説明

スケール処理方法

【課題】水の沸騰効率や水及び蒸気の流れ等を前述したような従来法よりもさらに回復できるようにすることが近年強く望まれている。
【解決手段】原子力発電設備の蒸気発生器の伝熱管111の外面や管支持板112の穴部112aに生成したスケール101の処理方法であって、有機酸を0.5〜3.5重量%含有すると共にpH2〜3.5となる処理液を20〜40℃でスケール101に2〜30日間接触させることにより、スケール101を脆化させると共に、ポーラスな状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材に生成した金属酸化物からなるスケールの処理方法に関し、特に、ボイラや原子力発電設備の蒸気発生器等の二次側に生成した鉄酸化物からなるスケールを処理する場合に適用すると有効なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、加圧水型原子炉(PWR)等の原子力発電設備の蒸気発生器においては、運転していくにしたがって、図1,2に示すように、内部に加熱流体を流通させて外面に接触する水を加熱して蒸気化させる伝熱管111の外面や、前記伝熱管111を支持すると共に水や蒸気の流通を可能にする穴部112aを有する管支持板112の当該穴部112a部分に、鉄酸化物からなるスケール(被膜)101が徐々に付着するようになる。
【0003】
このようなスケール101が付着積層してくると、伝熱管111の外面においては、水の沸騰効率を低下させてしまい、管支持板112の穴部112aにおいては、当該穴部112aでの水や蒸気の流れを阻害するようになってしまう。
【0004】
このため、従来は、所定時間運転後、運転を一旦停止し、蒸気発生器内の前記伝熱管111の外面側(二次側)にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を供給して70〜90℃で加温しながら1〜2日間程度接触させておくことにより、上記スケール101を洗浄処理するようにしている(Advanced Scale Conditioning Agent(ASCA)法)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−253290号公報
【特許文献2】特開2001−031998号公報
【特許文献3】特開2003−176997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水の沸騰効率や水及び蒸気の流れ等を前述したような従来法よりもさらに回復できるようにすることが近年強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための、本発明に係るスケール処理方法は、金属部材に生成した金属酸化物からなるスケールの処理方法であって、有機酸を0.5〜3.5重量%含有すると共にpH2〜3.5となる処理液を20〜40℃で前記金属部材の前記スケールに2〜30日間接触させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るスケール処理方法は、上述したスケール処理方法において、前記スケールが、鉄酸化物を主成分とするものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るスケール処理方法は、上述したスケール処理方法において、前記金属部材が、蒸気発生器の伝熱管又は管支持板であり、前記スケールが、前記伝熱管の外面に生成したもの又は前記伝熱管と前記管支持板との間に生成したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスケール処理方法によれば、スケールを脆化させると共に、ポーラスな状態にすることができる。このため、例えば、加圧水型原子炉(PWR)等の原子力発電設備の蒸気発生器内の伝熱管の外面側(二次側)の処理に適用すると、蒸気発生器内の伝熱管の外面に生成したスケールにおいては、沸騰石の機能を発現するようになると共に、蒸気発生器内の管支持板の狭隘な穴部に生成したスケールにおいては、原子力発電設備の始動時の振動や水の流動等により、当該穴部から大部分が粉砕されて欠落するようになる。これにより、原子力発電設備の発電運転の際、蒸気発生器において、伝熱管の外面側と接触する水の沸騰を効率よく生じさせることができると共に、管支持板の穴部の水や蒸気の流れをスムーズにさせることができるので、水の沸騰効率や水及び蒸気の流れ等を従来法よりもさらに回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】所定時間運転した原子力発電設備の蒸気発生器の伝熱管及び管支持板部分の一部抽出拡大断面図である。
【図2】図1のII−II線断面矢線視図である。
【図3】本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験における処理液の温度とテストピースの腐食量との関係を表すグラフである。
【図4】本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験における処理時間と空隙生成位置との関係を表すグラフである。
【図5】本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験における処理時間と粉砕(欠落)率との関係を表すグラフである。
【図6】本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験における各種酸濃度及びpHと空隙生成位置との関係を表すバブルグラフである。
【図7】本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験における各種酸濃度及びpHと粉砕(欠落)率との関係を表すバブルグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[主な実施形態]
本発明に係るスケール処理方法の主な実施形態を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係るスケール処理方法は、金属部材に生成した金属酸化物からなるスケールの処理方法であって、有機酸を0.5〜3.5重量%(好ましくは0.5〜2重量%、最適には1〜2重量%)含有すると共にpH2〜3.5(好ましくはpH2.5〜3.5、最適にはpH3)となる処理液を20〜40℃(好ましくは25〜35℃)で前記金属部材の前記スケールに2〜30日間(好ましくは5〜15日間)接触させるものである。
【0014】
ここで、前記スケールが、鉄酸化物を主成分とするものであると有効であり、特に、前記金属部材が、加圧水型原子炉(PWR)等の原子力発電設備の蒸気発生器の伝熱管又は管支持板であり、前記スケールが、前記伝熱管の外面に生成したもの又は前記伝熱管と前記管支持板との間に生成したものであると、極めて有効である。
【0015】
前記有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、グリコール酸、アスコルビン酸、マロン酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、蟻酸、ヒドロキシ酢酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、クロルプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸等を挙げることができ、特に、マロン酸、グリコール酸、アスコルビン酸の混合物であると好ましい。
【0016】
このようなスケール処理方法により、例えば、加圧水型原子炉(PWR)等の原子力発電設備の蒸気発生器内の伝熱管の外面側(二次側)を処理すると、図1,2に示したような、前記伝熱管111の外面に生成した鉄酸化物を主体とするスケール101や、管支持板112の穴部112a部分に生成した鉄酸化物を主体とするスケール101が、脆化すると共に、ポーラスな状態となる。
【0017】
このため、蒸気発生器内の伝熱管111の外面に生成したスケール101においては、沸騰石の機能を発現するようになると共に、蒸気発生器内の管支持板112の狭隘な穴部112a部分に生成したスケール101においては、原子力発電設備の始動時の振動や水の流動等により、当該穴部112a部分から大部分が粉砕されて欠落するようになる。
【0018】
これにより、原子力発電設備の発電運転の際、蒸気発生器において、伝熱管111の外面側と接触する水の沸騰を効率よく生じさせることができると共に、管支持板112の穴部112aの水や蒸気の流れをスムーズにさせることができる。
【0019】
つまり、従来は、スケール101をできる限りすべて溶解除去することをねらって処理するようにしていたが、本実施形態においては、スケール101をすべて溶解除去することをねらわずに脆化させてポーラスな状態にしてあえて残すことにより、伝熱管111の外面に生成したスケール101に沸騰石の機能を与えるようにすると共に、管支持板112の狭隘な穴部112a部分に生成したスケール101の大部分を発電運転時に当該穴部112aから欠落できてしてしまうようにしたのである。
【0020】
したがって、本実施形態によれば、水の沸騰効率や水及び蒸気の流れ等を従来法(ASCA法)よりもさらに回復できるようにすることが容易にできる。
【0021】
ここで、本発明に係るスケール処理方法の効果を確認するために行った試験結果を図3〜8に示して説明する。
【0022】
図3は、炭素鋼からなるテストピースを処理液(有機酸:マロン酸,グリコール酸,アスコルビン酸の混合物、濃度:1重量%、pH:3.0)に浸漬して処理(時間:14日間)したときの、処理液の温度とテストピースの腐食量との関係を表すグラフである。図3からわかるように、処理液の温度が40℃を超えると、テストピースの腐食量が急激に増加する。このことから、基材の保全性を確保するには、40℃以下の温度で処理する必要があるといえる。
【0023】
図4,5は、酸化鉄のスケール(厚さ:約100μm)を処理液(有機酸:マロン酸,グリコール酸,アスコルビン酸の混合物、濃度:1重量%、pH:3.0)に浸漬(温度:30℃)して処理したときの、処理時間と空隙生成位置(図4)及び粉砕(欠落)率(図5)との関係を表すグラフである。なお、空隙生成位置は、スケールの空隙率が15%となる位置のスケール表面からの距離(深さ)であり、粉砕(欠落)率は、欠落したスケールの割合である。図4,5からわかるように、処理時間が15日程度で、空隙生成位置及び粉砕(欠落)率の両方共に飽和状態に達する。このことから、15日程度の処理が最も効果的であるといえる。
【0024】
図6,7は、酸化鉄のスケール(厚さ:約100μm)を各種酸濃度及びpHの処理液(有機酸:マロン酸,グリコール酸,アスコルビン酸の混合物)に浸漬(温度:30℃)して処理(時間:14日間)したときの、各種酸濃度及びpHと空隙生成位置(図6)及び粉砕(欠落)率(図7)との関係を表すバブルグラフである。図6,7からわかるように、酸濃度0.5〜3.5重量%及びpH2〜3.5の処理液であれば、空隙生成位置及び粉砕(欠落)率を未処理の場合よりも高められ、特に、酸濃度0.5〜2重量%及びpH2.5〜3.5の処理液であれば、空隙生成位置及び粉砕(欠落)率を従来法(ASCA法)よりも高められ、酸濃度2重量%及びpH3の処理液であれば、空隙生成位置及び粉砕(欠落)率を最も高められることが確認できた。
【0025】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、原子力発電設備の蒸気発生器の伝熱管111の二次側の面に生成したスケール101を処理する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、ボイラ等のように、鉄酸化物を主成分とするスケールが生成してしまうような場合を始めとして、金属部材に生成した金属酸化物からなるスケールを処理する場合であれば、適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係るスケール処理方法は、スケールを脆化させると共に、ポーラスな状態にすることができる。このため、例えば、加圧水型原子炉(PWR)等の原子力発電設備の蒸気発生器内の伝熱管の外面側(二次側)の処理に適用すると、水の沸騰効率や水及び蒸気の流れ等を従来法よりもさらに回復することができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
101 スケール
111 伝熱管
112 管支持板
112a 穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に生成した金属酸化物からなるスケールの処理方法であって、
有機酸を0.5〜3.5重量%含有すると共にpH2〜3.5となる処理液を20〜40℃で前記金属部材の前記スケールに2〜30日間接触させる
ことを特徴とするスケール処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスケール処理方法において、
前記スケールが、鉄酸化物を主成分とするものである
ことを特徴とするスケール処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスケール処理方法において、
前記金属部材が、蒸気発生器の伝熱管又は管支持板であり、
前記スケールが、前記伝熱管の外面に生成したもの又は前記伝熱管と前記管支持板との間に生成したものである
ことを特徴とするスケール処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−247517(P2011−247517A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122253(P2010−122253)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】