説明

スクロール型圧縮機

【課題】スクロール部材における渦巻状の壁部において圧縮空間を形成する接触点を外周側に設定することにより、内周側の接触圧を低減し小容量で高回転を常用とする使用環境に適合することができ、接触点での面圧上昇および接触部のかじり等の発生を防止し、容積効率を向上する。
【解決手段】少なくとも一方のスクロール部材10の渦巻状の可動壁14を、インボリュート曲線の終了点Cを基準として、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした外周側となる位置Dより、前記インボリュート曲線開始点側となる内周側が、前記外周側より肉薄になるように形成する。内周側を外周側より肉薄に形成することにより、接触部としての壁接触点Dを外周側に設定し、内周側の接触圧を低減すると共に外周側のシールを確実にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、一層詳細には、固定スクロールに対して可動スクロールを旋回させることにより圧縮機内部において流体を圧縮するスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固定板と該固定板に直立した渦巻状の固定壁を有する固定スクロールと、可動板と該可動板に直立した渦巻状の可動壁を前記固定壁に噛み合わせるように配置した可動スクロールとを、ハウジングの内部に備えるスクロール型圧縮機が知られている。
【0003】
従来、この種のスクロール型圧縮機において、スクロールの中心部付近での圧力の高い圧縮空間から圧力の低い圧縮空間への漏れを低減するために、固定渦巻羽根(渦巻状の固定壁)あるいは旋回渦巻羽根(渦巻状の可動壁)の少なくとも一方の羽根(壁)の厚さを、巻き始めからある所定の位置(ほぼ一巻きの位置)までを一定にし、かつ羽根(壁)厚さをある所定の位置から巻き終わりに向かって徐々に減少させるように構成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−65476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電動自動車やハイブリッド自動車において、電動モータにより駆動される電動式スクロール型圧縮機が採用されている。この電動式スクロール型圧縮機は、ベルト駆動によるスクロール型圧縮機と比べて、スクロールの小型化により小容量化が図られ、しかも高回転において効率が良いことから常用回転数が高いものとなっている。
【0006】
そこで、スクロールの容積を小さくするとインボリュート曲率が小さくなり、曲率が小さくなる程中央部の圧縮空間の圧力が高くなるため、可動スクロールと固定スクロールの壁接触点となる接触部に加わる圧力が高くなり、接触部が摩耗し易くなる。このような現象は、スクロールの中央部付近での圧力漏れを低減するようにした前記先行技術において、より顕著に現れ、電動式スクロール型圧縮機に適用するのが困難である。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、相互に噛み合わされて複数の圧縮室を形成する固定スクロールと可動スクロールとからなるスクロール部材において、前記スクロール部材における渦巻状の壁部において圧縮空間を形成する接触点を外周側に設定することにより、内周側の接触圧を低減し小容量で高回転を常用とする使用環境に適合することができ、接触点での面圧上昇および接触部のかじり等の発生を防止して、容積効率を向上することが可能なスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、相互に噛み合わされて複数の圧縮室を形成する固定スクロールと可動スクロールとからなるスクロール部材を具備するスクロール型圧縮機において、
少なくとも一方のスクロール部材のインボリュート曲線の終了点を基準とし、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした(外周側)位置より、前記インボリュート曲線開始点側(内周側)を、前記外周側より肉薄に形成したことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、少なくとも一方のスクロール部材のインボリュート曲線終了点を基準とし、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした(外周側)位置より、前記インボリュート曲線開始点側(内周側)を、前記外周側より肉薄に形成することにより、接触部としての壁接触点を外周側に設定するようにし、内周側の接触圧を低減することにより、高圧となる内周側が非接触となり内部リークの可能性が増しても、外周側のシールがしっかりしているため、小容量で高回転を常用とする使用環境において特に問題なくスクロール型圧縮機として機能させることができる。
【0010】
また、本発明において、前記スクロール部材は、電動による小容量で高回転を常用とする条件下により使用することを特徴とする。すなわち、前記構成からなるスクロール部材を具備するスクロール型圧縮機は、内周側の接触圧が低減することにより内部リークが生じても、外周側のシールが確実で容積効率が向上することから、電動モータ駆動に適した仕様となると共に、容積効率の向上を達成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0012】
スクロール部材における渦巻状の壁部において圧縮空間を形成する接触点を外周側に設定することにより、内周側の接触圧を低減し小容量で高回転を常用とする使用環境に適合することができ、接触点での面圧上昇および接触部のかじり等の発生を防止し、容積効率が向上する。これに伴って、前記スクロール部材に対して、貧潤滑での耐久性を向上し、作動時の摺動音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機におけるスクロール部材の一方(可動)のスクロールの構成を示す概略説明図である。
【図2】(a)〜(d)は本発明の実施の形態における固定スクロールの渦巻状の固定壁に対する可動スクロールの渦巻状の可動壁の旋回動作に基づく接触部の起生状態を順次示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるスクロール型圧縮機と従来のスクロール型圧縮機とのスクロール部材における接触点と面圧特性を示す特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るスクロール型圧縮機について、好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態によるスクロール型圧縮機におけるスクロール部材10としての一方である可動スクロール12を示す。そして、この可動スクロール12には、インボリュート曲線からなる渦巻状の可動壁14が設けられている。なお、参照符号13は、固定スクロールの渦巻状の固定壁を示す。
【0016】
そこで、本実施の形態における可動スクロール12においては、前記可動壁14のインボリュート曲線の終了点Cを基準とし、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした外周側となる位置Dより、前記インボリュート曲線開始点側となる内周側を、前記外周側より肉薄に形成する。
【0017】
本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機は、前記構成からなるスクロール部材10を使用することを特徴とするものであり、その他の構成は従来のスクロール型圧縮機にそのまま適用することができる。従って、その詳細については説明を省略する。なお、本実施の形態においては、スクロール部材10としてその一方の可動スクロール12について示したが、他方の固定スクロールの渦巻状の固定壁13(図2参照)に対して、前記と同様の構成とすることができる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態に係るスクロール型圧縮機におけるスクロール部材10の作用効果について説明する。
【0019】
図2の(a)〜(d)は、本実施の形態における固定スクロールの渦巻状の固定壁13に対する可動スクロール12の渦巻状の可動壁14の作動状態をそれぞれ示すものである。すなわち、本実施の形態によれば、図2の(a)〜(d)に示すように、固定スクロールに対して可動スクロール12が偏心旋回する場合において、固定スクロールの前記固定壁13に対して可動壁14が順次90°の変位で、接触点(Dout1、Dout2、Dout3、Dout4 )と、非接触点(Nin1、Nin2、Nin3、Nin4 )とが、図示のように順次繰り返しながら起生する。
【0020】
このように本実施の形態によれば、前記可動壁14のインボリュート曲線の終了点Cを基準として、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした外周側となる位置Dより、前記インボリュート曲線開始点側となる内周側を、前記外周側より肉薄に形成することにより、図2の(a)〜(d)に示されるように、接触点(Dout1、Dout2、Dout3、Dout4 )をインボリュート曲線の終了点側となる外周側に位置させることができる。
【0021】
従って、前記接触点(Dout1、Dout2、Dout3、Dout4 )を外周側とすることで、インボリュート曲線開始点側となる内周側においては非接触点(Nin1、Nin2、Nin3、Nin4 )となり、前記内周側の接触圧を低減することができる。このように、内周側の接触部は非接触点となり、圧力が外周側に漏れることになるが、小容量で高回転(例えば、6,000〜10,000rpm)を常用とする使用環境においては、特に問題とはならない。また、この場合、前述したように、外周側の接触部の状態は確実であることから容積効率を向上させることができる。
【0022】
表1は、前述した構成からなる本発明に係るスクロール型圧縮機と、従来技術におけるスクロール型圧縮機とについて、スクロール部材についての効果を比較して示したものである。この場合、上段の表は駆動源としてベルト駆動のスクロール部材に係るものであり、下段の表は駆動源として電動駆動を用いたスクロール部材で得られた結果を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から明らかなように、本発明のスクロール部材によれば、容積効率、接触点面圧および加工性において、従来技術によるスクロール部材に比較して優れている。特に、接触点面圧は、前述したように接触点を外周側に設けることから、面圧を従来技術に比べて低減することができ、信頼性を向上することができる。なお、内部リークについては、電動モータによる高回転(6,000〜10,000rpm)を常用とする場合には、その影響は少なく、特に問題とはならない。
【0025】
図3は、前述した構成からなる本発明に係るスクロール型圧縮機と、従来技術におけるスクロール型圧縮機とについて、スクロール部材に設定される接触点と面圧との関係を示す特性曲線図である。図3に示す特性曲線から明らかなように、本発明のスクロール部材10によれば、外周側に接触点を設ける構成となることから面圧特性は図示のように低減される。これに対し、従来技術によるスクロール部材は、内周側に接触点を設ける構成となることから面圧特性は図示のように増大し、接触部においてかじり等を発生して、信頼性を低下させることになる。
【0026】
以上、本発明に係るスクロール型圧縮機は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0027】
10…スクロール部材
12…可動スクロール
13…渦巻状の固定壁
14…渦巻状の可動壁
C…インボリュート終了点(基準点)
D…接触分岐点
Dout1 、Dout2 、Dout3 、Dout4 …外周側接触点
Nin1 、Nin2 、Nin3 、Nin4 …内周側非接触点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に噛み合わされて複数の圧縮室を形成する固定スクロールと可動スクロールとからなるスクロール部材を具備するスクロール型圧縮機において、
少なくとも一方のスクロール部材のインボリュート曲線の終了点を基準とし、インボリュート曲線開始点に向かってほぼ1巻きした(外周側)位置より、前記インボリュート曲線開始点側(内周側)を、前記外周側より肉薄に形成したことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載のスクロール型圧縮機において、
前記スクロール部材は、電動による小容量で高回転を常用とする条件下により使用することを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−215130(P2012−215130A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81208(P2011−81208)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】