説明

ジブクレーン

【課題】吊荷の予期しない動きを防止し、且つ、荷役作業の安全性を十分に確保することができるジブクレーンを提供する。
【解決手段】ジブクレーンは、フック34の昇降をなす巻上ワイヤロープ22と、ジブ14の起伏をなす起伏ワイヤロープ24と、これらワイヤロープ22,24の先端を旋回台の旋回フレーム58に固定するための変換装置38とを備え、変換装置38は、軸受ブラケット56に枢支ピン60を介して回動自在に支持されたV字リンク62を有し、V字リンク62の一対のリンクアーム62a,62bにワイヤロープ22,24の先端が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物の運搬に使用されるジブクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
ジブクレーンの中には造船所等に備えられ、重量物の運搬に使用されるものがあり、この種のジブクレーンは、その上部に設けられた旋回台と、この旋回台から張り出されたジブとを備える(例えば、ジブクレーンとしてのクライミングクレーンを示す特許文献1)。ジブはその基端が旋回台に枢支され、起伏ワイヤロープの引込み又は引き出しにより起伏可能である。一方、ジブの先端からは巻上ワイヤロープを介してフック等の吊具が吊持されており、この吊具に吊荷を掛け、巻上ワイヤロープの巻き取り及び繰出しにより、吊荷の吊り降ろし作業つまり荷役作業が行われる。
【特許文献1】特開2001-130870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
荷役作業時、ジブには巻上ワイヤロープを介して吊荷の荷重が加わり、ジブがその荷重負荷により撓むことは避けられない。このため、吊荷の地切りを行うと、ジブ等の構造物の撓みに起因してジブの先端部が前傾し、このような前傾は、ジブが水平面から上方に向けて所定の起伏角に保持されている場合、吊荷の地切時位置での鉛直線よりも、地切後の吊荷の吊り下げ位置をジブの前方に変位させてしまう。
【0004】
逆に、吊荷を吊り降ろす際にはジブの負荷が解放されるに伴い、ジブの撓みもまた解消されて、ジブの先端部は元の状態まで跳ね上がる。このため、吊り降ろし位置上の吊荷はジブの先端部の跳ね上がりに伴い、巻上ワイヤロープ及び吊具を介してジブの基端側に引き摺られてしまう。
上述した吊り下げ位置の変位及び吊荷の引き摺りは、吊荷が主に造船所等での重量物の位置決めに際し、重量物の芯出しに多大な悪影響を及ぼし、芯出し効率の悪化を招くばかりではなく、作業の安全性を確保するうえからも好ましいものではない。
【0005】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、作業効率の向上を図れ、しかも、作業の安全性をも十分に確保することができるジブクレーンを提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、旋回台に起伏自在に枢支されたジブと、この旋回台に巻上ワイヤロープが巻回された巻上ドラムを有し、この巻上ドラムからジブの先端を経て繰出した巻上ワイヤロープに吊具を吊持させる一方、巻上ワイヤロープの先端を旋回台側に固定し、巻上ドラムに対する巻上ワイヤロープの巻き取り及び巻出しにより吊具を昇降させる巻上装置と、旋回台に起伏ワイヤロープが巻回された起伏ドラムを有し、この起伏ドラムから繰出した起伏ワイヤロープに前記ジブを吊持させる一方、起伏ワイヤロープの先端を旋回台側に固定し、起伏ドラムに対する起伏ワイヤロープの引込み及び引き出しにより、ジブを起伏させる起伏装置とを具備したジブクレーンにおいて、本発明のジブクレーンは、旋回台に設けられ、荷役作業時、巻上ワイヤロープに加わる負荷を引込みワイヤロープの引込みに変換する変換装置を備えている(請求項1)。
【0007】
具体的には、変換装置は、旋回台側に基端が回動自在に支持され、その各先端に巻上及び起伏ワイヤロープの先端がそれぞれ連結されたリンクであって、負荷が巻上ワイヤロープを介して伝達されたとき、一方向に回動可能なリンクと、旋回台側に設けられ、リンクに当接したとき、リンクの他方向への回動を規制するストッパとを含む(請求項2)。
上述の請求項1,2のジブクレーンによれば、荷役作業時、吊荷の負荷が巻上ワイヤロープに加わると、この負荷は変換装置、具体的にはリンクを一方向に回動させる。この回動は、起伏ワイヤロープを引っ張り込み、ジブをその上方への引込み方向に所定の角度だけ持ち上げる。それ故、ジブの起伏角が増加される結果、ジブ等の構造物の撓みに起因したジブ先端部の前傾が発生していても、この前傾による吊り上げ位置の変位が補正され、吊り上げ位置及び吊荷の地切り位置は同一の鉛直線上に位置付けられる。
【0008】
逆に、吊荷が接地される際、巻上ワイヤロープにかかる負荷の軽減に伴い、ジブの先端部ではその前傾が解消される一方、リンクはストッパに当接するまで逆方向に回動する。それ故、ジブは前記角度だけ下げられ、ジブの先端部が元の状態まで跳ね上がるとしても、この跳ね上がりにより吊荷がその吊り降ろし位置から引き摺られることはない。
好ましくは、起伏ワイヤロープはジブの長手方向でみて前記ジブの中間部を吊持しており(請求項2)、この場合、ジブの撓みに起因したジブ先端部の沈み込み量が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜3のジブクレーンは、荷役作業時、ジブの先端部がその撓みに起因して前傾したり、また、その前傾が解消されたりしても、吊荷の吊り上げ位置や吊り降ろし位置が不所望に変位することはない。それ故、吊荷が造船作業での重量物であっても、重量物の芯出しが容易になって芯出し効率の大幅な改善が達成されるのみならず、荷役作業を安全性確保の点からも優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は走行式ジブクレーンを示し、このジブクレーンは走行体2を備える。この走行体2は複数の脚4を有し、これら脚4は車輪6を介して一対のレール8上に載置されている。それ故、走行体2はレール8に沿って走行可能である。
走行体2上にはポータルフレーム10が構築されており、このポータルフレーム10上に旋回台12が配置されている。この旋回台12は水平面内にて旋回可能である。旋回台12の前部からはジブ14が延び、このジブ14の基端は旋回台12側に枢軸15を介して起伏自在に支持されている。
【0011】
旋回台12上にはいわゆるA形フレームと称される上部フレーム16が立設されているとともに、巻上装置の巻上ドラム18及び起伏装置の起伏ドラム20がそれぞれ配置されている。巻上ドラム18には一対の巻上ワイヤロープ22が巻回され、そして、起伏ドラム20にも一対の起伏ワイヤロープ24が巻回されている。なお、巻上ワイヤロープ22及び起伏ワイヤロープ24の基端は対応するドラム18,20に固定されている。
【0012】
一方、上部フレーム16の上端には巻上ワイヤロープ22のためのトップシーブ列26及び起伏ワイヤロープ24のためのトップシーブ列28がそれぞれ配置され、そして、ジブ14の先端には巻上ワイヤロープ22のための先端シーブ列30が配置され、そして、ジブ14の長手方向でみて、その中間部には起伏ワイヤロープ24のための吊持シーブ列32が配置されている。
【0013】
図2から明らかなように、巻上ドラム18からの巻上ワイヤロープ22はトップシーブ列26を経て先端シーブ列30まで導かれ、フック(吊具)34を有する昇降シーブ列36に掛け回されてから先端シーブ列30とトップシーブ列26との間を複数回往復し、そして、トップシーブ列26から旋回台12に向けて戻り、それらの先端が変換装置38を介して旋回台12側に固定されている。従って、巻上ドラム18の回転に伴い、巻上ワイヤロープ22の巻き取り及び巻出しがなされると、フック34が昇降する。
【0014】
また、図3から明らかなように、起伏ドラム20からの起伏ワイヤロープ24はトップシーブ列28を経て吊持シーブ列32まで導かれ、トップシーブ列28と吊持シーブ列32との間を複数回往復した後、トップシーブ列28から旋回台12に向けて戻り、それらの先端が変換装置38を介して旋回台12側に固定されている。従って、起伏ドラム20の回転に伴い、起伏ワイヤロープ24が引込み又は引き出されると、ジブ14はその基端の枢軸15を中心して回動、つまり、起伏することができる。
【0015】
図4及び図5は、巻上ワイヤロープ22及び起伏ワイヤロープ24の先端周辺を具体的に示す。
各巻上ワイヤロープ22の先端には連結金具40がそれぞれ取り付けられており、これら連結金具40は巻上イコライザ42に連結されている。図5(a)から明らかなように、巻上イコライザ42は略U字形状をなし、下向きの三角形状をなすベース44と、このベース44の上側の両角部から上方に延びる一対のアーム46a,46bとを有する。これらアーム46の基端はベース44に回動自在に連結され、そして、各アーム46の先端に巻上ワイヤロープ22の先端が連結金具40を介してそれぞれ連結されている。
【0016】
より詳しくは、一対のアーム46a,46bのうち、その一方のアーム46aはその長手方向に分割され、これら分割部分がロードセル48を介して互いに連結された構造を有する。ロードセル48は、巻上ワイヤロープ22に加わる負荷を検出する荷重センサである。
更に、ベース44の下部からは回動自在な連結金具50が突設されており、この連結金具50が前述した変換装置38に連結されている。
【0017】
一方、一対の起伏ワイヤロープ24の先端もまた図5(b)に示されるように、上述の連結金具40、巻上イコライザ42及び連結金具50のそれぞれと同様な連結金具52及び起伏イコライザ54及び連結金具55を介して変換装置38に連結されている。
以下、変換装置38について詳述する。
図4に示されるように変換装置38は軸受ブラケット56を備え、この軸受ブラケット56は旋回台12の旋回フレーム58上から立設し、旋回フレーム58に固定されている。軸受ブラケット56には枢支ピン60を介してV字リンク62の基端が回動自在に支持され、V字リンク62における両リンクアーム62a,62bの先端に巻上及び起伏イコライザ42,54の連結金具50,55がそれぞれ回動自在に連結されている。従って、巻上ワイヤロープ22及び起伏ワイヤロープ24の先端はV字リンク62を介して旋回台12側に固定されている。
【0018】
更に、軸受ブラケット56にはストッパ64が取り付けられており、このストッパ64は、V字リンク62が図4に示す状態にあるとき、V字リンク62のリンクアーム62aに当接し、図4でみて時計方向へのV字リンク62の回動を阻止している。即ち、起伏ワイヤロープ24はジブ14の吊持しているため、起伏ワイヤロープ24には張力が常時加わっており、この張力はV字リンク62を図4でみて時計方向に回動付勢し、この結果、V字リンク62は巻上ワイヤロープ22側のリンクアーム62aがストッパ64と当接した状態に保持されている。
【0019】
なお、図4中、参照符号66は巻上イコライザ42の振れ止め金具を示し、この振れ止め金具66は旋回フレーム58から立設されている。
次に、図6を参照しながら、上述した変換装置38の働きを説明する。
ジブクレーンが荷役作業を行うと、ジブ14は巻上ワイヤロープ22を介して吊荷Wの負荷を受けることから、この負荷に起因してジブ14が撓み、その先端部は図6中、2点鎖線で示すように沈み込む。このとき、ジブ14が上方に傾斜した起伏角θを有し、そして、前述した変換装置38が設けられていなければ、2点鎖線で示す吊荷Wの吊り上げ位置は、地切り位置での鉛直線上にあるべき実線の吊荷Wよりも、ジブ14の前方に変位してしまう。
【0020】
しかしながら、吊荷Wの負荷は巻上ワイヤロープ22の張力に付与することから、ここで張力が起伏ワイヤロープ24に加わっている張力に打ち勝つと、V字リンク62は図6中、1点鎖線で示すように反時計方向に回動する。このようなV字リンク62の回動は起伏ワイヤロープ24において、それらの先端とトップシーブ列28との間の経路長を長くすることから、この分だけトップシーブ列28と吊持シーブ列32までの経路長が短くなる。それ故、ジブ14は起伏ワイヤロープ24により、1点鎖線で示す如く持ち上げられ、その起伏角θが増加される。
【0021】
このような起伏角θの増加は、ジブ14の先端をその基端側に変位させることから、前述した沈み込みに起因した吊荷Wの変位が補償され、吊荷Wの吊り上げ位置は地切り位置での鉛直線上に維持される。
この点について詳述すると、V字リンク62において、リンクアーム62bの有効長さは、前述したジブ14の撓み量、即ち、その先端部の沈み込み量を考慮して決定されている。
【0022】
一方、吊荷Wが吊り降ろされる際、巻上ワイヤロープ22に加わる張力が減少すると、V字リンク62は起伏ワイヤロープ24側からの張力により図6でみて時計方向に復動し、一方、ジブ14における先端部の沈み込みが解消され、先端部は元の状態に跳ね上がることになる。なお、V字リンク62の復動はリンクアーム62aがストッパ64に当接した時点で停止される。
【0023】
V字リンク62の復動はジブ14を倒し、その起伏角θを減少させるので、ジブ14の先端部の下降とその先端部の跳ね上がりとが相殺される。それ故、吊荷Wが吊り降ろされて着地した時点で、吊荷Wが上述の跳ね上がりに起因して引き摺られるようなこともなく、目標とする吊り降ろし位置に吊荷Wを正確に位置付け可能となる。
この結果、ジブクレーンが造船作業での重量物の運搬及び位置決めに使用される場合、重量物の芯出しが容易になり、芯出し効率の大幅な改善が図られる。また、荷役作業において、吊荷Wに予期しない動きが生じることもないので、作業上の安全性を十分に担保される。
【0024】
更に、起伏ワイヤロープ24はジブ14の先端ではなく、その中央部を吊持しているので、ジブ14における先端部の沈み込み量を小さく抑えることができ、前述した変換装置38の小形化に大きく貢献する。
本発明は上述した一実施例に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、本発明は、走行型のジブクレーンに限らず、クライミングクレーン等の他のタイプのジブクレーンにも同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】走行型ジブクレーンの側面図である。
【図2】巻上ワイヤロープの巻掛けを示した図である。
【図3】起伏ワイヤロープの巻掛けを示した図である。
【図4】一実施例の変換装置を示した側面図である。
【図5】巻上及起伏ワイヤロープの先端周辺を示し、(a)は図4中、Va方向からの矢視図、(b)は図4中、Vb方向からの矢視図である。
【図6】図4の変換装置の働きを説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
12 旋回台
14 ジブ
18 巻上ドラム
20 起伏ドラム
22 巻上ワイヤロープ
24 起伏ワイヤロープ
38 変換装置
62 V字リンク
64 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回台に起伏自在に枢支されたジブと、
前記旋回台に巻上ワイヤロープが巻回された巻上ドラムを有し、この巻上ドラムから前記ジブの先端を経て繰り出した巻上ワイヤロープに吊具を吊持させる一方、前記巻上ワイヤロープの先端を前記旋回台側に固定し、前記巻上ドラムに対する前記巻上ワイヤロープの巻き取り及び巻出しにより前記吊具を昇降させる巻上装置と、
前記旋回台に起伏ワイヤロープが巻回された起伏ドラムを有し、この起伏ドラムから繰出した起伏ワイヤロープに前記ジブを吊持させる一方、前記起伏ワイヤロープの先端を前記旋回台側に固定し、前記起伏ドラムに対する前記起伏ワイヤロープの引込み及び引き出しにより、前記ジブを起伏させる起伏装置と
を具備したジブクレーンにおいて、
前記旋回台に設けられ、荷役作業時、前記巻上ワイヤロープに加わる負荷を前記引込みワイヤロープの引込みに変換する変換装置を備えたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項2】
前記変換装置は、
前記旋回台側に基端が回動自在に支持され、その各先端に前記巻上及び起伏ワイヤロープの前記先端がそれぞれ連結されたリンクであって、前記負荷が前記巻上ワイヤロープを介して伝達されたとき、一方向に回動可能なリンクと、
前記旋回台側に設けられ、前記リンクに当接したとき、前記リンクの他方向への回動を規制するストッパと
を含むことを特徴とする請求項1に記載のジブクレーン。
【請求項3】
前記起伏ワイヤロープは、前記ジブの長手方向でみて前記ジブの中間部を吊持していることを特徴とする請求項1又は2に記載のジブクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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