説明

スクロール圧縮機

【課題】異音の発生を抑制することのできるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】固定スクロールおよび旋回スクロールと、中心軸線周りに回転可能に支持された主軸と、中心軸線に沿って延びる駆動ピンと、駆動ピンが回転可能に挿通される偏心孔が形成されたブッシュ63と、このブッシュ63において、その中心軸線から偏心するとともに駆動ピンとは異なる位置から、中心軸線に沿って延びるリミットピン65と、主軸において、リミットピン65と対向する位置から中心軸線に沿ってリミットピン65が挿通されるように延びるとともに、リミットピン65よりも直径が大きなリミット穴とが設けられ、主軸の軸方向視で、ブッシュ63における偏心孔69と、リミットピン65と、ブッシュ63の中心軸線とが一直線上に配列されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮器、特にモータにより駆動されるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとの間に気体などの圧縮性流体を圧縮する圧縮室を形成し、旋回スクロールを旋回運動させて圧縮室の容積を減少させることにより、圧縮室内の気体を圧縮している。
【0003】
スクロール型圧縮機は、圧縮機としての機能および性能を確保するため、気体の圧縮の際に発生する反力を用いて、旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける構成を採用している。このような構成とすることで、気体の圧縮時に圧縮室からの流体漏れが防止され、圧縮機としての機能および性能を確保されている。
【0004】
上述のような構成を採用したスクロール圧縮機においては、圧縮室内に液体などの非圧縮性流体が存在した場合、気体を圧縮した場合と比較して、圧縮の際に発生する反力は大きくなる。すると、旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける力も大きくなり、圧縮室内の液体の逃げ通路が確保できないという問題があった。特に、反力が大きくなると、固定スクロールや旋回スクロールなどが破損する恐れがあった。
また、固定スクロールと旋回スクロールとの間に異物が挟まれた場合にも、異物の噛み込みによる反力が発生し、異物の逃げ通路が確保できなくなり、固定スクロールなどが破損する恐れがあった。
【0005】
上述の問題を解決するため、例えば、固定スクロールなどの破損が起きる恐れがある場合に、発生した反力を利用して旋回スクロールの旋回半径を変更し、液体や異物の逃げ通路を確保する構成(ピンと円弧状溝とから構成される機構、以下スイングリンク機構と表記する。)などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−215481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のスイングリンク機構を用いたスクロール圧縮機は、ピンが円弧状溝に沿って移動することにより、旋回スクロールの旋回半径を変更しているため、ピンが円弧状溝の端部に対して接触離間を繰り返し、例えば「カタカタ」という異音を発生するという問題があった。
【0008】
所定の状況としては、旋回スクロールの挙動が不安定なスクロール圧縮機の起動時や停止時などが挙げられる。特に起動時には、圧縮室内に液体が溜まっている場合が多く、この液体が圧縮室から抜けるまで、旋回スクロールの旋回半径変更が繰り返され、ピンと円弧状溝の端部との接触離間が繰り返されるため異音が発生していた。
【0009】
別の所定の状況としては、スクロール圧縮機の形式が挙げられる。つまり、旋回スクロールの公転軸線が水平方向に延びている横置き型のスクロール圧縮機は、鉛直方向に延びている縦置き型のスクロール圧縮機と比較して、上述の異音が発生しやすい。
【0010】
横置き型スクロール圧縮機は、停止していると旋回スクロールに遠心力が働かないとともに圧縮室内の圧力が抜けて、旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける力がなくなり、重力により旋回スクロールは落下して固定スクロールから離間する。その後、スクロール圧縮機が起動されると、固定スクロールに押し付ける力が旋回スクロールに働き、旋回スクロールは固定スクロールに押し付けられる。この際に、ピンと円弧状溝の端部とが衝突し、上述の異音が発生していた。
一方、縦置き型スクロール圧縮機は、スクロール圧縮機が停止しても、重力が働く方向が上述の異音が発生しにくかった。
【0011】
さらに別の所定の状況としては、スクロール圧縮機の駆動方法が挙げられる。つまり、インバータモータなどの電動機で駆動されるスクロール圧縮機は、自動車のエンジンなどの内燃機関により駆動されるスクロール圧縮機と比較して、上述の異音が発生しやすい。
【0012】
インバータモータ等は、供給される電流値やインバータモータの体格などにより、発生できる駆動トルクの値が制限される。一方で圧縮室内に溜まった液体を圧縮室から排出するためには、大きな駆動トルクが必要になる。インバータモータ等が発生する駆動トルクが圧縮室から液体を排出するために十分な値でない場合には、液体は圧縮室内に比較的長い期間留まることになる。液体が長い期間圧縮室内に留まると、上述の異音が発生する期間も長くなっていた。
一方エンジン等は、インバータモータ等と比較して、発生できる駆動トルクの値が大きい。そのため、圧縮室から液体を排出するのに要する期間が短くなり、上述の異音が発生する期間も短くなっていた。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、異音の発生を抑制することができるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を採用する。
本発明のスクロール圧縮機は、閉塞された圧縮室を形成する固定スクロールおよび旋回スクロールと、中心軸線周りに回転可能に支持された主軸と、前記旋回スクロールと対向する前記主軸の端部における前記中心軸線から偏心した位置から、前記中心軸線に沿って延びる駆動ピンと、前記旋回スクロールにおける前記主軸と対向した面から、前記中心軸線に沿って延びるボス部と、前記駆動ピンが回転可能に挿通される偏心孔が形成され、前記ボス部の内部に回転可能に配置されるブッシュと、前記主軸および前記ブッシュの一方において、前記中心軸線から偏心するとともに前記駆動ピンとは異なる位置から、前記中心軸線に沿って延びるリミットピンと、前記主軸および前記ブッシュの他方において、前記リミットピンと対向する位置から前記中心軸線に沿って前記リミットピンが挿通されるように延びるとともに、前記リミットピンよりも直径が大きなリミット穴と、が設けられ、前記主軸の軸方向視で、前記ブッシュにおける前記偏心孔と、前記リミットピンまた前記リミット穴と、前記ブッシュの中心軸線とが一直線上に配列されていることを特徴とする。
【0015】
上記発明においては、前記リミットピンと前記リミット穴との間に、前記リミットピンおよび前記リミット穴に接触して配置される弾性部が設けられていることが望ましい。
【0016】
本発明によれば、旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける力(例えば、旋回スクロールに働く遠心力や圧縮室内で圧縮された圧縮性流体からの反力など)が、弾性部を変形させる程に大きくない場合(例えば、スクロール圧縮機の起動直後や停止している場合など)には、弾性部はリミットピンとリミット穴とを離間させ、所定の相対位置関係に保持する(例えば、リミット穴の中央にリミットピンを保持する)ことができる。
【0017】
一方、旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける力が、弾性部を変形させる程に大きい場合には、弾性部は変形しリミットピンとリミット穴とを接触させることができる。するとブッシュは、駆動ピンを中心として、旋回スクロールの旋回半径が大きくなる方向に回転され、旋回スクロールは固定スクロールに押し付けられる。
旋回スクロールを固定スクロールに押し付ける力が大きくなりすぎた場合(例えば、圧縮室内に非圧縮性流体である液体が存在する場合や、両スクロールの間に異物が噛み込まれた場合など)には、ブッシュは、駆動ピンを中心として旋回スクロールの旋回半径が小さくなる方向に回転され、リミットピンとリミット穴とが離間する。
【0018】
上記発明においては、前記リミットピンは、前記主軸の軸方向視で、前記ブッシュの外周輪郭よりも内側に設置されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスクロール圧縮器によれば、弾性部はリミットピンとリミット穴とを離間させ、所定の相対位置関係に保持することができるため、リミットピンとリミット穴とが接触する際に発生する異音を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスクロール圧縮機に構成を説明する概略図である。
【図2】図1の主軸の構成を説明する概略図である。
【図3】図2のクランクピンおよびリミット穴の構成を説明する側面視図である。
【図4】図1のドライブブッシュ部の構成を説明する概略図である。
【図5】図4のドライブブッシュ部の構成を説明する側面視図である。
【図6】図1の主軸とドライブブッシュ部との組み合わせを説明する概略図である。
【図7】図6の主軸とドライブブッシュ部とをドライブブッシュ部側から見た図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の第1実施例のスクロール圧縮機にかかるリミットピンおよび弾性部の周辺構成を説明する模式図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の第2変形例のスクロール圧縮機にかかるドライブブッシュ部の構成を説明する模式図である。
【図10】図9のドライブブッシュ部と主軸との組み合わせを説明する図である。
【図11】図9のドライブブッシュ部の他の構成を説明する模式図である。
【図12】本発明の第2の実施形態のスクロール圧縮機にかかるドライブブッシュ部の構成を説明する模式図である。
【図13】本発明の第2の実施形態のスクロール圧縮機にかかる主軸の構成を説明する模式図である。
【図14】図12および図13のドライブブッシュ部と主軸との組み合わせを説明する図である。
【図15】図12のリミットピン、リミット穴および弾性部の他の変形例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係るスクロール圧縮機ついて図1から図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るスクロール圧縮機に構成を説明する概略図である。
本実施形態においては、インバータモータにより駆動される横置き型のスクロール圧縮器であって、車両用空気調和機の冷媒を圧縮するスクロール圧縮機に適用して説明する。
【0022】
スクロール圧縮機1は、図1に示すように、ハウジング3と、車両用空気調和機に用いられる冷媒を圧縮する固定スクロール5および旋回スクロール7と、旋回スクロール7を駆動する主軸9、ドライブブッシュ部11およびインバータモータ13と、が設けられている。
【0023】
ハウジング3は、内部に固定スクロール5や、旋回スクロール7や、主軸9やインバータモータ13などを収納する筐体であって、ハウジング3には第1ハウジング15と、第2ハウジング17と、モータケース19と、が設けられている。
【0024】
第1ハウジング15は、有底円筒状に形成された部材であり、固定スクロール5が底面に固定されている。固定スクロール5と第1ハウジング15との間には、固定スクロール5および旋回スクロール7により圧縮された冷媒が流入する吐出室21が形成されている。
【0025】
第1ハウジング15には、吐出室21内の冷媒を外部に導く吐出部(図示せず)と、第1フランジ部23と、が設けられている。
第1フランジ部23は、ハウジングボルト25を用いて第1ハウジング15、第2ハウジング17およびモータケース19を一体に固定する際に用いられるものであって、第1ハウジング15の開口側の端部に半径方向外側に向かって延びる部材である。
【0026】
第2ハウジング17は、図1に示すように、円筒状に形成された側壁部27と、第1ハウジング15側の端部から半径方向外側に向かって延びる鍔部29が設けられた部材である。第2ハウジング17は、鍔部29が第1ハウジング15とモータケース19との間に挟まれるように配置されている。
【0027】
第2ハウジング17の側壁部27内には、主軸9を回転可能に支持するラジアルベアリング31が設けられ、側壁部27の壁面内には、主軸9に中心軸線に沿って延びる吸入流路28が設けられている。
第2ハウジング17の鍔部29には、ハウジングボルト25を用いて第1ハウジング15、第2ハウジング17およびモータケース19を一体に固定する際に用いられる第2フランジ部33が設けられている。第2フランジ部33は、鍔部29から半径方向外側に向かって延びる部材である。
【0028】
モータケース19は、図1に示すように、有底円筒状に形成された部材であり、内部にインバータモータ13のステータ77が固定されている。モータケース19には、外部から冷媒が流入する吸入部(図示せず)と、ボックス35と、ケースフランジ部37と、が設けられている。
【0029】
ボックス35は、モータケース19の半径方向外側に向かって開口し、内部にインバータモータ13のインバータ部79が納められるものである。
ケースフランジ部37は、ハウジングボルト25を用いて第1ハウジング15、第2ハウジング17およびモータケース19を一体に固定する際に用いられるものであって、モータケース19の開口側の端部から半径方向外側に向かって延びる部材である。
【0030】
固定スクロール5および旋回スクロール7は、図1に示すように、閉塞された圧縮室Cを形成して冷媒を圧縮するものである。
固定スクロール5には、固定端板39と、固定端板39から旋回スクロール7に向かって延びる渦巻状の固定壁体41が設けられている。固定スクロール5は第1ハウジング15の底面に固定されている。
固定端板39の中心部には吐出孔43が設けられ、圧縮室Cで圧縮された冷媒が、吐出孔43を介して吐出室21に吐出される。
【0031】
一方、旋回スクロール7には、旋回端板45と、旋回端板45から固定スクロール5に向かって延びる渦巻状の旋回壁板47が設けられている。旋回スクロール7は、主軸9および自転防止部49により公転可能に支持されている。
旋回端板45における主軸9と対向する面には、主軸9に向かって延びる円筒状のボス部51が設けられている。ボス部51には、主軸9による公転駆動力が伝達されるブッシュ63を回転可能に支持する旋回部ベアリングが配置されている。
【0032】
図2は、図1の主軸の構成を説明する概略図である。図3は、図2のクランクピンおよびリミット穴の構成を説明する側面視図である。
主軸9は、図1に示すように、インバータモータ13から旋回スクロール7に向かって延びる円柱状の部材である。主軸9には、図1および図2に示すように、ロータ75に固定されている円柱状のクランクシャフト55と、クランクシャフト55よりも直径の大きな円板部57と、クランクシャフト55に中心軸線から偏心した位置から中心軸線に沿って延びるクランクピン(駆動ピン)59とが設けられている。
【0033】
クランクシャフト55は、中心軸線が略水平に配置されているとともに、ステータ77およびロータ75により発生された回転駆動力を旋回スクロール7に伝達するものである。
円板部57は円周面がラジアルベアリング31に支持される部分であり、クランクピン59が設けられているとともに、リミットピン65が挿入されるリミット穴61が設けられている部分である。
【0034】
クランクピン59は、クランクシャフト55に伝達された回転駆動力を旋回スクロール7に伝達して、旋回スクロール7を旋回駆動する円柱状の部材である。クランクピン59は、図2および図3に示すように、円板部57における円板部57の中心から偏心した位置から、クランクシャフト55の中心軸線に沿って旋回スクロール7に向かって延びている。
【0035】
リミット穴61は、リミットピン65とともに旋回スクロール7の公転半径を調節するものである。リミット穴61は、円板部57におけるクランクシャフト55とは異なる他の偏心した位置から、クランクシャフト55の中心軸線に沿ってクランクシャフト55に向かって延びる穴である。リミット穴61の直径は、リミットピン65の直径よりも大きく形成されている。
なお、リミット穴61は、上述のように穴として形成されていてもよいし、リミットピン65が挿通される溝として形成されていいてもよく、特に限定するものではない。
【0036】
クランクピン59とリミット穴61との相対位置関係としては、図3に示すように、主軸9をクランクピン59側から見て、クランクピン59が12時方向に配置されている場合に、リミット穴61が4時から5時方向に配置されている場合を例示できる。
【0037】
図4は、図1のドライブブッシュ部の構成を説明する概略図である。図5は、図4のドライブブッシュ部の構成を説明する側面視図である。
主軸9と旋回スクロール7との間には、図1に示すように、ドライブブッシュ部11が設けられている。
ドライブブッシュ部11には、図4に示すように、ブッシュ63と、リミットピン65と、カウンターウエイト67とが設けられている。
【0038】
ブッシュ63は、クランクピン59とボス部51との間に配置され、旋回スクロール7に公転駆動力を伝達する略円柱状の部材である。ブッシュ63におけるブッシュ63の中心から偏心した位置には、クランクピン59が挿通されるクランク孔(偏心孔)69が形成されている。
【0039】
リミットピン65は、ブッシュ63と円板部57との間に配置され、リミット穴61とともに旋回スクロール7の公転半径を調節する円柱状の部材である。リミットピン65は、ブッシュ63におけるクランクピン59とは異なる他の偏心した位置から、主軸9の中心軸線に沿って、円板部57に向かって(図4の左側に向かって)延びて設けられている。
リミットピン65における円板部57側の端部近傍には、弾性部73が嵌められる凹状の嵌合溝71がリミットピン65の円周面にわたって形成されている。
なお、リミットピン65は、上述のように、円柱状の部材として形成されていてもよいし、その他の断面形状を有する柱状の部材として形成されていてもよく、特に限定するものではない。
【0040】
弾性部73は、リミットピン65における円板部57側の端部近傍に設けられ、リミットピン65とリミット穴61とに接触して配置された略円筒状の弾性部材である。弾性部73を形成する材料としては、車両用空気調和機に用いられる冷媒や、スクロール圧縮機1等の潤滑油に対して適合性を備えるとともに膨潤しないゴムが望ましい。具体的には、HNBR(水素化ニトリルゴム)などを例示できるが、使用される冷媒や潤滑油に応じて適したゴムを使用することができる。
【0041】
弾性部73は、外周面の直径がリミット穴61の直径以上に形成されるとともに、内周面の直径がリミットピン65の直径以下に形成されている。弾性部73の内周面には、嵌合溝71と嵌合する畝状の凸部が内周面にわたって設けられている。
弾性部73は、旋回スクロール7が旋回駆動されていない場合には、旋回スクロール7の自重を支え、リミットピン65をリミット穴61から離間して保持する剛性を少なくとも備えている。一方、弾性部73の剛性は、旋回スクロール7が旋回駆動され、遠心力および冷媒の圧縮による反力が働いている場合には、つぶされてリミットピン65とリミット穴61とが直接接触する程度に抑えられている。
【0042】
クランク孔69とリミットピン65との相対位置関係は、図5に示すように、ドライブブッシュ部11をカウンターウエイト67側(図5の左側)から見て、クランク孔69が2時方向に配置されている場合に、リミットピン65が8時方向に配置されている場合を例示できる。
【0043】
カウンターウエイト67は、固定スクロール5に対する旋回スクロール7の押し付け力を調節するとともに、バランスをとる部材である。カウンターウエイト67は、図4および図5に示すように、ブッシュ63における主軸9側の円周面から半径方向外側に向かって、半円状に延びる鍔状の部材である。カウンターウエイト67が延びる範囲は、図5に示すように、クランク孔69が2時方向に配置されている場合に、3時方向から9時方向の間の範囲であり、カウンターウエイト67は、ブッシュ63の中心を通る線から6時方向にオフセットされて設けられている。
【0044】
図6は、図1の主軸とドライブブッシュ部との組み合わせを説明する概略図である。図7は、図6の主軸とドライブブッシュ部とをドライブブッシュ部側から見た図である。
主軸9とドライブブッシュ部11とは、図6および図7に示すように、クランクピン59がクランク孔69に挿通されるとともに、リミットピン65がリミット穴61に挿通されるように組み合わされる。リミットピン65の弾性部73は、リミットピン65とともにリミット穴61の内部に挿入され、リミット穴61の内周面と接触している。
このように組み合わされているため、ドライブブッシュ部11は、クランクピン59を回転中心として、リミットピン65およびリミット穴61に規制される範囲内で回転可能とされている。
【0045】
インバータモータ13は、周波数制御された交流電流により回転駆動されるモータであり、旋回スクロール7を公転旋回駆動する電動部である。
インバータモータ13には、図1に示すように、主軸9およびドライブブッシュ部11を介して旋回スクロール7を公転旋回させるロータ75およびステータ77と、ステータ77に供給する交流電流を制御するインバータ部79と、が設けられている。
【0046】
ロータ75は、ステータ77により形成された交流磁場により回転駆動力を発生するものであって、円筒状に形成された永久磁石である。ロータ75には主軸9のクランクシャフト55が固定されている。
ステータ77は、インバータ部79から供給された交流電流に基づいて、交流磁場を形成してロータ75を回転させるものである。ステータ77は、モータケース19の内周面に焼き嵌めなどの固定方法を用いて固定されている。
【0047】
インバータ部79は、ステータ77に供給する交流電流を制御するものであり、ボックス35内に配置されている。インバータ部79には、キャパシタ(コンデンサ)81と、パワートランジスタ83などの電子素子を備える複数の基板85と、端子87と、が設けられている。
【0048】
キャパシタ81は電流を一時的に蓄電するものである。基板85に備えられたパワートランジスタ83などの電子素子は、外部から供給された交流電流の周波数を制御するものである。端子87はステータ77に交流電流を供給するものである。
パワートランジスタ83が備えられた基板85は、ボックス35内のモータケース19と接触して固定され、パワートランジスタ83から発生した熱をモータケース19に逃がすように構成されている。その他の基板85は、モータケース19から離れた位置に固定されている。言い換えると、基板85は積層した状態で固定されている。
端子87は、パワートランジスタ83などにより制御された交流電流をステータ77に供給するものである。
【0049】
なお、上述のようにインバータモータ13を電動部として用いてもよいし、その他の公知なモータを電動部として用いてもよく、特に限定するものではない。
【0050】
次に、上記の構成からなるスクロール圧縮機1における冷媒の圧縮について説明する。
インバータ外部から供給された直流電流は、図1に示すように、インバータ部79のパワートランジスタ83などの電子素子により周波数が制御され、ステータ77に供給される。
ステータ77は周波数が制御された交流電流に基づいて交流磁界を形成し、ロータ75は、形成された交流磁界との相互作用により回転駆動力を発生する。ロータ75により発生された回転駆動力は、主軸9に伝達される。
【0051】
回転駆動力は主軸9のクランクシャフト55および円板部57に伝達され、円板部57の回転によりクランクピン59が旋回駆動される。クランクピン59の旋回運動は、ブッシュ63およびボス部51を介して旋回スクロール7に伝達される。旋回スクロール7は自転防止部49により自転運動が規制された状態で公転駆動される。
【0052】
旋回スクロール7が公転駆動されると、固定スクロール5との間に形成された圧縮室Cが、モータケース19からスクロール圧縮機1内に流入した冷媒を取り込み圧縮する。具体的には、圧縮室Cは、固定スクロール5および旋回スクロール7の外周端で冷媒を取り込む。そして、旋回スクロール7の公転により、圧縮室Cは固定壁体41および旋回壁板47に沿って外周端から中心側に向かって移動するにつれて容積が小さくなり、取り込んだ冷媒を圧縮する。
圧縮室Cに圧縮された冷媒は、固定スクロール5の吐出孔43を介して吐出室21に吐出され、吐出室21内から第1ハウジング15の外部に吐出される。
【0053】
旋回スクロール7には、公転旋回による遠心力と、圧縮室Cにより圧縮された冷媒の圧縮反力とが、公転旋回半径を広げる方向に働く。これらの力により、旋回スクロール7およびドライブブッシュ部11は、クランクピン59を中心として回転して公転旋回半径が広がる。
旋回スクロール7およびドライブブッシュ部11が回転すると、クランクピン59およびクランク孔69は弾性部73を押しつぶしながら接近して互いに接触する。クランクピン59およびクランク孔69は接触することにより、クランクピン59を中心とした旋回スクロール7およびドライブブッシュ部11の回転範囲を規制する。
なお、旋回スクロール7に働く遠心力や圧縮反力は、弾性部73を押しつぶすのに十分な大きさであり、例えば、数千N程度の力の大きさを例示できる。
【0054】
例えば、圧縮室C内に液体の冷媒(以後、液冷媒と表記する。)が存在したり、旋回スクロール7と固定スクロール5との間に異物が噛み込まれたりした場合には、旋回スクロール7は公転旋回半径が小さくなり、液冷媒や異物の逃げ通路が形成される。つまり、液冷媒を圧縮する際に発生する液圧縮反力や、異物を噛み込んだ際に発生する抵抗力により、旋回スクロール7およびドライブブッシュ部11が、クランクピン59を中心に公転旋回半径を小さくする方向に回転する。この回転により、旋回スクロール7および固定スクロール5との間に逃げ通路が形成される。
【0055】
次に、本実施形態の特徴であるカタカタ音発生の抑制について説明する。
スクロール圧縮機1の運転が停止され、旋回スクロール7の公転旋回が止まると、旋回スクロール7に働いていた遠心力や圧縮反力が消え、旋回スクロール7の公転半径を大きくする力が消える。旋回スクロール7は鉛直方向下方に働く重力により、クランクピン59を中心として回転移動し、リミットピン65とリミット穴61とが離間する。遠心力等によりリミットピン65とリミット穴61との間でつぶされていた弾性部73も、つぶれた形状から元の形状に戻る力によりリミットピン65とリミット穴61とを離間させる。
【0056】
さらに、弾性部73は、リミットピン65をリミット穴61から離間した状態に保持する。弾性部73には、旋回スクロール7およびドライブブッシュ部11に作用する重力により、弾性部73をつぶす力が働くが、その大きさが数N程度であって遠心力および圧縮反力と比較して小さいため、弾性部73はリミットピン65をリミット穴61から離間した状態に保持できる。
そのため、スクロール圧縮機1の運転が停止された際に、リミットピン65とリミット穴61とが接触して発生するカタカタ音が抑制される。
【0057】
また、圧縮室Cに液冷媒が存在する場合には、上述のように、旋回スクロール7の公転半径が小さくなる。つまり、リミットピン65とリミット穴61とが離間して旋回スクロール7の公転半径が小さくなる。
このとき、弾性部73は、リミットピン65がリミット穴61の内周面における所定領域から離間して反対側の領域に接触(衝突)する際に、その形状が変形されてリミットピン65とリミット穴61とが接触する際の勢いを低減させる。そのため、圧縮室Cに液冷媒が存在する場合におけるリミットピン65とリミット穴61とが接触して発生するカタカタ音が抑制される。
【0058】
旋回スクロール7の公転旋回半径が安定していない場合や、異物が旋回スクロール7および固定スクロール5の間に噛みこまれた場合におけるカタカタ音も、弾性部73によって同様に抑制される。
【0059】
上記の構成によれば、旋回スクロール7を固定スクロール5に押し付ける力(例えば、旋回スクロール7に働く遠心力や圧縮反力など)が、弾性部73を変形させる程に大きくない場合、例えば、スクロール圧縮機の起動直後や停止している場合などには、弾性部73はリミットピン65とリミット穴61とを離間させ、リミット穴61の中央にリミットピン65を保持する。そのため、リミットピン65とリミット穴61とが接触して発生するカタカタ音を抑制することができる。
【0060】
弾性部73を略円筒状に形成することにより、弾性部73とリミットピン65との接触面積を確保することができ、弾性部73をリミットピン65に固定しやすくなる。具体的には、リミットピン65の嵌合溝71に嵌め合わせる畝状の凸部を設ける面積を確保することができ、リミットピン65に弾性部73を固定しやすくなる。
リミットピン65に設けた嵌合溝71に弾性部73の畝状の凸部を嵌め合わせることにより、リミットピン65から弾性部73が外れにくくすることができる。
【0061】
〔第1の実施形態の第1変形例〕
次に、本発明の第1の実施形態の第1変形例に係るスクロール圧縮機ついて図8を参照して説明する。
本変形例のスクロール圧縮機の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、リミットピンおよび弾性部の構成が異なっている。よって、本変形例においては、図8を用いてリミットピンおよび弾性部の周辺構成のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図8は、本変形例のスクロール圧縮機にかかるリミットピンおよび弾性部の周辺構成を説明する模式図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0062】
スクロール圧縮機1のドライブブッシュ部11には、図8に示すように、ブッシュ63と、リミットピン65Aと、弾性部73Aと、カウンターウエイト67と、が設けられている。
リミットピン65Aは、ブッシュ63と円板部57との間に配置され、リミット穴61とともに旋回スクロール7の公転半径を調節する円柱状の部材である。リミットピン65Aは、ブッシュ63におけるクランクピン59とは異なる他の偏心した位置から、主軸9の中心軸線に沿って、円板部57に向かって(図8の左側に向かって)延びて設けられている。
【0063】
リミットピン65Aにおける円板部57側の端部近傍には、弾性部73Aの内周部が嵌められる凹状の嵌合溝71Aがリミットピン65Aの円周面にわたって形成されている。嵌合溝71Aは、深さが弾性部73Aにおける断面の直径よりも短く、幅が広くても断面の直径程度の長さに形成されている。
【0064】
弾性部73Aは、リミットピン65Aにおける円板部57側の端部近傍に設けられ、リミットピン65Aとリミット穴61とに接触して配置された弾性部材である。弾性部73Aは、断面が略円状にリング形状に形成された、いわゆるOリングである。
弾性部73Aを形成する材料としては、第1の実施形態と同様に、車両用空気調和機に用いられる冷媒や、スクロール圧縮機1等の潤滑油に対して適合性を備えるとともに膨潤しないゴムが望ましい。具体的には、HNBR(水素化ニトリルゴム)などを例示できるが、使用される冷媒や潤滑油に応じて適したゴムを使用することができる。
【0065】
弾性部73Aは、最外径がリミット穴61の直径以上に形成されるとともに、最内径が少なくともリミットピン65Aの直径より小さく形成されている。
弾性部73Aは、旋回スクロール7が旋回駆動されていない場合には、旋回スクロール7の自重を支え、リミットピン65Aをリミット穴61から離間して保持する剛性を少なくとも備えている。一方、弾性部73Aの剛性は、旋回スクロール7が旋回駆動され、遠心力および冷媒の圧縮による反力が働いている場合には、つぶされてリミットピン65Aとリミット穴61とが直接接触する程度に抑えられている。
【0066】
リミットピン65Aとクランク孔69との相対位置関係は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0067】
上記の構成からなるスクロール圧縮機1における冷媒の圧縮、および、カタカタ音発生の抑制に係る作用ついては、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0068】
上記の構成によれば、弾性部73Aにおける内周側の部分が嵌合溝71Aに嵌められるため、弾性部73Aがリミットピン65Aから外れにくくなる。
弾性部73AがいわゆるOリングであって、第1の実施形態の弾性部73のような特殊な形状を有しないため、弾性部73Aの形成が容易となる。あるいは、市販品を弾性部73Aとして用いることができる。
【0069】
〔第1の実施形態の第2変形例〕
次に、本発明の第1の実施形態の第2変形例に係るスクロール圧縮機ついて図9から図11を参照して説明する。
本変形例のスクロール圧縮機の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、リミットピンおよび弾性部の構成が異なっている。よって、本変形例においては、図9から図11を用いてリミットピンおよび弾性部の周辺構成のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図9は、本変形例のスクロール圧縮機にかかるドライブブッシュ部の構成を説明する模式図である。図10は、図9のドライブブッシュ部と主軸との組み合わせを説明する図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0070】
スクロール圧縮機1のドライブブッシュ部11には、図9に示すように、ブッシュ63と、リミットピン65Bと、弾性部73Bと、カウンターウエイト67と、が設けられている。
リミットピン65Bは、ブッシュ63と円板部57との間に配置され、リミット穴61とともに旋回スクロール7の公転半径を調節する円柱状の部材である。リミットピン65Bは、ブッシュ63におけるクランクピン59とは異なる他の偏心した位置から、主軸9の中心軸線に沿って、円板部57に向かって(図9の左側に向かって)延びて設けられている。
【0071】
弾性部73Bは、リミットピン65Bにおける円板部57側の端部近傍に設けられ、図9および図10に示すように、リミットピン65Bとリミット穴61とに接触して配置された弾性部材である。弾性部73Bは、略円筒状に形成された弾性部材である。
弾性部73Bを形成する材料としては、第1の実施形態と同様に、車両用空気調和機に用いられる冷媒や、スクロール圧縮機1等の潤滑油に対して適合性を備えるとともに膨潤しないゴムが望ましい。具体的には、HNBR(水素化ニトリルゴム)などを例示できるが、使用される冷媒や潤滑油に応じて適したゴムを使用することができる。
【0072】
弾性部73Bは、外周面の直径がリミット穴61の直径以上に形成されるとともに、内周面の直径がリミットピン65Bの直径と同等か小さく形成されている。
弾性部73Bは、旋回スクロール7が旋回駆動されていない場合には、旋回スクロール7の自重を支え、リミットピン65Bをリミット穴61から離間して保持する剛性を少なくとも備えている。一方、弾性部73Bの剛性は、旋回スクロール7が旋回駆動され、遠心力および冷媒の圧縮による反力が働いている場合には、つぶされてリミットピン65Bとリミット穴61とが直接接触する程度に抑えられている。
【0073】
リミットピン65Bとクランク孔69との相対位置関係は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0074】
上記の構成からなるスクロール圧縮機1における冷媒の圧縮、および、カタカタ音発生の抑制に係る作用ついては、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0075】
上記の構成によれば、弾性部73Bを略円筒状とすることにより、弾性部73Bとリミットピン65Bとの接触面積を確保することができ、リミットピン65Bへの弾性部73Bの固定が容易となる。
弾性部73Bの形状が、第1の実施形態の弾性部73のような特殊な形状を有しないため、弾性部73Bの形成が容易となる。
弾性部73Bをリミットピン65Bに取り付けるため、リミット穴61Bへ弾性部73Bを取り付ける方法と比較して、弾性部73Bの取付けが容易となる。
【0076】
図11は、図9のドライブブッシュ部の他の構成を説明する模式図である。
なお、上述の変形例のように、弾性部73Bを略円筒状の部材に形成して、リミットピン65Bに配置してもよいし、図11に示すように、有底円筒状の弾性部73Cをリミットピン65Cに配置してもよく、特に限定するものではない。
【0077】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態にかかるスクロール圧縮機ついて図12から図15を参照して説明する。
本実施形態のスクロール圧縮機の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、リミットピン、リミット穴および弾性部の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、図12から図15を用いてリミットピン、リミット穴および弾性部の周辺構成のみを説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
図12は、本実施形態のスクロール圧縮機にかかるドライブブッシュ部の構成を説明する模式図である。図13は、本実施形態のスクロール圧縮機にかかる主軸の構成を説明する部分拡大図である。
なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0078】
スクロール圧縮機1のドライブブッシュ部11には、図12に示すように、ブッシュ63と、リミットピン65Dと、カウンターウエイト67と、が設けられている。
一方、スクロール圧縮機1の主軸9には、図13に示すように、クランクシャフト55と、円板部57と、クランクピン59と、リミット穴61Dと、弾性部73Dと、が設けられている。
【0079】
リミットピン65Dは、図12に示すように、ブッシュ63と円板部57との間に配置され、リミット穴61Dとともに旋回スクロール7の公転半径を調節する円柱状の部材である。リミットピン65Dは、ブッシュ63におけるクランクピン59とは異なる他の偏心した位置から、主軸9の中心軸線に沿って、円板部57に向かって(図12の左側に向かって)延びて設けられている。
【0080】
リミットピン65Dとクランク孔69との相対位置関係は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0081】
リミット穴61Dは、リミットピン65Dとともに旋回スクロール7の公転半径を調節するものである。リミット穴61Dは、円板部57におけるクランクシャフト55とは異なる他の偏心した位置から、クランクシャフト55の中心軸線に沿ってクランクシャフト55に向かって延びる穴である。リミット穴61Dの直径は、リミットピン65Dの直径よりも大きく形成されている。
【0082】
図14は、図12および図13のドライブブッシュ部と主軸との組み合わせを説明する図である。
弾性部73Dは、リミット穴61Dの内周面に設けられ、リミットピン65Dとリミット穴61Dとに接触して配置された弾性部材である。弾性部73Dは、略円筒状に形成された弾性部材である。
弾性部73Dを形成する材料としては、第1の実施形態と同様に、車両用空気調和機に用いられる冷媒や、スクロール圧縮機1等の潤滑油に対して適合性を備えるとともに膨潤しないゴムが望ましい。具体的には、HNBR(水素化ニトリルゴム)などを例示できるが、使用される冷媒や潤滑油に応じて適したゴムを使用することができる。
【0083】
弾性部73Dは、外周面の直径がリミット穴61Dの直径程度に形成されるとともに、内周面の直径がリミットピン65Dの直径と同等か小さく形成されている。
弾性部73Dは、旋回スクロール7が旋回駆動されていない場合には、旋回スクロール7の自重を支え、リミットピン65Dをリミット穴61Dから離間して保持する剛性を少なくとも備えている。一方、弾性部73Dの剛性は、旋回スクロール7が旋回駆動され、遠心力および冷媒の圧縮による反力が働いている場合には、つぶされてリミットピン65Dとリミット穴61Dとが直接接触する程度に抑えられている。
【0084】
上記の構成からなるスクロール圧縮機1における冷媒の圧縮、および、カタカタ音発生の抑制に係る作用ついては、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0085】
上記の構成によれば、弾性部73Dを略円筒状とすることにより、弾性部73Dとリミット穴61Dとの接触面積を確保することができ、リミット穴61Dへの弾性部73Dの固定が容易となる。
弾性部73Dの形状が、第1の実施形態の弾性部73のような特殊な形状を有しないため、弾性部73Dの形成が容易となる。
【0086】
弾性部73Dをリミット穴61Dに取り付けるため、リミットピン65Dに弾性部73Dを取り付ける方法比較して、リミットピン65Dをリミット穴61Dに挿入する際に弾性部73Dの配置位置がずれる恐れが少なく、組み立てが容易となる。
【0087】
図15は、図12のリミットピン、リミット穴および弾性部の他の変形例を説明する模式図である。
なお、上述の変形例のように、弾性部73Dを略円筒状の部材に形成して、リミット穴61Dの内部に配置してもよいし、図15に示すように、有底円筒状の弾性部73Eをリミット穴61Eの内部に配置してもよく、特に限定するものではない。
【0088】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、この発明を車両用空気調和機に用いられるスクロール圧縮機に適用して説明したが、この発明は車両用空気調和機に用いられるスクロール圧縮機に限られることなく、その他各種のスクロール圧縮機に適応できるものである。
【符号の説明】
【0089】
1 スクロール圧縮機
5 固定スクロール
7 旋回スクロール
9 主軸
11 ドライブブッシュ部
59 クランクピン(駆動ピン)
61,61D,61E リミット穴
63 ブッシュ
65,65A,65B,65C,65D リミットピン
69 クランク孔(偏心孔)
71,71A 嵌合溝
73,73A,73B,73C,73D,73E 弾性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞された圧縮室を形成する固定スクロールおよび旋回スクロールと、
中心軸線周りに回転可能に支持された主軸と、
前記旋回スクロールと対向する前記主軸の端部における前記中心軸線から偏心した位置から、前記中心軸線に沿って延びる駆動ピンと、
前記旋回スクロールにおける前記主軸と対向した面から、前記中心軸線に沿って延びるボス部と、
前記駆動ピンが回転可能に挿通される偏心孔が形成され、前記ボス部の内部に回転可能に配置されるブッシュと、
前記主軸および前記ブッシュの一方において、前記中心軸線から偏心するとともに前記駆動ピンとは異なる位置から、前記中心軸線に沿って延びるリミットピンと、
前記主軸および前記ブッシュの他方において、前記リミットピンと対向する位置から前記中心軸線に沿って前記リミットピンが挿通されるように延びるとともに、前記リミットピンよりも直径が大きなリミット穴と、が設けられ、
前記主軸の軸方向視で、前記ブッシュにおける前記偏心孔と、前記リミットピンまた前記リミット穴と、前記ブッシュの中心軸線とが一直線上に配列されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記リミットピンと前記リミット穴との間に、前記リミットピンおよび前記リミット穴に接触して配置される弾性部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記リミットピンは、前記主軸の軸方向視で、前記ブッシュの外周輪郭よりも内側に設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−145120(P2012−145120A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106280(P2012−106280)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2007−43285(P2007−43285)の分割
【原出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】