説明

スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の製造方法及びそれにより得られるゴム組成物

【課題】耐摩耗性と氷上制動性能を両立させたタイヤが得られるスタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴム(A)40〜80質量部と、この天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子と、補強性充填剤とを混合する第1混合工程と、前記天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低いブタジエンゴム(B)20〜60質量部(但し、前記天然ゴム(A)との合計量が100質量部となるものとする)を上記第1混合工程で得られた混合物に添加して混合する第2混合工程とを有する製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤに用いられるゴム組成物に関するものであり、より詳細には耐摩耗性と氷上制動性能を両立させたゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤのトレッドゴムは、氷上路面での接地性が向上するように種々の工夫がなされており、例えば、低温でゴム硬度が低くなるように調整されている。また、氷上摩擦力を高めるため、発泡ゴム、中空粒子、ガラス繊維、植物性粒状体等の硬質材料を配合する等の手法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、シス1,4−結合含有率(以下、「シス1,4含有率」ともいう)の高いブタジエンゴムと天然ゴム等を配合し、ゴム材料のガラス転移点を低くすることにより、低温での柔軟性を向上させ、氷上性能を向上させることが開示されている。しかし、シス1,4含有率の高いポリブタジエン(以下、「高シスブタジエン」ともいう)は、均一な分子構造を有することにより0℃から−20℃において結晶性を示すため、氷上性能の改良効果は見られるものの、十分なレベルには達していない。一方、シス1,4含有率の低いポリブタジエン(以下、低シスブタジエンともいう)を配合すると、ガラス転移点が高くなることで耐摩耗性が悪化する。
【0004】
また、特許文献2には、ガラス転移点が−100℃〜−65℃である架橋されたゴム粒子を配合することにより、低温でのゴム硬化を抑制し、氷上性能を向上させることが開示されている。しかし、低温下におけるゴムの硬化抑制を図ると耐摩耗性が低下する傾向が見られるところ、これに対する十分な解決手段は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−314605号公報
【特許文献2】特開2008−24792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、スタッドレスタイヤの耐摩耗性と氷上制動性能を高次元で両立させることができるタイヤ用ゴム組成物が得られる製造方法、及びその製造方法により得られるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、上記の課題を解決するために天然ゴム(A)40〜80質量部と、この天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子と、補強性充填剤とを混合する第1混合工程と、前記天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低いブタジエンゴム(B)20〜60質量部(但し、前記天然ゴム(A)との合計量が100質量部となるものとする)を上記第1混合工程で得られた混合物に添加して混合する第2混合工程とを有するものとする。
【0008】
上記製造方法において、ブタジエンゴム(B)は、末端スズ変性されたものを使用することが好ましい。
【0009】
また、ブタジエンゴム(B)の添加と同時に植物性粒状体を添加して混合することも好ましい。
【0010】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、上記いずれかの製造方法により得られたものとする。
【発明の効果】
【0011】
発明によれば、上記所定の架橋ゴム粒子をゴム組成物に配合すること、及び天然ゴムよりもガラス転移点の低いブタジエンゴムを、上記架橋ゴム粒子や補強性充填剤の混合とは別の第2混合工程で配合することにより、低温環境下におけるゴムの硬化を抑制しつつ、耐摩耗性、氷上制動性能を大幅に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本発明のゴム組成物の製造方法は、混合工程が上記第1混合工程と第2混合工程との少なくとも2段階に分けられるものであり、第1混合工程においては、所定量の天然ゴム(A)と、この天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子と、補強性充填剤とを混合する。
【0014】
ここで天然ゴムよりガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子とは、例えば特開2008−24792号公報に記載されたゴム分散液を架橋することにより得られるゲル化ゴム粒子である。ここでゴム分散液とは、乳化重合により製造されるゴムラテックス、天然ゴムラテックス、溶液重合されたゴムを水中に乳化させて得られるゴム分散液等であり、特に限定されない。ゴム粒子を構成するゴムは、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)等のジエン系ゴムであり、好ましくは、ブタジエンゴム又は天然ゴム、又はこれらと他のジエン系ゴムとのブレンドゴムである。
【0015】
上記ゴム粒子の平均粒子径(DIN 53 206によるDVN値)は5〜2000nmであることが好ましく、より好ましくは20〜600nmである。この平均粒子径が5nmより小さいとゴム中への分散性が低下して低温性能向上効果が不十分となり、一方平均粒子径が2000nmより大きいと耐摩耗性が低下する。
【0016】
また、この架橋ゴム粒子のガラス転移点は−100℃〜−65℃の範囲内であるのが好ましい。架橋ゴム粒子のガラス転移点が天然ゴムより高いと耐摩耗性が著しく低下する。ここで、ガラス転移点はJIS K7121に準拠して測定したものとする。
【0017】
また、架橋ゴム粒子の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。
【0018】
補強性充填剤としては、カーボンブラック又はシリカを用いることができ、カーボンブラックとシリカを併用することもできる。
【0019】
シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。
【0020】
これら補強性充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましい。そのうち、カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して10〜70質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。また、シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して10〜70質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。
【0021】
なお、シリカを配合する場合は、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して5〜15質量部であることが好ましい。
【0022】
第2混合工程では、上記天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低いブタジエンゴム(B)を上記第1混合工程で得られた混合物に添加して混合する。
【0023】
ここで添加するブタジエンゴム(B)は、天然ゴム(A)よりもガラス転移温度の低いものであればよく、特に限定されるものではないが、ガラス転移点は−60℃〜−110℃であることが好ましく、また、シス1,4含有率は30〜100%であることが好ましい。ブタジエンゴム(B)のガラス転移点が天然ゴムよりも高いと氷上性能・耐摩耗性が低下する。
【0024】
ブタジエンゴム(B)は、氷上性能向上のために、末端スズ変性されていることが好ましい。末端スズ変性ブタジエンゴムは、ブタジエンゴムに四塩化スズ等の変性剤を反応させることにより得ることができる。シス1,4含有率が30〜50%の低シスポリブタジエンが末端スズ変性されたものでは、氷上性能がさらに向上する。
【0025】
上記天然ゴム(A)とブタジエンゴム(B)とは、質量比でA:B=40:60〜80:20の範囲内で使用するものとし、A:B=40:60〜60:40の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明では上記のように第1混合工程で天然ゴムと所定の架橋ゴム粒子と補強性充填剤とを混合し、その後にブタジエンゴムを混合する2段階混合を行うことにより、低ガラス転移点の架橋されたゴム粒子と補強性充填材が天然ゴム相に偏在し、よって天然ゴムによる高い耐摩耗性能を維持しつつ、天然ゴム相の硬化を抑制して氷上性能を向上させ得ると考えられる。
【0027】
本発明ではまた、氷上路面に対する掘り起こし効果等を得るため、植物性粒状体を併用することができ、その場合ブタジエンゴム(B)と同時に添加混合することが好ましい。植物性粒状体とは、種子の殻又は果実の核を粉砕してなるものであり、具体的には、氷の硬さより硬い、すなわちモース硬度が2以上であるクルミ、椿などの種子の殻、あるいは桃、梅などの果実の核を公知の方法で粉砕してなる粉砕品が挙げられる。
【0028】
これら植物性粒状体としては、ゴムとのなじみを良くして脱落を防ぐために、ゴム接着性改良剤で表面処理されたものを用いることができ、また、表面処理されたものと表面処理されていないものとを混合して使用することもできる。ゴム接着性改良剤としては、例えば、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするもの(RFL液)が挙げられる。
【0029】
植物性粒状体は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.5〜10質量部配合することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部配合する。なお、植物性粒状体の使用量を増量すると耐摩耗性が低下する傾向が見られるが、上記のように末端スズ変性されたブタジエンゴム(B)を併用することにより、この耐摩耗性の低下を抑えることが可能となる。
【0030】
本発明に係るゴム組成物の製造方法においては、上記条件を使用する以外は、従来のタイヤ用ゴム組成物の製造方法に準じた組成及び方法を採用することができる。
【0031】
従って、上記の各成分の他に、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0032】
上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。これら加硫剤及び加硫促進剤は、上記第2混合段階の後の最終段階で混合することが好ましく、それ以外の添加剤は第1混合段階で添加するのが好ましいが、必要に応じてそれ以外の段階でも添加することができる。
【0033】
従って、本発明のゴム組成物の製造方法の好ましい実施態様としては、天然ゴム(A)と天然ゴムよりガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子と補強性充填剤、シランカップリング剤、及び加硫配合剤を除くその他の成分を、予め密閉式混合機にて混合してマスターバッチを作成した後、作成したマスターバッチに上記ブタジエンゴム(B)及び植物性粒状体を添加して混合し、その後に加硫剤及び加硫促進剤を添加する方法を挙げることができる。密閉式混合機としては、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどの通常のゴム用混練機を用いることができる。
【0034】
以上より得られるゴム組成物を、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、タイヤを形成することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1〜5]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第1混合工程で、低シスブタジエンゴム、植物性粒状体、硫黄及び加硫促進剤を除く各成分を添加混合し、次いで、得られた混合物に第2混合工程で、低シスブタジエンゴム(表では低シスBR(1)・低シスBR(2))、植物性粒状体を添加・混合し、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0037】
[比較例1〜4]
下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず硫黄及び加硫促進剤を除く成分を添加混合し、次いで硫黄と加硫促進剤を添加混合した以外は実施例と同様にして、タイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0038】
表1中の各配合物の詳細は以下の通りである。
【0039】
・NR:天然ゴム(RSS#3)
・高シスBR:JSR(株)製「BR01」(シス1,4含有率96%)
・低シスBR(1):ゼオン(株)製「BR1250H」(末端スズ変性低シスブタジエンゴム、シス1,4含有率35%)
・低シスBR(2):旭化成(株)製「D.NF35」(未変性低シスブタジエンゴム、シス1,4含有率32%)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」(N339)
・シリカ:日本シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」
・パラフィンオイル:JOMOサンエナジー(株)製「プロセスP200」
・架橋ゴム粒子:ラインケミー社製「マイクロモルフ30B」(ブタジエンゴムベース、平均粒径:130nm、トルエン膨潤指数:Qi=5.9、ゲル含量:97質量%、ガラス転移点:−80℃)
・植物性粒状体:クルミ殻((株)日本ウォルナット、ソフトグリッド#46)をRFL液で表面処理したもの
・ステアリン酸:日本油脂(株)製「ステアリン酸」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・ワックス:日本精蝋製「OZOACE0355」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
【0040】
得られた各ゴム組成物について、150℃で30分間加硫して得られた試験用タイヤを用いて、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
・低温性能指数:東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz,静歪10%,動歪±0.25%,温度−5℃及び−25℃の条件で貯蔵弾性率E’を測定し、その逆数について比較例1の値を100とした指数(「比較例1のE’」×100/「各試験片のE’」)で示した。指数が大きいほど、貯蔵弾性率E’が小さく、したがって低温時の接地面積が広く、低温性能に優れることを意味する。
【0042】
・耐摩耗性:2000cc4WD車で2500km毎に左右ローテーションして、10000km走行後の残溝の深さを4本の平均値で、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0043】
・氷上制動性能:氷盤路にて、気温−3±3℃の条件下で、2000ccFF車を40km/hでABS作動させ、制動距離を測定し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きい方が制動距離が短く、良好であることを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表に示された実施例1と比較例3との結果の比較から、2段階混合を採用することにより耐摩耗性と氷上制動性能を共に向上させることが可能であることが分かる。また、実施例1と実施例4との比較、及び実施例3と実施例5との比較から、末端スズ変性ブタジエンゴムを使用した場合は、未変性ブタジエンゴムを使用した場合と比較して、耐摩耗性と氷上制動性能共にさらに向上させることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、乗用車、ライトトラック、トラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム(A)40〜80質量部と、この天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低い架橋されたゴム粒子と、補強性充填剤とを混合する第1混合工程と、
前記天然ゴム(A)よりもガラス転移点の低いブタジエンゴム(B)20〜60質量部(但し、前記天然ゴム(A)との合計量が100質量部となるものとする)を前記第1混合工程で得られた混合物に添加して混合する第2混合工程とを有する
ことを特徴とする、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ブタジエンゴム(B)が末端スズ変性されていることを特徴とする、請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
植物性粒状体を前記ブタジエンゴム(B)の添加と同時に添加して混合することを特徴とする、請求項1又は2に記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られた、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物。

【公開番号】特開2012−188536(P2012−188536A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52861(P2011−52861)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】