説明

スイッチング電源装置

【課題】定電圧制御の状態から過電流保護動作により出力電圧が垂下する臨界的な条件が特異点となって振動するといった問題を解消して、定常時の定電圧制御と過電流時の定電流制御とを安定的に行えるようにしたスイッチング電源装置を構成する。
【解決手段】定電圧制御モードでは、出力電流Ioが上限電流値Icに達したことを検知したとき、定電圧制御モードから定電流制御モードへ制御モードを切り替え、定電流制御モードでは、出力電圧Voが定常電圧Vcより高い所定値Vsに達したことを検出したとき、定電流制御モードから定電圧制御モードへ制御モードを切り替える。出力電流Ioの上昇にともなって(1)から(2)へ推移し、その後の出力電流の減少にともなって(3)から(4)へ推移する。このヒステリシス特性によって、特異点付近での定電圧制御と定電流制御とが交互に切り替わる振動現象が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過電流保護機能を備えたスイッチング電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング電源装置においては、何らかの原因で電源の出力側が短絡されるなどして過負荷状態となって、過大な出力電流が流れた場合に、スイッチング電源装置自体を保護するため、または負荷を保護するために、例えば特許文献1に示されているような過電流保護機能が備えられている。
【0003】
図1は特許文献1に示されているスイッチング電源装置の回路図である。
図1においてQ1は主スイッチング素子であり、MOS−FETからなる。スイッチング制御回路10は主スイッチング素子Q1のゲートに制御電圧を与えてオン/オフ制御を行う。主スイッチング素子Q1のドレインには入力電源Eを接続している。入力電源Eには並列に平滑コンデンサC1を接続している。主スイッチング素子Q1のソース側には整流回路2、インダクタ3、コンデンサC2からなる整流平滑回路を接続している。また、その出力部と負荷4との間に電流検出抵抗11を挿入している。電流検出回路12は電流検出抵抗11の両端の降下電圧を入力して、それに応じた電圧信号をスイッチング制御回路10へ与える。
【0004】
図2(A)は図1に示したスイッチング電源装置の出力電圧・出力電流特性を示す図である。出力電流Ioが上限電流値Icを超えない範囲では出力電圧VoがVcに保たれるように定電圧制御が行われる。もし、出力電流Ioが上限電流値Icに達し、それを超えようとすると、スイッチング制御回路10は主スイッチング素子Q1のオン時間を短くするか、オン時間がそれ以上長くならないように制限する。この定電流制御によって出力電圧Voは垂下する。その後、出力電流値IoがIc未満となれば、再び定電圧制御によって出力電圧VoはVcに保たれる。
【特許文献1】特開2001−78439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような従来のスイッチング電源装置においては、出力電圧を分圧抵抗で検出し、コンパレータで基準電圧と比較してフィードバック制御する定電圧制御と、出力電流を電流検出抵抗を介し電圧として検出し、コンパレータで基準電圧と比較してフィードバック制御する定電流制御とが、臨界的な条件下で実質的に競合するという問題があった。
【0006】
図2(B)は、この様子を示す出力電圧・出力電流特性を示す図である。出力電流値を表す電圧がコンパレータの基準電圧を超えた時(過電流状態になった時)、定電圧制御から定電流制御に切り替わるが、その際、検出した出力電流値を表す電圧が変動すると、コンパレータの出力がハイレベルとローレベルに短周期で変動し、その結果、定電圧制御の動作と定電流制御の動作とが短周期で交互に切り替わって振動してしまう。
【0007】
このように、出力電圧を一定に保つ定電圧制御と過電流保護を行う定電流制御とを切り替える機能を有するスイッチング電源装置においては、その切り替えポイント近辺が特異点となり定電圧制御と定電流制御とが交互に切り替わる(振動する)という異常な動作状態に陥るおそれがあった。
【0008】
そこで、この発明の目的は、上記の特異点での振動の問題を解消して、定常時の定電圧制御と過電流時の定電流制御とを安定的に行えるようにしたスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は次のように構成する。
(1)トランスまたはインダクタと、前記トランスまたはインダクタに接続されて入力電源をスイッチングするスイッチング素子と、前記スイッチング素子のオン・オフによって前記トランスの2次側または前記インダクタより後段で出力電圧を整流平滑して出力する整流平滑回路と、を有するスイッチング電源装置において、
前記整流平滑回路の出力電圧を検出する出力電圧検出手段と、
前記整流平滑回路から負荷に流れる出力電流または入力電源からの入力電流を検出する電流検出手段と、
前記出力電圧検出手段による検出電圧値が所定の定常電圧値を保つように前記スイッチング素子のオン・オフ制御を行う定電圧制御手段と、
前記電流検出手段による検出電流値が所定の上限電流値を超えないように前記スイッチング素子のオン・オフ制御を行う定電流制御手段と、
前記電流検出手段により前記検出電流値が前記上限電流値に達したことを検知したとき、前記定電圧制御手段による定電圧制御モードから前記定電流制御手段による定電流制御モードへ制御モードを切り替え、前記出力電圧検出手段により前記出力電圧値が前記定常電圧値より高い所定電圧値に達したことを検知したとき、前記定電流制御モードから前記定電圧制御モードへ制御モードを切り替える制御モード切替手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0010】
(2)また、前記定電圧制御手段、前記定電流制御手段、および制御モード切替手段はディジタル信号処理回路(ディジタル制御回路)で構成し、前記定電圧制御手段は、前記出力電圧のディジタル値を基に前記スイッチング素子のオン・オフタイミングを決定して前記定電圧制御を行い、前記定電流制御手段は、前記出力電流または入力電流のディジタル値を基に前記スイッチング素子のオン・オフタイミングを決定して前記定電流制御を行い、前記制御モード切替手段は、前記ディジタル信号処理回路による実行プログラムの処理ルーチンの切り替えによって行う。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、次のような効果を奏する。
(1)検出電流値が上限電流値に達したとき、定電圧制御モードから定電流制御モードへ制御モードが切り替えられ、出力電圧値が定常電圧値より高い所定値に達したとき、定電流制御モードから定電圧制御モードへ制御モードが切り替えられるので、「定電圧制御モード→定電流制御モード」への移行時と、「定電流制御モード→定電圧制御モード」への復帰時とで、その境界値にヒステリシス特性をもつことになり、前記特異点で振動することがなく、定常時の定電圧制御と過電流保護とを安定的に行える。
【0012】
(2)定電圧制御手段、定電流制御手段、および制御モード切替手段をディジタル信号処理回路で構成し、定電圧制御モードと定電流制御モードとの切り替えをディジタル信号処理回路による実行プログラムの処理ルーチンの切り替えによって行うことにより、定電圧制御と定電流制御とが同時に行われて競合するようなことがなく、的確なヒステリシス特性をもたせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図3はこの発明の実施形態に係るスイッチング電源装置100の回路図である。図3において、トランスT1には1次巻線N1および2次巻線N21,N22を備えていて、1次巻線N1にはブリッジ接続した4つのスイッチング素子QA,QB,QC,QDからなるスイッチング回路SWおよびインダクタL1を接続している。入力電源1とスイッチング回路との間にはコモンモードチョークコイルCHとバイパスコンデンサC1〜C6からなるフィルタ回路およびカレントトランスCTを設けている。カレントトランスCTの2次側には抵抗R3および整流ダイオードD3を接続して電流検出回路CDを構成し、1次側に流れる電流を電圧信号として取り出すようにしている。
【0014】
スイッチング回路SWの4つのスイッチング素子QA〜QDには駆動回路21を接続している。
【0015】
トランスT1の2次巻線N21,N22には整流ダイオードD1,D2、インダクタL2およびキャパシタC7からなる整流平滑回路SRを設けている。この整流平滑回路SRから出力端子T21,T22に出力電圧を出力する。この出力端子T21−T22間には負荷回路22を接続している。また、出力端子T21−T22の間には抵抗R1,R2からなる出力電圧検出回路を設けている。
【0016】
ディジタル制御回路20はDSP(Digital Signal Processor)で構成している。このディジタル制御回路20の動作は次のとおりである。
【0017】
[制御パルス信号の出力]
スイッチング回路SWに対する制御パルス信号をパルストランスT2に出力する。これにより、駆動回路21はパルストランスT2を介して上記制御パルス信号を入力し、スイッチング回路SWの各スイッチング素子QA〜QDを駆動する。
【0018】
駆動回路21はパルストランスT2の立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングを基に、それを位相制御してスイッチング素子QA,QDの組とQB,QCの組を交互にオン/オフする。
【0019】
[入力電源電圧の検知]
トランスT1の1次巻線N1の巻数をn1、2次巻線N21,N22の巻数をそれぞれn2、出力電圧をVo、入力電源電圧をVin、スイッチング回路のオンデューティをDonで表せば、入力電源電圧は次の関係で求める。
【0020】
Vin=Vo(n1/n2)/Don …(1)
すなわち、このスイッチング電源装置はフルブリッジ型のコンバータであるので、入力電源電圧と出力電圧とは比例関係にあり、その比例係数は(1)式のとおりである。ディジタル制御回路20は、ディジタル制御回路20自身の制御によってスイッチング回路SWのオンデューティを定めているのでオンデューティは既知であり、(1)式の演算によって入力電源電圧を高精度に求めることができる。
【0021】
図3に示した例では、ディジタル制御回路20が、アナログ信号である出力電圧検出信号を入力して内部でディジタルデータに変換するようにしたが、外部にADコンバータを設けて、出力電圧のディジタル値を入力するように構成してもよい。
【0022】
(1)式では損失等を考慮していないが、実際にはトランスT1での損失等があるので、その損失等も考慮した補正演算を行えば、より正確な入力電源電圧が算出できる。
【0023】
なお、フルブリッジ回路以外にハーフブリッジ回路やセンタータップ(プッシュプル)回路についても入力電源電圧と出力電圧との間には比例関係が成り立つので、同様にしてそれぞれの回路形式に応じた比例係数で入力電源電圧を算出することができる。
【0024】
[2次側電流の検知]
負荷回路22に流れる電流が大電流である場合、それを直接検出することは実質上不可能であることが多い。図3に示した電流検出回路CDでは、カレントトランスCTを用いて1次側に流れる電流を検出するので、この電流検出回路CDの出力電圧を入力して、1次側に流れる電流を検出し、この1次側に流れる電流を基にして2次側に流れる電流を算出する。ここで、1次側に流れる電流の実効値をIin、2次側に流れる電流の実効値をIo、で表し、損失を無視すれば、
Io=Iin(n1/n2) …(2)
の関係が成り立つ。
これらの演算によって出力電流Ioを求める。
【0025】
[定電圧制御]
抵抗R1,R2による出力電圧検出回路からの信号を基に出力電圧Voを検出するとともに、内部でディジタルデータに変換し、その値が所定値を保つようにスイッチング回路SWの各スイッチング素子QA〜QDのオンデューティを制御する。
【0026】
[定電流制御]
電流検出回路CDの出力信号を基に1次側の電流を検出し、その値が上限値に達したとき、その上限値を超えないようにスイッチング回路SWの各スイッチング素子QA〜QDのオンデューティを制御する。
【0027】
図4は図3に示したスイッチング電源装置の過電流保護特性を示す図である。出力電流Ioが上限値Icに達するまでは定電圧制御により出力電圧Voは所定の一定電圧Vcを保つ。
【0028】
出力電流Ioが上限値Icを超えようとしたとき、定電流制御に移行して出力電流がIcを超えないように制御する。その結果、出力電圧Voは低下する。これにより図4において、(1)→(2)で示すような垂下特性を実現する。その後、負荷が軽くなると、それに伴い(3)で示すように出力電圧Voが上昇する。出力電圧Voが定常電圧Vcより高い所定値Vsに達したとき、(4)で示すように再び定電圧制御に戻る。
【0029】
図5・図6はディジタル制御回路20の主たる制御内容を示すフローチャートである。
所定のサンプリング周期では図5(A)に示すように、カレントトランスCTからの電圧をサンプリングして入力電流値Iinを求め、また出力電圧検出回路からの出力電圧をサンプリングして出力電圧Voを求める。
【0030】
また、図5(B)に示すように、スイッチング回路SWのオンデューティDonが定まれば、スイッチング周波数の周期でオンデューティDonに応じたタイミングでスイッチング素子QA〜QDをスイッチングするための制御パルス信号を出力する。
【0031】
図6は上記過電流保護制御を行うための処理手順を示すフローチャートである。まず、前記(2)式に従って入力電流値Iinから出力電流値Ioを算出する(S1)。続いて定電流制御モードを表すフラグFcの状態を判定し、Fc=0であれば、すなわち定電圧制御モードであれば、出力電流Ioが予め定めた上限電流値Icを超えているか否かを判定し、超えていなければ、出力電圧Voが予め定めた一定電圧VcとなるためのオンデューティDonを決定する(S2→S3→S4)。
【0032】
出力電流Ioが上限値Icを超えた場合には、フラグFcをセットし(S5)、その時の出力電圧Voから入力電源電圧Vinを前記(1)式に基づいて算出する(S6)。そしてこの入力電源電圧Vinを過電流保護開始直前の入力電源電圧Vmとして記憶する(S7)。その後、出力電流Ioが上限値IcとなるためのオンデューティDonを決定する(S8)。
【0033】
なお、算出して求めた入力電源電圧Vinを記憶するのではなく、過電流保護開始直前の出力電圧Vo(≒Vc)を記憶しておき、この記憶した値を前記(1)式のVoに代入して入力電源電圧Vinを求めるようにしてもよい。
【0034】
フラグFc=1の状態すなわち定電流制御モードであれば、出力電圧Voと所定値Vsとの大小比較を行い(S2→S9)、出力電圧Voが所定値Vsを超えたなら、フラグFcをリセットするとともにステップS4へ移行する(S10→S4)。すなわち定電圧制御モードに戻る。これにより出力電圧Voが一定電圧VcとなるようにオンデューティDonが制御される。
【0035】
定電流制御モードでVo≦Vsであれば、そのまま定電流制御を保つ(S9→S8)。
【0036】
図6に示した処理ステップにおいて、ステップS4が定電圧制御手段、ステップS8が定電流制御手段、ステップS2,S3,S9が制御モード切替手段にそれぞれ対応する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】特許文献1に示されているスイッチング電源装置の回路図である。
【図2】特許文献1に示されているスイッチング電源装置の出力電圧・出力電流特性を示す図である。
【図3】この発明の第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図4】同スイッチング電源装置の出力電圧・出力電流特性を示す図である。
【図5】同スイッチング電源装置のディジタル制御回路による処理内容を示すフローチャートである。
【図6】同スイッチング電源装置のディジタル制御回路による定電圧制御、定電流制御、および過電流保護制御を行うための処理内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1−入力電源
2−負荷回路
10−ディジタル制御回路
100−スイッチング電源装置
CD−電流検出回路
CT−カレントトランス
SR−整流平滑回路
SW−スイッチング回路
T1−トランス
T2−パルストランス
T21,T22−出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスまたはインダクタと、前記トランスまたはインダクタに接続されて入力電源をスイッチングするスイッチング素子と、前記スイッチング素子のオン・オフによって前記トランスの2次側または前記インダクタより後段で出力電圧を整流平滑して出力する整流平滑回路と、を有するスイッチング電源装置において、
前記整流平滑回路の出力電圧を検出する出力電圧検出手段と、
前記整流平滑回路から負荷に流れる出力電流または入力電源からの入力電流を検出する電流検出手段と、
前記出力電圧検出手段による検出電圧値が所定の定常電圧値を保つように前記スイッチング素子のオン・オフ制御を行う定電圧制御手段と、
前記電流検出手段による検出電流値が所定の上限電流値を超えないように前記スイッチング素子のオン・オフ制御を行う定電流制御手段と、
前記電流検出手段により前記検出電流値が前記上限電流値に達したことを検知したとき、前記定電圧制御手段による定電圧制御モードから前記定電流制御手段による定電流制御モードへ制御モードを切り替え、前記出力電圧検出手段により前記出力電圧値が前記定常電圧値より高い所定電圧値に達したことを検知したとき、前記定電流制御モードから前記定電圧制御モードへ制御モードを切り替える制御モード切替手段と、
を備えたスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記定電圧制御手段、前記定電流制御手段、および制御モード切替手段はディジタル信号処理回路で構成し、前記定電圧制御手段は、前記出力電圧のディジタル値を基に前記スイッチング素子のオン・オフタイミングを決定して前記定電圧制御を行い、前記定電流制御手段は、前記出力電流または入力電流のディジタル値を基に前記スイッチング素子のオン・オフタイミングを決定して前記定電流制御を行い、前記制御モード切替手段は、前記ディジタル信号処理回路による実行プログラムの処理ルーチンの切り替えによって行う、請求項1に記載のスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−148107(P2009−148107A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324383(P2007−324383)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】