースを有する腫瘍細胞または組織に言及する。本願明細書で用いる場合、「正常グルコース」という用語は目的の細胞および/または組織について通常のグルコース濃度に言及する。
【0027】
化学療法剤は、抗癌作用を示すおよび/または細胞に対して有害である(例えば、毒)化合物である。適切な化学療法剤は、限定するわけではないが、毒(例えば、サポリン、リシン、アブリン、臭化エチジウム、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素、および上に記載した他のもの);アルキル化剤(例えば、クロラムブシル、シクロホスファミド、イソファミド、メクロレタミン、メルファラン、およびウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;チオテパ等のアジリジン;ブスルファン等のメタンスルホン酸エステル;カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン等のニトロソ尿素;白金錯体;ミトマイシン、プロカルバジン、ダカルバジン、およびアルトレタミン等の生体還元性アルキル化剤);DNA鎖切断剤(例えば、ブレオマイシン);トポイソメラーゼII阻害剤;DNA副溝結合剤(例えば、プリカミジン);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサートおよびトリメトリキサート等の葉酸拮抗剤;フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、CB3717、アザシチジン、シタラビン、およびフロクスウリジン等のピリミジン拮抗剤;メルカプトプリン、6−チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン等のプリン拮抗剤;アスパラギナーゼ;およびヒドロキシ尿素等のリボヌクレオチド還元酵素阻害剤);チューブリン相互作用剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびパクリタキセル(タキソール));ホルモン剤(例えば、エストロゲン;結合型エストロゲン;エチニルエストラジオール;ジエチルスチルベステロール;クロルトリアニセン;イデネストロール;ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル、メドロキシプロゲステロン、およびメゲストロール等のプロゲスチン;およびテストステロン、テストステロンプロピオン酸エステル、フルオキシメステロン、およびメチルテストステロン等のアンドロゲン);副腎皮質ホルモン剤(例えば、プレドニゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、およびプレドニゾロン);黄体形成ホルモン放出剤または生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン拮抗剤(例えば、酢酸リュープロリド、および酢酸ゴセレリン);インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、1−メチルトリプトファン);および抗ホルモン抗体(例えば、タモキシフェン、フルタミド等の抗アンドロゲン薬;およびミトタンおよびアミノグルテチミド等の抗副腎剤)。白金錯体は、限定するわけではないが、シスプラチン(シスジアミンジクロロプラチナム(II))、カルボプラチン(ジアミン(1,1−シクロブタン−ジカルボキシレート)−プラチナム(II))、テトラプラチン(オルマプラチン;テトラクロロ(1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’)−プラチナム(IV))、チオプラチン(ビス(O−エチルジチオカルボナート)プラチナム(II))、サトラプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ヘプタプラチン、イプロプラチン、トランスプラチン、ロバプラチン、シス−アミンジクロロ(2−メチルピリジン)プラチナム、JM118(シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)プラチナム(II))、JM149(シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)−トランス−ジヒドロクソプラチナム(IV))、JM216(ビス−酢酸−シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)プラチナム(IV))、JM335(トランス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)ジヒドロクソプラチナム(IV)、および(トランス、トランス、トランス)ビス−mu−(ヘキサン-1,6-ジアミン)−mu−[ジアミン−プラチナム(II)]ビス[ジアミン(クロロ)プラチナム(II)]テトラクロライド)。トポイソメラーゼII阻害剤は、限定するわけではないが、アムサクリン、メノガリル、アモナファイド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、N,N−ジベンジルダウノマイシン、エリプチシン、ダウノマイシン、ピアゾロアクリジン、イダルビシン、ミトキサントロン、m−AMSA、ビサントレン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、デオキシドキソルビシン、エトポシド(VP−16)、リン酸エトポシド、オキサントラゾール、ルビダゾン、エピルビシン、ブレオマイシン、およびテニポシド(VM−26)を含む。
【0028】
「電離放射線」という用語は、腫瘍治療に標準的に利用される放射線に言及する。強い1回の照射または弱い繰り返しの照射のいずれによって投与する放射線も、典型的には水の電離を引き起こし、それによって反応性酸素種を形成する。電離放射線は、限定するわけではないが、X−線、電子線、ガンマ線、およびそれらに類するものを含む。本願明細書で用いる場合、「高用量放射線」という用語は、0.5Gyを超えるあらゆる用量、または細胞を殺傷するために治療的に用いるあらゆる用量に言及する。
【0029】
「低酸素毒」は、限定するわけではないが、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤を含む。
【0030】
本願明細書で用いる場合、「感受性を高める」という用語は、化学療法剤および/または放射線に対しての細胞(例えば、腫瘍細胞)の感受性を増加する薬剤の能力に言及する。放射線増感剤は放射線の毒性効果に対する癌性細胞の感受性を増加する。
【0031】
治療法
本発明の方法に従って患者に投与される化合物は、適切な場合には、単一の医薬組成物に組み入れることができる。あるいは、それぞれの化合物は患者への投与のための別々の医薬組成物に組み入れて、それらをキット中に含めることができる。他の1実施形態では、医薬組成物の成分はそれぞれ異なる(例えば、ジスルフィド含有化合物は化学療法剤とは別の化合物である)。
【0032】
本発明の医薬組成物は、限定するわけではないが、局所的に、経口で、直腸性等のあらゆる投与経路による、静脈内、筋肉、腹腔内への注射による、または腫瘍および/または周辺領域への直接的な投与/注射による阻害剤の輸送に適切な医薬的に許容可能な担体を含む。
【0033】
薬剤の用量および投与計画は、患者の年齢、性別、体重、全般的な病状、および薬剤を投与しようとしている具体的な病状およびその重篤度を勘案して医師が決定する。医師は、薬剤の投与経路、薬剤を組み合わせる医薬的担体、および薬剤の生物活性もまた考慮する。
【0034】
以下に説明する実施例は、本発明の特定の実施形態をより良く説明するために提供する。それらはいかなる意味でも、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0035】
MPGジスルフィド等の本発明のジスルフィドは、Hunter et al.(2006)J.Org.Chem.,71:8268〜8271;Bao and Shimizu(2003)Tetrahedron,59;9655〜9659;Sanz et al.(2002)Synthesis 856〜858;およびその他に記述されている方法によって合成することができる。簡単には、対称ジスルフィドは、ジクロロジオキソモリブデン(VI)による触媒で、ジメチルスルホキシドの存在下でのモノチオールのジスルフィドへの変換によって合成することができる。非対称ジスルフィドは、1−クロロベンゾトリアゾール存在下での2つの異なるモノチオールの非対称ジスルフィドへの変換によって合成することができる。
【実施例2】
【0036】
高い代謝活性、および乱れた血管系による灌流の不足から、多くの固形腫瘍ではグルコース枯渇は一般的である。グルコース枯渇は、ストレスおよび治療に対する耐性を誘導すると考えられている。グルコース欠乏は、既に放射性耐性のp53変異癌細胞において放射線耐性を誘導する。
【0037】
放射線感受性および放射線耐性のヒト結腸癌細胞のガンマ放射線への応答増加のための、酸化体/ジスルフィドであるHEDSの利用を調べた。グルコース含有培地中で、癌細胞はHEDS濃度依存的なHEDSのメルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)への解毒の増加を示した。培地中グルコース枯渇の結果としての細胞内グルコース枯渇は、それら癌細胞によるHEDSのMEへの解毒ができなくなる結果を引き起こした。さらに、HEDSはグルコース欠乏癌細胞中のグルタチオン(glutathione:GSH)を減少させた。
【0038】
図1、2、3、および4は、放射線と併用したHEDSが、放射線感受性(HCT116)および放射線耐性(HT29)のヒト結腸癌細胞の生存を著しく減少させたことを示している。クローン形成法は、HEDSのみではグルコース存在下でのそれら細胞に対してほとんど/全く細胞毒性効果を有しないことを示している(図1および3)。グルコース非存在下では、高濃度のHEDSのみでHCT116の生存を75%減少させたものの、放射線耐性HT29細胞には有意な効果を表さなかった(図1および3)。HEDSおよび放射線の併用処理は、グルコース非存在下での放射線感受性(図2)および耐性(図4)癌細胞の両方でHEDSを介した感受性増強を示した。
【0039】
図1では、放射線感受性ヒト結腸癌細胞HCT116を4時間のあいだグルコース欠乏とし、その後に様々な濃度のHEDSで3時間処理をした。細胞は洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。200コロニー以上にならない濃度で細胞を播種してコロニーアッセイ法を行った。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0040】
図2では、HCT116細胞を4時間のあいだグルコース欠乏とし、様々な濃度のHEDSで1時間処理した後、4Gyの放射線に曝露した。放射線照射の2時間後、細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。次に、図1について上述した通りにコロニーアッセイ法を実施した。
【0041】
図3では、放射線耐性ヒト結腸癌細胞HT29を4時間のあいだグルコース欠乏とし、次に様々な濃度のHEDSで3時間処理した。細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。図4では、HT29細胞を4時間のあいだグルコース欠乏とし、様々な濃度のHEDSで処理した後、4Gyの放射線照射の前に1時間処理した。放射線照射の2時間後に細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。200コロニー以上にならない濃度で細胞を播種してコロニーアッセイ法を行った。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。細胞は洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。
【0042】
図2および4に示したヒト結腸癌細胞の放射線へのより良い応答は、グルコース欠乏癌細胞によるHEDSの解毒不足によるものである。
【0043】
図5および6は、グルコース欠乏ヒト癌細胞中では解毒過程であるHEDSのメルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)への変換が効率的に行われないことを示している。図は、グルコースと共にインキュベートした細胞は3000μMまでの非毒性MEを生成可能であることを示している。グルコースなしの細胞はHEDSの非毒性MEへの変換が6倍非効率である。HEDSをMEに変換する酸化的ペントースリン酸回路に必要な基質であるグルコースは、HEDSの有効な解毒に必要である。この現象は放射線感受性(HCT116)および耐性(HT29)結腸癌細胞の両方で観察された。
【0044】
図5および6では、それぞれヒト結腸癌細胞HCT116およびHT29によるHEDSの解毒/生体内還元を、4時間の細胞グルコース欠乏によって実施した。細胞は次にHEDSで3時間処理して、0.5mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液を含むマイクロチューブへ培養皿からの0.5mlの細胞外培地を移す。サンプルはFisher 59A(ペンシルバニア州Pittsburgh)microfuge中で高速遠心をかけて、DTNB反応性メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)によって測定する生体内還元の定量化に上清を用いる。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0045】
図7および8は、グルコース非存在下でのみ、放射線感受性(HCT116)および放射線耐性(HT29)ヒト結腸癌細胞の両方でHEDSが細胞内チオールを減少させることを示している。細胞はグルコースがある場合には細胞内チオールを維持することでHEDS処理に対処可能であることを図は示している。反対に、グルコース欠乏細胞中ではHEDS処理後に細胞内チオールがコントロールの40%まで減少した。この現象は放射線感受性(HCT116)および耐性(HT29)結腸癌細胞の両方で観察された。
【0046】
ヒト結腸癌細胞HCT116およびHT29中でのHEDSによる細胞内チオールの枯渇は、まず細胞のグルコースを4時間欠乏させることで測定した。3時間のHEDS処理後に、付着した細胞を細胞洗浄液で洗浄して、1mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液で溶解した。サンプルは次にFisher 59A microfuge中で高速遠心をかけて、エルマン試薬を用いた細胞内チオールの定量化に上清を使用した。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0047】
図1〜8に示した結果は、HEDSは、グルコース欠乏癌細胞のチオールの状態変化によってヒト癌細胞のDNA傷害剤への反応性を増強することを明らかに示している。
【実施例3】
【0048】
トポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドへの腫瘍異種移植片の応答を増強するための、酸化体/ジスルフィドであるHEDSの利用もまた調べた。図9は、DNA損傷誘導によって細胞殺傷もするトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドへの、ラット中の腫瘍異種移植片の応答をHEDS処理が増強(少なくとも50%は強い応答)することを示している。エトポシド(12mg/Kg/日)への腫瘍の応答へのHEDS(0および10mg/Kg/日)の効果を、約8×8mmの大きさの腫瘍を有するラットで測定した。生理的食塩水中のHEDSを0および10mg/kgにてIP注入で投与した。HEDS投与の1時間後にそれらラットへIPによってエトポシドを投与した。この治療を連続3日間続けた。腫瘍の成長は2週間までのあいだ週2回測定した。結果は、HEDSおよびエトポシドで処理した場合には、エトポシドのみと比較して腫瘍は50%高い応答をすることを示した。
【0049】
HEDSを用いた場合に見られるこの応答増加は、グルコースの生理的濃度(5mM)と比較して低いグルコース濃度(1〜3mM)ではインビトロでの癌細胞がHEDSを効果的に解毒できず、細胞内チオールが欠乏する結果となった(図10〜12もまた参照)ことと一貫している。それらインビトロおよびインビボでの結果は、生理的濃度(5mM)のグルコースではHEDSを容易に解毒できる(図10および11)一方で、3mM以下のグルコースを有する腫瘍はHEDSに影響される(図10および12)ことを示している。
【0050】
図10では、異なる濃度のグルコースで細胞を4時間インキュベートすることで、ヒト結腸癌細胞HCT116によるグルコース濃度依存的なHEDSの解毒/生体内還元を測定した。3時間のHEDS処理の後に、0.5mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液を含有したマイクロチューブへ培養皿から0.5mlの細胞外培地を移した。Fisher 59A microfuge中でサンプルを高速遠心して、DTNB反応性メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)によって測定する生体内還元の定量化に上清を用いた。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0051】
HCT116細胞中の細胞内チオールの評価のために、細胞を異なる濃度のグルコースで4時間インキュベートした。図12では、細胞を次にHEDSで3時間処理した。処理後に、付着した細胞を細胞洗浄液で洗浄して、1mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液で溶解した。Fisher 59A microfuge中でサンプルを高速遠心して、エルマン試薬を利用した細胞内チオールの定量化に上清を使用した。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【実施例4】
【0052】
HEDSに加えて、MPGジスルフィドを試験した。MPGジスルフィドの構造を以下に示す。
【0053】
【化1】
【0054】
この化合物は、対称ジスルフィド合成方法を用いてBiosynthesis Inc.(テキサス州Lewisville)が合成したものである。質量分析によって決定した観測質量(348.21)は、MPGジスルフィドの化学的構造から計算したMPGジスルフィドの分子量(324.40)と矛盾しない。薄層クロマトグラフィー(溶出剤:n−BuOH:HOAc:H2O 4:2:1)で決定した化合物の純度は>90%である。
【0055】
ラットの乳癌異種移植片モデル中でのシスプラチンへの反応性促進におけるMPGジスルフィドの有効性を試験した。2つの異なる大きさの腫瘍に対してMPGジスルフィドを試験した。それら異なる腫瘍の大きさは、ラット中で腫瘍を6日まで(小さい腫瘍、図13)または12日まで(大きい腫瘍、図14および15)成長させることで得た。MPGジスルフィドは動物に対して無毒であることを確認した。
【0056】
MPGジスルフィドに対する腫瘍の応答は、小さな腫瘍(約139mm3)または大きな腫瘍(約2837mm3)のいずれかでラット中にて測定した。生理食塩水中のMPGジスルフィドを40mg/Kg/日にてIP注入によって投与した。コントロールの動物は食塩水で処理した。この処理を3日連続で続けた。この処理計画はそれら動物でのいかなる観測可能な副作用も引き起こさなかった。いずれの群(コントロールまたはMPGジスルフィド)も少なくとも3匹の動物から成る。各データ点は、示した標準誤差がプロットした点よりも小さくなるように、少なくとも3匹の動物の平均とした。
【0057】
MPGジスルフィドによって促進された、大きな腫瘍のシスプラチンへの応答は、腫瘍体積約2837mm3の腫瘍を有するラット中で測定した。生理的食塩水中のMPGジスルフィドを40mg/kg/日にてIP注入で投与した。MPGジスルフィド投与の1時間後に、シスプラチン(2mg/kg)をそれらラットへIPで投与した。それら動物で、シスプラチン無しのMPGのみの処理をさらに2日間続けた。この処理計画はそれら動物でのいかなる観測可能な副作用も引き起こさなかった。各群(シスプラチン、またはシスプラチンおよびMPGジスルフィド)は少なくとも3匹の動物から成る。各データ点は、示した標準誤差がプロットした点よりも小さくなるように、少なくとも3匹の動物の平均とした。
【0058】
全ての未処理の小さな腫瘍は、13日で136±4.37mm3から27,300mm3へと200倍ほど大きさを増した(図13)。それら動物はその時点で安楽死させた。重要なことには、MPGジスルフィドそれ自体が小さな腫瘍の成長を、処理日の139±4.29mm3から13日目の126±119mm3へと完全に抑制した。
【0059】
大きな腫瘍については、全ての未処理の腫瘍が5日間で2837±204mm3から25,015±2855mm3へとほぼ10倍大きさを増した(図14)。それら動物はその時点で安楽死させた。MPGジスルフィド処理した腫瘍の成長は2848±538mm3から3倍だけ増加し、これは治療後5日目で未処理の動物よりも2.5倍小さかった(図14)。腫瘍は8日目の最大サイズである18,038±1289mm3まで、より遅い速度で成長を続けた。
【0060】
シスプラチンのみでは、2948±180mm3から処理の13日後の4355±577mm3まで腫瘍の成長を抑制した。しかし、シスプラチンおよびMPGジスルフィドの併用では2402±218mm3から治療開始後13日目の112±47mm3へと腫瘍体積が減少しており(図15)いずれの単独処理と比較しても、腫瘍の大きさを遙かに良く(シスプラチン群と比較して38倍小さく)減少させた。
【0061】
これら結果は、MPGジスルフィドは腫瘍に対して化学療法剤として作用し、特に小さい腫瘍(500mm3以下)に対しては単独で投与した場合でも化学療法剤として作用することを示した。しかし、シスプラチン等の化学療法剤と併用したMPGジスルフィドは、シスプラチン単独では排除できなかった大きな腫瘍ですら完全に排除した。
【実施例5】
【0062】
ヒト結腸癌細胞(HCT116およびHT29;実施例2を参照)に加えて、乳癌および前立腺癌細胞を含む他のインビトロのヒト癌細胞に対してもまた、ジスルフィド含有化合物を試験した。2つのヒト結腸癌細胞株で観察されたのと同様に、2つのヒト乳癌細胞株(MCF7、SKBR3)および4つの前立腺癌細胞株(DU145、PC3、DU145、LnCaP)もまた、グルコース枯渇培地中では解毒プロセスであるHEDSからMEへの変換ができないことを示した。図16は、6つの異なる種類のヒト癌細胞(HCT116、HT29、PC3、DU145、MCF7、SKBR3、LnCaP)が、グルコース非存在下でHEDSをMEへと変換できないことを示している(3回の実験の平均値および標準誤差を示した)。それら結果は、HEDSおよび/またはMPGジスルフィド等のジスルフィド化合物の投与は、特に他の既存の癌治療法と併用した場合に、幅広い種類の癌の治療に利用可能であることを示している。
【0063】
図17および18は、HEDSの投与が化学療法剤、特にDNA傷害剤への他の種類の癌細胞の応答もまた増強することを示している。図17および18は、グルコース存在下および非存在下における乳癌細胞株(MCF7)および前立腺癌細胞株(DU145)の放射線応答へのHEDSの影響を示す。結果は、MCF7およびDU145の両方の放射線への応答が、グルコース非存在下ではHEDSによって著しく増加したことを示す。それら放射線に関する結果は、ジスルフィド含有化合物は癌細胞の化学療法剤への、特にDNA傷害剤への応答の増加に全般的に利用可能であろうことを示す。
【0064】
以上には本発明の特定の好ましい実施例を記述および具体的に例示したものの、本発明がそれら実施例に限定されることを意図したものではない。以下の請求項に説明するとおり、本発明の範囲および精神から逸脱すること無しに、それら実施例に対して様々な修正をすることができる。
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年11月20日に出願された米国仮出願第60/989,383号に対する米国特許法119条(e)の下における優先権を主張するものである。前記出願はこの参照によって本願明細書に組み込まれるものである。
【0002】
米国特許法202条(c)に準じて、その一部は米国国立衛生研究所からの助成金である助成金番号CA109604によって成され、ここに記述する本発明における、一定の権利を米国政府が有することを承認する。
【0003】
本発明は、ジスルフィド化学療法剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
本発明が関連する最新技術を記述するために、本願明細書を通して幾つかの刊行物および特許文書を引用する。それら引用のそれぞれは、参照によって完全に説明したのと同様に本願明細書に取り込まれるものである。
【0005】
放射線および化学療法剤はヒトの癌、特に固形腫瘍の治療において有効である。しかし、初期治療で生き残った癌細胞はそれに続く治療に対して耐性となる。この後続の治療に対する耐性は、それら患者の全体の生存率低下の主因である。低酸素もまた、癌治療の結果において主要な役割を果たすことが知られている。ヒト固形腫瘍の大部分は低酸素を示す。残念なことに、低酸素の腫瘍細胞は、放射線治療および化学療法に対して正常酸素圧の腫瘍細胞よりも耐性が高く、それら低酸素の細胞は疾患再発の重要な要因と考えられている(例えば、Teicher et al.(1990) Cancer Res., 50:3339〜3344;Grau and Overgaard (1988) Radiother. Oncol. 13:301〜309を参照)。幾つかの研究では、低酸素の固形腫瘍細胞はグルコースもまた欠乏していることが示されている。
【0006】
低酸素および正常酸素圧の両方から成るグルコース欠乏癌細胞は、化学療法剤に対してさらに耐性がある(Cui et al.(2007) Cancer Res.,67:3345〜55)。高い代謝活性および、乱れた血管系による灌流の欠如のため、多くの固形腫瘍ではグルコース枯渇が良く見られる。それはまた、ストレス耐性を誘導するとも考えられている。グルコースの全体の定常状態レベルは固形腫瘍、特に低酸素の腫瘍において低いと考えられるため、グルコース欠乏の癌細胞に対する影響の理解について複数の研究室の興味が近年急増している(Aronen et al.(2000) Clin. Cancer Res.,6:2189〜200;Rajendran et al.(2004)Clin. Cancer Res.,10:2245〜52;Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。グルコース量の減少は癌細胞の高い代謝活性によるものであろうと提唱されている(Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。乱れた血管系によって引き起こされる虚血状態もまた、固形腫瘍における低レベルのグルコースに関与している可能性がある(Schroeder et al.(2005)Cancer Res.,65:5163〜71)。最近の幾つかの研究では、癌細胞に対するグルコース欠乏の影響をインビトロで検証している(Yun et al.(2005)J.Biol.Chem.,280:9963〜9972;Katol et al.(2002)Oncogene,21:6082〜6090;Ryoo et al.(2006)Biol.Pharm.Bull.29:817〜820)。それらの研究は、グルコース欠乏腫瘍細胞の生存における複数の分子機構の関与を示している。グルコース欠乏にも関わらずに、癌細胞の生存および治療に対する反応性の低下を可能にする生存分子(survival molecule)を誘導することから、グルコース枯渇癌細胞を標的とする重要性を、それらの研究は示した。
【0007】
グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)は、酸化的ペントースリン酸回路(oxidative pentose phosphate cycle:OPPC)の1番目のおよび律速段階の酵素である。OPPCの基質であるグルコースは、OPPCを介した酸化体/ジスルフィドの解毒に必要である。グルコースは、還元体を生成するために酸化的ペントースリン酸回路によって基質として利用される。それら還元体は、酸化体/ジスルフィドに曝露された場合に、哺乳類細胞中で還元型グルタチオンの恒常性を維持するために利用される。グルタチオンは、グリシン、システイン、およびグルタミン酸から成るトリペプチドである。通常状態の哺乳類細胞中では、還元型GSHは酸化型GSH(GSSG)の100倍まで多くなる。しかし、酸化体/ジスルフィドによって生産される酸化型GSHは癌細胞にとって有害である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1態様に従って、治療を必要とする患者での癌治療方法を提供する。1実施形態では、方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および医薬的に許容可能な担体を含む組成物の投与の工程を有する。ジスルフィド含有化合物は、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド(グリシンプロピオニルジスルフィド)、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されることができる。他の1実施形態では、癌細胞は、低酸素、正常酸素圧、グルコース欠乏、正常グルコース、および/または放射線および/または化学療法剤に対して耐性である。
【0009】
他の1実施形態に従って、癌が低酸素癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法を提供する。1実施形態において、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線を投与する工程を有する。特定の実施形態では、化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択される。他の1実施形態では、低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択される。さらに他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素剤、および/または放射線と続けて、および/または同時に投与される。
【0010】
他の1態様に従って、癌がグルコース欠乏正常酸素圧の癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法を提供する。1実施形態では、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線を投与する工程を有する。特定の実施形態では、化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択される。さらに他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線と続けて、および/または同時に投与される。
【0011】
癌が正常グルコースを有する正常酸素圧の癌細胞を含む場合における、治療を必要とする患者における癌を治療する方法もまた提供する。1実施形態では、前記方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を投与する工程、および選択的に、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤および/または少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線を投与する工程を有する。G6PDの阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDを標的としたsiRNA/shRNA分子から成る群から選択されることができる。
【0012】
本発明の他の1実施形態に従って、癌治療のための組成物を提供する。特定の実施形態において、この組成物は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む。特定の実施形態では、前記組成物は、さらに、少なくとも1つの化学療法剤を含む。他の1実施形態では、組成物は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの低酸素毒、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む。前記組成物は、さらに、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤を含む。特定の実施形態では、前記組成物は、MPGのジスルフィド、少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体、および、選択的に、少なくとも1つの他のジスルフィド含有化合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図2】図2は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露した放射線感受性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図3】図3は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図4】図4は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露した放射線耐性ヒト結腸癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図5】図5は、グルコース存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数としてメルカプトエタノール量を提供するグラフである。
【図6】図6は、グルコース存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数としてメルカプトエタノール量を提供するグラフである。
【図7】図7は、グルコース存在下または非存在下における放射線感受性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数として細胞内チオール量を描いたグラフである。
【図8】図8は、グルコース存在下または非存在下における放射線耐性ヒト結腸癌細胞でのHEDS濃度に対する関数として細胞内チオール量を描いたグラフである
【図9】図9は、コントロールのラットおよび、HEDS、エトポシド、またはHEDSおよびエトポシドで処理したラットにおける長期間にわたる乳癌異種移植片の体積のグラフである。
【図10】図10は、グルコース濃度に対する関数としての、ヒト結腸癌細胞中のHEDSの解毒(メルカプトエタノール濃度に基づく)のグラフである。
【図11】図11は、異なるグルコース濃度における、ヒト結腸癌細胞中のチオールの細胞内濃度を描いたグラフである。
【図12】図12は、HEDSおよび異なる濃度のグルコースで処理したヒト結腸癌細胞中のチオールの細胞内濃度を示すグラフである。
【図13】図13は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の増加倍率のグラフである。小さな腫瘍(約139mm3)を有するラットに対して、未処理(コントロール)または40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドの投与のいずれかを施した。
【図14】図14は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の増加倍率のグラフである。大きな腫瘍(約2837mm3)を有するラットに対して、未処理(コントロール)または40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドの投与のいずれかを施した。
【図15】図15は、乳癌異種移植ラットモデルでの長期にわたる腫瘍体積の変化倍率のグラフである。大きな腫瘍(約2837mm3)を有するラットを、40mg/Kg/日でのMPGジスルフィドと共にまたは無しで、シスプラチン(2mg/Kg体重)にて処理した。
【図16】図16は、グルコース存在下または非存在下における様々な癌細胞中でのHEDSの解毒(メルカプトエタノール濃度に基づく)のグラフである。
【図17】図17は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露したヒト前立腺癌細胞の生存を描いたグラフである。
【図18】図18は、グルコースおよび様々な量のHEDSの存在下または非存在下において4Gyのガンマ線照射に曝露したヒト乳癌細胞の生存を描いたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に記述するとおり、放射線耐性p53変異体HT29結腸癌細胞は、グルコース欠乏時には、より放射線に耐性となることが示された。このことは、グルコース欠乏癌細胞を標的とすることが可能な薬剤同定の重要性を提起する。本発明に従って、酸化的ペントースリン酸回路が異常な細胞に特異的な酸化体/ジスルフィドは、低酸素癌細胞、グルコース欠乏癌細胞、正常酸素圧の癌細胞、およびグルコース含有癌細胞等の固形腫瘍中の様々な種類の癌細胞を標的とするために利用可能であることが決定された。このアプローチは、低酸素および非低酸素の両方の癌細胞を含む全てのグルコース欠乏癌細胞を標的とすることから、放射線および化学療法剤の効率を高める。本発明に従って、グルコースを欠乏した低酸素および非低酸素細胞および酸化的ペントースリン酸回路異常癌細胞に特異的な新規の酸化体もまた提供する。実際、グルコースを介する細胞内代謝活性の欠如は、そうした酸化体/ジスルフィド等が細胞内に蓄積する結果となり、それは細胞死へと導くGSH枯渇を介した酸化ストレス、および放射線および化学療法剤へのヒト癌細胞の応答促進を引き起こす。
【0015】
本発明に従って、癌を治療する方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物を、それを必要とする患者に投与する工程を有する。1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、選択的に、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、および/または放射線(例えば、電離放射線)と併用して、低酸素癌細胞および/またはグルコース欠乏癌細胞へと投与される。特定の実施形態では、化学療法剤は少なくとも1つのトポイソメラーゼII阻害剤および/または白金錯体を含む。他の1実施形態では、低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群の少なくとも1つを含む。ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つの化学療法剤、低酸素毒、薬剤および/または放射線と続けて(例えば、その前に、または後に)および/または同時に投与可能である。
【0016】
他の1実施形態では、少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤および少なくとも1つのジスルフィド含有化合物の投与によって、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線に対して正常酸素圧の癌細胞の感受性を高めることが可能である。従って、本発明は、治療を必要とする患者における癌治療方法を包含し、ここで、癌は正常酸素圧の細胞を含み、方法は少なくとも1つのG6PD阻害剤および少なくとも1つのジスルフィド含有化合物の、選択的に、少なくとも1つの化学療法剤および/または放射線の前、および/または同時での投与を含む。特定の実施形態では、化学療法剤は少なくとも1つのトポイソメラーゼII阻害剤および/または白金錯体を含む。
【0017】
ジスルフィド含有化合物は容易に入手可能である(例えば、Sigma Aldrich 2006〜2007 catalogを参照)。1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、ジアルキルジスルフィド(例えば、少なくとも1つの硫黄原子を含む低級アルキルのジスルフィド)またはジアリールジスルフィドであり、ここでジスルフィドの構成要素は同じ(対称ジスルフィド)または異なる(非対称ジスルフィド)。他の1実施形態では、ジスルフィド含有化合物は、限定するわけではないが、チアミンジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィド、およびチアミンテトラヒドロフリルジスルフィド等、チアミンを含むジスルフィドである。他の1実施形態では、例となるジスルフィド含有化合物は、限定するわけではないが、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS;メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)のジスルフィド)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、MPGおよび低級アルキルのジスルフィド、MPGおよびMEのジスルフィド、mesna(2−sulfanylethanesulfonate(2−スルファニルエタンスルホン酸))のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドを含む。特定の実施形態では、ジスルフィド含有化合物はMPGのジスルフィドである。
【0018】
本発明は、少なくとも1つの上述の薬剤(例えば、ジスルフィド含有化合物、G6PD阻害剤、化学療法剤、低酸素毒、等)および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を含む組成物もまた包含する。特定の実施形態では、本発明の組成物は、癌の治療または予防のために、それを必要とする患者へ投与可能である。
【0019】
本プロトコルを用いて治療できる癌は、限定するわけではないが、前立腺癌、結腸直腸、結腸、膵臓、頸部、胃、子宮内膜、脳、肝臓、膀胱、卵巣、精巣、頭部、首、皮膚(メラノーマおよび基底細胞癌を含む)、中皮ライニング、白血球(リンパ腫および白血病を含む)、食道、胸部、筋肉、結合組織、肺(小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む)、副腎、甲状腺、腎臓、または骨;膠芽腫、中皮腫、腎細胞癌、胃癌、肉腫、絨毛癌、皮膚基底細胞癌、および精巣セミノーマを含む。特定の実施形態では、癌は固形腫瘍である。
【0020】
グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)の阻害剤は、限定するわけではないが、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびsiRNA/shRNA分子(例えば(Park et al.(2005)Mol.Cell Biol.,25:5146〜57;Ho et al.(2006)Cytometry Part A,69A:1054〜1061;WO/2006/117048;Lamberton et al.(2003)Mol.Biotech. 24:111〜119;Invitrogen(カリフォルニア州Carlsbad);Santa Cruz Biotechnologies(カリフォルニア州Santa Cruz);および OriGene Technologies(メリーランド州Rockville)を参照)。
【0021】
定義
本願明細書で用いる場合、「アルキル」という用語は、約1〜20の炭素、特に約1〜10の炭素、およびさらに特に約1〜5の炭素を含む(すなわち、低級アルキル)、直鎖、分岐、および環状鎖の炭化水素を含む。アルキル基の炭化水素鎖は、1若しくはそれ以上の酸素、窒素、または硫黄原子(特に1〜約3個のヘテロ原子、より特に1ヘテロ原子)が間に入ることができ、不飽和(1若しくはそれ以上の2重結合または3重結合を含む)とすることができる。アルキル基は選択的に置換することができる(例えば、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アルコキシル、アルキルチオ、水酸基、メトキシ基、カルボキシル基、オキソ、エポキシ、アルキルオキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アミノ基、カルバモイル、尿素、アルキル尿素、アリール基、エーテル、エステル、チオエステル、ニトリル、ニトロ基、アミド、カルボニル、カルボン酸、スルホン酸、およびチオールによって)。好ましい実施形態では、本発明のアルキルは少なくとも1つの硫黄原子を含む。
【0022】
本願明細書で用いる場合、「アリール」という用語は、環状部分に約6〜10の炭素を含む単環および2環の芳香族基に言及するものである。アリール基は選択的に有効炭素原子を介して置換することができる。芳香族基はヘテロアリール(少なくとも1つの硫黄、酸素、または窒素のヘテロ原子環構成員を含む環系)とすることができる。
【0023】
「医薬的に許容可能」とは、連邦政府または州政府の規制当局による承認を示す。「医薬的に許容可能」な薬剤は、米国薬局方、または動物、およびより詳しくはヒトでの使用についての他の一般的に認知されている薬局方に記載されているであろう。
【0024】
「担体」は、例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤、助剤、または本発明の活性薬剤と共に投与する媒体に言及する。そうした医薬的担体は無菌の液体、例えば水、および石油、動物、野菜または合成起源のものを含む油、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、およびそれらに類するものとすることが可能である。水または水性食塩水および水性D型グルコースおよびグリセロール溶液は、特に注射可能な溶液に、担体として好ましく用いる。適切な医薬的担体は、E.W.Martin著の「Remington‘s Pharmaceutical Sciences」に記述されている。
【0025】
本願明細書で用いる場合、「低酸素(の)」という用語は、正常細胞または組織と比較して低レベルの細胞または組織内の酸素または酸素圧に言及する。それら特定の細胞または組織中の正常な酸素量よりもO2濃度が低い場合に、細胞または組織は低酸素である。「低酸素腫瘍細胞」または「低酸素癌細胞」という用語は、それらに対応する正常細胞または組織よりも低い酸素量または酸素圧を有する腫瘍細胞または組織に言及する。本願明細書で用いる場合、「正常酸素圧(の)」という用語は、目的の細胞および/または組織に対して正常な酸素濃度に言及する。
【0026】
本願明細書で用いる場合、「グルコース欠乏」という用語は、正常細胞または組織と比較して低い細胞または組織中のグルコース量に言及する。それら特定の細胞または組織中でのグルコースの正常量よりもグルコース濃度が低い場合、細胞または組織はグルコース欠乏である。「グルコース欠乏癌細胞」という用語は、対応する正常細胞または組織よりも低レベルのグルコースを有する腫瘍細胞または組織に言及する。本願明細書で用いる場合、「正常グルコース」という用語は目的の細胞および/または組織について通常のグルコース濃度に言及する。
【0027】
化学療法剤は、抗癌作用を示すおよび/または細胞に対して有害である(例えば、毒)化合物である。適切な化学療法剤は、限定するわけではないが、毒(例えば、サポリン、リシン、アブリン、臭化エチジウム、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素、および上に記載した他のもの);アルキル化剤(例えば、クロラムブシル、シクロホスファミド、イソファミド、メクロレタミン、メルファラン、およびウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;チオテパ等のアジリジン;ブスルファン等のメタンスルホン酸エステル;カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン等のニトロソ尿素;白金錯体;ミトマイシン、プロカルバジン、ダカルバジン、およびアルトレタミン等の生体還元性アルキル化剤);DNA鎖切断剤(例えば、ブレオマイシン);トポイソメラーゼII阻害剤;DNA副溝結合剤(例えば、プリカミジン);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサートおよびトリメトリキサート等の葉酸拮抗剤;フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、CB3717、アザシチジン、シタラビン、およびフロクスウリジン等のピリミジン拮抗剤;メルカプトプリン、6−チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン等のプリン拮抗剤;アスパラギナーゼ;およびヒドロキシ尿素等のリボヌクレオチド還元酵素阻害剤);チューブリン相互作用剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびパクリタキセル(タキソール));ホルモン剤(例えば、エストロゲン;結合型エストロゲン;エチニルエストラジオール;ジエチルスチルベステロール;クロルトリアニセン;イデネストロール;ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル、メドロキシプロゲステロン、およびメゲストロール等のプロゲスチン;およびテストステロン、テストステロンプロピオン酸エステル、フルオキシメステロン、およびメチルテストステロン等のアンドロゲン);副腎皮質ホルモン剤(例えば、プレドニゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、およびプレドニゾロン);黄体形成ホルモン放出剤または生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン拮抗剤(例えば、酢酸リュープロリド、および酢酸ゴセレリン);インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、1−メチルトリプトファン);および抗ホルモン抗体(例えば、タモキシフェン、フルタミド等の抗アンドロゲン薬;およびミトタンおよびアミノグルテチミド等の抗副腎剤)。白金錯体は、限定するわけではないが、シスプラチン(シスジアミンジクロロプラチナム(II))、カルボプラチン(ジアミン(1,1−シクロブタン−ジカルボキシレート)−プラチナム(II))、テトラプラチン(オルマプラチン;テトラクロロ(1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’)−プラチナム(IV))、チオプラチン(ビス(O−エチルジチオカルボナート)プラチナム(II))、サトラプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ヘプタプラチン、イプロプラチン、トランスプラチン、ロバプラチン、シス−アミンジクロロ(2−メチルピリジン)プラチナム、JM118(シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)プラチナム(II))、JM149(シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)−トランス−ジヒドロクソプラチナム(IV))、JM216(ビス−酢酸−シス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)プラチナム(IV))、JM335(トランス−アミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)ジヒドロクソプラチナム(IV)、および(トランス、トランス、トランス)ビス−mu−(ヘキサン-1,6-ジアミン)−mu−[ジアミン−プラチナム(II)]ビス[ジアミン(クロロ)プラチナム(II)]テトラクロライド)。トポイソメラーゼII阻害剤は、限定するわけではないが、アムサクリン、メノガリル、アモナファイド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、N,N−ジベンジルダウノマイシン、エリプチシン、ダウノマイシン、ピアゾロアクリジン、イダルビシン、ミトキサントロン、m−AMSA、ビサントレン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、デオキシドキソルビシン、エトポシド(VP−16)、リン酸エトポシド、オキサントラゾール、ルビダゾン、エピルビシン、ブレオマイシン、およびテニポシド(VM−26)を含む。
【0028】
「電離放射線」という用語は、腫瘍治療に標準的に利用される放射線に言及する。強い1回の照射または弱い繰り返しの照射のいずれによって投与する放射線も、典型的には水の電離を引き起こし、それによって反応性酸素種を形成する。電離放射線は、限定するわけではないが、X−線、電子線、ガンマ線、およびそれらに類するものを含む。本願明細書で用いる場合、「高用量放射線」という用語は、0.5Gyを超えるあらゆる用量、または細胞を殺傷するために治療的に用いるあらゆる用量に言及する。
【0029】
「低酸素毒」は、限定するわけではないが、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤を含む。
【0030】
本願明細書で用いる場合、「感受性を高める」という用語は、化学療法剤および/または放射線に対しての細胞(例えば、腫瘍細胞)の感受性を増加する薬剤の能力に言及する。放射線増感剤は放射線の毒性効果に対する癌性細胞の感受性を増加する。
【0031】
治療法
本発明の方法に従って患者に投与される化合物は、適切な場合には、単一の医薬組成物に組み入れることができる。あるいは、それぞれの化合物は患者への投与のための別々の医薬組成物に組み入れて、それらをキット中に含めることができる。他の1実施形態では、医薬組成物の成分はそれぞれ異なる(例えば、ジスルフィド含有化合物は化学療法剤とは別の化合物である)。
【0032】
本発明の医薬組成物は、限定するわけではないが、局所的に、経口で、直腸性等のあらゆる投与経路による、静脈内、筋肉、腹腔内への注射による、または腫瘍および/または周辺領域への直接的な投与/注射による阻害剤の輸送に適切な医薬的に許容可能な担体を含む。
【0033】
薬剤の用量および投与計画は、患者の年齢、性別、体重、全般的な病状、および薬剤を投与しようとしている具体的な病状およびその重篤度を勘案して医師が決定する。医師は、薬剤の投与経路、薬剤を組み合わせる医薬的担体、および薬剤の生物活性もまた考慮する。
【0034】
以下に説明する実施例は、本発明の特定の実施形態をより良く説明するために提供する。それらはいかなる意味でも、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0035】
MPGジスルフィド等の本発明のジスルフィドは、Hunter et al.(2006)J.Org.Chem.,71:8268〜8271;Bao and Shimizu(2003)Tetrahedron,59;9655〜9659;Sanz et al.(2002)Synthesis 856〜858;およびその他に記述されている方法によって合成することができる。簡単には、対称ジスルフィドは、ジクロロジオキソモリブデン(VI)による触媒で、ジメチルスルホキシドの存在下でのモノチオールのジスルフィドへの変換によって合成することができる。非対称ジスルフィドは、1−クロロベンゾトリアゾール存在下での2つの異なるモノチオールの非対称ジスルフィドへの変換によって合成することができる。
【実施例2】
【0036】
高い代謝活性、および乱れた血管系による灌流の不足から、多くの固形腫瘍ではグルコース枯渇は一般的である。グルコース枯渇は、ストレスおよび治療に対する耐性を誘導すると考えられている。グルコース欠乏は、既に放射性耐性のp53変異癌細胞において放射線耐性を誘導する。
【0037】
放射線感受性および放射線耐性のヒト結腸癌細胞のガンマ放射線への応答増加のための、酸化体/ジスルフィドであるHEDSの利用を調べた。グルコース含有培地中で、癌細胞はHEDS濃度依存的なHEDSのメルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)への解毒の増加を示した。培地中グルコース枯渇の結果としての細胞内グルコース枯渇は、それら癌細胞によるHEDSのMEへの解毒ができなくなる結果を引き起こした。さらに、HEDSはグルコース欠乏癌細胞中のグルタチオン(glutathione:GSH)を減少させた。
【0038】
図1、2、3、および4は、放射線と併用したHEDSが、放射線感受性(HCT116)および放射線耐性(HT29)のヒト結腸癌細胞の生存を著しく減少させたことを示している。クローン形成法は、HEDSのみではグルコース存在下でのそれら細胞に対してほとんど/全く細胞毒性効果を有しないことを示している(図1および3)。グルコース非存在下では、高濃度のHEDSのみでHCT116の生存を75%減少させたものの、放射線耐性HT29細胞には有意な効果を表さなかった(図1および3)。HEDSおよび放射線の併用処理は、グルコース非存在下での放射線感受性(図2)および耐性(図4)癌細胞の両方でHEDSを介した感受性増強を示した。
【0039】
図1では、放射線感受性ヒト結腸癌細胞HCT116を4時間のあいだグルコース欠乏とし、その後に様々な濃度のHEDSで3時間処理をした。細胞は洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。200コロニー以上にならない濃度で細胞を播種してコロニーアッセイ法を行った。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0040】
図2では、HCT116細胞を4時間のあいだグルコース欠乏とし、様々な濃度のHEDSで1時間処理した後、4Gyの放射線に曝露した。放射線照射の2時間後、細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。次に、図1について上述した通りにコロニーアッセイ法を実施した。
【0041】
図3では、放射線耐性ヒト結腸癌細胞HT29を4時間のあいだグルコース欠乏とし、次に様々な濃度のHEDSで3時間処理した。細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。図4では、HT29細胞を4時間のあいだグルコース欠乏とし、様々な濃度のHEDSで処理した後、4Gyの放射線照射の前に1時間処理した。放射線照射の2時間後に細胞を洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。200コロニー以上にならない濃度で細胞を播種してコロニーアッセイ法を行った。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。細胞は洗浄して新鮮な成長培地を再び注いだ。
【0042】
図2および4に示したヒト結腸癌細胞の放射線へのより良い応答は、グルコース欠乏癌細胞によるHEDSの解毒不足によるものである。
【0043】
図5および6は、グルコース欠乏ヒト癌細胞中では解毒過程であるHEDSのメルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)への変換が効率的に行われないことを示している。図は、グルコースと共にインキュベートした細胞は3000μMまでの非毒性MEを生成可能であることを示している。グルコースなしの細胞はHEDSの非毒性MEへの変換が6倍非効率である。HEDSをMEに変換する酸化的ペントースリン酸回路に必要な基質であるグルコースは、HEDSの有効な解毒に必要である。この現象は放射線感受性(HCT116)および耐性(HT29)結腸癌細胞の両方で観察された。
【0044】
図5および6では、それぞれヒト結腸癌細胞HCT116およびHT29によるHEDSの解毒/生体内還元を、4時間の細胞グルコース欠乏によって実施した。細胞は次にHEDSで3時間処理して、0.5mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液を含むマイクロチューブへ培養皿からの0.5mlの細胞外培地を移す。サンプルはFisher 59A(ペンシルバニア州Pittsburgh)microfuge中で高速遠心をかけて、DTNB反応性メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)によって測定する生体内還元の定量化に上清を用いる。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0045】
図7および8は、グルコース非存在下でのみ、放射線感受性(HCT116)および放射線耐性(HT29)ヒト結腸癌細胞の両方でHEDSが細胞内チオールを減少させることを示している。細胞はグルコースがある場合には細胞内チオールを維持することでHEDS処理に対処可能であることを図は示している。反対に、グルコース欠乏細胞中ではHEDS処理後に細胞内チオールがコントロールの40%まで減少した。この現象は放射線感受性(HCT116)および耐性(HT29)結腸癌細胞の両方で観察された。
【0046】
ヒト結腸癌細胞HCT116およびHT29中でのHEDSによる細胞内チオールの枯渇は、まず細胞のグルコースを4時間欠乏させることで測定した。3時間のHEDS処理後に、付着した細胞を細胞洗浄液で洗浄して、1mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液で溶解した。サンプルは次にFisher 59A microfuge中で高速遠心をかけて、エルマン試薬を用いた細胞内チオールの定量化に上清を使用した。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0047】
図1〜8に示した結果は、HEDSは、グルコース欠乏癌細胞のチオールの状態変化によってヒト癌細胞のDNA傷害剤への反応性を増強することを明らかに示している。
【実施例3】
【0048】
トポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドへの腫瘍異種移植片の応答を増強するための、酸化体/ジスルフィドであるHEDSの利用もまた調べた。図9は、DNA損傷誘導によって細胞殺傷もするトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドへの、ラット中の腫瘍異種移植片の応答をHEDS処理が増強(少なくとも50%は強い応答)することを示している。エトポシド(12mg/Kg/日)への腫瘍の応答へのHEDS(0および10mg/Kg/日)の効果を、約8×8mmの大きさの腫瘍を有するラットで測定した。生理的食塩水中のHEDSを0および10mg/kgにてIP注入で投与した。HEDS投与の1時間後にそれらラットへIPによってエトポシドを投与した。この治療を連続3日間続けた。腫瘍の成長は2週間までのあいだ週2回測定した。結果は、HEDSおよびエトポシドで処理した場合には、エトポシドのみと比較して腫瘍は50%高い応答をすることを示した。
【0049】
HEDSを用いた場合に見られるこの応答増加は、グルコースの生理的濃度(5mM)と比較して低いグルコース濃度(1〜3mM)ではインビトロでの癌細胞がHEDSを効果的に解毒できず、細胞内チオールが欠乏する結果となった(図10〜12もまた参照)ことと一貫している。それらインビトロおよびインビボでの結果は、生理的濃度(5mM)のグルコースではHEDSを容易に解毒できる(図10および11)一方で、3mM以下のグルコースを有する腫瘍はHEDSに影響される(図10および12)ことを示している。
【0050】
図10では、異なる濃度のグルコースで細胞を4時間インキュベートすることで、ヒト結腸癌細胞HCT116によるグルコース濃度依存的なHEDSの解毒/生体内還元を測定した。3時間のHEDS処理の後に、0.5mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液を含有したマイクロチューブへ培養皿から0.5mlの細胞外培地を移した。Fisher 59A microfuge中でサンプルを高速遠心して、DTNB反応性メルカプトエタノール(mercaptoethanol:ME)によって測定する生体内還元の定量化に上清を用いた。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【0051】
HCT116細胞中の細胞内チオールの評価のために、細胞を異なる濃度のグルコースで4時間インキュベートした。図12では、細胞を次にHEDSで3時間処理した。処理後に、付着した細胞を細胞洗浄液で洗浄して、1mlのスルホサリチル酸(sulphosalicyclic acid:SSA)溶解緩衝液で溶解した。Fisher 59A microfuge中でサンプルを高速遠心して、エルマン試薬を利用した細胞内チオールの定量化に上清を使用した。各実験はプロットした点よりも誤差が少なくなるまで少なくとも3回は繰り返し行った。
【実施例4】
【0052】
HEDSに加えて、MPGジスルフィドを試験した。MPGジスルフィドの構造を以下に示す。
【0053】
【化1】
【0054】
この化合物は、対称ジスルフィド合成方法を用いてBiosynthesis Inc.(テキサス州Lewisville)が合成したものである。質量分析によって決定した観測質量(348.21)は、MPGジスルフィドの化学的構造から計算したMPGジスルフィドの分子量(324.40)と矛盾しない。薄層クロマトグラフィー(溶出剤:n−BuOH:HOAc:H2O 4:2:1)で決定した化合物の純度は>90%である。
【0055】
ラットの乳癌異種移植片モデル中でのシスプラチンへの反応性促進におけるMPGジスルフィドの有効性を試験した。2つの異なる大きさの腫瘍に対してMPGジスルフィドを試験した。それら異なる腫瘍の大きさは、ラット中で腫瘍を6日まで(小さい腫瘍、図13)または12日まで(大きい腫瘍、図14および15)成長させることで得た。MPGジスルフィドは動物に対して無毒であることを確認した。
【0056】
MPGジスルフィドに対する腫瘍の応答は、小さな腫瘍(約139mm3)または大きな腫瘍(約2837mm3)のいずれかでラット中にて測定した。生理食塩水中のMPGジスルフィドを40mg/Kg/日にてIP注入によって投与した。コントロールの動物は食塩水で処理した。この処理を3日連続で続けた。この処理計画はそれら動物でのいかなる観測可能な副作用も引き起こさなかった。いずれの群(コントロールまたはMPGジスルフィド)も少なくとも3匹の動物から成る。各データ点は、示した標準誤差がプロットした点よりも小さくなるように、少なくとも3匹の動物の平均とした。
【0057】
MPGジスルフィドによって促進された、大きな腫瘍のシスプラチンへの応答は、腫瘍体積約2837mm3の腫瘍を有するラット中で測定した。生理的食塩水中のMPGジスルフィドを40mg/kg/日にてIP注入で投与した。MPGジスルフィド投与の1時間後に、シスプラチン(2mg/kg)をそれらラットへIPで投与した。それら動物で、シスプラチン無しのMPGのみの処理をさらに2日間続けた。この処理計画はそれら動物でのいかなる観測可能な副作用も引き起こさなかった。各群(シスプラチン、またはシスプラチンおよびMPGジスルフィド)は少なくとも3匹の動物から成る。各データ点は、示した標準誤差がプロットした点よりも小さくなるように、少なくとも3匹の動物の平均とした。
【0058】
全ての未処理の小さな腫瘍は、13日で136±4.37mm3から27,300mm3へと200倍ほど大きさを増した(図13)。それら動物はその時点で安楽死させた。重要なことには、MPGジスルフィドそれ自体が小さな腫瘍の成長を、処理日の139±4.29mm3から13日目の126±119mm3へと完全に抑制した。
【0059】
大きな腫瘍については、全ての未処理の腫瘍が5日間で2837±204mm3から25,015±2855mm3へとほぼ10倍大きさを増した(図14)。それら動物はその時点で安楽死させた。MPGジスルフィド処理した腫瘍の成長は2848±538mm3から3倍だけ増加し、これは治療後5日目で未処理の動物よりも2.5倍小さかった(図14)。腫瘍は8日目の最大サイズである18,038±1289mm3まで、より遅い速度で成長を続けた。
【0060】
シスプラチンのみでは、2948±180mm3から処理の13日後の4355±577mm3まで腫瘍の成長を抑制した。しかし、シスプラチンおよびMPGジスルフィドの併用では2402±218mm3から治療開始後13日目の112±47mm3へと腫瘍体積が減少しており(図15)いずれの単独処理と比較しても、腫瘍の大きさを遙かに良く(シスプラチン群と比較して38倍小さく)減少させた。
【0061】
これら結果は、MPGジスルフィドは腫瘍に対して化学療法剤として作用し、特に小さい腫瘍(500mm3以下)に対しては単独で投与した場合でも化学療法剤として作用することを示した。しかし、シスプラチン等の化学療法剤と併用したMPGジスルフィドは、シスプラチン単独では排除できなかった大きな腫瘍ですら完全に排除した。
【実施例5】
【0062】
ヒト結腸癌細胞(HCT116およびHT29;実施例2を参照)に加えて、乳癌および前立腺癌細胞を含む他のインビトロのヒト癌細胞に対してもまた、ジスルフィド含有化合物を試験した。2つのヒト結腸癌細胞株で観察されたのと同様に、2つのヒト乳癌細胞株(MCF7、SKBR3)および4つの前立腺癌細胞株(DU145、PC3、DU145、LnCaP)もまた、グルコース枯渇培地中では解毒プロセスであるHEDSからMEへの変換ができないことを示した。図16は、6つの異なる種類のヒト癌細胞(HCT116、HT29、PC3、DU145、MCF7、SKBR3、LnCaP)が、グルコース非存在下でHEDSをMEへと変換できないことを示している(3回の実験の平均値および標準誤差を示した)。それら結果は、HEDSおよび/またはMPGジスルフィド等のジスルフィド化合物の投与は、特に他の既存の癌治療法と併用した場合に、幅広い種類の癌の治療に利用可能であることを示している。
【0063】
図17および18は、HEDSの投与が化学療法剤、特にDNA傷害剤への他の種類の癌細胞の応答もまた増強することを示している。図17および18は、グルコース存在下および非存在下における乳癌細胞株(MCF7)および前立腺癌細胞株(DU145)の放射線応答へのHEDSの影響を示す。結果は、MCF7およびDU145の両方の放射線への応答が、グルコース非存在下ではHEDSによって著しく増加したことを示す。それら放射線に関する結果は、ジスルフィド含有化合物は癌細胞の化学療法剤への、特にDNA傷害剤への応答の増加に全般的に利用可能であろうことを示す。
【0064】
以上には本発明の特定の好ましい実施例を記述および具体的に例示したものの、本発明がそれら実施例に限定されることを意図したものではない。以下の請求項に説明するとおり、本発明の範囲および精神から逸脱すること無しに、それら実施例に対して様々な修正をすることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者における癌を治療する方法であって、この方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および医薬的に許容可能な担体を含む組成物を前記患者に投与する工程を有し、前記ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有する化学物を含むものである、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記ジスルフィド含有化合物は、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されるものである、方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、前記ジスルフィド含有化合物はMPGのジスルフィドである、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記癌は、低酸素癌細胞、グルコース欠乏癌細胞、および低酸素且つグルコース欠乏である癌細胞から成る群から選択される細胞を有するものである、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つの化学療法剤を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
放射線を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つの低酸素毒を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項10】
請求項7記載の方法において、前記化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法において、前記低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記癌は正常酸素圧の癌細胞を有するものである、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記G6PD阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDのsiRNA分子から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項15】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの化学療法剤、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物は少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有するものである、組成物。
【請求項16】
請求項15記載の組成物において、この組成物は、さらに、
少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤を有するものである、組成物。
【請求項17】
請求項15記載の組成物において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、組成物。
【請求項18】
請求項15記載の組成物において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、組成物。
【請求項19】
請求項15記載の組成物において、前記ジスルフィド含有化合物は、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項20】
請求項15記載の組成物において、前記化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項21】
請求項16記載の組成物において、前記G6PD阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDのsiRNA分子から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項22】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの低酸素毒、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物は少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有するものである、組成物。
【請求項23】
請求項22記載の組成物において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、組成物。
【請求項24】
請求項22記載の組成物において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、組成物。
【請求項25】
請求項22記載の組成物において、前記低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項26】
請求項22記載の組成物において、この組成物は、さらに、
少なくとも1つの化学療法剤を有するものである、組成物。
【請求項27】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物はメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィドである、組成物。
【請求項1】
治療を必要とする患者における癌を治療する方法であって、この方法は、少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および医薬的に許容可能な担体を含む組成物を前記患者に投与する工程を有し、前記ジスルフィド含有化合物は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有する化学物を含むものである、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記ジスルフィド含有化合物は、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されるものである、方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、前記ジスルフィド含有化合物はMPGのジスルフィドである、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記癌は、低酸素癌細胞、グルコース欠乏癌細胞、および低酸素且つグルコース欠乏である癌細胞から成る群から選択される細胞を有するものである、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つの化学療法剤を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
放射線を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つの低酸素毒を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項10】
請求項7記載の方法において、前記化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法において、前記低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記癌は正常酸素圧の癌細胞を有するものである、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、この方法は、さらに、
少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤を投与する工程を有するものである、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記G6PD阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDのsiRNA分子から成る群から選択されるものである、方法。
【請求項15】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの化学療法剤、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物は少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有するものである、組成物。
【請求項16】
請求項15記載の組成物において、この組成物は、さらに、
少なくとも1つのグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose−6−phosphate dehydrogenase:G6PD)阻害剤を有するものである、組成物。
【請求項17】
請求項15記載の組成物において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、組成物。
【請求項18】
請求項15記載の組成物において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、組成物。
【請求項19】
請求項15記載の組成物において、前記ジスルフィド含有化合物は、ヒドロキシエチルジスルフィド(hydroxyethyldisulfide:HEDS)、メルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィド、MPGおよびMEのジスルフィド、2−スルファニルエタンスルホン酸(2−sulfanylethanesulfonate:mesna)のジスルフィド、MPGおよびmesnaのジスルフィド、およびMEおよびmesnaのジスルフィドから成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項20】
請求項15記載の組成物において、前記化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤および白金錯体から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項21】
請求項16記載の組成物において、前記G6PD阻害剤は、デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)、DHEA硫酸、2−デオキシグルコース、ハロゲン化DHEA、エピアンドロステロン、イソフルラン、セボフルラン、ジアゼパム、およびG6PDのsiRNA分子から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項22】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物、少なくとも1つの低酸素毒、および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物は少なくとも1つのジスルフィド結合によって第2のアルキルと結合した第1の低級アルキルを有するものである、組成物。
【請求項23】
請求項22記載の組成物において、前記第2のアルキルは低級アルキルである、組成物。
【請求項24】
請求項22記載の組成物において、前記第1の低級アルキルはメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)である、組成物。
【請求項25】
請求項22記載の組成物において、前記低酸素毒は、チラパザミン、AQ4N、5−ニトロイミダゾール、ニモラゾール、エタニダゾール、ミトマイシンC類似体E09、2−ニトロイミダゾールCI−1010、および他の低酸素特異的な生体還元性薬剤から成る群から選択されるものである、組成物。
【請求項26】
請求項22記載の組成物において、この組成物は、さらに、
少なくとも1つの化学療法剤を有するものである、組成物。
【請求項27】
少なくとも1つのジスルフィド含有化合物および少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体を有する組成物であって、
前記ジスルフィド含有化合物はメルカプトプロピオニルグリシン(mercaptopropionylglycine:MPG)のジスルフィドである、組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2011−503236(P2011−503236A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535036(P2010−535036)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/083994
【国際公開番号】WO2009/067489
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510140663)ランケナー インスティテュート フォー メディカル リサーチ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/083994
【国際公開番号】WO2009/067489
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510140663)ランケナー インスティテュート フォー メディカル リサーチ (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]