説明

ジョセフソン素子の製造方法

【課題】有機薄膜を用いたジョセフソン素子を製造する。
【解決手段】
成膜対象物10bを真空雰囲気に置き、有機薄膜から成る第一の超伝導電極膜13表面にトリメチルアルミニウムを吸着させ、真空排気した後、オゾンガスを導入する。トリメチルアルミニウムとオゾンガスが反応し、酸化アルミニウム薄膜141が形成される。残留ガスや反応副生成物は真空排気によって除去する。トリメチルアルミニウムとオゾンガスの導入を交互に複数回行い、アルミナ薄膜141、142を積層させ、トンネル障壁膜を形成する。トンネル障壁膜の表面に第二の超伝導電極膜を形成すると、ジョセフソン素子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジョセフソン素子の製造方法にかかり、特に、有機薄膜を用いたジョセフソン素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン素子はトンネル効果の一種であるジョセフソン効果を用いた素子であり、シリコン単結晶を用いたトランジスタよりも高速に動作することから、高速コンピュータへの応用が期待されている。
【0003】
ジョセフソン素子では、超伝導体が極低温でしか動作しないため、ジョセフソン素子を高価な液体ヘリウムで冷却しなければ動作しない。従って、できるだけ高温で動作する超伝導体の開発が望まれている。
【0004】
有機物は、その多くは絶縁体であるが、近年では分子設計による新規な有機物が得られるようになっており、例えばBEDT-TTF(Bis(EthyleneDiThiolo)TetraThiaFulvalene )等、超伝導を示すものが得られるようになり、ジョセフソン素子への応用が期待されている。
【0005】
しかしながら、有機薄膜を超伝導電極膜に用いてジョセフ素子を形成する場合、有機薄膜表面に絶縁性のトンネル障壁膜を形成する必要がある。トンネル障壁膜は絶縁膜であり、その形成にはスパッタリング法、蒸着法、CVD法等、種々の方法が考えられるが、いずれの方法も有機薄膜(超伝導電極膜)と絶縁膜(トンネル障壁膜)との間の界面の状態が悪く、また、絶縁膜形成の際に有機薄膜が変質してしまい、ジョセフソン接合を得ることが困難である。
なお、本発明と類似の成膜技術は下記文献に記載されている。
【特許文献1】特開2002−222934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するために創作されたものであり、有機超伝導薄膜を用いたジョセフソン素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、基板と、前記基板上に配置された第一の超伝導電極膜と、前記第一の超伝導電極膜と接触して配置されたトンネル障壁膜と、前記トンネル障壁膜と接触して配置された第二の超伝導電極膜とを有し、前記第トンネル障壁膜にトンネル電流が流れ得るように構成されたジョセフソン素子の製造方法であって、前記第一の超伝導電極膜を露出させた状態で真空雰囲気に置き、前記真空雰囲気中にトリメチルアルミニウムを導入し、次いで、オゾンを導入してアルミナ(Al23)薄膜を形成し、前記トンネル障壁膜とするジョセフソン素子の製造方法である。
また、本発明は、前記トリメチルアルミニウムと前記オゾンは交互に導入するジョセフソン素子の製造方法である。
また、本発明は、前記第一の超伝導電極膜は、前記基板を真空雰囲気中に置き、有機薄膜材料の蒸気を放出させ、前記基板上に付着させて形成するジョセフソン素子の製造方法である。
【0008】
本発明は上記のように構成されており、第一、第二の超伝導電極膜が超伝導状態になると、臨界電流値以下ではではトンネル障壁膜にトンネル電流が流れ、臨界電流値以上では流れず、第一、第二の超伝導電極膜間に電圧が発生するようになっている。
【0009】
そのトンネル障壁膜は、真空雰囲気中に第一の超伝導電極膜の表面を露出させ、トリメチルアルミニウムを導入し、第一の超伝導電極膜の表面にトリメチルアルミニウムを吸着させる。吸着されたトリメチルアルミニウムは単分子層である。
導入するトリメチルアルミニウムはキャリアガス中に気体や蒸気として含有させることができる。
【0010】
次いで、真空雰囲気中の未吸着のトリメチルアルミニウムを真空排気によって除去し、オゾンを導入すると、オゾンは吸着されているトリメチルアルミニウムと反応し、アルミナが生成される。遊離したメチル基と未反応のオゾンは真空排気によって除去される。
【0011】
この繰り返しによって形成されるアルミナ薄膜は緻密であり、欠陥がない。また、トンネル障壁膜は室温で形成されるので、第一の超伝導電極膜がガラス転移点以上に昇温することがなく、変質しない。
【0012】
第一、第二の超伝導電極膜の膜厚は400〜500Å程度、トンネル障壁膜の膜厚は20〜40Å程度である。この場合、トリメチルアルミニウムとオゾンの導入を5回程度繰り返す。
【発明の効果】
【0013】
有機薄膜がガラス転移点以上の温度に昇温しないので、劣化しない。緻密な絶縁膜を形成できるので、歩留まりが高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を図面を用いて説明する。
図1の符号10は、本発明の一例の薄膜製造方法によって作成したジョセフソン素子である。
このジョセフソン素子10は、基板11上に、第一の端子用電極膜12と、第一の超伝導電極膜13と、トンネル障壁膜15と、第二の超伝導電極膜16と、第二の端子用電極膜17とが形成されている。
【0015】
第一の超伝導電極膜13と第二の超伝導電極膜16は有機薄膜であり、低温望ましくは室温で超伝導性を示す材料で構成されている。例えば上記BEDT-TTF等である。
【0016】
第一、第二の端子用電極膜12、17は外部電源18に接続されており、第一、第二の超伝導電極膜13、16が超伝導状態に置かれた状態で、第一、第二の端子用電極膜12、17間に電流を流したときに、臨界電流以下では第一、第二の端子用電極膜12、17間に電圧は生じず、臨界電流を超えると電圧が生じる性質を持っている。この効果はジョセフソン効果と呼ばれており、電圧の発生と消滅は高速で切り替わるため、高速のメモリとして使用することが期待されている。
【0017】
第一の端子用電極膜12に負電圧、第二の端子用電極膜17に正電圧を印加して動作させる場合、第一の端子用電極膜12は第一の超伝導電極膜13に電子を注入する性質が必要であり、第二の端子用電極膜17は、第二の超伝導電極膜16に正孔を注入する性質が必要である。
【0018】
ジョセフソン素子10の製造工程のうち、薄膜形成工程を説明し、フォトリソグラフ工程やエッチング工程は省略する。
【0019】
図3の符号50は、本発明に用いることができる有機蒸着装置である。
この有機蒸着装置50は真空槽51を有しており、該真空槽51内の底壁側には一乃至複数台の有機蒸着源55a、55bが配置され、天井側には基板ホルダ56が配置されている。
【0020】
真空槽51に接続された真空排気系58を動作させ、真空槽51内を真空排気しておき、真空雰囲気を維持しながら真空槽51内部に成膜対象物を搬入し、基板ホルダ56に保持させる。
【0021】
図2(a)の符号10aは、その成膜対象物を示している。該成膜対象物10aは、基板11表面に、予め第一の端子電極膜12が形成されており、その表面が露出されている。基板ホルダ56上では、第一の端子電極膜12が有機蒸着源55a、55bに向けられている。
【0022】
有機蒸着源55a、55bは、それぞれ容器61a、61bと、該容器61a、61bの周囲に巻回されたヒータ62a、62bとを有している。母材用の有機蒸着源55aでは、容器61a内に、予め、母材となる有機材料63aが配置されており、ドーパント用の有機蒸着源55bでは、その容器61b内に、予め、ドーパントとなる有機材料63bが配置されている。
【0023】
各有機蒸着源55a、55bのヒータ62a、62bに通電し、有機材料63a、63bを昇温させると有機材料63a、63bの蒸気が発生し、容器61a、61bの開口部分から真空槽51内に放出される。
【0024】
母材となる有機材料62aの蒸気放出量は多量であり、ドーパントとなる有機材料62bの蒸気放出量62bは少量になるように設定されており、ドーパントが少量添加されるように構成されている。
【0025】
放出された蒸気は第一の端子電極膜12表面に到達し、その表面に第一の超伝導電極膜13が形成される。このとき、成膜対象物10aを水平面内で回転させると、均一な組成及び膜厚に形成される。図2(b)の符号10bは、第一の超伝導電極膜13が形成された状態の成膜対象物を示している。
【0026】
次に、図4の成膜装置70を用いてトンネル障壁膜を形成する。
この成膜装置70は真空槽71を有している。該真空槽71には真空排気系73が接続されており、真空排気系73を動作させ、真空槽71を予め真空排気しておく。そして、真空雰囲気を維持しながら成膜対象物10bを真空槽71内に搬入する。
【0027】
真空槽71の天井側には基板ホルダ72が配置されており、底壁側にはオゾンガス供給装置75とトリメチルアルミニウム供給装置81とが配置されている。成膜対象物10bは、第一の超伝導電極膜13を底壁側に向けて配置されている。
【0028】
オゾンガス供給装置75は、酸素ガス源78と、オゾン生成器77と、オゾンガス放出器76とを有している。酸素ガス源78には酸素ガスが充填されており、酸素ガス源78からオゾン生成器77に酸素ガスが供給されると、オゾン生成器77内でオゾンガスが生成さるように構成されている。生成されたオゾンガスはオゾンガス放出器76に供給される。
【0029】
トリメチルアルミニウム供給装置81はキャリアガス供給源85と、バブラー83と、原料ガス放出器82とを有している。バブラー83の内部には、液状のトリメチルアルミニウムから成る液体原料84が配置されている。
【0030】
キャリアガス供給源85には、キャリアガス(ここでは窒素ガス)が充填されており、キャリアガス供給源85からバブラー83に供給されたキャリアガスは、バブラー83内で液体原料84に吹き込まれ、液体原料84の蒸気が含有された原料ガスが生成される。この原料ガスは原料ガス放出器82に供給される。
【0031】
オゾンガス放出器76と原料ガス放出器82は真空槽71の内部に配置されており、オゾンガス放出器76と原料ガス放出器82からは、真空槽71内に、オゾンガスと原料ガスとがそれぞれ放出されるように構成されている。
【0032】
原料ガス放出器82とオゾンガス放出器76には、電子制御式の開閉バルブが設けられており、コンピュータ等の制御装置によって開閉バルブを制御すると、真空槽71内への原料ガス又はオゾンガスの供給と停止を短時間で切り換えられるように構成されている。、それにより、真空槽71内への原料ガス及びオゾンガスを所望期間だけ、所望のタイミングで導入できるように構成されている。
【0033】
トンネル障壁膜形成のプロセスを説明すると、真空槽71内へ成膜対象物10bを搬入するときは真空槽71内への原料ガス及びオゾンガスの導入を停止しておき、真空槽71内を所定圧力以下まで真空排気する。次いで、真空雰囲気が形成された状態で原料ガスの導入を開始する。このとき、オゾンガスの導入は停止したままである。
【0034】
原料ガスの導入により、図5(a)に示すように、原料ガス中のトリメチルアルミニウム分子は、アルミニウムが第一の超伝導電極膜13の表面に向け、反対側のメチル基が周囲雰囲気に向けて成膜対象物10bに吸着される。この状態では成膜対象物10bの表面にはメチル基が露出されている。
【0035】
原料ガスの導入を所定時間維持し、成膜対象物10bの表面に満遍なく原料ガスが吸着された後、原料ガスの導入を停止し、真空槽71内に残留する原料ガスを真空排気する。成膜対象物10b表面には、原料ガスが吸着されたままである。
【0036】
真空排気により、真空槽71内が所定圧力まで低下した後、オゾンガスを導入を開始すると図5(b)に示すように、成膜対象物10b表面に吸着されているトリメチルアルミニウム分子とオゾンガスとが反応し、アルミナ(Al23)から成る、単分子層の絶縁膜141が生成される。
【0037】
このとき、原料ガスの導入は停止したままである。オゾンガスの導入中も真空槽71の真空排気は継続して行っておき、副生成物の二酸化炭素ガスやメタンガスの他、余分なオゾンガスは真空排気によって除去する。
【0038】
オゾンガスの導入を所定時間維持し、成膜対象物10bに吸着されていたトリメチルアルミニウム分子がオゾンと反応し、消費された後、オゾンガスの導入を停止し、真空槽71内に残留するオゾンガスや副生成物を真空排気する。
【0039】
真空槽71内が所定圧力に低下した後、上記のように原料ガスを導入すると、真空槽71内に導入された原料ガス中のトリメチルアルミニウム分子は、第一の超伝導電極膜13表面に形成された絶縁膜141の表面に吸着される。そしてオゾンガスの導入によって吸着されたトリメチルアルミニウム分子とオゾンガスとが反応し、図5(c)に示すように、アルミナから成る新たな絶縁膜142が、既に形成されていた絶縁膜141の表面に積層される。
【0040】
このように、原料ガスの導入、排気、オゾンガスの導入、排気のサイクルを複数回繰り返す、即ち、原料ガスの導入とオゾンガスの導入を交互に複数回繰り返し行うと、成膜対象物10bの第一の超伝導電極膜13の表面に、絶縁膜14nが積層され、図2(c)に示すように、それによって絶縁性のトンネル障壁膜15が所望膜厚に形成される。このトンネル障壁膜15は、緻密で結晶性のよい、アルミナ(Al23)結晶によって構成されている。符号10cはその状態の成膜対象物を示している。
【0041】
次に、成膜対象物10cを成膜装置70から搬出し、第二の超伝導電極膜16を形成する有機蒸着装置内に搬入する。この有機蒸着装置は、第一の超伝導電極膜13を形成した有機蒸着装置と同じ構造の有機蒸着装置を用いることができ、第二の超伝導電極膜16を構成させる母材及びドーパントを真空槽内に放出できるように構成されている。
【0042】
そして、図2(d)に示すように、トンネル障壁膜15表面に有機薄膜から成る第二の超伝導電極膜16が形成された後、第二の超伝導電極膜16の表面に第二の端子用電極膜17が形成されると、図1のジョセフソン素子10が得られる。
第一、第二の超伝導電極膜13、16が、常温で超伝導状態になれば、ジョセフソン素子10も常温で動作する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のジョセフソン素子を説明するための図
【図2】(a)〜(d):本発明のジョセフソン素子製造方法の工程を説明するための図
【図3】第一、第二の超伝導電極膜を形成する成膜装置の一例
【図4】トンネル障壁膜を形成する成膜装置の一例
【図5】(a)〜(c):トンネル障壁膜の形成過程を説明するための図
【符号の説明】
【0044】
10……ジョセフソン素子
11……基板
13……第一の超伝導電極膜
15……トンネル障壁膜
16……第二の超伝導電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第一の超伝導電極膜と、
前記第一の超伝導電極膜と接触して配置されたトンネル障壁膜と、
前記トンネル障壁膜と接触して配置された第二の超伝導電極膜とを有し、
前記第トンネル障壁膜にトンネル電流が流れ得るように構成されたジョセフソン素子の製造方法であって、
前記第一の超伝導電極膜を露出させた状態で真空雰囲気に置き、前記真空雰囲気中にトリメチルアルミニウムを導入し、次いで、オゾンを導入してアルミナ薄膜を形成し、前記トンネル障壁膜とするジョセフソン素子の製造方法。
【請求項2】
前記トリメチルアルミニウムと前記オゾンは交互に導入する請求項1記載のジョセフソン素子の製造方法。
【請求項3】
前記第一の超伝導電極膜は、前記基板を真空雰囲気中に置き、有機薄膜材料の蒸気を放出させ、前記基板上に付着させて形成する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のジョセフソン素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−351803(P2006−351803A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175490(P2005−175490)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】