説明

スイッチ用接点バネ及びその製造方法

【課題】 本発明は、携帯電話などに使用される接触式などのスイッチに用いられる接点バネで、ドームの円周部の機械的特性の向上を図ったものを提供する。
【解決手段】 かゝる本発明は、浅いドーム型の形状であって、ドームの円周部10aに、パンチとダイを備えたプレス装置などにより圧縮プレスして、圧縮残留応力を残留させたスイッチ用接点バネにあり、この圧縮残留応力の残留により、ドームの円周部の機械的特性の向上が図られるため、大幅な耐久性の向上が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話や、ゲーム機器、携帯オーディオ機器、カメラなどに使用される接触式などのスイッチに用いられる接点バネ、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなスイッチ用接点バネは、通常ステンレス鋼やリン青銅などの金属薄板から浅いドーム型の形状に形成されている(例えば引用文献1)。そして、その使用時には、丁度ドームの頂点部分が、使用者の操作圧(押荷重)によって押し潰されて、ドーム下の接点と接触するようになっている。この一例を図示すると、図3の如くである。
【特許文献1】特開2003−197066号公報
【0003】
つまり、図3において、スイッチ用接点バネ1、即ち、突起(ドーム)の円周部1aは回路基板2側の固定接点3上に載り、使用者の操作圧によって、ドームの頂点部分1bが押し潰されたとき(図中の破線状態)、回路基板2側の他方の固定接点4と接触して、スイッチオンとなる。勿論、使用者から操作圧が解除されれば、バネ特性によりドームの頂点部分1bが自動的に復帰して、スイッチオンとなる。
【0004】
このスイッチのオン−オフは、数十万回〜100万回、ときには数百万回に達することもあり、当然、用いられるスイッチ用接点バネ1に対して、所定回数以上の耐久性が求められる。特に、多機能の携帯電話やゲーム機器などでは、Eメールの文字入力やゲーム操作に対応してオン−オフ回数が膨大な数に達し、それは益々増える傾向にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、実際のスイッチ用接点バネは、板厚が40〜60μm程度と極めて薄く、かつ、その直径もたかだか3.0〜6.0mm程度と極めて小さいため、使用者の操作圧、即ち、オン−オフ時には、大きなストレスを受ける。特に直径が4.0mm以下の場合、ストレスによる歪み発生が大きく、接点バネによっては、100万回以下のオン−オフ回数で破断してしまうということがあった。
【0006】
そこで、本発明者等において、その破断状況を観察したところ、破断はスイッチ用接点バネのドームの円周部から頂点部分に向かって亀裂が入って起こっているものが多かった。その理由は、ドームの頂点部分が押し潰される際、ドームの円周部に最も大きな力(応力)が作用するからと推測される。
【0007】
このことから、本発明者等は、スイッチ用接点バネの耐久性の向上には、ドームの円周部を何らかの手段で補強するのが有効でないかと着想し、ドームの円周部に、積極的に圧縮残留応力を残留させて、機械的特性を改善することを見い出したのである。
【0008】
本発明は、このような着想に基づきなされたもので、基本的には、ドームの円周部に圧縮残留応力を残留させて、金属バネ材料の機械的特性を向上させたスイッチ用接点バネ、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明は、浅いドーム型の形状であって、ドームの円周部に圧縮残留応力を残留させたことを特徴とするスイッチ用接点バネにある。
【0010】
請求項2記載の本発明は、金属薄板にプレス加工によりドーム形状の突起を形成し、ついで、この突起の円周部に圧縮プレスにより圧縮残留応力を残留させることを特徴とするスイッチ用接点バネの製造方法にある。
【0011】
請求項3記載の本発明は、前記突起の円周部の内側にパンチの外周部を押圧させると共に、その外側にダイの内周部を押圧させて圧縮プレスすることを特徴とする請求項2記載のスイッチ用接点バネの製造方法にある。
【0012】
請求項4記載の本発明は、前記圧縮プレス時少なくとも0.2%以上の歪みが加わる荷重で塑性変形させることを特徴とする請求項2又は3記載のスイッチ用接点バネの製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
先ず、本発明のスイッチ用接点バネによると、ドームの円周部に圧縮残留応力を残留させてあるため、少なくともドームの円周部の機械的特性が、後述する理由から、改善される。つまり、ドームの円周部からの亀裂が走り難くなり、大きな耐久性が得られる。
【0014】
次に、本発明のスイッチ用接点バネの製造方法によると、ドームの円周部を圧縮プレスするのみでよいため、容易に製造できる。例えば、パンチとダイの簡単な工具によって製造することができる。その際、少なくとも0.2%以上の歪みが加わる荷重で塑性変形させ、荷重の除去するのみでよい。これにより、簡単に圧縮残留応力が残留される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明に係るスイッチ用接点バネの一例を示したものである。このスイッチ用接点バネ10は、ステンレス鋼やリン青銅などの金属薄板からなり、形状は浅いドーム型としてある。そして、バネの板厚は40〜60μm程度で、かつ、ドームの直径は3.0〜6.0mm程度としてある。そして、最大の特徴とする点は、ドームの縁部近傍の円周部10aの内外領域(一方も可)に圧縮残留応力を残留させてあることである。
【0016】
この圧縮残留応力を残留させるには、例えば、図2に示す製造方法により行う。
先ず、金属薄板から所定のドーム形状で打ち抜かれたスイッチ用接点バネ10を、図2のように、パンチ20とダイ30を備えたプレス装置(全体図示省略)に供給し、このパンチ20とダイ30によって、ドームの円周部10aのみに所定の荷重を掛ける。
【0017】
この際の荷重の大きさは、バネ材に少なくとも0.2%以上の歪みが加わる荷重で塑性変形させるものとする。塑性変形させることにより、その後、パンチ20とダイ30による荷重を解除しても、バネ材に応力、即ち、圧縮残留応力が残ることになる。この歪みの程度は特に限定されず、板厚で元の90%程度まで塑性変形させてもよい。
【0018】
この圧縮残留応力の残留により、バネ材の機械的特性が改善されるのは、以下の理由によるものと推測される。一般に金属加工において、例えば、ショットピーニング(shot peening)加工という方法がある。これは、材料表面に金属球(粒)を衝突させて材料表面を塑性変形させ、圧縮残留応力を残留させる方法である。そして、この圧縮残留応力の残留により、対象金属材料の機械的特性、例えば、疲労強度や耐応力腐食割れなどが改善されることが知られている。
【0019】
本発明では、金属球に替えて、パンチ20とダイ30を用い、しかも、ドームの円周部10aのみという場所(部位)を限定して、圧縮残留応力の残留領域層を意図的に設けたものである。これによって、ドームの円周部10aが他の部分(頂点部分10bなど)に比べて強度が強くなる。これにより、スイッチ用接点バネ10の耐久性は大幅に向上することとなる。
【0020】
因みに、本発明のドームの円周部に圧縮残留応力を残留させたスイッチ用接点バネと、全く同構造でドームの円周部に圧縮残留応力のない従来のスイッチ用接点バネとについて、耐久性試験を行ったところ、以下の表1の如くであった。
【0021】
各スイッチ用接点バネは、板厚44μmSUS301材を用い、ドームの外径は3mmである。耐久性試験のサンプルはスイッチ用接点バネについて20個用意した。そして、先端径が1.6mmのシリコーンゴム(硬度Hs60°)を用い、動作速度3回/秒で10Nの押圧荷重を作用させて耐久性試験を行った。このとき、スイッチ用接点バネ側は平滑な平面を持つガラスエポキシ板上粘着性のシートで固定した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から、本発明のドームの円周部に圧縮残留応力を残留させたスイッチ用接点バネ(実施例)の場合、すべてのサンプル(20個)について、200万回以上の耐久回数を繰り返しても、破損するものは全く無かった。この耐久性を、同表1では合格と判定した。これに対して、ドームの円周部に圧縮残留応力のない従来のスイッチ用接点バネ(比較例)の場合、20個のサンプル中5個のサンプルについて、100万回以下の耐久回数で、破損が確認された。このように1個のサンプルでも100万回以下で破損する場合、同表1では、耐久性を不合格と判定した。このことから、本発明のドームのスイッチ用接点バネでは、大幅な耐久性の向上が得られていることが分かる。
【0024】
なお、上記説明では、圧縮残留応力の残留にあたって、パンチ20とダイ30を備えたプレス装置により行ったが、本発明はこれに限定されない。例えば、近年はショットピーニングの一種である、レーザピーニングなども提案されているため、ドームの円周部にレーザ光線を環状に走査させたり、或いは、リング状のレーザ光線を照射するなどして、圧縮残留応力を残留させるようにすることもできる。このレーザ光線による場合、打ち抜き機に併設して、ドームの打ち抜き時一緒に行うことも可能となり、工程削減の省工程化効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るスイッチ用接点バネの一例を示した縦断面図である。
【図2】本発明に係るスイッチ用接点バネの製造方法の一例を示した縦断面図である。
【図3】ドーム型のスイッチの一例を示した概略説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10・・・スイッチ用接点バネ、10a・・・ドームの円周部、10b・・・ドーム
の頂点部分、20・・・パンチ、30・・・ダイ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
浅いドーム型の形状であって、ドームの円周部に圧縮残留応力を残留させたことを特徴とするスイッチ用接点バネ。
【請求項2】
金属薄板にプレス加工によりドーム形状の突起を形成し、ついで、この突起の円周部に圧縮プレスにより圧縮残留応力を残留させることを特徴とするスイッチ用接点バネの製造方法。
【請求項3】
前記突起の円周部の内側にパンチの外周部を押圧させると共に、その外側にダイの内周部を押圧させて圧縮プレスすることを特徴とする請求項2記載のスイッチ用接点バネの製造方法。
【請求項4】
前記圧縮プレス時少なくとも0.2%以上の歪みが加わる荷重で塑性変形させることを特徴とする請求項2又は3記載のスイッチ用接点バネの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−260848(P2006−260848A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73808(P2005−73808)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】