説明

ステレオ音響結合量推定装置、ステレオ音響結合量推定方法、ステレオ音響結合量推定プログラム

【課題】マイクロホンとスピーカに対称性がない場合でも、局所解を求めることなく、ステレオ音響結合量を求めるという課題がある。
【解決手段】本発明に係るステレオ音響結合推定技術は、ステレオ受話信号及び送話信号を時間領域から周波数領域の信号に変換し、周波数領域のステレオ受話信号及び送話信号を保持し、周波数領域のステレオ受話信号の信号比を求め、信号比が変化したか否かを判定し、信号比が変化している場合、現在の受話信号及び送話信号と保持手段に保持している過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める結合量演算手段とを有する。信号比変化判定手段は、信号比を保持し、現在の信号比と信号比保持手段に保持している過去の信号比を比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのスピーカと1つ以上のマイクロホンを同一音響空間内に持つステレオ音響システム、またはこの音響システムに基づく拡声システム、あるいは拡声システムなどの設計、制御あるいは調整などに有益な情報を与えるスピーカとマイクロホンとの間の音響的な結合(音響結合)の組について推定するステレオ音響結合量推定装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
まず、1チャネル音響システムを用いた拡声システムにおいて、ハウリングを起こさないという意味でのシステムの安定性が、各地点におけるスピーカとマイクロホンとの間の音響結合量を用いることによって、どのように議論できるのかを、周波数領域において考える。図1は、ある地点におけるスピーカ2からマイクロホン3までの回り込みを示している。H(k)は、時刻kの周波数領域の伝達関数を表している。ここで、H(k)の各周波数の利得(振幅特性)が1未満のシステムである場合、このような地点同士を接続しても、システムが安定していると言える。そのため、ある地点の周波数領域伝達関数H(k)の各周波数の利得(振幅特性)が1未満であることが、その地点でのシステムの安定性の必要十分条件を満たしていると言える。なお、振幅特性は、伝達関数H(k)の複素共役をH(k)で表す場合、√(H(k)H(k))で求められる。本明細書では、この周波数領域伝達関数の振幅特性を音響結合量と呼ぶ。
【0003】
図2は、スピーカとマイクロホンの数が2つ(スピーカ21、22とマイクロホン31、32)になった場合の例を示す。スピーカの数とマイクロホンの数が増えても、基本的にシステムの安定性に対する要求は同じであり、各スピーカと各マイクロホン間の周波数領域伝達関数の各周波数の利得(振幅特性)が1未満であることが、その地点でのシステムの安定性の必要十分条件となる。この周波数領域伝達関数の各周波数の振幅特性をステレオ音響結合量と呼ぶ。
【0004】
このステレオ音響結合量が、どの周波数において1を超えているかを調べることにより、ハウリングの発振周波数を予知することができ、システムの音量調整や周波数特性調整に役立てることができる。
【0005】
特許文献1は、マイクロホンとスピーカの相対位置に対称性を仮定し、ステレオ音響結合量を求める方法として知られている。また、特許文献2は、最小二乗法を用いて、ステレオ音響結合量を求める方法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−257585号公報
【特許文献2】特開2002−243540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、マイクロホンとスピーカの対称性を仮定しているため、一般性がないという問題がある。また、特許文献2は、局所解が求まり、正しいステレオ音響結合量を求めることができないという問題がある。よって、マイクロホンとスピーカに対称性がない場合でも、局所解を求めることなく、ステレオ音響結合量を求めるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係るステレオ音響結合推定技術は、2チャネルのスピーカと1チャネル以上のマイクロホンとによって構成されるスピーカ群とマイクロホン群とを同一音響空間内に持つステレオ音響システムの音響結合量を推定するものであり、ステレオ受話信号及び送話信号を時間領域から周波数領域の信号に変換し、周波数領域のステレオ受話信号及び送話信号を保持し、周波数領域のステレオ受話信号の信号比を求め、信号比が変化したか否かを判定し、信号比が変化している場合、現在の受話信号及び送話信号と保持手段に保持している過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める結合量演算手段とを有する。信号比変化判定手段は、信号比を保持し、現在の信号比と信号比保持手段に保持している過去の信号比を比較する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、話者位置の変化によって、マイクロホンとスピーカに対称性がない場合でも、局所解を求めることなく、ステレオ音響結合量を求めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ある地点におけるスピーカ2からマイクロホン3までの回り込みを示す図。
【図2】スピーカとマイクロホンの数が2つ(スピーカ21、22とマイクロホン31、32)になった場合の回り込みを示す図。
【図3】ステレオ音響結合量推定装置100の配置例を示す図。
【図4】実施例1のステレオ音響結合推定装置の構成例を示す図。
【図5】実施例1のステレオ音響推定装置の処理フロー例を示す図。
【図6】本実施例におけるステレオ音響結合量推定装置100のハードウェア構成を例示したブロック図。
【図7】実施例2のステレオ音響結合推定装置の構成例を示す図。
【図8】実施例2のステレオ音響推定装置の処理フロー例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図3は、ステレオ音響結合量推定装置100の配置例を示す。以下、図3を用いて本発明の原理を説明する。
【0012】
周波数をfとし、m(=1,2)番目のスピーカとn(=1,2)番目のマイクロホンとの間の伝達関数について周波数特性をHmn(f)とすると、音響システム周波数特性行列を
【0013】
【数1】

【0014】
と表すことができる。さらに、高速フーリエ変換等のフレーム番号をjとし、m(= 1,2)番目のスピーカへの受話信号xの周波数特性をX(f,j)とすると、これをまとめた受話信号周波数特性ベクトルを
【0015】
【数2】

【0016】
と表すことができる。n(=1,2)番目のマイクロホンからの出力信号yの周波数特性をY(f,j)とすると、これをまとめた出力信号周波数特性ベクトルを
【0017】
【数3】

【0018】
と表すことができる。このとき、H(f),X(f,j),Y(f,j)の間には、以下のような関係がある。
【0019】
Y(f,j)=H(f)X(f,j)
各要素ごとに見てみると、
(f,j)=H11(f)X(f,j)+H21(f)X(f,j)(1)
(f,j)=H12(f)X(f,j)+H22(f)X(f,j)(2)
となる。
【0020】
以下、簡単のため、2つのスピーカ21、22と1つのマイクロホン31の場合(式(1)のみ)について考える。式(1)に注目すると、式1つに対して、未知数はH11(f)、H21(f)の2つであり、解が無数に存在する。ここでスピーカ21、22への受話信号x、xは、通信相手の話した音声が通信相手話者から、通信相手マイクロホン51、52までの伝達関数F、Fを通って受話信号x、xとなる。伝達関数の周波数特性をF(f)、F(f)、通信相手話者音声の周波数特性をS(f,j)とすると、受話信号の周波数特性は、
(f,j)=F(f)S(f,j)
(f,j)=F(f)S(f,j)
となる。ここで、例えば、テレビ会議システム等において話者が変わり、通信相手話者位置が2か所(A、B)ある場合を考える。まず、通信相手話者位置Aから通信相手マイクロホン51、52までの伝達関数の周波数特性をFA1(f),FA2(f)とし、このときのフレーム番号をjAとすると、通信相手話者位置Aから話したときの受話信号XA1(f,jA)、XA2(f,jA)は、
A1(f,jA)=FA1(f)S(f,jA) (3)
A2(f,jA)=FA2(f)S(f,jA) (4)
となる。同様に通信話者位置Bから通信相手マイクロホンまでの伝達関数の周波数特性をFB1(f)、FB2(f)とし、このときのフレーム番号をjBとした場合、通信相手話者位置Bから話した時の受話信号XB1(f,jB)、XB2(f,jB)は、
B1(f,jB)=FB1(f)S(f,jB) (5)
B2(f,jB)=FB2(f)S(f,jB) (6)
となる。通信相手話者位置A及び通信相手話者位置Bから話したときの各地点でのマイクロホン受話信号Y(f,jA)、Y(f,jA)は、
(f,jA)=H11(f)XA1(f,jA)+H21(f)XA2(f,jA) (7)
(f,jB)=H11(f)XB1(f,jB)+H21(f)XB2(f,jB) (8)
となる。式(7)、(8)では、2つの式に対して、未知数はH11、H21の2つであるため、この連立方程式を解くことにより、伝達関数H11、H21を求めることができる。さらに、√(H(k)H(k))からステレオ音響結合量を求めることができる。結合量演算部では、これを利用して伝達関数及びステレオ音響結合量を求める。
【0021】
但し、この方法では、通信相手話者位置が変わったことを判定する必要がある。通信相手話者位置の変化は、以下のように観測することができる。話者位置Aにおけるステレオ受話信号xとxの比Rは、式(3)及び(4)より
RA(f,jA)=XA1(f,jA)/XA2(f,jA)(=FA1(f)/FA2(f))
となり、話者位置Bにおけるステレオ受話信号xとxの比Rは、式(5)及び(6)より
RB(f,jB)=XB1(f,jB)/XB2(f,jB)(=FB1(f)/FB2(f))
となる。よって、信号比がRからRに変化するタイミングが、話者位置変化のタイミングとなる。信号比変化判定部では、このタイミングを求める。以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
[ステレオ音響結合量推定装置100]
ステレオ音響結合量推定装置100は、2チャネルのスピーカ21、22とN(≧1)チャネルのマイクロホン(例えば、2チャネルのマイクロホン31、32)とによって構成されるスピーカ群とマイクロホン群とを同一音響空間内に持つステレオ音響システムのスピーカ群からマイクロホン群へと伝わる音響的な結合の大きさ、すなわち音響結合量を推定する。
【0023】
例えば、2チャネルの受話端(例えば、マイクロフォン51、52)からのステレオ受話信号x(k)、x(k)は、2チャネルのスピーカ21、22から再生され、反響路を通り、1以上のマイクロホン(例えば、マイクロホン31、32)で収音される。収音された送話信号(例えば、y(k)、y(k))は、1つ以上の送話端(例えばスピーカ41、42)へ送られる。このとき、ステレオ音響結合量推定装置100は、ステレオ受話信号x(k)、x(k)と1チャネル以上の送話信号を入力され、伝達関数、音響結合量を推定する。
【0024】
図4は実施例1のステレオ音響結合推定装置の構成例を示す。図5は実施例1のステレオ音響推定装置の処理フロー例を示す。以下、図4及び5を用いて実施例1に係るステレオ音響結合量推定装置100を説明する。
【0025】
ステレオ音響結合量推定装置100は、受話信号周波数領域変換部111、112、送話信号周波数領域変換部113、受話信号保持部120、送話信号保持部123、信号比演算部140、信号比変化判定部150及び結合量演算部160を有する。なお、簡単のため、スピーカ2つとマイクロホン1つの場合について考え、図3におけるマイクロホン31の出力yをyと表現し、伝達関数H11、H21をそれぞれH,Hと表現する。
【0026】
[周波数領域変換部及び保持部]
受話信号周波数領域変換部111、112及び送話信号周波数領域変換部113は、それぞれステレオ受話信号x(k)、x(k)、送話信号y(k)を時間領域から周波数領域の信号X(f,j)、X(f,j)、Y(f,j)に変換する(s110)。この変換には、例えば、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)等の従来技術を用いればよい。
【0027】
受話信号保持部120の有する保持部121、122、送話信号保持部123は、それぞれ、周波数領域のステレオ受話信号X(f,j)、X(f,j)、送話信号Y(f,j)を保持する(s120)。
【0028】
[信号比演算部140]
信号比演算部140は、周波数領域のステレオ受話信号X(f,j)、X(f,j)の信号比R(f,j)を求める(s140)。例えば、以下の式により、信号比R(f,j)を求める。
【0029】
R(f,j)=X(f,j)/X(f,j)
【0030】
[信号比変化判定部150]
信号比変化判定部150は、信号比が変化したか否かを判定する(s150)。信号比変化判定部150は、信号比保持部151と比較部153を有する。
【0031】
信号比保持部151は、信号比R(f,j)を保持する(s151)。
【0032】
比較部153は、現在の信号比R(f,j)と信号比保持部151の保持している過去の信号比R(f,j−1)を比較する(s153)。比較の結果、信号比が変化したと判断した場合には、その旨を意味する判定信号を出力する。例えば、
|R(f,j)−R(f,j−1)|>α (11)
を満たすときに、信号比が変化したと判断する。但し、αは0以上の実数であり、適宜設定される所定の値を表す。同一地点において伝達関数が全く変化しない場合には、α=0としてもよいが、一般的に話者位置が変化していない場合にも、信号比がゆらぐことがあるため、予め実験等により求めた所定値よりも大きい変化があった場合にのみ、信号比が変化したと判断する。
【0033】
言い換えると、現在の信号比R(f,j)から信号比保持部151の保持している1フレーム分過去の信号比R(f,j−1)を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化した旨の判定信号(例えば「1」)を出力する。判定信号は、信号比が変化したときのみ出力してもよいし、変化していないときには変化していない旨の判定信号(例えば「0」)を出力してもよい。
【0034】
なお、図示しない初回判定部を設けてもよい。初回判定部は、最初の受話信号か否かを判定し(s152)、最初の場合には、比較処理(s153)及び結合量演算処理(s160)を行わないように制御信号等を出力する。初回の場合には、比較すべき信号比がなく、結合量を演算するための過去の情報がないためである。但し、信号比、受話信号、送話信号として初期値を設定している場合には、この判断を行わなくともよい。
【0035】
本発明は、上記方法に限定されるものではなく、他の方法によって、信号比の変化を検知してもよい。例えば、現在のフレームの信号比R(f,j)と1フレーム前の信号比R(f,j−1)を比較するのではなく、数フレーム前の信号比を比較くして変化がないか検知してもよいし、数フレーム分の平均を比較して変化がないか検知してもよい。このとき、信号比保持部151は、この処理に必要なフレーム数の信号比Rを保持する構成とする。
【0036】
[結合量演算部160]
結合量演算手段160は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときに、現在の受話信号X(f,j)、X(f,j)及び送話信号Y(f,j)と各保持部に保持している過去の受話信号X(f,j−1)、X(f,j−1)及び送話信号Y(f,j−1)を用いて、伝達関数を求める(s160)。例えば、以下の方程式を求めることにより伝達関数H、Hを算出する。
【0037】
Y(f,j-1)=H1(f)X1(f,j-1)+H2(f)X2(f,j-1) (12)
Y(f,j)=H1(f)X1(f,j)+H2(f)X2(f,j) (13)
さらに、ステレオ音響結合量√(H(f)H(f))、√(H(f)H(f))を求める。
【0038】
但し、本発明は、上記方法に限定されるものではなく、他の方法によって、伝達関数を求めてもよい。例えば、数フレーム(時間)分の平均から伝達関数を算出してもよい。各保持部121,122,123は、この処理に必要なフレーム数(1フレーム分または数フレーム分)の周波数領域の受話信号または送話信号を保持する構成とする。なお、各処理は、周波数毎に行う。よって、周波数毎に伝達関数、ステレオ音響結合量を求める。
【0039】
このような構成とすることによって、マイクロホンとスピーカに対称性がない場合でも、局所解を求めることなく、ステレオ音響結合量を求めることができる。
【0040】
なお、送話信号yに代えて図3のyを用いることで伝達関数H12、H22及びその音響結合量を求めることができる。さらに、2つのスピーカとn(=1,2,…,N)番目のマイクロホンとの間の伝達関数について周波数特性をH1n(f)、H2n(f)、n番目のマイクロホンの出力信号から得られる周波数領域の送話信号をY(f,j)とすると、
Yn(f,j-1)=H1n(f)X1(f,j-1)+H2n(f)X2(f,j-1)
Yn(f,j)=H1n(f)X1(f,j)+H2n(f)X2(f,j)
から伝達関数H1n(f)、H2n(f)を求めることができる。
【0041】
また、本実施例では、ステレオ受話信号を入力としているが、2以上の受話信号についても、伝達関数を求めることができる。その場合、受話信号のチャネル数をMとすると、あるマイクロホンに入力される音声は、M個の伝達路を介して入力される。そのため、M−1回の話者位置の変化を信号比変化判定部150で検知し、結合量演算部160において、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときの1フレーム前の各受話信号、送話信号を保持しておき、M−1回目の判定信号を受け取ったときに、現在の受話信号、送話信号を保持し、M個の連立方程式を解くことによって、各伝達関数を求めることができ、音響結合量を算出することができる。
【0042】
<ハードウェア構成>
図6は、本実施例におけるステレオ音響結合量推定装置100のハードウェア構成を例示したブロック図である。図6に例示するように、この例のステレオ音響結合量推定装置100は、それぞれCPU(Central Processing Unit)11、入力部12、出力部13、補助記憶装置14、ROM(Read Only Memory)15、RAM(Random Access Memory)16及びバス17を有している。
【0043】
この例のCPU11は、制御部11a、演算部11b及びレジスタ11cを有し、レジスタ11cに読み込まれた各種プログラムに従って様々な演算処理を実行する。また、入力部12は、データが入力される入力インターフェース、キーボード、マウス等であり、出力部13は、データが出力される出力インターフェース等である。補助記憶装置14は、例えば、ハードディスク、半導体メモリ等であり、ステレオ音響結合量推定装置100としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データが格納される。また、RAM16には、上記のプログラムや各種データが展開され、CUP11等から利用される。また、バス17は、CPU11、入力部12、出力部13、補助記憶装置14、ROM15及びRAM16を通信可能に接続する。なお、このようなハードウェアの具体例としては、例えば、パーソナルコンピュータの他、サーバ装置やワークステーション等を例示できる。
【0044】
<プログラム構成>
上述のように、補助記憶装置14には、本実施例のステレオ音響結合量推定装置100の各処理を実行するための各プログラムが格納される。ステレオ音響結合量推定プログラムを構成する各プログラムは、単一のプログラム列として記載されていてもよく、また、少なくとも一部のプログラムが別個のモジュールとしてライブラリに格納されていてもよい。
【0045】
<ハードウェアとプログラムとの協働>
CPU11は、読み込まれたOSプログラムに従い、補助記憶装置14に格納されている上述のプログラムや各種データをRAM16に展開する。そして、このプログラムやデータが書き込まれたRAM16上のアドレスがCPU11のレジスタ11cに格納される。CPU11の制御部11aは、レジスタ11cに格納されたこれらのアドレスを順次読み出し、読み出したアドレスが示すRAM16上の領域からプログラムやデータを読み出し、そのプログラムが示す演算を演算部11bに順次実行させ、その演算結果をレジスタ11cに格納していく。
【0046】
図4は、このようにCPU11に上述のプログラムが読み込まれて実行されることにより構成されるステレオ音響結合量推定装置100の機能構成を例示したブロック図である。
【0047】
ここで、受話信号保持部120、保持部121、122、送話信号保持部123、信号比保持部151は、補助記憶装置14、RAM16、レジスタ11c、その他のバッファメモリやキャッシュメモリ等の何れか、あるいはこれらを併用した記憶領域に相当する。また、受話信号周波数領域変換部111、112、送話信号周波数領域変換部113、信号比演算部140、信号比変化判定部150、比較部153、結合量演算部160は、CPU11にステレオ音響結合量推定プログラムを実行させることにより構成されるものである。
【実施例2】
【0048】
実施例1と異なる部分のみ説明する。
【0049】
[ステレオ音響結合量推定装置200]
図7は実施例2のステレオ音響結合推定装置の構成例を示す。図8は実施例2のステレオ音響推定装置の処理フロー例を示す。以下、図7及び8を用いて実施例2に係るステレオ音響結合量推定装置200を説明する。
【0050】
ステレオ音響結合量推定装置200は、受話信号周波数領域変換部111、112、送話信号周波数領域変換部113、受話信号保持部220、送話信号保持部223、信号比演算部140、信号比変化判定部250及び結合量演算部260を有する。
【0051】
[信号比変化判定部250]
信号比変化判定部250は、信号比が変化したか否かを判定する(s250)。信号比変化判定部250は、信号比保持部251と比較部253を有する。
【0052】
信号比保持部251は、信号比R(f,j)を保持する(s251)。詳細は他の保持部と併せて説明する。
【0053】
比較部253は、現在の信号比R(f,j)と信号比保持部251の保持している過去の信号比R(f,jC)を比較する(s253)。なお、jCは信号比保持部に保持されている信号比のフレーム番号を表す。比較の結果、信号比が変化したと判断した場合には、その旨を意味する判定信号を出力する。例えば、
|R(f,j)−R(f,jC)|>α
を満たすときに、信号比が変化したと判断する。
【0054】
言い換えると、現在の信号比R(f,j)から信号比保持部251の保持している過去の信号比R(f,jC)を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化した旨の判定信号(例えば「1」)を出力する。
【0055】
なお、図示しない初回判定部を設けてもよい。初回判定部は、最初の受話信号か否かを判定し(s252)、最初の場合には、比較処理(s253)及び結合量演算処理(s260)を行わないように制御信号等を出力し、受話、送話信号保持処理(s220)、及び信号比保持処理(s251)を行うように制御信号等を出力する。初回の場合には、比較すべき信号比がなく、結合量を演算するための過去の情報がないためである。但し、信号比、受話信号、送話信号として初期値を設定している場合には、この判断を行わなくともよい。
【0056】
[保持部]
受話信号保持部220の有する保持部221、222、送話信号保持部223及び信号比保持部251は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときのみ、入力された受話信号X(f,j)、X(f,j)、送話信号Y(f,j)及び信号比R(f,j)を保持する(s220、s251)。なお、このとき、信号比が変化した旨の判定信号とは、結合量演算部260に送信される判定信号以外の各保持部に送信される制御信号も含む。
【0057】
このような構成とすることによって、各保持部の情報は、信号比が変化したときのみ更新されることとなる。例えば、図3において話者がA地点からB地点に徒歩等により移動している場合には、実施例1の式(11)では現在のフレームの信号比R(f,j)と1フレーム前の信号比R(f,j−1)を比較しても、所定の値αより小さくなってしまい、移動が完了しても、信号比の変化を検知することができない可能性がある。一方、本実施例では、各保持部の情報は、信号比が変化したときのみ更新されるため、変化量が前回保持部に保持したフレームの信号比(f,jC)からα以上変化すると、変化を検知できる。そのため、話者交代時だけでなく、徒歩等による移動に対しても変化を感知できるという効果を奏する。
【0058】
[結合量演算部260]
結合量演算手段260は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときに、現在の受話信号X(f,j)、X(f,j)及び送話信号Y(f,j)と各保持部に保持している過去の受話信号X(f,jC)、X(f,jC)及び送話信号Y(f,jC)を用いて、伝達関数を求める(s260)。例えば、以下の方程式を求めることにより伝達関数H、Hを算出する。
【0059】
Y(f,jC)=H1(f)X1(f,jC)+H2(f)X2(f,jC)
Y(f,j)=H1(f)X1(f,j)+H2(f)X2(f,j)
さらに、ステレオ音響結合量√(H(f)H(f))、√(H(f)H(f))を求める。つまり、実施例1の1フレーム前の受話信号X(f,j−1)、X(f,j−1)及び送話信号Y(f,j−1)に代えて、前回信号比に変化があったときに各保持部に保持された過去の受話信号X(f,jC)、X(f,jC)及び送話信号Y(f,jC)を用いる点が実施例1の結合量演算部160と異なる。
【0060】
このような構成とすることによって、実施例1と同様の効果を得ることができ、さらに、話者の移動による信号比の変化をより適切に検出し、音響結合量を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明で求めた伝達関数、ステレオ音響結合量は、ステレオ音響システムの音量調整や周波数特性調整、エコーキャンセラ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100、200 ステレオ音響結合量推定装置
111、112 受話信号周波数領域変換部
113 送話信号周波数領域変換部
120、220 受話信号保持部
140、240 信号比演算部
150、250 信号比変化判定部
160、260 結合量演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2チャネルのスピーカとN(≧1)チャネルのマイクロホンとによって構成されるスピーカ群とマイクロホン群とを同一音響空間内に持つステレオ音響システムの音響結合量を推定するステレオ音響結合量推定装置において、
ステレオ受話信号及び送話信号を時間領域から周波数領域の信号に変換する周波数領域変換手段と、
周波数領域のステレオ受話信号及び送話信号を保持する保持手段と、
前記周波数領域のステレオ受話信号の信号比を求める信号比演算手段と、
前記信号比が変化したか否かを判定する信号比変化判定手段と、
前記信号比が変化している場合、現在の受話信号及び送話信号と保持手段に保持している過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める結合量演算手段とを有し、
前記信号比変化判定手段は、前記信号比を保持する信号比保持手段と、
現在の信号比と前記信号比保持手段に保持している過去の信号比を比較する比較手段とを備える、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定装置。
【請求項2】
請求項1記載のステレオ音響結合量推定装置であって、
周波数をf、現在のフレーム番号をj、前記保持手段に保持している過去の受話信号及び送話信号のフレーム番号をjc、周波数領域のステレオ受話信号をX(f,j)、X(f,j)、2つのスピーカとn(=1,2,…,N)番目のマイクロホンとの間の伝達関数について周波数特性をH1n(f)、H2n(f)、周波数領域の送話信号をY(f,j)とし、
前記結合量演算手段は、以下の方程式
Yn(f,jc)=H1n(f)X1(f,jc)+H2n(f)X2(f,jc)
Yn(f,j)=H1n(f)X1(f,j)+H2n(f)X2(f,j)
から伝達関数H1n(f)、H2n(f)を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のステレオ音響結合量推定装置であって、
前記比較手段は、現在の信号比から信号比保持手段の保持している1フレーム分過去の信号比を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化した旨の判定信号を出力し、
前記結合量演算手段は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときに、現在の受話信号及び送話信号と保持手段に保持している1フレーム分過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定装置。
【請求項4】
請求項1または2記載のステレオ音響結合量推定装置であって、
前記比較手段は、現在の信号比から信号比保持手段に保持している過去の信号比を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化した旨の判定信号を出力し、
前記保持手段及び前記信号比保持手段は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときのみ、入力された受話信号、送話信号及び信号比を保持し、
前記結合量演算手段は、信号比が変化した旨の判定信号を受け取ったときに、現在の受話信号及び送話信号と保持手段に保持している過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定装置。
【請求項5】
2チャネルのスピーカとN(≧1)チャネルのマイクロホンとによって構成されるスピーカ群とマイクロホン群とを同一音響空間内に持つステレオ音響システムの音響結合量を推定するステレオ音響結合量推定方法において、
ステレオ受話信号及び送話信号を時間領域から周波数領域の信号に変換する周波数領域変換ステップと、
周波数領域のステレオ受話信号及び送話信号を保持する保持ステップと、
前記周波数領域のステレオ受話信号の信号比を求める信号比演算ステップと、
前記信号比が変化したか否かを判定する信号比変化判定ステップと、
前記信号比が変化している場合、現在の受話信号及び送話信号と保持ステップで保持した過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める結合量演算ステップとを有し、
前記信号比変化判定ステップは、前記信号比を保持する信号比保持ステップと、
現在の信号比と前記信号比保持ステップで保持した過去の信号比を比較する比較ステップとを備える、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定方法。
【請求項6】
請求項5記載のステレオ音響結合量推定方法であって、
周波数をf、現在のフレーム番号をj、前記保持ステップで保持した過去の受話信号及び送話信号のフレーム番号をjc、周波数領域のステレオ受話信号をX(f,j)、X(f,j)、2つのスピーカとn(=1,2,…,N)番目のマイクロホンとの間の伝達関数について周波数特性をH1n(f)、H2n(f)、周波数領域の送話信号をY(f,j)とし、
前記結合量演算ステップは、以下の方程式
Yn(f,jc)=H1n(f)X1(f,jc)+H2n(f)X2(f,jc)
Yn(f,j)=H1n(f)X1(f,j)+H2n(f)X2(f,j)
から伝達関数H1n(f)、H2n(f)を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定方法。
【請求項7】
請求項5または6記載のステレオ音響結合量推定方法であって、
前記比較ステップは、現在の信号比から信号比保持ステップの保持している1フレーム分過去の信号比を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化したと判定し、
前記結合量演算ステップは、信号比が変化したと判定したときに、現在の受話信号及び送話信号と保持ステップで保持した1フレーム分過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定方法。
【請求項8】
請求項5または6記載のステレオ音響結合量推定方法であって、
前記比較ステップは、現在の信号比から信号比保持ステップで保持した過去の信号比を差し引き、その値の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号比が変化したと判定し、
前記保持ステップ及び前記信号比保持ステップは、信号比が変化したと判定したときのみ、受話信号、送話信号及び信号比を保持し、
前記結合量演算ステップは、信号比が変化したと判定したときに、現在の受話信号及び送話信号と保持ステップで保持した過去の受話信号及び送話信号を用いて、伝達関数を求める、
ことを特徴とするステレオ音響結合量推定方法。
【請求項9】
コンピュータを請求項1から請求項4の何れかに記載のステレオ音響結合量推定装置として機能させるためのステレオ音響結合量推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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