説明

ジフェニルメタン誘導体を有効成分とする抗ウイルス剤

【課題】フラビウイルス科に属するウイルスを含めたウイルスに対して抗ウイルス活性を示す化合物を含有する抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】次式(I):
【化1】


で示されるジフェニルメタン誘導体を有効成分とする抗ウイルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フラビウイルス科(Flaviviridae)に属するウイルス等のウイルスに対する抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科に属するウイルスとしては、黄熱病ウイルス(YFV)、デング熱ウイルス(DENV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、西ナイルウイルス(WNV)等のフラビウイルス属に属するウイルス、ウシ下痢症ウイルス(BVDV)等のペスティウイルス属に属するウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)等のヘパシウイルス属に属するウイルスが挙げられる。これら列挙したフラビウイルス科に属するウイルスのうち、ウシ下痢症ウイルスを除くウイルスは、ヒトに深刻な感染症を引き起こすことが知られている。特に、デング熱ウイルス及びC型肝炎ウイルスがそれぞれ引き起こすデング熱又はC型肝炎を患う患者は、世界中で非常に多い。また、最近では西ナイル熱が北米を中心として流行している。西ナイル熱は、上述した西ナイルウイルスが引き起こす。
【0003】
ところで、抗ウイルス化合物としては、例えばC型肝炎ウイルスに対する処置として使用されるピラノインドール誘導体(特許文献1〜3)、C型肝炎ウイルス等のウイルスに対して抗ウイルス効果を有するユージストミン誘導体(特許文献4及び5)、C型肝炎ウイルス感染阻害剤に使用されるテトラゾロキノリン化合物(特許文献6)、及びフラビウイルス科ウイルスの感染の治療に使用される二環式イミダゾール誘導体(特許文献7)、デング熱ウイルス等のウイルスの感染阻害に使用される糖鎖担持カルボシランデンドリマー(特許文献8)、C型肝炎ウイルスによるC型肝炎の治療に使用されるS1Pレセプター調節剤又はアゴニスト(特許文献9)、ウイルス感染の治療又は予防に使用されるグリコペプチド抗生物質誘導体(特許文献10)、並びにC型肝炎ウイルス感染の治療又は予防に使用されるウイルスポリメラーゼ阻害化合物(HCVNS5Bポリメラーゼ阻害化合物)(特許文献11及び12)が知られている。
【0004】
しがしながら、このような従来の化合物の抗ウイルス活性は、十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-531572号公報
【特許文献2】特表2007-526320号公報
【特許文献3】特表2005-533031号公報
【特許文献4】国際公開第2005/082373号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/088191号パンフレット
【特許文献6】特表2007-506788号公報
【特許文献7】特表2007-501189号公報
【特許文献8】特開2005-306766号公報
【特許文献9】特表2008-526714号公報
【特許文献10】特表2006-503015号公報
【特許文献11】特表2005-531638号公報
【特許文献12】特表2005-531639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、上述した実情に鑑み、フラビウイルス科に属するウイルスを含めたウイルスに対して抗ウイルス活性を示す化合物を含有する抗ウイルス剤を提供することを目的し、γ-カルボリン誘導体等の複素芳香族化合物が抗ウイルス活性を有することを見出した(国際出願第PCT/JP2008/069122号)。
【0007】
そこで、本発明は、フラビウイルス科に属するウイルスを含めたウイルスに対して抗ウイルス活性を示す新規構造を有する化合物を更に特定し、当該化合物を含有する抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者が鋭意検討した結果、特定のジフェニルメタン誘導体が抗ウイルス活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、次式(I):
【化1】

[式中、
Xは、炭素原子又はケイ素原子であり、
Y及びZは、同一又は異なり、酸素原子又はNR5(ここで、R5は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基である)であり、
A及びBは、同一又は異なり、水素原子又は直鎖C1-5-アルキル基であり、
R1及びR2は、同一若しくは異なり、直鎖若しくは分岐のC1-5-アルキル基であるか、又は一緒になって環状構造を形成するものであり、
R3及びR4は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、又はCO-R6若しくはCO-NR7R8(ここで、R6、R7及びR8は、同一又は異なり、水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)である]
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する抗ウイルス剤に関する。当該抗ウイルス剤が対象とするウイルスとしては、フラビウイルス科に属するウイルスが挙げられる。
【0010】
また、本発明は、次式(II):
【化2】

[式中、
A及びBは、同一又は異なり、水素原子又は直鎖C1-5-アルキル基であり、
R1及びR2は、同一若しくは異なり、直鎖若しくは分岐のC1-5-アルキル基であるか、又は一緒になって環状構造を形成するものであり、
R6は、水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である]
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の抗ウイルス剤に比べて抗ウイルス活性が高い抗ウイルス剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る化合物の抗ウシ下痢症ウイルス(BVDV)活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
前記式(I)において、直鎖C1-5-アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
【0014】
前記式(I)において、分岐C1-5-アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
【0015】
前記式(I)において、アルキル基としては、上述の直鎖又は分岐C1-5-アルキル基に加えて、例えば、n-ヘキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖又は分岐のC6-10-アルキル基が挙げられる。
【0016】
前記式(I)のR3〜R8におけるアルキル基は、1以上の置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、芳香族基、アシル基、水酸基、カルボキシル基、オキソ基、C1-12-炭化水素-O-基等が挙げられる。
【0017】
ここで、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0018】
芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、o-キシリル基等の芳香族炭化水素基;フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリル基、イソキノリル基等の芳香族複素環基が挙げられる。
【0019】
アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等のC1-6-脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等のアロイル基が挙げられる。
【0020】
C1-12-炭化水素-O-基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のC1-6-アルコキシ基が挙げられる。
【0021】
前記式(I)のR3及びR4としては、水素原子、又はオキソ基若しくは水酸基等の置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。また、前記式(I)のR5としては、フェニル基等の置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。
【0022】
式(I)においてR1及びR2は、一緒になって環状構造を形成してもよい。当該環状構造としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-7-脂肪族環状アルキル基が挙げられる。
【0023】
前記式(I)で示される化合物は、例えば、Hosoda, S., Tanatani, A., Wakabayashi, K., Makishima, M., Imai, K., Miyachi, H., Nagasawa, K., Hashimoto, Y.: Ligand with a 3,3-diphenylpentane skeleton for nuclear vitamin D and androgen receptors: dual activities and metabolic activation. Bioorg. Med. Chem., 14: 5489-5502 (2006)又はHosoda, S., Hashimoto, Y.: 3,3-Diphenylpentane skeleton as a steroid skeleton substitute: novel inhibitors of human 5α-reductase 1. Bioorg. Med. Chem. Lett., 17: 5414-5418 (2007)に記載の方法により製造することができる。
【0024】
前記式(I)に示される化合物の代表例としては、下記の表1に示される化合物1〜9が挙げられる。
【0025】
また、前記式(I)で示される化合物のうち、前記式(II)で示される化合物、例えば下記の表1に示される化合物9は、新規化合物である。
【0026】
前記式(II)で示される化合物は、例えば下記のスキームに基づき製造することができる。
【0027】
【化3】

[式中、Hal1及びHal2は同一又は異なり、塩素又は臭素であり、
AとBとが異なる場合には、Hal1及びHal2の一方を塩素、他方を臭素とし、2工程により製造する]
【0028】
なお、前記式(II)で示される化合物におけるA、B、R1、R2及びR6は、それぞれ前記式(I)で示される化合物における同一表示の基と同じである。
【0029】
前記式(I)及び(II)で示される化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩が挙げられる。また、フェノール性水酸基又はカルボキシル基を有する場合には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩として用いることもできる。
【0030】
以下、前記式(I)及び(II)で示される化合物及びその薬学的に許容される塩(以下、「本発明に係る化合物」という)の投与量及び製剤化について説明する。
【0031】
本発明に係る化合物は、そのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及びヒトに投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択され、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0032】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で本発明に係る化合物の重量として5〜1,000mg、好ましくは10〜600mgを、1日1回又は数回に分けての服用が適当である。
【0033】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0034】
この種の製剤には、適宜、賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0035】
結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールが挙げられる。
【0036】
崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0037】
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80が挙げられる。
【0038】
滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0039】
流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0040】
また、本発明に係る化合物は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0041】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で本発明に係る化合物の重量として1日5〜500mg、好ましくは10〜300mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0042】
この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤等を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0043】
その他の非経口剤としては、パップ剤、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【0044】
一方、本発明に係る化合物は、特に限定されないが、例えばフラビウイルス科、トガウイルス科(Togaviridae)、レオウイルス科(Reoviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、パポーバウイルス科(Papovaviridae)、ポックスウイルス科(Poxviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)及びレトロウイルス科(Retroviridae)等に属するウイルスによるウイルス感染を抑制するために使用することができる。特に、フラビウイルス科に属するウイルス感染を抑制するために、本発明に係る化合物を使用することができる。フラビウイルス科に属するウイルスとしては、例えば黄熱病ウイルス(YFV)、デング熱ウイルス(DENV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、西ナイルウイルス(WNV)等のフラビウイルス属に属するウイルス;ウシ下痢症ウイルス(BVDV)等のペスティウイルス属に属するウイルス;C型肝炎ウイルス(HCV)等のヘパシウイルス属に属するウイルスが挙げられる。
【0045】
本発明に係る化合物の抗ウイルス活性は、例えばウイルスを細胞に感染させ、感染前、感染後、又は感染と同時に、本発明に係る化合物を培地に添加した後、ウイルス複製抑制率を測定する方法によって評価することができる。具体的には、例えばLDH cytotoxicity detection kit(Takara Biochemicals社)を用いてウイルス感染細胞の培養上清中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定することで、ウイルス複製抑制率を評価することができる(Baba, C. et al., Antiviral Chemistry & Chemotherapy, Vol. 16, No. 1, p. 33-39 (2005))。LDHは細胞質内に存在する酵素であり、通常、細胞膜の存在により細胞外へ放出されることはほとんどない。一方、ウイルスが細胞に感染し、細胞内で増殖すると、感染細胞は死滅する。ウイルス感染により、細胞の細胞膜が破壊され、LDHが培養上清中に放出されることとなる。本発明に係る化合物の存在下でのウイルス感染細胞の培養において、本発明に係る化合物の効果によってウイルスの感染や増殖が抑制されると、当該細胞の細胞膜は破壊されないため、培養上清中のLDHは上昇しない。すなわち、ウイルス増殖による細胞破壊の程度と培養上清中のLDH量が極めて良好な正の相関を示す。そこで、培養上清中のLDHを定量することで、本発明に係る化合物の抗ウイルス活性(ウイルス複製抑制)を測定することができる。
【0046】
また、ウイルス非感染細胞を含む培地に本発明に係る化合物を添加した後、本発明に係る化合物の細胞増殖抑制率を測定する。例えば水溶性MTT液TetraColor One(登録商標)(Seikagaku Corporation社)等の生細胞測定用試薬を用いることで、細胞増殖抑制率を測定することができる(Baba, C. et al., Antiviral Chemistry & Chemotherapy, Vol. 16, No. 1, p. 33-39 (2005))。
【0047】
次いで、得られたウイルス複製抑制率から、50%のウイルス複製抑制率を付与することができる本発明に係る化合物の濃度(すなわち、50%有効濃度:EC50)を求める。一方、得られた細胞増殖抑制率から、50%の細胞増殖抑制率を付与する本発明に係る化合物の濃度(すなわち、50%細胞毒性濃度:CC50)を求める。さらに、選択係数(CC50/EC50)を求める。当該選択係数は、値が大きいほど、細胞を傷つけずにウイルス複製のみを抑制する効果が高いとみなすことができる。従って、当該選択係数を指標に本発明に係る化合物の抗ウイルス活性を評価することができる。
【0048】
また、本発明に係る化合物の抗ウイルス活性は、本発明に係る化合物を含む培地で培養したウイルス感染細胞におけるウイルス抗原量を測定するアッセイ(例えば、ウエスタンブロット分析、ELISAやフローサイトメトリー)、ウイルス遺伝子(RNA)量を測定するアッセイ(例えば、ノーザンブロット分析や定量RT-PCR法)又はウイルス感染価を測定するアッセイ(例えば、プラーク数測定や細胞変性効果評価)によって評価することができる。このようなウイルス感染の指標に基づき、例えば陰性対照(例えば、本発明に係る化合物不在下でのウイルス感染細胞培養におけるウイルスの増殖)と比較して、本発明に係る化合物存在下でのウイルス感染細胞培養におけるウイルスの増殖が有意に抑制された場合には、本発明に係る化合物の抗ウイルス活性は、良好であると評価することができる。
【0049】
以上に説明したように、本発明に係る化合物を有効成分とする抗ウイルス剤をウイルス感染被験者に投与することで、ウイルスの増殖を抑制することができる。あるいは、本発明に係る化合物を有効成分とする抗ウイルス剤を感染前の被験者に投与することで、ウイルス感染を予防することができる。
【0050】
また、本発明に係る化合物を有効成分とする抗ウイルス剤は、C型肝炎ウイルスが属するフラビウイルス科に属するウイルスに有効である。従って、本発明に係る化合物を有効成分とする抗ウイルス剤を、例えばC型肝炎ウイルスを病因とするC型肝炎、更にはC型肝炎に起因する肝硬変、肝不全又は肝細胞癌の治療又は予防用組成物(あるいは治療薬)としても使用することができる。同様に、フラビウイルス科に属するデング熱ウイルス及び西ナイルウイルスがそれぞれ引き起こすデング熱及び西ナイル熱の治療又は予防用組成物として、本発明に係る化合物を有効成分とする抗ウイルス剤を使用することができる。
【0051】
(実施例)
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
ジフェニルメタン誘導体(本発明に係る化合物)の製造
1. 化合物1:1-(N-ベンジル-N-(4-(3-(4-(3,3-ジメチル-2-オキソブチルヒドロキシ)-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェニル)アミノ)-3,3-ジメチルブタン-2-オンの合成
【0053】
以下のようにして、下記の表1に示す化合物1を製造した。
(1) 1-(4-(3-(4-アミノ-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェノキシ)-3,3-ジメチルブタン-2-オンの合成
【化4】

【0054】
水素化ナトリウム(55%、85.2mg、1.77mmol)のDMF溶液(7mL)に、4-(3-(4-アミノ-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェノール(503mg、1.77mmol)を0℃で加え、同温度で30分間撹拌した。次いで、1-クロロピナコロン(256μL、1.95mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。
【0055】
撹拌後、反応混合物に酢酸エチルと水を加え、有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=1/4〜1/1)で精製することで、表題化合物(656mg、1.72mmol、97%)を白色結晶として得た。
【0056】
表題化合物のNMR分析の結果は、以下の通りであった:
1H-NMR: 6.93 (s, 1H), 6.91 (dd, J = 8.5, 2.6 Hz, 1H), 6.82-6.80 (m, 2H), 6.56 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.49 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 4.82 (s, 2H), 3.47 (s, 2H), 2.23 (s, 3H), 2.12 (s, 3H), 1.99 (q, J = 7.3 Hz, 4H), 1.25 (s, 9H), 0.59 (t, J = 7.3 Hz, 6H); MS (FAB, M+): 381。
【0057】
(2) 1-(4-(3-(4-(3,3-ジメチル-2-オキソブトキシ)-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェニルアミノ)-3,3-ジメチルブタン-2-オンの合成
【化5】

【0058】
1-(4-(3-(4-アミノ-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェノキシ)-3,3-ジメチルブタン-2-オン(259mg、0.679mmol)のDMF溶液(1.5mL)に、ヨウ化カリウム(124mg、0.747mmol)、トリエチルアミン(114μL、0.815mmol)及び1-クロロピナコロン(89.2μL、0.679mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。
【0059】
撹拌後、反応混合物に酢酸エチルと水を加え、有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=1/4)で精製し、さらにヘキサンで洗浄することで、表題化合物(219mg、0.457mmol、67%)を白色結晶として得た。
【0060】
表題化合物のNMR分析の結果は、以下の通りであった:
1H-NMR: 6.93-6.89 (m, 3H), 6.83 (s, 1H), 6.49 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.39 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.82 (s, 2H), 4.50 (s, 1H), 4.13 (d, J = 4.3 Hz, 2H), 2.23 (s, 3H), 2.16 (s, 3H), 1.99 (q, J = 7.3 Hz, 4H), 1.25 (s, 9H), 1.24 (s, 9H), 0.59 (t, J = 7.3 Hz, 6H); MS (FAB, [M+H]+) 480。
【0061】
(3) 1-(N-ベンジル−N-(4-(3-(4-(3,3-ジメチル-2-オキソブチルヒドロキシ)-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェニル)アミノ)-3,3-ジメチルブタン-2-オンの合成
【化6】

【0062】
1-(4-(3-(4-(3,3-ジメチル-2-オキソブトキシ)-3-メチルフェニル)ペンタン-3-イル)-2-メチルフェニルアミノ)-3,3-ジメチルブタン-2-オン(42.0mg、87.6mmol)及び炭酸カリウム(36.3mg、0.263mmol)のアセトニトリル溶液(0.5mL)に、臭化ベンジル(52.1μL、0.438mmol)を加え、室温で22時間撹拌した。
【0063】
撹拌後、反応混合物に酢酸エチルと水を加え、有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=1/9)で精製することで、表題化合物(40.8mg、71.6μmol、82%)を無色固体として得た。
【0064】
表題化合物のNMR分析の結果は、以下の通りであった:
1H-NMR: 7.30-7.20 (m, 5H), 7.00 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 6.91-6.87 (m, 4H), 6.49 (d, J = 9.4 Hz, 1H), 4.83 (s, 2H), 4.30 (s, 2H), 3.88 (s, 2H), 2.31 (s, 3H), 2.23 (s, 3H), 2.00 (q, J = 7.3 Hz, 4H), 1.25 (s, 9H), 0.99 (s, 9H), 0.57 (t, J = 7.3 Hz, 6H). MS (FAB, [M+H]+) 570。
【0065】
2. 化合物9:ビス(3-メチル-4-(3,3-ジメチル-2-オキソブトキシ)フェニル)ジエチルシランの合成
以下のようにして、下記の表1に示す化合物9を製造した。
【化7】

【0066】
4-ブロモ-2-メチルフェノール(3.37g、18.0mmol)のTHF溶液(20mL)を-78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(1.55Mヘキサン溶液、27.9mL、43.2mmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。撹拌後、再び、反応混合物を-78℃に冷却した後、ジクロロジエチルシラン(0.900mL、6.01mmol)をTHF溶液(4mL)として加え、室温で4時間撹拌した。
【0067】
撹拌後、反応混合物に2M塩酸を加えてpH2とし、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=1/3)で精製することで、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ジエチルシラン(948mg)を混合物として得た。
【0068】
得られた混合物の一部(211mg)をDMF(2mL)に溶解し、0℃で水素化ナトリウム(55%、30.6mg、0.701mmol)を加え、30分間撹拌した。30分間の撹拌後、さらに1-クロロピナコロン(92.1μL、0.701mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。
【0069】
撹拌後、反応混合物に酢酸エチルと水を加え、有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=1/9)で精製し、表題化合物(64.4mg、0.130mmol、総収率10%)を白色結晶として得た。
【0070】
表題化合物のNMR分析の結果は、以下の通りであった:
1H-NMR: 7.25 (s, 2H), 7.22 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.59 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 4.87 (s, 4H), 2.28 (s, 6H), 1.26 (s, 18H), 0.99-0.97 (m, 10H); MS (FAB, M+): 496。
【実施例2】
【0071】
選択係数を指標としたジフェニルメタン誘導体(本発明に係る化合物)の抗ウイルス活性評価
(1)材料
ジフェニルメタン誘導体の抗ウイルス活性を調べるために、以下の材料を使用した。
【0072】
1) 細胞:Madin-Darby bovine kidney細胞(以下、「MDBK細胞」という)
2) ウイルス:ウシ下痢症ウイルス(Bovine viral diarrhea virus:以下、「BVDV」という)Nose株
3) 培地:100 unit/ml ペニシリンG、100μg/mlストレプトマイシン及び3%ウマ血清を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium
4) 培養プレート:96穴平底マイクロタイタープレート
5) 測定用試薬又はキット:LDH cytotoxicity detection kit(Takara Biochemicals社)及び水溶性MTT液TetraColor One(登録商標)(Seikagaku Corporation社)
6) 化合物
試験化合物は、下記の表1に示す化合物1〜9である。化合物1〜9は、Hosoda, S., Tanatani, A., Wakabayashi, K., Makishima, M., Imai, K., Miyachi, H., Nagasawa, K., Hashimoto, Y.: Ligand with a 3,3-diphenylpentane skeleton for nuclear vitamin D and androgen receptors: dual activities and metabolic activation. Bioorg. Med. Chem., 14: 5489-5502 (2006)又はHosoda, S., Hashimoto, Y.: 3,3-Diphenylpentane skeleton as a steroid skeleton substitute: novel inhibitors of human 5α-reductase 1. Bioorg. Med. Chem. Lett., 17: 5414-5418 (2007)及びTagle, L. H., Terraza, C. A., Alvarez, P.: Synthesis and characterization of poly(carbonates) and poly(thiocarbonates) derived from diphenyls containing silicon as central atom. Phos. Sulf. Silicon, 181: 239-248 (2006)に記載の方法に準じて製造した。なお、化合物1及び9については、具体的な製造方法を実施例1において説明した。
【0073】
上記LDH cytotoxicity detection kitは、細胞から放出された乳酸脱水素酵素(LDH)を測定することにより細胞傷害を測定するキットである。当該キットをウイルス複製抑制率を求めるために使用した。さらに、水溶性MTT液TetraColor One(登録商標)は生細胞測定用試薬である。
【0074】
(2)方法
以下に示す方法により、化合物1〜9の抗ウイルス活性を測定した(Baba, C. et al., Antiviral Chemistry & Chemotherapy, Vol. 16, No. 1, p. 33-39 (2005))。
【0075】
MDBK細胞(1×105細胞/ml)に、BVDVを感染多重度(multiplicity of infection;MOI)=0.01で感染させた。次いで、BVDV感染細胞を含む溶液を96穴平底マイクロタイタープレートの各穴(ウェル)に100μlずつ分注(1×104細胞/ウェル)し、同時に5倍段階希釈した化合物を添加し、37℃(5%CO2)で3日間培養した。
【0076】
3日間の培養後、培養上清を50μl採取して別のマイクロタイタープレートに移し、LDH cytotoxicity detection kitの反応液を50μl添加した。室温で30分間培養した後、マイクロタイタープレートをマイクロプレートリーダー(BioRad Laboratories社)に供し、490 nm/690 nmで吸光度を測定した。
【0077】
得られた吸光度に基づいて、ウイルス複製の抑制率(%)を次の計算式で求めた。
【0078】
100 - [(ODT)V-(ODC)M] / [(ODC)V-(ODC)M] × 100 (%)
この式において、各略称は以下の意味を示す。
【0079】
(ODT)V:化合物存在下におけるウイルス感染細胞上清の吸光度(LDH活性)
(ODC)M:化合物非存在下におけるウイルス非感染細胞上清の吸光度(LDH活性)
(ODC)V:化合物非存在下におけるウイルス感染細胞上清の吸光度(LDH活性)
【0080】
さらに、得られたウイルス複製抑制率から、50%のウイルス複製抑制率を付与する化合物の濃度(50%有効濃度:EC50)を求めた。
【0081】
同時に、化合物の毒性を測定するために、上述のようにウイルス非感染MDBK細胞を含むマイクロタイタープレートに化合物を添加し、3日間培養した。3日間の培養後、マイクロタイタープレートの各穴にTetraColor One(登録商標)を10μlづつ添加した。37℃で1時間インキュベーションした後、マイクロタイタープレートをマイクロプレートリーダーに供し、450 nm/690 nmで吸光度を測定した。
【0082】
得られた吸光度に基づいて、化合物による細胞増殖抑制率%を次の計算式で求めた。
【0083】
100 - [(ODT)M / (ODC)M] × 100 (%)
【0084】
この式において、各略称は以下の意味を表す。
【0085】
(ODT)M:化合物存在下における非感染細胞培養液の吸光度(MTT活性)
(ODC)M:化合物非存在下における非感染細胞培養液の吸光度(MTT活性)
さらに得られた細胞増殖抑制率から、50%の細胞増殖抑制率を付与する化合物の濃度(50%細胞毒性濃度:CC50)を求めた。
【0086】
(3)結果
各化合物のEC50(μM)、CC50(μM)及び選択係数(CC50/EC50;SI)を表1に示す。なお、EC50(μM)及びCC50(μM)の数値は、少なくとも2回、別々に行われた実験からの平均値である。
【0087】
【表1】

【0088】
表1から判るように、9種類全てのジフェニルメタン誘導体において選択的な抗BVDV効果が認められたが、特に化合物2及び9では、選択係数(SI)が10以上と、良好な抗ウイルス活性が認められた。
【実施例3】
【0089】
ウイルス力価を指標としたジフェニルメタン誘導体(本発明に係る化合物)の抗ウイルス活性評価
実施例2に記載の感染及び培養方法に準じて、MDBK細胞(1×105細胞/ml)に、BVDVを感染多重度(multiplicity of infection;MOI)=0.01で感染させた。次いで、BVDV感染細胞を含む溶液を96穴平底マイクロタイタープレートの各穴(ウェル)に100μlずつ分注(1×104細胞/ウェル)し、同時に各種濃度の上記化合物9を添加し、37℃(5%CO2)で培養した。培養1日後、未感染のウイルスを含む培養上清を取り除き、同じ濃度の化合物9を含む新しい培養液を添加し、さらに2日間培養した。
【0090】
合計3日間の培養後、培養上清を回収し、限界希釈法により培養上清中に存在するウイルスの力価を測定した。
【0091】
結果を図1に示す。図1は、添加した化合物9の濃度に対するウイルス力価(50%細胞培養感染量:CCID50/ml)を示す。なお、図1において「濃度0μM」のサンプルは、化合物不在下でのBVDV感染細胞培養のサンプルである(対照)。
【0092】
図1から判るように、化合物9の濃度が増加するに従って、培養上清中のウイルス力価の減少が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】

[式中、
Xは、炭素原子又はケイ素原子であり、
Y及びZは、同一又は異なり、酸素原子又はNR5(ここで、R5は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基である)であり、
A及びBは、同一又は異なり、水素原子又は直鎖C1-5-アルキル基であり、
R1及びR2は、同一若しくは異なり、直鎖若しくは分岐のC1-5-アルキル基であるか、又は一緒になって環状構造を形成するものであり、
R3及びR4は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、又はCO-R6若しくはCO-NR7R8(ここで、R6、R7及びR8は、同一又は異なり、水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)である]
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記ウイルスがフラビウイルス科に属するウイルスである、請求項1記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
次式(II):
【化2】

[式中、
A及びBは、同一又は異なり、水素原子又は直鎖C1-5-アルキル基であり、
R1及びR2は、同一若しくは異なり、直鎖若しくは分岐のC1-5-アルキル基であるか、又は一緒になって環状構造を形成するものであり、
R6は、水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である]
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215533(P2010−215533A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61577(P2009−61577)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】