説明

スチールコードの製造方法

【課題】磁力レベルが低く、また磁場分布が平滑なスチールコードの製造方法を提供する。
【解決手段】スチールコードの製造方法において、巻き取り中のスチールコードに4000A/m以上の静磁場を通過させる。または、スチールコードの製造方法において、巻き取り中のスチールコードに表面磁力が5mT以上の磁石または電磁石を接触させる。また、本発明の空気入りタイヤは、本発明のスチールコードの製造方法により製造されたスチールコードを補強材として用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードの製造方法に関し、詳しくは、タイヤ等の補強材として好適に使用される、磁力レベルが低く、また磁場分布が平滑なスチールコードの製造方法、同様の効果を有するゴム‐スチールコード複合体の製造方法、および、これら製造方法により製造されたものを補強材として用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、タイヤ等の補強部材としてとしてスチールコードが広く用いられている。しかしながら、タイヤ中のスチールコードが磁気を帯び、そのタイヤが車体に装着されて走行することにより、タイヤ周辺に磁場変動が発生し、それが人体に影響を及ぼすリスクが懸念されている。また、このような磁場変動は人体だけではなく、車載電子機器へ影響を及ぼすことも考えられる。
【0003】
この懸念を少しでも解消するためには、タイヤの脱磁化が考えられている。例えば、特許文献1には、簡便にタイヤを消磁および脱磁できる脱磁装置と脱磁方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−88817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の手法によれば、タイヤの消磁、脱磁においては一定の効果はあるが、磁場変動の発生源であるスチールコードが製造工程で着磁する現象については、これまでは注目されてはいなかった。しかし、上記懸念をより効果的に解消するためには、磁力レベルの低いスチールコードの使用が必要であり、スチールコードの製造工程における脱磁技術が求められていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、タイヤ等の補強材として好適に使用される、磁力レベルが低く、また磁場分布が平滑なスチールコードの製造方法、同様の効果を有するゴム‐スチールコード複合体の製造方法、および、これら製造方法により製造されたものを補強材として用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、部材レベルからのタイヤの磁力低減を目指し、スチールコードの製造工程でのスチールコードの中間製品の着磁機構について調査をおこなった結果、以下のような知見を得た。
【0007】
スチールコードの中間製品の帯磁レベルは工程を経るにつれ大きくなり、特に、撚り線工程でタイヤ工程へ供給する段階の磁力レベルが決定される。また、撚り線工程での帯磁レベルは、撚り線機中のプーリーの帯磁レベルと相関がある。さらに調査を進めた結果、帯磁したプーリーには周上に磁場の分布があり、そこにスチールコードの中間製品が相対速度0で接触し離合するときにプーリーの磁場分布がスチールコード側に転写され、スチールコードが着磁することを突き止めた。また、案内ガイドのように、スチールコードの中間製品と、ある相対速度を持って接触する部品の磁場分布はスチールコード側に転写されず、スチールコードに転写されている磁場分布を平滑化する働きを持つことが明らかとなった。
【0008】
以上の知見に基づき、本発明者らは、鋭意検討をした結果、下記構成とすることにより、上記目的を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のスチールコードの製造方法は、スチールコードの製造方法において、巻き取り中のスチールコードを4000A/m以上の静磁場を通過させることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の他のスチールコードの製造方法は、スチールコードの製造方法において、巻き取り中のスチールコードを表面磁力が5mT以上の磁石または電磁石に接触させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のゴム‐スチールコード複合体の製造方法は、スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム‐スチールコード複合体の製造方法において、該スチールコードをゴム中に埋設する前に4000A/m以上の静磁場を通過させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の他のゴム‐スチールコード複合体の製造方法は、スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム‐スチールコード複合体の製造方法において、該スチールコードをゴム中に埋設する前に5mT以上の磁石または電磁石に接触させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のスチールコードの製造方法により得られたスチールコードを補強材として用いたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム‐スチールコード複合体の製造方法により製造されたゴム‐スチールコード複合体を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁力レベルが低く、また磁場分布が平滑なスチールコードの製造方法を提供することが可能となる。また、同様の効果を有するゴム‐スチールコード複合体の製造方法も可能となる。さらに、得られたスチールコードまたはゴム‐スチールコード複合体をタイヤの補強材として用いることで、タイヤ組み込み時の磁場振動を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明のスチールコードの製造方法の1例を示す概略図である。図示するように、本発明のスチールコードの製造方法においては、撚り線機(図示せず)を経て撚り合わさったスチールコード1が、矯正ロール2により真直状態に矯正された後、プーリー3を介して巻取りロール5に巻き取られる。
【0017】
上述の通り、スチールコード1がプーリー3を通過する際に、プーリー3の磁場分布がスチールコード1側に転写され、スチールコード1が着磁してしまう。本発明のスチールコードの製造方法においては、巻取り中のスチールコード1を、磁石4の近傍を通過させて、4000A/m以上の静磁場を印加するか、または、表面磁場が5mT以上の磁石4に接触させることが重要であり、これにより、スチールコード1の表面磁場を低減させ、かつ、磁場分布を平滑化することができる。なお、磁石4として電磁石を用いてもよい。
【0018】
本発明の効果を良好に得るためには、静磁場を印加する場合、静磁場は4800〜48000A/mであることが好ましく、磁石4に接触させる場合、磁石4の表面磁場は6mT〜1Tであることが好ましい。
【0019】
ここで、静磁場を印加するとは、磁石4とスチールコード1の距離を一定に保つという意味である。磁石4とスチールコード1の距離が一定であることにより静磁場を印加することができる。磁石4とスチールコード1の距離が変化すると、一定の静磁場を加えることができなくなり、スチールコード1の磁場分布を一定とすることができなくなってしまう。したがって、磁石4はスチールコード1の流れ方向には可動させてもよい。
【0020】
本発明のスチールコードの製造方法においては、巻き取り中のスチールコードを4000A/m以上の静磁場を通過させるか、または、表面磁場が5mT以上の磁石もしくは電磁石に接触させること以外は常法に従い適宜設定、実施することが可能であり、特に制限されるものではない。また、本発明のスチールコードの製造方法に用いるスチールワイヤのワイヤ径や材質等についても、特に制限されるものではなく、公知のものであればいずれも使用可能である。
【0021】
次に、本発明のゴム‐スチールコード複合体の製造方法について説明する。
図2は、本発明のゴム‐スチールコード複合体の製造方法の1例の概略図である。ボビン(図示せず)から巻き出されたスチールコード1がカレンダー装置10に導かれ、未加硫ゴム6で覆われシート状のゴム‐スチールコード複合体7が製造される。
【0022】
本発明においては、スチールコード1をカレンダー装置10に導入する前に、4000A/m以上の静磁場を通過させるか、または、5mT以上の磁石4に接触させることが重要である。このことにより、スチールコード1の表面磁場を低減させ、かつ、磁場分布を平滑化することができ、その結果、磁力レベルの低いゴム‐スチールコード複合体を得ることができる。なお、磁石4として電磁石を用いてもよい。
【0023】
本発明の効果を良好に得るためには、先に説明したスチールコードの製造方法と同様に、静磁場を印加する場合、静磁場は4800〜48000A/mであることが好ましく、磁石4を接触させる場合、磁石4の表面磁場は6mT〜1Tであることが好ましい。
【0024】
次に、本発明の空気入りタイヤについて説明する。
本発明の空気入りタイヤは、本発明の製造方法により得られたスチールコード、またはゴム‐スチールコード複合体を補強材として用いたものである。例えば、ベルト層、カーカス、ビードコアに本発明のスチールコード、ゴム‐スチールコード複合体を好適に用いることができる。これにより本発明の所期の効果を得ることができるものであり、具体的なコード径や撚りピッチ、補強層における補強材の打ち込み数の他、具体的なタイヤ構造や材質等については、常法に従い適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1−1〜1−5および比較例1−1、1−2)
スチールコードの最終巻き取り行程にて、表1に示す表面磁場を有する各種磁石を巻き取り中のスチールコードに接触させ、磁石との接触領域通過前後のスチールコードの表面磁場を測定し評価をおこなった。磁石との接触領域通過後のスチールコードの表面磁場が1mTである場合を基準の△とし、1mT未満の場合を○、1mTを超える場合を×とした。結果を表1に併記する。また、実施例に用いたスチールコードの材質、コード種、スチールコードの巻取り速度についても表1に併記する。
【0026】
(実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−3)
スチールコードの最終巻き取り行程にて、表2に示す通過領域の最大磁場を印加することができる磁石を配置し、静磁場領域通過前後のスチールコードの表面磁場を測定し評価をおこなった。磁石通過後のスチールコードの表面磁場が1mTである場合を基準の△とし、1mT未満の場合を○、1mTを超える場合を×とした。結果を表1に併記する。また、実施例に用いたスチールコードの材質、コード種、スチールコードの巻取り速度についても表2に併記する。
【0027】
また、図3に実施例2−1におけるスチールコードのコード長(m)と表面磁場(mT)の関係をグラフに示す。なお、スチールコードの表面磁場の測定には、Lake Shore社製 460型)を用いた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1、2より、本発明のスチールコードの製造方法を適用することにより、得られたスチールコードの表面磁場が十分に低下していることがわかる。
【0031】
また、図3より、本発明のスチールコードの製造方法を適用することにより、スチールコードの表面磁場が平滑化していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のスチールコードの製造方法の1例の概略図である。
【図2】ゴム‐スチールコード複合体の製造方法の1例の概略図である。
【図3】実施例2−1におけるスチールコードのコード長(m)と表面磁場(mT)の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 スチールコード
2 矯正ロール
3 プーリー
4 磁石
5 巻取りロール
6 未加硫ゴム
7 ゴム‐スチールコード複合体
10 カレンダー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードの製造工程において、巻き取り中のスチールコードを4000A/m以上の静磁場を通過させることを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項2】
スチールコードの製造工程において、巻き取り中のスチールコードを表面磁力が5mT以上の磁石または電磁石に接触させることを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項3】
スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム‐スチールコード複合体の製造方法において、該スチールコードをゴム中に埋設する前に4000A/m以上の静磁場を通過させることを特徴とするゴム‐スチールコード複合体の製造方法。
【請求項4】
スチールコードがゴム中に埋設されてなるゴム‐スチールコード複合体の製造方法において、該スチールコードをゴム中に埋設する前に5mT以上の磁石または電磁石に接触させることを特徴とするゴム‐スチールコード複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のスチールコードの製造方法により製造されたスチールコードを補強材として用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項6】
請求項3または4記載のゴム‐スチールコード複合体の製造方法により製造されたゴム‐スチールコード複合体を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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