説明

ジフェン酸の製造方法

本発明は、フェナントレンと氷酢酸とを加熱する工程と、所定量の30%過酸化水素を滴下して加える工程と、過酸化水素の滴下による添加の完了後、結果として得られた混合物を加熱する工程と、結果として得られた混合物を減圧下に蒸留して、容積を半分にする工程と、ジフェン酸が析出するまで混合物を冷却する工程と、冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と活性炭とを加えた後、残留物を沸騰させる工程と、濾過して残留物を除去する工程と、濾液を塩酸により酸性にする工程と、さらにジフェン酸が析出するまで得られた混合物を冷却する工程と、純粋なジフェン酸が得られるまで、濾過を繰り返す工程と、を備える、フェナントレンからのジフェン酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェン酸の合成方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、フェナントレンからのジフェン酸の合成方法に関する。本発明は、高温耐熱樹脂、エンジニアリング・プラスチック、液晶ポリマー、医薬品、農芸化学工業、その他の製品に、その用途を見出した。この方法は、妥当な温度安定性を備え、良好な耐衝撃性、引張強度または伸張性を有し、長い繊維として引き伸ばすことができる、許容できるポリ−(アミド−イミド)樹脂を製造する。ジフェン酸残基は、芳香族ジアミンとの反応で連鎖停止剤として作用する。
【背景技術】
【0002】
ナフタレンに次いで、フェナントレンは高温コールタールの2番目に大きな成分である。フェナントレンは、コールタール留分のアントラセン油画分(300〜360℃)で濃縮される。フェナントレンは、冷却及び遠心分離により、アントラセン油から得られた粗アントラセンケーキの30〜40%を構成する。アントラセン残留物の再結晶後、フェナントレンは、溶媒抽出及び/または分留により濾液から回収される。フェナントレン及びその誘導体、特に、9:10−フェナントラキノン、2,2’−ビフェニルジカルボン酸(ジフェン酸)及び4,4’−ビフェニルジカルボン酸は、高温耐熱樹脂、エンジニアリング・プラスチック、液晶ポリマー、医薬品、農芸化学工業、その他などの多くの新しく開発された用途におけるその卓越した成果により、世界中の市場での要求が大きくなっている(年間成長率15%)。
【0003】
フェナントレンから誘導されたポリ−(アミド−イミド)樹脂の基礎的な化学が開示されている(特許文献1参照)。この方法は、妥当な温度安定性を備え、許容できるポリ−(アミド−イミド)樹脂を製造するが、該樹脂は非常に優れた耐衝撃性、引張強度または伸張性を有しているわけではなく、長い繊維として引き伸ばすことができない。前記樹脂の物性の欠陥は、フェナントレン/フォルムアルデヒド反応生成物の低い分子量と、9位または10位のどちらかで分子鎖に架橋する末端部分を有するフェナントレンの多くのオリゴマーの存在とによると思われる。酸化において、そのような反応生成物は、芳香族ジアミンとの反応で連鎖停止剤として作用するジフェン酸残基を生み出す。最初にフェナイイトレキノンとなり、次いでジフェン酸となる、フェナントレンのアルコール性溶液のクロム酸との反応によるフェナントレンの酸化が記述されているが、収量及び純度は低い(非特許文献1,2参照)。
【0004】
フェナントレンは、9,10フェナントレキノンを経由して9,10ジオール誘導体に転換される(特許文献2参照)。フェナントレンは、重クロム酸カリウムのような穏やかな酸化剤により酸化されてフェナントレキノンを生成し、フェナントレキノンは、二酸化イオウのような穏やかな還元剤により9,10フェナントレンジオールに還元される。二酸化イオウは、フェナントレンの溶液に泡立たせることにより9,10ジオール誘導体を生成することができるので、便利な還元剤である。誘導体は、窒素のような不活性ガスの被覆により、酸化還元から保護することができる。従って、本発明の第2の特徴は、芳香族ジアミンと、フェナントレンの9,10−ジオール誘導体のフォルムアルデヒドとの反応により形成されるポリカルボン酸生成物との間の反応の濃縮生成物と、生成されるジフェン酸部分に橋かけするケト基を生成するように反応生成物を酸化することとからなるポリイミド樹脂を提供することにある。従って、本発明の第3の特徴は、第1に、酸触媒の存在下でのフェナントレンの9,10−ジオール誘導体のフォルムアルデヒドとの反応生成物と、第2に生成されるジフェン酸部分に橋かけするケト基を生成するように酸化される反応生成物とからなるポリイミド樹脂の形成の中間体を提供するにある。
【0005】
ジフェン酸の製造のための従来技術の検索は、文献調査と特許データベースとに基づいてなされたが、適切な文献は得られなかった。
【特許文献1】米国特許第4352922号明細書
【特許文献2】米国特許第4373089号明細書
【非特許文献1】R.Behrend, Zeit. Phys. Chem., 1892, 9, p.405
【非特許文献2】R.Behrend, Zeit. Phys. Chem., 1892, 10, p.265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主目的は、上に詳述したような障害を予防する、フェナントレンからのジフェン酸の合成方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、99%の純度のジフェン酸を得ることにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、簡単で環境にやさしい、ジフェン酸の製造方法を提供するにある。
【0009】
本発明の他の目的は、経済的である、ジフェン酸の合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、
(i)フェナントレンと氷酢酸とを加熱する工程と、
(ii)所定量の30%過酸化水素を滴下して加える工程と、
(iii)過酸化水素の滴下による添加の完了後、結果として得られた混合物を加熱する工程と、
(iv)結果として得られた混合物を減圧下に蒸留して、容積を半分にする工程と、
(v)ジフェン酸が析出するまで混合物を冷却する工程と、
(vi)冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と活性炭とを加えた後、残留物を沸騰させる工程と、
(vii)濾過して残留物を除去する工程と、
(viii)濾液を塩酸により酸性にする工程と、
(ix)さらにジフェン酸が析出するまで得られた混合物を冷却する工程と、
(x)純粋なジフェン酸が得られるまで、濾過を繰り返す工程と、を備える、フェナントレンからのジフェン酸の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の一態様において、上記工程(i)における加熱は、反応容器中、75から85℃の範囲の温度でなされる。
【0012】
本発明の他の態様において、30%過酸化水素は、100から300mlの範囲の量で、30〜60分間の範囲の時間で、滴下により添加される。
【0013】
本発明のさらに他の態様において、工程(iii)における加熱は、3から7時間の範囲の時間でなされる。
【0014】
本発明のさらに他の態様において、工程(iv)における残留物は、炭酸ナトリウムの10%溶液と、脱色のための活性炭とが添加された後、100℃で沸騰させる。
【0015】
本発明のさらなる態様において、酸は、混合物のpHを3から4.5の範囲に維持するように添加される。
【0016】
本発明の他の態様において、添加されるフェナントレンと、氷酢酸との量は、1:10から1:12(w/w)の比である。
【0017】
本発明のさらなる態様において、生成されるジフェン酸の純度は99%である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
フェナントレンと氷酢酸とを一緒に反応容器に入れ、75〜85℃の範囲に加熱する。得られた混合物に、30%過酸化水素100〜300mlを、30〜60分間かけて、滴下により添加する。過酸化水素溶液の添加の完了後、75〜85℃の温度を、さらに3から4時間の範囲の時間、維持する。得られた混合物を、減圧下に蒸留に供して容積を半分にし、大部分を放冷する。冷却において、かなりの量のジフェン酸が析出する。
【0019】
冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と、活性炭(脱色用)とを添加した後、残留物を100℃で沸騰させ、濾過に供した後、残留物を除去し、濾液を塩酸で酸性化してpHを4.5に維持し、冷却してジフェン酸を析出させる。この工程は、228〜229℃の融点を有する純粋なジフェン酸が得られるまで、何回か繰り返す。
【0020】
添加されるフェナントレンと、氷酢酸とは、好ましくは1:10(w/w)の比である。生成されたジフェン酸の純度は約99%であることが観察された。
【0021】
本発明の新規性は、フェナントレンの緩慢なかつ制御された酸化にある(特定の温度の範囲と、特定の時間の範囲とで、酸化剤を滴下により添加することは、従来技術では知られていなかった)。この方法は、妥当な温度安定性を備え、良好な耐衝撃性、引張強度または伸張性を有し、長い繊維として引き伸ばすことができる、許容できるポリ−(アミド−イミド)樹脂を製造する。ジフェン酸残基は、芳香族ジアミンとの反応で連鎖停止剤として作用する。本発明の方法は、例えば高温耐熱樹脂、エンジニアリング・プラスチック、液晶ポリマー、医薬品、農芸化学工業、その他などの、他の場合ではそのコスト要因により利用できなかった、フェナントレンからの多くの新しく開発された用途の分野にもちいることができる。本発明の方法は、ジフェン酸の収量を猛烈に高くすることが証明された。
【0022】
以下の実施例は説明のためであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0023】
フェナントレン25グラムと、氷酢酸253グラムとを一緒に反応容器に入れ、85℃まで加熱する。得られた混合物に、30%過酸化水素100mlを、通常40分間かけて、滴下により添加する。過酸化水素溶液の添加の完了後、85℃の温度をさらに6時間の間、維持する。得られた混合物を、減圧下に蒸留に供して容積を半分にし、大部分を放冷する。冷却において、かなりの量のジフェン酸が析出する。冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と、活性炭(脱色用)とを添加した後、残留物を100℃で沸騰させ、濾過に供した後、残留物を除去し、濾液を塩酸で酸性化してpHを4.5に維持し、冷却してジフェン酸を析出させる。この工程は、228℃の融点を有する純粋なジフェン酸が得られるまで、何回か繰り返す。得られた収量は11グラムであった。
【実施例2】
【0024】
フェナントレン25グラムと、氷酢酸253グラムとを一緒に反応容器に入れ、85℃まで加熱する。得られた混合物に、30%過酸化水素200mlを、通常40分間かけて、滴下により添加する。過酸化水素溶液の添加の完了後、85℃の温度をさらに6時間の間、維持する。得られた混合物を、減圧下に蒸留に供して容積を半分にし、大部分を放冷する。冷却において、かなりの量のジフェン酸が析出する。冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と、活性炭(脱色用)とを添加した後、残留物を100℃で沸騰させ、濾過に供した後、残留物を除去し、濾液を塩酸で酸性化してpHを4.5に維持し、冷却してジフェン酸を析出させる。この工程は、229℃の融点を有する純粋なジフェン酸が得られるまで、何回か繰り返す。得られた収量は17グラムであった。
【実施例3】
【0025】
フェナントレン25グラムと、氷酢酸253グラムとを一緒に反応容器に入れ、85℃まで加熱する。得られた混合物に、30%過酸化水素88mlを、通常30分間かけて、滴下により添加する。過酸化水素溶液の添加の完了後、80℃の温度をさらに3.5時間の間、維持する。得られた混合物を、減圧下に蒸留に供して容積を半分にし、大部分を放冷する。冷却において、かなりの量のジフェン酸が析出する。冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と、活性炭(脱色用)とを添加した後、残留物を100℃で沸騰させ、濾過に供した後、残留物を除去し、濾液を塩酸で酸性化してpHを4.5に維持し、冷却してジフェン酸を析出させる。この工程は、229℃の融点を有する純粋なジフェン酸が得られるまで、何回か繰り返す。得られた収量は12グラムであった。
〔本発明の主な利点〕
1.本方法は、非常に単純で、環境にやさしい。
2.生成物の収量は、従来技術に比べて非常に高い。
3.この方法には、副反応は全く含まれない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フェナントレンと氷酢酸とを加熱する工程と、
(ii)所定量の30%過酸化水素を滴下して加える工程と、
(iii)過酸化水素の滴下による添加の完了後、結果として得られた混合物を加熱する工程と、
(iv)結果として得られた混合物を減圧下に蒸留して、容積を半分にする工程と、
(v)ジフェン酸が析出するまで混合物を冷却する工程と、
(vi)冷却された混合物を濾過し、炭酸ナトリムの10%溶液と活性炭とを加えた後、残留物を沸騰させる工程と、
(vii)濾過して残留物を除去する工程と、
(viii)濾液を塩酸により酸性にする工程と、
(ix)さらにジフェン酸が析出するまで、得られた混合物を冷却する工程と、
(x)純粋なジフェン酸が得られるまで、濾過を繰り返す工程と、
を備えることを特徴とするフェナントレンからのジフェン酸の製造方法。
【請求項2】
上記工程(i)における加熱は、反応容器中、75から85℃の範囲の温度でなされることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
30%過酸化水素は、100から300mlの範囲の量で、30〜60分間の範囲の時間で、滴下により添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(iii)における加熱は、3から7時間の範囲の時間でなされることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程(iv)における残留物は、炭酸ナトリウムの10%溶液と、脱色のための活性炭とが添加された後、100℃で沸騰されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
酸は、混合物のpHを3から4.5の範囲に維持するように添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
添加されるフェナントレンと、氷酢酸との量は、1:10から1:12(w/w)の比であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
生成されるジフェン酸の純度は99%であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
フェナントレンと氷酢酸とを、反応容器中、75〜85℃の範囲の温度に加熱する工程と、30%過酸化水素を、100から300mlの範囲の量で、30から60分間の範囲の時間で滴下して加える工程と、過酸化水素の滴下による添加の完了後、3から7時間の範囲の時間で、結果として得られた混合物を加熱する工程と、結果として得られた混合物を減圧下に蒸留に供して、容積を半分にする工程と、かなりの量のジフェン酸が析出するまで混合物を冷却する工程と、冷却された混合物を濾過する工程と、炭酸ナトリムの10%溶液と活性炭とを加えた後、残留物を100℃で沸騰させ、濾過して残留物を除去する工程と、濾液を塩酸により酸性化してpHを4.5に維持する工程と、得られた混合物を冷却してジフェン酸を析出させる工程と、228〜229℃の融点を有する、純粋なジフェン酸が得られるまで、濾過を繰り返す工程と、を備えることを特徴とするフェナントレンからのジフェン酸の製造方法。

【公表番号】特表2006−511574(P2006−511574A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561723(P2004−561723)
【出願日】平成14年12月23日(2002.12.23)
【国際出願番号】PCT/IB2002/005612
【国際公開番号】WO2004/056739
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】