説明

ステアリング装置

【課題】ラックをピニオンに付勢する構成を有し、且つ部品点数の少ないステアリング装置を提供する。
【解決手段】環状の第1支持部材31は、ラック軸14を軸方向に摺動可能に支持している。ねじ部材45は、第1支持部材31に所定の荷重F1を付与し、且つ第1支持部材31をハウジング23に固定している。第1支持部材31の第1凸部51は、所定の荷重F1を、ラック17をピニオン16に付勢する付勢力としてラック軸14に伝達する。第1支持部材31は、ラック軸14を支持するブッシュとしての機能と、ラック17をピニオン16側に付勢するサポートヨークとしての機能と、を兼ねている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置には、ラックアンドピニオン機構を備えているものがある(例えば、特許文献1参照)。ラックアンドピニオン機構は、ラック(ラック歯)が形成されたラック軸と、ラックに噛み合うピニオン(ピニオン歯)が形成されたピニオン軸と、を含んでいる。ラック軸の両端側部分は、それぞれ、ブッシュを介してハウジングに支持されている。すなわち、2つのブッシュが用いられている。2つのブッシュの間には、ラックをピニオンに向けて付勢するラック軸支持装置が設けられている。ラック軸支持装置は、ラック軸に摺動可能に接触する半円形状のサポートヨークと、サポートヨークを付勢するばねと、ばねを受けハウジングに固定されるねじ部材と、を含んでいる。ばねは、サポートヨークを介してラックをピニオン側に付勢している。これにより、ラックとピニオンとの噛み合い部でがたつきが発生することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−87535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、ラック軸支持装置は、サポートヨーク、ばね、およびねじ部材を含んでおり、部品点数が多い。その上、ラック軸を支持するブッシュ2つが設けられている結果、ラック軸を3箇所で支える3点支持構造となっており部品点数が多い。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、ラックをピニオンに付勢する構成を有し、且つ部品点数の少ないステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、ピニオン(16)と、このピニオンに噛み合うラック(17)を含み転舵輪(3)を操向するためのラック軸(14)と、このラック軸を軸方向(X1)に摺動可能に支持する環状の支持部材(31;31A)と、この支持部材および前記ラック軸を収容するハウジング(23)と、前記支持部材に所定の荷重(F1)を付与し、且つ前記支持部材を前記ハウジングに固定する固定部材(45)と、を備え、前記支持部材は、前記所定の荷重を、前記ラックを前記ピニオンに付勢する付勢力として前記ラック軸に伝達する伝達部(51)を含むことを特徴とするステアリング装置(1)を提供する(請求項1)。
【0006】
本発明によれば、支持部材に作用する所定の荷重は、ラックをピニオンに付勢する付勢力として、伝達部からラック軸に伝達される。これにより、ラックとピニオンとの噛み合い領域でがたつき音(ラトル音)が発生することを抑制できる。また、環状の支持部材は、ラック軸を支持する機能、およびラックをピニオン側に付勢する機能の2つの機能を兼ねている。これにより、ラック軸を摺動可能に支持するためのブッシュと、ラックをピニオン側に付勢するラック軸支持装置とを別々に設ける必要がない。よって、ステアリング装置の部品点数を少なくできる。すなわち、支持部材と固定部材の2部品で、ラック軸の支持・付勢を実現できるので、ステアリング装置の部品点数を少なくできる。
【0007】
また、本発明において、前記固定部材は、前記ハウジングに形成された挿通孔(41)を挿通するねじ部材(45)を含み、前記支持部材は、前記ねじ部材に結合する雌ねじ部(49)を含む場合がある(請求項2)。
この場合、ハウジングの挿通孔を挿通したねじ部材を支持部材の雌ねじ部に結合させるという簡易な構成により、支持部材をハウジングに取り付けることができる。また、固定部材として、単一部材からなるねじ部材を用いることができるので、ステアリング装置の部品点数を、より少なくできる。さらに、雌ねじ部へのねじ部材のねじ込み深さを調整することにより、支持部材に作用する所定の荷重の値を容易に調整できる。これにより、伝達部からラック軸を介してラックとピニオンとの噛み合い領域に作用する荷重を最適な値にできるので、この噛み合い部で生じる噛み合い音を可及的に小さくできる。
【0008】
また、本発明において、前記固定部材から前記支持部材に付与される前記所定の荷重の向きは、前記ラックが前記ピニオンを向く方向(Y2)と合致している場合がある(請求項3)。
この場合、固定部材から支持部材に伝達される所定の荷重の向きを、ラックをピニオンに付勢する方向と一致させることができる。これにより、少ない部品点数で、ラックをピニオンに確実に付勢することができる。
【0009】
また、本発明において、前記ラック軸の周方向(C1)に関して、前記固定部材の位置は、前記ラックおよび前記ピニオンが噛み合っている噛み合い領域(33)の位置と重なっている場合がある(請求項4)。
この場合、ラック軸の軸方向から見たときに固定部材と噛み合い領域とが近接するように、固定部材を配置できる。これにより、ステアリング装置をラック軸の軸方向に投影したときの、ラック軸に対して径方向外方に位置している部分の投影面積を小さくできる。その結果、ステアリング装置をよりコンパクトにできる。
【0010】
また、本発明において、前記ラック軸を軸方向に摺動可能に支持する第2支持部材(32)をさらに備え、前記第1および第2支持部材は、前記ラックおよび前記ピニオンが噛み合っている噛み合い領域を挟んで離隔して配置されている場合がある(請求項5)。
この場合、2つの支持部材でラック軸を2点支持することができる。このような簡易な2点支持構造により、ラック軸を長い支持スパンで支持できる上に、ラックをピニオン側に付勢する構成を実現できる。その結果、ラック軸を安定して支持できる構成を実現しつつ、ステアリング装置の小型化、軽量化、および製造コストの低減を実現できる。また、サポートヨークを用いる従来の構成と比べて、ハウジングに、サポートヨークやばねを収容するための孔部を形成する加工が不要となり、製造コストを更に低減できる。
【0011】
また、本発明において、前記伝達部は、前記ラック軸と摺動可能に接触しており、前記支持部材には、前記伝達部に隣接する位置に溝部(48)が形成されている場合がある(請求項6)。
この場合、ラック軸が振動したときに、伝達部の溝部の周辺が撓むことにより、ラック軸の振動を吸収できる。また、ステアリング装置の組み立て時等において、ハウジングに対するラック軸の位置が設計上の位置からずれているときに、ラック軸に接触した伝達部の周辺が撓むことにより、この位置ずれを吸収できる。
【0012】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の主要部の一部を破断して示した側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図であり、ラック軸の軸方向と直交する切断面を示している。
【図4】本発明の別の実施形態の主要部の断面図であり、ラック軸の軸方向と直交する切断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下には、図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置としての電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0015】
本実施形態では、操舵補助機構5がステアリングシャフト6にアシスト力(操舵補助力)を与える例に則して説明する。しかしながら、本発明を、操舵補助機構5が後述するピニオン軸13にアシスト力を与える構造や、操舵補助機構5が後述するラック軸14にアシスト力を与える構造に適用することも可能である。また、本発明を、操舵補助機構の無いマニュアルステアリング装置に適用してもよい。
【0016】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクを検出する。トルクセンサ11のトルク検出結果は、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)12に入力される。また、車速センサ30からの車速検出結果が、ECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と転舵機構4とを連結している。
【0017】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構と、を含む。
ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が設けられている。
【0018】
ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ラック軸14は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の途中部には、上記ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0019】
ラック軸14は、ラック17が形成された第1部分26と、ラック17が形成されていない第2部分27と、を含んでいる。第1部分26と第2部分27とは、ラック軸14の軸方向X1に並んで配置されている。第2部分27は、第1部分26を軸方向X1に挟んで配置されている。第2部分27は、円柱状に形成されており、円筒状の外周面を有している。
【0020】
転舵機構4は、ハウジング23に収容されている。ハウジング23は、車体(図示せず)に支持されている。ハウジング23は、ピニオン16を収容するピニオンハウジング24と、ラック17を収容するラックハウジング25と、を含んでいる。ピニオンハウジング24は、ピニオン16の軸方向に延びる円筒状に形成されており、ピニオン16を含むピニオン軸13の一部を収容している。ラックハウジング25は、軸方向X1に延びる円筒状に形成されている。ハウジング23は、ラック17を含むラック軸14の大部分を収容している。
【0021】
ラック軸14は、環状の第1支持部材31と、環状の第2支持部材32と、を介して、ラックハウジング25に支持(収容)されており、ラックハウジング25に対して軸方向X1に変位可能である。第1および第2支持部材31,32は、それぞれ、ラックハウジング25に支持され、且つ、ラック軸14を軸方向X1に摺動可能に支持している。第1および第2支持部材31,32は、ラック17とピニオン16との噛み合い領域33を軸方向X1に挟んで離隔して配置されており、ラック軸14を2点支持している。
【0022】
第1支持部材31は、ラックハウジング25の一端部25aの近傍に配置されており、噛み合い領域33に隣接している。第1支持部材31は、例えば、合成樹脂(弾性部材)を用いて形成されている。第1支持部材31は、ラック17に隣接して配置されている。
第2支持部材32は、第1支持部材31と同様の材料、または、第1支持部材31よりも硬い材料を用いて形成されている。第2支持部材32は、円環状に形成されており、ラック軸14を取り囲んでいる。第2支持部材32は、ラックハウジングの他端部25bの近傍に配置されている。
【0023】
上記の構成により、ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵(操向)される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための伝達機構としての減速機構19とを含む。減速機構19は、駆動ギヤとしてのウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合う従動ギヤとしてのウォームホイール21とを含む。減速機構19は、ギヤハウジング22内に収容されている。
【0024】
ウォーム軸20は、図示しない継手を介して電動モータ18の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6に一体回転可能に連結されている。
電動モータ18がウォーム軸20を回転駆動すると、ウォーム軸20によってウォームホイール21が回転駆動される。これにより、ウォームホイール21およびステアリングシャフト6は、一体回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することで、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0025】
電動モータ18は、ECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11からのトルク検出結果や、車速センサ30からの車速検出結果等に基づいて電動モータ18を制御する。具体的には、ECU12では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ18の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0026】
図2は、電動パワーステアリング装置1の主要部の一部を破断して示した側面図であり、一部を想像線で示している。図3は、図2のIII−III線に沿う断面図であり、軸方向X1と直交する切断面を示している。図2および図3を参照して、ピニオン軸13の中心軸線L1およびラック軸14の中心軸線L2の双方と平行な平面(図2に示す平面)において、ピニオン軸13の中心軸線L1は、ラック軸14の中心軸線L2に対して、傾斜している。これにより、ラックハウジング25のうち、ピニオン軸13が突出している先端側が、ラックハウジング25の一端部25a側に傾いている。
【0027】
ピニオンハウジング24は、ピニオン16と同軸に形成されている。また、ピニオンハウジング24は、ラックハウジング25に対して、車両前後方向Y1の一方Y2(図3の右方)側に配置されている。
ラックハウジング25は、第1支持部材31を支持する支持部35と、この支持部35を軸方向X1に挟んで配置された第1段部36および第2段部37と、第2段部37に隣接する雌ねじ部38と、を含んでいる。
【0028】
支持部35の内周面は、円筒状の受け部39と、受け部39に対して窪んだ凹部40と、を含んでいる。凹部40は、受け部39に対して、車両前後方向Y1の一方Y2に窪んでいる。凹部40からラックハウジング25の外方に向けて延びるねじ挿通孔41が、ラックハウジング25に形成されている。ねじ挿通孔41は、ラック軸14の径方向R1に沿って延びている。本実施形態では、ねじ挿通孔41は、車両前後方向Y1の一方Y2に向けて延びている。
【0029】
第1段部36は、噛み合い領域33と支持部35との間に配置された、環状の段部である。第2段部37は、支持部35と、ラックハウジング25の一端部25aとの間に配置された、環状の段部である。雌ねじ部38は、ラックハウジング25の内周面に形成されており、第2段部37からラックハウジング25の一端部25aに向けて延びている。
ラック軸14の第1部分26は、断面D形形状に形成されている。第1部分26は、ラック軸14の周方向C1に関して、円弧状部42と、ラック17と、が並んだ構成を有している。円弧状部42は、ラック軸14の中心軸線L2を中心とする円弧面に形成されている。ラック17の先端面17aは、車両前後方向Y1の他方Y2を向いている。軸方向X1から見たとき、円弧状部42と合致する仮想の円筒面43と、ラック17の先端面17aとの間には、ラック軸14の一部を切り欠いてなる収容空間44が規定されている。
【0030】
第1支持部材31は、固定部材としてのねじ部材45を用いて、ラックハウジング25に固定されている。第1支持部材31は、全体として円環状に形成されている。第1支持部材31は、車両前後方向Y1に関して、ラックハウジング25に対して微小量(例えば、数百μm程度)変位可能である。これにより、ねじ部材45によって第1支持部材31を噛み合い領域33側に変位させることが可能である。
【0031】
軸方向X1に見たとき、第1支持部材31の内周面46は、ラック軸14の円弧状部42と略同心に形成されている。この内周面46は、円弧状に形成されており、ラック軸14の円弧状部42と径方向R1に相対向している。内周面46には、複数の凸部51,52,53が形成されている。凸部51,52,53は、ラック軸14の周方向C1に間隔をあけて複数(本実施形態において、3つ)設けられており、ラック軸14の円弧状部42に摺動可能に接触している。
【0032】
第1凸部51は、伝達部を構成している。第1凸部51と、ねじ部材45とは、ピニオン16とラック17とが向かい合う方向(車両前後方向Y1)に相対向している。第1凸部51は、ラック軸14に対して車両前後方向Y1の他方Y3側に配置されている。第1凸部51は、ラック軸14の中心軸線L2を挟んで、ねじ部材45と、車両前後方向Y1に相対向している。第1凸部51は、ねじ部材45から第1支持部材31に作用する所定の荷重F1を、ラック17をピニオン16に付勢する付勢力として、ラック軸14に伝達する。
【0033】
第2凸部52および第3凸部53は、第1凸部51から周方向C1に90°離隔した位置に配置されており、車両前後方向Y1と直交する方向(車両上下方向)に沿って、ラック軸14の円弧状部42を挟んでいる。
第1支持部材31の外周面47は、支持部35の受け部39および凹部40に取り囲まれている。これにより、第1支持部材31の一部は、ラックハウジング25の凹部40に嵌め込まれている。第1支持部材31の外周面47には、溝部48が形成されている。溝部48は、第1支持部材31の弾性(可撓性)を増すために設けられている。溝部48は、周方向C1に関する位置が、第1凸部51と揃えられており、第1凸部51と隣接している。
【0034】
また、第1支持部材31には、雌ねじ部49が形成されている。軸方向X1から見たとき、雌ねじ部49は、第1支持部材31のうち、噛み合い領域33の近傍を径方向R1(車両前後方向1の他方Y2側)に貫通して形成されている。
雌ねじ部49には、ねじ部材45がねじ結合している。ねじ部材45は、第1支持部材31に所定の荷重F1を付与するように構成されている。ねじ部材45から第1支持部材31に付与される所定の荷重F1の向きは、ラック17がピニオン16を向く方向(車両前後方向Y1の一方Y2)と合致している。これにより、第1凸部51は、噛み合い領域33側に付勢され、その結果、ラック17をピニオン16側に付勢する付勢力が発生する。
【0035】
ねじ部材45は、頭部55と、雄ねじ部56と、を含んでいる。軸方向X1から見たとき、ねじ部材45は、ピニオンハウジング24が配置されている領域内に位置している。また、周方向C1に関して、ねじ部材45の位置は、噛み合い領域33の位置と重なっている。
頭部55は、ラックハウジング25の外周部に形成された平坦な座部57に受けられている。雄ねじ部56は、ラックハウジング25のねじ挿通孔41を挿通し、且つ、第1支持部材31の雌ねじ部49にねじ結合している。また、第1支持部材31は、ラックハウジング25の雌ねじ部38に固定されたナット部材58と、ラックハウジング25の第1段部36とによって、軸方向X1に挟まれており、第1支持部材31は、ラックハウジング25に固定されている。
【0036】
雄ねじ部56の先端は、ラック軸14に形成された前述の収容空間44に収容されている。これにより、雄ねじ部56およびラック軸14を全体としてコンパクトに配置できる。
上記の構成により、ねじ部材45は、第1支持部材31の雌ねじ部49を、車両前後方向Y1の一方Y2側に付勢しており、第1支持部材31に所定の荷重F1が作用している。これにより、第1支持部材31は弾性変形し、その結果、第1凸部51は、ラック17をピニオン16側に付勢している。これにより、ラック17とピニオン16との間で、がたつき音(ラトル音)が生じることを抑制できる。
【0037】
また、電動パワーステアリング装置1を長期間使用することにより、ラック17およびピニオン16が摩耗したときでも、第1支持部材31の弾性力は、噛み合い領域33に作用する。これにより、ラック17をピニオン16に弾性的に押圧させた状態、すなわち、がたつき音が抑制された状態を長期間に亘って維持できる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1支持部材31に作用する所定の荷重F1は、ラック17をピニオン16に付勢する付勢力として、第1凸部51からラック軸14に伝達される。これにより、ラック17とピニオン16との噛み合い領域33でがたつき音(ラトル音)が発生することを抑制できる。
【0038】
また、環状の第1支持部材31は、ラック軸14を支持する機能、およびラック17をピニオン16側に付勢する機能の2つの機能を兼ねている。これにより、ラック軸14を摺動可能に支持するためのブッシュと、ラック17をピニオン16側に付勢するラック軸支持装置とを別々に設ける必要がない。よって、電動パワーステアリング装置1の部品点数を少なくできる。すなわち、第1支持部材31とねじ部材45の2部品で、ラック軸14の支持・付勢を実現できるので、電動パワーステアリング装置1の部品点数を少なくできる。
【0039】
また、ラックハウジング25のねじ挿通孔41を挿通したねじ部材45を、第1支持部材31の雌ねじ部49に結合させるという簡易な構成により、第1支持部材31をラックハウジング25に取り付けることができる。また、第1支持部材31を固定する固定部材として、単一部材からなるねじ部材45を用いることができるので、電動パワーステアリング装置1の部品点数を、より少なくできる。
【0040】
さらに、雌ねじ部49へのねじ部材45のねじ込み深さを調整することにより、第1支持部材31に作用する所定の荷重F1の値を容易に調整できる。これにより、第1凸部51からラック軸14を介して噛み合い領域33に作用する荷重を最適な値にできるので、この噛み合い領域33で生じる噛み合い音を可及的に小さくできる。
また、ねじ部材45から第1支持部材31に伝達される所定の荷重F1の向きを、ラック17をピニオン16に付勢する方向と一致させている。これにより、少ない部品点数で、ラック17をピニオン16に確実に付勢することができる。
【0041】
さらに、周方向C1に関して、ねじ部材45の位置は、噛み合い領域33の位置と重なっている。これにより、ラック軸14の軸方向X1から見たときに、ねじ部材45と噛み合い領域33とが近接するように、ねじ部材45を配置できる。これにより、電動パワーステアリング装置1をラック軸14の軸方向X1に投影したときの、ラック軸14に対して径方向外方に位置している部分の投影面積を小さくできる。その結果、電動パワーステアリング装置1をよりコンパクトにできる。
【0042】
また、第1および第2支持部材31,32は、噛み合い領域33を挟んで離隔して配置されている。これにより、2つの支持部材31,32でラック軸14を2点支持することができる。このような簡易な2点支持構造により、ラック17を長い支持スパンで支持できる上に、ラック軸14をピニオン16側に付勢する構成を実現できる。その結果、ラック軸14を安定して支持できる構成を実現しつつ、電動パワーステアリング装置1の小型化、軽量化、および製造コストの低減を実現できる。
【0043】
また、サポートヨークを用いる従来の構成と比べて、ラックハウジング25に、サポートヨークやばねを収容するための収容空間(収容孔部)を形成する加工が不要となり、製造コストを更に低減できる。
さらに、第1支持部材31には、第1凸部51に隣接する位置に溝部48が形成されている。これにより、ラック軸14が振動したときに、溝部48の周辺が撓むことにより、ラック軸14の振動を吸収できる。また、電動パワーステアリング装置1の組み立て時等において、ラックハウジング25に対するラック軸14の位置が設計上の位置からずれているときに、ラック軸14に接触した第1凸部51の近傍部分(溝部48の周辺)が撓むことにより、この位置ずれを吸収できる。
【0044】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、図4に示す第1支持部材31Aおよびねじ部材45を用いてもよい。なお、以下では、図1〜図3に示す上記実施形態と異なる点について説明し、上記実施形態と同様の構成には、図に同一の数字を付してその説明を省略する。
【0045】
この場合、周方向C1に関して、ねじ部材45の位置は、噛み合い領域33の位置と異なっている。図4においては、周方向C1に関して、ねじ部材45の位置は、噛み合い領域33の位置と180°異なっている。この場合、ラックハウジング25には、ねじ孔60が形成されている。ねじ部材45は、ねじ孔60にねじ結合している。ねじ部材45の雄ねじ部56は、第1支持部材31Aの外周部に形成されたねじ挿通孔61に挿通されている。ねじ挿通孔61の底部は、雄ねじ部56を受けている。これにより、ラック17がピニオン16を向く方向(車両前後方向Y1の他方Y2)に向けて、ねじ部材45は、第1支持部材31Aに所定の荷重F1を付与する。この荷重は、第1凸部51を介してラック軸14に伝わり、さらに、噛み合い領域33に伝わる。
【0046】
また、各上記実施形態において、第1支持部材31,31Aのうち、ラック軸14に接触する部分(凸部51,52,53)の位置、大きさおよび形状は、上記実施形態に説明した態様に限定されない。
また、固定部材としてねじ部材45を例示したけれども、これに限定されない。固定部材として、ピン部材等、ねじ部材以外の部材を用いてもよい。
【0047】
また、第1支持部材31,31Aの配置と、第2支持部材32の配置とを入れ替えてもよい。さらに、溝部48は、無くてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)、3…転舵輪、14…ラック軸、16…ピニオン、17…ラック、23…ハウジング、31,31A…支持部材、32…第2支持部材、33…噛み合い領域、41…ねじ挿通孔(挿通孔)、45…ねじ部材(固定部材)、48…溝部、49…雌ねじ部、51…第1凸部(伝達部)、C1…周方向、F1…所定の荷重、X1…軸方向、Y2…車両前後方向の他方(ラックがピニオンを向く方向)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンと、
このピニオンに噛み合うラックを含み転舵輪を操向するためのラック軸と、
このラック軸を軸方向に摺動可能に支持する環状の支持部材と、
この支持部材および前記ラック軸を収容するハウジングと、
前記支持部材に所定の荷重を付与し、且つ前記支持部材を前記ハウジングに固定する固定部材と、を備え、
前記支持部材は、前記所定の荷重を、前記ラックを前記ピニオンに付勢する付勢力として前記ラック軸に伝達する伝達部を含むことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記固定部材は、前記ハウジングに形成された挿通孔を挿通するねじ部材を含み、
前記支持部材は、前記ねじ部材に結合する雌ねじ部を含むことを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記固定部材から前記支持部材に付与される前記所定の荷重の向きは、前記ラックが前記ピニオンを向く方向と合致していることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、前記ラック軸の周方向に関して、前記固定部材の位置は、前記ラックおよび前記ピニオンが噛み合っている噛み合い領域の位置と重なっていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記ラック軸を軸方向に摺動可能に支持する第2支持部材をさらに備え、
前記第1および第2支持部材は、前記ラックおよび前記ピニオンが噛み合っている噛み合い領域を挟んで離隔して配置されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項において、前記伝達部は、前記ラック軸と摺動可能に接触しており、
前記支持部材には、前記伝達部に隣接する位置に溝部が形成されていることを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−162240(P2012−162240A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26267(P2011−26267)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】