説明

スズを含有する固体酸触媒およびその製造方法

触媒活性の高い硫酸/酸化スズ触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。 スズを含有する固体酸触媒の製造において、結晶性の酸化スズ、好ましくはメタスズ酸を含む担体を用意し、その担体を有機酸イオンと接触させた後、硫酸根含有化合物と接触させ、その後、焼成をおこなうことで、従来にない強い固体酸特性を示すことを見出した。本発明による固体酸触媒は、触媒中のスズ含有量が金属換算で30重量%以上であり、硫酸根が担持されており、アルゴン吸着熱が−30kJ/mol以下であり、酸触媒反応に用いられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酸化スズに硫酸根を担持した固体酸触媒およびその製造方法に関する。このような固体酸触媒は、エステル交換反応、エステル化反応などの酸触媒反応の触媒として有用である。
【背景技術】
固体酸触媒としては、酸化ジルコニウムに硫酸根を担持した硫酸/ジルコニア触媒が高い活性を示すことから注目されている。最近、酸化スズに硫酸根を担持した硫酸/酸化スズ触媒が、硫酸/ジルコニア触媒よりも高い活性を示すことが報告されている(H.Matsuhashiほか、Chem.Mater.2001 vol.13 pp3038−3042)。
【発明の開示】
本発明は、さらに触媒活性の高い硫酸/酸化スズ触媒の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、スズを含有する固体酸触媒の製造において、結晶性の酸化スズ、好ましくはメタスズ酸を含む担体を用意し、その担体を有機酸イオンと接触させた後、硫酸根含有化合物と接触させ、その後、焼成をおこなうことで、従来にない強い固体酸特性を示すことを見出した。
本発明による固体酸触媒は、好ましくは触媒中のスズ含有量が金属換算で30重量%以上であり、硫酸根が担持されており、アルゴン吸着熱の絶対値が30kJ/mol以上であり、酸触媒反応に用いられるものであり、好ましくは、触媒の赤外光反射スペクトルにおいて、1280cm−1の反射率が1220cm−1の反射率よりも小さいものである。また、触媒の紫外光反射スペクトルにおいて450nmの反射率が80%以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、硫酸/酸化スズ系触媒MO−858の赤外光反射スペクトルを示した図である。
図2は、硫酸/酸化スズ系触媒MO−817の赤外光反射スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
〔担体〕
担体は結晶性の酸化スズ、好ましくはメタスズ酸を含むものである。担体は粉体でも、成形体でもよく、スズ酸化物以外の成分からなる担体の表面に酸化スズを形成したものでもよい。酸化スズは、非晶質でなく結晶質のものであれば、どのような形態でも用いることができ、酸化第1スズ、酸化第2スズを用いることができるが、特にはメタスズ酸が好ましく用いられる。メタスズ酸とは、スズの地金に濃硝酸を作用させ、洗浄することで製造できる。実質的に正方晶の結晶構造を持つ酸化物からなることが好ましい。これは、粉末X線回折により確認でき、具体的には、CuKα線による2θ=26.6°の回折ピークで確認できる。スズ酸化物は、含水酸化物であってもよい。
〔有機酸との接触〕
スズ酸化物の表面は、硫酸根含有化合物に接触させる前に、有機酸イオン、特にはカルボン酸イオンを含む溶液、特には水溶液で前処理することが好ましい。また、カルボン酸イオンの炭素数は1〜3が好ましい。このような水溶液としては、酢酸アンモニウムなどのカルボン酸アンモニウム塩、カルボン酸金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩の水溶液が好ましく用いられる。
有機酸イオンとの接触は、通常、0.1〜10時間、10〜80℃特には15〜40℃の温度で行われる。溶液を用いる場合の有機酸イオンの濃度は、1質量%以上、特には3〜50質量%が好ましい。
〔硫酸根含有化合物との接触〕
硫酸根含有化合物は、硫酸分を含有する化合物、または、その後の焼成などの処理により硫酸分に変換されうる硫黄分を含んだ化合物であり、硫酸根含有化合物としては、硫酸、硫酸アンモニウム、亜硫酸、亜硫酸アンモニウム、塩化チオニル、ジメチル硫酸などが挙げられる。通常、硫酸根含有化合物は水溶液のような溶液を用いて、スズ酸化物に接触させる。
硫酸根含有化合物との接触は、通常、0.1〜10時間、10〜80℃特には15〜40℃の温度で行われる。溶液を用いる場合の硫酸根含有化合物の濃度は、10質量%以上、特には20〜98質量%が好ましい。有機酸イオンとの接触し、乾燥した後に硫酸根含有化合物に接触させてもよいが、乾燥させなくてもよい。
〔焼成〕
焼成は、空気または窒素などのガス雰囲気中において行われるが、特には空気中で行うことが好ましい。焼成温度は焼成時間、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に300〜900℃、好ましくは400〜800℃である。焼成時間は焼成温度、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に0.05〜20時間、特に0.1〜10時間、さらには0.2〜5時間が好ましい。なお、焼成に先立ち、50〜200℃で乾燥してもよい。
〔固体酸触媒〕
本発明の固体酸触媒は、酸化スズ部分を含み、硫酸分を含有する。なお、金属酸化物は、含水金属酸化物を含むものとして定義される。酸化スズ部分は、実質的に正方晶の結晶構造を持つ酸化物からなることが好ましい。触媒中に、酸化スズをスズ元素重量として20〜72重量%、特には30〜72重量%含むことが好ましい。酸化スズは回折ピークで確認できる程度に結晶化しており、結晶子径が10〜50nm、特には20〜45nmであることが好ましい。触媒の比表面積は100m/g以上、特には100〜200m/gが好ましい。
硫酸分の割合は、硫黄元素重量として0.7〜10重量%、好ましくは1〜9重量%、特には2〜8重量%である。硫酸分が多すぎても少なすぎても触媒活性は低下する。
固体酸の特性としては、ハメットの酸度関数Hoが−14以下、特には−16以下が好ましい。また、アルゴン吸着熱が、−20kJ/mol以下、特には−30kJ/mol以下、さらには−30〜−60kJ/molが好ましい。このアルゴン吸着熱は、測定対象を真空に排気しながら300℃まで昇温した後、液体窒素温度でアルゴンを導入して、容量法により吸着量を測定したものであり、詳細は、J.Phys.Chem.B、Vol.105、No.40、p.9667−(2001)に開示される。本発明による固体酸触媒は、赤外光反射スペクトルにおいて、1280cm−1の反射率が1220cm−1の反射率よりも小さいことで特徴付けることもできる。また、本発明による固体酸触媒は、白色であること、具体的には紫外光反射スペクトルにおいて450nmの反射率が80%以上であることによっても特徴付けることもできる。
〔酸触媒反応〕
本発明の固体酸触媒は、酸触媒反応に有用である。
酸触媒反応としては、従来、塩化アルミニウム系触媒に代表されるルイス酸触媒または硫酸に代表されるブレンステッド酸触媒を用いていた酸触媒反応に用いることができる。このような反応としては、異性化、不均化、ニトロ化、分解反応、アルキル化、エステル化、エステル交換反応、アシル化、エーテル化、重合などをあげることができる。本発明の固体酸触媒は、特にはエステル交換反応、エステル化、エーテル化に好ましく用いられる。
〔エステル交換反応〕
原料エステルとアルコールを本発明の固体酸触媒に接触させることでエステル交換反応が進行する。反応温度は、原料エステルが液相状態にあり、アルコールが気相状態となる温度であり、具体的には、100℃以上、特には150〜350℃が好ましい。反応圧力は特に限定されないが、0.5〜2気圧程度の大気圧においても十分に反応は進行する。反応時間も限定されるものではないが、バッチ式反応において0.1〜1時間程度、流通式反応においては、WHSV(重量空間速度)0.5〜5/時程度で生成物を十分に得ることができる。反応形式は、バッチ式、流動式などを用いることができる。
原料エステルは、エステル化合物を主成分とするものであればよく、多価エステルでもよい。特には飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸(カルボン酸の炭素数が8〜24程度)のグリセリドが好ましく用いられる。具体的には油脂類といわれるトリグリセリドが好ましく用いられる。このような油脂類としては、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、棉実油、ゴマ油、パーム油、ひまし油などの植物性油脂や、牛脂、豚脂、馬脂、鯨油、イワシ油、サバ油などの動物性油脂があげられる。原料エステル中に遊離脂肪酸を0重量%〜30重量%、特には1重量%〜20重量%含んでいてもよい。また、エステル交換反応に用いられるアルコールとしては、炭素数が1から3のアルコール、特には、メタノール、エタノールが好ましく用いられるが、多価アルコールでもよい。
〔エステル化反応〕
原料カルボン酸とアルコールを本発明の固体酸触媒に接触させることでエステル交換反応が進行する。反応温度は、原料カルボン酸が液相状態にあり、アルコールが気相状態となる温度であり、具体的には、100℃以上、特には150〜350℃が好ましい。反応圧力は特に限定されないが、0.5〜2気圧程度の大気圧においても十分に反応は進行する。反応時間も限定されるものではないが、バッチ式反応において0.1〜1時間程度、流通式反応においては、WHSV(重量空間速度)0.5〜5/時程度で生成物を十分に得ることができる。反応形式は、バッチ式、流動式などを用いることができる。
原料カルボン酸は、油脂などの天然のあるいは合成のエステル化合物を構成する成分であればよく、多価カルボン酸でもよい。特には飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸(カルボン酸の炭素数が8〜24程度)が好ましく用いられる。具体的には油脂類といわれるトリグリセリドから多くが製造される。エステル化反応に用いられるアルコールとしては、炭素数が1から3のアルコール、特には、メタノール、エタノールが好ましく用いられるが、多価アルコールでもよい。
【実施例】
以下、実施例により詳細に説明する。
〔硫酸/酸化スズ系触媒MO−858の調製〕
市販の塩化スズ(SnCl・nHO、和光純薬製)100gを水3Lに溶解し、アンモニア水(25%濃度)を滴下して沈殿を形成し、pHは8となった。濾別した沈殿を4重量%の酢酸アンモニウム水溶液に分散させ、再度濾別して空気中100℃で24時間乾燥し、前駆体1を得た。得られた前駆体1の4gを6N硫酸60mLに1時間接触させ、濾過し、空気中100℃で2時間乾燥し、さらに、空気中500℃で3時間焼成して、硫酸/酸化スズ系触媒1(以下、MO−858ともいう)を得た。
このMO−858は、黄色の粉末状であり、MO−858の比表面積は135m/g、細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.1ml/gであった。MO−858の細孔直径0.002〜0.05μmの範囲における中央細孔直径は3.1nmであった。アルゴン吸着熱は、−29.7kJ/molであった。また、スズ含有率は71.4重量%、硫黄元素含有量は1.96重量%であり、正方晶の結晶構造を有し、その結晶子径は32nmであった。
赤外光反射スペクトルにおいて、1280cm−1の反射率は52.8%であり、1220cm−1の反射率は52.2%であった。本明細書での赤外光反射スペクトルの測定は、硫酸/酸化スズ系触媒をKBrと撹拌混合してペレットに加圧成形し、その表面の反射を拡散反射法により測定した。この測定結果を図1に示す。また、紫外光反射スペクトルにおいて、450nmの反射率は約65%であった。本明細書での紫外光反射スペクトルは試料となる硫酸/酸化スズ系触媒を粉砕し、加圧成形し、その表面の反射を測定した。
〔硫酸/酸化スズ系触媒MO−817の調製〕
市販のメタスズ酸(SnO、山中産業製)100gを4重量%の酢酸アンモニウム水溶液に分散させ、濾別して空気中100℃で24時間乾燥し、前駆体2を得た。得られた前駆体2の4gを6N硫酸60mLに1時間接触させ、濾過し、空気中100℃で2時間乾燥し、さらに、空気中500℃で3時間焼成して、硫酸/酸化スズ系触媒(以下、MO−817ともいう)を得た。
このMO−817は、白色粉末状であり、比表面積は152m/g、細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.1ml/gであった。MO−817の細孔直径0.002〜0.05μmの範囲における中央細孔直径は2.8nmであった。アルゴン吸着熱は、−31.0kJ/molであった。また、スズ含有率は70.6重量%、硫黄元素含有率は2.44重量%であり、正方晶の結晶構造を有し、その結晶子径は35nmであった。
赤外光反射スペクトルにおいて、1280cm−1の反射率は40.7%であり、1220cm−1の反射率は42.0%であった。この測定結果を図2に示す。また、紫外光反射スペクトルにおいて、450nmの反射率は約85%であった。
〔エステル交換反応〕
これらの触媒4cmを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、原料エステルとして大豆油(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口での大豆油の転化率をガスクロマトグラフィーにより、実験開始後4時間また20時間の時点で測定した。大豆油とメタノールのモル比は、1:40とした。実験結果を表1に示す。

〔エステル化反応〕
これらの触媒4cmを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、原料脂肪酸としてオクタン酸(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口でのオクタン酸の転化率をガスクロマトグラフィーにより、実験開始後4時間また20時間の時点で測定した。オクタン酸とメタノールのモル比は、1:4.5とした。実験結果を表2に示す。

エステル交換反応およびエステル化反応において、超強酸触媒の酸強度を示す指数であるアルゴン吸着熱が−30kJ/molよりも低い、したがってアルゴン吸着熱の絶対値が30kJ/molよりも大きいMO−817を用いた場合に高い転化率が得られた。
産業上の利用性
本発明によれば、従来よりも強い酸特性を示す硫酸/酸化スズ触媒を製造することができ、このような硫酸/酸化スズ触媒は酸触媒反応において高い触媒活性を示すものである。この触媒は、エステル交換反応などの酸触媒反応に高い活性を示し、工業的に極めて有用である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性の酸化スズを含む担体を用意し、その担体を有機酸イオンと接触させた後、硫酸根含有化合物と接触させ、その後、焼成をおこなう工程を含む、スズを含有する固体酸触媒の製造方法。
【請求項2】
結晶性の酸化スズがメタスズ酸である請求項1記載の固体酸触媒の製造方法。
【請求項3】
触媒中のスズ含有量が金属換算で30重量%以上であり、硫酸根が担持されており、アルゴン吸着熱の絶対値が30kJ/mol以上であり、酸触媒反応に用いられる固体酸触媒。
【請求項4】
触媒の赤外光反射スペクトルにおいて、1280cm−1の反射率が1220cm−1の反射率よりも小さい請求項3記載の固体酸触媒。

【国際公開番号】WO2004/094058
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505766(P2005−505766)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005720
【国際出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】