説明

スクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメント

【課題】製織性が良好であり、かつ耐久性および印刷精度にも優れたハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメントを提供すること。
【解決手段】芯成分が固有粘度〔フェノールとo−ジクロロベンゼンの混合溶液(混合比6:4)中、35℃で測定〕0.550〜0.650dL/gのポリエチレンナフタレートからなり、鞘成分が固有粘度(o−クロロフェノール中で25℃で測定)0.500〜0.630dL/gのポリエチレンテレフタレートからなるハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製織性が良好であり、耐久性および印刷精度に優れたハイメッシュスクリーン紗が得られるスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷分野においては、高度な精密さ、すなわち高強度・高弾性率が要求されており、ステンレススクリーン紗が広く使用されている。しかし、ステンレスモノフィラメントは、高強度・高弾性率であり、吸湿や温度変化に対する寸法変化が極めて少ないものの、微小な歪でも降伏を起こしやすく、印刷を繰り返す間に永久変形が起こり、使用不可となる。
【0003】
かかる実情に対して、合成モノフィラメントからなるスクリーン紗が種々提案されており、例えば、熱可塑性ポリマーであるポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントを用いたスクリーン紗が、特許文献1(特開昭62−104795号公報)、特許文献2(特開昭62−215013号公報)、特許文献3(特開平2−127513号公報)などに提案されている。しかし、これらに提案されているモノフィラメントは、強度および弾性率が低いため、高張力下での製織に耐えることができないためにハイメッシュのスクリーン紗を得ることは困難である。
【0004】
一方、高強度・高弾性率を目的として、ポリエチレンナフタレートからなるスクリーン紗が、特許文献4(特開平4−100914号公報)などに提案されている。ポリエチレンナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートと比較して、モノフィラメントの強度・弾性率は大きく向上するため、よりハイメッシュなスクリーン紗の製織が期待されるが、配向性が高いため、スカムやフィブリルが発生しやすく、製織時の糸切れが多発するという欠点がある。
【0005】
この問題を解決するために、ポリエチレンナフタレートを芯成分とし、ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする方法が、特許文献5(特許第2959195号公報)に提案されている。該公報は、加熱延伸後に冷間ストレッチ処理を施すことにより応力緩和時間を5,000秒以上とするものである。しかしながら、上記方法では、冷間ストレッチ処理によりポリエチレンナフタレートとポリエチレンテレフタレートとの界面に応力が集中し、界面剥離が発生するという欠点をもつ。このために、製織時におけるスカムの発生を抑えることができなくなり、製織性の良好なハイメッシュスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを得ることが困難となる。
また、特許文献6(特許第2580816号公報)には、芯鞘型複合モノフィラメントにおいて、鞘を形成する共重合ポリエステルのガラス転移温度が芯を形成するポリエステルのガラス転移温度(79℃)よりも低く、35〜73℃とすることにより、フィブリルやスカムの少ない高性能スクリーン紗用モノフィラメントが提案されている。しかし、鞘成分がガラス転移温度の低いポリエステルであるために、紡糸ライン上における鞘成分の固化が不十分となるために、紡糸張力の変動が発生して、高密度印刷品位に必須の繊維径の均一性が失われ、精密印刷の点で問題となることが分かった。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−104795号公報
【特許文献2】特開昭62−215013号公報
【特許文献3】特開平2−127513号公報
【特許文献4】特開平4−100914号公報
【特許文献5】特許第2959195号公報
【特許文献6】特許第2580816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、製織性が良好であり、かつ耐久性および印刷精度にも優れたハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芯成分が固有粘度〔フェノールとo−ジクロロベンゼンの混合溶液(混合比6:4)中、35℃で測定、以下同じ〕0.550〜0.650dL/gのポリエチレンナフタレートからなり、鞘成分が固有粘度(o−クロロフェノール中、25℃で測定、以下同じ)0.500〜0.630dL/gのポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とするハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメント(以下「モノフィラメント」ともいう)に関する。
ここで、本発明のモノフィラメントは、伸度10〜30%、5%強度が4〜6cN/dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモノフィラメントは、高張力下でも安定に製織することができるため、該モノフィラメントからは高品位のハイメッシュスクリーン紗を得ることができる。しかも、上記スクリーン紗は、耐久性および印刷精度に優れているため、精密なスクリーン印刷を長期間安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは、ポリエチレンナフタレートを主成分とするポリエステルを芯成分とし、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを鞘成分とする芯鞘型複合断面モノフィラメントである。
【0011】
芯成分を構成するポリエチレンナフタレートは、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸およびエチレングリコール以外の第三成分を全酸成分の20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で共重合したものであってもよいが、特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートホモポリエステルが好ましい。
一方、鞘成分を構成するポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、テレフタル酸およびエチレングリコール以外の第三成分を全酸成分の20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で共重合したものであってもよいが、特にポリエチレンテレフタレートホモポリエステルが好ましい。
【0012】
上記の両ポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン、アルミナ、カルシウム化合物、着色顔料、紫外線吸収剤、リン酸や亜リン酸およびそれらのエステルなどの安定剤など各種添加剤が含まれていてもよい。
【0013】
本発明のモノフィラメントにおける、芯成分および鞘成分の横断面形状は、上記の要件が満足されれば、円形、三角、四角、マルチローバル断面、さらには偏平断面のいずれの形状であってもよく、芯成分は単芯、多芯のいずれでもよいが、製糸性の観点から芯成分と鞘成分が同心円形の単芯の芯鞘型複合断面となっているものが好ましい。
【0014】
一般に、ポリエステルモノフィラメントの高強度・高モジュラス化としては、高分子量のポリマーを高度に配向させる方法が広くとられている。しかしながら、ハイメッシュスクリーン紗の製織、特に10dtex以下のスクリーン紗の製織においては、数μmのクリアランスの筬で3,000回以上の摩擦を受けるため、このときに起こる筬によるモノフィラメントの削れを抑制することが重要となる。本発明者らは、これに対して、モノフィラメントの芯成分および鞘成分の固有粘度に着目し、高強度・高モジュラスを維持したまま筬によるモノフィラメントの削れを抑制できるところがあることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明においては、芯成分であるポリエチレンナフタレートの固有粘度を0.550〜0.650dL/g、好ましくは0.555〜0.620dL/g、より好ましくは0.564〜0.585dL/gとし、また、鞘成分であるポリエチレンテレフタレートの固有粘度を0.500〜0.630dL/g、好ましくは0.535〜0.620dL/g、より好ましくは0.550〜0.600dL/gとすることが肝要である。
【0016】
ハイメッシュのスクリーン紗においては、高張力下での製織となるため、モジュラスの低いモノフィラメントでは、部分的に弱い箇所が他の部分よりも大きな伸長を受けやすくなり、得られる紗に経筋やたるみなどが発生してスクリーン紗の品位が低下しやすくなる。さらに、印刷時にはスキージなどにより応力が加えられるが、高強度のモノフィラメントからなるスクリーン紗であっても、この応力により歪んでしまうと、高度な印刷精度を保つことができなくなる。このため、芯成分の固有粘度が0.550dL/g未満の場合は、十分な強度およびモジュラスが得られないために、精密印刷に適したスクリーン紗を得ることが困難となる。一方、芯成分の固有粘度を高くすると、より高強度なモノフィラメントを得ることが可能であるが、芯成分に用いたポリエチレンナフタレートの固有粘度が0.650dL/gを超える場合には、延伸工程での加熱温度を150℃以上とする必要があるため、鞘成分として用いたポリエチレンテレフタレートの配向が進みにくくなり、その配向差から界面での応力が大きくなるために、芯成分と鞘成分との間での剥離現象が起きやすくなる。このために、製織時のスカムの発生は多くなり安定した製織ができなくなる。
【0017】
一方、鞘成分の固有粘度が0.630dL/gを超えると、配向が高すぎるために、製織時の筬との摩擦によるスカムおよびフィブリルの発生を抑えることが困難となり、製織性の優れたモノフィラメントを得ることができない。特に、ハイメッシュスクリーン紗にとっては、製織時の擦過によりスカムやフィブリルが大きな問題となるために、鞘成分の固有粘度はできる限り押さえることが望まれるが、0.500dL/g未満である場合は、吐出孔での粘度差が大きくなりすぎるために、芯成分比を上げた場合に断面異常となってしまい、目的の芯鞘構造を得ることが困難となる。
【0018】
なお、本発明におけるモノフィラメントの伸度は10〜30%、かつ5%強度は4〜6cN/dtexあることが好ましい。
すなわち、高強度・高弾性率のモノフィラメントを得るためには、延伸工程で高倍率に延伸することが考えられるが、製織工程での糸の取り扱いの観点から、伸度は10%以上とすることが必要となる。一方、伸度が30%を超えると、十分な強度・弾性率は得られなくなるとともに、印刷時の目開きが大きくなり精密印刷には適さない。本発明のモノフィラメントにおいて、伸度を上記範囲内にするには、芯成分として使用するポリエチレンナフレートを30%以上使用した芯鞘複合断面モノフィラメントを280〜320℃で溶融紡糸した後、延伸温度80〜130℃、延伸倍率3.6〜4.5倍で延伸することにより調整すればよい。
また、本発明のモノフィラメントの5%強度が4cN/dtex未満の場合は、繰り返し印刷によるスクリーン紗の寸法安定性が不十分となり、ハイメッシュスクリーン紗における精密印刷が不可能となってしまう。一方、上記5%強度が6cN/dtexを超える場合は、高倍率で延伸する必要があるため、得られたモノフィラメントの伸度は10%以下になり、製織工程での取り扱いが困難となる。
本発明のモノフィラメントにおいて、5%強度を上記範囲内にするには、芯成分として使用するポリエチレンナフレートを30%以上使用した芯鞘複合断面モノフィラメントを280〜320℃で溶融紡糸した後、延伸温度80〜130℃、延伸倍率3.6〜4.5倍で延伸することにより調整すればよい。
【0019】
以上に説明した本発明のモノフィラメントを製造するには、例えば固有粘度が0.600〜0.650dL/gのポリエチレンテレフタレートと固有粘度が0.580〜0.645dL/gのポリエチレンナフタレートとを乾燥後、紡糸温度280〜320℃で溶融し、芯成分であるポリエチレンナフタレートの周囲を鞘成分であるポリエチレンテレフタレートが取り囲むとともに、ポリエチレンナフタレートがモノフィラメント表面に存在しない断面形状となるような複合紡糸口金を用いて、溶融紡糸する。次いで、600〜1,500m/分の速度で巻き取って未延伸糸を得る。この際、紡糸口金下5〜40cmの範囲は保温領域とし、口金面温度が290〜300℃の範囲に保たれるようにする。そして、該保温領域通過後、横吹き式冷却装置にて風速0.1〜0.4m/分の空気を吹き付けて冷却し、公知の方法によりモノフィラメント処理剤を0.1〜0.5重量%付与して巻取り未延伸糸を得る。
未延伸糸は、80〜130℃の第1加熱ローラーおよび120〜220℃の第2加熱ローラーを介して延伸倍率3.6〜4.5倍で延伸熱処理し、延伸速度400〜1000m/分で巻き取ることにより本発明のモノフィラメントを得ることができる。
本発明においては、上記のように第1加熱ローラーの温度を80〜130℃とすることが好ましい。80℃以下の温度では、十分に延伸することができないため、ハイメッシュスクリーン紗に必要な高強度・高モジュラスが得られにくい。また、130℃以上になると芯成分のポリエチレンナフタレートの配向は進むが、鞘成分であるポリエチレンテレフタレートの配向が進まないために芯成分と鞘成分の配向に差がつき過ぎる傾向にあり、界面の剥離現象が見られ、これが製織時におけるスカムの発生を助長する。
なお、延伸は、上記のような1段延伸でも、また多段延伸であってもよい。また、未延伸糸は、一旦巻き取ることなく連続して延伸してもよい。
【0020】
なお、以上のようにして得られる本発明のモノフィラメントは、芯部と鞘部との体積比率が、通常、芯部/鞘部=30/70〜90/10、好ましくは50/50〜80/20である。
また、本発明のモノフィラメントの単糸繊度は、通常、5〜18dtex、好ましくは8〜13dtexである。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各特性値の測定は下記にしたがった。
(1)強度・伸度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で測定したときの、破断時の強度および伸度である。測定数は10とし、その平均を求めた。
(2)5%強度
強度・伸度測定で得られた伸長−歪みカーブの5%伸長時での応力をモノフィラメントの繊度で除した値である。5%強度が4cN/dtex以上のモノフィラメントからは耐久性および印刷制度に優れたスクリーン紗が得られる。
(3)製織性
スルザー型織機により織機の回転数を250rpmとしてメッシュ織物を製織する。筬の汚れ具合を観察しつつ、継続して製織を行うことが不能とされるときに製織を中断し、筬の洗浄を行った。そのときの製織長さを筬洗浄周期(m)とした。この洗浄周期が長いほど、スカムの発生が少ないことを示す。
スカムの評価
良好 :250m以上の製織可能
やや不良:100m以上250m未満製織可能
不良 :100m以上製織不可能
【0022】
実施例1
固有粘度0.630dL/gのポリエチレンテレフタレートと固有粘度が0.620dL/gのポリエチレンナフタレートとを、それぞれ290℃、315℃で溶融し、芯鞘型複合紡糸口金(吐出孔は直径0.4mm×ランド長0.8mm、孔数4ホール)を用い、口金面温度を300℃とし、芯成分/鞘成分=70/30の複合比率(体積比率)にてトータル吐出量13.5g/分で吐出した。この際、紡糸口金下13cmを保温した。吐出された糸条の冷却は、横吹き式冷却装置を用い、温度25℃、風速0.2m/分の冷却風を吹き付けて行い、該固化糸条を800m/分の速度で引取り、モノフィラメント処理剤を0.25%付与した後、分繊して巻き取った。巻き取った未延伸糸を、第1加熱ローラー(HR1)を100℃、第2加熱ローラー(HR2)を140℃、延伸倍率(DR)を4.2倍とし、500m/分の速度で延伸してモノフィラメントを得た。
【0023】
実施例2
固有粘度0.685dL/gのポリエチレンナフタレートを芯成分ポリマーとして用いたこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0024】
実施例3
固有粘度0.600dL/gのポリエチレンナフタレートを芯成分ポリマーとして用い、ポリエチレンテレフタレートを300℃で溶融したこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0025】
比較例1
固有粘度0.662dL/gのポリエチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとして用いたこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0026】
比較例2
固有粘度0.780dL/gのポリエチレンテレフタレートを鞘成分ポリマーとして用いたこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0027】
比較例3
固有粘度0.735dL/gのポリエチレンナフタレートを芯成分ポリマーとして用い、巻き取った未延伸糸を、第1加熱ローラー(HR1)を160℃で延伸したこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0028】
比較例4
固有粘度0.550dL/gのポリエチレンテレフタレートを芯成分ポリマーとして用いたこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0029】
比較例5
ポリエチレンナフタレートを330℃で溶融したこと以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。



【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のハイメッシュスクリーン抄用芯鞘複合断面モノフィラメントは、高強度・高モジュラスであるが、繊維表面はソフトで筬による削れに強いので、高張力下での製織工程が安定で、かつ耐久性および印刷精度に優れたハイメッシュスクリーン紗を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が固有粘度〔フェノールとo−ジクロロベンゼンの混合溶液(混合比6:4)中、35℃で測定〕0.550〜0.650dL/gのポリエチレンナフタレートからなり、鞘成分が固有粘度(o−クロロフェノール中で25℃で測定)0.500〜0.630dL/gのポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とするハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメント。
【請求項2】
伸度10〜30%、5%強度が4〜6cN/dtexである請求項1記載のハイメッシュスクリーン紗用芯鞘複合断面モノフィラメント。

【公開番号】特開2007−321316(P2007−321316A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155725(P2006−155725)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】