説明

ジョイントパッキンおよびその製造方法

【課題】 厚み(t)<幅(w)の関係を満足するジョイントパッキン、さらにはその製造方法を提供する。
【解決手段】 従来の押出し成形では忌み嫌われていた加硫時に発生する歪みに着目し、この歪現象を逆用して、押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体に、断面異方性に由来する巻回性形状記憶を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷水筒の蓋等に使用される止水用ジョイントパッキンに関する。さらに詳しくは、本発明は、巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体の両端を固着してなるジョイントパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のジョイントパッキンは、押出し成形機により所定の形状に押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体を所望の長さに切断して得られる線状体(以下、“シリコーンゴム線状体”)の両端をジョイント(固着)することによって形成されている(例えば、特許文献1参照。)。ところで、このシリコーンゴム線状体は、該文献の第3図に示されるように、歪みの無い真っ直ぐな、いわゆる断面等方性の押出し成形品である。このため、該シリコーンゴム線状体の両端を固着してジョイントパッキンを得る際には、形状的な制約がつきまとう。つまり、この従来法では、図3に示すように、厚み(t)≧幅(w)の構造を有するものしか得られないことである。これは、紙テープを丸める要領と全く同じことである。
【0003】
これに対して、現実の市場趨勢としては、図4に示すように、厚み(t)<幅(w)の構造を有するジョイントパッキンの要求が多い。その理由は、厚み(t)については、パッキンとしての鉛直荷重に対する性能が許容範囲内となるような厚み以上にする必要は無いが、幅(w)については、相手方部材との接触面積が大きくなるように、より広くすることが好ましいからである。
【0004】
【特許文献1】特公平5−60729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、特に厚み(t)<幅(w)の関係を満足するジョイントパッキン、さらにはその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の押出し成形では忌み嫌われていた加硫時に発生する歪みに着目した。その結果、この歪現象を逆用して、押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体に、断面異方性に由来する巻回性形状記憶を付与することで、上記の課題を一挙に解決するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明にしたがって、巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体からジョイントパッキンを得る場合、以下のような顕著な効果が奏される。
a.該線状体は、巻回性の形状記憶を有しているため、自発的に環状化するので、その両端の固着作業が極めて容易になる。併せて、パッキン外径の小さい円筒状パッキンでも容易に両端を固着することができる。
b.該線状体は、後述するように、押出し成形時に多数本取り工程を採用することにより得られるので、生産性が格段に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のジョイントパッキンについて図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明のジョイントパッキンの一例を示す上面図である。
図1(b)は、図1(a)のジョイントパッキンを任意の箇所で切断した際の上面図である。
図2は、図1(b)のシリコーンゴム線状体をその一端を支点(A)として垂らした場合の斜視図である。
図3は、従来のジョイントパッキンの一例を示す斜視図である。
図4は、本発明のジョイントパッキンの好ましい態様を示す斜視図である。
図5は、本発明で採用する押出し成形工程を示す略線図である。
図6は、押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体の2本が並列に張り合わされた状態を示す斜視図である。
図7は、押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体が三ツ矢状に張り合わされた状態を示す斜視図である。
【0009】
図1(a)において、(1)はジョイントパッキン、(2)はシリコーンゴム線状体、そして(3)はジョイント部である。図2(b)には、図1(a)のジョイントパッキン(1)を任意の箇所で切断した際、シリコーンゴム線状体(2)が、同一平面で巻回性の形状記憶を呈することが示されている。さらに、図2には、図1(b)のシリコーンゴム線状体の一端を支点(A)として垂らした場合、螺旋構造を呈することが示されている。
【0010】
この特異な現象は、ジョイント前のシリコーンゴム線状体についても同様である。特に強調されることは、ジョイントパッキン(1)を形成する前のシリコーンゴム線状体(2)も、同一平面上で自発的に環状化する特性、すなわち巻回性の形状記憶を同等レベルで有していることである。該シリコーンゴム線状体(2)が、このような半永久的な巻回性の形状記憶を有することにより、その両端の固着作業を極めて容易に行うことができる。併せて、このような巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体(2)にあっては、パッキン外径の寸法に左右されることなく、容易に両端が固着される。
【0011】
図4には、本発明の好ましい態様が示されている。この態様について、図3に示す従来のジョイントパッキンと対比して述べる。従来の押出し成形によるシリコーンゴム線状体(2a)は、歪みの無い真っ直ぐな、いわゆる断面等方性を示すに留まる。従って、これの両端をジョイント部(3a)にて固着しても、図3に示すように、厚み(t)≧幅(w)の関係に制約されたジョイントパッキン(1a)が得られるに過ぎない。これが、冒頭に述べたように、紙テープを丸める要領に匹敵するわけである。これに対し、本発明では、断面異方性を利用した巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体(2)を採用するので、上記の厚み(t)と幅(w)の関係を逆転させることができる。この結果、図4に示すように、厚み(t)<幅(w)を満足し、ひいては市場の要求に応えるジョイントパッキン(1)が実現される。
【0012】
上記の巻回性の形状記憶を有するジョイントパッキンは、好ましくは、シリコーンゴム線状体の長手方向に沿って対峙する側面間に異なる伸び特性を付与することによって得られる。その製造方法の一例について、図5〜図7を参照しながら述べる。図5において、(4)は押出し機、(5)は加硫炉、(6)は引取り機であり、これらは鉛直方向に配置されている。この成形工程では、特殊な加硫形態が採用される。すなわち、押出し機(4)から押し出された長尺状シリコーンゴム線状体は、図6に示すように、その2本が並列(サイド・バイ・サイド)状態に張り合わされた長尺状複合体(7)として上方の加硫炉(5)に導かれて加熱、加硫され、引き続き、上方の引取り機(6)に至る。ここで、長尺状複合体(7)は、シリコーンゴム線状体の任意の側面が互いに手作業で簡単に剥離可能であり、且つ巻取り時には剥離されない程度に張り合わされる。
【0013】
この加硫時には注目すべき現象が生じる。つまり、長尺状複合体(7)の両側面(B)は、加熱炉(5)内で輻射熱の影響を受け易く、加硫が促進される。これに対して、同じ長尺状複合体(7)の張り合わせ部(B’)部は輻射熱の影響を受けないか受けにくい為加硫が遅くなる。併せて、この張り合わせ部(B’)部には、重力による下方向への引張り力と引取り機による上方向の引張り力により、ゴム伸びが生じる。その結果、それぞれの長尺状シリコーンゴム線状体には、加硫特性に関して断面異方性が生じ、張り合わせ部(B’)の部分では、側面(B)の部分に比べて、伸び特性が大幅に高くなる。従って、加硫・引取り後の長尺状複合体(7)を、張り合わせ部(B’)に沿って引裂くと、それぞれに巻回性の形状記憶が付与された2本の長尺状シリコーンゴム線状体が得られる。また、この巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体(2)は、通常、加硫・引取り後の長尺状複合体(7)を先ず、任意の長さ、特にジョイントパッキンの外径に対応する長さに切断し、次いで張り合わせ部(B’)に沿って引裂くことによって、容易に得られる。
【0014】
ちなみに、上述の押出し成形工程で、厚み(t)<幅(w)を満足する長尺状シリコーンゴム線状体を張り合わせ状態で加硫処理した場合は、前記の図4に示すジョイントパッキンが得られる。図4の(B)及び(B’)は、それぞれに図6の(B)及び(B’)に対応している。勿論、長尺状シリコーンゴム線状体の断面は、ジョイントパッキンの仕様に応じて任意に設定されるが、長方形〜楕円形が一般的である。
【0015】
以上に述べた成形工程は、長尺状シリコーンゴム線状体の2本取りによる複合体(7)の加硫例であるが、この張り合わせの本数は任意である。例えば、3本取りの場合には、図7に示すような三ツ矢構造とすればよい。
【実施例】
【0016】
先ず、シリコーンゴム(TSE2570−5U:GE東芝シリコーン株式会社製)100重量部、加硫剤(TC−25A/B:GE東芝シリコーン株式会社製)2.5重量部を混合し、シリコーンゴムコンパウンドを用意した。
次に、得られたシリコーンゴムコンパウンドを押出し機(4)に投入し、押出し温度20℃、線速6.0m/分にて、厚み(t)=2.5mm、幅(w)=5.0mmの長尺状シリコーンゴム線状体の2本が並列に張り合わされた形状(図6の長尺状複合体)となるように押出し成形した。続いて、この長尺状複合体(7)を設定温度600℃、炉の長さ1mの加硫炉(5)へ導き加硫させた後、引取り機(6)にて、6.0m/分で巻き取った。引取られた長尺複合体(7)は螺旋構造を呈していた。
【0017】
さらに、この長尺複合体(7)を長さ240mmに切断し、これを張り合わせ部(B’)に沿って引裂いて、2本のシリコーンゴム線状体(2)を得た。各線状体(2)について、その両端をシリコーンゴム接着剤で固着することによって、図4に示すように、厚み(t)<幅(w)の関係を満足した円筒状のジョイントパッキン(1)が形成された、このとき、各シリコーンゴム線状体(2)は巻回性の形状記憶を有していたため、ジョイント作業は極めて円滑に進行した。
【0018】
さらに、得られたジョイントパッキン(1)を任意の箇所で切断しても、図1(b)のようにシリコーンゴム線状体(2)が自発的に環状化する癖が確認され、また、このシリコーンゴム線状体(2)の一端を支点(A)として垂らしてみたところ、図2のように螺旋状の構造を示すことが確認された。このことから、本発明で採用するシリコーンゴム線状体(2)は、半永久的な巻回性の形状記憶を保持していると言える。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のジョイントパッキンは、そのシリコーンゴム線状体が自発的に環状化する形状記憶を有していることから、円形を有する蓋付き密閉容器のパッキンとして幅広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は、本発明に係るジョイントパッキンの一例を示す上面図、図1(b)は、図1(a)のジョイントパッキンを任意の箇所で切断した際の上面図。
【図2】シリコーンゴム線状体の一端を支点(A)として垂らした場合の斜視図。
【図3】従来のジョイントパッキンの一例を示す斜視図。
【図4】本発明のジョイントパッキンの好ましい態様を示す斜視図。
【図5】本発明で採用する押出し成形工程を示す略線図。
【図6】押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体の2本が並列に張り合わされた状態を示す斜視図。
【図7】押出し成形された長尺状シリコーンゴム線状体が三ツ矢状に張り合わされた状態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0021】
1 ジョイントパッキン
2 シリコーンゴム線状体
3 ジョイント部(固着部)
4 押出し機
5 加硫炉
6 引取り機
7 長尺状複合体
t ジョイントパッキンの厚み
w ジョイントパッキンの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム線状体の両端が固着されたジョイントパッキンにおいて、該線状体が巻回性の形状記憶を有することを特徴とするジョイントパッキン。
【請求項2】
厚み(t)と幅(w)の長さの関係が、厚み(t)<幅(w)を満足する請求項1に記載のジョイントパッキン。
【請求項3】
該線状体が長方形状の断面を有する請求項1または2に記載のジョイントパッキン。
【請求項4】
該線状体が楕円状の断面を有する請求項1または2に記載のジョイントパッキン。
【請求項5】
押出成形した長尺状シリコーンゴム線状体の少なくとも2本をそれらの任意の側面が互いに張り合わされた状態で加熱炉に導いて加硫し、引取った後、元の各線状体に分離することを特徴とする巻回性の形状記憶を有する長尺状シリコーンゴム線状体の製造方法。
【請求項6】
押出成形した長尺状シリコーンゴム線状体の少なくとも2本をそれらの任意の側面が互いに張り合わされた状態で加熱炉に導いて加硫し、引取った後、任意の長さに切断してから元の各線状体に分離することを特徴とする巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体の製造方法。
【請求項7】
該押出成形した長尺状シリコーンゴム線状体の2本が並列(サイド・バイ・サイド)に張り合わされた請求項5または6に記載の巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体の製造方法。
【請求項8】
該押出成形した長尺状シリコーンゴム線状体の3本が三ツ矢状態で張り合わされた請求項5または6に記載の巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体の製造方法。
【請求項9】
請求項5、7〜8のいずれかに記載の巻回性の形状記憶を有する長尺状シリコーンゴム線状体を任意の長さに切断し、切断後のシリコーンゴム線状体の両端を固着することを特徴とするジョイントパッキンの製造方法。
【請求項10】
請求項6、7〜8のいずれかに記載の巻回性の形状記憶を有するシリコーンゴム線状体の両端を固着することを特徴とするジョイントパッキンの製造方法。
【請求項11】
該任意の長さが、ジョイントパッキンの所望外径に応じた長さである請求項6または9に記載のジョイントパッキンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−45596(P2008−45596A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219481(P2006−219481)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】