説明

スズと共存金属の分離方法

【課題】インジウム-スズ含有物などからスズ、インジウムを分離回収する際に、インジウムなどの共存金属を溶出すると共にスズを沈澱化して分離性を高め、塩酸浸出後のスズ沈澱工程を不要とし、簡略な処理工程によって容易にスズと共存金属とを分離できるようにした分離回収方法を提供する。
【解決手段】〔1〕スズ含有物を酸化剤の存在下で塩酸溶解して、共存金属を溶出させる一方、スズを沈澱化して共存金属と分離することを特徴とし、または〔2〕スズ含有物を塩酸溶解し、この塩酸溶解液のスズを酸化剤の存在下で沈澱させ、これを固液分離して液中の溶出金属と固形分のスズ沈殿物とを分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズ含有物、例えば、ITOスクラップ等のインジウム-スズ含有物等からスズと共存金属とを容易に分離し、回収する方法に関する。
【0002】
酸化インジウム錫(ITO)の薄膜は透明導電膜として利用されている。この薄膜は主にITO焼結体をターゲット材としてスパッタ法や蒸着法によって形成されている。このITOターゲット材の使用率は低く、材料の半分以上がスクラップとして回収されている。
【0003】
従来、インジウム等の資源を有効に利用するため、回収したITOターゲット材スクラップからインジウムおよびスズを分離回収する方法が知られている。例えば、ITOターゲット材スクラップ等のインジウム含有物を硝酸浸出する方法、あるいは塩酸浸出する方法が知られている。
【0004】
硝酸溶解法は、インジウム-スズ含有物を硝酸浸出して硝酸インジウム溶液とし、この溶液から溶媒抽出によってインジウムを抽出し、さらに逆抽出して得たインジウム溶液から水酸化インジウムを回収し、これを焼成して酸化インジウムを得る方法が知られている(特開平8−91838号公報:特許文献1)。また、インジウム-スズ含有物を硝酸溶解した後に不溶性の酸化スズを分離し、インジウムを溶媒抽出して分離回収する方法が知られている(特開2000−128531号公報:特許文献2)。
【0005】
塩酸溶解法は、インジウム-スズ含有物を塩酸に溶解させて、インジウムとスズを含む塩化インジウム溶液とし、これを加水分解して液中のスズを水酸化スズとして沈澱させて分離除去する一方、塩化インジウム溶液から金属インジウムを回収する方法が知られている(特開2002−69544号公報:特許文献3、特開2002−69684号公報:特許文献4)。
【0006】
上記塩酸溶解法はインジウムと共にスズが溶解するので、溶解工程の後に液中のインジウムとスズを分離する工程が必要であり、加水分解によるスズの沈澱化工程などが設けられている。一方、上記硝酸溶解法は、酸化スズが硝酸に溶解しないことを利用してインジウムとスズの分離を容易にすることを意図したものであるが(特許文献2)、実際には硝酸濃度の変化によってインジウムとスズの溶解量が大幅に変動するので、インジウムとスズの両方を高い収率で回収するのは難しく、硝酸濃度が適切ではないとインジウムと共にスズが溶出し、特許文献1に記載されているように、硝酸溶解後に液中のインジウムとスズを分離する工程が必要になる。
【0007】
また、銅合金リードフレームのスズメッキの際に発生するメッキスラッジには銅と共にスズがおのおの約20wt%前後含まれており、これらを回収して再利用することが求められている。この回収方法としてメッキスラッジを硝酸溶解する方法が知られているが、硝酸溶解すると銅と共にスズが溶解し、溶解工程の後にスズを沈澱化する工程がさらに必要になる。
【特許文献1】特開平8−91838号公報
【特許文献2】特開2000−128531号公報
【特許文献3】特開2002−69544号公報
【特許文献4】特開2002−69684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の塩酸溶解法における上記問題を解決したものであり、酸化剤の存在下でスズ含有物を塩酸溶解することによって、共存金属を溶出すると共にスズを沈澱化して分離性を高め、塩酸浸出後にスズを沈澱化する工程を不要とし、簡略な処理工程によって容易にスズと共存金属とを分離できるようにした分離回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有するスズと共存金属の分離方法ないし回収方法に関する。
〔1〕スズ含有物を酸化剤の存在下で塩酸溶解して、共存金属を溶出させる一方、スズを沈澱化して共存金属と分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法。
〔2〕スズ含有物の塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液中のスズを沈澱させ、これを固液分離して液中の溶出金属と固形分のスズ沈殿物とを分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法。
〔3〕酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有量に対して0.8当量以上の過酸化水素量で、スズ含有物を溶解する上記[1]または上記[2]に記載するスズと共存金属の分離方法。
〔4〕スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、インジウム含有量に対して1.0酸当量以上の塩酸量で、インジウム-スズ含有物を溶解する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
〔5〕インジウム-スズ塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液のスズを沈澱させる際に、40℃以上の過酸化水素水に、上記塩酸溶解液を少量づつ添加してスズを沈澱させる上記[2]〜上記[4]の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
〔6〕
インジウム-スズ塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液のスズを沈澱させる際に、上記塩酸溶解液に過酸化水素を添加した混合液とし、この混合液を40℃以上の温水に少量づつ添加してスズを沈澱させる上記[2]〜上記[4]の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
〔7〕インジウム-スズ塩酸溶解液が、インジウム-スズ含有物の塩酸溶解液であり、またはインジウム-スズ含有物の電解後液から回収したインジウム-スズ塩酸溶液である上記[2]〜上記[6]の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
〔8〕塩酸と共に硝酸を併用する上記[2]〜上記[7]の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
〔9〕スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、上記[2]〜上記[8]の何れかの方法によってスズ沈殿を固液分離して得たインジウム含有液から中和処理またはセメンテーションによって金属インジウムを回収する方法。
〔10〕スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、上記[2]〜上記[8]の何れかの方法によって固液分離して得たスズ含有残渣を硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分離回収方法は、スズ含有物の塩酸溶解に酸化剤を導入するので、酸化剤によってスズが酸化され、または加水分解されて、酸化スズ(SnO、SnO2)、メタスズ酸(H2SnO3)、あるいは水酸化スズ〔Sn(OH)24〕が沈澱するので、容易にスズを共存金属と分離することができる。
【0011】
スズ含有物の塩酸溶解に酸化剤を導入する時期は、塩酸溶解のとき、または塩酸溶解後の何れでもよく、例えば、酸化剤の存在下で塩酸溶解する場合には、共存金属の溶出と同時にスズを沈澱させることができ、塩酸溶解工程後にスズの沈澱化工程を設ける必要がない。なお、スズの濃度が高い場合には過酸化水素などの酸化剤を添加しても沈澱し難いので、上記塩酸溶解液に水を加えてスズ濃度を希釈すると良い。一方、塩酸溶解後に酸化剤を導入してスズを沈澱させる場合には、例えば、インジウム-スズ溶解液に過酸化水素を導入することによって、インジウムの沈澱を抑制してスズを選択的に効率よく沈澱させることができる。
【0012】
本発明の分離回収方法は、スズ以外の共存金属、例えば、インジウムの含有量に対して1.0酸当量以上の塩酸量を用い、酸化剤として過酸化水素を用い、スズの含有量に対して0.8当量以上の過酸化水素量でインジウム-スズ含有物を溶解することによって、スズとインジウムを高い回収率で分離することができる。具体的には、例えば、インジウムの回収率を80%以上、スズの回収率を80%以上に高めることができる。
【0013】
本発明の分離回収方法は、スズ含有物としてインジウム-スズ含有物を用いる場合、これを酸化剤の存在下で塩酸溶解することによって、溶解工程でスズとインジウムが分離するので、この塩酸溶解後にインジウムを分離する溶媒抽出工程やスズの沈澱化工程を必要とせず、塩酸溶解液を固液分離することによって液分に含まれるインジウムと固形分に含まれるスズとを容易に分離することができ、簡単な処理工程によってインジウムとスズを高い収率で容易に回収することができる。
【0014】
また、インジウム-スズ含有物を塩酸溶解し、その溶解液からスズを選択的に沈澱させる場合、一般的なスズの沈澱化方法としてpHを調整して水酸化スズを沈澱させる方法が知られているが、沈澱を生じるスズのpHは約1.7、インジウムのpHは2.5であり、pHが近似しているため、スズと共にインジウムが沈澱しやすく、pH調整では選択的にスズを沈澱させることが難しい。一方、本発明の方法では、酸化剤を導入してスズを酸化ないし加水分解するので、インジウムは沈澱せず、分離性よくスズを沈澱させることができる。
【0015】
分離したスズおよびインジウムの回収手段としては、例えば、塩酸溶解後に固液分離して得たインジウム含有液から中和処理またはセメンテーションによって金属インジウムを回収する方法。例えば、pHメイクアップ、インジウムメタルのセメンテーションによってスズを完全に除去した後に、亜鉛等によるセメンテーション等によって金属インジウムを回収することができる。あるいは、上記インジウム含有液を中和処理してインジウム水酸化物を沈澱させて回収し、これを酸溶解し、該インジウム溶解液からセメンテーション等によって金属インジウムを回収することができる。また、固液分離して得たスズ含有残渣を塩酸または硝酸によって洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の分離回収方法を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の方法は、(イ)スズ含有物を酸化剤の存在下で塩酸溶解して、共存金属を溶出させる一方、スズを沈澱化して共存金属と分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法であり、また(ロ)スズ含有物を塩酸溶解し、この塩酸溶解液のスズを酸化剤の存在下で沈澱させ、これを固液分離して液中の溶出金属と固形分のスズ沈殿物とを分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法である。
【0017】
インジウム-スズ含有物としては、例えば、ITOターゲット材スクラップ、非鉄金属製錬等で得られるインジウム-スズ滓、インジウムおよびスズを含有するソルダーペースト屑などを用いることができる。また、他のスズ含有物としては、銅合金リードフレームのスズメッキの際に発生するメッキスラッジなどが用いられる。このメッキスラッジには銅およびスズが各々約20wt%前後含まれている。
【0018】
インジウム-スズ含有物を単純に塩酸溶解すると、インジウムと共にスズが溶解するので、溶解工程においてインジウムとスズを分離することができない。一方、塩酸溶解時に酸化剤が存在すると、スズ濃度が低い場合、酸化剤によってスズが酸化され、または加水分解されて、酸化スズ、メタスズ酸(H2SnO3)、あるいは水酸化スズ〔Sn(OH)24〕が沈澱するので、溶解工程においてインジウムとススを分離することができる。この塩酸溶解は概ね60℃〜90℃の加熱下で行うと、反応時間が短縮され、また濾過性が向上する。
【0019】
酸化剤としては過酸化水素が好適であり、過酸化水素の使用量はスズの含有量に対して0.8当量以上が好ましい。過酸化水素の量がこれより少ないと、その効果が十分ではない。なお、過酸化水素量の上限はスズ含有量に対して概ね3.0当量程度であればよい。なお、過酸化水素の量はその上限以下で使用量が多いほどスズの回収率が向上する傾向がある。
【0020】
塩酸の使用量は、スズ以外の共存金属、例えばインジウム含有量に対して1.0酸当量以上の塩酸量が好ましい。塩酸量がこれより少ないと、インジウム等の共存金属を十分に溶解することができない。塩酸量の上限はインジウム含有量に対して概ね3.0当量程度であればよい。塩酸量はその上限以下で使用量が多いほどインジウム等の回収率が向上する傾向がある。
【0021】
なお、塩酸量は、共存金属の品位が予め特定できないときにはpHで定めても良い。例えば、通常、概ねpH0.95以下になるまで塩酸を加えて溶解すれば良い。
【0022】
本発明の方法は、スズ含有物を塩酸溶解した後に酸化剤を導入する態様を含む。具体的には、例えば、スズ含有物を塩酸溶解し、この塩酸溶解液のスズを酸化剤の存在下で沈澱させ、これを固液分離して液中の溶出金属とスズ沈殿物とを分離する方法を含む。さらに本発明の方法はインジウム-スズ含有物の電解後液から回収したインジウム-スズ塩酸溶液について適用することができる。本発明はこの態様を含む。
【0023】
スズ含有物を塩酸溶解した後に酸化剤を導入する方法は、塩酸溶解時の未溶解物が生じる場合に特に有効である。塩酸溶解時に酸化剤が存在すると、未溶解物とスズ沈澱物とが混在し、スズの分離回収が難しくなる。そこで、スズ含有物を塩酸溶解した後に固液分離して未溶解物を除去した後に、濾別した塩酸溶解液に酸化剤を導入してスズを沈澱させれば、スズを容易に分離回収することができる。
【0024】
例えば、インジウム-スズ含有物を塩酸溶解し、その溶解液に過酸化水素などの酸化剤を存在させてスズを酸化ないし加水分解させて沈澱させる。pH調整による沈澱化ではないので、インジウムは沈澱せず、スズを選択的に沈澱させることができる。なお、前述の場合と同様に、使用する塩酸量はインジウム含有量に対して1.0酸当量以上、過酸化水素量は0.8当量以上であれば良い。
【0025】
インジウム-スズ含有物を塩酸に溶解し、酸化剤の存在下で塩酸溶解液のスズを沈澱させる際に、上記塩酸溶解液に過酸化水素をそのまま添加すると、濾過性のよいスズ沈澱が生成せず、スズ沈澱の固液分離が困難になる。
【0026】
そこで、本発明の分離方法は、以下の方法[イ]、[ロ]によって濾過性の良いスズ沈澱を形成させる。
〔イ〕酸化剤として40℃以上の過酸化水素水を用い、これに上記インジウム-スズ塩酸溶解液を少量づつ添加することによって、濾過性の良好なスズ沈澱を生成させる。過酸化水素水の温度が40℃未満では濾過性のよいスズ沈澱が生成しない。インジウム-スズ塩酸溶解液は少量づつ過酸化水素水を攪拌して添加するのが好ましい。過酸化水素水の温度は50℃〜60℃が好ましい。
【0027】
〔ロ〕スズ濃度の高いインジウム-スズ塩酸溶解液について、過酸化水素を添加した混合液とする。この混合液はスズ濃度が高いので過酸化水素添加してもスズが沈澱しない。この混合液を40℃以上の温水に少量づつ添加することによって、濾過性の良好なスズ沈澱を生成させる。温水が40℃未満では濾過性のよいスズ沈澱が生成しない。温水は50℃〜60℃が好ましい。また、インジウム-スズ塩酸溶解液と過酸化水素の混合液は少量づつ攪拌した温水に添加するのが好ましい。
【0028】
本発明の分離回収方法は塩酸と共に硝酸を併用する態様を含む。塩酸と共に硝酸を併用することによって過酸化水素の添加量を少なくしても、スズの回収率を高めることができる。具体的には、例えば、インジウム-スズ含有物を塩酸のみを用いて溶解する際に、過酸化水素を26.6g添加したときのスズ回収率が81.62%であるとき、塩酸量の約1.5倍量の硝酸を併用すると、過酸化水素量を約半分に低減しても、スズの回収率を82.29%に高めることができる。硝酸量は塩酸量の約1/3量〜約2倍量を用いると良い。
【0029】
本発明の分離回収方法は、上記塩酸溶解工程からから金属インジウムないし金属スズの回収工程に至る処理工程を有することができる。この分離回収方法を図1に示す。図示する方法は、塩酸溶解工程の後に、固液分離工程、濾液の中和加水分解工程、インジウム沈殿物の固液分離工程、回収したインジウム沈殿物を塩酸溶解する工程、インジウム塩酸溶解液から金属インジウムを回収する工程が設けられている。
【0030】
本発明の分離回収方法は、例えば、インジウム-スズ含有物を酸化剤の存在下で塩酸溶解すれば、塩酸溶解工程においてインジウムが液中に溶出する一方、スズが沈澱化して固形分になり、液中で両者が分離するので、塩酸溶解工程後に両者を分離する工程を設ける必要がなく、塩酸溶解液を固液分離することによって容易にインジウムとスズを分離すことができる。なお、通常、インジウム回収工程において、残留スズを分離するためインジウムメタルのセメンテーションなどを行うが、スズが多いとインジウムメタルの消費量が多くなり、経済性を大きく損なうが、本発明の方法はこのような問題がない。
【0031】
本発明の塩酸溶解法によれば、塩酸溶解によって得たインジウム含有液から直接にセメンテーションによってスズを析出分離して金属インジウムを回収することができる。この方法によれば、工程数が少なく、低コストで容易に金属インジウムを回収することができる。
【0032】
インジウム含有液から直接にセメンテーションによってスズを析出分離する方法に代えてインジウムを沈澱化した後に金属インジウムとして回収する方法を利用しても良い。具体的には、インジウム含有液に水酸化アンモニウムや水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和加水分解し、インジウム水酸化物を沈澱させ、このインジウム水酸化物沈澱を固液分離して回収し、塩酸で溶解し、このインジウム塩酸溶解液から金属インジウムを回収することができる。
【0033】
インジウム塩酸溶解液から金属インジウムを回収する方法としては、セメンテーションおよび電解精製などを利用することができる。具体的には、例えば、上記インジウム塩酸溶解液に金属インジウム板を投入して金属スズを析出させ、これを除去した後、亜鉛板を投入して粗金属インジウムを析出させる(セメンテーション)。この粗金属インジウムをアノードに鋳造して電極として用い、電解精製して高純度の金属インジウムを得ることができる。
【0034】
一方、固液分離工程で得たスズ含有残渣は塩酸洗浄してインジウムを洗浄回収した後、スズ製錬工程に送って金属スズを回収することができる。また、残留するインジウムも分離回収することができる。スズ含有残渣の洗浄後液は上記塩酸溶解工程に返送して再利用すると良い。
【実施例】
【0035】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。なお、塩酸は35%濃度、硝酸は70%濃度、過酸化水素水は35%濃度のものを使用した。また、インジウムおよびスズは濾滓のX線解析によって確認した。
【0036】
〔実施例1〕
インジウム-スズ含有滓(In含有量17wt%、Sn含有量17wt%)を塩酸に加え、45℃の加熱下で2時間攪拌した後に、過酸化水素を添加して1時間攪拌することによって塩酸溶解を行った(試料No.A1〜A5)。塩酸の使用量および過酸化水素の使用量を表1に示す。塩酸溶解後、濾過して濾滓(スズ含有残渣)を得た。一方、濾液全量にアンモニア水を加えて中和加水分解し、固液分離して中和滓(In水酸化物)を得た。これらの固形分量およびIn含有量、Sn含有量、In回収率およびSn回収率を表1に示した(試料No.A1〜A5)。
【0037】
〔比較例1〕
塩酸溶解時に過酸化水素を添加しない以外は上記実施例1と同様にしてインジウム-スズ含有滓を塩酸溶解した。この塩酸溶解液を濾過してスズ含有残渣とインジウム溶解液を分離し、実施例1と同様にしてスズおよびインジウムを回収した。この結果を表1に示す(試料No.B1〜B5)。
【0038】
〔実施例2〕
塩酸(94.4g)に硝酸(32.0g)を加えた混酸を用い、過酸化水素量26.6gとした以外は上記実施例1と同様にしてインジウム-スズ含有滓を塩酸溶解した。この塩酸溶解液を濾過してスズ含有残渣とインジウム溶解液を分離し、実施例1と同様にしてスズおよびインジウムを回収した。この結果を表2に示す(試料No.A6)。
【0039】
〔比較例2〕
塩酸溶解時に過酸化水素を添加しない以外は上記実施例2と同様にしてインジウム-スズ含有滓を塩酸溶解した。この塩酸溶解液を濾過してスズ含有残渣とインジウム溶解液を分離し、実施例1と同様にしてスズおよびインジウムを回収した。この結果を表2に示す(試料No.B6)。
【0040】
〔実施例3〕
塩酸量(33.6g)に硝酸(54.6g)を加えた混酸を用い、過酸化水素量14.2gとした以外は上記実施例1と同様にしてインジウム-スズ含有滓を塩酸溶解した。この塩酸溶解液を濾過してスズ含有残渣とインジウム溶解液を分離し、実施例1と同様にしてスズおよびインジウムを回収した。この結果を表2に示す(試料No.A7)。
【0041】
〔比較例3〕
塩酸溶解時に過酸化水素を添加しない以外は上記実施例2と同様にしてインジウム-スズ含有滓を塩酸溶解した。この塩酸溶解液を濾過してスズ含有残渣とインジウム溶解液を分離し、実施例1と同様にしてスズおよびインジウムを回収した。この結果を表2に示す(試料No.B7)。
【0042】
表1に示すように、本発明の方法によれば、インジウムおよびスズを何れも高い収率で分離回収することができる。具体的には、実施例1(試料No.A1〜A5)では、インジウムの回収率は91.83%〜92.85%であり、またスズの回収率は81.62〜97.78%であり、いずれも高い回収率を示している。一方、過酸化水素を添加しない比較例1(試料No.B1〜B5)ではインジウムの回収率は高いが、スズの回収率は一部20%前後であるものの大部分は数%であり、スズの回収率が低い。また、実施例2〜3に示すように、塩酸と硝酸を併用し、硝酸量を塩酸量より多く(塩酸量の約1.6倍)用いることによって、過酸化水素量を約半分にしても、インジウムとスズを塩酸単独溶解と同様の高い回収率で得ることができる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
〔実施例4〕
インジウム-スズ含有滓(In含有量17wt%、Sn含有量17wt%)を塩酸に加え、45℃の加熱下で3時間攪拌して塩酸溶解し、インジウム-スズ塩酸溶解液を得た。一方、表3に示す水量および過酸化水素量に従って過酸化水素水を調製し、上記インジウム-スズ塩酸溶解液を過酸化水素水に攪拌しながら少量づつ添加してスズ沈澱を生成させた(No.C1〜C5)。過酸化水素水の温度および沈澱の生成状態を表3に示す。表3に示すように、過酸化水素の温度が40℃より低いと濾過性の良いスズ沈澱が得られない。
【0046】
【表3】

【0047】
〔実施例5〕
インジウム-スズ含有滓(In含有量17wt%、Sn含有量17wt%)を塩酸に加え、45℃の加熱下で3時間攪拌して塩酸溶解し、インジウム-スズ塩酸溶解液を得た。一方、表4に示す水量に過酸化水素を加えて過酸化水素水とし、これを上記塩酸溶解液に加えて混合液とした。この混合液を表4に示す温度および水量の温水に攪拌しながら少量づつ添加してスズ沈澱を生成させた(No.D1〜D5)。表4に示すように、水温が40℃より低いと濾過性の良いスズ沈澱が得られない。
【0048】
【表4】

【0049】
〔比較例4〕
実施例5と同様のインジウム-スズ塩酸溶解液に、常温下および攪拌下で、表5に示す量の過酸化水素を添加したところ、スズ沈澱は生成しながった(No.E1)。また、このインジウム-スズ塩酸溶解液に、攪拌下、液温50℃で、表5に示す水量の水と過酸化水素を添加し、スズ沈澱を生成させた。この結果を表5に示した。生成したスズ沈澱の沈降性および濾過性は何れも非常に劣る。
【0050】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の分離回収方法について、インジウム回収工程およびスズ回収工程を含む一例の処理工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ含有物を酸化剤の存在下で塩酸溶解して、共存金属を溶出させる一方、スズを沈澱化して共存金属と分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法。
【請求項2】
スズ含有物の塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液中のスズを沈澱させ、これを固液分離して液中の溶出金属と固形分のスズ沈殿物とを分離することを特徴とするスズと共存金属の分離方法。
【請求項3】
酸化剤として過酸化水素を用い、スズ含有量に対して0.8当量以上の過酸化水素量で、スズ含有物を溶解する請求項1または請求項2に記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項4】
スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、インジウム含有量に対して1.0酸当量以上の塩酸量で、インジウム-スズ含有物を溶解する請求項1〜請求項3の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項5】
インジウム-スズ塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液のスズを沈澱させる際に、40℃以上の過酸化水素水に、上記塩酸溶解液を少量づつ添加してスズを沈澱させる請求項2〜請求項4の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項6】
インジウム-スズ塩酸溶解液について、酸化剤の存在下で上記塩酸溶解液のスズを沈澱させる際に、上記塩酸溶解液に過酸化水素を添加した混合液とし、この混合液を40℃以上の温水に少量づつ添加してスズを沈澱させる請求項2〜請求項4の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項7】
インジウム-スズ塩酸溶解液が、インジウム-スズ含有物の塩酸溶解液であり、またはインジウム-スズ含有物の電解後液から回収したインジウム-スズ塩酸溶液である請求項2〜請求項6の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項8】
塩酸と共に硝酸を併用する請求項1〜請求項7の何れかに記載するスズと共存金属の分離方法。
【請求項9】
スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、請求項1〜請求項8の何れかの方法によってスズ沈殿を固液分離して得たインジウム含有液から中和処理またはセメンテーションによって金属インジウムを回収する方法。
【請求項10】
スズ含有物がスズとインジウムの含有物であり、請求項1〜請求項8の何れかの方法によって固液分離して得たスズ含有残渣を硝酸洗浄し、スズ製錬工程に送って金属スズを回収する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−35808(P2009−35808A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18791(P2008−18791)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】