説明

スキャン露光用メタルマスク及びスキャン露光装置

【課題】3D偏光フィルム及び配向フィルム等の製造時の露光に使用でき、薄いが剛性が高く、高精度で露光することができると共に、マスクコストを低減できるスキャン露光用メタルマスク及びスキャン露光装置を提供する。
【解決手段】メタルスリットマスク5は、金属製の基板15に、スキャン方向に延びる矩形のスリット5aがスキャン方向及びスキャン方向に直交する方向にマトリクス状に配列されて形成されている。これらのスリット5a群の中で、スキャン方向に配列された各列3個のスリット5a1,5a2,5a3は、それらの相互間に、基板15の領域15a、15bが位置しており、これらの領域15a、15bは、スキャン方向に直交する方向に直線状に連なっている。この3個のスリット5a、5b、5cのスリット列のスキャン方向に直交する方向に隣接するもの同士の間隔は、フィルムに形成すべき帯状の露光領域の幅に対応して決められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPR(Film Patterned Retarder(フィルム・パターンド・リターダー))方式の3次元(3D)映像表示装置に使用される偏光フィルム又は視野角を調整する光配向フィルム等の形成に使用されるスキャン露光用メタルマスク及びスキャン露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スキャン露光装置において、メタルマスクは、半導体集積回路の製造に使用されている(特許文献1等)。このメタルマスクに対し、スリット状の露光帯を、このスリットの長手方向に直交する方向に相対的に移動させることにより、マスク上の回路パターンをウエハ状の所定位置に転写する。
【0003】
一方、偏光フィルム及び配向膜の製造に際し、メタルマスクを使用した例は、従来、存在しない。FPR方式の3D技術においては、液晶表示装置等の表示装置の画面に、走査線1ライン毎に光線の方向を変える偏光フィルムを張り、表示装置が、走査線1ライン毎に右目用と左目用の画像を表示すると共に、偏光メガネに張られた偏光フィルムが右目用のものが右目に入射させるべき光のみを通過させ、左目用のものが左目に入射させるべき光のみを通過させることにより、右目及び左目に入射した画像に視差を生じさせて、立体表示を可能とする。
【0004】
図7は、FPR方式の偏光フィルム1を示す模式図である。この偏光フィルム1は、表示装置の水平の1走査線に対応する幅を持つ帯状の左目用の偏光部1aと、同じく表示装置の水平の1走査線に対応する幅を持つ帯状の右目用の偏光部1bとが、垂直方向に交互に配置されるようにして、透明の基材上に塗布されている。左目用の偏光部1aは−45°の直線偏光を有するか、又は時計方向に偏光するCW(clockwise)円方向偏光を有する。一方、右目用の偏光部1bは+45°の直線偏光を有するか、又は反時計方向に偏光するCCW(counter clockwise)円方向偏光を有するものである。そして、この偏光フィルム1を、その偏光部1a及び偏光部1bを夫々液晶表示装置の走査線に対応させ、左目用偏光部1aが液晶表示装置の左目用信号の走査線に一致し、右目用偏光部1bが液晶表示装置の右目用信号の走査線に一致するようにして、液晶表示装置の画面に貼り付ける。そうすると、液晶表示装置の画面の左目用走査線から出射した表示光は、偏光フィルム1の左目用偏光部1aを透過し、偏光メガネの左目用レンズに張られた左目用偏光フィルムを透過して左目に入射し、液晶表示装置の画面の右目用走査線から出射した表示光は、偏光フィルム1の右目用偏光部1bを透過し、偏光メガネの右目用レンズに張られた右目用偏光フィルムを透過して右目に入射する。これにより、右目と左目とは、視差をもつ画像を見ることができ、立体的な画像を視認することができる。
【0005】
図8は、この従来の偏光フィルム1の露光装置を示す模式図である。透明のフィルム基材の表面に配向材料が塗布されたフィルム10が、ロール100から巻き解かれ、ロール102,103を介してその移動軌跡が規制されて露光光源104,105の配設位置の近傍を通過し、ロール101に巻き取られる。このロール102,103間において、フィルム10は水平に進行し、このフィルム10の水平移動域の上方に、この移動方向に沿ってスリットマスク106,107が配置され、これらのスリットマスク106,107の上方に露光光源104,105が配置されていて、露光光源104,105からの露光光がスリットマスク106,107を介してフィルム10の表面の配向材料膜に照射される。スリットマスク106,107の一端部の上方、即ち、露光光源104,105の側方には、アライメントマークを観察するためのカメラ108,109が設置されている。フィルム移動方向におけるスリットマスク106の上流側には、フィルム10の側部にアライメントマークを形成するためのレーザマーカ110が設置されている。このスリットマスク106,107は、ガラス基板上にスリット状の開口(スリット106a、107a)を有するCr膜を形成したものであり、このCr膜により遮光され、前記開口を露光光が透過する。
【0006】
この従来の露光装置においては、図9に示すように、ロール102,103間を移動するフィルム10に対して、レーザマーカ110により、フィルム10の側部にアライメント用のマーク111を形成し、カメラ108がスリットマスク106の一端部に設けられた開口106bからマーク111を観察し、このマーク111に対するスリットマスク106のフィルム移動方向に垂直方向の位置を調整する。また、スリットマスク107においても、カメラ109がスリットマスク107の一端部に設けられた開口107bからマーク111を観察し、スリットマスク107のフィルム移動方向に垂直方向の位置を調整する。その上で、露光光源104からの露光光がスリットマスク106のスリット106aを透過してフィルム10の表面の配向材料膜に照射され、フィルム10は白抜き矢印にて示す方向に連続的に搬送されているので、配向膜に同一の方向に配向した帯状の偏光部1aが形成される。また、露光光源105からの露光光がスリットマスク107のスリット107aを透過してフィルム10の表面の配向材料膜に照射され、偏光部1a間に偏光部1bが形成される。この帯状の偏光部1a、1bは、走査線1ライン分に相当する間隔を有して相互に離隔しており、相互に異なる方向に配向した偏光部を形成している。これにより、図7に示すように、隣接する帯状の偏光部間で配向方向が90°異なる偏光フィルム1を製造することができる。
【0007】
なお、液晶表示装置に使用される光学フィルム等の製造方法に関し、特許文献2及び3がある。また、メタルマスクとしては、有機ELディスプレイ用のパネルの製造に使用されるものとして、特許文献4がある。この特許文献4の発明は、メタルマスクを使用して、基板表面に有機材料をパターン蒸着するものであり、メタルマスクが薄いことにより、メタルマスクの製作工程において、外観検査における捩れ、目開き、変形が起きることを防止するために、枠体と、メタルマスクの1辺にてメタルマスクを挟持する手段と、メタルマスクの他の1辺にて張力を与える張着手段とを有するメタルマスクの保持具を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−282391号公報
【特許文献2】特開2010−250172号公報
【特許文献3】特開2007−114563号公報
【特許文献4】特開2009−129728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術においては、スリットマスク106,107が、ガラス基板上にCr膜を遮光膜として形成し、このCr膜にスリット106a、107aを開口したものであるので、製造コストが高いという問題点がある。
【0010】
なお、図8に示す露光装置は、ロール102,103間にフィルム10を張った状態で、フィルム10上の配向材料膜を露光するので、フィルム10の搬送時のフィルム10の上下振動によりスリットマスク106,107とフィルム10との間の間隔が変動し、高精度で偏光部1a、1bを形成することが困難であった。また、ロール102,103間に張架されたフィルム10には、シワが発生しやすく、これによっても、偏光部1a、1bを高精度で形成することが困難であった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、3D偏光フィルム及び配向フィルム等の製造時の露光に使用でき、薄いが剛性が高く、高精度で露光することができると共に、マスクコストを低減できるスキャン露光用メタルマスク及びスキャン露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るスキャン露光用メタルマスクは、
露光装置において露光光に対し相対的に一方向に移動する基材に対し、前記一方向に延びる帯状の露光領域を、前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個形成するために使用されるスキャン露光用メタルマスクにおいて、
前記露光装置に設置されたときに前記一方向に平行に延び前記一方向及び前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個配置されたスリットを有し、
前記スリットの幅及び前記一方向に直交する方向についての前記スリットの配置間隔は、前記帯状の露光領域の幅により決まり、
前記一方向に離隔する前記スリット間の領域は、前記一方向に直交する方向に連なっていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るスキャン露光装置は、
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置された第2のマスクと、
前記第2のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第2の露光光源と、
を有し、
前記第1及び第2のスリットマスクの少なくとも一つは、
前記フィルム基材が前記第1及び/又は第2のスリットマスクに対して移動する方向を一方向として、
前記一方向に平行に延び前記一方向及び前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個配置されたスリットを有し、
前記スリットの幅及び前記一方向に直交する方向についての前記スリットの配置間隔は、前記帯状の露光領域の幅により決まり、
前記一方向に離隔する前記スリット間の領域は、前記一方向に直交する方向に連なっていることを特徴とする。
【0014】
このスキャン露光装置において、前記露光光源は、例えば、一方がCW円偏光の露光光を前記フィルムに照射するものであり、他方がCCW円偏光の露光光を前記フィルムに照射するものである。
【0015】
又は、前記露光光源は、例えば、一方がフィルムに対してフィルム移動方向に40°傾斜するように入射する露光光を前記フィルムに照射するものであり、他方がフィルムに対してフィルム移動方向に−40°傾斜するように入射する露光光を前記フィルムに照射するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、露光光源に対し基材を一方向に相対的に移動させつつ、露光光をメタルマスクを介して基材に照射するので、一方向に配置された複数個のスリットにより、この一方向に延びる1個の帯状の露光領域が形成される。よって、スリットがスキャン方向(一方向)に分断されていても、即ち、スキャン方向のマスク開口が、スキャン方向に並ぶ複数個のスリットにより構成されていても、スキャン方向に1個のスリットの場合と同様に、1個の帯状の露光領域を支障なく、形成することができる。このスリットは、一方向に直交する方向(スキャン方向に直交する方向)にも複数組配置されているので、スキャン方向に直交する方向に、複数個の帯状の露光領域を形成することができる。その上で、本発明においては、スキャン方向に関し、スリットが複数個に分断されており、スキャン方向に離隔するスリット間の領域は、スキャン方向に垂直の方向に直線状に連なっているので、この領域により、メタルマスクの剛性を高めることができる。よって、本発明により、薄いが剛性が高いメタルマスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のメタルマスクを示す平面図である。
【図2】従来のガラス基板上にCr膜によりスリットを形成したマスクと同一形状のメタルマスクを示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態のフィルムのスキャン露光装置を示す模式図である。
【図4】同じく、そのバックロール及びスリットマスクの近傍でフィルムを展開して示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態のフィルムのスキャン露光装置を示す模式図である。
【図6】同じく、そのバックロール及びスリットマスクの近傍でフィルムを展開して示す図である。
【図7】FPR方式の偏光フィルムを示す模式図である。
【図8】従来の偏光フィルムの露光方法を示す模式図である。
【図9】同じく、そのスリットマスクによる露光方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図3は本発明の実施形態に係るフィルムのスキャン露光装置を示す模式図、図4はバックロール近傍のフィルム10を展開して示す図である。フィルム基材の表面上に、適宜の塗布装置において配向材料が塗布され、この配向材料膜が塗布されたフィルムは、そのまま、バックロール8の配設位置に送給され、又は、図8に示すように一旦ロール100として巻回された後、このロール100から巻き解かれて、バックロール8まで送給される。
【0019】
バックロール8においては、その周面の略半分(下半分)だけフィルム10が巻き架けられ、フィルム10の裏面がバックロール8に接触すると共に、フィルム10の表面、即ち、配向材料膜が外方を向く。このバックロール8を間に挟んで対向するようにして、マスク7及びスリットマスク5が配向材料膜に面してフィルム10から若干の距離(200μm程度)をおいて設置されており、更に、このマスク7及びスリットマスク5の背後には、露光光源6、16が設置されている。これにより、表面に配向膜が塗布されたフィルム10は、バックロール8の周面に接触し、フィルム10の搬送時の若干の張力によりシワが伸ばされた状態で、バックロール8により支持される。そして、フィルム10を白抜き矢印方向に連続的に搬送し、露光光源6、16から露光光を連続的に照射することにより、この露光光はマスク7及びスリットマスク5の開口7a及びスリット5aを透過してフィルム10に照射される。これにより、偏光部が形成された偏光フィルムは、巻取ローラ101(図8参照)等に巻き取られる。
【0020】
バックロール8は内部を水冷された水冷ロールであり、その中心軸の周りに回転可能になっている。そして、このバックロール8は、自由に回転することができ、フィルム10の移動とともに、その周速度がフィルム10の移動速度と同一になるように回転する。これにより、フィルム10はバックロール8の周面に相対的速度差が存在しない状態で支持される。従って、適宜の張力を印加されて搬送されるフィルム10は、バックロール8の周面上で、シワが発生することが防止される。
【0021】
バックロール8の周面におけるフィルム10が巻き架けられた部分の始端部の近傍には、このバックロール8に対向するようにして、マスク7が配置されており、このマスク7の背後には、マスク7を介してフィルム10を露光する露光光の光源6が配置されている。また、バックロール8の周面におけるフィルム10が巻き架けられた部分の後端部の近傍には、このバックロール8に対向するようにして、スリットマスク5が配置されており、このスリットマスク5の背後には、スリットマスク5を介してフィルム10を露光する露光光の光源16が配置されている。マスク7は、フィルム10の幅方向に延びてこのフィルム10の幅方向のほぼ全域で開口する開口7aを有し、スリットマスク5には、フィルム10の移動方向に若干長い矩形の複数個のスリット5aが、フィルム10の長手方向及び幅方向(スキャン方向及びスキャン方向に垂直の方向)に配列されている。このスリット5aのフィルム幅方向の配列ピッチは、FPR方式の3D液晶表示装置に対応して、走査線2ライン分に相当する。
【0022】
そして、例えば、露光光源6からの露光光は、時計方向に偏光する円偏光(CW(clockwise)円偏光)の光であり、露光光源16からの露光光は、反時計方向に偏光する円偏光(CCW(counter clockwise)円偏光)の光である。白抜き矢印にて示すように、一方向に移動するフィルム10に対して、マスク7の開口7aから露光光源6の露光光をフィルム10に照射することにより、フィルム10にはその両側部の部分を除いて、一面に露光光が照射される。また、スリットマスク5のスリット5aから露光光源16の露光光をフィルム10に照射することにより、このスリット5aに対応するフィルム上の部分が、露光光源16からの露光光により、上書き露光される。
【0023】
フィルム10の表面上に、露光光の照射により硬化量が変化する露光材料からなる配向材料膜が形成されており、先ず、マスク7の開口7aを介するCW円偏光の露光光により、フィルム10の表面の配向材料膜の全域が所定の第1の硬化量(例えば、50%)になるまで露光される。次いで、スリットマスク5のスリット5aからのCCW円偏光の露光光により、スリット5aに対応する帯状の領域を第1の硬化量より大きな第2の硬化量(例えば、100%)になるまで露光する。そうすると、スリット5aに対応する帯状の露光部分(CCW円偏光)は、配向方向が固定され、偏光部1bとなる。一方、スキャン方向に直交する方向(フィルム幅方向)に離隔するスリット5a間の部分に対応する帯状の部分(CW円偏光)は、硬化量が50%で配向方向が固定されていないが、この部分はその後のポストベーク(乾燥温度より高い温度での熱硬化)により硬化量を100%にすれば、配向方向を固定することができる。
【0024】
而して、本実施形態において、スリットマスク5は、図1に示すように、ステンレス鋼又はアルミニウム等の極めて薄い板で成形されたメタルマスクであり、厚さは、例えば、100乃至200μmである。また、このスリットマスク5(メタルマスク)は、フィルム10の幅方向をカバーするために、幅が、例えば、1500〜1600mmであり、フィルム10の移動方向(露光スキャン方向)についてのスリット5aの長さ(図2参照)は、例えば、20〜30mm、スリット5aの幅は、例えば、1画素分に相当する200〜300μmである。これらのスリット(開口)は、レーザ加工等により形成することができる。
【0025】
本実施形態のメタルマスク(スリットマスク5)は、金属製の基板15に、スキャン方向(フィルム10の移動方向)に延びる矩形のスリット5aがスキャン方向及びスキャン方向に直交する方向にマトリクス状に配列されて形成されている。これらのスリット5a群の中で、スキャン方向に配列された各列3個のスリット5a1,5a2,5a3は、それらの相互間に、基板15の領域15a、15bが位置しており、これらの領域15a、15bは、スキャン方向に直交する方向に直線状に連なっている。このスキャン方向に配列された3個のスリット5a、5b、5cのスリット列のスキャン方向に直交する方向に隣接するもの同士の間隔は、フィルム10に形成すべき帯状の露光領域の幅に対応して決められている。スリット5aの幅が例えば1画素分の大きさに対応して決められている場合は、このスリット列間の間隔も1画素分の大きさに対応して決められる。
【0026】
なお、メタルマスク(スリットマスク5)は、前述のごとく、例えば、100〜200μmの厚さを有するように薄いものであるので、その周辺部はホルダ(図示せず)により支持されている。このスリットマスク5とマスク7は、図3に示すように、バックロール8の回転中心の水平方向両側に、その面を垂直にして設置されている。
【0027】
次に、上述のごとく構成された本実施形態のフィルム露光装置の動作について説明する。フィルム10は、その表面に配向材料が塗布され、例えば、幅が1500mm、厚さが100μm、1個のロール100のフィルム長は例えば2kmであり、通常、2〜10m/分の速度で搬送される。また、例えば、このフィルム10の材質は、COP(シクロオレフィンポリマー)又はTAC(トリアセチルセルロース)フィルムである。このフィルム10は、バックロール8の配設位置まで送給され、バックロール8に巻き架けられて支持される。そして、フィルム10の配向材料膜は、露光光源6から、マスク7の開口7aを介して、CW円偏光の露光光をフィルム10のほぼ全域に照射され、その後、露光光源16から、スリットマスク5のスリット5aを介して、CCW円偏光の露光光を帯状に照射され、このスリット5aに対応するフィルム10の部分が、CW円偏光の露光部から、CCW円偏光の露光部に上書き露光される。このとき、フィルム10の配向材料膜は、可逆性の配向材料であり、CW円偏光の露光光のほぼフィルム全面の照射により、フィルム10のほぼ全面が例えば50%硬化し、更に、CCW円偏光の露光光の帯状の照射により、このフィルム10における帯状の部分が例えば100%に硬化する。これにより、フィルム10のスリット5aに対応する部分は、CCW円偏光として配向方向が固定され、偏光部1b(図7参照)が形成される。一方、この偏光部1b間の帯状の部分は配向方向が固定されていないが、後工程にて、ポストベークすることにより、100%硬化し、配向方向がCW円偏光として固定され、偏光部1aが形成される。このようにして、偏光部1a、1bが交互に形成され、偏光部1a、1bが走査線1ラインに対応して形成されたFPR方式の偏光フィルムを製造することができる。
【0028】
本実施形態においては、フィルム10がスキャン方向に移動する間に、1個の帯状露光領域は、3個の1列に配列されたスリット5a1,5a2,5a3を透過した露光光の照射を受ける。この場合に、フィルム10は移動している間に露光を受けるので、スリット5aが、スリット5a1,5a2,5a3としてスキャン方向に分断されていても、図2に示すように、スキャン方向に1個の長いスリット5aが形成されている場合と同様に、1個の帯状の露光領域(図4の偏光部1b)を支障なく、形成することができる。このスリット5a1,5a2,5a3の列は、スキャン方向に直交する方向にも複数組配置されているので、スキャン方向に直交する方向に、複数個の帯状の露光領域(図4の偏光部1b)を形成することができる。
【0029】
そして、本実施形態においては、スキャン方向に離隔するスリット5a1,5a2,5a3間の領域15a、15bは、スキャン方向に垂直の方向に直線状に連なっているので、この領域により、メタルマスク(スリットマスク5)の剛性を高めることができる。よって、本実施形態の場合は、メタルマスクを使用しても十分に剛性が高いスリットマスクを得ることができる。図2は、従来のガラス基板上にCr膜を形成し、このCr膜にスリットを形成したスリットマスク(106,107)と同一形状のメタルマスクを示す。このメタルマスクは、金属基板15に、複数個のスリット5aをスキャン方向に直交する方向にのみ配列したものである。このような図2に示すメタルマスクの場合は、金属基板15の厚さが薄いため、剛性が不足し、スリット5aの近傍の部分が波打ったり、よじれたりするため、正確なスリット幅での露光が困難である。このようにメタルマスクの厚さを例えば100〜200μmの薄いものにするのは、マスク透過時の回折光を少なくするためである。従来のガラス基板上にCr膜で遮光膜を形成したスリットマスクの場合は、剛性が高いと共に、Cr膜自体は薄いので、回折光の問題も生じない。しかし、メタルマスクの場合は、回折光を防止するために、基板15自体の厚さを薄くする必要があり、剛性が不足してしまう。なお、図2に示すメタルマスクのスリット5aのスキャン方向の長さを、短くすると、メタルマスクの剛性を高めることができるが、そうすると、露光光の光量が不足してしまう。
【0030】
このような図2に示すメタルマスクに対し、本発明は、図1に示すように、スキャン方向に分断した複数個のスリット5a1,5a2,5a3の全体により、1個の帯状の露光領域に必要な露光光量を確保する。そして、この図1のメタルマスクは、スリット5a1,5a2,5a3の相互間に、基板15の領域15a、15bが存在し、これらの領域15a、15bがスキャン方向に直交する方向に連なっているので、これにより、メタルマスク5の剛性が確保される。従って、スリットの近傍で基板が波打ったり、よじれたりすることがなく、スリット5aの位置は所望の位置に配置され、正確なスリット幅でフィルム10を露光することができる。
【0031】
なお、薄いフィルム10は、バックロール8に支持され、またシワが伸ばされた状態で、スリットマスク5のスリット5aを介して露光がなされるので、フィルムのシワ及び振動が防止されて、高精度で、偏光部1a、1bを形成することができる。また、マスク7を介しての露光は、フィルム幅方向の全域に対してなされるので、マスク7と、スリットマスク5との間の位置合わせが不要であり、位置合わせの不良が存在せず、この点でも、偏光部1a、1bを高精度で形成することができる。そして、本発明においては、1個のバックロール8に対して、2回の露光を行うので、各露光毎に高価なバックロールを使用する必要がなく、FPR偏光フィルムの製造コストを低減できる。
【0032】
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、フィルム10が先ずスリット5aを有するスリットマスク5を介して、露光光源6からCW円偏光の露光光の照射を受け、次いで、開口7aを有するマスク7を介して、露光光源16からCCW円偏光の露光光の照射を受ける点が、第1実施形態と異なり、その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。図6に示すように、露光光源6からのCW円偏光の露光光を、スリット5aを介してフィルム10上の配向材料膜に露光することにより、帯状の偏光部1aを形成する。このとき、フィルム10上の配向材料膜は、非可逆性の材料であり、このCW円偏光の露光光の照射により、照射を受けた帯状の部分が100%硬化し、この部分の配向材料膜の配向方向が固定される。次いで、露光光源16からのCCW円偏光の露光光を、開口5aを介してフィルム10上の配向材料膜に露光することにより、フィルム10のほぼ全面にCCW円偏光の露光光を照射する。このとき、偏光部1aはCW円偏光で偏光方向が固定されているので、CCW円偏光の露光光の照射を受けても、偏光方向は変化しない。そして、偏光部1a間の露光光源6の未露光部が、露光光源16からのCCW円偏光の露光光の照射を受けて、この部分がCCW円偏光に対応する偏光部1bとなる。これにより、図7に示すように、偏光部1aと偏光部1bとが走査線の1ラインに対応して交互に位置する偏光フィルム1を製造することができる。
【0033】
このようにして、本実施形態は、CW円偏光により帯状の偏光部1aを形成した後、CCW円偏光の露光光の全面露光により、偏光部1a間に偏光部1bを形成するので、第1実施形態と同様に、マスク7とスリットマスク5との位置合わせは不要である。また、本実施形態も第1実施形態と同様に、フィルムの振動及びシワが防止され、高精度で偏光部1a、1bを形成することができる。これにより、走査線1ラインに高精度で整合した偏光部1a、1bを有するFPR偏光フィルム1を製造することができる。
【0034】
なお、本発明は、FPR偏光フィルム1の製造に限らず、種々の膜の製造に使用することができる。例えば、本発明を光配向膜の製造に使用することができる。この場合、露光光源6からの露光光が、マスク7に対して、例えば、40°の傾斜角度で入射し、露光光源16からの露光光が、スリットマスク5に対して、例えば、−40°の傾斜角度で入射するようにすれば良い。即ち、図4と同様に、可逆性の配向材料膜が形成されたフィルム10に対して、フィルム10の搬送方向に40°傾斜する露光光をフィルム10のほぼ全域に照射し、その後、フィルム10の搬送方向に−40°傾斜する露光光をスリット5aに対応する帯状の領域(配向部)に照射して、この領域については、−40°傾斜露光光により上書き露光する。本実施形態においても、最初の露光においては、配向材料膜は例えば50%硬化し、次順の露光により、帯状の照射領域は配向材料膜が例えば100%硬化する。このため、2回の露光により、配向部1dにおいては、2回目の露光による−40°傾斜入射の露光光により配向方向が決まり、この配向部においては、1回目の露光による40°傾斜入射の露光光により配向方向が揃えられた後、その後のポストベークによりその配向方向が固定されたものとなる。これにより、光配向方向が交互に異なる複数の帯状の配向部を有する光配向膜を得ることができ、液晶表示装置の光配向膜として、視野角を拡大するために使用することができる。また、この配向膜を図6と同様にして形成することもできる。なお、露光光の入射傾斜角度は40°及び−40°に限らず、種々の角度を採用することができる。
【0035】
更に、図1に示す実施形態のメタルマスク(スリットマスク5)は、そのスリット5aがフィルム移動方向について各3個に分断され、分断されたスリット5a1,5a2、5a3の相互間の領域15a、15bは、フィルム移動方向に直交する方向に直線状に連なっているが、これに限らず、このスリット5a1,5a2、5a3の相互間の領域は、千鳥状等で連なっていても良く、このスリット5a1,5a2、5a3の相互間の領域の形状は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、FPR方式の偏光フィルム及び光配向膜等を、メタルマスクを使用して高精度で製造することができ、3D方式又は2D方式の液晶表示装置の高精細化に寄与する。そして、本発明により、メタルマスクを使用したスキャン露光が実用化されるので、マスクコストを低減できる。
【符号の説明】
【0037】
1:偏光フィルム
1a、1b:偏光部
1c、1d:配向部
5:スリットマスク
5a:スリット
8:バックロール
6,16:露光光源
7:マスク
7a:開口
10:フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光装置において露光光に対し相対的に一方向に移動する基材に対し、前記一方向に延びる帯状の露光領域を、前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個形成するために使用されるスキャン露光用メタルマスクにおいて、
前記露光装置に設置されたときに前記一方向に平行に延び前記一方向及び前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個配置されたスリットを有し、
前記スリットの幅及び前記一方向に直交する方向についての前記スリットの配置間隔は、前記帯状の露光領域の幅により決まり、
前記一方向に離隔する前記スリット間の領域は、前記一方向に直交する方向に連なっていることを特徴とするスキャン露光用メタルマスク。
【請求項2】
透明のフィルム基材の一面に配向膜が塗布されたフィルムが前記配向膜を外側にして巻き架けられ、前記フィルムをその周面で支持しつつ前記フィルムをその周面に沿って移動させるバックロールと、
前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置された第1のスリットマスクと、
前記第1のスリットマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第1の露光光源と、
前記フィルムの移動方向における前記第1のスリットマスクの下流側において、前記バックロールに巻き架けられた前記フィルムに対向するように配置された第2のマスクと、
前記第2のマスクを介して前記フィルムの前記配向膜を露光する第2の露光光源と、
を有し、
前記第1及び第2のスリットマスクの少なくとも一つは、
前記フィルム基材が前記第1及び/又は第2のスリットマスクに対して移動する方向を一方向として、
前記一方向に平行に延び前記一方向及び前記一方向に直交する方向に適長間隔をおいて複数個配置されたスリットを有し、
前記スリットの幅及び前記一方向に直交する方向についての前記スリットの配置間隔は、前記帯状の露光領域の幅により決まり、
前記一方向に離隔する前記スリット間の領域は、前記一方向に直交する方向に連なっていることを特徴とするスキャン露光装置。
【請求項3】
前記露光光源は、一方がCW円偏光の露光光を前記フィルムに照射するものであり、他方がCCW円偏光の露光光を前記フィルムに照射するものであることを特徴とする請求項2に記載のスキャン露光装置。
【請求項4】
前記露光光源は、一方がフィルムに対してフィルム移動方向に40°傾斜するように入射する露光光を前記フィルムに照射するものであり、他方がフィルムに対してフィルム移動方向に−40°傾斜するように入射する露光光を前記フィルムに照射するものであることを特徴とする請求項2に記載のスキャン露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−97204(P2013−97204A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240603(P2011−240603)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】