説明

スタッドボルト及びこれを用いた倍力装置

【課題】 高精度の気密性を有するスタッドボルト及びこれを用いた倍力装置を提供する。
【解決手段】 スタッドボルト1が、ボルト頭部2と、ボルト頭部2より小径のボルト肩部3と、ボルト肩部3より小径のねじ部4bとを備え、ボルト肩部3は、外周に突部3b1と溝部3b2とを有し、少なくとも一部はカシメ時に容器10に食い込むローレット部3bと、ローレット部3bとボルト頭部2との間に、ローレット部3bよりも滑らかな周面のボルト基部3aとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドボルトの技術分野に属し、特に、内部と外部とで気圧差のある容器に対し、気密を保った状態で、容器を貫通して容器と他の部材とを結合するスタッドボルト及びこれを用いた倍力装置の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気密を保った状態で、他の部材に容器を取り付ける際にスタッドボルトを使用する場合があった。例えばブレーキ倍力装置においては、フロントシェルとリヤシェルとの各内部から外部へボルトの軸部を貫通させるとともに各ボルトをカシメ付けによって各シェルに固定し、リヤシェルに取付けたボルトによってブレーキ倍力装置を車体に取付け、またフロントシェルに取付けたボルトによってマスターシリンダをブレーキ倍力装置に取付けるようにしているものがある。
【0003】
そして、その構造として、図7に示すように、ボルト101の頭部端面103に凸部105と凹部106とをボルト軸部102の周囲に多数形成し、ボルト軸部102を取付板108に穿設した貫通孔109にその一側面側から挿通して該ボルト軸部102の一部を他側面側から塑性変形させ、その塑性変形部107と頭部端面103とでボルト101を取付板108に挟着固定するとともに凸部105を取付板108に喰込ませ、 凸部105を頭部端面103より突出させて形成するとともに、それら凸部105間に頭部端面103と実質的に同一高さの平面を有するストッパ部104を設け、さらに凸部105とストッパ部104間に凹部106を形成するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら特許文献1に記載された発明の構成においては、ボルト101の構造が複雑で製造が困難であると共に、凸部105の強度が比較的に弱く、変形してしまうことがあった。
【0005】
また、図8に示すように、従来、スタッドボルト201として、一端にボルト頭部202を一体的に形成し、他端にボルト軸部204を伸長し、ボルト頭部202とボルト軸部204との間に形成された肩部203のカシメ部203cを除く上下にわたってローレット部203bを形成した構造のスタッドボルトがある。
【特許文献1】特公平8−3327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図8に示したスタッドボルトを、図7に示したボルトに代えて適用すると、カシメ工程の際に、ローレット部203bの突部203b1が取付容器210にすべて食い込まず、図9に示すようにボルト頭部202に近いローレット部203bの溝部203b2はそのまま隙間が空いた状態で残ってしまい、該隙間により取付容器210の気密性が保持されないことがあった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、
内部と外部とで気圧差のある容器に対し、容器を貫通して容器と他の部材とを結合させるためのスタッドボルトにおいて、高精度の気密性を有するスタッドボルト及びこれを用いた倍力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、内部と外部とで圧力差のある容器に対し、前記容器を貫通して前記容器と他の部材とを結合させるためのスタッドボルトにおいて、前記スタッドボルトは、ボルト頭部と、前記ボルト頭部より小径のボルト肩部と、前記ボルト肩部より小径のねじ部とを備え、前記ボルト肩部は、外周に突部と溝部とを有し、少なくとも一部はカシメ時に容器に食い込むローレット部と、前記ローレット部と前記ボルト頭部との間に、前記ローレット部よりも滑らかな周面のボルト基部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、前記ボルト基部の高さは、前記容器に形成した前記スタッドボルトが貫通する孔の面取部までの高さより小さいことを特徴とする。
【0010】
また、前記容器は、倍力装置のシェルであることを特徴とする。
【0011】
また、前記容器は、第1部材及び第2部材からなり、前記ボルト基部の高さは、前記第2部材のカシメ部の板厚より大きく、前記容器のカシメ部の板厚より小さいことを特徴とする。
【0012】
また、前記容器は、第1部材及び第2部材からなり、前記ボルト基部の高さは、前記容器に形成した前記スタッドボルトが貫通する孔の面取部までの高さより小さく、前記ボルト肩部は、前記容器のカシメ部の板厚より大きいことを特徴とする。
【0013】
また、前記容器は、倍力装置のシェルであり、前記第1部材は、倍力装置のフロントシェルであることを特徴とする。
【0014】
また、前記第2部材は、倍力装置のサポートプレートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように構成されたスタッドボルトにおいては、カシメ工程の際に、ローレット部の突部が容器に食い込むと共に、ボルト基部が容器との隙間をほとんど埋めるので、容器の気密性が保持される。また、製造工程が余り変わらず、コスト面でも従来と変わることなく、性能を向上することができる。さらに、この高精度の気密性を有するスタッドボルトを倍力装置に使用するので、製造工程とコスト面とも従来とあまり変わることなく、該倍力装置の性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係るスタッドボルトを示す図である。図中、1はスタッドボルト、2はボルト頭部、2aはストッパ部、3はボルト肩部、3aはボルト基部、3bはローレット部、3cはカシメ部、4はボルト軸部、4aは連結部、4bはねじ部、4cは端部である。
【0017】
スタッドボルト1は、一端にボルト頭部2、中間にボルト肩部3を挟んで、他端にボルト軸部4を備え、一体的に形成されている。ボルト頭部2は、ボルト肩部3及びボルト軸部4より大きい径d1を有し、ボルト肩部3側に取付時にストッパの役目をするストッパ部2aを有する。
【0018】
ボルト肩部3は、高さhであり、ボルト頭部側の外周面に高さh1のボルト基部3aを有し、ボルト基部3aに隣接して高さh2のローレット部3bを有し、ローレット部3bに隣接して高さh3のカシメ部3cを有する。また、その径d2は、ボルト頭部2とボルト軸部4との間の大きさである。ローレット部3bは、全周にわたって突部3b1と溝部3b2が交互に並んで形成されており、特に突部3b1及び溝部3b2が52本程度のものが好ましい。なお、カシメ部3cを設けず、ローレット部3bを直接カシメるようにしてもよい。
【0019】
ボルト軸部4は、ボルト肩部3に結合され、ボルト肩部3側から連結部4a、ねじ部4b、端部4cを有し、ねじ部4bの径d3は、ボルト頭部2とボルト肩部3より小さい。
【0020】
図2乃至図5は、第1部材11及び第2部材12等からなる容器10に、図1の構造のスタッドボルト1をカシメる工程を示す図である。図2(a)は、容器10に、スタッドボルト1をセットした状態を示し、図2(b)は、その一部を拡大した図を示す。容器10のカシメ部10aは、第1部材11及び第2部材12からなる板厚Lの部分である。第1部材11のカシメ部11aは、板厚L1の板状の部分で、スタッドボルト1のボルト肩部3の径d2より若干大きくボルト頭部2の径d1より小さい内径Dの孔11bが形成されている。孔11bの図2(b)における上側には面取部Aがある。
【0021】
第2部材12のカシメ部12aは、板厚L2の板状の部分で、スタッドボルト1のボルト肩部3の径d2より若干大きくボルト頭部2の径d1より小さい内径Dの孔12bが形成されている。
【0022】
まず、図2に示すように、このような構造の容器10の第1部材11及び第2部材12に形成した孔11b,12bに、スタッドボルト1を挿入する。スタッドボルト1は、第1部材11及び第2部材12の孔11b,12bの内径Dより若干小さい径d2をもつボルト肩部2まで挿通され、第1部材11及び第2部材12の孔11b,12bの内径Dより大きい径をもつボルト頭部2のストッパ部2aに当接して止まる。
【0023】
この時、ボルト肩部3の高さh、特に本実施形態の場合、ボルト肩部3のうちボルト基部3aとローレット部3bをあわせた高さh1+h2は、容器10の板厚Lよりも大きいので、ボルト肩部3のカシメ部3cは、容器10を貫通し、突出している状態となる。また、ボルト肩部3のボルト基部3aの高さh1は、第2部材12の板厚L2より大きく、第1部材11及び第2部材12の板厚L1+L2、すなわち容器10の板厚Lよりも小さく設定する。さらに、図2における容器10の下端から面取部Aまで、すなわち面取りしていない部分の高さPは、ボルト肩部3のボルト基部3aの高さh1より大きく設定する。
【0024】
この状態で、図3に示すように、第1型部材21及び第2型部材22を有するカシメ治具20に、スタッドボルト1が挿通した状態で、容器10をセットする。第1型部材21は、スタッドボルト1のボルト頭部2の形状に対応した凹部21aを有しており、セットする際、該凹部21aにスタッドボルト1のボルト頭部2が嵌合するように載置する。第2型部材22は、スタッドボルト1のボルト軸部4に形成されたねじ部4bの径d3より若干大きく、ボルト軸部4の高さより長い深さをもつ円柱形状の凹部22aを有し、セットする際、該凹部22aにスタッドボルト1のボルト軸部4が嵌合するように載置する。
【0025】
次に、図4に示すように、第2型部材22を矢印31の方向に移動させ、第2型部材22の先端をスタッドボルト1のボルト肩部3に形成したカシメ部3cに押し当てカシメる。すると、ボルト肩部3に形成したローレット部3bの一部及びカシメ部3cは、第2型部材22により押し潰され、ボルト肩部3の外周に押し広げられる。
【0026】
図5(a)は、第2型部材22を第1部材11に当接するまで、さらに矢印31の方向に移動させた後、カシメ治具20からスタッドボルト1及び容器10を外したカシメ後の状態を示す図であり、図5(b)は、図5(a)の点線で示したカシメ部分の拡大図である。この状態で、ローレット部3bの一部及びカシメ部3cから形成された突出片5は、第1部材11に食い込み、突出片5とボルト頭部2のストッパ部2aとで容器10を挟持する。この時、ローレット部3bの残りの部分は、押し潰されることで第1部材11の孔11bの径Dより径が大きくなり、第1部材11にローレット部3bの突部3b1が食い込み、スタッドボルト1の回転を阻止する。また、ボルト基部3aも押し潰されることで径が大きくなり、第2部材12との隙間がほとんどなくなる。
【0027】
また、ボルト肩部3のうち容器10から突出した部分のカシメにより変形する部分Kの容積は、面取部Aの容積よりも大きく設定する。
【0028】
このように、容器10における内側に対応するスタッドボルト1のボルト頭部2側と、容器10における外側に対応するスタッドボルト1のボルト軸部4の端部4c側とが、隔離され、容器10は密閉状態を保つことができる。
【0029】
図6は、スタッドボルト1をブレーキ倍力装置Bの本発明の第1部材の一例としてのフロントシェル51に適用した状態を示す。ブレーキ倍力装置Bは、フロントシェル51及びリヤシェル53から形成される本発明の容器10の一例としてのシェル50を備える。シェル50のフロント側には、フロントシェル51と図示しないダイヤフラムとにより定圧室が区画されており、この定圧室には、負圧導入通路54を通して負圧が導入され、外部から圧力(大気圧)がかかった状態で密閉されている。
【0030】
スタッドボルト1は、フロントシェル51の内部から外部へスタッドボルト1のボルト肩部3及びボルト軸部4を貫通させ、ボルト軸部4のねじ部4bにより、図示しないマスターシリンダをブレーキ倍力装置Bに取り付けるようにしている。その際、フロントシェル51のカシメ部51aに本発明の第2部材の一例としてのサポートプレート52を載置する。
【0031】
このように、図1に示したスタッドボルト1をブレーキ倍力装置Bのフロントシェル51に適用することにより、シェル50のフロントシェル51側の定圧室と外部とは、高精度に気密性が保持される。
【0032】
なお、容器10は必ずしも第1部材11及び第2部材12を有する必要はなく、第1部材11だけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の係るスタッドボルトの一実施形態を示す図
【図2】スタッドボルトを容器にセットした状態を示す図
【図3】スタッドボルトをカシメる前の状態を示す図
【図4】スタッドボルトをカシメている状態を示す図
【図5】スタッドボルトをカシメた後の状態を示す図
【図6】スタッドボルトをブレーキ倍力装置に適用した図
【図7】従来の技術を示す図
【図8】従来の技術を示す図
【図9】従来の技術を示す図
【符号の説明】
【0034】
1…スタッドボルト、2…ボルト頭部、2a…ストッパ部、3…ボルト肩部、3a…ボルト基部、3b…ローレット部、3b1…突部、3b2…溝部、3c…カシメ部、4…ボルト軸部、4a…連結部、4b…ねじ部、4c…端部、5…突出片、10…容器、11…第1部材、12…第2部材、20…カシメ治具、21…第1型部材、22…第2型部材、B…ブレーキ倍力装置、50…シェル(容器)、51…フロントシェル(第1部材)、52…サポートプレート(第2部材)、53…リヤシェル、54…負圧導入通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部と外部とで圧力差のある容器に対し、前記容器を貫通して前記容器と他の部材とを結合させるためのスタッドボルトにおいて、前記スタッドボルトは、ボルト頭部と、前記ボルト頭部より小径のボルト肩部と、前記ボルト肩部より小径のねじ部とを備え、前記ボルト肩部は、外周に突部と溝部とを有し、少なくとも一部はカシメ時に容器に食い込むローレット部と、前記ローレット部と前記ボルト頭部との間に、前記ローレット部よりも滑らかな周面のボルト基部とを有することを特徴とするスタッドボルト。
【請求項2】
前記ボルト基部の高さは、前記容器に形成した前記スタッドボルトが貫通する孔の面取部までの高さより小さいことを特徴とする請求項1に記載のスタッドボルト。
【請求項3】
前記容器は、倍力装置のシェルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスタッドボルトを使用する倍力装置。
【請求項4】
前記容器は、第1部材及び第2部材からなり、前記ボルト基部の高さは、前記第2部材のカシメ部の板厚より大きく、前記容器のカシメ部の板厚より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスタッドボルト。
【請求項5】
前記容器は、第1部材及び第2部材からなり、前記ボルト基部の高さは、前記容器に形成した前記スタッドボルトが貫通する孔の面取部までの高さより小さく、前記ボルト肩部は、前記容器のカシメ部の板厚より大きいことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項4に記載のスタッドボルト。
【請求項6】
前記容器は、倍力装置のシェルであり、前記第1部材は、倍力装置のフロントシェルであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のスタッドボルトを使用する倍力装置。
【請求項7】
前記第2部材は、倍力装置のサポートプレートであることを特徴とする請求項6に記載の倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−321787(P2007−321787A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149594(P2006−149594)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】