説明

ステアリングコラム用支持装置

【課題】二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、小型化並びに低コスト化を図れ、且つ、設計の自由度を確保できる構造を実現する。
【解決手段】コラム側ブラケット12bのうちで係止カプセル46bと重ね合わされる部分の幅方向に離隔した部分に通孔53、53を、この係止カプセル46bのうちでこれら各通孔53、53と整合する部分にねじ孔54、54を、それぞれ形成する。そして、これら各通孔53、53を下方から挿通した各ボルト50a、50aを前記各ねじ孔54、54に螺合し更に締め付ける事により、前記係止カプセル46bと前記コラム側ブラケット12bとを結合固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運転席に設けたステアリングホイールの操作に基づいて前輪に舵角を付与する為の自動車用ステアリング装置を構成する、ステアリングコラム用支持装置の改良に関する。具体的には、衝突事故の際に運転者の身体からこのステアリングホイールに加わった衝撃エネルギを吸収しつつこのステアリングホイールの前方への変位を可能とする衝撃吸収式ステアリング装置に関し、この変位を円滑に行えて、しかも小型化並びに低コスト化を図れ、且つ、設計の自由度を確保できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
自動車用ステアリング装置は、図3に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。尚、前記中間シャフト8は、トルクを伝達可能に、且つ、衝撃荷重により全長を収縮可能に構成している。そして、衝突事故の際(次述する一次衝突の際)に、前記ステアリングギヤユニット2の後方への変位に拘らず、前記ステアリングシャフト5を介して前記ステアリングホイール1が後方に向けて変位する(運転者の身体に向けて突き上げられる)事を防止できる様に構成している。
【0003】
上述の様な自動車用ステアリング装置は、衝突事故の際に、衝撃エネルギを吸収しつつ、ステアリングホイールを前方に変位させる構造にする事が、運転者の保護の為には必要である。即ち、衝突事故の際には、自動車が他の自動車等にぶつかる一次衝突に続いて、運転者の身体がステアリングホイール1に衝突する二次衝突が発生する。この二次衝突の際に、運転者の身体に加わる衝撃を緩和して、運転者の保護を図る為に、前記ステアリングホイール1を支持した前記ステアリングコラム6を車体に対し、二次衝突に伴う前方への衝撃荷重により前方に離脱可能に支持すると共に、前記ステアリングコラム6と共に前方に変位する部分と車体との間に、塑性変形する事で前記衝撃荷重を吸収するエネルギ吸収部材を設ける事が、例えば特許文献1〜2に記載される等により従来から知られており、且つ、広く実施されている。
【0004】
図4〜6は、従前の(公知ではないが、本発明との関係に於いて、従来技術との間で大きな差はない)ステアリング装置の1例を示している。ステアリングコラム6aの前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納するハウジング10を固定している。又、前記ステアリングコラム6aの内側にステアリングシャフト5aを、回転のみ自在に支持しており、このステアリングシャフト5aの後端部で前記ステアリングコラム6aの後端開口から突出した部分に、ステアリングホイール1(図3参照)を固定自在としている。そして、前記ステアリングコラム6a及び前記ハウジング10を、車体に固定された部分である車体側ブラケット11(例えば、後述する先発明の構造を示す、図10〜13参照)に対し、前方に向いた衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。
【0005】
この為に、前記ステアリングコラム6aの中間部に支持したコラム側ブラケット12と、前記ハウジング10に支持したハウジング側ブラケット13とを、何れも前方に向いた衝撃荷重により前方に離脱する様に、車体に対し支持している。前記両ブラケット12、13は何れも、1乃至2箇所の取付板部14a、14bを備え、これら各取付板部14a、14bに、それぞれ後端縁側に開口する切り欠き15a、15bを形成している。そして、これら各切り欠き15a、15bを覆う状態で前記両ブラケット12、13の左右両端寄り部分に、それぞれ滑り板16a、16bを組み付けている。
【0006】
これら各滑り板16a、16bはそれぞれ、表面に、例えばポリアミド樹脂(ナイロン)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等の滑り易い合成樹脂製の層を形成した、炭素鋼板、ステンレス鋼板等の金属薄板を曲げ形成する事により、上下両板部の後端縁同士を連結板部により連結した、大略コ字形としている。そして、それぞれの上下両板部の互いに整合する部分に、ボルト若しくはスタッドを挿通する為の通孔を形成している。前記各滑り板16a、16bを前記各取付板部14a、14bに装着した状態で、前記各通孔は、それぞれこれら各取付板部14a、14bに形成した、前記各切り欠き15a、15bに整合する。
【0007】
前記両ブラケット12、13は、前記各取付板部14a、14bに形成した切り欠き15a、15b及び前記各滑り板16a、16bの通孔を挿通した、ボルト若しくはスタッドとナットとを螺合し、更に締め付ける事により、前記車体側ブラケット11に支持する。二次衝突時には前記ボルト若しくはスタッドが、前記各滑り板16a、16bと共に前記各切り欠き15a、15bから抜け出して、前記ステアリングコラム6a及び前記ハウジング10が、前記両ブラケット12、13及び前記ステアリングホイール1と共に前方に変位する事を許容する。
【0008】
又、図示の例の場合には、前記ボルト若しくはスタッドと前記コラム側ブラケット12との間にエネルギ吸収部材17、17を設けている。そして、このコラム側ブラケット12が前方に変位するのに伴ってこれら両エネルギ吸収部材17、17を塑性変形させ、前記ステアリングホイール1から、前記ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収する様にしている。
【0009】
二次衝突時には、図6に示す様に、前記ボルト若しくはスタッドが前記各切り欠き15a、15aから抜け出して、前記コラム側ブラケット12が前方に変位する事を許容し、前記ステアリングコラム6aが、このコラム側ブラケット12と共に前方に変位する。この際、前記ハウジング側ブラケット13に関しても、前記車体から離脱し、このハウジング側ブラケット13が前方に変位する事を許容する。そして、前記コラム側ブラケット12の前方への変位に伴って、前記両エネルギ吸収部材17、17が塑性変形し、運転者の身体から、前記ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収し、前記運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。
【0010】
上述の図4〜6に示した従前の構造の場合、前記コラム側ブラケット12を左右両側2箇所位置で前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に前方への離脱を可能に支持している。従って、二次衝突時には、左右1対の支持部の係合を同時に外れさせる事が、前記ステアリングホイール1を前方に、安定して(二次衝突発生の瞬間の状態のまま傾斜させずに)変位させる面から重要になる。一方、前記両支持部の係合を同時に外れさせる為のチューニングは、これら両支持部を外れさせる事に対する抵抗(摩擦抵抗、剪断抵抗等)や、前記ステアリングコラム6aと共に前方に変位する部分の慣性質量に関する左右のアンバランス等の影響がある為、手間の掛かる作業になる。
【0011】
この様な問題を解決して、二次衝突時にステアリングコラムの前方への離脱を安定させる為には、特許文献1に記載された構造を採用する事が効果がある。図7〜9は、この特許文献1に記載された従来構造を示している。この従来構造の場合には、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケット11aの幅方向中央部に係止切り欠き18を、この車体側ブラケット11aの前端縁側が開口する状態で形成している。又、ステアリングコラム6b側にコラム側ブラケット12aを支持固定して、二次衝突時にこのコラム側ブラケット12aを、前記ステアリングコラム6bと共に前方に変位可能としている。
【0012】
更に、このコラム側ブラケット12aに固定した係止カプセル19の左右両端部を、前記係止切り欠き18に係止している。即ち、この係止カプセル19の左右両側面にそれぞれ形成した係止溝20、20を、前記係止切り欠き18の左右両側縁部に係合させている。前記車体側ブラケット11aと前記係止カプセル19とは、前記両係止溝20、20と前記係止切り欠き18の両側縁部とを係合させた状態で、前記両部材11a、19の互いに整合する部分に形成した係止孔21a、21bに係止ピン22、22(図9にのみ図示)を圧入する事で結合する。これら各係止ピン22、22は、アルミニウム系合金、合成樹脂等の、二次衝突時に加わる衝撃荷重で裂断する、比較的軟質の材料により造っている。
【0013】
二次衝突時に、前記ステアリングコラム6bから前記コラム側ブラケット12aを介して、前記係止カプセル19に、前方に向いた衝撃荷重が加わると、前記各係止ピン22、22が裂断する。そして、前記係止カプセル19が前記係止切り欠き18から前方に抜け出して、前記ステアリングコラム6b(及びステアリングシャフトを介してこのステアリングコラム6bに支持されたステアリングホイール)が前方に変位する事を許容する。
【0014】
[先発明の説明]
又、図10〜13は、上述の図7〜9に示した従来構造と同様、車体側ブラケットとコラム側ブラケットとを、幅方向中央部のみで結合する事により、二次衝突時にこのコラム側ブラケットの前方への変位を円滑に行わせる様にした、先発明に係る構造の1例を示している。図示の例は、ステアリングホイール1(図3参照)の上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えている。このうちのテレスコピック機構を構成する為に、ステアリングコラム6cを、前側のインナコラム23の後部を後側のアウタコラム24の前部に内嵌して全長を伸縮可能とした、テレスコープ状のものを使用している。そして、前記ステアリングコラム6cの内径側にステアリングシャフト5bを、回転自在に支持している。
【0015】
前記ステアリングシャフト5bは、前側に配置した円杆状のインナシャフトの後部に設けた雄スプライン部と、後側に配置した円管状のアウタシャフト25の前部に設けた雌スプライン部とをスプライン係合させる事により、トルクの伝達を可能に、且つ、伸縮を可能に構成している。前記アウタシャフト25は、後端部を前記アウタコラム24の後端開口よりも後方に突出させた状態でこのアウタコラム24の内径側に、単列深溝型の玉軸受26等、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能な軸受により、回転のみ可能に支持している。前記ステアリングホイール1は、前記アウタシャフト25の後端部に支持固定する。このステアリングホイール1の前後位置を調節する際には、このアウタシャフト25と共に前記アウタコラム24が前後方向に変位し、前記ステアリングシャフト5b及び前記ステアリングコラム6cが伸縮する。
【0016】
又、このステアリングコラム6c(を構成する前記インナコラム23)の前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納する為のハウジング10aを、結合固定している。このハウジング10aの上面には、前記電動式パワーステアリング装置の補助動力源となる電動モータ27と、この電動モータ27への通電を制御する為の制御器28とを支持固定している。そして、前記チルト機構を構成する為に、前記ハウジング10aを車体に対し、横軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。この為に本例の場合には、前記ハウジング10aの上部前端に支持筒29を、左右方向に設けている。そして、この支持筒29の中心孔30に挿通したボルト等の横軸により、前記ステアリングコラム6cの前端部を前記車体に対し、このステアリングコラム6cの後部を昇降させる方向の揺動変位を可能に支持している。
【0017】
又、前記ステアリングコラム6cの中間部乃至後部を構成する、前記アウタコラム24の前半部の内径を、弾性的に拡縮可能としている。この為に、このアウタコラム24の下面にスリット31を、軸方向に形成している。このスリット31の前端部は、このアウタコラム24の前端縁、又は、このアウタコラム24の前端寄り部分の上端部を除いた部分に形成した周方向透孔に開口させている。又、前記スリット31を幅方向両側から挟む部分に、それぞれが厚肉平板状の1対の被支持板部32、32を設けている。これら両被支持板部32、32が、前記ステアリングホイール1の位置調節時に、前記アウタコラム24と共に変位する、変位側ブラケットとして機能する。
【0018】
図示の先発明に係る構造の場合、前記両被支持板部32、32をコラム側ブラケット12bに対し、上下位置及び前後位置の調節を可能に支持している。このコラム側ブラケット12bは、通常時には車体に対し支持されているが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて、前方に離脱し、前記アウタコラム24の前方への変位を許容する様にしている。この為に、前記コラム側ブラケット12bを車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により、前方への離脱を可能に支持している。
【0019】
前記チルト機構及び前記テレスコピック機構の調節部は、前記両被支持板部32、32を、前記コラム側ブラケット12bを構成する左右1対の支持板部33、33で挟持する事により構成している。これら両支持板部33、33には、前記支持筒29を車体に対し支持した横軸を中心とする部分円弧形の上下方向長孔34を、前記両被支持板部32、32には、前記アウタコラム24の軸方向に長い前後方向長孔35を、それぞれ形成している。そして、これら各長孔34、35に調節ロッド36を挿通している。この調節ロッド36の基端部(図11の右端部)に設けた頭部37は、一方(図11の右方)の支持板部33に形成した上下方向長孔に、この上下方向長孔に沿った変位のみを可能に(回転を阻止した状態で)係合させている。これに対して、前記調節ロッド36の先端部(図11の左端部)に螺着したナット38と他方(図11の左方)の支持板部33の外側面との間に、駆動側カム39と被駆動側カム40とから成るカム装置41を設けている。そして、このうちの駆動側カム39を、調節レバー42により回転駆動可能としている。
【0020】
前記ステアリングホイール1の位置調節を行う際には、前記調節レバー42を所定方向(下方)に回動させる事により前記駆動側カム39を回転駆動し、前記カム装置41の軸方向寸法を縮める。そして、前記被駆動側カム40と前記頭部37との、互いに対向する内側面同士の間隔を拡げ、前記両支持板部33、33が前記両被支持板部32、32を抑え付けている力を開放する。同時に、前記アウタコラム24の前部で前記インナコラム23の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に拡げ、これらアウタコラム24の前部内周面とインナコラム23の後部外周面との当接部に作用している面圧を低下させる。この状態で、前記調節ロッド36が前記上下方向長孔34と前記前後方向長孔35との間で変位できる範囲で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節できる。
【0021】
このステアリングホイール1を所望位置に移動させた後、前記調節レバー42を前記所定方向とは逆方向(上方)に回動させる事により、前記カム装置41の軸方向寸法を拡げる。そして、前記被駆動側カム40と前記頭部37との、互いに対向する内側面同士の間隔を縮め、前記両支持板部33、33により前記両被支持板部32、32を強く抑え付ける。同時に、前記アウタコラム24の前部で前記インナコラム23の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に縮め、これらアウタコラム24の前部内周面とインナコラム23の後部外周面との当接部に作用している面圧を高くする。この状態で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置が調節後の位置に保持される。
【0022】
尚、本例の場合には、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持する為の保持力を高くする為に、前記両支持板部33、33の内側面と前記両被支持板部32、32の外側面との間に、それぞれ摩擦板ユニット43、43を挟持している。これら両摩擦板ユニット43、43は、前記上下方向長孔34と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第一摩擦板と、前記前後方向長孔と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第二摩擦板とを交互に重ね合わせたもので、摩擦面積を増大させ、前記保持力を高くする役目を有する。この様な摩擦板ユニット43、43の具体的な構造及び作用に就いては、例えば特許文献5、6に記載される等により従来から知られており、本発明の要旨とも関係しないので、詳しい図示並びに説明は省略する。
【0023】
更に、前記コラム側ブラケット12bは、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突の衝撃荷重により前方に離脱はするが、二次衝突が進行した状態でも脱落しない様に支持している。前記車体側ブラケット11は、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がないもので、鋼板等の十分な強度及び剛性を有する金属板に、プレスによる打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造っている。この様な車体側ブラケット11は、両側縁部及び後端縁部を下方に折り曲げる事で曲げ剛性を向上させており、幅方向中央部に前端縁側が開口した係止切り欠き44を、後部のこの係止切り欠き44を左右両側から挟む後部両側位置に1対の取付孔45、45を、それぞれ形成している。前記係止切り欠き44は、次述する係止カプセル46により覆われた、前記車体側ブラケット11の後端部近傍まで形成している。この様な前記車体側ブラケット11は、前記両取付孔45、45を挿通したボルト或いはスタッドにより、車体に対し支持固定される。
【0024】
上述の様な車体側ブラケット11に対して前記コラム側ブラケット12bを、前記係止カプセル46を介して、二次衝突時に前方への離脱を可能に結合している。この係止カプセル46としては、図10及び図13の(A)に示す様な構造のものが好ましく使用できるが、図13の(B)に示す様な係止カプセル46aを使用する事もできる。このうちの図13の(B)に示した係止カプセル46aに関しては、最後に説明し、以下の説明は、図10、11及び図13の(A)に示した係止カプセル46を使用した場合に就いて行う。
【0025】
この係止カプセル46は、軟鋼等の鉄系合金に鍛造加工等の塑性加工を施したり、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の軽合金をダイキャスト成形する事により、或いは、ポリアセタール等の高強度の高機能樹脂を射出成形する事により、一体に造っている。そして、左右方向に関する幅寸法、並びに、前後方向に関する長さ寸法を、下半部に比べ上半部で大きくして、前記係止カプセル46の左右両側面及び後側面の上半部に、両側方及び後方に突出する鍔部47を設けている。この様な係止カプセル46は、下半部を前記係止切り欠き44に係合(内嵌)した状態で、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。この為に、前記鍔部47と、前記車体側ブラケット11の一部で前記係止切り欠き44の周縁部との、互いに整合する複数箇所(図示の例では8箇所ずつ)に、それぞれ小通孔48a、48bを形成している。そして、これら各小通孔48a、48b同士の間に、それぞれ係止ピン49、49を掛け渡している。
【0026】
これら各係止ピン49、49は、前記各小通孔48a、48bを整合させた状態でこれら各小通孔48a、48b内に合成樹脂を注入する(インジェクション成形する)事により、或いは、予め円柱状に成形した、合成樹脂製或いは軽合金製の素ピンを前記各小通孔48a、48b内に圧入する(軸方向に大きな力で押し込む)事により、前記各小通孔48a、48b同士の間に掛け渡す。何れの場合でも、前記各係止ピン49、49を構成する合成樹脂材料或いは軽合金材料の一部が、前記車体側ブラケット11の上下両面と、相手面である、前記鍔部47の下面及び前記コラム側ブラケット12bの上面との間に入り込む。そして、これら各面同士の間に存在する微小隙間に拘らず、前記車体側ブラケット11に対する前記コラム側ブラケット12bの取付部のがたつきを解消する。従って、前記各隙間を確実に塞ぎ、このがたつきを確実に解消する為には、前記各係止ピン49、49を、合成樹脂の射出成形(インジェクション成形)により形成する事が好ましい。尚、図13には、明りょう化の為に、前記がたつきの原因となる隙間の高さを、実際よりも大きく描いている。
【0027】
尚、前記各係止ピン49、49をインジェクション成形する場合には、溶融樹脂が前記各面同士の間の微小隙間に入り込んで冷却固化し、前記がたつきを解消する。これに対して、素ピンを圧入する場合には、この素ピンに加わる軸方向の力に基づいて、この素ピンの軸方向中間部で前記各隙間に対応する部分が径方向外方に拡がり、これら各隙間の存在に基づくがたつきを解消する。何れにしても、前記各小通孔48a、48b同士の間に前記各係止ピン49、49を掛け渡す事により、前記係止カプセル46を前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持する。
【0028】
上述の様な係止カプセル46は前記コラム側ブラケット12bに対し、複数本(図示の例では3本)のボルト50、50とナット51、51とにより、前記衝撃荷重に拘らず非分離な状態で、結合固定している。即ち、前記係止カプセル46及び前記コラム側ブラケット12bの互いに整合する位置に形成した通孔を下方から挿通した、前記各ボルト50、50の先端部(上端部)で前記係止カプセル46の上面から突出した部分に、前記各ナット51、51を螺合し更に締め付ける事で、前記係止カプセル46と前記コラム側ブラケット12bとを結合固定している。従って、二次衝突時に前記アウタコラム6cからこのコラム側ブラケット12bに伝わった前記衝撃荷重は、そのまま前記係止カプセル46に伝わり、前記各係止ピン49、49の裂断に伴ってこの係止カプセル46が前方に変位するのと同期して、前記アウタコラム6cも前方に変位する。
【0029】
この様に、二次衝突時にこのアウタコラム6cと共に前方に変位する、前記係止カプセル46を係止した、前記係止切り欠き44の前後方向に関する長さL44は、この係止カプセル46の同方向の長さL46よりも十分に大きい(L44≫L46)。先発明に係る構造の場合には、前記係止切り欠き44の長さL44を、前記係止カプセル46の長さL46の2倍以上(L44≧2L46)確保している。そして、二次衝突時に前記アウタコラム24と共に前記係止カプセル46が前方に変位し切った(ステアリングホイール1から加わった衝撃荷重では、それ以上前方に変位しなくなった)状態でも、この係止カプセル46を構成する前記鍔部47の少なくとも後端部で、前記ステアリング6c及び前記コラム側ブラケット12b等の重量を支承可能な部分が、前記係止切り欠き44から抜け切らない様にしている。即ち、二次衝突が進行した状態でも、前記係止カプセル46の上半部の幅方向両側部分に形成した前記鍔部47のうちの後端部が、前記車体側ブラケット11の前端部の上側に位置して、前記係止カプセル46が落下するのを防止できる様にしている。
【0030】
上述の様に構成する先発明に係るステアリングコラム用支持装置によれば、二次衝突時に前記ステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、且つ、前記コラム側ブラケット12bを前記車体側ブラケット11に対し支持する部分の構成部材、即ち、このコラム側ブラケット12b自体及び前記係止カプセル46の損傷を防止でき、しかも、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下降する事を防止できる。
【0031】
先ず、二次衝突時に前記ステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングの容易化は、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル46とを、この車体側ブラケット11の幅方向中央部のみで係合させる事により図れる。即ち、前記単一の係止カプセル46を、前記アウタコラム24の直上部分に配置している為、二次衝突時に前記ステアリングホイール1から前記アウタシャフト25及び前記アウタコラム24を通じて前記係止カプセル46に伝わった衝撃荷重が、この係止カプセル46と前記車体側ブラケット11とを結合している、前記各係止ピン49、49に、ほぼ均等に加わる。要するに、前記衝撃荷重は、ほぼ前記係止カプセル46の中央部に、前記アウタコラム24の軸方向に作用する。そして、この単一の係止カプセル46が、前記係止切り欠き44から前方に抜け出る方向の力が加わる為、この係止カプセル46と前記車体側ブラケット11とを結合している前記各係止ピン49、49が、実質的に同時に裂断する。この結果、前記コラム側ブラケット12b等を介して前記係止カプセル46と結合された前記アウタコラム24の前方への変位が、中心軸の傾斜角度を過度に変化させる事無く、安定して行われる。
【0032】
特に、上述した先発明の構造の場合には、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節する為のチルト・テレスコピック機構を設けると共に、このステアリングホイール1を調節後の位置に保持する保持力を高める為の摩擦板ユニット43、43を設置している。これらチルト・テレスコピック機構や摩擦板ユニット43、43を設ける事は、製作誤差の蓄積等により、二次衝突時に前記コラム側ブラケット12bを前記車体側ブラケット11から前方に変位させ始めるのに必要とされる離脱荷重のばらつきを大きくする原因となり易い。これに対して先発明の構造の場合には、前記単一の係止カプセル46と前記車体側ブラケット11との係合により、前記離脱荷重のばらつきを抑えられる。この結果、二次衝突時に前記ステアリングホイール1に衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為のチューニングを適正に行って、この運転者の保護充実を図り易くなる。又、二次衝突時にも変位しない部分(例えば車体側ブラケット11)と、二次衝突に伴って前方に変位する部分(例えばアウタコラム24)との間には、この前方への変位に伴って塑性変形しつつ衝撃エネルギを吸収する、エネルギ吸収部材を設ける。このエネルギ吸収部材に関しても、前記アウタコラム24の幅方向中央部に設置して、このアウタコラム24の前方への変位に基づいて効果的に塑性変形する様にする。尚、この様なエネルギ吸収部材は、特許文献5に記載される等により従来から各種構造のものが知られており、本発明の要旨とも関係しない為、図示並びに詳しい説明は省略する。
【0033】
更に、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下降するのを防止する事は、前記係止切り欠き44の前後方向長さL44を前記係止カプセル46の前後方向の長さL46よりも十分に大きくしている事により図れる。即ち、これら両長さL44、46をこの様に規制している為、二次衝突が進行し、前記ステアリングホイール1と共に、前記係止カプセル46が前方に変位し切った状態でも、この係止カプセル46全体が前記係止切り欠き44から前方に抜け出る事はない。この為、二次衝突が進行した状態でも、前記アウタコラム24の支持力を確保して、このアウタコラム24、及び、前記アウタシャフト25を介してこのアウタコラム24に支持された、前記ステアリングホイール1が、過度に下降する事を防止できる。そして、事故の程度によっては、二次衝突後にも、前記ステアリングホイール1の操作を可能にして、事故車両を路肩に退避させる等の処置を行い易くできる。
【0034】
次に、図13の(B)に示した構造に就いて説明する。上述した図13の(A)に示した構造は、前記係止カプセル46の形状が単純で、この係止カプセル46の製造コストを抑えられる他、この係止カプセル46を設置した部分の組み立て高さを低く抑えられる。この様な構造は、ステアリングコラム用支持装置の低コスト化及び小型・軽量化を図ったり、衝撃荷重が作用する位置である前記アウタコラム24の中心軸と、二次衝突時に離脱する部分である前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル46との係合部との距離を短くして(高さの差を小さく抑えて)、この係合部の離脱荷重を安定させる(この距離が長くなる事に伴う捩れを抑える)面から有利である。
【0035】
これに対して図13の(B)に示した構造は、係止ピン49、49の射出成形の容易化を図る面から有利である。即ち、図13の(A)に示した構造の場合には、前記係止ピン49、49の射出成形を、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル46と前記コラム側ブラケット12bとを、前記各ボルト50、50と前記各ナット51、51とにより結合した状態で行う。これに対して図13の(B)に示した構造の場合には、前記係止ピン49、49を射出成形する為の金型に、前記車体側ブラケット11及び係止カプセル46aのみをセットすれば済む為、金型の小型化を図り易い。即ち、この係止カプセル46aは、左右両側面にそれぞれ係止溝52、52を形成し、これら両係止溝52、52に、前記車体側ブラケット11の前記係止切り欠き44の両側縁部を係合させている。この為、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル46aとを前記各係止ピン49、49により結合してから、この係止カプセル46aをコラム側ブラケット12bに対し、各ボルト50、50と各ナット51、51とにより結合固定する事ができる。
【0036】
上述の様な先発明に係る構造によれば、二次衝突時に前記ステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングが容易を容易にできるが、組立作業が面倒になる他、組み立て高さが高くなる。これらの問題が生じる原因は、前記コラム側ブラケット12bに対して前記係止カプセル46、46aを、前記複数本のボルト50、50とナット51、51とにより結合固定している為である。即ち、これら各ボルト50、50とナット51、51とにより、前記コラム側ブラケット12bと前記係止カプセル46、46aとを結合固定するには、前記各ボルト50、50をこれら両部材12b、46、46aに形成した通孔を挿通した状態で、これら各ボルト50、50と前記ナット51、51とを螺合し更に締め付ける必要がある。これらの作業は、これら各ボルト50、50及びナット51、51を正規の位置関係に保持し、しかも、一方の部材の回り止めを図りつつ他方の部材を回転させなければならず、面倒で、部品コスト(製造コスト及び管理コスト)に加えて組み立てコストが嵩む原因となる。
【0037】
又、前記各ナット51、51が、それぞれ前記コラム側ブラケット12bの上面から突出する分、前記コラム側ブラケット12bと前記係止カプセル46、46aとの結合固定部の組み立て高さが嵩む事が避けられない。そして、この組み立て高さが嵩む分、車体の一部でこの結合固定部の上方に存在する部分の形状を工夫したり(前記各ナット51、51との干渉を防止する為に凹ませたり)、前記係止カプセル46、46aの上面と前記車体の一部との距離を大きくする必要がある。何れにしても、衝撃吸収式のステアリング装置の組み付け部を設計する面からの自由度が損なわれる原因となる。
【0038】
尚、前述した先発明及び後述する本発明を実施する場合に関連する技術を記載した刊行物として、特許文献5〜7が存在する。このうちの特許文献5には、二次衝突時にステアリングホイールに衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為、ステアリングホイールと共にステアリングコラムが前方に変位するのに伴って塑性変形する、エネルギ吸収部材が記載されている。又、特許文献6〜7には、ステアリングホイールの位置調節可能な構造で、このステアリングホイールを調節後の位置に保持する保持力を大きくする為、複数枚の摩擦板を重ね合わせて摩擦面積を増大させる構造が記載されている。但し、これら特許文献5〜7にも、二次衝突時に於けるステアリングホイールの前方への変位を円滑に行えて、しかも小型化並びに低コスト化を図れる構造を実現する為の技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】実開昭51−121929号公報
【特許文献2】特開2005−219641号公報
【特許文献3】特開平10−86792号公報
【特許文献4】特開2009−196562号公報
【特許文献5】特開2000−6821号公報
【特許文献6】特開2007−69821号公報
【特許文献7】特開2008−100597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、小型化並びに低コスト化を図れ、且つ、設計の自由度を確保できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明のステアリングコラム用支持装置は、前述の図7〜9に示した従来構造と同様に、ステアリングコラムと、ステアリングシャフトと、車体側ブラケットと、係止切り欠きと、コラム側ブラケットと、係止カプセルとを備える。
このうちのステアリングコラムは、例えば円筒状に造られている。
又、前記ステアリングシャフトは、前記ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されており、このステアリングコラムの後端部から後方に突出した後端部にステアリングホイールを支持固定する。
又、前記車体側ブラケットは、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がない。
又、前記係止切り欠きは、前記車体側ブラケットの幅方向中央部に形成されたもので、この車体側ブラケットの前端縁側が開口している。
又、前記コラム側ブラケットは、前記ステアリングコラム側に支持されており、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位する。
又、前記係止カプセルは、前記コラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させている。
更に、前記係止カプセルの一部を前記係止切り欠きの内側に位置させた状態で、この係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合している。そして、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持している。
【0042】
特に、本発明のステアリングコラム用支持装置に於いては、前記コラム側ブラケットのうちで前記係止カプセルと重ね合わされる部分の、少なくとも幅方向に離隔した複数箇所に通孔を、この係止カプセルのうちでこれら各通孔と整合する部分にねじ孔を、それぞれ形成している。そして、これら各通孔を下方から挿通したボルトをこれら各ねじ孔に螺合し更に締め付ける事により、前記係止カプセルと前記コラム側ブラケットとを結合固定している。
この様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記各ボルトの頭部の上面と前記コラム側ブラケットの下面との間に、これら各頭部の外接円の直径及び前記各通孔の内径よりも大きな外径を有する間座を挟持する。
【0043】
或いは、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記係止切り欠きの前後方向に関する長さを前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きくする。そして、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部が前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置して、この係止カプセルが脱落するのを防止できるだけの長さを持たせる。
【0044】
或は、請求項4に記載した発明の様に、前記結合部材を、前記係止カプセルと前記車体側ブラケットとの互いに整合する部分に形成した、それぞれ複数ずつの小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンとする。そして、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部を、前記車体側ブラケットの上下両面と相手面との間に存在する隙間のうちの少なくとも一部に進入させて、これら各面同士の間に存在する隙間に基づくがたつきを防止する。
【発明の効果】
【0045】
上述の様に構成する本発明のステアリングコラム用支持装置によれば、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、小型化並びに低コスト化を図れ、且つ、設計の自由度を確保できる構造を実現できる。更には、コラム側ブラケットに対する係止カプセルの支持剛性を高くできる。
【0046】
先ず、本発明の場合には、前記コラム側ブラケットに固定した係止カプセルと、前記車体側ブラケットに形成した係止切り欠きとの係合部が、幅方向中央部の1箇所のみである為、二次衝突時にこの係合部を外し、前記ステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易になる。
【0047】
次に、小型化、低コスト化、設計の自由度確保は、前記コラム側ブラケットと前記係止カプセルとを結合固定する為の複数本のボルトを螺合させる為のねじ孔を、この係止カプセルに直接形成する事により図れる。即ち、この係止カプセルの肉厚(高さ寸法)を利用して、十分な長さを有するねじ孔を形成する事で、この係止カプセルの上側にナットを設ける必要がなくなり、前述の従来構造及び先発明構造の場合に生じた、ナットの存在に基づく組立寸法の増大を抑えられて、小型化を図れる。又、ナットが不要になる事による低コスト化、小型化に基づく、ステアリング装置設置部分の設計の自由度確保を図れる。
【0048】
更に、コラム側ブラケットに対する係止カプセルの支持剛性を高くする事は、前記各ボルトを挿通し螺合する為の各通孔及び前記各ねじ孔を、少なくとも幅方向に離隔した複数箇所に設ける事により図れる。例えば、ステアリングキーを外した状態でステアリングホイールの回転を阻止する為のステアリングロック装置を設けたステアリング装置で、このステアリングロック装置を作動させた状態のまま前記ステアリングホイールを回転させようすると、ステアリングコラムを介して、前記コラム側ブラケットと前記係止カプセルとの係合部にモーメントが加わる。これに対して、前記各通孔及び前記各ねじ孔を上述の様に配置する事により、このモーメントに対する剛性を高くできる。
特に、この剛性の向上は、前記各通孔及び前記各ねじ孔の、幅方向に関するピッチ(間隔)を大きくするほど大きくできるが、請求項2に記載した発明の様に、大きな外径を有する間座を使用すれば、前記ピッチを大きくした場合と同様、前記モーメントを向上させる効果を得られる。
【0049】
又、請求項3に記載した発明の構造によれば、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールの上下方向位置が過度に変化する事を防止できる。即ち、前記二次衝突が進行した状態でも、この係止カプセルが前記係止切り欠きから前方に抜け出さない為、この状態でも、前記コラム側ブラケットが前記車体側ブラケットから落下する事はない。この結果、前記二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールが過度に下降する事がなくなる。
【0050】
更に、請求項4に記載した発明の構造を採用すれば、前記車体側ブラケットと前記コラム側ブラケットとの結合部のがたつきを防止して、このコラム側ブラケットに支持されたステアリングコラムのがたつきを防止できる。そして、このステアリングコラムに回転自在に支持されたステアリングシャフトの後端部に支持固定したステアリングホイールの操作感を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図13と同様の断面図。
【図2】同第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】従来から知られているステアリングコラム用支持装置の1例を示す、部分切断側面図。
【図4】従前のステアリングコラム用支持装置の1例を、通常時の状態で示す平面図。
【図5】同じく、通常時の状態で示す側面図。
【図6】同じく二次衝突が進行した状態で示す側面図
【図7】従来構造の1例を示す、ステアリングコラムの中心軸に対し直交する方向に存在する仮想平面に関する断面図。
【図8】同じく、車体側ブラケットとコラム側ブラケットとを結合する以前の状態で示す斜視図。
【図9】同じく、ステアリングコラム及びコラム側ブラケットを省略する代わりに結合ピンを記載した状態で示す斜視図。
【図10】先発明に係る構造の1例を、後上方から見た状態で示す斜視図。
【図11】同じく、一部を省略して後方から見た状態で示す正投影図。
【図12】同じく、図11の上方から見た状態で示す平面図。
【図13】車体側ブラケットとコラム側ブラケットとの結合部の構造の2例を示す、図12のX−X断面図。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の構造及び作用の特徴は、係止カプセル46bとコラム側ブラケット12bとの結合部の構造を簡略化すべく、この係止カプセル46bに直接ねじ孔54、54を形成して、ナット51、51(前述の図10〜13参照)を省略した点にある。その他の部分の構造及び作用に就いては、基本的には、前述の図10〜13に示した先発明に係る構造と同様であるから、同等部分に関する説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0053】
前記コラム側ブラケット12bと前記係止カプセル46bとは、前述の図10〜12に示した先発明構造の場合と同様、3箇所位置で、それぞれボルト50a、50aにより結合固定している。これら3本のボルト50a、50aを設置する位置は、前記先発明で3本のボルト50、50及び3個のナット51、51を設置する位置と同様に、前記係止カプセル46bの後寄りで、幅方向に関して中央部よりも両端寄りの2箇所位置と、同じく前寄りの幅方向中央部との、合計3箇所位置である。これら3箇所位置に前記各ボルト50a、50aを設置すべく、前記コラム側ブラケット12bの一部でこれら3箇所位置に通孔53、53を、同じく前記係止カプセル46bのうちでこれら各通孔53、53と整合する部分に前記各ねじ孔54、54を、それぞれ形成している。そして、これら各通孔53、53を下方から挿通した前記各ボルト50a、50aを前記各ねじ孔54、54に螺合し更に締め付ける事により、前記係止カプセル46bと前記コラム側ブラケット12bとを結合固定している。
【0054】
本例の構造では、前記各ボルト50a、50aの頭部55、55の上端部外周縁に間座部56、56を、これら各頭部55、55と一体に形成している。これら各間座部56、56の外径は、これら各頭部55、55の外接円の直径及び前記各通孔53、53の内径よりも大きい。そして、前記各ボルト50a、50aのねじ杆部57、57を前記各ねじ孔54、54に螺合し更に締め付けた状態で、前記各間座部56、56の上面を前記コラム側ブラケット12bの下面に強く押し付けている。即ち、この状態で、前記各間座部56、56の上面と前記係止カプセル46bの下面との間で、前記コラム側ブラケット12bのうち、前記3箇所の通孔53、53の周囲部分を、強く挟持している。
【0055】
上述の様に構成する本例の構造によれば、前述した先発明の構造の場合と同様にして、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易にできる事に加えて、小型化並びに低コスト化を図れ、且つ、設計の自由度を確保できる構造を実現できる。更には、コラム側ブラケットに対する係止カプセルの支持剛性を高くできる。
【0056】
即ち、前記コラム側ブラケット12bと前記係止カプセル46bとを結合固定する為の前記3本のボルト50a、50aを螺合させる為の前記各ねじ孔54、54を、前記係止カプセル46bに直接形成している為、前述した先発明の構造の場合とは異なり、この係止カプセル46bの上側にナットを設ける必要がない。言い換えれば、この係止カプセル46bの肉厚(高さ寸法)を利用して、十分な長さを有する前記各ねじ孔54、54を形成する事で、前述の従来構造及び先発明構造の場合に生じた、ナットの存在に基づく組立寸法の増大を抑えられて、小型化を図れる。又、ナットが不要になる事による低コスト化、小型化に基づく、ステアリング装置設置部分の設計の自由度確保を図れる。尚、本例の場合には、次述する実施の形態の第2例の場合に比べて、前記係止カプセル46bの肉厚が小さい。従って、前記各ねじ孔54、54と前記各ボルト50a、50aとの螺合部の強度を確保する為には、前記係止カプセル46bを、炭素鋼等の鉄系金属製とする事が好ましい。
【0057】
又、前記3本のボルト50a、50aのうち、後寄り2本のボルト50a、50aは、幅方向に離隔して配置している為、前記係止カプセル46bと前記コラム側ブラケット12bとの結合部の、モーメントに対する剛性を高くできる。特に、この剛性の向上は、前記各通孔53、53及び前記各ねじ孔54、54の、幅方向に関するピッチPを大きくするほど大きくできる。本例の場合には、このピッチPを確保している事に加えて、前記各ボルト50a、50aの一部に、前述の様な間座部56、56を形成している為、前記ピッチPを更に大きくした場合と同様の効果を得られて、前記モーメントをより向上させる事ができる。尚、この様な効果は、前記各ボルト50a、50aと別体の間座を、これら各ボルト50a、50aの頭部55、55の上面と前記コラム側ブラケット12bの下面との間に挟持しても同様に得られる。
【0058】
更に、本例の場合には、構造上、前記各ボルト50a、50aと前記係止カプセル46bとが、この係止カプセル46bの面方向(前後方向及び幅方向)にずれ動く事はない。従って、仮に、前記各ボルト50a、50aが緩んだ状態でも、前記車体側ブラケット11に対して前記コラム側ブラケット12bがずれ動くのは、前記各通孔53、53の内周面と前記各ボルト50a、50aの外周面との間に存在する隙間分のみとなる。この為、仮にこれら各ボルト50a、50aが緩んでも、前述した従来構造及び先発明の構造に比べて、前記コラム側ブラケット12bのずれ動き量を少なく抑えられる。特に、前記各通孔53、53の内周面と前記各ボルト50a、50aのねじ杆部57、57の外周面との間の隙間を無くせば(これら各通孔53、53と各ボルト50a、50aとの嵌合状態を軽い締り嵌めにすれば)、これら各ボルト50a、50aを緩みにくくできるだけでなく、仮に緩んだ場合でも、前記コラム側ブラケット12bのずれ動き量を実質的にゼロにできる。
【0059】
尚、本例の構造でも、前述の先発明の構造と同様、図10、12に示した様に、車体側ブラケット11に設けた係止切り欠き44の前後方向長さを確保すれば、二次衝突が進行した状態でも、前記係止カプセル46bがこの係止切り欠き44から前方に抜け出さない様にして、前記二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールが過度に下降する事を防止できる。
又、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル44とを結合する係止ピン49、49を構成する合成樹脂を、この車体側ブラケット11の上下両面と、相手面である、前記係止カプセル44の鍔部47の下面又は前記コラム側ブラケット12bの上面との間に存在する隙間(少なくとも一方の隙間)に進入させれば、前記車体側ブラケット11と前記コラム側ブラケット12bとの結合部のがたつきを防止できる。そして、このコラム側ブラケット12bに支持されたステアリングコラムのがたつきを防止して、このステアリングコラムに回転自在に支持されたステアリングシャフトの後端部に支持固定したステアリングホイールの操作感を良好にできる。
【0060】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。上述の実施の形態の第1例が、本発明を、前述の図13の(A)に示した構造に適用したのに対して、本例は、本発明を同図の(B)に示した構造に適用した場合に就いて示している。これに合わせて本例の場合には、係止カプセル46cの肉厚を上述した実施の形態の第1例の場合よりも大きくしている。又、これに合わせて、各ボルト50b、50bのねじ杆部57a、57aの長さ寸法も大きくしている。従って、本例の構造の場合には、これら各ねじ杆部57a、57aとねじ孔54a、54aとの螺合部の長さ寸法を大きくできる為、前記係止カプセル46cの材質として、鉄系合金以外の軽合金、高機能樹脂等の採用も可能になる。
前記係止カプセル46cの形状を図13の(B)と同様にした事による利点は、前述の先発明の場合と同様であり、その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上述した実施の形態は、本発明を、ステアリングホイールの上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えたステアリングコラム用支持装置に適用した場合に就いて説明した。但し、本発明は、チルト機構のみ、又はテレスコピック機構のみを備えたステアリングコラム用支持装置、更には、これら両機構を何れも備えていない、ステアリングホイールの位置固定式のステアリングコラム用支持装置で実施する事もできる。
【符号の説明】
【0062】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a、5b ステアリングシャフト
6、6a、6b、6c ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10、10a ハウジング
11、11a、11b 車体側ブラケット
12、12a、12b コラム側ブラケット
13 ハウジング側ブラケット
14a、14b 取付板部
15a、15b 切り欠き
16a、16b 滑り板
17 エネルギ吸収部材
18 係止切り欠き
19 係止カプセル
20 係止溝
21a、21b 係止孔
22 係止ピン
23 インナコラム
24 アウタコラム
25 アウタシャフト
26 玉軸受
27 電動モータ
28 制御器
29 支持筒
30 中心孔
31 スリット
32 被支持板部
33、33a 支持板部
34 上下方向長孔
35 前後方向長孔
36 調節ロッド
37 頭部
38 ナット
39 駆動側カム
40 被駆動側カム
41 カム装置
42 調節レバー
43 摩擦板ユニット
44 係止切り欠き
45 取付孔
46、46a、46b、46c 係止カプセル
47 鍔部
48a、48b 小通孔
49 係止ピン
50、50a、50b ボルト
51 ナット
52 係止溝
53 通孔
54、54a ねじ孔
55 頭部
56 間座部
57、57a ねじ杆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムと、このステアリングコラムの内側に回転自在に支持されて、このステアリングコラムの後端部から後方に突出した後端部にステアリングホイールを支持固定するステアリングシャフトと、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケットと、この車体側ブラケットの幅方向中央部に形成された、この車体側ブラケットの前端縁側が開口した係止切り欠きと、前記ステアリングコラム側に支持されて、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位するコラム側ブラケットと、このコラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させた係止カプセルとを備え、この係止カプセルの一部を前記係止切り欠きの内側に位置させた状態で、この係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合する事により、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持したステアリングコラム用支持装置に於いて、前記コラム側ブラケットのうちで前記係止カプセルと重ね合わされる部分の、少なくとも幅方向に離隔した複数箇所に通孔を、この係止カプセルのうちでこれら各通孔と整合する部分にねじ孔を、それぞれ形成し、これら各通孔を下方から挿通したボルトをこれら各ねじ孔に螺合し更に締め付ける事により、前記係止カプセルと前記コラム側ブラケットとを結合固定している事を特徴とするステアリングコラム用支持装置。
【請求項2】
前記各ボルトの頭部の上面と前記コラム側ブラケットの下面との間に、これら各頭部の外接円の直径及び前記各通孔の内径よりも大きな外径を有する間座を挟持している、請求項1に記載したステアリングコラム用支持装置。
【請求項3】
前記係止切り欠きの前後方向に関する長さが前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きく、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部が前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置して、この係止カプセルが脱落するのを防止できるだけの長さを有する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したステアリングコラム用支持装置。
【請求項4】
前記結合部材が、前記係止カプセルと前記車体側ブラケットとの互いに整合する部分に形成した、それぞれ複数ずつの小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンであり、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部が、前記車体側ブラケットの上下両面と相手面との間に存在する隙間のうちの少なくとも一部に進入して、これら各面同士の間に存在する隙間に基づくがたつきを防止している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したステアリングコラム用支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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