説明

スタンプ作成装置

【課題】開閉蓋の開閉に連動し、押圧板を退避位置と押圧位置との間で移動させることのできるスタンプ作成装置を提供する。
【解決手段】印面Adに露光を行うことで、スタンプ素材に印章画像を形成するスタンプ作成装置1であって、スタンプ素材が着脱自在に装着されるスタンプ装着部11を開閉する開閉蓋12と、マスクを印面Adに、押圧する押圧位置P1と退避する退避位置P2との間で移動自在に構成された押圧板50を退避位置P2に向かって付勢すると共に、退避位置P2から押圧位置P1に移動させる押圧板移動機構51と、動力装置6の回転動力を、押圧板移動機構51に伝達する押圧板移動ギヤ列52と、押圧板移動ギヤ列52に組み込まれ、開閉蓋12の開閉に連動して、相互に噛み合う任意の移動出力ギヤ52bと移動減速ギヤ52cとの噛み合いを断続させるクラッチ機構91と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを介して、光硬化性樹脂で構成された印面に露光を行うことでスタンプ素材に印章画像を形成するスタンプ作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタンプ作成用の光硬化性樹脂で構成された印面部材が装着される昇降可能なステージを有する引出し式の装着部と、インクリボンおよび印刷紙リボンを挟んでプラテンローラーに接触する印字ヘッドにより所定の印字を行った後のインクリボンを送り、マスクとして収納状態の装着部のステージ上に臨ませるリボン送り装置と、収納状態の装着部のステージ上に、マスクを挟んで臨む押圧板(リボン押さえ板)と、を備えたスタンプ作成装置が知られている(特許文献1参照)。
このスタンプ作成装置では、印面部材(スタンプ素材)に対して露光を行う際に、ステージを上昇させると共に押圧板を下降させ、マスク(インクリボン)を挟み込むことで、マスクとスタンプ素材とに位置ずれやしわが生じないように押し付けることが可能となっている。この状態で所定の露光を行うことで、適切な印面が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−127582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記したスタンプ作成装置では、露光中に何らかの要因(ユーザーの都合、装置のトラブル等)で露光を中止(または露光が停止)し、装着部からスタンプ素材を取り出したい場合、押圧板およびステージがマスクをスタンプ素材に押し付けた状態であるため、スタンプ素材の取り出しが非常に困難であるという問題があった。無理に装着部を引き出した場合、インクリボン(マスク)は損傷または破断し、押圧板等が損傷する虞もあった。
【0005】
本発明は、装着部を開閉する開閉蓋の開閉に連動して、押圧板を退避位置と押圧位置との間で移動させることのできるスタンプ作成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスタンプ作成装置は、マスクを介して、光硬化性樹脂で構成された印面に露光を行うことで、スタンプ素材に印章画像を形成するスタンプ作成装置であって、スタンプ素材が着脱自在に装着される装着部と、装着部を開閉する開閉蓋と、マスクを印面に押圧する押圧位置と印面から退避する退避位置との間で移動自在に構成された押圧板と、押圧板を退避位置に向かって付勢すると共に、退避位置から押圧位置に移動させる押圧板移動機構と、押圧板移動機構を駆動する動力源と、動力源の回転動力を、押圧板移動機構に伝達する押圧板移動ギヤ列と、押圧板移動ギヤ列に組み込まれ、開閉蓋の開閉に連動して、前記押圧板移動ギヤ列を構成する任意の一対のギヤ間の噛み合いを断続させるクラッチ機構と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、開閉蓋を閉塞すると一対のギヤが相互に噛み合い、動力源の回転動力が、押圧板移動ギヤ列を介して押圧板移動機構に伝達可能となる。この状態で、動力源を駆動すると、押圧板移動機構の付勢力に抗して押圧板が押圧位置に移動する。押圧板が押圧位置に移動し動力源が駆動を停止すると、押圧板移動機構の付勢力は、押圧板移動ギヤ列から動力源への逆方向、すなわち増速方向に作用する。このため、回転負荷が大きくなり押圧板移動ギヤ列は回転せず、押圧板は押圧位置に維持される。この状態から開閉蓋を開放すると、両ギヤの噛み合いが解かれ、低負荷となった押圧板移動ギヤ列の押圧板移動機構側のギヤが、押圧板移動機構の付勢力により回転すると同時に、この付勢力により押圧板が退避位置に移動する。すなわち、開閉蓋を開放すると、押圧板は押圧位置から退避位置に自動的に移動する。このように、開閉蓋を開放したときには、押圧板は退避位置に移動しているため、装着部に装着したスタンプ素材を容易に取り外すことができる。すなわち、開閉蓋の開放時には、常に押圧板の印面に対する押圧は解除されているため、マスク、スタンプ素材および押圧板等を破損してしまうことがない。
【0008】
この場合、開閉蓋を跳ね上げて開放する蓋開放ばねと、蓋開放ばねに抗して開閉蓋をロック・アンロックする操作子付きの蓋開閉機構と、を更に備え、クラッチ機構は、蓋開閉機構に連結され、操作子により断続操作されることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、開閉蓋は、操作子を操作してロックを解除(アンロック)することで、蓋開放ばねの作用により自動的に開放され、閉塞時には、操作子により開閉蓋がロックされる。すなわち、スタンプ素材を装着部に対し着脱するためにユーザーが行う通常の蓋開閉操作を利用して、クラッチ機構を断続作動させることができる。これにより、ユーザーの手を煩わせることなく、開閉蓋の開放時に、自動的に押圧板を退避位置へと移動させることができる。
【0010】
また、この場合、押圧板移動ギヤ列は、動力源からの回転動力を受ける移動入力ギヤと、回転動力の出力端となる移動出力ギヤと、移動入力ギヤから移動出力ギヤに回転動力を伝達する移動減速ギヤと、を有し、クラッチ機構は、移動減速ギヤを回動自在に軸支すると共に、移動減速ギヤに噛み合う移動入力ギヤのギヤ軸に回動自在に支持された作動アームを有し、蓋開閉機構は、先端に操作子を有し、支軸を中心にロック位置とアンロック位置との間で回動自在に構成され、作動アームを介して、移動減速ギヤが、移動出力ギヤに噛み合う動力伝達位置と、移動出力ギヤとの噛み合いを解く動力遮断位置との間で回動させることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、ロック位置とアンロック位置との間における操作子の回動を、動力伝達位置と動力遮断位置との間における作動アームの回動に連動させることができる。これにより、動力源から押圧板移動機構への回転動力の伝達を確実に断つことができ、押圧板を押圧位置から退避位置に移動させることができる。また、移動出力ギヤと移動減速ギヤとの噛み合いを解くことで、押圧板を退避位置に移動させるための負荷を最も小さくすることができる。なお、移動出力ギヤは、移動減速ギヤに対し動力伝達の下流側となるギヤが好ましいが、上流側となるギヤであっても良い。
【0012】
この場合、押圧板は、押圧位置と退避位置との間で進退自在に構成され、押圧板移動機構は、押圧板を保持する押圧板フレームと、押圧板フレームを介して、押圧板を退避位置に向かって付勢する戻しばねと、押圧板フレームと、押圧板移動ギヤ列の出力端となる移動出力ギヤとの間に介設され、押圧板を押圧位置に移動させるカム機構と、を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、押圧板移動ギヤ列から伝達した回転動力を、カム機構を介して押圧板を保持した押圧板フレームの進退動に変換することができる。これにより、移動出力ギヤとカム機構との作用により、退避位置にある押圧板フレームは、戻しばねに抗して押圧位置に移動させられ、また、押圧位置にある押圧板フレームは、戻しばねにより退避位置に移動させられる。つまり、適正な押圧板の移動を実施することができる。
【0014】
この場合、カム機構は、移動出力ギヤの端面の偏心位置に設けられた偏心突起と、押圧板フレームに形成され、戻しばねにより偏心突起に係合するカム部を含むカム開口と、を有していることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、移動出力ギヤの回転により、カム開口に係合した偏心突起も回転し、この回転が押圧板フレームの進退動に変換される。また、回転を進退動に変換するカム機構を簡単に形成することができる。
【0016】
また、この場合、移動出力ギヤの回転中心と押圧位置における偏心突起の中心とを結ぶ仮想線が、押圧板フレームの移動方向に対し角度ズレしていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、押圧板移動機構の付勢力が、押圧板フレームを介して偏心突起に作用したときに、押圧板フレームに対し偏心突起の位置が死点となるのを回避することができる。これにより、移動出力ギヤへの噛み合い解除による押圧板フレームの退避位置への移動を確実に行うことができる。
【0018】
この場合、動力源は、モーターであり、モーターと押圧板移動ギヤ列との間に介設され、モーター側のウォームおよび押圧板移動ギヤ列側のウォームホイールから成る、ウォームギヤを、更に備えたことが好ましい。
【0019】
この構成によれば、高い減速比が得られるため、動力源を小型(低出力)のモーターで構成することができる。また、高い減速比を利用してモーターの停止により、押圧板移動ギヤ列の出力側に連なる押圧板を押圧位置に保持することができる。これにより、大型のモーターや押圧板を押圧位置に保持するための機構を設ける必要がないため、スタンプ作成装置を小型化することができ、その製造コストも低廉にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るスタンプ作成装置の閉蓋状態の外観斜視図(a)および開蓋状態の外観斜視図(b)である。
【図2】開閉蓋およびメンテナンスカバーを取り外したスタンプ作成装置に、リボンカセットが装着された状態の平面図(a)およびリボンカセットが取り外された状態の平面図(b)である。
【図3】スタンプ作成装置の装置ケースを取り除いた分解斜視図である。
【図4】製版シート(a)およびスタンプ本体(b)の構造図である。
【図5】リボン送りギヤ列、押圧板移動ギヤ列および動力装置の相互間の動作を説明する平面図である。
【図6】離接機構の動作を説明するための斜視図である。
【図7】離接機構の動作を説明するための正面図(a)(c)(e)および側面図(b)(d)(f)である。
【図8】露光装置、リボン送りギヤ列および動力装置の斜視図である。
【図9】露光装置の動作を説明する平面図である。
【図10】クラッチ機構の動作を説明する斜視図(a)(c)および平面図(b)(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係る電子機器の例としてスタンプ作成装置について説明する。このスタンプ作成装置は、印面を紫外線硬化樹脂で形成した印章本体(処理対象物)に、インクリボンに印字(印刷)した印章文字(絵柄を含む印章画像)をマスクとして紫外線を露光し、所望の印章(スタンプ)を作成するものである。なお、以降の説明では、各図に示したように「前・後」および「左・右」を規定し、「前・後」および「左・右」に直交する方向を「上・下」と規定して説明する。
【0022】
図1ないし図3を参照して、スタンプ作成装置1について説明する。図1は、スタンプ作成装置1の閉蓋状態の外観斜視図(a)および開蓋状態の外観斜視図(b)である。図2は、開閉蓋12およびメンテナンスカバー14が取り外されたスタンプ作成装置1に、リボンカセット3が装着された状態の平面図(a)およびリボンカセット3が取り外された状態の平面図(b)である。図3は、スタンプ作成装置1の装置ケース2を取り除いた分解斜視図である。スタンプ作成装置1は、その外殻を形成する上下に2分割の装置ケース2と、インクリボンCを繰り出し自在に搭載したリボンカセット3と、リボンカセット3のインクリボンCを送りながら製版シートBに印刷を行う印刷装置4と、サーマルヘッド44をプラテンローラー45に対して離接移動させる離接装置7と、印字後のインクリボンCをマスクとして、スタンプ本体Aの印面Adに露光を行う露光装置5と、印刷装置4および露光装置5の動力源となる動力装置6と、印刷装置4、露光装置5および動力装置6を支持するベースフレーム8と、印刷装置4、露光装置5および動力装置6の駆動を制御する制御基板(図示省略)と、を備えている。ベースフレーム8は、略矩形の板状の部材であり、後述するプラテンローラー45および巻取り軸48に係合し、それらを支持するプラテン支持軸81および巻取り支持軸82が立設している(図3参照)。
【0023】
装置ケース2の上面中央部には、スタンプ本体Aを装着するためのスタンプ装着部11が形成されている。スタンプ本体Aは、その印面Adを、露光装置5(詳細は後述する。)に面するようにスタンプ装着部11に装着される(図1(b)参照)。
【0024】
また、スタンプ装着部11には、開閉蓋12が設けられている。開閉蓋12は、後側の一辺を回転軸(ヒンジ)とし、この回転軸に嵌合した蓋開放ばね21により、その手前側を跳ね上げるようにして開放される。開閉蓋12の手前側左寄りには、ユーザーが操作するオープンレバー13(詳細は後述する。)の回動を許容するための切欠き部22が切り込まれて形成されている。また、開閉蓋12のスタンプ装着部11側の面、手前側左端には、オープンレバー13に係合するフック部23が突設されている。
【0025】
スタンプ装着部11の手前側左寄りには、開閉蓋12を開放させるためのオープンレバー13が配設されている。オープンレバー13は、装置ケース2に対し上下方向略中央部分に設けられたレバー支軸27を中心に左右方向に回動可能に軸支された操作支持部25と、操作支持部25の上端部に形成されたブロック状の操作ヘッド部26(操作子)と、で一体形成されている(図10(a)(b)参照)。操作支持部25の基端部には、後述するクラッチ機構91の作動アーム92に開口した係合孔93に係合する係合突起28が設けられている。操作ヘッド部26は、上記した開閉蓋12の切欠き部22に臨み、操作ヘッド部26の下面は、上記したフック部23が掛止めされるフック掛部29となっている(図10(a)(b)参照)。フック掛部29は、フック部23に対し右側から係合することで開閉蓋12を閉塞する。また、レバー支軸27には、いわゆる捻りばね(図示省略)が嵌合しており、この捻りばねは、オープンレバー13を左回り方向に付勢し、フック部23とフック掛部29との掛止め状態を維持する。したがって、オープンレバー13を、捻りばねに抗して回動させると、フック部23との係合が解除され、開閉蓋12は、蓋開放ばね21の作用により後方に跳ね上げられる。なお、開閉蓋12は跳ね上げられた後、ユーザーにより完全開放することができる。また、請求項に言う「蓋開閉機構」は、開閉蓋12のフック部23およびオープンレバー13のフック掛部29により構成されている。
【0026】
スタンプ装着部11(開閉蓋12)の後側には、これに沿うように略「L」字型のメンテナンスカバー14が着脱自在に設けられており、メンテナンスカバー14の内部には、リボンカセット3が装着されるカセット装着部15が形成されている。また、装置ケース2の右側部には、後述する印章文字ラベル作成用の製版シートBを挿入するための差込口16と、印字後の製版シートBが排出される取出口17と、が形成されている(図1参照)。
【0027】
なお、図示は省略するが、装置ケース2の背面には、スタンプ作成装置1を制御するためのPCと接続するための接続端子等が設けられている。PCからの操作で製版(印字)動作や露光動作等の各動作の実行命令がされる。なお、PCとの接続をせずに、装置ケース2にキーボード、プッシュボタン群および操作ダイヤル等からなる入力部を構成してもよい。
【0028】
ここで、図1および図2を参照し、印章を作成する場合の一連の操作について簡単に説明する。先ず、オープンレバー13を操作して開閉蓋12を開放し、スタンプ装着部11にスタンプ本体Aをセットする。このスタンプ本体Aのセットに伴い、図外の検出装置によりスタンプ本体Aの種別が検出され、この検出結果がPCに送信される。次にPCを操作してスタンプ本体Aの種別に応じた領域に印章文字を入力する。印章文字の入力が完了したら、印章文字ラベルBdが作り込まれた製版シートBを、差込口16に挿入してセットする。
【0029】
次に、PCを操作して印字を行わせる。この印字は、製版動作となるため、インクリボンCと製版シートBとに同時に為される。印字が完了すると、インクリボンCの印字部分は露光のために露光装置5に送られ、同時に製版シートBは取出口17から外部に送り出される。ここで、送り出された製版シートBにより、印章文字に誤りがないことを確認した後に、PCを操作して印面Adに対して露光動作が行われる。
【0030】
露光動作が完了したら、オープンレバー13を操作して開閉蓋12を開放し、スタンプ装着部11からスタンプ本体Aを取り出して、これを洗浄することにより印章が完成する。そして、上記の製版シートBから印章文字ラベルBdを剥して、これをスタンプ本体Aの背面(印面Adに対向する面)に貼着する。なお、本実施形態では、製版動作および露光動作の命令は、スタンプ作成装置1に接続したPC上から行っているが、スタンプ作成装置1に設けられた所定のボタン等を操作することで、製版動作および露光動作を行わせるようにしてもよい。
【0031】
図2に示すように、リボンカセット3は、装置ケース2のカセット装着部15に対し着脱自在に装着されており、インクリボンCの消耗に際し交換できるようになっている(図2(a)参照)。リボンカセット3は、平面視「L」字型に形成されており、インクリボンCが巻回した巻出しリール18が「L」字の短辺の端部に設けられ、巻出しリール18から繰り出されたインクリボンCを巻き取る巻取りリール19が「L」字の長辺の端部に設けられている。インクリボンCは、巻出しリール18から送り出され略「L」字状に屈曲して巻取りリール19に巻き取られる。巻出しリール18から繰り出されたインクリボンCは、ガイドピン3aを介して印刷装置4に導かれ、第1経路ピン46aおよび第2経路ピン46bを介して露光装置5に導かれ、露光装置5から第3経路ピン46cおよびテンションピン(図示省略)を介して、巻取りリール19に巻き取られる(図2(b)参照。なお、ガイドピン3aおよびテンションピンは、リボンカセット3に設けられ、第1経路ピン46a、第2経路ピン46bおよび第3経路ピン46cは、装置ケース2のカセット装着部15に配設されている。
【0032】
インクリボンCは、透明なリボンテープとこれに塗布したインクとから成り、本実施形態では、6μm厚のものが用いられている。印刷装置4においてこのインクリボンCに印字が行われると、インクの部分が製版シートBに転写する。これにより、インクリボンCのリボンテープには、インクの文字の部分が剥離したネガ画像が形成され、製版シートBには、インクの文字の部分が付着したポジ画像が形成される。そして、インクリボンCは、これをマスクとして利用すべく先方の露光装置5に送られる。一方、製版シートBは、装置ケース2の外部に送り出される。
【0033】
図4を参照して、製版シートBおよびスタンプ本体Aについて説明する。図4は、製版シートB(a)およびスタンプ本体A(b)の構造図である。図4(a)に示すように、製版シートBは、ベースシートBaと、粘着シートBbと、が積層されて全体が短冊形に形成されている。粘着シートBbには、方形に切り線Bcが形成され、これに沿ってベースシートBaから剥した粘着シートBbの方形部分がスタンプ本体Aの背面に貼着する印章文字ラベルBdとなる。スタンプ本体Aは、用途に合わせて形状の異なる複数種のものが用意されており、これに対応して製版シートBも、その印章文字ラベルBdの部分の形状が異なる複数種のものが用意されている。
【0034】
一方、図4(b)に示すように、スタンプ本体A(スタンプ素材)は、台木Aa(本実施形態は樹脂製)の先端に薄手のスポンジAb(発泡ウレタン)が貼着され、スポンジAbに対して、紫外線の影響を受けない樹脂ベースAcと、紫外線硬化樹脂(硬化前は水溶性)で形成された印面Adと、を積層して構成されている。この印面Adに対してマスクとなる印字後のインクリボンCを密着させた状態で紫外線を照射することにより、印面Adの印章文字に相当する部分が硬化して露光が終了する。その後、印面Adの未硬化部分を洗い流すと硬化した部分が印章となる。また、スタンプ本体Aは、印面Adを保護する樹脂製のキャップAeを有している。なお、上記の紫外線硬化樹脂に代えて紫外線軟化樹脂を用いてもよく、かかる場合にはインクリボンCと製版シートBのポジ・ネガを逆にすれば、本実施形態と同一の印章を作成することができる。
【0035】
続いて、図2、図3および図5を参照して、印刷装置4について説明する。図5は、リボン送りギヤ列43、押圧板移動ギヤ列52および動力装置6の相互間の動作を説明する平面図である。印刷装置4は、製版シートBの走行経路となるシート経路部41と、巻取りリール19およびプラテンローラー45を回転駆動してインクリボンCを走行させるリボン送り機構42と、動力装置6の回転動力をリボン送り機構42に伝達するリボン送りギヤ列43と、インクリボンCを挟んでプラテンローラー45に接触して製版シートBに印字を行うサーマルヘッド44と、を備えている。なお、図3における符号44aは、サーマルヘッド44に制御信号を送信するため制御基板から延びる制御ケーブルである。
【0036】
シート経路部41は、差込口16に連通する差込経路41aと、取出口17に連通する取出経路41bと、を有している。差込口16に差し込まれた製版シートBは、差込経路41aを通ってインクリボンCと共にサーマルヘッド44とプラテンローラー45との間に挟み込まれ、インクリボンCの送りに伴い印字が行われる。そして印字後の製版シートBは、取出経路41bを通って取出口17から排出される。
【0037】
リボン送り機構42は、上記した、プラテンローラー45と、インクリボンCの走行経路を規定する第1経路ピン46a、第2経路ピン46bおよび第3経路ピン46cと、巻出しリール18が係合する巻出し軸47と、巻取りリール19が係合する巻取り軸48と、を有している。プラテンローラー45および巻取り軸48は、リボン送りギヤ列43を介して動力装置6からの回転動力により、それぞれ軸回転する。なお、巻取り軸48は滑り軸になっており、巻取りリール19にインクリボンCが巻き取られる際の周速の変化を、滑りを生ずることにより吸収している。巻出し軸47は、装置ケース2のカセット装着部15に配設されている。
【0038】
リボン送りギヤ列43は、動力装置6からの回転動力を受ける送り入力ギヤ43aと、プラテンローラー45が軸着するプラテン出力ギヤ43bと、巻取り軸48が軸着する巻取り出力ギヤ43cと、送り入力ギヤ43aからプラテン出力ギヤ43bに回転動力を伝達するプラテン減速ギヤ列43dと、送り入力ギヤ43aから巻取り出力ギヤ43cに回転動力を伝達する巻取り減速ギヤ43eと、を有している。リボン送りギヤ列43は、後述する押圧板フレーム53とベースフレーム8との間に介設されており、特に図示しないが、リボン送りギヤ列43の各ギヤは、ベースフレーム8上に回転自在に支持されている(図3参照)。
【0039】
送り入力ギヤ43aは、後述する動力切替機構62のクラッチギヤ64に噛み合うことで動力装置6に連動し回転する(図5(a)参照)。送り入力ギヤ43aの回転は、所定の減速比を有する複数のギヤからなるプラテン減速ギヤ列43dを介してプラテン出力ギヤ43bに伝わると同時に、巻取り減速ギヤ43eを介して所定の減速比をもってプラテン出力ギヤ43bに伝わる。プラテン出力ギヤ43bは、軸着したプラテンローラー45と共に、上記したベースフレーム8に立設したプラテン支持軸81に回転自在に係合している。同様に、巻取り出力ギヤ43cは、軸着した巻取り軸48と共に、上記したベースフレーム8に立設した巻取り支持軸82に回転自在に係合している。なお、リボン送りギヤ列43を構成するギヤの枚数は任意である。
【0040】
続いて、図1、図3、図6および図7を参照して、離接装置7の説明をする。図6は、離接装置7の動作を説明するための斜視図である。図7は、離接装置7の動作を説明するための正面図(a)(c)(e)および側面図(b)(d)(f)である。なお、図6および図7では、装置ケース2等の説明に不要な構成を省略して表示している。離接装置7は、プラテンローラー45にインクリボンCが張り付いてしまうという問題を解消するべく、非使用時にはサーマルヘッド44とプラテンローラー45とを十分に離間させ、使用時にのみサーマルヘッド44をインクリボンCを介してプラテンローラー45に押圧させるものである。
【0041】
離接装置7は、サーマルヘッド44をプラテンローラー45に対して離接移動させるヘッドリリース機構71と、スタンプ本体Aのスタンプ装着部11への着脱および開閉蓋12の開閉に連動し、ヘッドリリース機構71によるサーマルヘッド44の離接移動を許容または阻止するロック・アンロック機構72と、を有している。
【0042】
ヘッドリリース機構71は、支軸73aを中心に回動自在に構成され、サーマルヘッド44をプラテンローラー45に離接するように回動させるヘッド回動リンク73と、支軸73aに嵌合したいわゆる捻りばねであり、サーマルヘッド44がプラテンローラー45から離間するように付勢するヘッド戻しばね74と、上記した開閉蓋12の閉塞に連動し、ヘッド戻しばね74に抗してヘッド回動リンク73を回動させると共に、開閉蓋12の開放に連動し、ヘッド戻しばね74によりヘッド回動リンク73を回動させる連動リンク75と、ヘッド回動リンク73と連動リンク75との間に介設されたいわゆる引張りばねからなる連結ばね76と、を有している。以下、説明を簡単にするために、サーマルヘッド44がプラテンローラー45に対して、接触する位置を接触位置P3とし、離間する位置を離間位置P4として説明する。
【0043】
ヘッド回動リンク73は、プラテンローラー45の近傍に位置し、プラテンローラー45側の端部付近において、ベースフレーム8に形成された支軸嵌合部83に回転自在に嵌合する支軸73aに支持されている。また、ヘッド回動リンク73には、プラテンローラー45から離間した端部において、連結ばね76の一端が係合すると共に、ロック・アンロック機構72が当接する。ヘッド回動リンク73は、支軸73aを支点とした「てこ」のように回動する。また、ヘッド回動リンク73の形状(屈曲の角度や支軸73aの形成位置等)によって、所望の離間距離を設定できるため、インクリボンCの交換時において、プラテンローラー45とサーマルヘッド44との間隙へのインクリボンCの着脱を容易にすることができる。
【0044】
連動リンク75は、上記した開閉蓋12のフック部23が当接する略三角形状に形成されたフック当接部75aと、フック当接部75aから下方に延在し連結ばね76が係合する連結ばね係合部75bと、を有している。連動リンク75(連結ばね係合部75b)は、フック当接部75aの最上部の角部分を中心にして左右方向に回動(揺動)するように構成されている。
【0045】
続いて、ロック・アンロック機構72は、ヘッド回動リンク73に離接自在に係合するロックレバー77と、スタンプ装着部11に対するスタンプ本体Aの着脱に連動して、ロックレバー77を回動させるレバー作動部材78と、で一体に形成されている。
【0046】
ロックレバー77の下方端部には、ヘッド回動リンク73側に向かってブロック状のリンク当接部77aが凸設され、これにヘッド回動リンク73が、右側から当接するようになっている。以下、説明を簡単にするために、ロックレバー77がヘッド回動リンク73に当接可能な位置を回動阻止位置P5とし、ロックレバー77が図6および図7において手前側に回動し、ヘッド回動リンク73との当接が不能である位置を回動許容位置P6として説明する。なお、ベースフレーム8には、ロックレバー77の左側に添設されロックレバー77(リンク当接部77a)の回動をガイドすると共に、ヘッド回動リンク73の回動規制端となるレバー受け部84が回動阻止位置P5と回動許容位置P6とを結ぶ方向に立設している。
【0047】
レバー作動部材78は、オープンレバー13の右側において装置ケース2に左右両持ちで軸支され、スタンプ装着部11に装着したスタンプ本体Aの背面が当接するようにスタンプ装着部11側(後側)に斜め下に向かって板状の部材が配設されている。レバー作動部材78の右寄りには、手前側からロックレバー77が接続されている。レバー作動部材78が軸支された回動部分には、いわゆる捻りばねからなるレバー戻しばね78cが嵌合しており、ロックレバー77に対して、常に回動阻止位置P5に向かうように付勢力を作用させている。
【0048】
ここで、図6および図7を参照して、離接装置7によるプラテンローラー45に対するサーマルヘッド44の離接動作を説明する。スタンプ装着部11にスタンプ本体Aを未装着で、開閉蓋12を開放した場合、連結ばね76は縮み、ヘッド回動リンク73には、主にヘッド戻しばね74の付勢力が作用するため、サーマルヘッド44は離間位置P4に臨むこととなる(図6(a)および図7(a)(b)参照)。
【0049】
次に、この状態で開閉蓋12を閉塞した場合、連動リンク75の回動に伴い連結ばね76は引っ張られ、ヘッド回動リンク73は右回りに回動する。しかし、ヘッド回動リンク73は、ロックレバー77に当接し、その回動が阻止される。したがって、サーマルヘッド44は、離間位置P4に臨む状態を維持することとなる(図6(b)および図7(c)(d)参照)。この際、連結ばね76が伸びるため、開閉蓋12の閉塞動作が妨げられることがなく、適切な開閉蓋12の閉塞が可能となる。また、ロックレバー77がレバー受け部84に係合することで、ヘッド回動リンク73の回動を確実に阻止し、且つロックレバー77に作用する力をベースフレーム8に逃がし、ロックレバー77の損傷等を防止することができる。
【0050】
他方、開閉蓋12を開放して、スタンプ装着部11にスタンプ本体Aを装着した場合、スタンプ本体Aの背面がレバー作動部材78当接し、スタンプ本体Aの押し込みに伴って、ロックレバー77は回動し、回動許容位置P6に臨む。
【0051】
次に、この状態で開閉蓋12を閉じた場合、連動リンク75の回動に伴い連結ばね76は引っ張られ、ヘッド回動リンク73は右回りに回動し、サーマルヘッド44は接触位置P3へと移動する(図6(c)および図7(e)(f)参照)。以上のように本実施形態のスタンプ作成装置1では、スタンプ本体Aをスタンプ装着部11に装着し、且つ開閉蓋12を閉じた場合、すなわち、ユーザーが実際にスタンプ作成装置1を使用する意思がある場合にのみサーマルヘッド44をプラテンローラー45に接触させるため、プラテンローラー45に対するインクリボンCの張り付きを確実に防止することができる。
【0052】
続いて、図3、図5、図8および図9を参照して、露光装置について説明する。図8は、露光装置5、リボン送りギヤ列43および動力装置6の斜視図である。図9は、露光装置5の動作を説明する平面図である。露光装置5は、スタンプ装着部11にセットしたスタンプ本体Aの印面Adに平行に対峙するように設けた紫外線光源(図示省略)と、紫外線光源と印面Adとの間に設けた押圧板50と、印字後のインクリボンCを印面Adに押圧する押圧位置P1と印面Adから退避する退避位置P2との間で押圧板50を移動させる押圧板移動機構51と、押圧板移動機構51の下側に位置し、動力装置6の回転動力を押圧板移動機構51に伝達する押圧板移動ギヤ列52と、を備えている。なお、印刷装置4による印字後のインクリボンCは、印面Adと押圧板50との間に臨んでいる。
【0053】
押圧板50は、印面Adと略同形状に形成された透明な樹脂(またはガラス)などで構成され、押圧板移動機構51により移動し、インクリボンCをスタンプ本体Aの印面Adに押し当てるようになっている。そして、押し当てた後、紫外線光源を点灯し、インクリボンCをマスクとして押圧板50越しに露光が行われる。なお、紫外線光源の後方に反射板を設け、紫外線を印面Adに対し、集中して照射することが好ましい。
【0054】
押圧板移動機構51は、押圧板50を保持する押圧板フレーム53と、押圧板フレーム53を介して、押圧板50を退避位置P2に向かって付勢する押圧板戻しばね54と、押圧板フレーム53と押圧板移動ギヤ列52の出力端との間に介設され、押圧板50を押圧位置P1に移動させるカム機構55と、を有している。
【0055】
押圧板フレーム53は、その主要部であるプレート部56と、押圧板50をプレート部56上に支持固定する押圧板支持部57と、を有している。プレート部56は、手前側の一辺の両角部が矩形に切欠かれ階段状に形成された部材であり、手前側の左右中央には、後述するカム機構55のカム開口59が開口している。なお、図示は省略するが、プレート部56の両端には、プレート部56の前後方向へ(押圧位置P1と退避位置P2と)の移動をガイドするスライドガイドが設けられている。
【0056】
押圧板支持部57は、カム開口59の後側において左右両端に立設した一対のステー部57aと、一対の付勢ばね57cにより各ステー部57aを介して押圧板50を前方に付勢する一対の付勢部57bと、を有している。
一対のステー部57aは、押圧板50の左右両端部が嵌め込まれるように形成されている。一対のステー部57aに嵌合した押圧板50は、各ステー部57aに対して上下2つのネジで固定されている。各付勢部57bは、各ステー部57aの両外側に配設され、各ステー部57aを押圧位置P1と退避位置P2とを結ぶ方向に微小移動可能な状態で支持している。また、各付勢部57bには、装置ケース2を受けにした各付勢ばね57cが貫通して配設されており、貫通した各付勢ばね57cは、その端部を各ステー部57aの後側から当接し、各ステー部57aを介して押圧板50を押圧位置P1に向かう方向に付勢する。この各付勢ばね57cにより、インクリボンC(マスク)を介して押圧板50をスタンプ本体Aの印面Adに適切な圧力をもって押圧することができる。
【0057】
押圧板戻しばね54は、押圧板フレーム53のプレート部56の後側、左右方向略中央に一方の端部を接続し、他方の端部を装置ケース2に接続した、いわゆる引張りばねである。この押圧板戻しばね54により、押圧板フレーム53には、常に退避位置P2に向かう力が作用する。
【0058】
カム機構55は、後述する移動出力ギヤ52bの端面の偏心位置に設けられた偏心突起58と、押圧板フレーム53に形成され、押圧板戻しばね54により偏心突起58に確動的に係合するカム部59aを含むカム開口59と、を有している。偏心突起58は、押圧板移動ギヤ列52の移動出力ギヤ52bの端面において、移動出力ギヤ52bの周縁部に立設している。
【0059】
カム開口59は、偏心突起58の回転軌道と略同一の大きさ、すなわち移動出力ギヤ52b上における偏心突起58の回動半径と略同一の半径を有する略円形の開口である。カム開口59は、偏心突起58に対して上側から臨んで係合し、偏心突起58の回動(移動出力ギヤ52bの回転)を許容する。カム開口59には、その円周上の一部から内側に略台形状に突出したカム部59aが形成されている。このカム部59aの頂部に、偏心突起58が係合したときの押圧板50の位置が押圧位置P1となる(図9(b)参照)。カム開口59に係合した偏心突起58は、移動出力ギヤ52bの回転に伴って回転し、この回転が押圧板フレーム53の進退動に変換される。このように、進退動させたい押圧板フレーム53自体にカム開口59を形成することで、回転動を進退動に変換するカム機構55を簡単に構成することができる。
【0060】
また、カム部59aは、カム開口59と偏心突起58とが係合した際に、移動出力ギヤ52bの回転中心と偏心突起58の中心とを結ぶ仮想線が、押圧板フレーム53(押圧板50)の移動方向に対し角度ズレした位置に形成されている(図9(b)参照)。これにより、詳細は後述するが、押圧位置P1において押圧板戻しばね54の付勢力が、押圧板フレーム53を介して偏心突起58に作用したときに、押圧板フレーム53に対し偏心突起58の位置が死点となるのを回避することができる。
【0061】
押圧板移動ギヤ列52は、動力装置6からの回転動力を受ける移動入力ギヤ52aと、カム機構55に係合し、回転動力の出力端となる移動出力ギヤ52bと、移動入力ギヤ52aから移動出力ギヤ52bに回転動力を伝達する移動減速ギヤ52cと、を有している。加えて、詳細は後述するが、移動出力ギヤ52bと移動減速ギヤ52cとの噛み合いを解除するためのクラッチ機構91を有している(図10参照)。移動入力ギヤ52aの回転は、移動減速ギヤ52cを介して所定の減速比をもって移動出力ギヤ52bに伝わる。なお、特に図示しないが、各ギヤは、ベースフレーム8上に回転自在に支持されている。また、押圧板移動ギヤ列52を構成するギヤの枚数は任意である。
【0062】
ここで、図9を参照して、押圧板フレーム53の前後方向の移動、すなわち押圧位置P1と退避位置P2との間における移動について説明する。押圧板50が退避位置P2に臨む状態(図9(a)参照)において、動力装置6を駆動して移動出力ギヤ52bを回転(本実施形態では右回り)させると、やがて偏心突起58がカム部59aに当接する。そこから更に移動出力ギヤ52bを回転させると、押圧板フレーム53は、その回転に従って押圧板戻しばね54に抗して前方へ移動する。そして、偏心突起58がカム部59aの頂部に達し(乗り上げる)、押圧板50が押圧位置P1に臨む(図9(b)参照)。すなわち、押圧板50は、印字後のインクリボンCを挟んでスタンプ本体Aの印面Adに押し付けられた状態となる。この状態で、移動出力ギヤ52bの回転(動力装置6)を停止すると、押圧板戻しばね54の付勢力は、押圧板移動ギヤ列52から動力装置6への逆方向、すなわち、回転負荷が大きい増速方向に作用する。したがって、押圧板戻しばね54の付勢力は、と押圧板移動ギヤ列52の増速方向への回転負荷に抗することができず(釣り合う若しくは回転負荷の方が大きい)、移動出力ギヤ52b(押圧板移動ギヤ列52)は回転せず、押圧板50は押圧位置P1に維持される。
【0063】
図示は省略するが、移動出力ギヤ52bには、偏心突起58がカム部59aの頂部に位置すること、すなわち押圧板50が押圧位置P1にあることを指標する突起が形成されている。そして、移動出力ギヤ52bの近傍には、この突起によりスイッチングされるマイクロスイッチSWが設けられている(図5参照)。本実施形態では、このマイクロスイッチSWの検出結果に基づき動力装置6の駆動の停止タイミングを制御することで、押圧板50が押圧位置P1に臨んだことを確実に検出することができる。なお、突起およびマイクロスイッチSWに代えて、偏心突起58がカム部59aの頂部に位置する回転範囲を示すマークを形成し、このマークを読み取るフォトセンサー等を配設してもよい。
【0064】
次に、偏心突起58がカム部59aの頂部に位置する状態から、さらに移動出力ギヤ52bを回転(正転・逆転どちらでも良い。)させると、偏心突起58とカム部59aとの係合が解け、その回転に従って押圧板戻しばね54の付勢力により押圧板フレーム53は後方へ移動する。そして、押圧板50は退避位置P2に臨むこととなる(図9(a)参照)。なお、装置ケース2には、押圧板フレーム53の後方への移動を規制する度当り(図示省略)が設けられている。
【0065】
以上のように本実施形態のスタンプ作成装置1では、動力装置6から伝達した回転動力をカム機構55を介して押圧板フレーム53(押圧板50)の進退動に変換することができる。これにより、退避位置P2と押圧位置P1との間における押圧板50の移動を適切に実施することができる。なお、本実施形態では、移動出力ギヤ52bを右回りに回転させているが、回転方向は任意である。
【0066】
続いて、図5および図8を参照して、動力装置6について説明する。動力装置6は、動力源となる単一のモーター61(DCモーター)と、モーター61の回転動力を、印刷装置4のリボン送りギヤ列43と露光装置5の押圧板移動ギヤ列52とに選択的に伝達する動力切替機構62と、を備えている。
【0067】
モーター61は、その回転駆動を制御する制御基板に接続されており、モーター61の出力軸(回転軸)には、ウォーム63(ねじ歯車)が連結されている。制御基板は、PCからの命令を受け、モーター61(ウォーム63)の回転方向を正転と逆転とで切り替える。なお、当該回転方向の切り替えは、モーター61に入力する電極(+/−)を切り替えることにより行われる。
【0068】
動力切替機構62は、リボン送りギヤ列43の送り入力ギヤ43aおよび押圧板移動ギヤ列52の移動入力ギヤ52aに選択的に噛み合うクラッチギヤ64と、クラッチギヤ64に噛み合うと共に、モーター61に連なるウォームホイール65(主ギヤ)と、ウォームホイール65が軸着されたギヤ軸に回動自在に支持されると共に、クラッチギヤ64を回転自在に軸支するクラッチアーム66と、を有している。この動力切替機構62では、クラッチアーム66がウォームホイール65に連れ回りして回動するようになっている。すなわち、モーター61の回転方向(動力)を正転と逆転とで切り替えることにより、クラッチアーム66は、送り入力ギヤ43aと移動入力ギヤ52aとの間を回動する。
【0069】
ここで、図5を参照して、動力装置6からリボン送りギヤ列43または押圧板移動ギヤ列52への回転動力の伝達について説明する。なお、本実施形態では、ウォーム63をモーター61に引き込む方向への回転を「正転」とする。印刷装置4を用いて印刷処理を行う場合、制御基板はモーター61を正転させる。すると、ウォームホイール65は左回転し、クラッチギヤ64に回転動力が伝達すると共に、クラッチギヤ64はウォームホイール65の回転に連れ回りしてリボン送りギヤ列43の方向に回動する(図5(a)参照)。そして、クラッチギヤ64は、送り入力ギヤ43aに噛み合い、モーター61の回転動力をリボン送りギヤ列43に伝える。これにより、プラテンローラー45および巻取り軸48がそれぞれ回転して印刷処理が行われる。
【0070】
次に、露光装置5を用いて露光処理を行う場合、制御基板はモーター61を逆転させる。すると、こんどは、ウォームホイール65は右回転し、この回転に連れ回りしてクラッチギヤ64は押圧板移動ギヤ列52の方向に回動する(図5(b)参照)。そして、クラッチギヤ64は、移動入力ギヤ52aに噛み合い、モーター61の回転動力を押圧板移動ギヤ列52に伝える。これにより、押圧板50が押圧位置P1(または退避位置P2)に移動する。
【0071】
以上のように、単一のモーター61の回転動力は、動力切替機構62により、リボン送り機構42(インクリボンC(マスク)の送り)と押圧板移動機構51(押圧板50の移動)とのいずれかについて選択的に用いられることとなる。すなわち、「インクリボンCの送り」および「押圧板50の移動」のいずれか一方を、単一のモーター61の回転方向を制御するという簡単な制御のみで動作切替を行うことができる。これにより、構造、制御の複雑化および製造コストを抑制することができ、且つユーザーは、簡単な操作(例えば、PC上での操作)により自動的に「インクリボンCの送り」と「押圧板50の移動」とを切り替えることができる。また、ウォームホイール65(太陽歯車)、クラッチギヤ64(遊星歯車)およびクラッチアーム66(遊星キャリア)からなる遊星歯車を応用した機構を利用することにより、簡単な構造で、リボン送り機構42および押圧板移動機構51のいずれかに回転動力を確実に伝達することができる。
【0072】
さらに、ウォーム63およびウォームホイール65から成るウォームギヤを採用することで高い減速比が得られるため、モーター61を小型(低出力)のもので構成することができる。さらに、上記したように、高い減速比を利用することにより、モーター61の停止のみで押圧板移動ギヤ列52の移動出力ギヤ52bに連なる押圧板50を押圧位置P1に保持することができる。これにより、大型のモーター61や押圧板50を押圧位置P1に保持するための機構を設ける必要がないため、スタンプ作成装置1を小型化することができ、その製造コストも低廉にすることができる。
【0073】
ところで、露光処理中に何らかの要因(ユーザーの都合、装置のトラブル等)で露光を中止(または露光が停止)し、開閉蓋12を開放してスタンプ装着部11からスタンプ本体Aを取り出したい場合がある。しかし、従来のスタンプ作成装置1では、押圧板50がマスク(インクリボンC)を印面Adに押圧した状態であるため、無理にスタンプ本体Aを取り出した場合、インクリボンCや押圧板等が損傷等する虞がある。そこで、本実施形態に係るスタンプ作成装置1では、開閉蓋12の開放に連動して、印面Adに対する押圧板50による押圧を解除するクラッチ機構91が押圧板移動ギヤ列52に組み込まれている。なお、説明は省略するが、露光処理中に開閉蓋12を開放すると点灯していた紫外線光源が自動的に消灯するようになっている。以下、図10を参照して、クラッチ機構91の説明をする。図10は、クラッチ機構91の動作を説明する斜視図(a)(c)および平面図(b)(d)である。
【0074】
クラッチ機構91は、移動減速ギヤ52cを回動自在に軸支すると共に、移動減速ギヤ52cに噛み合う移動入力ギヤ52aのギヤ軸に回動自在に支持された作動アーム92に、上記したオープンレバー13の基端部が連結されて構成されている。
【0075】
作動アーム92は、アーム上段部92aとアーム下段部92bとで上下に段差を有した段付きの板状の部材として一体に形成されている。アーム上段部92aの下面には、移動入力ギヤ52aおよび移動減速ギヤ52cが回転自在に支持されており、移動減速ギヤ52cは、左側から移動出力ギヤ52bに離接(断続)するようになっている。アーム下段部92bの上面には、オープンレバー13の操作支持部25の基端部(下端部)に設けられた係合突起28が係合する係合孔93が開口している。したがって、開閉蓋12を開放すべくオープンレバー13を右方向に回動させると、操作支持部25の基端部(係合突起28)はレバー支軸27を中心に左方向に回動する。これに伴いオープンレバー13が係合した作動アーム92も、移動入力ギヤ52aのギヤ軸を中心に回動する。
【0076】
続いて、図10を参照して、クラッチ機構91の動作について説明する。以下、説明を簡単にするために、スタンプ装着部11にはスタンプ本体Aが装着され、開閉蓋12は閉塞され、露光装置5による露光処理が行われていることとする。また、作動アーム92が臨む位置について、移動減速ギヤ52cが移動出力ギヤ52bに噛み合う位置を動力伝達位置P7とし、当該噛み合いを解く位置を動力遮断位置P8として説明する。さらに、開閉蓋12のフック部23がオープンレバー13のフック掛部29に係合した状態でのオープンレバー13の位置をロック位置P9とし、当該係合が解けた状態のオープンレバー13の位置をアンロック位置P10として説明する。
【0077】
先ず、オープンレバー13がロック位置P9に臨むときには、レバー支軸27に嵌合する捻りばねの付勢力により、移動減速ギヤ52c(作動アーム92)は動力伝達位置P7に臨んでいる(図10(a)(b)参照)。すなわち、開閉蓋12を閉塞すると移動出力ギヤ52bと移動減速ギヤ52cとが噛み合い、動力装置6からの回転動力が、押圧板移動ギヤ列52を介して押圧板移動機構51に伝達可能となる。上述したように、押圧板50(押圧板フレーム53)が押圧位置P1に臨む状態で、動力装置6(のモーター61)の駆動を停止すると、押圧板戻しばね54の付勢力は、増速方向(回転負荷大)に作用するため押圧板移動ギヤ列52は回転せず、押圧板50は押圧位置P1に維持される。
【0078】
ここから、オープンレバー13の操作ヘッド部26を右側に倒すと、オープンレバー13がアンロック位置P10に移動し、開閉蓋12は蓋開放ばね21の作用により自動的に開放されると同時に作動アーム92は回動し、動力遮断位置P8に移動する(図10(c)(d)参照)。すなわち、開閉蓋12を開放すると、移動出力ギヤ52bと移動減速ギヤ52cとの噛み合いが解かれ、移動出力ギヤ52bは自由に回転する。また、上述したように、押圧板フレーム53に開口したカム開口59に係合する偏心突起58は、移動出力ギヤ52bの回転中心と角度ズレした位置に形成されているため、低負荷となった移動出力ギヤ52bは、押圧板戻しばね54の付勢力により回転すると同時に、この付勢力により押圧板50(押圧板フレーム53)は、退避位置P2に移動する。このように、開閉蓋12の開放に連動して押圧板50は、自動的に印面Adに対する押圧が解除されるため、スタンプ装着部11に装着したスタンプ本体Aを容易に取り外すことができる。これにより、スタンプ本体Aを取り出す際にインクリボンC、スタンプ本体Aおよび押圧板50等を破損してしまうことがない。また、ユーザーが通常行う開閉蓋12の開閉操作であるロック位置P9とアンロック位置P10との間におけるオープンレバー13の回動を、動力伝達位置P7と動力遮断位置P8との間における作動アーム92の回動に連動させることができる。これにより、ユーザーは、何ら特別な操作を行うことなく、開閉蓋12の開放時と同時に押圧板50を自動的に退避位置P2に移動させることができる。
【0079】
なお、本実施形態のクラッチ機構91の構成に代えて、作動アーム92に移動減速ギヤ52cおよび移動出力ギヤ52bを回転自在に軸支させると共に、移動出力ギヤ52bのギヤ軸を中心に回動させる構成とし、移動減速ギヤ52cと移動入力ギヤ52aとの噛み合いを断続させるようにしてもよい。
しかし、押圧板50を退避位置P2に移動させるための負荷を最も小さくするためには、本実施形態のクラッチ機構91のように、押圧板移動ギヤ列52の最下流に位置する移動出力ギヤ52bとの噛み合いを断続させることが好ましい。
【0080】
以上のスタンプ作成装置1によれば、開閉蓋12を開放すると、押圧板50は押圧位置P1から退避位置P2に自動的に移動するため、スタンプ装着部11に装着したスタンプ本体Aを容易に取り外すことができる。また、スタンプ本体Aをスタンプ装着部11に対し着脱するためにユーザーが行う通常の開閉蓋12の開閉操作を利用して、クラッチ機構91を断続作動させることができる。これにより、ユーザーの手を煩わせることなく、開閉蓋12の開放時に、自動的に押圧板50を退避位置P2へと移動させることができる。
【符号の説明】
【0081】
1:スタンプ作成装置、6:動力装置、11:スタンプ装着部、12:開閉蓋、21:蓋開放ばね、23:フック部、29:フック掛部、50:押圧板、51:押圧板移動機構、52:押圧板移動ギヤ列、52a:移動入力ギヤ、52b:移動出力ギヤ、52c:移動減速ギヤ、53:押圧板フレーム、54:押圧板戻しばね、55:カム機構、58:偏心突起、59:カム開口、59a:カム部、61:モーター、63:ウォーム、65:ウォームホイール、91:クラッチ機構、92:作動アーム、A:スタンプ本体、Ad:印面、C:インクリボン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを介して、光硬化性樹脂で構成された印面に露光を行うことで、スタンプ素材に印章画像を形成するスタンプ作成装置であって、
前記スタンプ素材が着脱自在に装着される装着部と、
前記装着部を開閉する開閉蓋と、
前記マスクを前記印面に押圧する押圧位置と前記印面から退避する退避位置との間で移動自在に構成された押圧板と、
前記押圧板を前記退避位置に向かって付勢すると共に、前記退避位置から前記押圧位置に移動させる押圧板移動機構と、
前記押圧板移動機構を駆動する動力源と、
前記動力源の回転動力を、前記押圧板移動機構に伝達する押圧板移動ギヤ列と、
前記押圧板移動ギヤ列に組み込まれ、前記開閉蓋の開閉に連動して、前記押圧板移動ギヤ列を構成する任意の一対のギヤ間の噛み合いを断続させるクラッチ機構と、を備えたことを特徴とするスタンプ作成装置。
【請求項2】
前記開閉蓋を跳ね上げて開放する蓋開放ばねと、
前記蓋開放ばねに抗して前記開閉蓋をロック・アンロックする操作子付きの蓋開閉機構と、を更に備え、
前記クラッチ機構は、前記蓋開閉機構に連結され、前記操作子により断続操作されることを特徴とする請求項1に記載のスタンプ作成装置。
【請求項3】
前記押圧板移動ギヤ列は、前記動力源からの回転動力を受ける移動入力ギヤと、前記回転動力の出力端となる移動出力ギヤと、前記移動入力ギヤから前記移動出力ギヤに前記回転動力を伝達する移動減速ギヤと、を有し、
前記クラッチ機構は、前記移動減速ギヤを回動自在に軸支すると共に、前記移動減速ギヤに噛み合う移動入力ギヤのギヤ軸に回動自在に支持された作動アームを有し、
前記蓋開閉機構は、先端に操作子を有し、支軸を中心にロック位置とアンロック位置との間で回動自在に構成され、前記作動アームを介して、前記移動減速ギヤが、前記移動出力ギヤに噛み合う動力伝達位置と、前記移動出力ギヤとの噛み合いを解く動力遮断位置との間で回動させることを特徴とする請求項2に記載のスタンプ作成装置。
【請求項4】
前記押圧板は、前記押圧位置と前記退避位置との間で進退自在に構成され、
前記押圧板移動機構は、前記押圧板を保持する押圧板フレームと、
前記押圧板フレームを介して、前記押圧板を前記退避位置に向かって付勢する戻しばねと、
前記押圧板フレームと、前記押圧板移動ギヤ列の出力端となる移動出力ギヤとの間に介設され、前記押圧板を前記押圧位置に移動させるカム機構と、を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスタンプ作成装置。
【請求項5】
前記カム機構は、
前記移動出力ギヤの端面の偏心位置に設けられた偏心突起と、
前記押圧板フレームに形成され、前記戻しばねにより前記偏心突起に係合するカム部を含むカム開口と、を有していることを特徴とする請求項4に記載のスタンプ作成装置。
【請求項6】
前記移動出力ギヤの回転中心と前記押圧位置における前記偏心突起の中心とを結ぶ仮想線が、前記押圧板フレームの移動方向に対し角度ズレしていることを特徴とする請求項5に記載のスタンプ作成装置。
【請求項7】
前記動力源は、モーターであり、
前記モーターと前記押圧板移動ギヤ列との間に介設され、前記モーター側のウォームおよび前記押圧板移動ギヤ列側のウォームホイールから成る、ウォームギヤを、更に備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のスタンプ作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−183588(P2011−183588A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48899(P2010−48899)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】