説明

スイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路

【課題】 スイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路の設計の自由度を大きくする。
【解決手段】 3個のタンクキャパシタC1,C2,C3を用いたスイッチトキャパシタ回路により、負荷容量CLに等電圧差の4ステップの階段波形電圧を印加するスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路において、前記3個の各タンクキャパシタC1,C2,C3の容量値を、前記負荷容量CLの容量値よりも少なくとも10倍以上大きく、かつ相互に異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチトキャパシタ回路のタンクキャパシタの設計容量値の自由度を大きくし、設計の自由度を高めたスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路の動作について説明する。この回路は、1994年にSvensson他により発明されたものである。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
図9に、従来例として、4ステップの階段波形電圧を生成し、これにより負荷容量CLの充放電の消費エネルギーをCL2/4とする回路を示す。タンクキャパシタとして、C1=C2=C3=Cと設定する。この時、パルス信号T0,T1,T2,T3,T4において、T0→T1→T2→T3→T4→T3→T2→T1→T0の順で、パルス信号をLowからHighにする。タンクキャパシタC1,C2,C3と、パルス信号T0,T1,T2,T3,T4でスイッチングされるトランジスタG0,G1,G2,G3,G4とは、スイッチトキャパシタ回路を構成している。図9の回路のタイミングチャートを図10に示す。
【特許文献1】米国特許第5,473,526号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、この場合に、階段波形電圧が自発的に生成されることが知られていた。しかし、この証明は数学的には厳密には行われておらず、経験的にシミュレーション、実験を通して知られている現象であった。シミュレーション結果の例を図11に示す。Vは電源電圧値を示す。また、タンクキャパシタの値をC1=C2=C3=Cから変えた場合に、出力波形の挙動や安定性に対しては、全く明らかにされていなかった。
【0005】
本発明の目的は、複数の内の少なくとも1つ以上のタンクキャパシタの値を異ならせた場合において、出力波形の挙動や安定性を明確にし、スイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路の設計の自由度を大きくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1にかかる発明のスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路は、N−1個のタンクキャパシタを用いたスイッチトキャパシタ回路により、印加される電圧をNステップの階段波形電圧に変換して負荷容量に印加するスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路において、前記N−1個の各タンクキャパシタの容量値を、前記負荷容量の容量値よりも少なくとも10倍以上大きく、かつその内の少なくとも1つ以上が他と異なるよう設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タンクキャパシタの値に対して設計の自由度が大きい電荷再利用電源回路を構成することが可能である。例えば、スイッチトキャパシタ回路のタンクキャパシタの容量がすべて100pFの6ステップ階段電源回路と3ステップ階段電源回路とを組み合わせた回路構成を実現するときは、図8のように、タンクキャパシタC2とC1’を接続し、C4とC2’を接続するよう配線を行う事が可能となる。このとき、6ステップ階段電源回路(左側回路)のタンクキャパシタC1〜C5の値は100,200,100,200,100pFとなる。一方、3ステップ階段電源回路(右側回路)のタンクキャパシタC1’、C2’の値は200,200pFとなる。これにより、配線を行う前のタンクキャパシタの値100pFから、キャパシタの値を増加することができ、ノイズ耐性を高めたスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路の構成が可能となる。また、EDN Japan 2004年10月号によると、電界コンデンサの許容誤差は3倍程度に見積もるべきとの指摘がある。本発明によれば、こうした電界コンデンサの許容誤差を無視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、タンクキャパシタCiの値が負荷容量CLの値よりも十分大きければ(少なくとも10倍以上)、タンクキャパシタCiが任意の値をとったとしても、Nステップの階段波形電圧が初期状態によらずi/N・V(i=0,1,2,・・・,N)に収束することを説明する。このために、タンクキャパシタCiの電位をVCiと定義し、ViをVCiと収束電圧i/N・Vとの差分電圧と定義し(図5)、この電圧Viが0に収束し、VCiがi/N・Vに収束することを証明する。
【0009】
さて、タンクキャパシタCiから負荷容量CLに充電する場合に転送される電荷量をQtiとすると、Ci>>CL時に等電位の条件よりつぎの式が近似的に成立する(図6(a))。

i>>CLの条件において、次式が得られる。

ここで、VC0=0と定義した(図5)。
【0010】
次に、負荷容量CLから、タンクキャパシタCiに電荷を回収する場合に、回収される電荷量をQriとすると、Ci>>CL時に等電位の条件よりつぎの式が近似的に成立する(図6(b))。

i>>CLの条件において、次式が得られる。

ここで、VcN=Vと定義した(図5)。
【0011】
タンクキャパシタCiにおいて、充電回収の1サイクルにおいて、電荷の変化量ΔQiは、次のように書ける。

ここで、定義より

となり、式(6)を式(5)に代入すると

と書ける。また、Viの変化量をΔViと定義すると、

と書ける。Vi’を充電回収の1サイクルの後のVciとi/N・Vとの差分と定義すると、式(7),式(8)より次式が成立する。

ここで、KiはCL/Ciである。Ci>>CLより、0<Ki<<1である。式(9)を用いると、次の関係式が得られる。

(10)
ここで、Vi(k)は、k回目の充放電の後のVciとi/N・Vとの差分である。
【0012】
つぎに、行列Aの固有値の大きさについて調べる。さて、Aの特性多項式は、次式で書ける。

ここで、公式det(a1,・・・,caj,・・・,an)=c・det(a1,・・・,aj,・・・,an)を用いると、次式が得られる。

【0013】
次に以下の定理を証明する。
[定理1]

この場合、|λ|≧1のときに、n≧1において、En≧2が成り立つ。
【0014】
[証明]
λ=rcosθ+rsinθ・iとする。すると、

と書ける。これより

であり、Iを展開すると次式が成立する。

【0015】
Iをrで偏微分すると、

となる。r≧1のとき、r/(1−2Ki)>1より、∂I/∂r>0が成立する。
【0016】
Iをθで偏微分すると、

となる。∂I/∂θ=0より、θ=0で最小、θ=πで最大が得られる。以上の結果より、Iはr、θの関数としたときに、r=1、θ=0において、最小値4Ki2をとる。この場合、|ai|=2である。したがって、|ai|≧2が成立する。
【0017】
いま、Enを、第n行に関して展開すると、

となる。
【0018】
右辺第2項を第n−1列に関して展開すると、

となる。
【0019】
したがって、

と書ける。ここでE1=a1、E0=1と定義すると、E2=a21−1、E3=a321−a3−a1となり、Enの展開式と一致する。
【0020】
さて、定義より、

であり、よって、|E1|>|E0|=1が示される。次に、|Ek|>|Ek-1|を仮定して、|Ek+1|>|Ek|を証明する。

よって、|Ek+1|>|Ek|が示された。|E1|=|a1|≧2より、n≧1において|En|≧2が成立する。
【0021】
[定理2]

とする。
【0022】
ここで、

と定義する。O(Ki)はランダウの記号と呼ばれており、

が有界であることを示す。このとき、

が成り立つ。
【0023】
したがって、

である。この場合、|λ|≧1のときに、n≧1において

が成立する。
【0024】
[証明]
簡単のために、O(K)=Kとおく、また、明らかにこのようにおいても、以下の証明の一般性は失われない。すると、Fnは次式で表される。

いま、Fn−Enの挙動について調べる。Fnにおいて、Kを含まない項は、Enのいずれかの項と一致する。
【0025】
よって、Fn−Enにおいて、消去されるので、Fn−Enにおいては、各項は必ずKを含む。したがって、次式が成立する。

このとき、定理1より、|En|≧2が成立するので、

となる。ここで、K<δとして、|Fn−En|/|En|<εとすることができる。
【0026】
このとき、



と変形できる。
【0027】
したがって、

が成り立つ。定義から、F1=a1+Kより、

が示される。これより、n≧1において、次式が成立する。

[証明終]
【0028】
さて、行列Aは、式(10)においてもわかるように、Kiの1次の項のみを考慮し、Ki2以上の高次の項を無視している方程式である。その特性方程式はEn=0に一致する。また、式(10)において無視していたKi2以上の高次の項を考慮すると、特定方程式はFn=0に一致する。定理1,2より|λ|≧1のときに、|En|、|Fn|はそれぞれ2以上の値であり、0とならないから、En=0、Fn=0と矛盾する。よって、いずれの場合も|λ|<1となる。
【0029】
一般に、Aは正則行列Pを用いて、Jordan標準形に変換できる。

ここでJはJordan標準行列である。

J(λi,ki)はki×kiの行列であり、固有値λiを持ち次式で書ける。

ここで、nを無限大にしたときに|λi|<1の場合に、Jn →0となる(参考文献:杉浦光夫、横沼健雄 著、ジョルダン標準形・テンソル代数、岩波基礎数学選書、1990年、岩波書店)。
【0030】
よって、

を用いると

となる。これより、ステップ電圧i/N・Vからの変位量Viは0に収束し、タンクキャパシタの電位Vciは、i/N・Vに収束することが証明された。
【実施例1】
【0031】
さて、本発明の具体的な実施例1を図1に示す。図1の電荷再利用電源回路において、タンクキャパシタC1,C2,C3と、パルス信号T0,T1,T2,T3,T4でスイッチングされるトランジスタG0,G1,G2,G3,G4とは、スイッチトキャパシタ回路を構成している。タンクキャパシタCiの値は、C1=100pF、C2=50pF、C3=400pFと設定する。負荷容量CLの値は、CL=2pFなので、Ci>>CLの条件を満たしている。なお、Ci>>CLの条件について、具体的にはタンクキャパシタCiの値は負荷容量CLの値に対して、少なくとも10倍以上が好ましい。この回路の入力パルス信号のタイミングチャートは図10と同じである。
【実施例2】
【0032】
また、本発明の具体的な実施例2を図2に示す。図2の電荷再利用電源回路において、電荷回収用のタンクキャパシタCiの値は、C1=50pF、C2=400pF、C3=100pFと設定する。負荷容量CLの値は、CL=2pFなので、Ci>>CLの条件を満たしている。
【0033】
図1、2の回路のシミュレーション動作を図7(a),(b)にそれぞれ示す。ここで、スイッチング用トランジスタのON抵抗、OFF抵抗をそれぞれ1kΩ,1TΩとしている。また、4ステップ階段波形電圧の周期は、1μsであり、したがって、1MHzの動作によるシミュレーションを行った。電源電圧Vは5Vとし、VCi(i=1,2,3)の初期状態は2.5Vとした。400μs経過すると、図7(a),(b)共にVC1=1/4・V、VC2=2/4・V、VC3=3/4・Vとなることが分かる。
【実施例3】
【0034】
図3に、本発明のNステップ電荷再利用電源回路の回路構成を示す。ここでは、タンクキャパシタをN−1個用いる。タンクキャパシタCiの値は、C1=400pF、C2=50pF、CN-1=800pFであり、その他のタンクキャパシタCiの値は、Ci>>CLの条件を満たしていれば、任意の値とする。図3の入力パルス信号のタイミングチャートを図4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の電荷再利用電源回路の回路図である。
【図2】実施例2の電荷再利用電源回路の回路図である。
【図3】実施例3の電荷再利用電源回路の回路図である。
【図4】図3の電荷再利用電源回路のタイミングチャートである。
【図5】タンクキャパシタCiの電位VCiと、該電位VCiと収束する電位i/N・Vとの差分電圧Viの説明図である。
【図6】タンクキャパシタCiから負荷容量CLへの電荷転送(a)およびその逆の電荷回収(b)の説明図である。
【図7】(a)は図1の電荷再利用電源回路の動作のシミュレーション結果の波形図、(b)は図2の電荷再利用電源回路の動作のシミュレーション結果の波形図である。
【図8】6ステップ階段電荷再利用電源回路と3ステップ階段電荷再利用電源回路を一部共通のタンクキャパシタを使用して実現した回路図である。
【図9】従来の電荷再利用電源回路の回路図である。
【図10】図9の電荷再利用電源回路のタイミングチャートである。
【図11】図9の電荷再利用電源回路の動作のシミュレーション結果の波形図である。
【符号の説明】
【0036】
i、C1〜CN-1、C1’〜C2’:タンクキャパシタ
L、CL’:負荷容量
0〜GN、G0’〜G3’:トランジスタ
T0〜TN:パルス信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−1個のタンクキャパシタを用いたスイッチトキャパシタ回路により、印加される電圧をNステップの階段波形電圧に変換して負荷容量に印加するスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路において、
前記N−1個の各タンクキャパシタの容量値を、前記負荷容量の容量値よりも少なくとも10倍以上大きく、かつその内の少なくとも1つ以上が他と異なるよう設定したことを特徴とするスイッチトキャパシタ型電荷再利用電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−129627(P2006−129627A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315168(P2004−315168)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】