説明

スタンプ用インクとカートリッジ及びスタンプ

【課題】従来のスタンプインクは、記録媒体に形成された画像を不可視化するために押印してもその画像が不可視化されたように一時的に見えるだけで、次第に画像が浮き出てきて画像が透けて見えるといった問題があった。
【解決手段】本発明のスタンプ用インクは、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクであって、シリコーンオイル及びブチラール樹脂と25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂を含まず、色材として黒色系染料とカーボンブラックを併用したことを特徴としている。そのため従来では達成できなかった、スタンプ押印した後の乾燥した(インクが定着した)状態においていずれも前記画像は全く見えなく良好に不可視化される良好なスタンプ用インクを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクに関し、印面を備えたスタンプに供給されるスタンプ用インク及びそれを備えたカートリッジさらには、スタンプ用インクを保持する多孔質体と、前記多孔質体から前記インクが転写されるスタンプ印面と、前記印面を前記記録媒体に押圧するための回転機構と、を備えたスタンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙等の記録媒体に残された記録(個人情報や機密情報等)を外部や他人に知られることが多くなり、紙粉砕機や裁断機で処理する方式も結果としてのごみがかさばり、処理の困難性を伴うという問題があった。そこで、知られたくない情報や住所、氏名の部分等を不可視の状態にするためのインク転写式のスタンプが用いられるようになってきた。 そのスタンプに用いられるインクは、蒸発等の関係から油性黒色顔料インクが用いられることが一般的であるが、単純に印面に付着した黒色顔料インクが転写されることで、転写時に記録画像が不可視になるため、十分な検討がなされていないのが現状である。例えば、特許文献1にあるように、カラーインクと黒色インクを同時にスタンプできる2色スタンプでは、単純に染料インクの転写部とカーボンブラックの黒色転写部をもつ多色スタンプが開示されているだけである。
【0003】
また、スタンプ用インクとして特許文献2、3には、「グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類からなる群から選択される少なくとも1種である有機溶剤と、顔料及び/又は染料からなる着色剤と、25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂と、フッ素系界面活性剤とを含有する浸透印用及びスタンプ台用及び朱肉用インキ組成物」と記載されている。この樹脂としては、「使用する着色剤により、樹脂の特性が異なり、着色剤に顔料を用いた場合は、分散剤又は分散剤兼固着剤となりうるものであり、上記有機溶剤に溶解し、顔料を分散するものであればよく、また、着色剤に染料を用いた場合は、固着剤として配合するものとなる。」と記載されている。
【0004】
なお、この特許文献2、4には、「本発明において、着色剤が顔料単独の場合は、25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる分散樹脂又は分散兼固着樹脂の1種又は2種以上使用され、インキの性能に応じて固着樹脂を更に添加することもできる。また、着色剤が染料単独の場合は、25℃における水及びエタノールへの溶解度が1%以下となる固着樹脂が使用され、更に、着色剤が顔料及び染料の併用使用の場合は、25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる分散樹脂又は分散兼固着樹脂の1種又は2種以上使用され、インキの性能に応じて固着樹脂が使用される。」と記載されている。また、具体的には、「これらの物性を満足する樹脂としては、例えば、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ヒドロキシル変性塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、カルボキシル変性塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー等のビニル樹脂及びその変性ビニル樹脂、メタクリル酸およびアクリル酸のエステルの単独および共重合体を主成分としたアクリル系樹脂、あるいはそれらの誘導体を用いた特殊なアクリル系モノマーを使用した重合体等のアクリル系樹脂、フルオロオレフィンと複数のアルキルビニルエーテルとからなる共重合体のフッ素系樹脂〔例えば、商品名「ルミフロン」(旭硝子社製)、商品名「フルオネート
K−702,K−705」(大日本インキ化学工業社製)〕、その他の合成樹脂としては、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等も酸価が低ければ使用可能である〔例えば、商品名「ベッカサイト」(大日本インキ化学社製)〕。」と記載され、「また、特に、顔料沈降や粘度増加等の安定性が悪くなければ、染料及び顔料の併用もかまわない」との記載もあるが、具体的な実施例はなく、単なる記載だけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−263059号公報
【特許文献2】特許登録第3827411号
【特許文献4】特許登録第3827412号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクにおいては、上述したように、転写後記録媒体上では、インクが記録媒体表面を覆っているため、記録媒体に形成された画像が不可視状態にあって、目的を達成していると思われていた。ところが、転写後において、黒染料インクも黒顔料インクも記録媒体上でほぼ液体状態に近い状態で記録媒体表面を覆っているために一時的に目的が達成できているだけで、乾燥レベルの定着状態では、隠されて不可視状態にあるべき画像が読み取れるほどの可視状態に復活しているという新たな問題に直面した。
【0007】
念のため、特許文献2、3、に記載されている実施例を用いて、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクとして使用したところ、いずれも問題が発生した。すなわち、特許文献2,3の実施例に含有されている「25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂」が析出して、画像を覆い、結果的に画像を不可視化できなかった。同様に、ブチラール樹脂を含む顔料インクを用いても同様な問題が発生した。いずれにしても、本発明が認識する上記課題を解決できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクにおいて初期、その画像が不可視化されたように見えても、次第に画像が浮き出てくるといった新たな問題を解決するもので、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクであって、シリコーンオイル及びブチラール樹脂と25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂を含まず、色材として黒色系染料とカーボンブラックを併用したことを特徴とするスタンプ用インクである。
【0009】
本発明は、上記カーボンブラックの個数平均粒径が50nm以上であることを好ましい条件とし、また、上記黒色系染料が水性染料であって、上記カーボンブラックが自己分散カーボンブラックである水性インクであることを好ましい条件とし、あるいは、上記黒色系染料が油性染料であって上記カーボンブラックが界面活性剤分散されたカーボンブラックであること、さらには、スタンプ用インクが油性インクであって、水分を含むことを更なる好ましい条件とするスタンプ用インクである。
【0010】
本発明は、上記のいずれかのスタンプ用インクを保持したカートリッジであって、スタンプに対して着脱可能であることを特徴とするスタンプ用カートリッジを含み、上記請求項1乃至5のいずれかのスタンプ用インクを保持する多孔質体と、前記多孔質体から前記インクが転写されるスタンプ印面と、前記印面を前記記録媒体に押圧するための回転機構と、を備えたスタンプを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録媒体に形成された画像を不可視化でき、従来のような時間経過で、画像が可視化されてくるようなことが無い。特に水分を有する本発明スタンプ用インクは、時間経過により水分蒸発が画像側で多く発生するようになるので、かえって印面から転写された記録媒体中の液状インク中の色材が表面側に戻り画像を一層不鮮明に出来る。つまり、本発明は、従来より優れた不可視化を達成できるスタンプ用インクとこれを含むカートリッジおよびこのスタンプ用インクを保持する多孔質体と、前記多孔質体から前記インクが転写されるスタンプ印面と、前記印面を前記記録媒体に押圧するための回転機構と、を備えたスタンプを提供することができる。
【0012】
本発明の上記効果について記録媒体中の顔料、染料の挙動を説明する。現象の確認は、本発明の染料と顔料と水を含む場合、1日立つと表面濃度が0.2〜0.3ほど上昇したことによる。そのメカニズムは、凝集顔料の隙間に溶剤が残っていると液体含有量がかなりあるので、液体の拡散は紙の中から裏面方向に進む。ところが、この隙間を染料が埋めると液体含有量が減るので、紙全体が約40%の水分量に対して紙面表面側が相対的に少なくなるので、液体の拡散方向が紙面側に変わる部分が増えていく。すると、紙面中にある液体に分散していた顔料染料が、液体の拡散方向に向かって移動(つまり紙表面側)して水分の蒸発に伴い定着される。見た目の濃度は、紙表面から深さ40ミクロンまでにいる染料+顔料で決まるから、結果的にスタンプ押印が従来のインクジェットとは異なり、液体量が多くあるためもあって、スタンプ特有の効果として、1日立つと表面濃度が0.2〜0.3ほど上昇し、記録媒体の画像周辺の濃度を中心に全体の濃度があがるものと推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】

【図1】本発明のスタンプ用インクのイメージを示す模式図である。
【図2】本発明のスタンプ用インクの定着画像を説明する模式図である。
【図3】本発明の液体蒸発に伴う画像周辺の色材の状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスタンプ用インクは、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクであって、シリコーンオイル及びブチラール樹脂と25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂を含まず、色材として黒色系染料とカーボンブラックを併用したことを特徴としている。前記カーボンブラックは、カーボンブラックの個数平均粒径が50nm以上であることが好ましい。また、前記黒色系染料が水性染料にあっては、前記カーボンブラックが自己分散カーボンブラックである水性インクであることが好ましい。また、前記黒色系染料が油性染料にあっては、前記カーボンブラックが界面活性剤分散されたカーボンブラックであることが好ましい。またさらに、前記スタンプ用インクが油性インクにあっては、水分を含むことが好ましい。
【0015】
本発明のスタンプ用インクの組成物について以下にさらに詳述する。本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成物において、前記水性インクを構成する水生成分はカーボンブラック分散剤を更に含むことが好ましい。前記カーボンブラック分散剤を加えることにより、カーボンブラックの分散性が向上し、経時的にカーボンブラックの沈降や凝集が生じることをより十分に抑制することができる。
【0016】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成物において、前記水性インクを構成する水生成分は潤滑剤を更に含むことが好ましい。潤滑剤を加えることにより、カーボンブラックによるボール受け座の摩耗をより十分に抑制することができる。また、潤滑剤を用いた場合でも、上述した構成を有する本発明のインク組成物によれば、カーボンブラックの凝集を十分に抑制することができ、良好な経時安定性を得ることができる。
【0017】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成物において、上記油性インクを構成する油性成分は油溶性染料を更に含むことが好ましい。油性インクに油溶性染料を加えることにより、スタンプ時の押印跡をより濃く明瞭なものとすることができる。
【0018】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成物は、前記油性成分と前記水生成分を混合して本発明のインク組成物を構成することができる。この場合の前記油性成分と水性成分との含有量の比は、質量比で6:4〜7:3の範囲内であることが好ましい。前記油性成分と水性成分との含有量比を上記範囲内とすることにより、スタンプ状態及び経時安定性をより良好なものとすることができるとともに、スタンプ時の押印跡のかすれや泣き出し、ボタ等の発生をより十分に抑制することができる。
【0019】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成物は、極性溶剤と曵糸性付与剤とを含む油性成分中に、水と多価アルコールとチキソ性付与剤とカーボンブラックとを含む水性成分が分散されてなるものも使用することができる。
【0020】
前記油性成分は、極性溶剤と曵糸性付与剤とを少なくとも含有しており、前記極性溶剤は、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用油性インキに使用される極性溶剤を特に制限なく使用することができる。かかる極性溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。油性成分中の極性溶剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として20〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成物に含有することができる前記曵糸性付与剤の含有量は、筆記具用インク組成物全量を基準として0.5〜3.0質量%であることが好ましい。曵糸性付与剤の含有量が上記範囲内であることにより、エマルションをより安定化させて経時安定性をより良好なものとすることができるとともに、インクに適度な粘弾性を持たせてより滑らかなスタンプ時の押印状態を実現することができる。更に、スタンプ押印時のボタの発生や、静置時のダレの発生をより十分に抑制することができる。
【0022】
前記曵糸性付与剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。曵糸性付与剤を用いることにより、記録媒体に形成された画像を不可視化するときのボタや静置時のダレを防止することができる。また、エマルションを安定化させる効果を得ることができ、インキに適度な粘弾性を持たせることから画像を不可視化するためのスタンプ状態を滑らかにする効果を得ることができる。
【0023】
また、前記曵糸性付与剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として0.5〜3.0質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。この含有量が0.5質量%未満であると、スタンプ時のボタや静置時のダレが生じやすくなる傾向にあり、3.0質量%を超えると、インキ組成物の粘度が高くなり、スタンプ時にかすれを生じたり、スタンプしたときの押印状態の品質が低下する傾向がある。
【0024】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成は、チキソ性付与剤を含有することができる。この場合の前記チキソ性付与剤の含有量は、前記インク組成物全量を基準として0.1〜2.0質量%であることが好ましい。チキソ性付与剤の含有量が上記範囲内であることにより、インク組成物に適度なチキソ性を持たせることができ、より滑らかな押印状態を実現することができる。また、エマルションをより安定化させることができる。
【0025】
前記チキソ性付与剤としては、例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ウェランガム、ジェランガム、グァガム、ペクチン、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、アラビアガム、トラガカントガム、ラムザンガム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。チキソ性付与剤を用いることにより、インキ組成物にチキソ性を持たせ、スタンプを滑らかにする効果が得られる。また、エマルションを安定化する効果も得られる。
【0026】
また、前記チキソ性付与剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜0.5質量%であることがより好ましい。この含有量が0.1質量%未満であると、インク組成物のチキソ性が低下してスタンプしたときの押印状態が低下する傾向にあり、2.0質量%を超えると、インク組成物の粘度が高くなり押印状態の品質が低下する傾向にある。
【0027】
また、前記油性成分は、油溶性染料を更に含むことが好ましい。油溶性染料としては公知のものを特に制限なく使用することができる。かかる油溶性染料としては、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料等が挙げられ、より具体的には、例えば、スピリットブラック61F、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストイエロー1109、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1623、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1360、バリファーストレッド2320(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、アイゼンスピロンブラックGMHスペシャル、アイゼンスピロンバイオレットC−RH、アイゼンスピロンイエローC−GH
new、アイゼンスピロンブルーC−RHアイゼンスピロンS.P.T. ブルー−111、アイゼンスピロンS.P.T. ブルー−121(以上、保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。油溶性染料を用いることにより、スタンプ状態を濃く明瞭なものとすることができる。また、本発明のインク組成物においては、粘度調整樹脂を加えなかったとしても、油溶性染料によって粘度を調整することが可能である。
【0028】
油溶性染料の含有量は、インク組成物全量を基準として20〜50質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることがより好ましい。この含有量が20質量%未満であると、スタンプ状態の明瞭さが低下する傾向にあり、50質量%を超えると、インク組成物の粘度が高くなり、書き味が低下するとともに、経時的に油溶性染料の析出が生じやすくなる傾向にある。
【0029】
また、油性成分は、上記材料以外に更に他の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、例えば、粘度調整剤(樹脂等)、潤滑剤、顔料、酸化防止剤等が挙げられる。
【0030】
前記粘度調整剤としては、例えば、ケトン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、キシレン樹脂、アミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、ブチラール樹脂等を使用することができる。
【0031】
また、前記潤滑剤としては、例えば、オレイン酸などの高級脂肪酸や燐酸エステル系の潤滑剤等を使用することができる。
【0032】
また、前記顔料としては、例えば、カーボンブラック、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、スレン系、イソインドリノン系などの一般的な有機顔料等を使用することができる。
【0033】
本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成を構成する前記水性成分は、水と多価アルコールとチキソ性付与剤と顔料とを少なくとも含むものである。従来の低粘度油性インキ組成物では、スタンプしたときインクが紙に浸透しやすく裏抜けが生じやすいという問題があったが、本発明のインク組成物によれば、水を含むことにより裏抜けの発生を十分に防止することができる。ここで、水の含有量は、インク組成物全量を基準として5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。この含有量が5質量%未満であると、スタンプしたときの押印状態が低下する傾向にあり、30質量%を超えると、経時安定性が低下する傾向にある。
【0034】
また、前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。多価アルコールを用いることにより、エマルションを安定に保つことができる。
【0035】
また、前記多価アルコールの含有量は、インク組成物全量を基準として5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。この含有量が5質量%未満であると、エマルションの安定性が低下する傾向にあり、30質量%を超えると、インク組成物の粘度が高くなり、スタンプしたときの押印状態が低下するとともに、スタンプ時にかすれが生じやすくなる傾向にある。
【0036】
顔料としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。かかる顔料としては、例えば、カーボンブラック、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、スレン系、イソインドリノン系などの一般的な有機顔料等を使用することができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料を用いることにより、スタンプ時の押印状態を濃く明瞭なものとすることができるとともに、前記押印状態の耐光性を十分なものとすることができる。
【0037】
顔料の含有量は、インク組成物全量を基準として0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。この含有量が0.5質量%未満であると、スタンプ時の押印の濃さ、明瞭さ及び耐光性が低下する傾向にあり、10質量%を超えると、経時安定性が低下し、顔料の凝集や沈降が生じやすくなる傾向にある。
【0038】
また、前記水性成分は、顔料分散剤を更に含むことが好ましい。かかる顔料分散剤としては、上記顔料を分散可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸又はそのエステル、メタクリル酸又はそのエステル、マレイン酸又はそのエステルなどの1種を、単独で重合させるか、或いは、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどと共重合させた樹脂を、アルカリ金属やアミンで中和して水溶性にした水溶性樹脂や、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも水溶性樹脂が好ましく、具体的にはスチレン−マレイン酸共重合体が特に好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料分散剤を用いることにより、経時的に顔料の沈降や凝集が生じることを抑制することができ、良好な経時安定性を得ることができる。
【0039】
また、前記顔料分散剤の含有量は、インク組成物全量を基準として0.5〜5.0質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。この含有量が0.5質量%未満であると、経時的に顔料の沈降や凝集が生じやすくなる傾向にあり、5.0質量%を超えると、インク組成物の粘度が高くなりスタンプの押印状態が低下する傾向にある
【0040】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成を構成するインキ中のカーボンブラックの平均粒径は、60〜130nmであることが好ましく、更に好ましくは、101〜130nmである。60nm未満では、塗膜に透過性が発現し、結果として透明な部材にスタンプしたときの押印状態が薄く見えてしまい好ましくない。一方、130nmより大きい場合には、スタンプ時の濃度変化が起こりやすく、結果としてスタンプ印面が詰まったり、インクの出(で)が悪くなって好ましくない。
【0041】
また、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インキ組成を構成するインキの粘度は、3〜20cPであることが好ましく、5〜15cPであることがより好ましい。3cP未満では、十分な着色剤や固着剤を添加できず、十分な性能が得られない。一方、20cPを超えると、スタンプ時の押印がかすれやすく好ましくない。
【0042】
本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成を構成する前記インクの表面張力は、21mN/m以下になるものが好ましく、更に好ましくは、20mN/m以下になるものが好ましい。前記インクの表面張力が22mN/mより大きいものでは、クラフトテープにスタンプした場合、インクハジキを起こしやすく好ましくない。前記の表面張力低下剤としてのポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマーは、非吸収性の表面上に本発明の前記インクがはじかれることなく定着することを可能とするだけでなく、本発明の前記インクの表面張力を21mN/m以下とするためにも有効に作用する。上述した、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成物(以下、場合により単に「インク組成物」という)は、あらかじめカーボンブラックを水性成分に含有させ、それを油性成分と混合することで、カーボンブラックが分散された水性成分からなる水滴が油性成分中に分散されたW/O型エマルションインクとすることができる。そして、かかるインク組成物によれば、カーボンブラックを含むことにより、スタンプ時の押印跡が明瞭で高い耐光性を得ることができるとともに、油性成分と水性成分とを上記の組成とすることにより、カーボンブラックの沈降や凝集を十分に抑制し、経時安定性を良好なものとすることができ、カーボンブラックによるボール受け座の摩耗も抑制することができる。また、水性成分にチキソ性付与剤を加えてチキソ性を持たせることで、静置時ではインク粘度が高くスタンプ時にはインク粘度が下がり、良好な経時安定性を維持しつつ滑らかなスタンプ状態と十分な押印跡の濃度とを実現することができる。更に、インク組成物が水性成分を含むことで、低粘度でも裏抜けせず、ペン先の金属表面へのインクの泣き出しや、紙面へのボタの発生を抑制することができる。なお、インクの泣き出しや紙面へのボタが抑制されるのは、油性成分中の極性溶剤が金属表面に濡れやすいのに対し、水性成分中の水ははじかれやすく、これらを混合することで金属表面への濡れ性が適切な範囲にコントロールされたためであると考えられる。
【0043】
上述のようにして得られる、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インク組成物をスタンプ用のインクとして使用した場合の状況について、図1から図3を用いて下記に説明する。図1は、本発明のスタンプ用インクのイメージを示す模式図である。 図1に図示するように、本発明のスタンプ用インクは染料とカーボンブラックである顔料とがインクを構成する極性溶剤や種々の付与剤からなる油性溶剤中で良好に分散している。図1に示す本発明のインクは、インク中の顔料の濃度が5%以下、染料濃度が3〜7%で油性溶剤を用いた場合のイメージを示したものである。
【0044】
図2は、本発明のスタンプ用インクの定着画像を説明する模式図である。また図2は、本発明のインクを例えば記録媒体である紙に形成された画像を不可視化するためにスタンプ押印直後の紙面上の拡大画像を模式図で示したものであって、カーボンブラックである顔料は、隙間を有して凝集する。この場合染料の凝集は顔料の凝集を早めるとともに顔料の凝集によって生じる隙間を生めるように凝集される。
【0045】
図3は、本発明の液体蒸発に伴う画像周辺の色材の状態を説明する模式図である。図3は、上述したように、スタンプ押印した本発明のインクが蒸発してインクが定着し、前記紙に形成された画像が不可視化される様子を図示したものである。1Aは紙の表面、1Bは紙の裏面を示すものである。従来のインクは紙の表面に押印されたスタンプインクは、前記紙の表面1Aに押印されたインクは、前記下記に浸透したインクが紙の裏面1Bに流出すことが多かったが、本発明のインクは、図示するように前記紙の裏面1Bに到達せず前記紙中にインクの液面レベルLLを保持する。そして図示するように、記録媒体である紙の画像2の上面に(即ち紙の表面1Aに)押印された本発明のインクは、前記画像面上で定着を始め、本発明のインクである顔料3と染料4が凝集定着する。そして紙の中に浸透している染料4Aと顔料3A(まだ定着していないインク)は乾燥の進行に伴い前記定着した前記顔料3と染料4にそれぞれ凝集していき前記インクがさらに定着される。このように、本発明のインクは、従来のインクにはない定着挙動をとることができるので、印面から転写された記録媒体中の液状インク中の色材が表面側に戻り画像を一層不鮮明に出来る。つまり、本発明は、従来より優れた不可視化を達成できる効果を奏する。なお前記図3中の符号WK2はインクが裏面1Bに浸透移動する方向を示したもので、また符号WK1はインクが紙中で保持したインクの液面レベルが乾燥に伴って紙の表面1Aに向かって移動する方向を示したものである。
【0046】
上述のように、本発明の記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクの記録媒体中の顔料、染料の挙動は、本発明の染料と顔料と水を含む場合、1日立つと表面濃度が0.2〜0.3ほど上昇したことによるもので、そのメカニズムは、凝集顔料の隙間に溶剤が残っている液体含有量がかなりあるので、液体の拡散は紙の中から裏面方向に進む。ところが、この隙間を染料が埋めると液体含有量が減るので、紙全体が約40%の水分量に対して紙面表面側が相対的に少なくなるので、液体の拡散方向が紙面側に変わる部分が増えていく。すると、紙面中にある液体に分散していた顔料染料が、液体の拡散方向に向かって移動(つまり紙表面側)して水分の蒸発に伴い定着される。見た目の濃度は、紙表面から深さ40ミクロンまでにいる染料+顔料で決まるから、結果的にスタンプ押印が従来のインクジェットとは異なり、液体量が多くあるためもあって、スタンプ特有の効果として、1日立つと表面濃度が0.2〜0.3ほど上昇し、記録媒体の画像周辺の濃度を中心に全体の濃度があがるものと推定できる。
【0047】
次に本発明のインク組成物の実施例を以下に説明する。上述したように本発明のインク組成物について以下のように組成1から4を試作した。
【0048】

(組成物1の試作)
極性溶剤のトリエチレングリコールと曵糸性付与剤の1質量%ポリビニルアルコールとおよび油溶性染料を含む油性成分中に、水と多価アルコールとチキソ性付与剤と顔料とを含む水性成分を分散した。前記油性成分と前記水性成分との含有量の比は、5:5にしてインク組成物を試作した。但し、前記水性成分は顔料分散剤を更に含むものである。また、前記油性成分中の極性溶剤の含有量はインキ組成物全量を基準として35質量%、前記油溶性染料の含有量はインキ組成物全量を基準として30質量%、前記水の含有量はインキ組成物全量を基準として15質量%、前記多価アルコールの含有量はインキ組成物全量を基準として15質量%、前記チキソ性付与剤の含有量はインキ組成物全量を基準として0.3質量%、前記顔料カーボンブラックの含有量はインキ組成物全量を基準として5質量%とし、前記カーボンブラックの平均粒径は60〜120nmのものを用いた。また、前記顔料分散剤の含有量はインキ組成物全量を基準として1〜2質量%とした。
【0049】

(組成物2の試作)
極性溶剤のトリエチレングリコールと曵糸性付与剤の1質量%ポリビニルアルコールとおよび油溶性染料を含む油性成分中に、水と多価アルコールと顔料とを含む水性成分を分散した。前記油性成分と前記水性成分との含有量の比は、5:5にしてインク組成物を試作した。但し、前記水性成分は顔料分散剤を更に含むものである。また、前記油性成分中の前記極性溶剤の含有量は、インキ組成物全量を基準として35質量%、前記油溶性染料の含有量は、インキ組成物全量を基準として30質量%、前記水の含有量は、インキ組成物全量を基準として15質量%、前記多価アルコールの含有量はインキ組成物全量を基準として15質量%、顔料カーボンブラックの含有量は、インキ組成物全量を基準として5質量%とし、前記インキ中のカーボンブラックの平均粒径は60〜120nmのものを用いた。前記顔料分散剤の含有量はインキ組成物全量を基準として1〜2質量%とした。
【0050】

(組成物3の試作)
極性溶剤のトリエチレングリコールと曵糸性付与剤の1質量%ポリビニルアルコールとおよび油溶性染料を含む油性成分中に、多価アルコールと顔料とを含む水性成分分散した。前記油性成分と前記水性成分との含有量の比は、5:5にしてインク組成物を試作した。但し、水性成分は顔料分散剤を更に含むものである。また、前記油性成分中の極性溶剤の含有量はインキ組成物全量を基準として35質量%、前記油溶性染料の含有量はインキ組成物全量を基準として30質量%、前記多価アルコールの含有量はインキ組成物全量を基準として15質量%、前記顔料カーボンブラックの含有量はインキ組成物全量を基準として5質量%とし、前記インキ中のカーボンブラックの平均粒径は60〜120nmのものを用いた。前記顔料分散剤の含有量はインキ組成物全量を基準として1〜2質量%とした。
【0051】

(組成物4の試作)
極性溶剤のトリエチレングリコールおよび油溶性染料を含む油性成分中に、多価アルコールと顔料とを含む水性成分を分散した。前記油性成分と前記水性成分との含有量の比は、5:5にしてインク組成物を試作した。但し、水性成分は顔料分散剤を更に含むものである。前記油性成分中の極性溶剤の含有量はインキ組成物全量を基準として35質量%、前記油溶性染料の含有量はインキ組成物全量を基準として30質量%、前記多価アルコールの含有量はインキ組成物全量を基準として15質量%、前記顔料カーボンブラックの含有量は、インキ組成物全量を基準として5質量%とし、前記インキ中のカーボンブラックの平均粒径は60〜120nmのものを用いた。前記顔料分散剤の含有量はインキ組成物全量を基準として1〜2質量%とした。
【0052】
上記のように試作した本発明のインク組成物1〜4は、いずれもインク組成物の粘度が3〜20cPの範囲であり、また、表面張力が10〜15mN/mの範囲ものであった。このようにして試作したインク組成物1〜4を夫々スタンプを構成する多孔質体に吸収保持させたスタンプ1〜4を準備した。なお、前記スタンプは、インクを保持する多孔質体と、前記多孔質体から前記インクが転写されるスタンプ印面と、前記印面を前記記録媒体に押圧するための回転機構とを備えたスタンプである。上記のインク組成物1〜4を夫々スタンプを構成する多孔質体に吸収保持させたスタンプ1〜4を用いて、記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ押印を夫々行った。その結果、本発明で試作した上記組成物1〜4のインクはいずれも記録媒体に形成された画像が良好に不可視化された。即ち、スタンプ押印した後の乾燥した(インクが定着した)状態においていずれも前記画像は全く見えなく良好に不可視化されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のスタンプ用インクは、記録媒体に形成された画像を不可視化するために限定されることなく、液体インクを消費する印刷装置に使用されるものであれば、インクの種類に関係なく種々のインクカートリッジにも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1A 紙の表面
1B 紙の裏面
2 記録媒体の画像(色材)
3 顔料
4 染料
3A 紙の中の未定着顔料
4A 紙の中の未定着染料
LL 液面レベル
WK1 インク移動方向
WK2 インクの浸透方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に形成された画像を不可視化するためのスタンプ用インクであって、シリコーンオイル及びブチラール樹脂と25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂を含まず、色材として黒色系染料とカーボンブラックを併用したことを特徴とするスタンプ用インク。
【請求項2】
上記カーボンブラックの個数平均粒径が50nm以上である請求項1に記載のスタンプ用インク。
【請求項3】
上記黒色系染料が水性染料であって、上記カーボンブラックが自己分散カーボンブラックである水性インクであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスタンプ用インク。
【請求項4】
上記黒色系染料が油性染料であって、上記カーボンブラックが界面活性剤分散されたカーボンブラックであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスタンプ用インク。
【請求項5】
上記スタンプ用インクが油性インクであって、水分を含むことを特徴とする請求項3に記載のスタンプ用インク。
【請求項6】
上記請求項1乃至5のいずれかのスタンプ用インクを保持したカートリッジであって、スタンプに対して着脱可能であることを特徴とするスタンプ用カートリッジ。
【請求項7】
上記請求項1乃至5のいずれかのスタンプ用インクを保持する多孔質体と、前記多孔質体から前記インクが転写されるスタンプ印面と、前記印面を前記記録媒体に押圧するための回転機構と、を備えたスタンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−252043(P2011−252043A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125324(P2010−125324)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(397025587)エステー産業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】