説明

スカンジア安定化ジルコニアシートの製造方法、および当該製造方法により得られるスカンジア安定化ジルコニアシート、並びにスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末

【課題】本発明は、いったん焼結されたスカンジア安定化再生ジルコニア粉末を用いるものでありながら、スカンジア安定化ジルコニアからなる未焼結粉末のみから得られるものよりも高強度の焼結シートを生産性良く製造する方法などを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートの製造方法は、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を粉砕して、特定のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得る工程;スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を含むスラリーであって、スラリー中におけるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合が2質量%以上、40質量%以下であるスラリーを調製する工程;上記スラリーをシート状に成形する工程;および、得られた成形体を焼結する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカンジア安定化ジルコニアシートを製造するための方法、当該方法で用いるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末、当該スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を原料とするスカンジア安定化ジルコニアシート、当該スカンジア安定化ジルコニアシートを含む電解質シート、当該スカンジア安定化ジルコニアシートを電解質シートとして有する固体酸化物形燃料電池、およびスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池はクリーンなエネルギー源として注目されており、家庭用発電から業務用発電、さらには自動車用発電などのため、急速に改良研究や実用化研究が進められている。かかる燃料電池の中でも固体酸化物形燃料電池は、効率が良好で長期安定性にも優れるものとして家庭用や業務用の電力源として期待されている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の電解質シートとしては、強度などの点からジルコニアを原料とする焼結シートが用いられている。固体酸化物形燃料電池の実用化が進み、ジルコニアシートが量産されるようになるにつれ、反り、膨れ、傷などの欠陥を有するシートの数も増えつつある。かかる欠陥シートは、固体酸化物形燃料電池の寿命を縮めることになるので、電解質シートとして用いることはできない。しかし、ジルコニアや、ジルコニアの結晶形を安定化するために用いられるスカンジアは高価であるので、欠陥シートを単に廃棄すると固体酸化物形燃料電池の製造コストを高めることにつながる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の技術では、ジルコニアの焼結体からジルコニア粉末を調製し、再び成形した後に焼結してジルコニア焼結体を得ている。より詳しくは、主に1.5〜5%モル濃度のイットリア安定化ジルコニア焼結体を加熱処理して単斜晶の量を50%以上に増やして微細なゾル状の粒子とし、必要に応じてさらに粉砕後、乾燥および造粒した粉末を用いて成形し、再び焼結している。当該技術により得られた再焼結体は、従来の焼結体と同等の物性を有するとされている。当該特許文献1には、再生ジルコニア粉末の好適な平均一次粒子径と平均二次粒子径(平均凝集粒子径)が記載されている。かかる平均一次粒子径は、0.3μmを超えると焼成のため極めて高い温度を必要とするので、0.3μm以下と非常に微細なものとしている。
【0005】
他にも、再生ジルコニア粉末を用いるものではないが、ジルコニアからなる未焼結粉末の平均一次粒子径や平均二次粒子径を規定した技術は、特許文献2〜5に開示されている。これら技術において、平均一次粒子径を規定した理由としては、平均一次粒子径が小さ過ぎるとバインダーの必要量が多くなり、焼結時におけるシートの収縮率が大きくなって、寸法安定性が低下することなどが主に挙げられている。一方、平均一次粒子径が大き過ぎるとシートの強度が低下するとされている。また、平均二次粒子径の規定理由としては、焼結体における表面欠陥の抑制や、焼結性の向上などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−218662号公報
【特許文献2】特開平8−238613号公報
【特許文献3】特開2004−182554号公報
【特許文献4】特開平6−183833号公報
【特許文献5】特開平5−193947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、従来、イットリア安定化ジルコニア焼結体から再生ジルコニア粉末を得、当該再生ジルコニア粉末からイットリア安定化ジルコニア焼結体を製造する技術は知られていた。また、かかる再生ジルコニア焼結体は、従来のジルコニア焼結体と同様の物性を有するとされていた。
【0008】
しかし、本発明者らの知見によれば、上記再生ジルコニア粉末を多く用いると、得られる焼結体の強度は再生ジルコニア粉末の原料であるジルコニア未焼結粉末のみからなる焼結体よりも低下し、再生ジルコニア粉末のみからでは良好な焼結体は得られなかった。
【0009】
また、ジルコニア粉末の平均一次粒子径や平均二次粒子径を規定する技術もあったが、そのほとんどは未焼結のジルコニア粉末に関する技術であり、いったん焼結されたジルコニア粉末を再生して用いるものではない。
【0010】
さらに、従来、イットリア安定化ジルコニア粉末に関してはよく検討が為されているが、イットリア安定化ジルコニア粉末よりも高価なものであり、不良焼結体の再利用が切望されているスカンジア安定化ジルコニア粉末に関しては、十分な研究は未だ為されていない。
【0011】
そこで本発明は、いったん焼結されたスカンジア安定化再生ジルコニア粉末を用いるものでありながら、スカンジア安定化ジルコニアからなる未焼結粉末のみから得られるものよりも高強度の焼結シートを生産性良く製造する方法、および当該方法に用いられるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を提供することを目的とする。また、本発明は、当該スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を原料とするスカンジア安定化ジルコニアシート、当該スカンジア安定化ジルコニアシートを含む電解質シート、当該スカンジア安定化ジルコニアシートを電解質シートとして有する固体酸化物形燃料電池、およびスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、汎用されているイットリア安定化ジルコニアと異なり、従来、十分に検討されてこなかったスカンジア安定化ジルコニアの場合、その焼結体から再生された粉末を用いて製造された焼結体は、未焼結粉体のみを用いて製造された焼結体よりも強度が高く、また、製造時における不良が発生し難いことを見出した。そして、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径が比較的大きく、且つ当該平均粒子径とレーザー散乱法で測定される平均粒子径との比が適切なスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いれば、高強度の焼結シートが良好な生産性で製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートの製造方法は、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を粉砕して、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下であるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得る工程;スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を含むスラリーであって、スラリー中におけるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合が2質量%以上、40質量%以下であるスラリーを調製する工程;上記スラリーをシート状に成形する工程;および、得られた成形体を焼結する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
上記製法で用いるスカンジア安定化ジルコニアとしては、安定化剤としてスカンジアを3モル%以上、15モル%以下含むものが好ましい。
【0015】
上記製法で用いるスカンジア安定化ジルコニアの焼結体としては、例えば、厚さ1mm以下のシート状焼結体が好適である。かかる焼結体であれば、粉砕に多大なエネルギーを必要とせず、効率良く再利用することが可能である。
【0016】
また、上記製法で用いるスカンジア安定化ジルコニアの焼結体としては、不良を有するスカンジア安定化ジルコニア焼結体または破損したスカンジア安定化ジルコニア焼結体の少なくとも一方が好適である。このような焼結体は利用価値が低く、処理にもコストを要するが、本発明方法で用いることにより、リサイクルが可能になる。
【0017】
さらに、上記製法で用いるスカンジア安定化ジルコニアの焼結体としては、固体酸化物形燃料電池由来の電解質シートが好適であり、かかる電解質シートとしては、電極が形成されている単セルから電極を溶解して得られたものを挙げることができる。かかる態様により、例えば、使用済みの固体酸化物形燃料電池の再利用が可能になる。
【0018】
上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末としては、例えば、立方晶系スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末および/または菱面体晶系スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いることができる。立方晶系および菱面体晶系のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、正方晶系のものよりも強度が低く粉砕効率に優れ、また、正方晶系粉末よりもスカンジアの添加量が多く高価なスカンジアの回収リサイクルによりコストメリットが大きい上に、正方晶系粉末に比して酸素イオン導電率も非常に高く、立方晶粉末および/または菱面体晶系粉末から得られるシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池の発電効率は高い。
【0019】
上記製法では、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を湿式で粉砕した後、スプレードライすることによりスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得ることが好ましい。スプレードライは大量処理に向いている上に、本発明者らによる実験的な知見によれば、スプレードライにより得られたスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は良好な流動性を有するので、工業的な大量生産に適する。
【0020】
上記製法で得られたスカンジア安定化ジルコニアシートは、固体酸化物形燃料電池用の電解質シートとして利用することができる。かかる電解質シートは、再生粉末を用いることから製造コストを低減できるのみならず、強度などの特性に優れる。また、上記スカンジア安定化ジルコニアシートを電解質シートとして含む固体酸化物形燃料電池は、同様の理由により、製造コストが低いだけでなく、耐久性などにも優れる。
【0021】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下であることを特徴とする。
【0022】
上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末としては、立方晶系および/または菱面体晶系のものが好ましい。立方晶系および菱面体晶系のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、正方晶系のものよりも強度が低く粉砕効率に優れ、また、正方晶系粉末よりもスカンジアの添加量が多く高価なスカンジアの回収リサイクルによりコストメリットが大きい上に、正方晶系粉末に比して酸素イオン導電率も非常に高く、立方晶粉末および/または菱面体晶系粉末から得られるシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池の発電効率は高い。
【0023】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは、上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を1.9質量%以上、40質量%以下含むこと、またはジルコニア未焼結粉末と、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対する割合が2質量%以上、40質量%以下である上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末から製造されたものであることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは、3点曲げ強度で0.35GPa以上を示す。
【0025】
当該スカンジア安定化ジルコニアシートとしては、相対密度が98%以上と緻密質のものが好適である。
【0026】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、本発明に係る上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を1.9質量%以上、40質量%以下含むスカンジア安定化ジルコニアシートを含むこと、またはジルコニア未焼結粉末と、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対する割合が2質量%以上、40質量%以下である上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末から製造されたものであることを特徴とする。また、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、本発明に係る上記スカンジア安定化ジルコニアシートを電解質シートとして含むことを特徴とする。
【0027】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の製造方法は、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下となるように粉砕する工程を含むことを特徴とする。
【0028】
上記の本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の製造方法では、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、レーザー散乱法で測定される平均粒子径が3.0μm超、2000μm以下となるまで乾式で粉砕した後、湿式でさらに粉砕することによりレーザー散乱法で測定される平均粒子径を0.3μm超、3.0μm以下とすることが好ましい。 本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を一回の粉砕で製造するには、多大なエネルギーと時間が必要となる場合があり、生産効率が低くなるおそれがあり得る。よって、先ず粗粉砕するために乾式粉砕し、次いで湿式で微粉砕することにより、粉砕をより一層効率化することが可能になる。
【0029】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体の粉砕では、直径0.01mmφ以上、3mmφ以下のジルコニアビーズを用いて粉砕することが好ましい。直径0.01mmφ以上のジルコニアビーズを用いれば、粗大焼結粉末とジルコニアビーズとの分離が極めて容易となり、粉砕したスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の回収率をより一層高めることができる。一方、用いるジルコニアビーズが大き過ぎると粉砕効率が低下して微小な焼結粉末の回収率が低下するおそれがあるので、その直径は3mmφ以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明方法によれば、いったん焼結した再生粉末を用いても高強度でかつ高密度のスカンジア安定化ジルコニアシートを良好な生産性で製造することができる。よって、本発明方法を用いれば、固体酸化物形燃料電池の実用化に向けてその量が増加しつつある不良スカンジア安定化ジルコニアシートのリサイクルが可能になり、固体酸化物形燃料電池の製造コストを低減することができる。特に、イットリアよりも高価なスカンジアを含む安定化ジルコニアシートをリサイクルすることによって、その製造コストの大幅な低減が可能となる。本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、当該本発明方法で用い得るものとして非常に有用である。また、本発明方法により製造されたスカンジア安定化ジルコニアシートは高強度でかつ高密度のものであることから、固体酸化物形燃料電池の電解質シートとして有用である。従って本発明は、固体酸化物形燃料電池の実用化に寄与するものとして、産業上極めて価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、先ず、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の製造方法を説明する。
【0032】
1. 本発明に係るジルコニア焼結粉末の調製
本発明方法では、原料としてスカンジア安定化ジルコニアの焼結体を用いる。
【0033】
スカンジア安定化ジルコニアとは、安定化剤としてSc23を含むジルコニアをいい、3モル%以上、15モル%以下、好適には4モル%以上、13モル%以下、さらに好適には7モル%以上、12モル%以下のSc23で安定化されたジルコニアを用いる。本発明で用いるスカンジア安定化ジルコニアは、Sc23を含むものであれば、その他の安定化剤を含むものであってもよい。Sc23以外の安定化剤としては、MgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物;La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23、Yb23、Y23等の希土類金属酸化物;SiO2、TiO2、Al23、Bi23、In23等その他の金属酸化物を挙げることができる。特に、Sc23と共に、0.01質量%以上、5質量%以下程度のCeO2、Al23、Gd23、TiO2、Bi23を含むスカンジア安定化ジルコニアが好適である。
【0034】
スカンジア安定化ジルコニアとしては、その結晶形が立方晶系および/または菱面体晶系のものを用いることが好ましい。一般に、ジルコニアの結晶形としては、単斜晶、正方晶、立方晶、菱面体晶がある。ジルコニアの結晶形は温度に応じて変化するが、上記安定化剤の添加量によっても変化する。例えば、安定化剤がスカンジアの場合、3モル%以上、7モル%未満程度添加されたジルコニアは正方晶を主体とする部分安定化ジルコニアであり、7モル%以上、15モル%以下程度添加されたジルコニアは立方晶または菱面体晶を主体とする完全安定化ジルコニアとなる。なお、完全安定化ジルコニアを、単に安定化ジルコニアということもある。
【0035】
本発明では、立方晶系および/または菱面体晶系のスカンジア安定化ジルコニアを用いることが好ましい。また、その原料としても、当然に立方晶系スカンジア安定化ジルコニアおよび/または菱面体晶系スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を用いることが好ましい。立方晶系および菱面体晶系のスカンジア安定化ジルコニアは、単斜晶系や正方晶系のものに比べて酸素イオン導電性が非常に高く、固体酸化物形燃料電池の固体電解質材料として好適であると共に、強度が正方晶系のものより劣っており、効率的に粉砕できるからである。また、立方晶系および菱面体晶系のスカンジア安定化ジルコニアは、正方晶系粉末よりもスカンジアの添加量が多いので、高価なスカンジアの回収リサイクルによりコストメリットが大きい。なお、立方晶系とは、ジルコニアの結晶形の80%以上が立方晶であるものをいい、好適には当該立方晶比率が90%以上のものを用い、より好適には当該立方晶比率が95%以上のものを用いる。同様に菱面体晶系とは、ジルコニアの結晶形の80%以上が菱面体晶であるものをいい、好適には当該菱面体晶比率が90%以上のものを用い、より好適には当該菱面体晶比率が95%以上のものを用いる。当該立方晶比率と菱面体晶比率は、X線構造回折チャートにおいて、立方晶に特徴的な2θ=30.5°のピーク、菱面体晶に特徴的な2θ=30.6°のピーク、単斜晶に特徴的な2θ=28.2°のピーク、および正方晶に特徴的な2θ=30.2°のピークなどの強度比から算出することができる。本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアにおいては、単斜晶比率が50%未満のものが好適である。
【0036】
原料であるスカンジア安定化ジルコニア焼結体は、いったん焼結されたものである。焼結とは、粉体を融点以下または部分溶融する程度に加熱することにより粒子同士を結合させ、緻密で強固な結合体とすることをいう。より具体的には、本発明においては、未焼結のスカンジア安定化ジルコニアの成形体を、融点以下の高温、一般的には1300℃以上、1600℃以下、好ましくは1400℃以上、1500℃以下の高温で加熱し、固体反応により粒子間の結合を進行せしめて緻密化したものをいう。緻密化しているか否かは、その理論密度により判断することができる。本発明で原料として用いる焼結体の相対密度としては93%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。なお、当該相対密度は、アルキメデス法で測定した密度の、理論密度に対する相対的なものである。
【0037】
走査型電子顕微鏡(SEM)によるスカンジア安定化ジルコニア焼結体のエッチング面の拡大写真から測定した結晶粒子径(グレインサイズ)は、その範囲が0.05μm以上、30μm以下で、その平均が0.1μm以上、15μm以下が好ましい。当該粒子径範囲としては、0.1μm以上、20μm以下がより好ましく、0.3μm以上、15μm以下がさらに好ましい。当該平均径としては、0.2μm以上、10μm以下がより好ましく、1.0μm以上、10μm以下がさらに好ましい。
【0038】
原料であるスカンジア安定化ジルコニア焼結体の形状は問わない。但し、シート状であっても厚いものやバルク状のものは粉砕に多大なエネルギーを要し、全体的な製造効率が低下するおそれがあるので、厚さが1mm以下のシート状焼結体を用いることが好ましく、厚さ0.5mm以下のシート状焼結体を用いることがより好ましい。
【0039】
原料であるスカンジア安定化ジルコニア焼結体としては、具体的には、例えば反りなどの不良を有するスカンジア安定化ジルコニア焼結体、破損したスカンジア安定化ジルコニア焼結体を挙げることができる。
【0040】
原料であるスカンジア安定化ジルコニア焼結体としては、スカンジア安定化ジルコニアシートのうち不良が生じているものであってもよい。さらに、固体酸化物形燃料電池由来のものであって、電極が形成されている単セルから電極などを溶解して除去した電解質シートを用いてもよい。かかる態様は、固体酸化物形燃料電池のリサイクルを図れるものとして好適である。
【0041】
具体的には、破損した固体酸化物形燃料電池用単セルや使用済みの固体酸化物形燃料電池からセパレータ等を取り除いた単セルや、規格外単セル、不良を有する単セルなどを用いることができる。もちろん、当該単セルは、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を電解質として用いるものであれば、シート状、ディンプル状、膜状、円筒状などその形状を問わない。また、単セルのタイプも、電解質支持型セルでも、燃料極支持型セルや空気極支持型セルであってもよい。
【0042】
上記単セルには、電解質の両面に、燃料極と空気極が形成されており、また、電解質シートと空気極との間には中間層が形成されている場合がある。これら電極等の材料としては、安定化ジルコニア、Gd23等を含むセリア酸化物、NiO等の導電成分、LaMnO3等のペロブスカイト構造酸化物などを挙げることができる。これら電極等の材料のうち、ジルコニア以外の成分は、酸で溶出することができる。
【0043】
溶出に用いる酸としては、硫酸、硝酸、塩酸を用いることができる。より具体的には、10質量%以上、92質量%以下、好ましくは20質量%以上、80質量%以下の硫酸;2質量%以上、98質量%以下、好ましくは5質量%以上、67質量%以下の硝酸;3質量%以上、37質量%以下、好ましくは5質量%以上、30質量%以下の塩酸を挙げることができる。
【0044】
酸による具体的な溶出操作は特に制限されない。例えば、単セルを1mm以下に粗粉砕した後、上記酸と共に容器に入れ、攪拌したり超音波処理すればよい。酸の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、単セル100gに対して100mL以上程度、1000mL以下、より好ましくは200mL以上、500mL以下程度とすればよい。処理時間も適宜調整すればよいが、例えば10分間以上、16時間以下、より好ましくは20分間以上、3時間以下程度とすればよい。
【0045】
上記溶出操作にあたっては、上記単セルや、規格外単セル、不良を有する単セルなどを前もって粉砕することにより微小化し、電極材料の溶出効率を高めることも可能である。その場合の粉砕は、後述の本発明に係わるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の粉砕手段を用いることができる。
【0046】
上記処理は、複数回繰り返してもよい。即ち、上記処理後、溶出液を除去してから同様の処理を行ってもよい。より具体的には、溶出すべき成分の酸中濃度をICP(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で測定し、各濃度が500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下となるまで上記処理を繰り返す。
【0047】
単セルの電極材料にセリア酸化物が含まれているときは、上記酸処理の後、アルカリ処理を行うことが好ましい。
【0048】
アルカリ処理で用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水を挙げることができる。より具体的には、1N以上、10N以下、好ましくは1N以上、5N以下の水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液;5質量%以上、35質量%以下、好ましくは8質量%以上、15質量%以下のアンモニア水を挙げることができる。
【0049】
アルカリ処理は、酸をアルカリに置き換える以外は上記酸処理と同様の条件で実施することができる。なお、電解質材料が、例えば10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニアなど、安定化剤としてスカンジアの他にセリアを含む場合は、当該セリアはスカンジアと共にジルコニアに完全に固溶しているので、アルカリ処理ではほとんど溶出しない。
【0050】
上記酸処理、または上記酸処理に続いて上記アルカリ処理を行って電極成分を除去した後には、得られた固体電解質成分であるスカンジア安定化ジルコニアを十分に水洗した後、乾燥することが好ましい。洗浄に用い得る水としては、水道水、井戸水、蒸留水、純水、超純水などを用いることができ、特に制限されない。
【0051】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下であることを特徴とする。
【0052】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、上記スカンジア安定化ジルコニア焼結体を粉砕し、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)、およびこれらの比(Dr/De)が所定値となるように調整する。
【0053】
未焼結粉末においては、分子間の結合を破壊することなく存在する最小単位粒子である微細な一次粒子がファンデルワールス力で複数個凝集して二次凝集粒子を形成している。
【0054】
一般的に、ジルコニア粉末は共沈法で得られる水酸化ジルコニウムを800〜1000℃程度で仮焼して製造される。かかる粉末は一次粒子がファンデルワールス力で凝集して二次凝集粒子となっているか、或いは一次粒子同士が緻密化しない程度に弱く結合しており、焼結体のように一次粒子間で固体反応が起こっていない。かかる未焼結ジルコニア粉末は、一次粒子間に隙間があることから、理論密度が小さく、また、平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が大きい。
【0055】
それに対して、焼結粉末は、当該一次粒子や二次凝集粒子が焼結による固相反応により互いに焼結した焼結体を粉砕により粒子状にしたものである。よって、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を透過型電子顕微鏡やレーザー顕微鏡などで拡大観察しても、結晶粒子の粒界は観察できない。そのため、未焼結粉末に比べて焼結粉末は粒子径が大きく、緻密で硬い。また、本発明のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、未焼結粉末と同様に凝集し得るものの、その凝集度は非常に低い。さらに本発明の焼結粉末は、1300℃以上の高温にさらされているので、熱安定性、特に熱ヒステリシス性に優れるものである。
【0056】
本発明において、「透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)」とは、透過型電子顕微鏡で撮影したスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の写真から測定算出した粒子径であり、以下により測定する。ジルコニア焼結粉末を銅メッシュ上に分散懸濁法で担持し、透過型電子顕微鏡で4000倍に拡大して観察し、視野内における全粒子を球形とみなし、各粒子のX方向の最大長さをその直径と仮定し、視野内全粒子の体積の総和を算出する。各粒子を体積の小さい順に並べ、累積体積の総和の50%に相当する粒子の径を平均粒子径(De)とする。透過型電子顕微鏡を用いる測定方法は、未焼結粉末の一次粒子の平均粒子径を測定する場合の一般的な測定方法である。また、当該平均粒子径を個数換算ではなく体積換算で算出するのは、下記のレーザー散乱法で測定されるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の平均粒子径を累積体積%が50%での粒子径としているので、体積基準に統一し、より正確な比を求めるためである。
【0057】
本発明において、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)は、レーザー光による粒度分布測定装置を使って焼結粉末の体積基準の粒度分布を測定し、当該粒度分布から求める。詳しくは、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用い、蒸留水中に分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液を分散媒とする。当該分散媒の約100cm3中にジルコニア粉末を0.01〜0.5質量%添加し、3分間超音波処理して分散させた後に、体積基準の粒度分布を測定する。当該平均粒子径とは、体積基準の粒度分布の測定結果において、累積グラフにおける50体積%での粒径、即ちD50をいう。なお、レーザー散乱法を用いる測定方法は、未焼結粉末の二次凝集粒子の粒度分布や平均粒子径を測定する一般的な方法である。
【0058】
本発明者らによる実験的知見によれば、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm以下、またはレーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm以下である場合、最終的に得られるスカンジア安定化ジルコニアシートの成形性が好ましくなり、強度も向上するが、シートに反りが発生し易くなり、シート寸法の合格率も低下するようになる。一方、Deが1.5μm超またはDrが3.0μm超である場合、シート反りが低減され、シート寸法の合格率も向上するが、シートの焼結が十分に進まずその相対密度が98%未満となってシート強度が低下するという問題がある。
【0059】
Deとしては、より好ましくは0.35μm超、さらに好ましくは0.4μm超であり、また、より好ましくは1.4μm以下、さらに好ましくは1.2μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。Drとしては、より好ましくは0.35μm超、さらに好ましくは0.4μm超であり、また、より好ましくは2.7μm以下、さらに好ましくは2.4μm以下、さらに好ましくは1.2μm以下、特に好ましくは0.8μm以下である。
【0060】
本発明では、さらに、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)を1.0以上、2.5以下とする。DrとDeは共に体積基準で統一されているので、Dr/Deの値はスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の凝集度、言い換えれば分散性を示すものであり、且つその粉砕程度を示す指標となるものである。つまり、Dr/Deが1.0であることは、焼結粉末が凝集することなく完全に単分散していることを示している。また、Dr/Deが1.0を超えるということは、焼結粉末の一部が凝集している状態を示す。Dr/Deが2.5を超えると、その凝集程度は非常に大きくなって、巨大な凝集粒子が形成されていることを示す。
【0061】
本発明者らの実験的知見によれば、透過型電子顕微鏡で測定されるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の最小径は0.05μm程度である。このことから、焼結粉末のファンデルワールス力は未焼結粉末よりも弱いものの、かかる微小な焼結粉末が凝集しているものと考えられる。また、Dr/Deが1.0未満であるということは、一般的概念では平均二次粒子径よりも平均一次粒子径の方が小さいことになるので、通常、Dr/Deは1.0以上となる。
【0062】
Dr/Deが2.5を超える焼結粉末を用いると、最終的に得られるスカンジア安定化ジルコニアシートの厚みが不均一となったり変形が生じて寸法合格率が低下すると共に、クラックが生じたり、シート強度が低下するという問題が生じる。当該Dr/Deは、1.0以上、2.0以下がより好ましく、1.2以上、1.8以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下で、且つDr/Deが1.0以上、2.5以下となるまで粉砕することにより製造する。
【0064】
本発明者らの実験的知見によれば、スカンジア安定化ジルコニア焼結体をDeが0.3μm以下となるまで、或いはDrが0.3μm以下となるまで粉砕するには多大なエネルギーが必要であり、結果としてスカンジア安定化ジルコニアシートの生産性が劣るようになる。一方、Deが1.5μm超、或いはDrが3.0μm超となると、シートにクラックや反りなどの不良が発生したり、焼結が十分に進まず相対密度が98%未満となってシート強度が低下する。
【0065】
スカンジア安定化ジルコニア焼結体の粉砕手段としては、常法を用いることができ、特に制限されない。例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、シュレッダー、ロールクラッシャー、ハンマーミル、カッティングミル、ロッドミル、ローラーミル、ローターミル、衝撃式粉砕機、ジェット粉砕機、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、乳鉢等の粉砕機から選択して用いるか、或いは2以上を組合わせて用いることができる。
【0066】
効率的に粉砕するためには、乾式粉砕と湿式粉砕とを組合わせることが好ましく、乾式で粗粉砕した後に湿式で微粉砕することがより好ましい。また、乾式粉砕および/または湿式粉砕を、多段階で実施するのも好適な態様である。
【0067】
より好適には、スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、先ず、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が3.0μm超、2000μm以下となるまで乾式で粗粉砕した後に、粉末が所定の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)およびDr/Deを示すようになるまで湿式粉砕する。乾式粉砕のみで、そのDrが3.0μm以下になるまで焼結体を粉砕してもよいが、多大なエネルギーや時間がかかる場合がある。また、乾式粉砕をDrが2000μm超でとどめると、次の湿式粉砕では十分に微粉砕できない場合が有り得、効率的でない。よって、先ず粗粉砕するために乾式粉砕し、次いで湿式で微粉砕することにより、粉砕をより一層効率化することが可能になる。なお、上記でDrを用いるのは、見かけ上の平均粒子径で簡便に粉砕の基準を決めるためである。
【0068】
乾式粉砕とは、水やアルコールなどの分散媒を用いないで粉砕する方法をいう。粉砕されるべきスカンジア安定化ジルコニア焼結体は、高硬度を示すことから、粉砕装置の粉砕刃、ローター、ハンマーなどを高速で回転させる。そのために、100rpm以上、30000rpm以下程度、特に1000rpm以上、20000rpm以下程度で回転できる装置を選択することが好ましい。
【0069】
さらに、回転数の異なる乾式粉砕を二段階以上で行うことが好ましい。より具体的には、例えば、2000rpm以上、20000rpm以下の回転数で、Drが100μm以上、3000μm以下程度になるまで一次乾式粉砕する。この際、十分に粉砕しきれずに残っている超粗大粒子の混入を避けるため、目開きが0.5mm以上、3mm以下程度の篩を通過できる粉末を分取することが、粉砕効率を高める上で好適である。次いで、6000rpm以上、30000rpm以下の回転数で、Drが3.0μm超、2000μm以下程度になるまで二次乾式粉砕する。この際にも、目開きが0.2mm以上、2mm以下程度の篩を用いて粗大粒子を除去することが好ましい。また、湿式粉砕を二段階以上で行ってもよい。例えば、最初にボールミルにより湿式粉砕した後、さらにビーズミルにより湿式粉砕してもよい。なお、粉砕装置の回転数は、装置の規模などに応じて適宜調整することができる。例えば、粉砕装置が大きければ、回転数を低減するのが一般的である。
【0070】
乾式粉砕の際には、粉体媒体、粉砕刃やローターの磨耗により、粉砕ジルコニア粉末中に鉄やクロム等が混入するおそれがあり得る。そのような場合には、磁石や酸洗浄により混入不純物を除去することが好ましい。乾式粉砕を行うための機器としては、乾式ジェットミル、ハンマークラッシャー、ハンマーミル、カッティングミル、ローラーミル、ローターミル、振動ミル、ボールミル、ビーズミルなどを挙げることができる。これら機器の回転数や粉砕時間を調整することにより、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を所望のDe、DrおよびDr/Deを示すようになるまで粉砕することにより、ジルコニア焼結粉末を得る。粉砕媒体としては、異物混入の防止のため、ジルコニア製のものが好ましい。
【0071】
湿式粉砕とは、水やアルコール等の分散媒を用いた粉砕をいう。湿式粉砕を行うための機器としては、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル、湿式ジェットミル、ホモジナイザーなどを挙げることができる。これら機器の回転数や粉砕時間、ミルで使用するボールやビーズなどの粉砕媒体を調整することにより、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を所望のDe、DrおよびDr/Deを示すようになるまで粉砕することにより、ジルコニア焼結粉末を得る。粉砕媒体としては、異物混入の防止のためジルコニア製のものが好ましい。また、その直径が0.01mmφ以上、3mmφ以下のものが好ましく、0.05mmφ以上2mmφ以下のものがより好ましく、0.1mmφ以上、1mmφ以下のものがさらに好ましい。直径0.01mmφ以上のジルコニアビーズを用いれば、粗大焼結粉末とジルコニアビーズとの分離が極めて容易となり、粉砕したスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の回収率をより一層高めることができる。一方、用いるジルコニアビーズが大き過ぎると粉砕効率が低下して微小な焼結粉末の回収率が低下するおそれがあるので、その直径は3mmφ以下とすることが好ましい。
【0072】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を湿式で粉砕した後には、スプレードライすることによりスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得ることが好ましい。より具体的には、湿式粉砕した後の分散液における固形分の濃度を、必要に応じて10質量%以上、60質量%以下程度に調整し、熱風温度100℃以上、350℃以下程度で乾燥する。その際、分散剤を適量添加してもよい。
【0073】
スプレードライは、大量処理に向いていることから、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末やスカンジア安定化ジルコニアシートを工業的に大量生産する際に有用である。また、本発明者らによる実験的な知見によれば、スプレードライにより得られたスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末は、良好な流動性を有する。
【0074】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の流動性は、安息角を指標にすることができる。一般的に、安息角が小さい粉末ほど流動性に優れるといえる。本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の安息角としては、15°以上、50°以下が好適である。安息角が15°以上であれば粉末の流動性が優れ且つ取り扱い時の飛散が抑えられる一方で、安息角が50°を超えると流動性が十分でなく、工業的な大量生産時に粉末の移送が困難となるおそれがあり得る。当該安息角としては、20°以上がより好ましく、22°以上がさらに好ましく、25°以上が特に好ましく、また、45°以下がより好ましく、40°以下がさらに好ましく、35°以下が特に好ましい。なお、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を湿式で粉砕した後にスプレードライすることにより、安息角が上記範囲に含まれる粉末を容易に得ることが可能になる。
【0075】
本発明において、安息角は、試料粉末をロート等の孔から水平な板の上に落下させ、堆積した円錐の斜面の角度を分度器で測定することにより求めることができる。
【0076】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いることにより、高価なスカンジアで安定化されたジルコニアを含む焼結体のリサイクルを進めることができる。また、本発明のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を原料として用いれば、スカンジア安定化ジルコニアシートを良好な生産性で安定的に製造することが可能になる。以下、本発明のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いてスカンジア安定化ジルコニアシートを製造する方法を説明する。
【0077】
2. スラリーの調製工程
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートの製造方法では、本発明に係る上記スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を含むスラリーであって、スラリー中におけるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合が2質量%以上、40質量%以下であるスラリーを調製する。当該割合としては、3質量%以上、30質量%以下がより好ましく、5質量%以上、25質量%以下がさらに好ましい。スラリーの調製条件としては、常法を用いることができる。例えば、上記原料ジルコニア粉末、溶媒、バインダー、分散剤、可塑剤等を混合する。
【0078】
原料ジルコニア粉末としては、上記ジルコニア焼結粉末と未焼結ジルコニア粉末からなる混合粉末を用いる。理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らによる実験的な知見によれば、原料ジルコニア粉末としてジルコニア焼結粉末のみ或いはジルコニア未焼結粉末のみを用いる場合に比べて、上記混合粉末を用いるとジルコニアシートの強度が向上すると共に、得られるジルコニアシートの焼結収縮率が低下して寸法安定性が向上し、シート反りが低減され、生産性が顕著に向上する。
【0079】
本発明において、ジルコニア未焼結粉末とは、焼結されていないジルコニア粉末をいう。通常、市販のジルコニア未焼結粉末は共沈法、ゾルゲル法、加水分解法などで得られるジルコニウム水酸化物やジルコニウムゲルを乾燥した後、600〜1200℃程度、好ましくは800〜1000℃程度で仮焼して製造される。さらに必要に応じ、スプレードライなどで顆粒状に成形される。このようにジルコニア未焼結粉末は1200℃以下の温度で仮焼されているに過ぎず、焼結工程を経ておらず、非常に微細な一次粒子がファンデルワールス力で凝集して二次粒子を形成しているか、或いは一次粒子同士が緻密化しない程度に弱く結合している。少なくとも、焼結体のように、一次粒子間での固体反応はほとんど起こっていない。
【0080】
ジルコニア未焼結粉末の粒子径は、製造条件によりある程度ならば調整可能であるが、焼結工程を経たジルコニア焼結粉末ほど大きくはならない。通常のジルコニア未焼結粉末の透過型電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径は、0.005μm以上、0.15μm以下程度、レーザー散乱法で測定される平均二次粒子径は0.1μm以上、1μm以下程度である。また、ジルコニア未焼結粉末の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径の比はかなり大きく、通常、3以上であり、多くは5以上となっている。
【0081】
本発明において、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末からなる混合粉末を用いる場合における混合割合は、当該混合粉末の質量に対するジルコニア焼結粉末の割合を2質量%以上、40質量%以下とする。その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らによる実験的な知見によれば、当該混合割合の混合粉末を原料として製造されたジルコニアシートは、特に強度や緻密性に優れている。
【0082】
本発明では、ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末以外にも、アルミナ、チタニア、酸化ニオブ、酸化タリウムなどからなる粉末を用いてもよい。かかる第三の原料粉末の使用量は、原料粉末の総和に対して0.01質量%以上、5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上、3質量%以下がより好ましい。
【0083】
スラリーに用いられるバインダーの種類は特に制限されず、従来公知の有機質バインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、(メタ)アクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。これらの中でも、ジルコニアグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の収縮率バラツキを抑制する観点から、熱可塑性で且つ数平均分子量が20000〜250000、より好ましくは50000〜200000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。
【0084】
原料ジルコニア粉末とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5質量部以上、30質量部以下が好ましく、より好ましくは後者10質量部以上、20質量部以下の範囲である。バインダーの使用量が不足する場合は、ジルコニアグリーンシートの成形性が低下し、また、強度や柔軟性が不十分となり得る。逆に多過ぎる場合は、スラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、脱脂・焼結時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって収縮率のバラツキも大きくなり、寸法安定性が低くなり得る。また、バインダーの熱分解が不十分となり、バインダー成分の一部が残留カーボンとして残留し易くなり得る。
【0085】
スラリー用の溶媒としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトンや2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらから適宜選択して使用する。これら溶媒は単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら溶媒の使用量は、ジルコニアグリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して調節するのがよい。好適なスラリー粘度は1Pa・s以上、50Pa・s以下であり、より好ましくは2Pa・s以上、20Pa・s以下である。
【0086】
スラリーの調製に当たっては、ジルコニア原料粉末の分散を促進するため、分散剤を用いることが好ましい。分散剤としては、ポリアクリル酸やポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;α−オレフィン・無水マレイン酸共重合物の部分エステル;クエン酸や酒石酸等の有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0087】
また、スラリーの成形性を高めるために、可塑剤を添加することが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル類を挙げることができる。さらに、界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0088】
スラリーは、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子の微細化や粒子径を均一化するために、ボールミル等により粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0089】
3. 成形工程
次に、得られたスラリーをシート状に成形する。成形方法は特に制限されないが、ドクターブレード法や押出成形法を用いて、適切な厚さのシートとすることが好ましい。なお、本発明におけるシート状とは、シートを丸めた円筒状や、リング状も含むものとする。
【0090】
その後、乾燥することにより、シート状成形体、即ちジルコニアグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、例えば室温〜150℃の一定温度で乾燥してもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
【0091】
得られたジルコニアグリーンシートは、任意の方法で適当な大きさに打抜き若しくは切断加工してもよい。このグリーンシートの形状としては、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。グリーンシート厚も特に制限されるものではないが、例えば35μm以上、1000μm以下程度とすることができる。また、平面面積も特に制限されるものではなく、例えば、1.5cm2以上、2000cm2以下程度にすることができる。
【0092】
ジルコニアグリーンシートの表面粗さは、使用する原料ジルコニア粉末やスラリーの粒度分布等に依存するが、ドクターブレード法によるテープキャスティングの場合、必要に応じて比較的容易に調整することができる。例えば、粗化したPETフィルム上にキャスティングしたり、キャスティング後に表面を粗くした粗化用シートあるいは金型をグリーンシートに押圧すればよい。押出成形法によりセラミックグリーンシートを得た場合でも同様である。なお、セラミックグリーンシートの表面粗さとしては、一般的には、Raで0.01μm以上、6μm以下の範囲が好適である。
【0093】
4. 焼結工程
次いで、得られたシート状成形体を焼結する。焼結の条件としては、常法を用いることができる。
【0094】
例えば、シート状成形体を1枚ずつ棚板に載置して焼成することも可能であるが、量産化のためにシート状成形体と多孔質スペーサーシートとを交互に積み重ねた積層体を棚板に載置して焼結することが好ましい。積層体の構成は、最下段にスペーサーシートを置き、その上にジルコニアグリーンシートとスペーサーシートを交互に積み重ね、最上段にはスペーサーシートを載せたものからなる。最下段のスペーサーシートはジルコニアグリーンシートと棚板との接合を防ぎまた、最上段のスペーサーシートは重しとなりシートの反りやうねりを低減する。
【0095】
具体的な焼成の条件は特に制限されず、常法によればよい。例えば、シート状成形体からバインダーや可塑剤等の有機成分を除去するために150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、1300〜1600℃、好ましくは1400〜1500℃で2〜10時間保持焼成することにより成形体を焼結すればよい。
【0096】
上記本発明方法で製造されるスカンジア安定化ジルコニアシートは、強度が高い。より具体的には、3点曲げ強度が0.35GPa以上である。
【0097】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートの大きさは、適宜調整すればよい。例えば、厚さが0.03mm以上、0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以上、0.3mm以下であり、また、平面面積が1cm2以上、1000cm2以下、より好ましくは50cm2以上、800cm2以下、さらに好ましくは100cm2以上、500cm2以下のジルコニアシートを製造することができる。
【0098】
また、本発明方法により製造されるスカンジア安定化ジルコニアシートは、非常に緻密質のものである。具体的には、アルキメデス法で測定した密度の、理論密度に対する相対密度で、98%以上である。
【0099】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは、原料粉末としてスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を用いて製造され、その際、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合を2質量%以上、40質量%以下とする。また、当該混合粉末を含むスラリーからグリーンシートを調製し、さらに焼結するに当っては、原料粉末以外の成分は除去される。よって、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末に由来する成分を、全体質量に対して実質的に1.9質量%以上、40質量%以下含む。
【0100】
上述したように、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは、高強度で緻密質のものである。よって、当該ジルコニアシートは薄い大判のものとすることができ、固体酸化物形燃料電池の電解質シートとして有用であり、当該固体酸化物形燃料電池は、効率的な発電が可能で且つ長寿命のものとなる。
【0101】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートを電解質として用いた固体酸化物形燃料電池用単セルとするには、常法を用いることができる。即ち、本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートの一方の面に燃料極、他方の面に空気極を形成し、また、必要に応じて、電解質材料と燃料極材料または空気極材料との反応を防止するために、電解質の一方の面または両方の面に中間層を形成する。よって、電解質シートと燃料極、空気極または中間層との接合力を高め電解質からの剥離を防止するために、電解質シートの表面にアンカー効果を付与する表面粗さをもたせることが好ましい。その粗さは、Raとして0.1μm以上、3μm以下が好ましく、より好ましくは0.3μm以上、2μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上、1.5μm以下である。
【0102】
燃料極材料としては、一般的に、Ni、Co、Ru等と安定化ジルコニアおよびセリア酸化物のサーメットが好適に使用される。特に好ましくは、Niと9〜12モル%Sc23安定化ジルコニアからなるサーメットである。これら燃料極材料を、エチルセルロース等のバインダー、α−テルピネオール等の溶剤とともに混練して燃料極ペーストとするか、或いはミリングして燃料極スラリーとし、これをスクリーン印刷法、コーティング法などで被覆・乾燥・焼成することで燃料極を形成することができる。
【0103】
空気極材料としては、LaMnO3、LaCoO3やLaFeO3を基本構造とするペロブスカイト型構造酸化物、さらには、これらペロブスカイト構造酸化物に安定化ジルコニアおよび/またはセリア酸化物が添加された混合物を挙げることができる。特に好ましくは、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83またはLaNi0.6Fe0.4に9〜12モル%Sc23安定化ジルコニアを加えた混合物が好適に使用される。上記燃料極の場合と同様に、空気極ペーストあるいは空気極スラリーを調製し、電解質シートの燃料極と反対の面に、スクリーン印刷法、コーティング法などで被覆・乾燥・焼成することで空気極を形成することができる。
【0104】
燃料極と空気極の形成の順序は特には限定されるものではない。また、固体電解質と空気極との間に、これらの固相反応防止のために、上記セリア酸化物からなる中間層を形成していてもよい。さらには、燃料極の上に燃料極コンタクト層や、空気極の上に空気極コンタクト層を形成してもよい。
【0105】
本発明に係るスカンジア安定化ジルコニアシートは高強度で且つ緻密質であることから、これを電解質シートとする固体酸化物形燃料電池は耐久性、熱安定性、熱ヒステリシス性に優れる。また、本発明方法によれば、スカンジア安定化ジルコニアシートを、反りなどの不良や寸法不合格率を抑制しつつ、効率的に製造できる。さらに本発明によれば、不良スカンジア安定化ジルコニアシートや、使用済みの固体酸化物形燃料電池から回収されたスカンジア安定化ジルコニアシートを再利用できることから、非常に経済的である。このように本発明は、固体酸化物形燃料電池の実用化に寄与する。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0107】
なお、スカンジア安定化ジルコニア粉末および焼結シートの性状の試験条件は、以下のとおりである。
【0108】
試験例1 透過型電子顕微鏡による平均粒子径の測定
銅メッシュにコロジオン膜を張り、乾燥後、カーボン蒸着することにより親水化処理した。別途、ジルコニア焼結粉末を水に分散し、懸濁液とした。前記銅メッシュの上に当該懸濁液を載せ、乾燥させることにより、測定用試料を得た。
【0109】
当該測定用試料を透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製,H−7650型)で4000倍に拡大して観察し、視野内における全粒子を球形とみなし、各粒子のX方向の最大長さをその直径と仮定し、視野内全粒子の体積の総和を算出した。各粒子を体積の小さい順に並べ、体積の総和の50%に相当する粒子の径を、透過型電子顕微鏡による平均粒子径とした。
【0110】
試験例2 レーザー散乱法による平均粒子径の測定
分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液(約100cm3)に、スカンジア安定化ジルコニア焼結体を粉砕して得たジルコニア焼結粉末を0.01〜0.5質量%添加し、3分間超音波処理して分散させた。堀場製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「LA−920」を用い、当該分散液における体積基準の粒度分布を測定した。当該平均粒子径とは、体積基準の粒度分布の測定結果において、累積グラフにおける50体積%での粒径、即ちD50とした。
【0111】
試験例3 ジルコニア粉末の比表面積の測定
吸着分子として窒素を用い、BET法によりジルコニア粉末の比表面積を測定した。測定機器としては、マウンテック社製のマックソーブHM−1210型を用いた。測定は一試料につき3点行い、その平均値を比表面積とした。
【0112】
試験例4 ジルコニア焼結シートの3点曲げ強度試験
得られたジルコニアグリーンシートを長方形に切断し、1400℃で3時間焼成して、5mm×50mm角の強度測定用試料を20枚作製した。万能材料試験機(インストロン社製,4301型)を用い、JIS R1601に準拠して、スパン20mm、クロスヘッド速度0.5mm/分の条件で各試料の3点曲げ強度値を測定した。得られた測定値の平均値を、3点曲げ強度とした。
【0113】
試験例5 ジルコニア粉末の安息角の測定
安息角測定器(アズワン社製,ASK−01)を用い、ジルコニア粉末の安息角を測定した。詳しくは、試料粉末を上記測定器のホッパーから下部の板上に落下させ、堆積した円錐の斜面の角度を分度器で測定した。測定は2回ずつ行い、平均値を測定値とした。
【0114】
製造例1
(1) 従来のスカンジア安定化ジルコニアシートの製造
市販のスカンジア安定化ジルコニア未焼結粉末(第一稀元素化学工業社製,製品名「10Sc1CeSZ」,以下、「10Sc1CeSZ未焼結粉末」という)の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)および比表面積を、上記試験例1〜3と同様の条件で測定した。また、X線回折により分析して結晶形を特定した。その結果、Deは0.09μm、Drは0.60μm、比表面積は10.8m2/gであった。また、当該粉末は立方晶を主体とするものであり、立方晶比率は99.9%であった。
【0115】
当該10Sc1CeSZ未焼結粉末100質量部、溶媒としてトルエン50質量部、および分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部からなる混合物を、ボールミルにより粉砕しつつ混合した。当該混合物へ、バインダーとしてメタクリレート系共重合体(数平均分子量:100000,ガラス転移温度:−8℃,固形分濃度:50%)を固形分換算で18質量部と、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を添加し、ボールミルによりさらに混合してスラリーとした。得られたスラリーを濃縮脱泡することにより、25℃での粘度を3Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。
【0116】
上記塗工用スラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗工した。当該PETフィルムを、0.2m/分の速度で、50℃、80℃および110℃の3つの温度域を有する乾燥機中に通過させた後、スリッターで切断し、幅150mm、長さ200m、厚さ280μmの長尺ジルコニアグリーンシートを得た。当該長尺ジルコニアグリーンシートを切断し、一辺135mmの方形ジルコニアグリーンシートを1800枚得た。
【0117】
一辺150mmの方形アルミナ多孔質シート(気孔率:45%,厚さ:0.2mm)を2枚重ね、その上に上記ジルコニアグリーンシートを1枚重ね、さらにその上にスペーサーとして多孔質シートを重ね、さらにジルコニアグリーンシートと多孔質シートを交互に9枚ずつ重ねて積層体とした。この積層体を焼成用棚板(厚さ20mm,500mm×500mm)の上に4セット載置し、各積層体の最上部に、ムライト・アルミナ製の重し用治具(気孔率:60%,嵩比重:1.3)を載せた。同様に、上記ジルコニアグリーンシートを9枚含む積層体を合計200個作成し、大気雰囲気下、1400℃で3時間焼結することにより、一辺約100mm、厚さ250μmの10Sc1CeSZ方形焼結シートを1800枚製造した。
【0118】
(2) ジルコニア焼結粉末の製造
上記製造例1(1)の10Sc1CeSZ方形焼結シートとφ20mmのジルコニアボールを50Lのボールミル(中央化工機社製,MR−50)へ投入し、回転数45rpmで2時間乾式粉砕し、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が1000μmの一次乾式粉砕ジルコニア焼結粉末を得た。得られた一次乾式粉砕ジルコニア焼結粉末とφ5mmのジルコニアボールを乾式ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製,ドライスターSDA5)へ投入し、回転数660rpmで45分間乾式粉砕することにより、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が5.3μmの二次乾式粉砕ジルコニア焼結粉末を得た。次いで、得られた二次乾式粉砕ジルコニア焼結粉末、エタノールおよびφ0.3mmのジルコニアボールをビーズミル(アシザワ・ファインテック社製,湿式微粉砕分散機「スターミル」)へ投入し、回転数3800rpmで2時間30分間湿式粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーで乾燥し、Deが0.41μm、Drが0.42μm、Dr/Deが1.02であるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末Aを得た。
【0119】
同様に、上記製造例1(1)の10Sc1CeSZ方形焼結シートを用い、粉砕機器の種類、回転数、回転時間、粉砕媒体および分散媒を表1のとおり変更し、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末B〜Jを得た。
【0120】
【表1】

【0121】
(3) 本発明に係るジルコニア焼結シートの製造
10Sc1CeSZ未焼結粉末のみに代えて、当該ジルコニア未焼結粉末と上記製造例1(2)のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末A〜Jとの混合物、または上記製造例1(2)のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末Aのみを用いた以外は上記製造例1(1)と同様にして、10Sc1CeSZシート1000枚を製造した。
【0122】
スカンジア安定化ジルコニア未焼結粉末とスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末との混合割合、焼結粉末の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)とレーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)とそれらの比(Dr/De)、得られたスカンジア安定化ジルコニアシートの強度や不合格率などを表2に示す。
【0123】
なお、反り不合格率は、製造した1000枚のジルコニアシートのうち、反り高さが0.08mm以上のシートの枚数を1000で除した値(%)であり、寸法不合格率は、対角線長さが141.4mm±1.0mmの範囲外であるシートの枚数を1000で除した値(%)である。また、表中の下線は、本発明の範囲外であることを示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2のとおり、使用するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が大き過ぎる場合には、得られたスカンジア安定化ジルコニアシートの強度が低下し、クラックなどの不良が発生した。その原因としては、必ずしも明らかではないが、以下が考えられる。即ち、焼結粉末のDeが大きいと、焼結粉末は焼成によりほとんど収縮しないため、未焼結粉末の焼結に伴って収縮する部分との収縮率の違いが大きくなる。その結果、焼結粉末部分とその周辺部分に応力が集中し、そこが起点となってクラックが発生したり、焼成による収縮が不均一となり緻密に焼結され難くなって強度が低下することが考えられる。
【0126】
逆に、焼結粉末のDeが小さ過ぎる場合には、得られたスカンジア安定化ジルコニアシートの寸法不合格率が比較的高くなった。その理由としては、焼結粉末が凝集し易くなって分散性を表すDe/Drの値が2.5を超えるために成形寸法が不均一になり易く、焼成時に変形が起こって寸法安定性が低下するためと考えられる。なお、特に工業的な大量生産においては、不合格率の上昇がわずかであっても不良シートの発生枚数は極端に増えるので、問題である。
【0127】
また、焼結粉末のみでシートを製造した場合には、おそらくいったん焼結されているために粉末同士の焼結が十分に起こらないことによると考えられるが、得られたスカンジア安定化ジルコニアシートにヒビが発生した。
【0128】
一方、スカンジア安定化ジルコニア未焼結粉末に加えて、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)およびDr/Deが本発明の範囲内であるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いた場合には、未焼成粉末のみから製造したシートとほぼ同等の強度を有する焼結シートが得られた。その上、反り不合格率と寸法不合格率を低減することができた。その理由は必ずしも明らかではないが、いったん焼結されている焼結粉末の存在により焼成収縮率が低下して寸法安定性が向上するためと考えられる。
【0129】
以上のとおり、本発明によれば、高強度のスカンジア安定化ジルコニアシートを効率的に製造できることが実証された。
【0130】
スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末A〜Jの最終的な乾燥手段と安息角を表3に示す。
【0131】
【表3】

【0132】
上記結果のとおり、ジルコニア焼結体の粉砕を乾式でのみ行った場合と、湿式で粉砕した後に熱風で乾燥した場合では、安息角は比較的大きく、流動性は比較的良くないといえる。一方、ジルコニア焼結体を湿式で粉砕した後にスプレードライした場合では、安息角は比較的小さく、流動性に優れるといえる。従って、ジルコニア焼結体を湿式で粉砕した後にスプレードライすれば、流動性に優れ、工業的な大量合成に適するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末が得られることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジア安定化ジルコニアシートを製造するための方法であって、
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を粉砕して、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下であるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得る工程;
スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末を含むスラリーであって、スラリー中におけるスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対するスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末の割合が2質量%以上、40質量%以下であるスラリーを調製する工程;
上記スラリーをシート状に成形する工程;および、
得られた成形体を焼結する工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
スカンジア安定化ジルコニアが、安定化剤としてスカンジアを3モル%以上、15モル%以下含むものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体が、厚さ1mm以下のシート状焼結体である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体として、不良を有するスカンジア安定化ジルコニア焼結体または破損したスカンジア安定化ジルコニア焼結体の少なくとも一方を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体として、固体酸化物形燃料電池由来の電解質シートを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
固体酸化物形燃料電池由来の電解質シートが、電極が形成されている単セルから電極を溶解した電解質シートである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
立方晶系スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末および/または菱面体晶系スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を用いる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を湿式で粉砕した後、スプレードライすることによりスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を得る請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で製造されたスカンジア安定化ジルコニアシートからなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で製造されたスカンジア安定化ジルコニアシートを電解質シートとして含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下であることを特徴とするスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末。
【請求項12】
立方晶系および/または菱面体晶系である請求項11に記載のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末。
【請求項13】
請求項11または12に記載のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末に由来する成分を、全体質量に対して実質的に1.9質量%以上、40質量%以下含むことを特徴とするスカンジア安定化ジルコニアシート。
【請求項14】
ジルコニア未焼結粉末と、スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末とジルコニア未焼結粉末の合計に対する割合が2質量%以上、40質量%以下である請求項11または12に記載のスカンジア安定化ジルコニア焼結粉末から製造されたものであることを特徴とするスカンジア安定化ジルコニアシート。
【請求項15】
3点曲げ強度が0.35GPa以上である請求項13または14に記載のスカンジア安定化ジルコニアシート。
【請求項16】
相対密度が98%以上である請求項13〜15のいずれかに記載のスカンジア安定化ジルコニアシート。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載のスカンジア安定化ジルコニアシートからなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項18】
電解質シートとして請求項13〜16のいずれかに記載のスカンジア安定化ジルコニアシートを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項19】
スカンジア安定化ジルコニア焼結粉末を製造するための方法であって、
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径(De)が0.3μm超、1.5μm以下、レーザー散乱法で測定される平均粒子径(Dr)が0.3μm超、3.0μm以下、且つ透過型電子顕微鏡で測定される平均粒子径に対するレーザー散乱法で測定される平均粒子径の比(Dr/De)が1.0以上、2.5以下となるように粉砕する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項20】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、レーザー散乱法で測定される平均粒子径が3.0μm超、2000μm以下となるまで乾式で粉砕した後、湿式でさらに粉砕することによりレーザー散乱法で測定される平均粒子径を0.3μm超、3.0μm以下とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
スカンジア安定化ジルコニアの焼結体を、直径0.01mmφ以上、3mmφ以下のジルコニアビーズを用いて粉砕する請求項19または20に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−105589(P2011−105589A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237985(P2010−237985)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】