説明

ジルコニア原料およびジルコニア焼結体、並びに刃物および手動利器

【課題】水熱劣化環境下における強度低下を抑制することができるジルコニア原料およびジルコニア焼結体、並びに刃物および手動利器を提供することである。
【解決手段】ジルコニアを主成分とし、イットリアを1.5〜3.5モル%、シリカを0.03〜0.3質量%、酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有するジルコニア原料およびジルコニア焼結体である。そして、ジルコニア原料は、平均粒径を0.4〜1μm、最大粒径を1〜3μm、かつ比表面積を4〜16m/gとする。ジルコニア焼結体は、表面の結晶粒界におけるEDS表面分析において、明細書中に記載のピーク強度比を有する。このジルコニア焼結体からなる刃体を備えた刃物および手動利器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃体等に好適なジルコニア原料およびジルコニア焼結体、並びに刃物および手動利器に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体には、温水、水蒸気等が存在する水熱劣化環境下において、その強度が低下するという問題がある。例えば特許文献1には、主としてジルコニア(ZrO)とイットリア(Y)とからなるジルコニア質焼結体が記載されている。
【0003】
この焼結体は、イットリア/ジルコニアのモル比が1.5/98.5〜2.6/97.4であり、アルミナ(Al)を0.005〜4.5質量%、酸化カルシウム(CaO)および酸化マグネシウム(MgO)の少なくとも1種を1質量%以下の割合で含有する。また、該焼結体は、シリカ(SiO)、酸化ナトリウム(NaO)および酸化カリウム(KO)の合計量が0.3質量%以下であり、かつシリカが0.2質量%以下、酸化ナトリウムが0.05質量%以下、酸化カリウムが0.05質量%以下であり、平均結晶粒径が0.30〜0.70μmである。
【0004】
特許文献1では、この焼結体をジルコニア製分散・粉砕機用部材に用いており、該焼結体は相変態し難く、温水中においても耐摩耗性を有すると記載されている。
しかしながら、この焼結体であっても、水熱劣化環境下における強度低下は抑制できていないのが現状である。このため、水熱劣化環境下における強度低下を抑制できるジルコニア焼結体およびその原料の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平8−337473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水熱劣化環境下における強度低下を抑制することができるジルコニア原料およびジルコニア焼結体、並びに刃物および手動利器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)ジルコニアを主成分とし、イットリアを1.5〜3.5モル%、シリカを0.03〜0.3質量%、酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有し、平均粒径が0.4〜1μm、最大粒径が1〜3μm、かつ比表面積が4〜16m/gであることを特徴とするジルコニア原料。
(2)ジルコニアを主成分とし、イットリアを1.5〜3.5モル%、シリカを0.03〜0.3質量%、酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有し、表面の結晶粒界におけるEDS表面分析において、酸素の最大ピーク強度がシリコンの最大ピーク強度に対して60〜80%であり、かつアルミニウムの最大ピーク強度およびジルコニウムの最大ピーク強度が、いずれもシリコンの最大ピーク強度に対して20〜80%であるシリカ化合物を有することを特徴とするジルコニア焼結体。
(3)結晶粒界で前記シリカ化合物を形成し得るシリカを表面に有する前記(2)に記載のジルコニア焼結体。
(4)前記シリカ化合物は、内部の結晶粒界よりも表面の結晶粒界に多く存在する前記(2)または(3)に記載のジルコニア焼結体。
(5)前記(2)〜(4)のいずれかに記載のジルコニア焼結体からなる刃体を備えたことを特徴とする刃物。
(6)前記(2)〜(4)のいずれかに記載のジルコニア焼結体からなる刃体を備えたことを特徴とする手動利器。
【発明の効果】
【0007】
一般に、水熱劣化環境下では、焼結体を構成するジルコニア結晶粒子が水熱により膨張し、焼結体全体が圧縮応力を有するようになり、それゆえ強度が低下する。本発明によれば、ジルコニア原料およびジルコニア焼結体を特定の組成に制御した。これにより、水熱劣化環境下では、焼結体表面のシリカが水と反応して焼結体表面の結晶粒界で特定のピーク強度比を有するシリカ化合物を形成するので、焼結体を構成するジルコニア結晶粒子のうち、焼結体表面のジルコニア結晶粒子のみを膨張させることができる。
【0008】
すなわち、本発明によれば、焼結体表面のジルコニア結晶粒子を膨張させて焼結体表面にのみ圧縮応力層を形成することができるので、この圧縮応力層が強化層となって焼結体強度を向上させやすく、水熱劣化環境下における強度低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<ジルコニア原料>
本発明の一実施形態であるジルコニア原料は、ジルコニアを主成分とし、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを特定の割合で含有する。具体的に説明すると、前記イットリアを1.5〜3.5モル%の割合で含有する。
【0010】
イットリアを1.5モル%以上の割合で含有すると、後述するジルコニア焼結体中に単斜晶相の割合が過剰になるのを抑制することができる。すなわち、相転移による大きな容積変化で亀裂が発生して強度が低下するのを抑制することができる。
【0011】
また、イットリアを3.5モル%以下の割合で含有すると、ジルコニア焼結体中に立方晶相の割合が過剰になるのを抑制することができる。すなわち、正方晶相の応力誘起変態による効果が減少して強度が低下するのを抑制することができる。前記応力誘起変態とは、破壊の原因となる亀裂の伝播を相変態によって阻害し、亀裂先端の応力集中を緩和することを意味する。
【0012】
前記シリカを0.03〜0.3質量%、好ましくは0.05〜0.2質量%、より好ましくは0.07〜0.15質量%の割合で含有する。また、前記酸化ナトリムを0.001〜0.01質量%、好ましくは0.001〜0.003質量%の割合で含有する。このような割合でシリカおよび酸化ナトリウムを含有すると、水熱劣化環境下において、後述する結晶粒界にシリカ化合物が形成されやすくなり、該環境下における強度低下を抑制することができる。また、シリカを前記割合で含有すると、焼結密度が低下するのを抑制することもできる。
【0013】
前記アルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有する。これにより、焼結性が向上し、結晶構造を均一化しやすくなる。また、ジルコニア焼結体の破壊靭性が低下するのを抑制することができる。
【0014】
本発明の一実施形態であるジルコニア原料は、前記ジルコニア、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを粉砕および混合して乾燥した後の平均粒径、最大粒径および比表面積がそれぞれ以下に示す特定の値を有する。
【0015】
すなわち、前記平均粒径は0.4〜1μmであり、最大粒径は1〜3μmである。乾燥後のジルコニア原料は、後述するように、成形体に成形した後に焼結するが、平均粒径および最大粒径を前記範囲内にすると、前記成形体の密度が低下するのを抑制することができるので、緻密な焼結体を得やすくなる。また、焼結性および焼結密度が低下するのを抑制することができる。
【0016】
前記平均粒径および最大粒径は、水に少量のジルコニア原料を添加し、適当な分散剤を添加して超音波洗浄機で十分に分散させた後、レーザー回折式の粒度分析装置で測定して得られる値である。
【0017】
前記比表面積は4〜16m/gである。これにより、焼結性および焼結密度が低下するのを抑制することができる。また、成形体密度が低下するのを抑制することができる。前記比表面積は、ジルコニア原料を200℃で加熱乾燥した後、窒素とヘリウムを3:7の体積比で混合したガスを用い、BET一点法で測定して得られる値である。
【0018】
本発明の一実施形態であるジルコニア原料は、前記ジルコニア、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを粉砕および混合する第1工程と、ついで乾燥を行なう第2工程とを経て得ることができる。
【0019】
前記第1工程において、前記ジルコニアは、その製造方法において特に限定はなく、例えば共沈法、加水分解法、水熱法等の公知の方法を採用して得ることができる。また、前記イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナは、酸化物のまま粉砕および混合してもよいし、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ:YTTRIA STABILIZED ZIRCONIA)のようにジルコニアに成分として含まれていてもよく、これを粉砕および混合してもよい。
【0020】
前記粉砕および混合は、例えばビーズミル、ボールミル、振動ミル等を用いて行うことができる。粉砕および混合時間は、1〜10時間程度が適当である。また、溶媒を用いて湿式粉砕してもよく、前記溶媒としては、例えば水、有機溶媒等が挙げられ、前記有機溶媒としては、例えばエタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。前記溶媒は、湿式粉砕後のスラリーの固形分濃度が40〜60質量%となる割合で添加するのが好ましい。
【0021】
また、成形方法に応じて湿式粉砕後のスラリーにポリビニルアルコール、メチルセルロース等のバインダーを添加することもできる。粘度が高くて粉砕性が低下する場合には、分散剤を添加してもよく、該分散剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリカルボン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0022】
前記第2工程における乾燥方法としては特に限定はなく、公知の乾燥方法が採用可能である。具体例を挙げると、乾燥機による乾燥の他、スプレードライ法(噴霧乾燥法)等が挙げられ、効率よく原料が得られる上でスプレードライ法が好ましい。スプレードライ法を採用する場合には、スプレードライヤーの熱風温度は150〜250℃が好ましく、乾燥後の乾燥粉末は80〜200メッシュ程度のふるいを通して整粒するのが好ましい。
【0023】
一方、乾燥機等を用いる場合には、乾燥温度は100〜200℃程度が適当であり、乾燥後の原料はピンミル等を用いて解砕するのが好ましい。なお、乾燥後のジルコニア原料において、通常、ジルコニアおよびイットリアは固溶状態にあり、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナは混合状態にある。
【0024】
<ジルコニア焼結体>
本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体は、ジルコニアを主成分とし、イットリアを1.5〜3.5モル%、シリカを0.03〜0.3質量%、酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有する。
【0025】
このような組成からなるジルコニア焼結体は、図1に示すように、水熱劣化環境下においてジルコニア焼結体1表面に圧縮応力層2を形成することができ、これにより該環境下における強度低下を抑制することができる。
【0026】
すなわち、圧縮応力層2は矢印A方向に圧縮応力を有している。この圧縮応力層2の片面に対して、図2に示すように、矢印B方向(鉛直方向)から外力が加わると、該外力が加わった周辺の領域aには矢印C方向に圧縮応力が発生する。この矢印C方向の圧縮応力を、圧縮応力層2が有する矢印A方向の圧縮応力にて相殺することができ、それゆえ該環境下における強度低下を抑制することができる。
【0027】
一方、前記外力が加わった圧縮応力層2の片面と反対の他面であって、領域aと対向する領域bには、矢印D方向に引張応力が発生する。また、該領域bには、圧縮応力層2が有する矢印A方向の圧縮応力も加わるが、ジルコニア結晶粒子が正方晶から単斜晶へ相変態することによって領域bの体積が増加するので、破壊に至ることを抑制することができる(応力誘起変態)。
【0028】
圧縮応力層2は、ジルコニア結晶粒子が水熱により膨張すること、すなわちジルコニア結晶粒子が正方晶から単斜晶へ相変態することにより発生する。より具体的に説明すると、ジルコニア焼結体1は、図3に示すように、複数個のジルコニア結晶粒子10を有している。該ジルコニア結晶粒子10とは、ジルコニアを主成分とする結晶粒子を意味する。
【0029】
これら複数個のジルコニア結晶粒子10が隣接して、結晶粒界11が形成されている。焼結体1は、水と反応して結晶粒界11でシリカ化合物12を形成し得るシリカを表面に有している。該シリカは、焼結体1が前記割合で含有するシリカに由来しており、結晶粒界11(特に3重点粒界)に多く含まれている。この理由としては、焼結体1がシリカおよび酸化ナトリウムを前記割合で含有することに起因すると推察される。
【0030】
水熱劣化環境下では、焼結体1の表面から内部に向かって水熱劣化が進行する(矢印E方向)。この過程において前記シリカが水と反応し、焼結体1表面の結晶粒界11でシリカ化合物12が形成される。これにより、焼結体1表面のみでジルコニア結晶粒子10が正方晶から単斜晶へ相変態して体積が約4%増加し、その結果、圧縮応力層2が形成されやすくなる。
【0031】
この圧縮応力層2は焼結体1表面にのみ形成されることから、焼結体1全体が圧縮応力を有して脆くなることを抑制することができる。焼結体1表面にのみ圧縮応力層2が形成される理由としては、焼結体1表面の結晶粒界11にシリカ化合物12が形成されると、これが保護層となって焼結体1内部への水の浸入が防止されやすく、これにより焼結体1内部のジルコニア結晶粒子10の相変態が抑制されることに起因すると推察される。
【0032】
焼結体1は、水と反応して結晶粒界11でシリカ化合物12を形成し得る前記シリカを表面のみならず内部にも有しているが、前記理由から焼結体1内部への水の浸入が防止されやすくなるので、シリカ化合物12は、通常、焼結体1の内部の結晶粒界11よりも表面の結晶粒界11に多く存在しやすくなる。
【0033】
焼結体1表面にのみ圧縮応力層2を適切に形成する処理条件としては、特に限定されない。すなわち、該焼結体1を研磨したり使用するうちに正方晶から単斜晶へ自発的に相変態して、焼結体1表面にのみ圧縮応力層2が形成されやすくなる。
【0034】
ここで、シリカ化合物12は、特定のピーク強度比を有している。すなわち、シリカ化合物12は、焼結体1表面の結晶粒界11におけるEDS(エネルギー分散型X線分光)表面分析において、酸素の最大ピーク強度がシリコンの最大ピーク強度に対して60〜80%であり、かつアルミニウムの最大ピーク強度およびジルコニウムの最大ピーク強度が、いずれもシリコンの最大ピーク強度に対して20〜80%である。このような特定のピーク強度比を有するシリカ化合物12を焼結体1表面の結晶粒界11に有し、かつ該シリカ化合物12を含む圧縮応力層2が焼結体1表面に形成されると焼結体1の坑折強度が高くなり、水熱劣化環境下における強度低下を抑制しやすくすることができる。このようなピーク強度比を有するシリカ化合物12は、焼結体1を前記組成で構成することによって形成しやすくすることができる。
【0035】
前記EDS表面分析は、透過電子顕微鏡(JEOL社製の「JEM2010F」)を加速電圧200kVに設定し、エネルギー分散型X線分光分析(Noran Instruments社製の「VoyagerIV」)をスポット径1nm、測定時間50秒、測定エネルギー幅0.12〜20.48keVに設定し、判定量計算方法に薄膜近似法を用いて行う。
【0036】
結晶粒界11の組成分析は、SEM(走査型電子顕微鏡)による組織観察にて行う。具体的には、SEM(日本電子社製の「JSM−7001F」)を、Tilt0°、蒸着なし、加速電圧15kV、倍率2000倍、反射電子組成像の条件で使用する。なお、焼結体1自体の組成分析についても、結晶粒界11の組成分析と同様にして行うことができる。
【0037】
本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体は、ジルコニア原料から成形体を作製する第1工程と、該成形体を焼結する第2工程とを経て得ることができる。前記第1工程において、ジルコニア原料からの成形体の作製は、例えば鋳込み成形、射出成形、押出し成形、加圧成形、金型成形等の公知の成形方法が採用可能である。
【0038】
特に、加圧成形を採用する場合には、均質かつ高密度な成形体が得られる上でCIP成形が好ましく、成形圧力としては0.5〜2.0t/cm程度が適当である。なお、CIP成形を行う前に、一軸加圧成形機等を用いて仮成形してもよい。金型成形を採用する場合の成形圧力としては0.5〜1.0t/cm程度が適当である。
【0039】
前記第2工程において、成形体の焼成は1300〜1600℃、好ましくは1350〜1450℃で、1〜3時間程度かけて行なうのが好ましい。このようにして焼成すると、結晶粒界11が大きくなるのを抑制することができ、水熱劣化環境下における強度低下を抑制することができる。
【0040】
また、前記バインダーを添加したジルコニア原料を使用する場合には、350〜600℃で脱脂を行うのが好ましい。この範囲で脱脂すると、バインダーが残留したり、急激に脱脂が進むことによるクラックが成形体に発生することを抑制することができる。焼成雰囲気としては大気の他、焼結体の気孔を減らすために真空等で行なってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体は、水熱劣化環境下における強度低下を抑制しやすくできることから、刃物、手動利器等の刃体に好適である。すなわち、本発明の一実施形態である刃物は、前記ジルコニア焼結体からなる刃体を備えている。前記刃物としては、例えば(カッター)ナイフ、包丁等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の一実施形態である手動利器は、前記ジルコニア焼結体からなる刃体を備えている。前記手動利器としては、例えばハサミ、ピーラー、スプーン、フォーク、フライ返し等が挙げられる。これら刃物および手動利器において、前記刃体を研磨する工程においても、焼結体表面に圧縮応力層を形成しやすくすることができる。なお、本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体の用途は、例示したこれらの用途に限定されるものではなく、水熱劣化環境下で使用される各種部材としても使用できる。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は、次の通りである。
【0044】
(平均粒径・最大粒径)
水に少量のジルコニア原料を添加し、分散剤を添加して超音波洗浄機で十分に分散させた後、レーザー回折式の粒度分析装置で測定した。なお、前記分散剤には、ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用し、その使用量は、ジルコニア原料100重量部に対して80重量部(固形分換算)とした。
【0045】
(比表面積)
前記したBET一点法で測定した。
【実施例】
【0046】
<ジルコニア焼結体の作製>
まず、イットリア2モル%、シリカ0.007質量%、酸化ナトリウム0.001質量%、アルミナ0.005質量%、残りがジルコニアからなり、比表面積が6.5m/gであるYSZを用意した。また、別途、アルミナおよびシリカを用意した。
【0047】
ついで、これらを表1に示す組成となる割合で粉砕および混合した。なお、表1中、イットリア、シリカ、酸化ナトリウムおよびアルミナを除いた残りの組成がジルコニアの組成になる。
【0048】
前記粉砕および混合は、湿式粉砕にて行った。すなわち、溶媒に水を用いて、振動ミルで5時間かけて湿式粉砕を行った。前記水は、湿式粉砕後のスラリーの固形分濃度が40質量%となる割合で添加した。
【0049】
湿式粉砕後のスラリーをスプレードライヤー(熱風温度:170℃)にて乾燥し、得られた乾燥粉末を120メッシュのふるいを通して整粒し、これにより粉末状のジルコニア原料を得た(表1中の試料番号1〜41)。得られた各ジルコニア原料について、平均粒径、最大粒径および比表面積を前記した方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
次に、得られた粉末状のジルコニア原料を一軸加圧成形機(丸七社製の「HYDRAULIC PRESS」)を用いて仮成形した後、CIP成形機(神戸製作所製の「Dr.CIP」)を用いて1.0t/cmの圧力で成形した。この成形体を1430℃で2時間かけて大気中で焼結を行い、ジルコニア焼結体を得た(表1中の試料番号1〜41)。得られた各焼結体の組成分析を、前記したSEMによる分析方法にて実施した。その結果、各焼結体の組成は、表1中に示す組成と同じ組成を有していた。
【0051】
<評価>
得られた各焼結体について水熱劣化試験を行なった。まず、焼結体をJIS 1601に準拠するように切断および加工し、その表面に対して3.0μmのダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨を行った。ついで、この焼結体を1000mlの耐圧容器内に研磨面が容器底面に対して上方を向くように載置した。
【0052】
この耐圧容器中に、純水700mlを焼結体が動かないようにゆっくりと注ぎ込んだ後、該耐圧容器をオートクレーブ装置(耐圧硝子工業株式会社製の「TEM−V」)にセットし、140℃で3.6気圧の条件下、100時間かけて水熱劣化試験を行った。そして、水熱劣化試験後の焼結体について、EDS表面分析と、坑折強度の測定を実施した。分析方法および測定方法を以下に示すと共に、その結果を表1に示す。
【0053】
(EDS表面分析)
EDS表面分析は、測定箇所を焼結体表面の3重点粒界にした以外は、前記した条件で実施した。なお、表1中、ピーク強度比の欄において、「酸素」は、シリコンの最大ピーク強度に対する酸素の最大ピーク強度の比を示している。これと同様に、当該欄において、「アルミニウム」および「ジルコニウム」は、シリコンの最大ピーク強度に対するアルミニウムの最大ピーク強度およびジルコニウムの最大ピーク強度の比をそれぞれ示している。
【0054】
EDS表面分析結果の一例として、試料番号41の透過電子顕微鏡による観察結果を図4に、そのEDS表面分析結果を図5にそれぞれ示す。なお、EDS表面分析は、図4中の焼結体表面における3重点粒界Fについて行った。図5中、「Si」はシリコン、「O」は酸素、「Al」はアルミニウム、「Zr」はジルコニウムをそれぞれ示している。
【0055】
(坑折強度)
坑折強度は、水熱劣化試験後の焼結体について、JIS 1601に準拠した3点曲げ強さの測定条件で実施した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、本発明の範囲内にあるジルコニア焼結体は、水熱劣化試験後の坑折強度が1000MPa以上であり、高い値を示しているのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体を水熱劣化環境下に曝した状態を示す概略断面説明図である。
【図2】本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体に外力が加わった状態を示す概略断面説明図である。
【図3】本発明の一実施形態であるジルコニア焼結体に形成される圧縮応力層を示す概略断面説明図である。
【図4】本発明の一実施形態である実施例における試料番号41の透過電子顕微鏡による観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明の一実施形態である実施例における試料番号41のEDS表面分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1 ジルコニア焼結体
2 圧縮応力層
10 ジルコニア結晶粒子
11 結晶粒界
12 シリカ化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアを主成分とし、
イットリアを1.5〜3.5モル%、
シリカを0.03〜0.3質量%、
酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、
およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有し、
平均粒径が0.4〜1μm、最大粒径が1〜3μm、かつ比表面積が4〜16m/gであることを特徴とするジルコニア原料。
【請求項2】
ジルコニアを主成分とし、
イットリアを1.5〜3.5モル%、
シリカを0.03〜0.3質量%、
酸化ナトリウムを0.001〜0.01質量%、
およびアルミナを0.005〜2.0質量%の割合で含有し、
表面の結晶粒界におけるEDS表面分析において、
酸素の最大ピーク強度がシリコンの最大ピーク強度に対して60〜80%であり、
かつアルミニウムの最大ピーク強度およびジルコニウムの最大ピーク強度が、いずれもシリコンの最大ピーク強度に対して20〜80%であるシリカ化合物を有することを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項3】
結晶粒界で前記シリカ化合物を形成し得るシリカを表面に有する請求項2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
前記シリカ化合物は、内部の結晶粒界よりも表面の結晶粒界に多く存在する請求項2または3に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載のジルコニア焼結体からなる刃体を備えたことを特徴とする刃物。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載のジルコニア焼結体からなる刃体を備えたことを特徴とする手動利器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219279(P2011−219279A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219557(P2008−219557)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】