説明

スクロール型流体機械

【課題】真空中で使用しても膜の膨らみが発生せず、アルマイト皮膜の微細なポーラスの表面積を縮小して当該アルマイト皮膜が真空中に晒されてもガス拡散により装置側を汚染しないアルマイト皮膜を使用したスクロール型流体機械を提供すること。
【解決手段】ケーシングと、該ケーシングに固定され、渦巻状の固定スクロール板を有するアルミニウム合金製の固定スクロールと、該固定スクロール板の略全面に沿って対向する渦巻状の旋回スクロール板32を有するアルミニウム合金製の偏心回転可能な旋回スクロールを備え、密閉された流体室を画成する前記旋回スクロールと前記固定スクロールの各面に、アルマイト処理によって微細なポーラス32aが形成されたアルマイト皮膜32Cを設けて成るスクロール型流体機械において、前記アルマイト被膜32Cのポーラス32a中に金属32Dを析出させ、該金属32Dの周りに樹脂32Eを含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールと旋回スクロールを備え、旋回スクロールを固定スクロールに対して偏心回転させることによって、両スクルールにて画成される流体室の体積を変化させて真空又は高圧状態を作り出すスクロール型流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空状態又は高圧状態を作り出す装置として、互いに噛み合うように配置された固定スクロールと旋回スクロールとを備えるスクロール型流体機械が知られている。このスクロール型流体機械には、サクションアダプタとエキゾーストアダプタとが設けられており、所望の容器内を真空状態にしたい場合には、サクションアダプタに当該容器が接続され、所望の容器内を高圧状態にしたい場合には、エキゾーストアダプタに当該容器が接続される。このようにスクロール型流体機械は、真空状態を作り出す用途で用いられることがあるために「スクロール型真空ポンプ」と呼ばれることがあり、このスクロール型真空ポンプは、理化学分析機器、電子顕微鏡、半導体製造装置等の分野で利用されている。
【0003】
ここで、斯かるスクロール型流体機械の具体的構成について概説すると、固定スクロールは、外枠等を構成するケーシング内に固定されており、渦巻状(スクロール状)の固定スクロール板を有している。又、旋回スクロールは、固定スクロール板の略全面に沿って対向する渦巻状の旋回スクロール板を有しており、この旋回スクロール板は、固定スクロール板に対して偏心回転するようケーシングに支持されている。
【0004】
そして、固定スクロールの一部と旋回スクロールの一部とが互いに当接し合い、この当接によって固定スクロールと旋回スクロール間に密閉された流体室が画成される。ここで、固定スクロールと旋回スクロールの互いに当接する部分は、旋回スクロールが偏心回転しているときに互いに摺動する摺動面を成すとともに流体室を画成する面を構成する。
【0005】
而して、旋回スクロールが固定スクロールに対して偏心回転することにより、一時的に密閉の状態が解除された流体室へサクションアダプタから空気等の流体が流入した後、流体室が再び密閉状態となり、その後、該流体室内の体積が次第に小さくなって内部の流体が圧縮され、圧縮された流体がエキゾーストアダプタから流体室外へと排出される。
【0006】
ところで、固定スクロールと旋回スクロールの材質には、旋回スクロールの高速回転化及び流体機械の軽量化を図るためにアルミニウム合金鋳物が使用されている。そして、流体室を画成する固定スクロールと旋回スクロールの摺動面には、アルマイト処理を施すことによりアルマイト皮膜を形成して摺動面の硬度を高めている。尚、このアルマイト皮膜においては、微細なポーラスが無数に形成された状態となっている。
【0007】
而して、旋回スクロールが偏心回転しているときには、旋回スクロールと固定スクロールのそれぞれの摺動面上に設けられたアルマイト皮膜同士が互いに摺動し合うが、このときに摺動面の焼付き、かじり、摩耗等の問題が発生し易い。このような問題を解決するため、例えば特許文献1には、アルマイト皮膜の上に電気Ni−Pめっきを施すことによって、靭性に優れた表面処理層を形成する技術が提案されている。
【0008】
又、スクロール型流体機械をスクロール型真空ポンプとして使用する場合、微細なポーラスが無数に形成されたアルマイト皮膜から流体室内へのガス放出面積が大きくなり、この結果として放出されるガスの量が多くなってしまう。ここで、ガス放出量は、スクロール型流体機械の性能因子の1つであり、この量が多いことはスクロール型流体機械の性能が低いことを意味し、この問題を解決するため、特許文献2には、ポーラス中に金属又は樹脂を含浸させたアルマイト皮膜上にパラフィン系やシリコン系の潤滑油又はグリースから成る層を設ける技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−144980号公報
【特許文献2】特開2004−076685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のスクロール型流体機械においては、前述のように固定スクロールと旋回スクロールの摺動面がアルマイト処理によって硬化されるが、スクロール型流体機械を大気圧以上のスクロール型圧縮機として使用する場合には、アルマイト皮膜にニッケル金属がめっきされた皮膜に問題は発生しない。
【0011】
しかし、この皮膜をスクロール型真空ポンプに使用した場合には、アルマイト皮膜内の微細なポーラスに含まれた空気が真空中において膨張するためにニッケル皮膜が膨らみ、このニッケル皮膜がシール材との摺動によって剥離してしまうという問題が発生する。
【0012】
又、特許文献2に提案されているように、ポーラス中に金属又は樹脂を含浸させたアルマイト皮膜上にパラフィン系やシリコン系の潤滑油又はグリースから成る層を設ける構成では、潤滑油又はグリースを塗布するための作業が必要であり、生産性が悪いという問題がある。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、真空中で使用しても膜の膨らみが発生せず、アルマイト皮膜の微細なポーラスの表面積を縮小して当該アルマイト皮膜が真空中に晒されてもガス拡散により装置側を汚染しないアルマイト皮膜を使用したスクロール型流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、アルマイト処理において一般的に使用されている二次電解着色と、鋳物鋳造後に発生する微細な貫通穴や溶接後に発生した微細な貫通穴の穴埋めに使用されている樹脂真空含浸に着目した。
【0015】
アルマイト処理後の二次電解着色は、金属塩中でアルマイト皮膜に電解を掛けてその内部に金属を析出させて着色する技術であるが、真空面に使用するアルマイト皮膜としてはガス放出等の問題が改善されていないために通常のアルマイト皮膜と大差はない。
【0016】
又、樹脂の真空含浸は、真空度に影響を及ぼさない樹脂で微細な貫通孔を塞ぐには適しているが、直径に対して深さがなく、樹脂の粘性と穴径の大きさによっては、貫通していない穴を埋めるには適していない場合がある。
【0017】
しかしながら、これら2つの技術を使用して、二次電解処理によるアルマイト皮膜のポーラス内に金属を析出させ、ポーラスの穴径を小さくした後、樹脂を真空含浸させる順番で適用すれば、アルマイト皮膜の微細なポーラスの表面積を縮小し、該アルマイト皮膜が真空中に晒されてももガス拡散により装置側を汚染しないという知見を得た。
【0018】
従って、請求項1記載の発明は、ケーシングと、該ケーシングに固定され、渦巻状の固定スクロール板を有するアルミニウム合金製の固定スクロールと、該固定スクロール板の略全面に沿って対向する渦巻状の旋回スクロール板を有するアルミニウム合金製の偏心回転可能な旋回スクロールを備え、密閉された流体室を画成する前記旋回スクロールと前記固定スクロールの各面に、アルマイト処理によって微細なポーラスが形成されたアルマイト皮膜を設けて成るスクロール型流体機械において、前記アルマイト被膜のポーラス中に金属を析出させ、該金属の周りに樹脂を含浸させたことを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、二次電解処理によって前記アルマイト皮膜のポーラス中へ金属を析出させた後、真空含浸によって前記金属の周りに樹脂を含浸させたことを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記金属は、ニッケル、錫、銀、又は金であることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記樹脂は、メタクリル酸エステル系樹脂又はシリコン系樹脂であることを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記固定スクロール及び旋回スクロールを構成するアルミニウム合金は、Siを4.0〜10%、Cuを4.0%以下含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1及び2記載の発明によれば、流体室を画成する固定スクロールと旋回スクロールの各面には、アルマイト処理によって微細なポーラスが形成されたアルマイト皮膜が設けられ、そのポーラスの内部には潤滑性が良い金属が付着しているため、固定スクロールと旋回スクロールとが互いに当接摺動する摺動面の摩擦力を低減させることができ、当該スクロール型流体機械の耐久性向上を図ることができる。又、析出した金属を付着させたアルマイト皮膜のポーラス中に樹脂を真空中で含浸させることによって、ポーラス内を空気溜まりなく塞ぐことができ、アルマイト皮膜から放出されるガスの量を低減させて真空ポンプとしての性能低下を抑えることができる。又、含浸樹脂として、高真空になってもガスが発生しにくい樹脂を使用すれば、ガスの拡散に伴う真空系内の汚染を防ぐことができる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、アルマイト皮膜のポーラス中に析出させる金属として、潤滑性の高いニッケル、錫、銀、又は金を使用するため、固定スクロールと旋回スクロールの摺動面の自己潤滑性が高められ、摺動面の摩擦抵抗の低減と耐摩耗性の向上が図られる。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、含浸樹脂には高真空になってもガスが発生しにくいメタクリル酸エステル系樹脂又はシリコン系樹脂を使用するため、ガス拡散による真空系内の汚染を防ぐことができる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、固定スクロール及び旋回スクロールを構成するアルミニウム合金がSiを4.0〜10%、Cuを4.0%以下の範囲で含んでいるため、合金元素、特に、鋳造時に共晶となって網目状に生じるSiとCuの量を少なくすることができ、アルマイト処理を行うときに共晶物が脱落して生じる表面凹凸の低滅を図ることができるとともに、アルマイト皮膜の厚さのバラツキを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は本発明に係るスクロール型流体機械の破断側面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は同スクロール型流体機械の固定スクロールと旋回スクロールの要部断面図、図4は同固定スクロールと旋回スクロールの摺動面部分の拡大断面図である。
【0029】
本発明に係るスクロール型流体機械1は、外枠を構成するケーシング10を有し、このケーシング10の上部には、図1に示すように、サクションアダプタ11とエキゾーストアダプタ12とが並設されている。そして、これらのサクションアダプタ11とエキゾーストアダプタ12は、これらにそれぞれ形成された貫通孔11a,12aを介して後述の固定スクロールケース21内に連通している。
【0030】
而して、所望の不図示の容器内を真空状態にしたい場合には、当該容器をサクションアダプタ11に接続してスクロール型流体機械1を駆動することにより、当該容器内を真空状態にすることができる。即ち、スクロール型流体機械1をスクロール型真空ポンプとして使用する場合には、容器内の流体である空気がスクロール型流体機械1によって抜き取られ、エキゾーストアダプタ12から排出されるため、容器内が真空状態とされる。
【0031】
逆に、所望の容器内を高圧状態としたい場合には、当該容器をエキゾーストアダプタ12に接続してスクロール型流体機械1を駆動することにより、当該容器内を高圧状態にすることができる。このとき、スクロール型流体機械1は、スクロール型圧縮機として機能する。
【0032】
ところで、図1に示すように、ケーシング10の内部には、固定スクロール20と旋回スクロール30とが設けられている。そして、ケーシング10の外部には、内部に不図示のモータを備えたモータケース40が接続されている。
【0033】
前記固定スクロール20は、2分割された固定スクロールケース21を有しており、該固定スクロールケース21は、略同一円形状を成す2つの端面21A,21Bと、これらの端面21A,21B同士を接続する周面21Cとによって構成されている。ここで、端面21A,21Bは平行の位置関係にあり、固定スクロールケース21は、ケーシング10に対して移動不能に固定されている。
【0034】
又、固定スクロールケース21内には、旋回スクロール30を構成する旋回スクロール円盤31が設けられている。この旋回スクロール円盤31は、半径が固定スクロールケース21の端面21A,21Bのそれよりも若干大きい円形状を成し、端面21A,21Bからそれぞれ等しい距離で離間し、且つ、端面21A,21Bに平行の位置関係で配置されている。そして、旋回スクロール円盤31の一方の面31Aは、固定スクロールケース21の一方の端面21Aに対向し、旋回スクロール円板31の他方の面31Bは、固定スクロールケース21の他方の端面21Bに対向している。
【0035】
更に、旋回スクロール円盤31の中心から偏心した位置には貫通孔30aが形成されており、この貫通孔30aにはクランクシャフト50が貫通している。そして、旋回スクロール円盤31は、ベアリング51を介してクランクシャフト50に旋回可能に支持されている。又、クランクシャフト50は、ベアリング52を介してケーシング10に回転可能に支持されている。従って、旋回スクロール30は、ケーシング10に間接的に支持された状態となっている。
【0036】
そして、クランクシャフト50は、前記モータケース40内の不図示のモータの出力軸(モータ軸)に連結されており、駆動源としてのモータによって回転駆動される。ここで、旋回スクロール円盤31の貫通孔30a内に位置するクランクシャフト50の部分においては、該クランクシャフト50の回転軸は貫通孔30aの半径方向の中心に位置しておらず偏心した位置にある。又、前述のように、貫通孔30aは旋回スクロール円盤31の中心から偏心した位置に形成されている。このため、クランクシャフト50が回転すると、旋回スクロール円盤31は、固定スクロールケース21に対して旋回運動する。
【0037】
又、旋回スクロール円盤31上には、板状の旋回スクロール板32が設けられている。具体的には、旋回スクロール円盤31の一方の面31A上に一方の旋回スクロール板32Aが設けられており、旋回スクロール円盤31の他方の面31B上に他方の旋回スクロール板32Bが設けられている。
【0038】
そして、旋回スクロール板32A,32Bは、図2に示すように、帯状の板が渦巻状に丸められた形状に成形されており、それぞれの一方の側縁が一方の面31A、他方の面31Bにそれぞれ固着されている。尚、図1の側断面図においては、旋回スクロール板32Aは、旋回スクロール円盤31の一方の面31Aから固定スクロールケース21の一方の端面21Aに至るまで突出したフィン状を成しており、同様に旋回スクロール板32Bは、旋回スクロール円盤31の他方の面31Bから固定スクロールケース21の他方の端面21Bに至るまで突出したフィン状を成している。ここで、旋回スクロール板32は、旋回スクロール円盤31と共に旋回スクロール30を構成している。
【0039】
又、固定スクロールケース21の内周面の端面21A,21Bの部分には、板状の固定スクロール板22が設けられている。具体的には、端面21A上に固定スクロール板22Aが設けられており、端面21B上に固定スクロール板22Bが設けられている。
【0040】
図2に示すように、固定スクロール板22A,22Bは、旋回スクロール板32A,32Bと同様に帯状の板がスクロール状に丸められた形状を成し、それぞれの一方の側縁が端面21A,21Bに固着された状態になっている。尚、図1の側断面図においては、固定スクロール板22Aは、固定スクロールケース21の一方の端面21Aから旋回スクロール円盤31の一方の面31Aに至るまで突出したフィン状を成しており、同様に固定スクロール板22Bは、固定スクロールケース21の他方の端面21Bから旋回スクロール円盤31の他方の面31Bに至るまで突出したフィン状を成している。
【0041】
又、図2に示すように、固定スクロール板22と旋回スクロール板32とは互いに噛合った状態となっており、固定スクロール板22の全面は、旋回スクロール板32の略全面に沿って対向して配置された状態となっている。ここで、固定スクロール板22は、固定スクロールケース21と共に固定スクロール20を構成している。
【0042】
更に、固定スクロール板22の面と旋回スクロール板32の面とは、同時に2箇所以上で当接可能に構成されている。又、旋回スクロール円盤31の一方の面31Aと他方の面31Bは、それぞれ鏡板面を構成しており、固定スクロール板22A,22Bの突出方向における先端部とそれぞれ常時互いに当接している。同様に、固定スクロールケース21の内周面の端面21A,21Bの部分は、鏡板面を構成しており、旋回スクロール板32A,32Bの突出方向における先端部とそれぞれ常時互いに当接している。
【0043】
より詳細には、図3に示すように、一方の端面21Aに対向する渦巻状の旋回スクロール板32Aの先端部に沿って、自己潤滑性樹脂から成るチップシール33が設けられている。同様に、旋回スクロール円盤31の一方の面31Aに対向する渦巻状の固定スクロール板22Aの先端部に沿って、自己潤滑性樹脂から成るチップシール23が設けられている。
【0044】
従って、旋回スクロール板32Aは、チップシール23,33を介して固定スクロールケース21に当接し、固定スクロール板22Aは、旋回スクロール円盤31に当接している。そして、チップシール23,33によって、固定スクロールケース21の一方の端面21Aと旋回スクロール板32Aとの間のシール性が高められ、又、旋回スクロール円盤31の一方の面31Aと固定スクロール板22Aとのシール性が高められている。尚、説明の都合上、図3には一方の固定スクロール板22A、旋回スクロール板32A等について示したが、他方の固定スクロール板22B、旋回スクロール板32B等についても同様に構成されている。
【0045】
而して、固定スクロール20と旋回スクロール30を構成する各部の当接により、固定スクロール20と旋回スクロール30との間において、旋回スクロール板32と固定スクロール板22及び旋回スクロール円盤31と固定スクロールケース21とにより囲まれる密閉された流体室20aが画成されている。ここで、流体室20aを画成している面は、旋回スクロール30が偏心回転しているときに互いに摺動する摺動面を成す。旋回スクロール板32が偏心回転すると、固定スクロール板22と旋回スクロール板32とが互いに摺動し、固定スクロール板22と旋回スクロール板32との当接位置が変化する。そして、この当接位置の変化により流体室20aの体積が次第に減少して流体が圧縮されながら送り出される。
【0046】
ところで、本実施の形態では、固定スクロール20と旋回スクロール30の材質には、アルミニウム合金鋳物が使用されている。このアルミニウム合金鋳物は、Siを4.0〜10%含み、Cuを4.0%以下の量で含む。Siを4.0〜10%、Cuを4.0%以下としたのは、合金元素、特に、鋳造時に共晶となって網目状に生じるSiとCuの量を少なくするためである。このことによって、後述のアルマイト処理を行うときに、共晶物が脱落して生じる表面の凹凸の低滅を図ることができ、又、後述のアルマイト皮膜32Cの厚さのバラツキを抑えることができる。
【0047】
而して、流体室20aを画成する固定スクロール20と旋回スクロール30の面、即ち、固定スクロール板22と旋回スクロール円盤31の一方の面31A及び他方の面31B、固定スクロールケース21の一方の端面21A及び他方の端面21B、旋回スクロール板32の面にはアルマイト処理が施されており、図4に示すように、このアルマイト処理によってアルマイト皮膜32Cが形成されている。このアルマイト皮膜32Cによって、流体室20aを画成する固定スクロール20と旋回スクロール30の各面が硬化され、その耐摩耗性が高められている。
【0048】
ところで、アルマイト皮膜32Cには、無数の微細なポーラス32aが形成されているが、ポーラス32a中には、図4に示すように、金属から成る析出物32Dが含浸されており、この析出金属32Dの周りには樹脂32Eが含浸されている。
【0049】
尚、説明の都合上、図4では、旋回スクロール板32の表面についてのみを示しているが、固定スクロールケース21の一方の端面21A及び他方の端面21B、固定スクロール板22、旋回スクロール円盤31の一方の面31A及び他方の面31Bの各表面にも同様にアルマイト皮膜が形成されている。
【0050】
ここで、旋回スクロール板32に対する表面処理方法を図5、図6−1及び図6−2に基づいて説明する。尚、図5は表面処理手順をその工程順に示すフロー図、図6−1及び図6−2は処理装置と旋回スクロール板表面の拡大断面を工程順に示す図である。
【0051】
先ず、図5及び図6−1のステップS1に示すように、所望の形状に鋳造されたアルミニウム合金鋳物を機械加工して所望の形状・寸法の旋回スクロール30が得られるが、その旋回スクロール板32のアルミニウム合金素材32Fの表面は、平滑に仕上げ加工されている。
【0052】
次に、硫酸アルマイト処理工程に移行し、先ず、旋回スクロール30の表面に付着した油脂が脱脂され、その後、脱脂に使用された溶液が水で洗い流される。そして、更に旋回スクロール30が不図示の槽内の中和液に浸漬されてその表面が中和され、中和処理後は表面に付着した中和液が水洗いによって除去される。
【0053】
その後、図6−1のステップS2に示すように、硫酸槽60内の硫酸溶液中に旋回スクロール30を浸漬し、その旋回スクロール板32のアルミニウム合金素材32F表面を硫酸アルマイト(陽極酸化)処理する。すると、旋回スクロール板32のアルミニウム合金素材32F表面に、微細なポーラス32aが無数に形成されたアルマイト皮膜32Cが形成される。
【0054】
そして、アルマイト処理後は、旋回スクロール30の表面に付着した硫酸溶液を水洗いし、更に旋回スクロール30を不図示の槽内の中和液に浸漬して中和処理する。中和処理後は、旋回スクロール30の表面に付着した中和液を水で洗い流す。その後、酢酸ニッケル水溶液又は水蒸気によってアルマイト皮膜32Cのポーラス32aの開口部の孔径を小さくする(封孔)。
【0055】
以上の硫酸アルマイト処理が終了すると、次の二次電解処理に移行する(図5参照)。
【0056】
二次電解処理においては、旋回スクロール30の表面に形成されたアルマイト皮膜32Cが活性な状態のうちに、図6−1のステップS3に示すように、ニッケル等の金属イオンが入った金属塩浴(槽)61でアルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に金属32Dを析出させる。
【0057】
即ち、旋回スクロール30(旋回スクロール板32)の表面に形成されたアルマイト皮膜32Cを電極として、同じく金属塩浴(槽)61中に浸漬された金属板62に通電して二次電解処理することによって、アルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に金属32Dを析出させる(図5及び図6−1のステップS3参照)。ここで、析出させる金属32Dとしては、ニッケルの他、錫、銀、金等の潤滑性の高いものが好ましい。
【0058】
以上のように、二次電解処理によってアルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に金属32Dが析出されると、次の真空含浸処理によってアルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に析出した金属32Dの周りに樹脂32Eが含浸される(ステップS4〜S8)。
【0059】
即ち、図6−2のステップS4に示すように、旋回スクロール30を容器63内に入れ、真空ポンプ64を駆動して容器63内を例えば100Paまで減圧し、減圧後は容器63内にメタクリル酸エステルを主成分とする含浸液を注入する(ステップS5)。すると、図6−2(図4)に示すように、アルマイト皮膜32Cのポーラス32a内の微細な間隙まで含浸液が染み込み、ポーラス32a中に析出された金属32Dの周りに樹脂32Eが含浸される。尚、本実施の形態では、含浸樹脂32Eとして、高真空になってもガス画発生しにくい樹脂としてメタクリル酸エステル系樹脂を使用したが、同様の樹脂としてシリコン系樹脂を使用することができる。
【0060】
上述のようにしてアルマイト皮膜32Cのポーラス32a内に樹脂32Eが含浸されると、容器63内で旋回スクロール30が回転駆動され、該旋回スクロール30に形成されたアルマイト皮膜32Cの表面に残った液が遠心力によって除去される(ステップS6)。
【0061】
次に、図6−2のステップS7に示すように、旋回スクロール30を水槽65内の水に浸漬し、その表面に形成されたアルマイト皮膜32Cのポーラス内32a以外に付着している含浸液を水洗いする。
【0062】
その後、水槽65から旋回スクロール30を取り出し、図6−2のステップS8に示すように、その表面のアルマイト皮膜32Cのポーラス32a内に含浸された含浸液を温度150℃以下の熱風66で乾燥させることによって樹脂を硬化させ、旋回スクロール30に対する一連の表面処理が終了し、アルマイト皮膜32Cのポーラス32a内部の空間が析出金属32Dと含浸樹脂32Eで全て満たされる。
【0063】
以上の原理から考えると、含浸樹脂32Eのみでアルマイト皮膜32Cのポーラス32a内を埋めることが可能に思えるが、含浸液自体が水溶性であるため、水洗時にポーラス32a内に埋まった含浸液が外部に溶け出してしまい、ポーラス32aの穴径を小さくすることができない。二次電解処理によりポーラス32a内に金属32Dを析出させ、ポーラス32a内の径を極微細にすることにより初めて含浸樹脂32Eにてポーラス32a内の隙間を埋めることが可能になる。
【0064】
尚、以上は特に旋回スクロール30に対する表面処理について説明したが、固定スクロール20に対しても同様の表面処理がなされる。
【0065】
而して、本実施の形態によれば、流体室20aを画成する固定スクロール20と旋回スクロール30の各摺動面には、アルマイト処理によって微細なポーラス32aが形成されたアルマイト皮膜32Cが形成され、そのポーラス32aの内部には潤滑性が良い析出金属32Dが付着しているため、固定スクロール20と旋回スクロール30とが互いに当接摺動する摺動面の摩擦力を低下させることができ、当該スクロール型流体機械1の耐久性向上を図ることができる。
【0066】
又、析出金属32Dを付着させたアルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に樹脂32Eを真空中で含浸させることによって、ポーラス32a内を空気溜まりなく塞ぐことができるため、アルマイト皮膜32Cから放出されるガスの量を低減させて当該スクロール型流体機械の真空ポンプとしての性能低下を抑えることができる。
【0067】
更に、含浸樹脂32Eには高真空になってもガスが発生しにくいメタクリル酸エステル系樹脂又はシリコン系樹脂を使用するため、ガス拡散による真空系内の汚染を防ぐことができる。
【0068】
又、アルマイト皮膜32Cのポーラス32a中に析出させる金属32Dとして、潤滑性の高いニッケル、錫、銀、又は金を使用するため、固定スクロール20と旋回スクロール30の摺動面の自己潤滑性が高められ、摺動面の摩擦抵抗の低減と耐摩耗性の向上が図られる。
【0069】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0070】
以上のアルマイト皮膜を有するスクロール型真空ポンプを用いて真空排気特性を測定した。ここで、真空排気特性とは、スクロール型流体機械(スクロール型真空ポンプ)のサクションアダプタに真空計を取り付け、スクロール型真空ポンプを駆動した後の経過時間に対するサクションアダプタ部の圧力の変化を見るものである。
【0071】
先ず、最初に前記特許文献2(特開2004−76685号公報)に示されるアルマイト皮膜中に四フッ化エチレン樹脂を含浸させ、その皮膜上に約0. 5μmのシリコン潤滑油層を設けた固定スクロール及び旋回スクロールを使用して真空排気特性を測定した結果、約20分間で1Paの減圧に到達した。その後、固定スクロール及び旋回スクロールを当該発明によって形成されたアルマイト皮膜を有する部品に変更し、真空排気特性を測定したところ、1Paまで減圧するのに要する到達時間が約20分間と同等な結果が得られた。
【0072】
尚、アルマイト皮膜のポーラスに金属を析出させた後の極微細な間隙を埋める樹脂としては、低粘度の架橋シリコンを真空中で含浸させ、表面の余分な液を拭き取った後、熱又は薬剤により架橋シリコンを硬化させても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、旋回スクロールと固定スクロールの各面に、アルマイト処理によって微細なポーラスが形成されたアルマイト皮膜を設けて成るスクロール型流体機械に対して適用可能であって、特に当該スクロール型流体機械をスクロール型真空ポンプとして使用する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るスクロール型流体機械の側断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明に係るスクロール型流体機械の固定スクロールと旋回スクロールの要部断面図である。
【図4】本発明に係るスクロール型流体機械の固定スクロールと旋回スクロールの摺動面部分の拡大断面図である。
【図5】表面処理手順をその工程順に示すフロー図である。
【図6−1】処理装置と旋回スクロール板表面の拡大断面を工程順(機械加工→硫酸アルマイト処理→二次電解処理)に示す図である。
【図6−2】処理装置と旋回スクロール板表面の拡大断面を工程順(真空含浸処理)に示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 スクロール型流体機械
10 ケーシング
11 サンションアダプタ
12 エキゾーストアダプタ
20 固定スクロール
20a 流体室
21 固定スクロールケース
22 固定スクロール板
23 チップシール
30 旋回スクロール
32 旋回スクロール板
32C アルマイト皮膜
32D 析出金属
32E 含浸樹脂
32F アルミニウム合金素材
32a ポーラス
33 チップシール
40 モータケース
50 クランクシャフト
60 硫酸槽
61 金属塩浴(槽)
62 金属板
63 容器
64 真空ポンプ
65 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、該ケーシングに固定され、渦巻状の固定スクロール板を有するアルミニウム合金製の固定スクロールと、該固定スクロール板の略全面に沿って対向する渦巻状の旋回スクロール板を有するアルミニウム合金製の偏心回転可能な旋回スクロールを備え、密閉された流体室を画成する前記旋回スクロールと前記固定スクロールの各面に、アルマイト処理によって微細なポーラスが形成されたアルマイト皮膜を設けて成るスクロール型流体機械において、
前記アルマイト被膜のポーラス中に金属を析出させ、該金属の周りに樹脂を含浸させたことを特徴とするスクロール型流体機械。
【請求項2】
二次電解処理によって前記アルマイト皮膜のポーラス中へ金属を析出させた後、真空含浸によって前記金属の周りに樹脂を含浸させたことを特徴とする請求項1記載のスクロール型流体機械。
【請求項3】
前記金属は、ニッケル、錫、銀、又は金であることを特徴とする請求項1又は2記載のスクロール型流体機械。
【請求項4】
前記樹脂は、メタクリル酸エステル系樹脂又はシリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のスクロール型流体機械。
【請求項5】
前記固定スクロール及び旋回スクロールを構成するアルミニウム合金は、Siを4.0〜10%、Cuを4.0%以下含むことを特徴とする請求項1記載のスクロール型流体機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate