説明

ジスルフィド類の合成方法

本発明は、入手可能比較的安価な原料から、効率的な方法によって、本明細書に開示される実質的に純粋な式(II)R−S−S−Rのジスルフィド化合物(例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムなど)を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ジスルフィド類の合成方法
(発明の背景)
【0002】
本発明は、化学的合成方法に関し、ジスルフィド化合物及びその中間体を合成するための方法に適用される。
【0003】
メスナ(mesna)(2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム;Mesnex(登録商標);Uromitexan(登録商標))、及びジメスナ(dimesna)(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム;BNP7787;Tavocept(商標))は、公知の治療用化合物であり、これまでに、広範な種類の治療的使用が示されてきた。メスナ及びジメスナは両方とも、様々な種類の癌を煩う患者を治療するために用いられる細胞傷害性薬物の投与に付随する、ある特定の型の毒性に対する効果的な保護剤であることが示されている。
【0004】
特に、メスナは、最も主要な市場において認可された薬剤であり、米国特許第4,220,660号(1980年9月2日発行)に開示されるようなイフォスファミド、オキサザホスホリン、メルファラン、シクロホスファミド、トロホスファミド、スルホスファミド、クロランブシル、ブスルファン、トリエチレンチオホスファミド、トリアジクォンなどの細胞傷害性薬剤の毒作用の緩和に際し、ある程度成功して使用されている。
【0005】
ジメスナは、最も主要な製薬市場において、最終段階のヒト臨床試験中であり、種々の白金系抗腫瘍剤の有害な毒作用、及びパクリタキセル(paclitaxel)の神経毒作用を緩和するのに効果を示している。
【0006】
さらに、各化合物の薬理学的データ(pharmacological profiles)によると、適切な条件が維持される場合、メスナ及びジメスナは、主要な治療用薬物を著しく不活性化させる時期を抑制しないことが示される。それゆえ、いずれの化合物も、化学療法剤の活性を顕著に減少する虞がなく、そして多くの場合において、ジメスナは、目標とされたガン細胞に対する主要な薬物の効果を増強することが観察されている。
【0007】
メスナ及びジメスナの両方の構造を、以下に示す:
【化1】

【0008】
周知のように、ジメスナは、メスナの酸化型ダイマーである。血漿中で見られように、わずかに塩基性(pH〜7.3)で酸素の豊富な環境において、ジメスナは、大部分が酸化された型で存在する。グルタチオンレダクターゼなどの還元剤の存在下、穏やかな酸性で低酸素の条件、たとえば、腎臓における一般的な条件で、ジメスナは、メスナに還元される。
【0009】
メスナは、生体内(in vivo)で、細胞傷害性薬剤の毒性代謝産物(イフォスファミドの場合ではアクロレイン)を比較的無害な化合物に変換することにより、多くの細胞傷害性薬剤のための保護剤として作用する。この作用は、メスナ及びオキサザホスホリンの同時投与において特に明白である。特に、ジメスナを白金系薬剤とともに投与する際に、ジメスナは、活性薬剤の毒性ヒドロキシ又はアコ(aquo)基を比較的無害なメルカプタンに変換することにより、保護剤として作用する。
【0010】
メスナ及びジメスナ、並びにこれらの化合物のいくつかの類似体は、哺乳類種において良好な毒性プロファイル(toxicity profiles)を有する。ジメスナは、一般的な食塩の許容経口LD50(3750mg/kg)よりも高い投与量で、マウス及びイヌに静脈内投与されており、このような投与量では副作用を生じない。
【0011】
メスナ、及び遊離チオール基を有する他の類似体は、本明細書に記載される2種類の化合物の、生理的により活性な型となる。これらの化合物の活性は、遊離チオール基が、適当な構造の末端脱離基の位置する場所で、末端基を置換するために与えられることにより、明白に示される。
【0012】
ジメスナ、及び他のジスルフィド類は、遍在する酵素であるグルタチオンレダクターゼによって細胞内で活性化され、それにより、細胞内において遊離のチオールを高濃度に産生することができる。これらの遊離のチオールは、しばしば細胞傷害を引き起こす原因となるフリーラジカル及び他の求核化合物を除去するように作用する。
【0013】
このプロファイルは、ジメスナが白金錯体系抗腫瘍薬物の毒作用を首尾よく制御及び緩和することを説明する際に特に重要である。シスプラチン(cis−ジアンミンジクロロ白金)の場合における作用機構は、米国特許第5,879,000号に説明されており、この文献の開示は、本明細書において参照により引用される。
【0014】
メスナ、ジメスナ及びこれらの化合物の類似体は、いくつかの先行する薬学的使用の対象となっており、これらの使用は、米国及び世界中の文献及び先行特許に記載されている。
【0015】
メスナ、ジメスナ及びこれらの類似体は、以前は、一般に入手可能な出発原料から、この分野において周知の許容可能な経路を使用して合成されていた。例えば、米国特許第5,808,140号を参照のこと。このような方法の1つは、ジメスナ、及び下記式(I):
−S−R; (I)
で表される他の硫黄含有アルカリ金属化合物を作成するための二工程で行われる単一容器内(シングルポット)での合成方法を含む:
【0016】
式中:
【0017】
は、水素、−X−低級アルキル、又は−X−低級アルキル−Rであり;
【0018】
は、−低級アルキル−Rであり;
【0019】
及びRは、各々個々に、−SOM、又は−POであり;
【0020】
Xは、存在しないか、又は硫黄であり;及び
【0021】
Mは、アルカリ金属である。
【0022】
この先行技術の方法は、二工程で行われる単一容器内での合成方法を含み、これによりスルホン酸アルケニル塩又は酸を、所望の式(I)の化合物へ変換する。メスナの場合、この方法は一工程で行われる方法であり、この一工程の方法では、硫化アルカリ金属又は硫化水素との反応によって、スルホン酸アルケニル塩をメスナ又はメスナ誘導体に変換する。
【0023】
所望の最終生成物がジメスナ又はジメスナ類似体である場合、二工程で行われる単一容器内での方法を必要とする。工程1は、上記のとおりである。この方法の工程2は、工程1と同じ反応容器内で行われ、この工程の間に生成されるメスナを精製又は単離する必要はない。工程2は、周辺値(環境値)(ambient value)を超える圧力及び温度(1平方インチあたり少なくとも20ポンド(psi)及び少なくとも60℃)の上昇に加え、容器内への酸素ガスの導入を含む。ジメスナ又はその誘導体は、本質的に定量的な収量(quantitative yield)で形成される。
【0024】
これまでに、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムは、例えば、60℃、酸素下で、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(ここで、前記2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムは、ビニルスルホン酸ナトリウムへの水素添加により得られる)の酸化によって生成されることが知られている。しかし、この方法では、除去が困難な副生成物である2,2’−モノチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムが生成されるという問題点がある。
【0025】
2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの製造方法もまた、公知である(2004年2月5日に公開された米国公開特許出願公報第2004/0024346A1号)。この方法は、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムとチオ酢酸ナトリウムとを反応させる工程、その生成物を中和して2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムを得る工程、及びこの2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムを酸素で酸化して2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムを得る工程で構成される。この方法では、いくつかの未知の副生成物が、酸化温度として推奨される50〜60℃で形成され、そしてこれらの副生成物は、除去することが困難である。さらに、結晶化に用いる溶媒がエタノールと水との混合物であるため、乾燥中に固体が生成しやすい。
【0026】
原料である2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムは、イセチオン酸(isethionic acid)とイセチオン酸ナトリウム(sodium isethionate)との比が1:1.9である混合物と、臭化水素酸とを反応させ、この生成物を冷却して結晶を得、そして96%エタノールから再結晶することによって調製されることが知られている(ドイツ民主共和国特許第154,815号)。しかし、イセチオン酸は高価である。
【0027】
それゆえ、利用可能な原料化合物から2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムを良好な収率及び高純度で生成するための方法を確立することが要求され、所望されている。本発明は、この要求を満足させるものである。
(発明の要約)
【0028】
本発明は、ジメスナ、又は関連する、式(II):
−S−S−R; (II)
で表されるジスルフィド化合物を合成するための、新規且つ経済的な方法に関する。
【0029】
式中:
【0030】
は、−低級アルキル又は−低級アルキル−Rであり;
【0031】
は、−低級アルキル−Rであり;
【0032】
及びRは、各々個々に−SOM、−PO又は−COMであり;及び
【0033】
Mは、アルカリ金属である。
【0034】
本発明の方法は、一つのポット(pot)又は一つの容器(vessel)において水溶液中で行われ、式(III):
−Y (III)
【0035】
(式中:
【0036】
Yは、S2求核置換反応により置換可能な基である)で表される出発原料をハロゲン化して、式(IV):
−A; (IV)
【0037】
(式中:
【0038】
Aはハロゲンである)で表される第1の中間体を生成する最初の工程を含み;
【0039】
前記第1の中間体を、塩基感受性の置換活性保護基(置換反応において置換可能な保護基)を有するアルカリ金属メルカプタンと反応させて、式(V):
−S−Z; (V)
【0040】
(式中:
【0041】
Zは塩基感受性の置換活性保護基である)で表される第2の中間体を生成し;
【0042】
前記第2の中間体を、強塩基と反応させて、式(VI):
−SH; (VI)
で表される第3の中間体を生成し;
【0043】
次いで、前記第3の中間体を酸化して、式(II)のジスルフィド化合物を生成し、単離する。
【0044】
本発明の目的は、還元可能なジスルフィド類の、新規な合成方法を提供することである。好ましくは、ジメスナなどの前記ジスルフィド類は、薬学的に活性である。
(発明の詳細な説明)
【0045】
本明細書に記載される好ましい実施態様は、完全であることを意図するものではなく、開示された明確な形態に本発明を限定することを意図するものでもない。これらの好ましい実施態様は、本発明の原理並びにその適用及び実用を説明することにより、当業者がその教示を理解及び応用できるように選択及び記載される。
【0046】
定義
【0047】
本明細書中において用いられる「約」とは、用語「約」に関連する値の上下10%(±10%)を意味する。
【0048】
本明細書中において用いられる「ハロゲン」並びに、ハロゲン化、ハロ及びハロ酸(haloacid)(ハロゲン化水素酸)などの関連する用語とは、塩素、臭素及びヨウ素を意味するが、フッ素は含まない。そして、そのような関連する用語は、フッ素以外のこれらのハロゲンについて言及される。
【0049】
本明細書中において用いられる「低級アルキル」とは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基を意味する。
【0050】
本明細書中において用いられる「パーセント」又は「%」とは、パーセント又は%が用いられた化合物及び他の成分を含む組成物全体に対する、重量によるパーセントを意味する。但し、上記で述べた「約」の定義を参照した場合を除く。この場合、パーセント又は%は、単に「約」に関連する任意の値を述べているにすぎない。
【0051】
本明細書中において用いられる「実質的に純粋」とは、少なくとも純度90%であることを意味し、好ましくは少なくとも純度95%、より好ましくは少なくとも純度99%を意味する。
【0052】
本発明は、式(II):
−S−S−R; (II)
で表される化合物の製造方法である。
【0053】
式中:
【0054】
は、−低級アルキル又は−低級アルキル−Rであり;
【0055】
は−低級アルキル−Rであり;
【0056】
及びRは、各々個々に−SOM、−PO又は−COMであり;及び
【0057】
Mは、アルカリ金属であり;そして
【0058】
ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピルであり、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは−低級アルキル−Rであり;R及びRのそれぞれは、好ましくは−SOM又は−POであり;R及びRのそれぞれは、より好ましくは−SOMであり;及び、Mは、好ましくはナトリウムである。
【0059】
本発明の方法は、水溶液中で行われるワンポット製法(one-pot process)であり、前記発明の要約で上述した工程を含み、実質的に純粋な式(II)のジスルフィド化合物を、好適な収量で、特にワンポット製法で生成する。
【0060】
より具体的には、実質的に純粋な式(II)のジスルフィド化合物の合成方法は、下記の工程を含む:
【0061】
(a)水溶液中で、約1モル当量の式(III):
−Y; (III)
で表される出発原料と、約1〜約10モル当量、好ましくは約1〜約5モル当量のハロ酸(ハロゲン化水素酸)、好ましくは臭化水素とを、好ましくは約15〜約150rpmで混合しながら反応させることによって、ハロゲン化、好ましくは臭素化する工程。
【0062】
式中:
【0063】
Yは、S2求核置換反応により置換可能な基であり;ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピル、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは−SOM又は−POであり;Rは、より好ましくは−SOMであり;及びMは、好ましくはナトリウムであり;並びに、前記置換可能な基は、いかなる適切な置換可能基であってもよい。前記置換可能基は、特に限定されず、例えば、ヒドロキシル基、メシル基又はトシル基が挙げられ、ヒドロキシル基が好ましい。好ましい出発原料は、イセチオン酸ナトリウム又はイセチオン酸カリウムなどの、いかなるイセチオン酸アルカリ金属塩も含み、好ましくはイセチオン酸ナトリウムである。前記反応が完了すると、式(IV):
−A; (IV)
で表される第1の中間体が得られ、単離される;
【0064】
式中:
【0065】
Aは、ハロゲンである;そして
【0066】
ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピルであり、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは−SOM又は−POであり;Rは、より好ましくは−SOMであり;及びMは、好ましくはナトリウムであり;並びに、Aは、好ましくは臭素である。本発明において、より好ましい第1の中間体は、2−ブロモエタンスルホン酸塩であり、結晶として単離される。
【0067】
(b)前記第1の中間体を、水、アセトン又はプロトン性溶媒(特に限定されないが、例えば、メタノール水溶液、エタノール水溶液、2−プロパノール水溶液、又は2−メチル−1−プロパノール水溶液など)で洗浄する。式(II)の生成物を薬学的に使用するためには、アセトン又はエタノール水溶液が好ましい。
【0068】
(c)前記工程(b)で洗浄された第1の中間体を、次いで、水溶液中で、塩基感受性の置換活性保護基を有するアルカリ金属メルカプタンと反応させて、式(V):
−S−Z; (V)
で表される第2の中間体を生成する。
【0069】
式中:
【0070】
Zは、塩基感受性の置換活性保護基であり;ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピル、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは−SOM又は−POであり;Rは、より好ましくは−SOMであり;及びMは、好ましくはナトリウムであり;並びにZは、任意の適切な塩基感受性の置換活性保護基であってもよい。前記置換活性保護基は、特に限定されず、例えば、アセチル基、メシル基又はトシル基であり、好ましくはアセチル基である。本発明において、塩基感受性の置換活性保護基を有する好ましいアルカリ金属メルカプタンは、チオ酢酸ナトリウムであり、本発明の好ましい第2の中間体は、2−アセチルチオエタンスルホン酸ナトリウムである。好ましくは、この工程は、好ましくは約15〜約150rpmの速度で混合しながら、約15〜約90℃の温度に維持しつつ、約15〜約120分かけて、不純物のレベルが約5%未満であるような時間で撹拌しつつ、塩基感受性の置換活性保護基を有するアルカリ金属メルカプタンを、前記工程(b)で得られた第1の中間体の水溶液へ加える工程を含む。
【0071】
(d)前記工程(c)で得られた前記第2の中間体を、好ましくは約15〜約150rpmの速度で混合しつつ、約1〜約3モル当量、好ましくは約1.1〜約1.4モル当量の強塩基(例えば、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムなど)と水溶液中で混合して反応させ、その溶液のpHを酸(例えば、特に限定されないが、酢酸、シュウ酸又はクエン酸、好ましくは酢酸など)又は塩基(例えば、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム)を用いて約6.5〜約8.0に調節して、式(VI):
−SH; (VI)
で表される第3の中間体を生成する。
【0072】
ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピル、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは−SOM又は−POであり;Rは、より好ましくは−SOMであり;及びMは、好ましくはナトリウムである。本発明において、好ましい第3の中間体は、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムである。
【0073】
(e)前記工程(d)で得られた第3の中間体を、次いで、公知の方法、例えば、特に限定されないが、酸素、ヨウ素又は硝酸銀などにより酸化して、式(II)の化合物の水溶液を得る。ここで、前記低級アルキルは、好ましくはエチル又はプロピル、より好ましくはエチルであり;Rは、好ましくは、−低級アルキル−Rであり;R及びRは、それぞれ、好ましくは−SOM又は−POであり;R及びRは、それぞれ、より好ましくは−SOMであり;及びMは、好ましくはナトリウムである。本発明において、この酸化工程は、好ましくは酸素含有ガスを用い、加圧下で(at elevated pressure)行われる。酸化工程は、より好ましくは、空気、純度約60〜約95%の酸素、又は酸素が約50〜約99%存在する酸素及び窒素の混合物を用いて行われ、もっとも好ましくは空気を用いて行われる。ここで、酸素又は酸素含有ガスは、約20〜約80℃、好ましくは約25〜約60℃の温度で、約0.1〜約10MPaに加圧される。本発明において、式(II)の好ましい化合物は、ジメスナ、すなわち、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムである。
【0074】
(f)次いで、式(II)の化合物、例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの水溶液を、一部留去することにより濃縮し、次いで、濃縮した水溶液を冷却して、式(II)の化合物の結晶、例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの結晶を得る。
【0075】
(g)次いで、前記工程(f)で得られた式(II)の化合物の結晶、例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの結晶を、公知の方法により洗浄して、実質的に純粋な式(II)の化合物、例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムを得る。
【0076】
本発明の方法では、実質的に純粋な式(II)の化合物、例えば、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムを、結晶化後、好適な収量、例えば、約60〜約80重量%で生成する。前記収量は、ワンポット製法では、極めて優れた収量である。最終生成物の純度を向上するためには、出発原料及び全ての試薬は、少なくとも純度90%、好ましくは少なくとも純度95%である必要がある。本発明の方法で製造される式(II)ジスルフィド化合物は、薬学的に活性であるのが好ましい。
【0077】
好ましい実施態様が以下の特定の実施例により詳細に記載されるが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
実施例1
【0079】
2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムの製造
【0080】
60%イセチオン酸ナトリウム水溶液(292g)に、47%臭化水素酸(1018g)を滴下して添加した後、この混合物を還流下で加熱し、348gを常圧下で留去した。
【0081】
残留物を50℃に冷却し、47%臭化水素酸(252g)を添加し、次いで50℃から5℃へさらに冷却した。沈殿した結晶を約5℃でろ過し、ろ過物を、約5℃に冷却した47%臭化水素酸(77.1g)で洗浄した。次いで、約5℃に冷却した水(17.5g)で洗浄した。
【0082】
この結晶を、約5℃に冷却した、アセトン(408.6g)及び水(47.4g)の混合物で、2回洗浄し、さらに、約5℃に冷却したアセトン(221g)で2回洗浄した。
【0083】
この結晶を、減圧下で乾燥し、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム(120g)を得た。
【0084】
実施例2
【0085】
2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの製造
【0086】
水(50.1g)とチオ酢酸(24.4g)との混合物に、25%水酸化ナトリウム水溶液(50.7g)を、10〜30℃で滴下して添加した。この溶液を、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム(63.3g)及び水(70g)の溶液に、50〜70℃で滴下して添加し、80〜90℃で2時間反応させた。
【0087】
この反応混合物に、25%水酸化ナトリウム水溶液(54.2g)を添加し、還流温度(約105℃)で反応させた。反応の終了を、HPLCで確認した。酢酸(3.25g)を添加した後、反応混合物を6時間還流し、次いで約30℃に冷却した。この混合物のpHを、25%水酸化ナトリウム水溶液で7.3に調節した。上記で得られた2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム水溶液(260mL)を、約30℃、酸素圧0.5〜0.6MPaで酸素と反応させた。
【0088】
反応の終了をHPLCにより確認したら、反応を停止させ、反応混合物を酢酸で中和した。前記混合物を約70℃で加熱し、混合物が溶解していることを観察した(observed)。その後、この混合物をろ過補助剤(ラジオライト)を用いてろ過し、前記ろ過補助剤を、水(10g)で洗浄した。
【0089】
この混合物を、減圧下(約10kPa)、70℃で濃縮した。水の留去量が60gになったとき、濃縮を停止し、混合物が約75℃で溶解していることを観察した(observed)。前記混合物を冷却すると、結晶化は60±5℃で開始した。約30分間熟成した後、この混合物を25℃に冷却し、結晶を25℃で2時間熟成した。
【0090】
前記結晶をろ過し、約2℃に冷却した水(24g)で洗浄し、次いで、70%エタノール水溶液(48mL)で洗浄した。約70℃で前記結晶を乾燥して、実質的に純粋な2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの結晶(39.1g)を得た。結晶化後の収量は、77.6%であった。生成物の純度は99.4%であった。
【0091】
本発明によると、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムなどの式(II)の化合物は、入手可能で比較的安価な原料化合物から、高収量且つ高純度で、効率的な手順により製造できる。上述した詳細は、上記の請求の範囲により規定される発明を限定するものではない。
【0092】
当業者により、広範な発明の概念から外れることなく、上述した実施態様に対して変更がなされることは、理解されるであろう。従って、本発明は、開示した特定の実施態様に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神及び範囲内における変更例をも包含することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
−S−S−R; (II)
(式中、Rは、−低級アルキル又は−低級アルキル−Rであり;Rは−低級アルキル−Rであり;R及びRは、各々個々に−SOM、−PO又は−COMであり;及びMはアルカリ金属である)
で表されるジスルフィド化合物の製造方法であって、下記の工程を含む方法:
(a)式(III):
−Y (III)
(式中、Yは、S2求核置換反応により置換可能な基である)で表される出発原料をハロゲン化して、式(IV):
−A; (IV)
(式中、Aはハロゲンである)で表される第1の中間体を生成する工程;
(b)前記第1の中間体と、塩基感受性の置換活性保護基を有するアルカリ金属メルカプタンとを反応させ、式(V):
−S−Z; (V)
(式中、Zは塩基感受性の置換活性保護基である)で表される第2の中間体を生成する工程;
(c)前記第2の中間体と、強塩基とを反応させ、式(VI):
−SH; (VI)
で表される第3の中間体を生成する工程;
(d)前記第3の中間体を酸化して、式(II)のジスルフィド化合物を生成する工程;及び
(e)式(II)の化合物を単離する工程。
【請求項2】
低級アルキルが、エチル又はプロピルであり;Rが、−低級アルキル−Rであり;R及びRのそれぞれが、−SOM又は−POであり;及びMが、ナトリウムである請求項1記載の方法。
【請求項3】
低級アルキルがエチルであり;並びにR及びRのそれぞれが、−SOMである請求項2記載の方法。
【請求項4】
ハロゲンが、臭素である請求項1記載の方法。
【請求項5】
酸化工程(d)が、酸素含有ガスを用いて、加圧下で行われる請求項1記載の方法。
【請求項6】
強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項7】
強塩基が、水酸化ナトリウムである請求項6記載の方法。
【請求項8】
式(II):
−S−S−R; (II)
(式中、Rは、−低級アルキル又は−低級アルキル−Rであり;Rは−低級アルキル−Rであり;R及びRは、各々個々に−SOM、−PO又は−COMであり;及びMはアルカリ金属である);
で表される実質的に純粋なジスルフィド化合物の合成方法であって、下記の工程を含む方法:
(a)式(III):
−Y (III)
(式中、Yは、S2求核置換反応により置換可能な基である)で表される出発原料を、水溶液中でハロ酸と反応させて、式(IV):
−A; (IV)
(式中、Aはハロゲンである)で表される第1の中間体を生成する工程;
(b)前記第1の中間体と、塩基感受性の置換活性保護基を有するアルカリ金属メルカプタンとを、前記水溶液中で反応させ、式(V):
−S−Z; (V)
(式中、Zは塩基感受性の置換活性保護基である)で表される第2の中間体を生成する工程;
(c)前記第2の中間体を、水、アセトン及びプロトン性溶媒からなる群より選択された溶媒で洗浄する工程;
(d)洗浄された前記第2の中間体と、強塩基とを反応させ、次いでそのpHを酸又は塩基で約6.5〜8.0に調整し、式(VI):
−SH; (VI)
で表される第3の中間体を生成する工程;
(e)前記第3の中間体を酸化して、式(II)の化合物の水溶液を生成する工程;
(f)式(II)の化合物の前記水溶液の一部を留去することにより、前記水溶液を濃縮し、次いでその水溶液を冷却して式(II)の化合物の結晶を得る工程;及び
(g)式(II)の化合物の結晶を洗浄し、実質的に純粋な式(II)の化合物を得る工程。
【請求項9】
低級アルキルが、エチル又はプロピルであり;Rが、−低級アルキル−Rであり;R及びRのそれぞれが、−SOM又は−POであり;及びMが、ナトリウムである請求項8記載の方法。
【請求項10】
低級アルキルがエチルであり;並びにR及びRのそれぞれが、−SOMである請求項9記載の方法。
【請求項11】
ハロ酸が、臭化水素であり、ハロゲンが、臭素である請求項8記載の方法。
【請求項12】
酸化工程(e)が、酸素含有ガスを用いて、加圧下で行われる請求項8記載の方法。
【請求項13】
強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群より選択される請求項8記載の方法。
【請求項14】
強塩基が、水酸化ナトリウムである請求項13記載の方法。
【請求項15】
実質的に純粋なジスルフィドの合成方法であって、下記の工程を含む方法:
(a)イセチオン酸ナトリウムと臭化水素酸とを、水溶液中で反応させ、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムの結晶を得て単離する工程;
(b)前記2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムの結晶を洗浄する工程;
(c)前記2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムとチオ酢酸ナトリウムとを、水溶液中で反応させ、2−アセチルチオエタンスルホン酸ナトリウムを得る工程;
(d)前記2−アセチルチオエタンスルホン酸ナトリウムと強塩基とを、水溶液中で反応させ、酢酸を加え、次いでその溶液のpHを約6.5〜8.0に調整し、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム水溶液を得る工程;
(e)前記2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムを酸化して、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム水溶液を得る工程;
(f)前記2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム水溶液の一部を留去し、次いでその水溶液を冷却して、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの結晶を得る工程;及び
(g)2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの結晶を洗浄する工程。
【請求項16】
強塩基が、水酸化ナトリウムである請求項15記載の方法。

【公表番号】特表2007−514755(P2007−514755A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545498(P2006−545498)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042533
【国際公開番号】WO2005/058005
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(500175967)バイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】