説明

ステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置

【課題】マイクロステップ駆動に応用が可能で特別なモータを必要とせず、制御器出力である各相出力電圧指示と各相の相電流を検出し、演算することによりステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置を提供する。
【解決手段】指示電気角θと出力電圧から電圧指令値Vα、Vβを、モータ駆動装置3に、出力し、前記電圧指令値Vα、Vβおよび、電流検出器2で検出される駆動電流の値とを誘起起電圧推定演算装置8に入力して、モータ1の各相の誘起電圧eα、eβを算出し、正弦関数発生器17および余弦関数発生器18によって、正弦関数値と余弦関数値とを発生し、前記各相の誘起起電圧から2相交流に変換し、変換された誘起起電圧eα、eβと、正弦関数発生器17及び余弦関数発生器18から発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算し、回転子の推定演算結果θestと、前記制御部の指示電気角θとから偏差を求め、脱調検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータの駆動に関して、脱調現象を検出するステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のステッピングモータの脱調現象の検出方法としては、通常、次の5種類に大別できる。
1.センサ(位置、速度、加速度、検出巻線)を用いたステッピングモータの脱調検出方法(特許文献1)である。
この脱調検出方法は、センサをキャリッジに配設し、センサが横切ることによりキャリッジの位置を確認する。
この方法では、センサをモータ軸あるいは機構に設置しなければならないため、装置が大きくなりセンサ用の電線も必要となる。
【0003】
2.各相の逆起電圧から脱調検出する方法(特許文献2)である。
この脱調検出方法は、ロータ位置検出手段により駆動コイルに発生する逆起電圧によりロータ位置を検出し、ロータ位置検出手段の出力により駆動コイルに通電するタイミングを通電タイミング生成手段により生成する。
この方法では、特別に逆電圧検出回路が必要で、大きな過渡現象を生じないマイクロステップ駆動には使用できない。
【0004】
3.コンバータの電流から脱調検出する方法(特許文献3)である。
この脱調検出方法としては、モータに流れる電流と、通常動作時の基準となる電流とを比較し、基準電流よりモータ電流が大きくなった状態において、モータが脱調したと認識をすることが可能となる。
しかしながら、負荷により波形が変化する可能性があり、正確に脱調検出ができない。また、実機における実験により閾値を決める必要がある。
【0005】
4.電流波形をみて脱調検出する方法(特許文献4)である。
この脱調検出方法は、ステッピングモータのステータコイルに生じた逆起電力をリカバリ電流としてステータコイルに戻すリカバリ回路の電流又は電圧を検出する検出手段と、この検出手段の検出結果を所定の基準と比較して脱調の有無を判定する判定手段とからなり、前記検出手段は、前記リカバリ回路にLC並列共振回路を配設してこのLC並列共振回路に生じる共振波形を検出する手段として構成し、 前記判定手段は、ステータコイルへの電流のオン時又はオフ時における過渡現象に伴って前記検出手段の検出した共振波形に基づいて脱調の有無を判定する。
しかしながら、この脱調検出方法では、負荷により波形が変化する可能性があり、正確に脱調検出ができない。また、実機における実験により閾値を決める必要がある。
【0006】
5.全相電流のリップルから脱調検出する方法(特許文献5)である。
この脱調検出方法は、ステップモータの各相のコイル電流の総和を検知する全電流検知手段と、この全電流検知手段の検知信号のリップル成分を抽出するリップル抽出手段と、このリップル抽出手段の出力値を所定の基準値と比較し、その出力値が基準値を超えている場合にステップモータに脱調が生じていると判断する。
しかしながら、この脱調検出方法では、特別に全相電流のリップル検出回路が必要となる。
【特許文献1】特許3413028号
【特許文献2】特開平5−130800号公報
【特許文献3】特開平8−275592号公報
【特許文献4】特許3256342号
【特許文献5】特開平9−51695号公報
【特許文献6】特開2004−180354号公報
【特許文献7】特開平7−59393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、マイクロステップ駆動に応用が可能で特別なモータを必要とせず、制御器出力である各相出力電圧指示と各相の相電流を検出し、演算することにより上記問題を解決することができるステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステッピングモータの脱調検出方法であって、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力し、前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを誘起起電圧推定演算装置に入力して、前記モータの各相の誘起電圧を算出し、正弦関数発生器および余弦関数発生器によって、あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生し、前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧から2相交流に変換し、前記変換された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算し、これら算出された算出結果を演算して求められた回転子の推定演算結果と、前記制御部の指示電気角とから偏差を求め、脱調検出することにある。
また、本発明は、ステッピングモータの脱調検出方法であって、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力し、前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを2相交流に変換し、前記変換された電流、電圧を誘起起電圧推定演算装置に入力して、前記モータの各相の誘起電圧を算出し、正弦関数発生器および余弦関数発生器によって、あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生し、前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算し、これら算出された算出結果を演算して求められた回転子の推定演算結果と、前記制御部の指示電気角とから偏差を求め、脱調検出することにある。
さらに、本発明は、前記制御装置から前記モータ駆動装置に入力する前記電圧指令値は、速度指令を電気角演算装置により指令電気角にし、電流指令を前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とともに電流制御装置により正弦波状の電圧にし、前記指令電気角と前記正弦波状電圧とをともに電圧指令演算装置により出力される前記モータの各相の電圧指令値であることにある。
またさらに、本発明は、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力する制御装置と、
前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを入力し、前記モータの各相の誘起電圧を算出する誘起起電圧推定演算装置と、
あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生する正弦関数発生器および余弦関数発生器と、
前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧から2相交流に変換するN相2相交流変換装置と、
前記N相2相交流変換装置によって変換された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算する、前記モータの相数に対応する複数の乗算器と、
前記それぞれの乗算器からの出力の差を演算する減算器と、
前記減算器からの出力を増幅するための第1の増幅器と、
該第1の増幅器の出力を積分演算するための第1の積分器と、
該第1の積分器の出力をさらに積分するための第2の積分器と、
前記第1の積分器の出力を増幅するための第2の増幅器と、
前記第2の積分器の出力と前記第2の増幅器の出力とを加算する加算器と、
前記加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出する脱調検出装置を備え、
前記加算器からの算出電気角を、前記モータの回転子推定位置として、前記正弦関数発生器と前記余弦関数発生器の前記回転子位置に代えるようにそれぞれフィードバックして、繰り返し演算するとともに、この加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出することにある。
また、本発明は、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力する制御装置と、
前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを入力し、2相交流に変換するN相2相交流変換装置と、
前記N相2相交流変換装置によって変換された電流、電圧から各相の誘起電圧を算出する誘起起電圧推定演算装置と、
あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生する正弦関数発生器および余弦関数発生器と、
前記誘起起電圧推定演算装置によって演算された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算する、前記モータの相数に対応する複数の乗算器と、
前記それぞれの乗算器からの出力の差を演算する減算器と、
前記減算器からの出力を増幅するための第1の増幅器と、
該第1の増幅器の出力を積分演算するための第1の積分器と、
該第1の積分器の出力をさらに積分するための第2の積分器と、
前記第1の積分器の出力を増幅するための第2の増幅器と、
前記第2の積分器の出力と前記第2の増幅器の出力とを加算する加算器と、
前記加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出する脱調検出装置を備え、
前記加算器からの算出電気角を、前記モータの回転子推定位置として、前記正弦関数発生器と前記余弦関数発生器の前記回転子位置に代えるようにそれぞれフィードバックして、繰り返し演算するとともに、この加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出することにある。
さらに、本発明は、前記制御装置から前記モータ駆動装置に入力する前記電圧指令値は、速度指令を指示電気角に変換する電気角演算装置と、電流指令を、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とともに正弦波状の電圧に変換する電流制御装置と、前記指示電気角と前記正弦波状電圧とともに前記モータの各相の電圧指令値を出力する電圧指令演算装置とを備えてなることにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置によれば、以下に列挙する効果が得られる。
ステッピングモータのマイクロステップ駆動に応用ができ、特別な専用モータを必要とせず、制御装置からの出力である各相出力電圧指示と各相の相電流を検出し、演算することができるという優れた効果を奏する。また、本発明によれば、フィルタの機能も持つため、検出ミスが少ない。さらに、特別な検出回路を必要せず、CPUで演算が可能である。またさらに、実機における実験により閾値を決める必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、ステッピングモータの脱調検出装置を示す系統図である。
【0011】
1はN相ステッピングモータで、N相ステッピングモータ1はモータドライバ(モータ駆動装置)3を介して交流電源4に接続されている。交流電源4はモータドライバ3に、モータドライバ3はN相ステッピングモータ1に電力を供給する。N相ステッピングモータ1とモータドライバ3との間には、電流検出器2が設けられ、電流検出器2は、電流制御装置6に接続されている。この電流制御装置6には、電流指令i* が入力され、この電流指令i*と電流検出器2で検出したN相交流電流iNを入力として、正弦波状の出力電圧V* を決定する。一方、速度指令ωrm*を入力とする電気角演算装置7により指示電気角θを決定する。電気角演算装置7と電流制御装置6は、電圧指令演算装置5に接続され、電圧指令演算装置5は、この出力電圧V*と指示電気角θを入力とし、N相電圧指令値VNを決定し、N相ステッピングモータ1は正弦波状の振幅が一定な電流で駆動されているものとする。
【0012】
前記電圧指令演算装置5と電流検出器2には、誘起起電圧推定演算装置8が接続され、この誘起起電圧推定演算装置8は、電圧指令値VNとN相交流電流iNから各相の誘起起電圧eNを推定する。この誘起起電圧推定演算装置8には、N相2相変換装置19が接続され、その結果を2相交流に変換して誘起起電圧eα、eβを求める。
【0013】
17はsin関数発生器(正弦関数発生器)で、このsin関数発生器17は、あらかじめ求めておいた回転子位置推定結果θestを入力とするsin関数発生器で、sinθestを計算する。このsin関数発生器17には、乗算器9が接続され、この乗算器9は、sinθestの計算結果と推定した2相交流誘起起電圧の1相分eβを入力として乗算を行う。18はcos関数発生器(余弦関数発生器)で、このcos関数発生器18は、同じように、あらかじめ求めておいた回転子位置推定結果θestを入力とするcos関数発生器で、sinθestを計算する。このcos関数発生器18には、乗算器10が接続され、この乗算器10は、sinθestの計算結果と推定した2相交流誘起起電圧の1相分eβを入力として乗算を行う。
【0014】
これら乗算器9,10は、減算器11に接続され、この減算器11は、乗算器9,10で求めたsinθestと、cosθestの値を入力として、eα× cosθest −eβ×sinθestを求める。減算器11には、第1の増幅器12が接続され、減算器11で求められたeα×cosθest −eβ×sinθestを第1の増幅器12に入力して増幅する。第1の増幅器12には第1の積分器13が接続され、この第1の積分器13は第1の増幅器12で増幅した値を入力して積分を行う。第1の積分器13には、第2の積分器14が接続され、第2の積分器14には、第2の増幅器15が並列接続されている。第1の積分器13で積分した結果は、第2の積分器14および第2の増幅器15に入力され、第2の積分器14で積分、第2の増幅器15で増幅を行う。第2の積分器14および、第2の増幅器15は、加算器16に接続され、加算器16は第2の積分器14の積分結果と第2の増幅器15の増幅結果が入力され、加算器16で積分結果と増幅結果の加算を行う。
【0015】
前記加算器16の結果は、sin関数発生器17とcos関数発生器18にそれぞれフィードバックされ、前記動作を繰り返すことにより回転子位置θestを推定する。前記加算器16には、脱調検出装置20が接続され、この脱調検出装置20には、電気角演算装置7の指示電気角θと、推定した回転子位置θestが入力され、指示電気角θと、推定した回転子位置θestの差から、その差がゼロより大きいか、−πより小さいかで判定を行いステッピングモータの脱調検出を行う。
【0016】
次に、上記の実施の形態の作用を説明する。
各相の印加電圧をV、電流をI、誘起起電圧をE、インピーダンスをZとおけば、N相ステッピングモータの電流電圧方程式は次式となる。
【数1】

ここで、V、I、EはN列の行列、ZはN行N列の行列である。
電圧は制御器からの電圧指示、電流は電流検出値、N相ステッピングモータのインピーダンスはあらかじめ測定しておいた値(各相のインダクタンス値と抵抗値)を用いれば、次式で表される。
【数2】

この計算を行う部分を誘起起電圧推定演算装置8とする。
求めた誘起起電圧の推定値を2相交流に変換する。
例えば、3相交流を2相交流に変換する変換行列cは次式となる。
【0017】
【数3】

【0018】
対象となるモータが3相であった場合は上式を用いる。相数により変換行列を変更する。誘起起電圧推定演算装置8で求めたN相の誘起起電圧推定結果を上記の変換行列で2相交流に変換する装置をN相2相変換装置19と呼ぶ。N相2相変換装置19で2相交流の誘起起電圧の瞬時値を求めることが出来る。
【0019】
次に、推定した誘起起電圧情報から誘起起電圧の位置情報を得る方法を説明する。
誘起起電圧eα、eβを誘起させる、界磁のα、β相電気子巻線鎖交磁束数Φ、Φは、その最大値をΦf‘とすると次式で表される。
【0020】
【数4】

【0021】
【数5】

【0022】
ここで、θreはα相電気子巻線を基準として時計回りに取った界磁の角度(電気角)であり、ωreを電気角速度とすると次式で表される。
【0023】
【数6】

このときの各相の誘起起電圧eα、eβは次式となる。
【0024】
【数7】

【0025】
【数8】

【0026】
回転子の推定位置演算結果θestのsin、cosの値を求め、それぞれの値と誘起起電圧eα、eβを乗算すると次式となる。
【0027】
【数9】

【0028】
【数10】

【0029】
この計算を行う部分をsin関数発生器17、cos 関数発生器18、乗算器9、10とする。
(9)式から(10)式を引くと次式となる。
【0030】
【数11】

ここで、θest とθre が近い値であれば、次式の関係が成り立つ。
【0031】
【数12】

(12)式を(11)式に代入すると次式となる。
【0032】
【数13】

【0033】
すなわち、(13)式は推定結果と実測値の偏差に比例した値となることが分かる。
この計算を行う部分を減算器11とする。
すなわち、図1における減算器11の結果はθre−θestの計算を行ったこととなる。そこで、増幅器12の増幅率をA1、増幅器15の増幅率をA2、積分器13,14の伝達関数を1/sとおき、図1における誘起起電圧推定演算装置8以後の伝達関数を求めると次式となる。
【0034】
【数16】

(16)式は回転子の推定結果θestと実位置θreは、時間∞で一致するトラッキングフィルタとなっていることを示している。
【0035】
また、推定結果を所望のダンピングファクタや固有振動数の応答で求めようとするために、増幅器12の増幅率A1、増幅器15の増幅率A2を設定することができる。
ここで、求めた回転子推定結果θestはα相電気子巻線を基準として時計回りに取った誘起起電圧の電気角の推定結果である。従って、界磁位置は90°進んだ角度となる。
【0036】
次に脱調現象の定義を説明する。
一般的に、ステッピングモータの駆動においては、回転子位置に無関係に励磁位置を決定し、一定電流に制御された相電流を指示回転速度に見合った電気角速度で回転界磁をつくり、駆動する。このときの電流を次式とする。
【0037】
【数17】

【0038】
【数18】

ステッピングモータの発生トルクは各相の電流と鎖交磁束数の積和であらわされるので次式となる。
【0039】
【数19】

上式からθ−θreが±π/2となると最大発生トルクとなる。
したがって、脱調現象は電流ベクトルが磁束ベクトルから±π/2以上の位相差を持った場合に発生すると定義できる。
【0040】
つぎに脱調現象の検出方法を説明する。
求めた回転子推定結果θestはα相電気子巻線を基準として時計回りに取った誘起起電圧の電気角の推定結果である。従って、界磁位置は90°進んだ角度であるから、指示電気角θと回転子推定結果θestを入力とし、その差がゼロより大きいか、−πより小さいかで判定を行うことで脱調現象を判定する。この判定を行っているのが脱調検出装置20である。
【0041】
図2は本発明の他の実施の形態で、図1と同一部分は同符号を付して同一部分の説明は省略して説明する。
この場合、電圧指令演算装置5と電流検出器2には、N相2相変換装置19を先に接続し、N相2相変換装置19に誘起起電圧推定演算装置8を接続したものである。
すなわち、電圧指令値VNと電流iNをそれぞれN相2相変換装置19で2相交流に変換し、2相交流量に変換された電流電圧を誘起起電圧推定演算装置8で誘起起電圧eNを推定して、誘起起電圧eα、eβを求めることが出来る。
この方法を用いると、電圧と電流2つの検出値を2相交流に変換しなければならないため、演算量が増加する。
【0042】
また、トラッキングフィルタを使わないで逆正接関数を用いても位置情報を推定できる。しかし、誘起起電圧の推定演算に微分演算を行うため、推定結果にノイズを多く含むために脱調現象の検出に間違いが生ずる可能性が高くなる。この場合位置推定結果にフィルタを入れる必要がある。
【0043】
以上のべたように、本発明の実施の形態によれば以下の効果を奏することができる。
ステッピングモータのマイクロステップ駆動に応用ができ、特別な専用モータを必要とせず、制御装置からの出力である各相出力電圧指示と各相の相電流を検出し、演算することができるという優れた効果を奏する。また、本発明によれば、フィルタの機能も持つため、検出ミスが少ない。さらに、特別な検出回路を必要せず、CPUで演算が可能である。またさらに、実機における実験により閾値を決める必要がない。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置の実施の形態を示す該モータの制御装置と脱調検出装置の構成系統図である。
【図2】本発明のステッピングモータの脱調検出方法および脱調検出装置の他の実施の形態を示す該モータの制御装置と脱調検出装置の構成系統図である。
【符号の説明】
【0046】
1 N相ステッピングモータ
2 電流検出器
3 モータドライバ(モータ駆動装置)
4 交流電源
5 電圧指令演算装置
6 電流制御装置
7 電気角演算装置
8 誘起電圧推定演算装置
9,10 乗算器
11 減算器
12 第1の増幅器
13 第1の積分器
14 第2の積分器
15 第2の増幅器
16 加算器
17 正弦(sin)関数発生器
18 余弦(cos)関数発生器
19 N相2相変換装置
20 脱調検出装置
eα、eβ 誘起起電圧
iα、iβ 駆動電流値
* 電流指令
Vα、Vβ 電圧指令値
* 正弦波状電圧
ω*rm 速度指令
θ 指示電気角
θest 回転子推定結果(電気角の推定結果)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータの脱調検出方法であって、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力し、前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを誘起起電圧推定演算装置に入力して、前記モータの各相の誘起電圧を算出し、正弦関数発生器および余弦関数発生器によって、あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生し、前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧から2相交流に変換し、前記変換された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算し、これら算出された算出結果を演算して求められた回転子の推定演算結果と、前記制御部の指示電気角とから偏差を求め、脱調検出することを特徴とするステッピングモータの脱調検出方法。
【請求項2】
ステッピングモータの脱調検出方法であって、速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力し、前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを2相交流に変換し、前記変換された電流、電圧を誘起起電圧推定演算装置に入力して、前記モータの各相の誘起電圧を算出し、正弦関数発生器および余弦関数発生器によって、あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生し、前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算し、これら算出された算出結果を演算して求められた回転子の推定演算結果と、前記制御部の指示電気角とから偏差を求め、脱調検出することを特徴とするステッピングモータの脱調検出方法。
【請求項3】
前記制御装置から前記モータ駆動装置に入力する前記電圧指令値は、速度指令を電気角演算装置により指令電気角にし、電流指令を前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とともに電流制御装置により正弦波状の電圧にし、前記指令電気角と前記正弦波状電圧とをともに電圧指令演算装置により出力される前記モータの各相の電圧指令値であることを特徴とする請求項1または2に記載のステッピングモータの脱調検出方法。
【請求項4】
速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力する制御装置と、
前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを入力し、前記モータの各相の誘起電圧を算出する誘起起電圧推定演算装置と、
あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生する正弦関数発生器および余弦関数発生器と、
前記誘起起電圧推定演算装置から算出された前記各相の誘起起電圧から2相交流に変換するN相2相交流変換装置と、
前記N相2相交流変換装置によって変換された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算する、前記モータの相数に対応する複数の乗算器と、
前記それぞれの乗算器からの出力の差を演算する減算器と、
前記減算器からの出力を増幅するための第1の増幅器と、
該第1の増幅器の出力を積分演算するための第1の積分器と、
該第1の積分器の出力をさらに積分するための第2の積分器と、
前記第1の積分器の出力を増幅するための第2の増幅器と、
前記第2の積分器の出力と前記第2の増幅器の出力とを加算する加算器と、
前記加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出する脱調検出装置を備え、
前記加算器からの算出電気角を、前記モータの回転子推定位置として、前記正弦関数発生器と前記余弦関数発生器の前記回転子位置に代えるようにそれぞれフィードバックして、繰り返し演算するとともに、この加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出することを特徴とするステッピングモータの脱調検出装置。
【請求項5】
速度指令に基づき指示電気角を演算し、電流指令と電流検出器で検出される駆動電流から出力電圧を演算し、前記指示電気角と出力電圧から電圧指令値を、N相ステッピングモータを駆動するモータ駆動装置に、出力する制御装置と、
前記電圧指令値および、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とを入力し、2相交流に変換するN相2相交流変換装置と、
前記N相2相交流変換装置によって変換された電流、電圧から各相の誘起電圧を算出する誘起起電圧推定演算装置と、
あらかじめ求められ、又は推定されて入力された前記モータの回転子位置に対応して、それぞれの正弦関数値と余弦関数値とを発生する正弦関数発生器および余弦関数発生器と、
前記誘起起電圧推定演算装置によって演算された前記誘起起電圧のそれぞれと、前記正弦関数発生器及び余弦関数発生器のそれぞれから発生する正弦関数値と余弦関数値とをそれぞれ乗算する、前記モータの相数に対応する複数の乗算器と、
前記それぞれの乗算器からの出力の差を演算する減算器と、
前記減算器からの出力を増幅するための第1の増幅器と、
該第1の増幅器の出力を積分演算するための第1の積分器と、
該第1の積分器の出力をさらに積分するための第2の積分器と、
前記第1の積分器の出力を増幅するための第2の増幅器と、
前記第2の積分器の出力と前記第2の増幅器の出力とを加算する加算器と、
前記加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出する脱調検出装置を備え、
前記加算器からの算出電気角を、前記モータの回転子推定位置として、前記正弦関数発生器と前記余弦関数発生器の前記回転子位置に代えるようにそれぞれフィードバックして、繰り返し演算するとともに、この加算器からの算出電気角と、前記制御部の指示電気角とから、脱調検出することを特徴とするステッピングモータの脱調検出装置。
【請求項6】
前記制御装置から前記モータ駆動装置に入力する前記電圧指令値は、速度指令を指示電気角に変換する電気角演算装置と、電流指令を、前記電流検出器で検出される前記駆動電流の値とともに正弦波状の電圧に変換する電流制御装置と、前記指示電気角と前記正弦波状電圧とともに前記モータの各相の電圧指令値を出力する電圧指令演算装置とを備えてなる請求項4または5に記載のステッピングモータの脱調検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−121858(P2006−121858A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309260(P2004−309260)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】