説明

ジプロペニルエーテル化合物、その製造方法及び光カチオン重合性組成物

【課題】 本発明の課題は、酸素や水分による重合阻害が発生せず、高速硬化性や高い架橋密度が得られるジプロペニルエーテル化合物、その製造方法、および光カチオン重合性組成物を提供することである。
【解決手段】 2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)の製造方法において、塩基触媒(C1)及び/又はルテニウム触媒(C2)の存在下で、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)をプロペニル転位させることにより製造することを特徴とするジプロペニルエーテル化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン重合性を有するジプロペニルエーテル化合物を含有する組成物、およびその硬化物に関する。さらに詳しくは、耐熱性、光学的透明性を与える化学構造として水素化ビスフェノールA骨格を有する高純度化された水素化ビスフェノールAのジプロペニルエーテル、およびこの高純度化合物を含有する組成物を硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レジスト材料、ハードコート剤、コーティング剤等として広く利用されている光硬化性組成物は、アクリレート樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物(例えば特許文献1)、ビニルエーテル樹脂組成物、プロペニルエーテル組成物等が知られている。
【0003】
しかしながら、アクリレート樹脂組成物は、硬化時に酸素による重合阻害が起こるので表面硬化性が著しく悪いことからUV硬化工程の高速化への対応が困難である。
一方、エポキシ樹脂組成物は、酸素による重合阻害が見られないが、光カチオン重合により硬化させる場合には、硬化速度が著しく低い。
これらの2つの問題点を改善した感光性樹脂組成物としてはビニルエーテル樹脂組成物やプロペニルエーテル組成物が挙げられる。しかし、ビニルエーテル樹脂組成物とプロペニルエーテル組成物も親水性の不純物を含有することによる重合阻害が発生するため、高速硬化性や硬化物の物性を満足し得なかった。
【特許文献1】特開2005−225961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、酸素や水分による重合阻害が発生せず、高速硬化性や高い架橋密度が得られるジプロペニルエーテル化合物、その製造方法、および光カチオン重合性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物を光カチオン重合させて得られた硬化物がそのような高速硬化性や高い架橋密度を有することを見出した。
すなわち、本発明は、所定の化学構造を有するジプロペニルエーテル化合物、その化合物を高選択的に製造する方法、重合性組成物および物性に優れた硬化物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸素や水分による重合阻害が発生せずに高速硬化するため、タックフリー最小エネルギーが小さく、かつ硬化物の架橋密度が高い硬化物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願の第1発明は、下記化学式(1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)を主成分とし、両末端のプロペニルエーテル化率が90%以上であることを特徴とするプロペニルエーテル組成物であり;第2発明は、両末端のプロペニルエーテル化率が90%以上になるように工夫された上記のジプロペニルエーテル化合物の製造方法であり;第3発明は、製法に由来して実質上塩素を不純物として含有しない光カチオン重合性組成物であり;第4発明は、光カチオン重合による硬化物である。
【0008】
【化1】

【0009】
第1発明のジプロペニルエーテル組成物は、上記化学式(1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)を主成分とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンアルケニルエーテル組成物である。そして、両末端のプロペニルエーテル化率は90%以上である。
【0010】
ここで、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンアルケニルエーテル組成物は、後述する第2発明の製造により、下記化学式(2)で表される原料の2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)の両末端の2個のアリル基をプロペニル転位させて得られる2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)と、1個しか転位していない2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンモノアリルモノプロペニルエーテル(B’)と、未反応の2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)の混合物である。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の条件で製造すると、ジアリルエーテル化合物(B)の両末端のアリル基を高収率でプロペニル基に転化することができ、得られるジプロペニルエーテル化合物(A)のプロペニルエーテル化率は90%以上、好ましくは95%%以上である。
【0013】
プロペニルエーテル化率が90%以上であると、ジアリルエーテルでは不可能な光カチオン重合が高速に進行するため、短時間での硬化が可能になる。
また、プロペニルエーテル化率が90%以上であるジプロペニルエーテル化合物(A)をレジスト材料として使用すると、露光時の感度が非常に高いため、UV硬化工程の高速化が可能になる。
【0014】
2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)は、後述するように、水素化ビスフェノールAをハロゲン化アリルとアルカリ金属水酸化物を反応させて得られる
本発明において、「プロペニルエーテル化率」とは、前駆体である水素化ビスフェノールAの水酸基がプロペニルエーテル化された比率(%)、すなわち2個のアリル基が2個のプロペニル基に転化された比率(%)を表したものである。
具体的には、得られた2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンアルケニルエーテル組成物の1H−NMRスペクトルから、以下の計算式(1)により求められる。
プロペニルエーテル化率(%)=A/B×100 (1)
但し、A: プロペニル基の末端メチル基の積分値(δ値が1.6ppmppm付近)
B:分子中央部のメチル基の積分値(δ値が0.7ppmppm付近)
【0015】
本願の第2発明は、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)を選択的に得ることができる製造方法である。
2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)の製造に用いられる原料の化合物は、下記化学式(2)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)である。
【0016】
【化3】

【0017】
2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)は、水素化ビスフェノールAを前駆体とし、非反応性のエーテル系溶剤(E)を使用してハロゲン化アリルとアルカリ金属水酸化物とを用い脱塩反応させることにより、有効な純度のものが工業的製造方法で得られる
【0018】
この非反応性エーテル系溶剤(E)としては、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)などのグライム類、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましい。水素化ビスフェノールAの溶解性、反応後の除去性の観点から、ジエチレングリコールジメチルエーテルがさらに好ましい。
【0019】
上記のジアリルエーテル(B)を用いて製造される本発明の2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)は、下記化学式(1)で表されるものである。
【0020】
【化4】

【0021】
上記のジプロペニルエーテル(A)は、原料のジアリルエーテル(B)を塩基触媒(C1)、ルテニウム触媒(C2)、またはこれらの併用によりプロペニル転位させて得られる。
なお、本発明において、「プロペニル転位」とは、CH2=CH−CH2−O−で示されるアリルエーテルの酸素と二重結合に挟まれたメチレン水素の1原子が脱離し、分子末端の炭素に結合する反応を意味する。
【0022】
プロペニル転位させる際に用いる塩基触媒(C1)としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属アルコラート、アルカリ土類金属アルコラート等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート、カリウムプロピラート、カリウムブチラート等が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム、カリウムブチラートである。
(C1)の使用量としては、ジアリルエーテル(B)100重量部当たり、1〜40重量部が好ましい。さらに好ましくは10〜30重量部である。
反応温度は、特に限定はないが、通常80〜200℃であり、好ましくは100〜180℃である。
【0023】
プロペニル転位させる際に用いるルテニウム触媒(C2)としては、トリス(トリフェニルフォスフィン)ルテニウム(II)クロライド等が挙げられる。
(C2)の使用量としては、ジアリルエーテル(B)100重量部当たり、0.01〜5重量部が好ましい。さらに好ましくは0.03〜2重量部である。
反応温度は、特に限定はないが、好ましくは60〜180℃であり、さらに好ましくは100〜150℃である。
【0024】
本反応には、必要により公知の溶媒(F)を使用してもよい。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリンなどの芳香族炭化水素系溶剤;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素系溶剤;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶剤、N−メチルピロリドンなどの複素環式化合物系溶剤ならびにこれらの2種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0025】
本発明の条件で製造すると、ジプロペニルエーテル化合物(A)の両末端のプロペニルエーテル化率は90%以上、好ましくは95%以上である。
【0026】
反応後の目的物の単離精製法は、例えば、(1)反応液を室温まで冷却後、トルエン又はエーテルで有機層を抽出し数回水洗することで無機塩を除き、有機層を減圧濃縮することにより目的物を取得する方法、(2)触媒を除去するために、吸着剤を使用してろ過除去する方法等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0027】
本発明の光カチオン重合性組成物に用いられる光カチオン重合開始剤(D)としては、公知の光カチオン重合開始剤が使用でき、特に限定されないが、たとえば、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。これらの光カチオン重合開始剤は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0028】
本発明において、ジプロペニルエーテル化合物(A)に対する光カチオン重合開始剤(D)の使用量としては、特に制限はないが、重量比で通常95:5〜99.9:0.01である。上記光カチオン重合開始剤(B)の比率が0.01未満では、充分な重合開始効果が得られず、5を超えて使用しても硬化速度の更なる向上効果はなく、不経済である。好ましくは96:4〜98:2である。
【0029】
本発明の光カチオン重合性組成物においては、必要に応じて、更に、カチオン重合性のモノマー(G)、ラジカル重合性のモノマー(H)、光ラジカル重合開始剤(I)、および各種添加剤(J)の1種類もしくは2種類以上を使用しても良い。
【0030】
上記カチオン重合性のモノマー(G)としては、公知のモノマーが使用できる。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;イソプロピルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−エチル−3−へキシルオキシメチルオキセタン、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシメチル)ベンゼン等のオキセタン等が挙げられる。上記モノマーは単独で用いられても良いし2種以上が併用されて用いられてもよい。
【0031】
上記ラジカル重合性のモノマー(H)としては、公知のラジカル重合性のビニル系化合物が使用できる。例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー;スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸;エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。上記モノマーは単独で用いられても良いし2種以上が併用されて用いられても良い。
【0032】
上記光ラジカル重合開始剤(I)としては、公知のラジカル重合性のビニル系化合物が使用できる。例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル系;2,2−ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系;ベンジルジメチルケタール等のアントラキノン系等が挙げられる。
【0033】
上記添加剤(J)としては、例えば、粘接着性を向上させるための粘接着性付与剤、塗工性を向上させるための粘度調整剤、チキソトロープ性(揺変性)を付与するためのチキソトロープ性付与剤、顔料、着色剤、無機充填剤、非反応樹脂、物性調整剤、増量剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられる。これらは単独で用いられても良いし2種以上が併用されて用いられても良い。
【0034】
本発明の化合物(A)中の塩素含有量は、100ppm以下、好ましくは50ppmである。塩素含有量を少なくすることにより、電子材料への用途に使用することができる。
【0035】
本発明の光カチオン重合性組成物は、常法により紫外線又は電子線を照射することにより容易に硬化させて硬化物を得ることができる。紫外線照射装置としては特に限定されず、例えば、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。電子線照射装置としては特に限定されず、例えば、走査型照射装置、カーテン型照射装置等が挙げられる。
【0036】
本発明の光カチオン重合性組成物は、上記光の照射による光カチオン重合反応終了後の硬化物のタックフリー最小エネルギーが700mJ/cmで以下あることが好ましい。タックフリー最小エネルギーが700mJ/cm以下であると、光硬化工程を高速化できる。なお、本発明で言うタックフリー最小エネルギーとは、硬化後の表面のタックが無くなるまでの照射量(mJ/cm)を意味する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、特に記載のないかぎり、「部」は「重量部」、%は重量%を意味する。
【0038】
プロペニルエーテル化率、塩素含量、タックフリー最小エネルギー、および鉛筆硬度の測定法は以下の通りである。
【0039】
<プロペニルエーテル化率>
測定試料約30mgを直径5mmの1H−NMR用試料管に秤量し、約0.5mlの重水素化溶媒を加え溶解させ、分析用試料とした。ここで重水素化溶媒とは、重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化ジメチルホルムアミド等であり、試料を溶解させることのできる溶媒を適宜選択した。
分析用試料は、通常の条件で1H−NMR測定を行った。プロペニルエーテル化率は、前述の計算式(1)により求めた。
プロペニルエーテル化率(%)=A/B×100 (1)
但し、A: プロペニル基の末端メチル基の積分値(δ値が1.6ppmppm付近)
B:分子中央部のメチル基の積分値(δ値が0.7ppmppm付近)
【0040】
<塩素含量>
反応液A:ナトリウムメチラート28%メタノール液2.67gを精秤し、メタノール110ml、アセトン405mlを加えて均一とし、ブロムフェノールブルー指示薬を1ml加える。
試料10g(S)を100mlビーカーに秤かりとり、反応液Aを50mlホールピペットで加え、10分間スターラーで撹拌する。これに硝酸約10滴を加え、電位差自動滴定装置(例えば、京都電子株式会社製 AT-500自動滴定装置)を用いて、0.0025mol/L硝酸銀標準溶液で滴定する。ブランクについても同様の操作を行い、式(1)に従い算出する。
塩素イオン含有量(ppm)={(A−B)×2.5×35.5×f}/S (1)
但し、f:チオシアン酸アンモニウム滴定用溶液の力価、 S:試料採取量(g)
A:反応液Aの滴定量
B:ブランクでの滴定量
【0041】
<タックフリー最小エネルギー>
光カチオン重合性組成物をガラス板にバーコーターで20μmになるように塗布し、紫外線照射装置(80W/cmの高圧水銀ランプ1灯)を使用し、距離10cm、照射強度が160mW/cm2 の条件で、硬化後の表面のタックが無くなるまでの照射エネルギー(mJ/cm2 )を測定した。
【0042】
<鉛筆硬度>
光カチオン重合性組成物をPETフィルムにバーコーターで20μmになるように塗布し、紫外線照射装置(80W/cmの高圧水銀ランプ1灯)を使用し、距離10cm、照射強度が160mW/cm2 の条件で、900mJ/cm2 の照射エネルギーで硬化させ、JIS−K−5600に従い測定した。
【0043】
<製造例1>ジプロペニルエーテル化合物(A−1)の製造
底に内容物の取出口が付いた簡易加圧反応装置に水素化ビスフェノールA(新日本理化株式会社製、リカビノールHB)を45重量部、ジエチレングリコールジメチルエーテル45重量部、粒状水酸化ナトリウム11重量部及びベンジルトリメチルアンモニウムクロリド50%水溶液0.4重量部を混合し、撹拌、分散させながら、窒素置換を行い、減圧下に30〜40℃でアリルクロライド22重量部を滴下した。滴下後、圧力を見ながら温度を徐々に上げ、80℃で8時間反応させた。反応液に60重量部の水を加え、10分撹拌、20分静置分液後、下層(水層)を分液除去した。
この上層と再度、粒状水酸化ナトリウム11重量部、及びベンジルトリメチルアンモニウムクロリド50%水溶液0.4重量部を混合し、撹拌、分散させながら、窒素置換を行い、減圧下に30〜40℃でアリルクロライド22重量部を滴下、80℃で10時間反応させた。反応液に60重量部の水を加え、10分撹拌、20分静置後、下層(水層)を分液除去した。
上層(有機層)にアルカリ吸着剤としてキョーワード600S(協和化学工業社製)を0.5重量部を加え、120℃、減圧下で脱溶剤を行った後、アルカリ吸着剤をろ過して取り除き、ジアリルエーテル化合物(B1)60重量部が得られた。
ジアリルエーテル化合物(B1)50重量部を、撹拌棒および温度計をセットしたガラス製反応容器に仕込み、触媒としてカリウム−t−ブトキシドを3.2重量部添加し、160℃で3時間転位反応した。
その後、水を150重量部加えて過剰のアルカリを水洗して分液除去した。上層(有機層)にアルカリ吸着剤としてキョーワード600S(協和化学工業社製)を1.2重量部加え、90℃で1時間処理した後、アルカリ吸着剤をろ過して取り除き、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)が得られた。
1H−NMRスペクトルから、水酸基のプロペニルエーテル化率は97.0%であった。
【0044】
<製造例2>ジプロペニルエーテル化合物(A−2)の製造
製造例1において、アリルエーテル化により得られたジアリルエーテル化合物(B−1)50重量部を、撹拌棒および温度計をセットしたガラス製反応容器に仕込み、触媒としてトリス(トリフェニルフォスフィン)ルテニウム(II)クロライド0.03重量部を添加し、120℃で5時間転位反応し、ジプロペニルエーテル化合物(A−2)49重量部が得られた。
1H−NMRスペクトルから、水酸基のプロペニルエーテル化率は97.2%であった。
【0045】
<製造例3>トリプロペニルエーテル化合物(A’−1)の製造
ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー株式会社製、ネオアリルP−30)53重量部を、撹拌棒および温度計をセットしたガラス製反応容器に仕込み、触媒としてカリウム−t−ブトキシドを9.6重量部添加し、140℃で4時間転位反応した。
その後、アルカリ吸着剤としてキョーワード600S(協和化学工業社製)を0.6重量部加え、120℃で1時間処理した後、アルカリ吸着剤をろ過して取り除き、トリプロペニルエーテル化合物(A’−1)48重量部を製造した。
1H−NMRスペクトルから、アリルエーテル基のプロペニルエーテル化率は96.7%であった。
【0046】
<製造例4>ジグリシジルエーテル化合物(A’−2)の製造
製造例1のジアリルエーテル化合物(B1)の製造において、アリルクロライド44重量部の代わりにエピクロロヒドリン53重量部を反応させることにより、末端にエポキシ基を導入したジグリシジルエーテル化合物(A’−2)63重量部を製造した。
【0047】
<製造例5>プロペニルエーテル化合物(A’−3)の製造
製造例1において、転位反応の反応温度を160℃から90℃に変更した意外は同様にして、プロペニルエーテル化合物(A’−3)55重量部を製造した。
1H−NMRスペクトルから、アリルエーテルのプロペニルエーテル化率は60.6%であった。
【0048】
<実施例1>
約200mLの容器内で、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)99重量部、及び光カチオン触媒のCPI−200K(サンアプロ社製、特殊リン系アニオンを有するトリアリールスルホニウム塩系の触媒)1.0重量部を混合し、光カチオン重合性組成物(D−1)を得た。塩素含量の分析値は5.1ppmであった。
得られた光カチオン重合性組成物を、PETフィルムにバーコーターで20μm厚みになるように塗布し、紫外線照射装置(80W/cmの高圧水銀ランプ1灯)を使用し、距離10cm、照射強度が160mW/cm2 の条件で、900mJ/cm2 の照射エネルギーで硬化させてフィルムを作製した。
このフィルムを、前述の方法で、タックフリー最小エネルギー、および鉛筆硬度を測定した。
その評価結果を表1に示した。
【0049】
<実施例2>
実施例1において、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)99重量部の代わりにジプロペニルエーテル化合物(A−2)99重量部とした以外は実施例1と同様にして、光カチオン重合性組成物(D−2)と硬化フィルムを得た。光カチオン重合性組成物(D−2)の塩素含量は5.0ppmであった。
【0050】
<比較例1>
実施例1において、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)99重量部の代わりにトリプロペニルエーテル化合物(A’−1)99重量部とした以外は実施例1と同様にして、光カチオン重合性組成物(D’−1)と硬化フィルムを得た。光カチオン重合性組成物(D’−1)の塩素含量は12.1ppmであった。
【0051】
<比較例2>
実施例1において、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)99重量部の代わりにジグリシジルエーテル化合物(A’−2)99重量部とした以外は実施例1と同様にして、光カチオン重合性組成物(D’−2)と硬化フィルムを得た。光カチオン重合性組成物(D’−2)の塩素含量は98.0ppmであった。
【0052】
<比較例3>
実施例1において、ジプロペニルエーテル化合物(A−1)99重量部の代わりにジプロペニルエーテル化合物(A’−3)99重量部とした以外は実施例1と同様にして、光カチオン重合性組成物(D’−3)と硬化フィルムを得た。光カチオン重合性組成物(D’−3)の塩素含量は16.0ppmであった。
【0053】
【表1】

【0054】
本発明の実施例は、比較例2のような従来の製造経路による光カチオン硬化物に比べ、硬化物のタックフリー最小エネルギーが小さく、かつ高い硬度の硬化物が得られる。
一方、比較例1のように水酸基を有するプロペニルエーテル化合物は、親水性が高いために水分による硬化阻害が生じ、硬化物のタックフリー最小エネルギーが大きくなる。
また、比較例3のように転化反応温度が低いためにプロペニルエーテル化率が低く、多くのアリル化エーテルを含む化合物は、カチオン重合性が低いために硬化速度が遅くなり、硬化物のタックフリー最小エネルギーが大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の新規な高純度の化合物は、レジスト材料、ハードコート剤、コーティング剤等として幅広く用いることができる。特に、高純度と高速硬化が求められる電子材料として利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)を主成分とし、両末端のプロペニルエーテル化率が90%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンアルケニルエーテル組成物。
【化1】

【請求項2】
前記化学式(1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジプロペニルエーテル化合物(A)の製造方法において、塩基触媒(C1)及び/又はルテニウム触媒(C2)の存在下で、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル(B)をプロペニル転位させることにより製造することを特徴とするジプロペニルエーテル化合物の製造方法。
【請求項3】
該プロペニル転位反応が100〜180℃である請求項2記載のジプロペニルエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の該ジプロペニルエーテル化合物(A)、および光カチオン重合開始剤(D)を必須成分とすることを特徴とする光カチオン重合性組成物。
【請求項5】
光カチオン重合性組成物中の塩素含有量が100ppm以下である請求項4記載の光カチオン重合性組成物。
【請求項6】
請求項4または5記載の光カチオン重合性組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2010−6770(P2010−6770A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169944(P2008−169944)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】