説明

ステロイド含有薬物送達システム

生分解性ポリマー、例えばポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマーまたは高分子量ポリマーヒアルロン酸と混合された、グルココルチコイド誘導体、例えばベクロメタゾン17,21-ジプロピオネートを含んで成る、眼内使用のための医薬組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイド放出眼内薬物送達システム、ならびにそのようなシステムの製造法および使用法に関する。本発明は、特に、眼症状の処置用の、グルココルチコイド含有持続放出固体インプラント、およびグルココルチコイド含有持続放出粘性製剤に関する。哺乳動物の眼は、強膜(眼の外面の強靭な白色部分)および角膜(瞳孔および虹彩を覆う透明な外側部分)を含む外側被膜を有して成る複雑な器官である。内側断面において、前方から後方に、眼は、下記を包含するがそれらに限定されない部分を有する:角膜、前房(房水と呼ばれる透明水様液体で満たされ、前方の角膜と後方の水晶体との間にある中空部分)、虹彩(周囲の光に反応して、閉じたり開いたりできるカーテン様部分)、水晶体、後房(硝子体液と呼ばれる粘性液体で満たされている)、網膜(光感受性神経細胞から成る眼の後方の最内膜)、脈絡膜(および眼の細胞に血管を供給する中間層)および強膜。後房は、眼の体積の約2/3を占め、前房およびその関連部分(水晶体、虹彩等)は、眼の体積の約1/3を占める。
【背景技術】
【0002】
眼の前表面への治療剤の送達は、点眼液のような局所手段によって比較的ルーチンに行なわれている。しかし、そのような治療剤の、眼の内部または後方、さらには角膜の内側部分への送達は、特有の課題を提示する。眼の後区の疾患(後強膜、ブドウ膜、硝子体、脈絡膜、網膜および視神経乳頭(ONH)の症状を包含する)を治療するのに有用な薬物が入手可能である。
【0003】
しかし、そのような薬剤の有効使用における主な制限要因は、該薬剤を罹患組織に実際に届けることである。そのような方法を開発することの緊急性は、視覚障害および失明の主要原因が後区関連疾患であることから理解される。これらの疾患は下記を包含するが、それらに限定されない:加齢性黄斑変性(ARMD)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)および眼内炎。房水の流れ(従って、眼内圧(IOP))に影響を及ぼす前房の症状と考えられることが多い緑内障は、後区要素も有する。実際に、特定形態の緑内障は、高いIOPを特徴とせず、主に、網膜変性のみを特徴とする。
【0004】
本発明はグルココルチコイド誘導体(GD)の使用に関し、該誘導体は、眼の後区の組織に向かう能力を有するように選択的に設計されるか、または、眼の後区に投与される際に、眼の前区と比較して、眼の後区に優先的に浸透し、取り込まれ、その中に留まる能力を有する。より具体的に、本発明は、例えば眼症状の1つ以上の症候を処置または軽減させて患者の視力を向上させるかまたは維持するための、薬剤が投与される眼の後区(または後区を構成する組織)に、グルココルチコイド誘導体の長時間放出を提供する眼用組成物および薬物送達システム、ならびに、そのような組成物およびシステムを製造する方法および使用する方法に関する。
【0005】
特定のGDが、2006年10月18日に出願された米国出願第11/550642号に開示されている。グルココルチコイドは、3つの主要な種類のステロイドホルモンの1つであり、他の2つは性ホルモンおよび鉱質コルチコイドである。天然グルココルチコイドは、生命維持に不可欠なコルチゾール(ヒドロコルチゾン)を包含する。コルチゾールは、グルココルチコイド核受容体の天然リガンドであり、該受容体は、核受容体のステロイドスーパーファミリーの一員であり、該ファミリーは、レチノイド受容体RARおよびRXR、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、甲状腺受容体ならびにアンドロゲン受容体も包含する極めて大きい受容体ファミリーである。活性の中でも特に、コルチゾールは、アミノ酸および脂質からの糖新生を刺激し、脂肪分解を刺激し、筋肉および脂肪組織からのグルコース取り込みを阻害する。
【0006】
従って、グルココルチコイドは、グルコース代謝に関連した活性、および構造によって識別される。全てのステロイドホルモンは、コレステロールから誘導された核構造を有し、それは下記の構造および命番法を有する:
【化1】

【0007】
グルココルチコイドは、コレステロールの大多重環誘導体であり、C11におけるヒドロキシル基、および/またはC4とC5の間の二重結合を有することを特徴とする。炭素5と6の間の二重結合は、グルココルチコイドの不可欠部分ではなく、C17における任意特定R基の同一性も不可欠部分でない。
【0008】
コルチコステロイドは、副腎皮質から放出されるステロイドホルモンであり、それらは、鉱質コルチコイド(唯一の天然鉱質コルチコイドはアルドステロンである)およびグルココルチコイドを含む。「コルチコステロイド」という用語は、グルココルチコイドを意味するために使用される場合があり、特に指示しない限り、これが本特許出願における意味である。例示的グルココルチコイドは、下記の化合物を包含するが、それらに限定されない:
【0009】
デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンジアセテート、トリアムシノロンヘキサアセトニド、ベクロメタゾンジプロピオネート、ベクロメタゾンジプロピオネート一水化物、フルメタゾンピバレート、ジフロラゾンアセテート、フルオシノロンアセトニド、フルオロメトロン、フルオロメトロンアセテート、クロベタゾールプロピオネート、デスオキシメタゾン、フルオキシメステロン、フルプレドニソロン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンアセテート、ヒドロコルチゾンブチレート、ヒドロコルチゾンナトリウムホスフェート、ヒドロコルチゾンナトリウムスクシネート、ヒドロコルチゾンシピオネート、ヒドロコルチゾンプロブテート、ヒドロコルチゾンバレレート、コルチゾンアセテート、パラメタゾンアセテート、メチルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンアセテート、メチルプレドニゾロンナトリウムスクシネート、プレドニゾロン、プレドニゾロンアセテート、プレドニゾロンナトリウムホスフェート、プレドニゾロンテブテート、クロコルトロンピバレート、フルシノロン、デキサメタゾン21-アセテート、ベタメタゾン17-バレレート、イソフルプレドン、9-フルオロコルチゾン、6-ヒドロキシデキサメタゾン、ジクロリゾン、メクロリゾン、フルプレジデン、ドキシベタゾール、ハロプレドン、ハロメタゾン、クロベタゾン、ジフルコルトロン、イソフルプレドンアセテート、フルオロヒドロキシアンドロステンジオン、ベクロメタゾン、フルメタゾン、ジフロラゾン、クロベタゾール、コルチゾン、パラメタゾン、クロコルトロン、プレドニゾロン21-ヘミスクシネート遊離酸、プレドニゾロンメタスルホベンゾエート、プレドニゾロンテルブテート、トリアムシノロンアセトニド21-パルミテート、プレドニゾロン、フルオロメトロン、メドリゾン、ロテプレドノール、フルアザコート、ベタメタゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンヘキサアセトニド、パラメタゾンアセテート、ジフロラゾン、フルオシノロンおよびフルオシノニド、それらの誘導体、それらの塩、およびそれらの混合物。これらの化合物のいくつかは本特許出願において定義されるGDであり、他の化合物はそのようなGDの推定親化合物である。
【0010】
種々のグルココルチコイドは抗炎症特性を有する。コルチコステロイド ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(「BDP」)は、Vanceril、QVARおよびPulmicortを包含するいくつかの市販の喘息およびアレルギー用製剤における、活性抗炎症物質である。BDP化合物は、低い水溶性であり(25℃におけるBDPの水への溶解度は、約0.13μg BDP/mL 水にすぎない)、比較的長い溶解時間(5時間以上)を有する。米国特許第7033605号は、PLGAおよび1つ以上のステロイド、例えばベクロメタゾンを含んで成る治療用眼内インプラントを開示している。米国特許出願第11/473947号、第11/491353号および第11/118288号は、ベクロメタゾンのようなステロイドを含んで成る生分解性眼内インプラントを開示している。
【0011】
グルココルチコイド受容体(GR)は、哺乳動物の身体のほぼ全組織に見出される。グルココルチコイド受容体を包含する核内受容体は、リガンド依存性転写因子であり、活性化されると、染色体DNAに結合し、特定遺伝子の転写を開始させるかまたは阻害する。その結果、ステロイドは、身体の種々の系において、多種多様の作用を有する。
【0012】
歴史的に、グルココルチコイドの短期間の全身的または局所的使用は、重大な副作用をほとんど有さず、そのような使用の治療効果は、特に関節炎等のような炎症に関連した疾患に治療において、しばしば極めて驚異的である。しかし、これらの化合物が有する多様かつ幾分特徴付けの不十分な作用により、グルココルチコイドの長期使用、特に、これらの薬剤への長期間の全身的暴露は、種々の、時として重大な副作用、例えば、耐糖能異常、糖尿病、体重増加、骨粗鬆症、および脂肪再分布、ならびに衰弱および皮膚薄化を生じうる。
【0013】
眼症状(特に眼炎症)の治療における、ステロイドの局所使用も周知である。臨床医は、ステロイドの局所投与が、前眼房の症状の治療における短期使用に、安全かつ有効であることを見出している。中等度ないし重度の炎症に対し、ロテプレドノールエタボネート0.5%(Lotemax(登録商標))、プレドニゾロンアセテート(Pred Forte(登録商標))、プレドニゾロンナトリウムホスフェート(Inflamase Forte(登録商標))およびリメキソロン(Vexol(登録商標))が効果的に使用されており、フルオロメトロンは軽度ないし中等度の炎症に対し処方されており、さらに、デキサメタゾンおよびヒドロコルチゾンも、局所眼用に使用されている。トリアムシノロン(Kenalog 40(登録商標);皮膚科使用に承認されている)は、黄斑浮腫治療用の硝子体内注射のための適応外薬剤として、効果的に使用されている。
【0014】
全ての前記局所ステロイド製剤は、主として表面または前区の炎症用に、設計され、および/または使用されている。しかし、ステロイド薬物の局所適用は、後区に入る薬物の有意濃度を生じない。実際、眼の表面に局所適用された薬物の極わずかしか眼の内部に入らず、眼に入った薬物の大部分が、前区内に留まる。Retisert(登録商標)は、後区への送達用の非生分解性インプラントである。それは、フルオシノロンアセトニドを含有し、慢性非感染性後部ブドウ膜炎の治療用に承認されている。Retisert(登録商標)は、研究用眼の90.3%の、外科的除去を必要とする白内障発症にも関与する。眼科医は、嚢胞性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑浮腫および滲出型黄斑変性を包含するがそれらに限定されない症状に罹患する患者の硝子体に注射することによって、トリアムシノロンアセトニド懸濁液Kenalog(登録商標)40を使用している。硝子体内使用が報告されている少数のステロイド、例えばデキサメタゾンおよびトリアムシノロンアセトニドは、拡散によって前区組織に移動する傾向があり、これによって重大かつ好ましくない副作用が生じうる。
【0015】
コルチコステロイド デキサメタゾン350μgまたは700μgを含有する生分解性硝子体内インプラントは、臨床試験において、黄斑浮腫の治療用の硝子体内インプラント(Posurdex(登録商標), Allergan, Inc.)として使用されている。
【0016】
ステロイドで後区の症状を治療する場合、前区組織のステロイドへの暴露は少なくすることが特に好ましい。ステロイドの長期使用は、水晶体の白内障、高眼圧およびステロイド誘発緑内障の極めて高い発生率をもたらしうる。
【発明の概要】
【0017】
部分的に、本発明は、嚢胞性黄斑浮腫、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎および滲出型黄斑変性を包含するがそれらに限定されない後区の種々の症状を処置する方法であって、眼の後区の組織を特異的に標的とし、前区への移動を防止するように、GD(C17-および/またはC21-置換GDを包含する)を投与することによって行なわれる方法に関する。他の実施形態において、本発明は、そのようなグルココルチコイド成分を含んで成る組成物、およびそのようなグルココルチコイドを投与する方法に関する。
【0018】
特に好ましい実施形態において、1つ以上のGDを含んで成る組成物を、例えば注射または外科的切開によって、後区に直接的に投与する。さらなる実施形態において、GD化合物を含有する結晶質または非晶質粒子の流動性溶液または懸濁液として、組成物を、硝子体液に直接的に注射する。別の実施形態において、組成物が、硝子体内インプラントに含有される。限定するものではないが、GDは、そのようなインプラントのレザバーに含有されてもよく、マトリックスが分解する際に放出されるように、生分解性インプラントマトリックスに結合させてもよく、または生分解性ポリマーマトリックスと物理的にブレンドしてもよい。
【0019】
さらに、好ましさは劣るが、本発明のGDを、例えば限定されないが局所眼投与によって、結膜下または強膜下注射によって、後区に間接的に投与してもよい。
【0020】
本発明のGDは全て、本発明による特定の特性を有する。まず、GDは、比較的遅い溶解速度を有するべきである。「比較的遅い溶解速度」は、固体から硝子体液相への溶解速度を意味し、それはトリアムシノロンアセトニドの溶解速度より遅く、好ましくはトリアムシノロンアセトニドの溶解速度の50%以下、さらに好ましくはトリアムシノロンアセトニドの溶解速度の25%以下、トリアムシノロンアセトニドの10%以下である。
【0021】
次に、GDは、硝子体液における比較的低い溶解性を有するべきである。「比較的低い溶解性」は、トリアムシノロンアセトニドより低い溶解率を意味し、好ましくはトリアムシノロンアセトニドの溶解率の50%以下、さらに好ましくはトリアムシノロンアセトニドの溶解率の25%以下、またはトリアムシノロンアセトニドの10%以下である。
【0022】
溶解性の別の測定において、本発明に使用されるGDの水溶性は、室温および大気圧(海面)において、約21μg/mL未満、好ましくは約10μg/mL未満、さらに好ましくは約5μg/mL未満、または約2μg/mL未満、または約1μg/mL未満、または約0.5μg/mL未満、または約0.2μg/mL未満、または約0.14μg/mL未満である。
【0023】
最後に、GDは、網膜組織の膜によく分配され、網膜組織におけるGDの高い局所濃度を素早く達成するために、高親油性であるべきである。これは、GDの親油性(log P、ここでPはオクタノール/水の分配係数である)が、室温および大気圧(海面)において、2.53より大、または3.00より大、または約3.5より大、または約4.00より大、または約4.20より大であることを意味する。
【0024】
最も好ましいGDはこれらの特性の全てを有するが、GDは、硝子体内に送達された際に後房において処置活性を維持する特性を有し、前房において処置有効濃度で存在しない限りは、そのような特性の全てを有さなくてもよい。
【0025】
硝子体腔は、水晶体の後面を潤し、水晶体を取り囲み瞳孔を通って続く流路によって前房に連絡している。硝子体における溶質(可溶化グルココルチコイドを包含する)は、水晶体に向かって、または水晶体の周囲から、前房流出器(小柱網、シュレム管)に向かって前方拡散して、これによって、ステロイド誘発白内障、高眼圧または緑内障を生じうる。
【0026】
本発明者らは、硝子体液に極わずかに可溶性であり、固体から可溶形態への遅い溶解速度を有するステロイドが、前区にそれほど移動しないことを見出した。本発明の範囲を理論によって限定するつもりはなく、単に一説明として、出願人の考えるところでは、本発明のGDは硝子体における極めて低い溶解性により、可溶性ステロイドを前記経路を通って前房に移動させるのに充分な拡散力を有さない。それと共に、本発明のGDの親油性は、水性硝子体液から網膜細胞膜の脂質二重層への分配を促進する。これは、網膜組織に処置有益性を与えるのに充分な濃度であるが、水晶体および前区組織への実質的に減少した暴露を与えるのに充分に低いレベルにおいて、硝子体から網膜へのGDの低レベル硝子体内流動を生じると考えられる。
【0027】
ヒアルロン酸またはコルチコステロイドの治療的使用が既知である。すなわち、治療的および美容的使用のいずれのためにも、ヒアルロン酸(ヒアルロンおよびヒアルロン酸ナトリウムとも称される)の製剤が既知である。米国特許第4636524号、第4713448号、第5099013号および第5143724号は、特定のヒアルロン酸、およびそれらの製造法を開示している。さらに、ヒアルロン酸(即ち、ビスコサプリメントとして)または抗炎症性ステロイドの、関節内使用が既知である。商業的に入手可能なヒアルロン酸製剤は、Juvederm(商標)(Allergan)を包含し、これは、架橋ヒアルロン酸から成る注射可能皮膚フィラーである。Orthovisc(登録商標)(Anika)、Durolane(Smith & Nephew)、Hyalgan(登録商標)(Sanofi)、Hylastan(登録商標)(Genzyme)、Supartz(登録商標)(Seikagaku/Smith & Nephew)、Synvisc(登録商標)(Genzyme)、Euflexxa(登録商標)(Ferring)も既知であり、これらは、種々のヒアルロン酸架橋度を有する種々の分子量の注射可能(関節内)ヒアルロン酸ビスコサプリメントとして、変形性関節症の関節痛の治療に使用されている
【0028】
本発明は、眼症状処置用の医薬組成物(即ち、眼科用組成物)を包含する。組成物は、複数の粒子として処置有効量で存在するGD(例えばBDP);組成物の粘度を増加させるのに有効な量の粘度誘導成分;および水性担体成分を含んで成ることができる。組成物は、約0.1/秒の剪断速度において少なくとも約10cpsの粘度を有することができ、例えば27ゲージ針によって、眼内位置に注射することができる。本製剤の粘度を低下させることによって、28、29または30ゲージ針によって、眼内(即ち、硝子体内、テノン嚢下、結膜下等)に注射することができる。
【0029】
好ましくは、医薬組成物のBDP粒子は、組成物中に実質的に均一に懸濁し、粘度誘導成分はポリマーヒアルロネート(ヒアルロン酸)である。
【0030】
本発明の範囲内の詳細な実施形態は、眼症状の処置用の医薬組成物であって、BDP粒子;該BDP粒子が懸濁しているポリマーヒアルロネート;塩化ナトリウム;燐酸ナトリウム;および水を含んで成る医薬組成物である。医薬組成物は、約0.1/秒の剪断速度における粘度約80,000cps〜約300,000cps、好ましくは約100,000cps〜約300,000cps、最も好ましくは約180,000cps〜約225,000cpsを有しうる。医薬組成物は約0.1/秒の剪断速度における粘度約80,000cps〜約300,000cpsを有することができ、医薬組成物が約0.1/秒の剪断速度における粘度約100,000cps〜約150,000cpsを有する場合、それは、27、28、29または30ゲージ針によって眼内位置に注射しうることに注目すべきである。300,000cpsを有する場合でも、本製剤は、注射器内で移動する際の粘度減少(shear thinning)によって30ゲージ針で注射しうることを我々は見出した。医薬組成物に存在する燐酸ナトリウムは、第一燐酸ナトリウムおよび第二燐酸ナトリウムの両方を含むことができる。さらに、医薬組成物は、約2%w/v BDP〜約8%w/v BDP、約2%w/vヒアルロネート〜約3%w/vヒアルロネート、約0.6%w/v塩化ナトリウム、および約0.03%w/v燐酸ナトリウム〜約0.04%w/v燐酸ナトリウムを含んで成ることができる。あるいは、請求項5の医薬組成物は、約0.5%w/vヒアルロネート〜約6%w/vヒアルロネートを含んで成ることができる。所望であれば、ヒアルロネートは、製剤におけるその分子量(従って、その粘度)を減少させるために、加熱することができる。
【0031】
医薬組成物は、約0.6%w/v塩化ナトリウム〜約0.9%w/v塩化ナトリウムを含んで成ることもできる。一般に、より少ない燐酸塩が製剤に使用されるほど、より多くの塩化ナトリウムが製剤に使用され、例えば、燐酸塩が製剤に存在しない場合、0.9%の塩化ナトリウムを使用することができ、このようにして、製剤の張度を調節して、生理的液体との所望の等張性を得ることができる。医薬組成物は、約0.0%w/v燐酸ナトリウム〜0.1w/v燐酸ナトリウムを含有しうる。理解されるように、より少ない塩化ナトリウムが製剤に存在する場合に、より多くの燐酸塩を製剤に使用することができ、それによって所望のpH7.4緩衝効果を得ることができる。
【0032】
本発明の範囲内のより詳細な実施形態は、眼症状の処置用の医薬組成物であって、該医薬組成物は、BDP粒子、該BDP粒子が懸濁しているポリマーヒアルロネート、塩化ナトリウム、燐酸ナトリウムおよび水から本質的に成る。医薬組成物は、25℃において、0.1/秒の剪断速度における粘度約128,000cps〜約300,000cpsを有し、医薬組成物に存在する燐酸ナトリウムは、第一燐酸ナトリウムおよび第二燐酸ナトリウムの両方として存在することができる。最も好ましい粘度範囲は、25℃において、0.1/秒の剪断速度で約300,000cpsである。
【0033】
本発明のさらなる実施形態は、眼症状の処置用のBDP懸濁液であって、該懸濁液は、BDP粒子、該BDP粒子が懸濁しているポリマーヒアルロネート、塩化ナトリウム、第二燐酸ナトリウム七水化物、第一燐酸ナトリウム一水化物および水から成り、該組成物は、0.1/秒の剪断速度における粘度約250,000cps〜約350,000cpsを有する。
【0034】
眼症状処置用の、本発明の範囲内の医薬組成物は、処置有効量で複数の粒子として存在するBDP、組成物の粘度を増加させるのに有効な量の粘度誘導成分、および水性担体成分を含んで成ることができ、該組成物は、0.1/秒の剪断速度において少なくとも約10cpsの粘度を有し、眼内位置に注射可能であり、そこで該医薬組成物は、眼内注射または投与後少なくとも約50日間にわたって実質的に一次(線形)放出動態でBDPを放出する。この医薬組成物は、眼内注射後、炎症発生の減少、無プルーム作用(即ち、トリアムシノロンを注射してすぐに眼の硝子体腔内におけるBDPの広い分散がない)、および凝集性(それは、BDPゲル製剤の眼内注射後30週間以上にわたってBDPゲルの形態維持によって示される)を示すことができる。
【0035】
本発明は、眼症状の処置方法を含み、該方法は、処置有効量で複数の粒子として存在するBDPおよび組成物の粘度を増加させるのに有効な量の粘度誘導成分を含んで成る持続放出医薬組成物を眼内投与するステップを含んで成り、この眼科用組成物は、0.1/秒の剪断速度において少なくとも約10cpsの粘度を有し、眼内位置に注射可能であり、そこで眼内症状が、粘性製剤から放出されるBDPによって約30週間までにわたって処置される。この方法において、医薬組成物は、BDP粒子(結晶)、該BDP粒子が懸濁されているポリマーヒアルロネート、塩化ナトリウム、燐酸ナトリウムおよび水を含んで成ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、ヒトの眼の断面図であり、眼の前区および後区(前房および後房)、眼の硝子体腔に配置されたデポー(即ち、持続放出)製剤から放出される薬物の典型的多方向拡散を示す。
【図2】図2は、ウサギの片方の眼に硝子体内VEGF注射をしてから2日後、および静脈内フルオレセイン注射(12mg/kg)をしてから50分後における、その眼の網膜および虹彩のフルオレセイン漏出(任意蛍光単位)の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示す。
【図3】図3は、PBSに懸濁した結晶デキサメタゾン1mg(100μL)で処置したウサギの片方の眼に、硝子体内VEGF注射をしてから2日後、および静脈内フルオレセイン注射(12mg/kg)をしてから50分後における、その眼の網膜および虹彩のフルオレセイン漏出(任意蛍光単位)の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示す。結果は、硝子体内投与デキサメタゾンが、後区および前区の両方に存在して、それぞれBRBおよびBAB崩壊を阻止することを示している。
【図4】図4は、水性懸濁液100μLに含有されたトリアムシノロンアセトニド1mgで処置され、図3に関して記載したのと同じ条件下で硝子体内注射されたウサギの片方の眼における網膜および虹彩のフルオレセイン漏出(任意蛍光単位)の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示す。これも、VEGF誘発BRBおよびBAB崩壊を、完全に阻止した。
【図5】図5は、ベクロメタゾン水性懸濁液100μL(1mg)を硝子体内注射処置され、前記のようにVEGFで処置されたウサギの片方の眼における、網膜および虹彩のフルオレセイン漏出(任意蛍光単位)の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示す。デキサメタゾンおよびトリアムシノロンの場合と同様に、ベクロメタゾンもVEGF誘発BRBおよびBAB崩壊を阻止した。
【図6】図6は、VEGFを注射されたウサギ眼におけるフルオレセイン漏出の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示し、フルチカゾンプロピオネート1mg(100μL)、次にVEGFの硝子体内投与が、BRB崩壊を完全に阻止するが、BAB崩壊には作用を有さないことを示す。
【図7】図7は、VEGFを注射されたウサギ眼におけるフルオレセイン漏出の走査眼フルオロフォトメトリートレースを示し、ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(「BDP」)1mg(100μL)、次にVEGFの硝子体内投与が、BRB崩壊を完全に阻止するが、BAB崩壊には作用を有さないことを示す。
【図8】図8は、X軸に時間(日)を示し;Y軸に、50wt%BDPを含ませた5種類のPLGAインプラントから、pH5.4および37℃の0.1%セチルトリメチルアンモニウムブロミド(「CTAB」)含有クエン酸リン酸緩衝液に放出されたBDPの総量を示すグラフである。該インプラントは、実施例6に記載のように、作製され、それらのBDP放出が分析された。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、眼症状処置用の、1つ以上の抗炎症ステロイドの固体および粘性ポリマー持続放出製剤に関する。
【0038】
定義
本明細書に使用される下記の用語または語句は、下記のように定義される。
「約」は、そのように修飾されている項目、パラメーターまたは期間が、記載されている項目、パラメーターまたは期間の数値の上下プラスまたはマイナス10%の範囲を包含することを意味する。
【0039】
「投与」または「投与する」は、対象に医薬組成物を与える(即ち投与する)ステップを意味する。本明細書に開示されている医薬組成物は、「局所投与」することができ、即ち、処置の結果または成果が望まれる部位に、またはその部位の近くに投与される。
【0040】
「全く含まない」(即ち、「から成る」という用法)は、使用されている装置または方法の検出範囲において、物質が検出できないか、またはその存在が確認できないことを意味する。
【0041】
「本質的に含まない」(または、「から本質的に成る」)は、極微量の物質が検出できることを意味する。
【0042】
「眼周囲」投与は、眼球後領域、結膜下領域、テノン嚢下領域、脈絡膜上領域もしくは腔、および/または強膜内領域もしくは腔への、処置成分の送達を意味する。
【0043】
「実質的に含まない」は、医薬組成物の1wt%未満のレベルで存在することを意味する。
「持続放出」は、約7日以上の期間にわたる活性剤(例えばトリアムシノロン)の放出を意味し、「長時間放出」は、約7日より短い期間にわたる活性剤の放出を意味する。
【0044】
「処置有効」量または濃度は、眼の後区に適用された場合に、非処置眼と比較して、該後区を冒している疾患、症状または障害の少なくとも1つの症候を改善させるのに充分なGDまたはGD含有組成物の量または濃度を意味する。
【0045】
本明細書に記載されている全ての粘度値は、25℃で測定された(別の温度が記載されている場合を除く)。さらに、本明細書に記載されている全ての粘度値は、約0.1/秒の剪断速度で測定された(別の剪断速度が記載されている場合を除く)。
【0046】
本発明のGDは、グルココルチコイド受容体と結合するかまたは相互作用し、活性化させる処置剤である。好ましくは、該処置剤は、鉱質コルチコイド受容体より高い程度に、より好ましくは鉱質コルチコイド受容体より少なくとも2倍高い、または少なくとも5倍高い、または少なくとも10倍高い、または少なくとも50倍高い、または少なくとも100倍高い、または少なくとも1000倍高い程度に、GRと結合するかまたは相互作用する。処置成分のGDは、同様に投与された他のステロイド(例えば、デキサメタゾンおよびトリアムシノロンアセトニド)より高い硝子体液/房水濃度比、およびより長い硝子体半減期を有する。
【0047】
後方指向GDは、例えば、ウサギ硝子体への候補GDの注射によって、スクリーニングできる。硝子体液および房水を、時間の関数として採取し、硝子体液および房水における候補GDの量を測定することができる。候補GDの硝子体濃度を、時間の関数としてプロットし、標準的薬物動態学的方法を使用して、GDの硝子体半減期および候補GDのクリアランスを計算することができる。
【0048】
同様に、GDの房水濃度も時間の関数としてプロットすることができ、標準的薬物動態学的方法を使用して、候補GDの前方クリアランスも測定できる。所望の硝子体半減期を有し、および/または房水より硝子体液に選択的に存在する薬剤が、本発明の材料に使用される。例えば、約3時間より長い硝子体半減期を有する薬剤が、本発明の眼科用処置材料用に選択される。
【0049】
部分的に、本発明は、眼症状、例えば眼の後区の眼症状または疾患を、処置する方法に一般に関する。眼の後区は、ブドウ膜、硝子体、網膜、脈絡膜、視神経および網膜色素上皮(RPE)を含むが、それらに限定されない。本発明に関係した疾患または症状は、眼の後部に対するグルココルチコイド、特にGDの作用によって、予防または治療できる任意の疾患または症状を含みうる。「眼症状」(本発明によって、眼の後部に対する活性薬物の作用により予防または治療できる症状)は、下記を包含する:
【0050】
黄斑症/網膜変性、例えば黄斑浮腫、前部ブドウ膜炎、網膜静脈閉塞、非滲出型加齢性黄斑変性症、滲出型加齢性黄斑変性症(ARMD)、脈絡膜新生血管形成、糖尿病性網膜症、Acute Macular Neuroretinopathy、中心性漿液性脈絡網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、および糖尿病性黄斑浮腫;
【0051】
ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎、例えば急性多発性斑状網膜色素上皮症、ベーチェット病、Birdshot Retinochoroidopathy、感染症(梅毒、ライム病、結核、トキソプラスマ症)、中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)、多病巣性脈絡膜炎、多発性消失性白点症候群(MEWDS)、眼サルコイドーシス、後部強膜炎、匍行性脈絡膜炎、網膜下線維症およびブドウ膜炎症候群、および原田症候群;
【0052】
血管疾患/滲出性疾患、例えば網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞、播種性血管内凝固、網膜静脈分枝閉塞、高血圧眼底変化、虚血性眼症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半網膜静脈閉塞、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞、網膜動脈分枝閉塞、頸動脈疾患(CAD)、Frosted Branch Angitis、鎌状赤血球網膜症および他の異常血色素症、網膜色素線条症、家族性滲出型硝子体網膜症、およびイールズ病;
【0053】
外傷性/外科性状態、例えば交感性眼炎、ブドウ膜炎網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザーによって引き起こされた状態、光線力学的療法、光凝固によって引き起こされた状態、手術時血流低下、放射線性網膜症、および骨髄移植性網膜症;
増殖性疾患、例えば増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、および増殖性糖尿病性網膜症;
【0054】
感染性疾患、例えば眼ヒストプラスマ症、眼トキソカリア症、推定眼ヒストプラスマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラスマ症、HIV感染関連網膜疾患、HIV感染関連脈絡膜疾患、HIV感染関連ブドウ膜炎疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核、広汎性片眼性亜急性神経網膜炎、および蝿蛆病;
【0055】
遺伝性疾患、例えば網膜色素変性症、網膜ジストロフィーを伴う全身性疾患、先天性固定夜盲症、錐体ジストロフィー、スタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮のパターンジストロフィー、X連鎖網膜分離、Sorsby眼底ジストロフィー、良性同心性黄斑症、Bietti's Crystalline Dystrophy、および弾性線維性仮性黄色腫;
網膜裂傷/裂孔、例えば網膜剥離、黄斑円孔、および巨大網膜裂傷;
【0056】
腫瘍、例えば腫瘍に関連した網膜疾患、網膜色素上皮の先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の複合過誤腫、網膜芽腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星細胞腫、および眼内リンパ腫;並びに
後眼部を冒すさまざまな他の状態、例えばPunctate Inner Choroidopathy、急性後部多発性斑状網膜色素上皮症、近視性網膜変性、および急性網膜色素上皮炎。
【0057】
好ましくは、疾患または状態は、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、加齢性黄斑変性症(ARMD)、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜剥離、網膜裂傷、ブドウ膜炎、またはサイトメガウイルス性網膜炎である。緑内障も、その治療目標が、網膜細胞または視神経細胞の損傷または欠損による視力低下を防止するか、または減少させること(即ち、神経保護)であるので、後眼部状態と考えることができる。
【0058】
特許請求され、かつ特許請求される方法に使用される本発明の材料は、限定するものではないが、液体含有組成物(例えば製剤)、およびポリマー薬物送達システムを包含する。本発明の組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液等、例えば、眼科処置に使用される他の液体含有組成物を包含するものと理解しうる。ポリマー薬物送達システムは、ポリマー成分を含んで成り、生分解性インプラント、非生分解性インプラント、生分解性微粒子、例えば生分解性ミクロスフェアおよびマイクロカプセル等、ならびに生分解性ナノスフェアおよびナノカプセル等を包含するものと理解しうる。本発明の薬物送達システムは、タブレット、ウエハ、ロッド、シート等の形態の要素も包含するものと理解しうる。ポリマー薬物送達システムは、固体、半固体または粘弾性であってよい。
【0059】
GDは、水、生理食塩液、液体または半固体のポリマー担体、燐酸塩緩衝液、または眼科的に許容される液体担体の1つ以上で製剤化されうる。本発明の液体含有組成物は、好ましくは注射可能形態である。これらの組成物は、例えばシリンジおよび針または他の類似器具を使用して硝子体内注射によって、眼内投与することができ(例えば、米国特許出願公開第2003/0060763号参照。その全内容は、参照により本明細書に組み入れられる)、または注射器具によって眼周囲に組成物を投与することができる。
【0060】
「生物学的に有意な量」は、非処置眼と比較して、a)眼内圧またはb)白内障形成のいずれかまたは両方において、統計学的に有意な増加をもたらすのに充分な、眼の前区に存在するGDまたは他のステロイドの量を意味しうる。本発明の方法および組成物におけるGDは、組成物の約0.05%以下、または約0.1%もしくは約0.2%もしくは約0.5%ないし約5%もしくは約10%もしくは約20%もしくは約30%もしくはそれ以上(w/v)の範囲の量で存在しうる。GDは溶液(過飽和溶液を包含するが、それに限定されない)に含有されてもよいが、好ましい実施形態において、GDは、少なくとも部分的に、懸濁液中の結晶または粒子として存在する。
【0061】
硝子体内投与される組成物において、比較的高い濃度のGD(例えば、結晶形態)を与えることは、他の組成物と比較して同量以上の処置成分を眼の後区に与えるために、眼の後区に配置または注射するのに必要とされうる組成物の量を少なくしうるという点で、有利になりうる。
【0062】
特定の実施形態において、本発明材料はさらに、GDおよび賦形剤成分を含んで成る。賦形剤成分は、可溶化剤、粘度誘導剤、緩衝剤、張度調節剤、防腐剤等を包含するものと理解しうる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、可溶化剤はシクロデキストリンでありうる。言い換えれば、本発明材料は、組成物の約0.1%(w/v)〜約5%(w/v)の量で与えられるシクロデキストリン成分を含んで成ってよい。さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、本明細書に記載されるように、約10%(w/v)までの特定シクロデキストリンである。さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、本明細書に記載されるように、約60%(w/v)までの特定シクロデキストリンである。本発明組成物の賦形剤成分は、1種類以上のシクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンおよびそれらの誘導体を含んでよい。当業者に理解されるように、シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンとして機能する(例えば、処置剤の溶解性および/もしくは安定性を向上させ、かつ/または処置剤の好ましくない副作用を減少させ、かつ/または処置剤との包接化合物を形成する)のに充分にシクロデキストリンの特徴的化学構造を有するあらゆる置換または改変化合物を意味する。
【0064】
本発明材料の粘度誘導剤は、組成物中の処置成分を安定化するのに有効なポリマーを包含するが、それに限定されない。粘度誘導成分は、組成物の粘度を増加させる、好都合には実質的に増加させるのに有効な量で存在する。本発明組成物の増加した粘度は、GD(GD含有粒子を包含する)を、長時間(例えば少なくとも約1週間)にわたって、再懸濁処理を必要とせずに、組成物中に実質的均質懸濁状態に維持する本発明組成物の能力を高めうる。特定の本発明組成物の比較的高い粘度は、本明細書の他の箇所に記載されるように、例えば、GDを長期間にわたって実質的均質懸濁状態に維持しながら、増加した量または濃度のGDを含有する能力を組成物が有するのを、少なくとも補助するという付加的利点も有しうる。
【0065】
直接的眼内投与
好ましくは、本発明のGDは、溶液、懸濁液の投与を包含する手段によるか、またはGDの結晶または粒子を運ぶ他の手段によるか、または硝子体内インプラントの一部として、例えば切開または注射により、眼の硝子体腔に直接的に投与される。
【0066】
眼の後区に含有される硝子体液は、粘性水性物質である。従って、実質的により低い粘度の液体または懸濁液の後区への注射は、眼の中に異なる密度の2つの相または層を存在させることになり、それによって、GD粒子の「プーリング(pooling)」またはより低い密度の溶液の浮遊を生じうる。注射または挿入された材料が、固体(例えば、結晶、粒子、または非縫合インプラントまたはレザバー)の形態の薬物を含有する場合、該固体材料は、眼の下部に行き、溶解するまでそこに留まる。さらに、硝子体と、注射または挿入されたGD含有組成物との実質的に異なる屈折率は、視力を損ないうる。
【0067】
本発明の一部として記載されているGDを含有する処置組成物は、比較的高い粘度、例えば硝子体液とほぼ同じ粘度を有する粘性製剤に、懸濁しうる。そのような粘性製剤は、粘度誘導成分を含んで成る。本発明の処置剤は、水性注射剤、懸濁剤、乳濁剤、溶液、ゲル(それらに限定されない)として硝子体内投与してもよく、または生分解性または非生分解性の持続放出または長時間放出インプラントとして挿入してもよい。
【0068】
粘度誘導成分は、好ましくは、ポリマー成分および/または少なくとも1つの粘弾性物質、例えば、眼外科処置に有用な物質を含んで成る。
【0069】
有用な粘度誘導成分の例は、ポリマー高分子量ヒアルロン酸、カルボマー、ポリアクリル酸、セルロース誘導体、ポリカルボフィル、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、多糖、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、それらの誘導体およびそれらの混合物であるが、それらに限定されない。
【0070】
粘度誘導成分の分子量は、約200万ダルトンまでの範囲、例えば約10,000ダルトン以下ないし約200万ダルトン以上であってよい。1つの特に有用な実施形態において、粘度誘導成分の分子量は、約100,000ダルトンまたは約200,000ダルトンないし約100万ダルトンまたは約150万ダルトンの範囲内である。
【0071】
1つの極めて有用な実施形態において、粘度誘導成分は、ポリマーヒアルロネート成分、例えば、金属ヒアルロン酸塩成分であり、好ましくは、アルカリ金属ヒアルロン酸塩、アルカリ土類金属ヒアルロン酸塩およびそれらの混合物から選択され、より好ましくは、ヒアルロン酸ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される。そのようなヒアルロネート成分の分子量は、好ましくは、約50,000ダルトンまたは約100,000ダルトンないし約130万ダルトンまたは約200万ダルトンの範囲内である。
【0072】
1つの実施形態において、本発明のGDは、ポリマーヒアルロネート成分中に、約0.01%ないし約0.5%(w/v)以上の量で存在しうる。さらなる有用な実施形態において、ヒアルロネート成分は、組成物の約1%〜約4%(w/v)の範囲の量で存在する。後者の場合、極めて高いポリマー粘度がゲルを形成し、任意懸濁薬物の沈降速度を遅くし、注射されたGDのプーリングを防止する。
【0073】
本発明のこの態様のGDは、具体的に本明細書において特定されているGDを包含する処置
に有用なGDの、任意のまたは全ての塩、プロドラッグ、コンジュゲートまたは先駆物質を包含しうる。
【0074】
特定の実施形態において、本発明の組成物は2つ以上の処置剤を含有してもよく、但し、そのような処置剤の少なくとも1つが、前区へのGDの移動および/または後区の組織(該組織は、網膜組織を包含しうるが、それに限定されない)へのGDの浸透を防止するのに重要であるとして本明細書に記載されている1つ以上の特性を有するGDであるものとする。言い換えれば、本発明の処置組成物は、どのように投与されるにしても、第一の処置剤、および1つ以上の付加的処置剤、または処置剤の組合せを含有しうるが、但し、そのような処置剤の少なくとも1つがGDであるものとする。そのような組成物中の1つ以上の処置剤は、粒子または結晶として形成してもよく、その中に存在してもよい。
【0075】
本発明のこれらの態様において、粘度誘導成分は、組成物の粘度を増加させる、好ましくは実質的に増加させるのに有効な量で存在する。本発明をいかなる特定の操作理論にも縛るものではないが、組成物の粘度を、水の粘度より充分に高くする、例えば0.1/秒の剪断速度において少なくとも約100cpsにすることによって、ヒトまたは動物の眼の後区に配置する(例えば注射する)のに極めて有効な組成物が得られると考えられる。これらのGD含有組成物の後区への有利な配置または注射可能性と共に、本発明組成物の比較的高い粘度は、処置成分(例えば、GD含有粒子を含む)を組成物中に実質的均質懸濁状態に長期間維持するそのような組成物の能力を向上させ、組成物の貯蔵安定性を補助しうると考えられる。
【0076】
好都合には、本発明のこの態様の組成物は、0.1/秒の剪断速度において、少なくとも約10cpsまたは少なくとも約100cpsまたは少なくとも約1000cps、より好ましくは少なくとも約10,000cps、さらに好ましくは少なくとも約70,000cps以上、例えば約200,000cpsまたは約250,000cpsまで、または約300,000cps以上の粘度を有しうる。特定の実施形態において、本発明組成物は、前記の比較的高い粘度を有するだけでなく、ヒトまたは動物の眼の後区に、好ましくは27ゲージ針、さらには30ゲージ針によって、効果的に配置しうる(例えば注射しうる)能力を有するかまたはそのように構成するかもしくは作製することもできる。
【0077】
粘度誘導成分は、好ましくはshear thinning成分であり、それによって、例えば27ゲージ針のような狭い穴を通って、高い剪断条件下に粘性製剤が通過または眼の後区に注射される際に、組成物の粘度が実質的に減少する。そのような通過後、組成物はその注射前粘度を実質的に回復し、それによって、任意GD含有粒子を眼において懸濁状態に維持しうる。
【0078】
任意の眼科的に許容される粘度誘導成分を、本発明におけるGDに基づいて使用しうる。多くのそのような粘度誘導成分が提案されており、および/または眼上もしくは眼内に使用される眼用組成物に使用されている。粘度誘導成分は、組成物に所望の粘度を与えるのに有効な量で存在する。好都合には、粘度誘導成分は、組成物の約0.5%または約1.0%ないし約5%または約10%または約20%(w/v)の範囲の量で存在する。使用される粘度誘導成分の特定の量は、例えば下記の要素を包含するがそれらに限定されない多くの要素に依存する:使用される特定の粘度誘導成分、使用される粘度誘導成分の分子量、製造されおよび/または使用されるGD含有組成物に所望される粘度、および類似の要素。
【0079】
生体適合性ポリマー
本発明の別の実施形態において、処置剤(少なくとも1つのGDを含有する)は、GDを含有する処置剤、および眼の後区への投与に好適な生体適合性ポリマーを含んで成るか、それらから本質的に成るか、またはそれらから成る組成物において、眼内に送達しうる。例えば、組成物は、眼内インプラントまたは液体もしくは半固体ポリマー(それらに限定されない)を含んで成ってよい。いくつかの眼内インプラントが、米国特許第6726918号、第6699493号、第6369116号、第6331313号、第5869079号、第5824072号、第5766242号、第5632984号および第5443505号を包含する文献に記載されており、特に別の記載のない限り、これらの文献およびそこに引用または記載されている全ての他の文献の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。これらは特定の好ましいインプラントの例にすぎず、他のインプラントも当業者に利用可能である。
【0080】
GD含有処置剤と組み合わせたポリマーは、ポリマー成分と考えうる。いくつかの実施形態において、その粒子は、D,L-ポリラクチド(PLA)またはラテックス(カルボキシレート改質ポリスチレンビーズ)を含んで成ってよい。他の実施形態において、粒子は、D,L-ポリラクチド(PLA)またはラテックス(カルボキシレート改質ポリスチレンビーズ)以外の物質を含んで成ってよい。特定の実施形態において、ポリマー成分は多糖を含んで成ってよい。例えば、ポリマー成分は、ムコ多糖を含んで成ってよい。少なくとも1つの特定実施形態において、ポリマー成分はヒアルロン酸である。
【0081】
しかし、付加的実施形態において、GDの投与方法に関係なく、ポリマー成分は、哺乳動物の身体に有用な、天然物由来かまた合成の任意ポリマー材料を含んで成ってよい。本発明の目的に有用なポリマー材料のいくつかの付加的例は、下記の材料である:炭水化物に基づくポリマー、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、デキストリン、シクロデキストリン、アルギネート、ヒアルロン酸およびキトサン、タンパク質に基づくポリマー、例えば、ゼラチン、コラーゲンおよびグリコールタンパク質、ならびにヒドロキシ酸ポリエステル、例えば、生侵食性ポリラクチド-コグリコリド(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコリド、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリホスファゼンおよびポリオルトエステル。本発明において、ポリマーを架橋させるか、ブレンドするか、またはコポリマーとして使用することもできる。他のポリマー担体は、アルブミン、ポリ酸無水物、ポリエチレングリコール、ポリビニルポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ピロリドンおよびポリビニルアルコールを包含する。
【0082】
非侵食性ポリマーのいくつかの例は、シリコーン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、酢酸エチルビニル誘導体、アクリル樹脂、架橋ポリビニルアルコールおよび架橋ポリビニルピロリドン、ポリスチレンおよびセルロースアセテート誘導体である。
【0083】
これらの付加的ポリマー材料は、本明細書に開示されている処置有用GD剤を含んで成る組成物において有用でありうるか、または任意の方法(硝子体内投与に関係した方法を包含する)における使用に有用でありうる。限定するものではないが、例えば、PLAまたはPLGAを、本発明における使用のために、懸濁液中の粒子としてかまたはインプラントの一部として、GDに結合させてもよい。この不溶性コンジュゲートは、時間の経過と共にゆっくり侵食され、それによって連続的にGDを放出する。
【0084】
「生侵食性ポリマー」という用語は、生体内で分解するポリマーを意味し、時間の経過に伴うポリマーの侵食は、処置GD剤の放出と同時かまたは放出後に起こる。「生分解性」および「生侵食性」という用語は同義であり、本明細書において交換可能に使用される。生分解性ポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、または3種類以上のポリマー単位を含んで成るポリマーであってよい。
【0085】
本明細書において使用される「処置有効量」という用語は、眼の前区に有意な負の副作用または有害な副作用を生じずに、後区の症状を処置するか、または眼の外傷もしくは損傷を軽減もしくは予防するのに必要とされるGD剤のレベルまたは量を意味する。
【0086】
製剤ビヒクル
投与法または形態(例えば、液剤、懸濁剤、または局所、注射可能もしくは埋込可能剤)に関係なく、本発明のGD含有処置組成物は、医薬的に許容されるビヒクル成分中において投与される。処置剤は、組成物の製造において、医薬的に許容されるビヒクル成分と組み合わせてもよい。言い換えれば、本明細書に開示されている組成物は、処置成分、および有効量の医薬的に許容されるビヒクル成分を含んで成ってよい。少なくとも1つの実施形態において、ビヒクル成分は水性である。例えば、組成物は水を含んで成ってよい。
【0087】
特定の実施形態において、GD含有処置剤は、ビヒクル成分中において投与され、有効量の粘度誘導成分、再懸濁成分、防腐剤成分、張度調節成分および緩衝剤成分の少なくとも1つを含有してもよい。いくつかの実施形態において、本明細書に開示されている組成物は、防腐剤成分を含有しない。他の実施形態において、組成物は添加された防腐剤成分を任意に含有しうる。さらに、組成物は再懸濁成分を含有しなくてもよい。
【0088】
GD含有処置剤の局所または眼内投与用の製剤(該薬剤を含有するインプラントまたは粒子を包含するが、それらに限定されない)は、好ましくは、多量の水を含有しうる。そのような組成物は、好ましくは、例えば眼に使用される前に、滅菌形態で製剤化される。前記の緩衝剤成分は、眼内製剤に存在する場合に、組成物のpHを調節するのに有効な量で存在する。製剤は、緩衝剤に加えてまたはそれの代わりに、少なくとも1つの張度調節成分を、組成物の張度また浸透圧を調節するのに有効な量で含有しうる。実際に、該成分は、緩衝剤成分および張度調節成分の両方の機能を果たしうる。より好ましくは、本発明組成物は、緩衝剤成分および張度調節成分の両方を含有する。
【0089】
緩衝剤成分および/または張度調節成分は、存在する場合に、眼科分野において従来の周知のものから選択しうる。そのような緩衝剤成分の例は、酢酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、燐酸塩緩衝剤、硼酸塩緩衝剤等、およびそれらの混合物であるが、それらに限定されない。燐酸塩緩衝剤が特に有用である。有用な張度調節成分は、塩、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、他の好適な眼科的に許容される張度調節成分、およびそれらの混合物を包含するが、それらに限定されない。非イオン性張度成分は、糖から誘導されるポリオール、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、グリセロール等を含んで成ってよい。
【0090】
使用される緩衝剤成分の量は、好ましくは、組成物のpHを約6〜約8、より好ましくは約7〜約7.5に維持するのに充分な量である。使用される張度調節成分の量は、好ましくは、本発明組成物に約200〜約400mOsmol/kg、より好ましくは約250〜約350mOsmol/kgの浸透圧を与えるのに充分な量である。好都合には、本発明組成物は実質的に等張性である。
【0091】
本発明の、または本発明に使用される組成物は、1つ以上の他の成分を、1つ以上の有用な特性および/または利点を本発明組成物に与えるのに有効な量で含有しうる。例えば、本発明組成物は添加された防腐剤成分を実質的に含まなくてもよいが、他の実施形態において、本発明組成物は、有効量の防腐剤成分(好ましくは、組成物が配置される眼の後区の組織に対してベンジルアルコールより適合性であるかまたは穏やかな成分)を含有する。そのような防腐剤成分の例は、下記の物質であるが、それらに限定されない:第四級アンモニウム防腐剤、例えば、塩化ベンザルコニウム(「BAC」または「BAK」)およびポリオキサマー;ビグアニド防腐剤、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB);メチルパラベンおよびエチルパラベン;ヘキセチジン;クロライト成分、例えば、安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩等;他の眼科的に許容される防腐剤等、およびそれらの混合物。本発明組成物に防腐剤成分が存在する場合、その濃度は、組成物を防腐するのに有効な濃度であり、(使用される特定防腐剤の種類に依存して)多くの場合、一般に、組成物の約0.00001%ないし約0.05%(w/v)または約0.1%(w/v)の範囲で使用される。
【0092】
処置剤の硝子体内送達は、液体含有組成物を硝子体に注射するか、またはポリマー薬物送達システム、例えばインプラントおよび微粒子(例えばミクロスフェア)を、硝子体に配置することによって行なうことができる。眼に配置するための生体適合性インプラントの例は、多くの特許、例えば、米国特許第4521210号、第4853224号、第4997652号、第5164188号、第5443505号、第5501856号、第5766242号、第5824072号、第5869079号、第6074661号、第6331313号、第6369116号および第6699493号に開示されている。
【0093】
本発明のGD含有処置剤の他の眼内投与経路は、患者への薬物の眼周囲送達を包含しうる。眼の後区への直接的な薬物浸透は、血液網膜関門によって抑制される。血液網膜関門は、解剖学的に、内側および外側血液関門に分けられる。眼周囲腔から内部眼構造への溶質または薬物の移動は、網膜色素上皮(RPE)、外側血液網膜関門によって制限される。この構造物の細胞は、閉鎖帯細胞間結合によって結合している。RPEは、RPEを通過する溶質の傍細胞輸送を制限するタイトなイオン輸送関門である。大部分の化合物の、血液網膜関門を通過する透過性は極めて低い。しかし、親油性化合物、例えばクロラムフェニコールおよびベンジルペニシリンは、血液網膜関門を通過することができ、全身的投与後に硝子体液中にかなりの濃度を達成できる。化合物の親油性は、その透過速度と相関し、受動細胞拡散と一致する。しかし、血液網膜関門は、輸送機構の不存在下には、極性または荷電化合物には不透過性である。
【0094】
例示的GDの構造
本発明のGDは、下記のような化合物である:1)グルココルチコイド受容体に選択的に結合し、活性化させ(グルココルチコイド)、2)トリアムシノロンアセトニド(21μg/mL)より低い水溶性および/またはトリアムシノロンアセトニド(2.53)より高い親油性(log P)を有する。log Pは親油性係数であり、Pはオクタノール/水の分配係数である。
【0095】
本特許出願によれば、基本ステロイド環構造は、以下の通りである:
【化2】

【0096】
例えば、グルココルチコイド デキサメタゾンの燐酸塩は、下記の構造を有する:
【化3】

【0097】
同様に、グルココルチコイド トリアムシノロンアセトニドは、下記の構造を有する:
【化4】

【0098】
本発明の組成物および方法に使用されるグルココルチコイド誘導体(GD)も、グルココルチコイド受容体に選択的に結合し、活性化させ、トリアムシノロンアセトニド(21μg/mL)より低い水溶性および/またはトリアムシノロンアセトニド(2.53)より高い親油性(log P)を有する。
【0099】
有用な実施形態において、本発明のGDは、C17位および/またはC21位において(後者の炭素原子は存在する場合)、エステル結合によってグルココルチコイドに結合したアシル基を有する。好ましくは、エステルはモノエステル結合である。しかし、別の実施形態において、エステルはジエステル結合である。有用なアシル基は、アセチル基、ブチリル基、バレリル基、プロピオニル基またはフロイル基を包含するが、それらに限定されない。他の潜在的に有用な基は、ベンゾイル基および/または他の置換もしくは非置換の環式もしくは芳香族アシル基を包含する。理想的には、アシル基は高疎水性を有すべきであり、従って、アルキル基または芳香族アシル基が本発明に特に好ましいが、極性置換基を含有する基はあまり好ましくなく、本発明のいくつかの実施形態において存在しない。本発明の特定の実施形態において、アシル基は、チオールエステルによってステロイドに結合している。
【0100】
特定のC17および/またはC21アシルエステル置換グルココルチコイドは、局所皮膚投与または全身的投与等を包含するがそれに限定されない経路によって、炎症性症状および他の症状の処置に使用される。例えば、ベクロメタゾンジプロピオネートは、気管支喘息の治療、および鼻ポリープの収縮に使用される。それは、粉末形態に製剤化され、吸入によって投与される。それは下記の構造を有する:
【化5】

【0101】
ベクロメタゾンジプロピオネートは、単に「ベクロメタゾン」と称される場合があるが、これは、化学名の誤用である。非置換ベクロメタゾンは下記の構造を有する:
【化6】

【0102】
別の化合物は、下記の構造を有するフルチカゾンプロピオネートを含んで成る:
【化7】

【0103】
疎水性置換基を有さない「親」グルココルチコイド(例えば、C17位および/またはC21位において疎水性(好ましくはアシルエステル)基の指定された置換を有さない同一化合物)と比較して、本発明によるそのような置換基の付加は、水性媒質への溶解性の減少および親油性係数(log P、ここでPは、オクタノール/水の分配係数である)の増加を生じ、結晶から可溶化相への化合物の溶解速度を遅くする傾向がある。これらの生理化学的特性は、実験的に、後区から前区に移動する化合物の量を減少させ、それによって、前区関連副作用を減少させることとなる。それと共に、これらの化合物は後区の組織(例えば、網膜、RPE等)によりよく移動することができ、それによって、そのような組織を選択的に指向する。GDが結晶形態または粒子形態で硝子体に投与された場合、GDは親グルココルチコイドと比較して、硝子体内送達でのより長い作用時間を有する。
【0104】
現在の好ましいGDの非限定的な例は、下記のGDであるが、それらに限定されない:デキサメタゾン17-アセテート、デキサメタゾン17,21-アセテート、デキサメタゾン21-アセテート、クロベタゾン17-ブチレート、ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP)、フルチカゾン17-プロピオネート、クロベタゾール17-プロピオネート、ベタメタゾン17,21-ジプロピオネート、アルクロメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17-プロピオネート、ハロベタゾール17-プロピオネート、およびベタメタゾン17-バレレート。特に眼投与、例えば、硝子体内、結膜下、強膜下または局所眼投与による、眼後区症状の処置におけるこれらの化合物の使用によって、先に列挙したような後眼疾患(乾燥型および滲出型ARMD、糖尿病性黄変浮腫、増殖性糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎および眼腫瘍を包含するが、それらに限定されない)の処置において、既存療法と比較して有意な処置改善がもたらされる。
【0105】
所望であれば、組成物のpHを調節するのに有効な量の緩衝剤を含有させてもよい。張度調節剤は、組成物の張度または浸透圧を調節するのに有効な量で提供されうる。特定の本発明組成物は、緩衝剤成分および張度調節成分(それは、本明細書に記載のように、1つ以上の糖アルコール、例えばマンニトール、または塩、例えば塩化ナトリウムを包含しうる)の両方を含有しうる。緩衝剤成分および張度調節成分は、眼科分野において従来の周知のものから選択しうる。そのような緩衝剤成分の例は、酢酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、燐酸塩緩衝剤、硼酸塩緩衝剤等、およびそれらの混合物であるが、それらに限定されない。燐酸塩緩衝剤が特に有用である。有用な張度調節成分は、塩、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、他の好適な眼科的に許容される張度調節成分、およびそれらの混合物を包含するが、それらに限定されない。
【0106】
使用される緩衝剤成分の量は、好ましくは、組成物のpHを、約6〜約8、より好ましくは約7〜約7.5に維持するのに充分な量である。使用される張度調節成分の量は、好ましくは、本発明組成物に約200〜約400mOsmol/kg、より好ましくは約250〜約350mOsmol/kgの浸透圧を与えるのに充分な量である。好都合には、本発明組成物は実質的に等張性である。
【0107】
本発明材料に使用しうる防腐剤は、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベンおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、クロライト成分、例えば、安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩等、他の眼科的に許容される防腐剤等、およびそれらの混合物を包含する。本発明組成物に防腐剤成分が存在する場合、その濃度は、組成物を防腐するのに有効な濃度であり、多くの場合、組成物の約0.00001%ないし約0.05%(w/v)または約0.1%(w/v)である。
【0108】
本発明組成物は、当業者に一般に既知の常套の従来法によって製造できる。例えば、GD含有処置成分は、液体担体と組み合わすことができる。組成物を滅菌することができる。特定の実施形態、例えば防腐剤不含有実施形態において、組成物を滅菌し、単一用量で包装することができる。組成物の単位用量の単一投与後に処分できる眼内ディスペンサーに、組成物を予め包装してもよい。
【0109】
本発明組成物は、好適なブレンド/加工法、例えば1つ以上の従来ブレンド法を使用して、調製できる。調製工程は、ヒトまたは動物の眼への硝子体内もしくは眼周囲配置または注射に有用な形態で本発明組成物を提供するように選択すべきである。1つの有用な実施形態において、高濃度処置成分分散液を作製するのに、GD含有処置成分を、水、および最終組成物に含有させるべき賦形剤(粘度誘導成分以外)と合わせる。成分を混合して、処置成分を分散させ、次に、オートクレーブ処理する。粘度誘導成分は、滅菌状態で購入してもよく、または従来処理によって滅菌してもよく、例えば、希薄溶液を濾過し、次に、凍結乾燥して滅菌粉末が得られる。滅菌粘度誘導成分を水と合わして、水性濃厚物を作製する。高濃度処置成分分散液を、粘度誘導成分濃厚物に、スラリーとして混合および添加する。所望組成物を得るのに充分な量(q.s.)の水を添加し、組成物を均質になるまで混合する。
【0110】
1つの実施形態において、GDを使用して、投与に好適な滅菌粘性懸濁液を作製する。そのような組成物を製造する方法は、滅菌懸濁物バルク配合および無菌充填を含んで成ってよい。
【0111】
本発明物質の他の実施形態は、単一投与後に長期間にわたって持続薬物送達を与えることができるポリマー薬物送達システムの形態である。例えば、本発明の薬物送達システムは、少なくとも約1ヶ月間、または約3ヵ月間、または約6ヶ月間、または約1年間、または約5年間またはそれ以上にわたって、GDを放出することができる。従って、本発明材料のそのような実施形態は、硝子体内投与および眼周囲投与の少なくとも1つによって患者に投与するのに好適なポリマー薬物送達システムの形態で、処置成分と組み合わせられたポリマー成分を含んで成ってよい。
【0112】
ポリマー薬物送達システムは、生分解性ポリマーインプラント、非生分解性ポリマーインプラント、生分解性ポリマー微粒子、およびそれらの組合せの形態であってよい。インプラントは、ロッド、ウエハ、シート、フィラメント、スフェア等の形態であってよい。粒子は、本明細書に開示されているインプラントより一般に小さく、種々の形であってよい。例えば、本発明の特定の実施形態は、実質的に球形の粒子を使用する。これらの粒子は、ミクロスフェアであるものと理解しうる。他の実施形態は、ランダム形状の粒子、例えば、1つ以上の平坦面または平面を有する粒子を使用しうる。薬物送達システムは、所定の粒度分布を有するそのような粒子の集団を含んで成ってよい。例えば、集団の大部分が、所望の直径寸法を有する粒子であってよい。
【0113】
本明細書に記載されるように、本発明薬物送達システムのポリマー成分は、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、生分解性コポリマー、非生分解性コポリマーおよびそれらの組合せから成る群から選択されるポリマーを含んで成ってよい。特定の実施形態において、ポリマー成分は、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマー(PLGA)を含んで成る。他の実施形態において、ポリマー成分は、ポリ-乳酸(PLA)、ポリ-グリコール酸(PGA)、ポリ-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスフェートエステル)、ポリカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、それらの誘導体、およびそれらの組合せから成る群から選択されるポリマーを含んで成る。ポリマー成分を処置成分と組み合わせせて、固体インプラント、半固体インプラントおよび粘弾性インプラントから成る群から選択されるインプラントを形成しうる。
【0114】
GDは、粒子または粉末形態であってよく、生分解性ポリマーマトリックスに取り込まれてよい。一般に、眼内インプラント中のGD粒子は、約3000ナノメートル未満の有効平均粒度を有する。しかし、他の実施形態において、粒子は、約3000ナノメートルより大きい平均最大粒度を有しうる。特定のインプラントにおいて、粒子は、約3000ナノメートルより小さいオーダーの有効平均粒度を有しうる。例えば、粒子は、約500ナノメートル未満の有効平均粒度を有しうる。さらなるインプラントにおいて、粒子は、約400ナノメートル未満の平均有効粒度を有し、さらなる実施形態において、約200ナノメートル未満の粒度を有しうる。さらに、そのような粒子をポリマー成分と組み合わした場合に、得られたポリマー眼内粒子を使用して、所望の処置効果が得られる。
【0115】
インプラントまたは他の薬物送達システムの一部として製剤化する場合、本発明システムのGDは、好ましくは、薬物送達システムの約1wt%〜約90wt%である。より好ましくは、GDは、システムの約20wt%〜約80wt%である。好ましい実施形態において、GDは、システムの約40wt%(例えば、約30%〜50%)である。別の実施形態において、GDは、システムの約60wt%である。
【0116】
薬物送達システムに使用するのに好適なポリマー材料または組成物は、眼の機能または生理を実質的に阻害しないように、眼に適合性、即ち生体適合性である材料を包含する。そのような材料は、好ましくは、少なくとも部分的に、より好ましくは実質的に完全に生分解性または生侵食性であるポリマーを包含する。
【0117】
前記に加えて、有用なポリマー材料の例は、有機エステルおよび有機エーテルから誘導され、かつ/またはそれを含有し、分解した際に、生理学的に許容される分解生成物(モノマーを包含する)を生じる材料であるが、それらに限定されない。さらに、単独または他のモノマーとの組み合わせで、無水物、アミド、オルトエステル等から誘導され、かつ/またはそれらを含有するポリマー材料も使用しうる。ポリマー材料は、付加または縮合重合体、好都合には縮合重合体であってよい。ポリマー材料は、架橋または非架橋であってよく、例えば軽度架橋以下であり、例えば、ポリマー材料の約5%未満または約1%未満が架橋されてよい。多くの場合、ポリマーは、炭素および水素の他に、酸素および窒素の少なくとも一方、好都合には酸素を含有する。酸素は、オキシ、例えばヒドロキシまたはエーテル、カルボニル、例えば非オキソカルボニル、例えばカルボン酸エステル等として存在しうる。窒素は、アミド、シアノおよびアミノとして存在しうる。Heller, Biodegradable Polymers in Controlled Drug Delivery, In: CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, Vol.1, CRC Press, Boca Raton, FL 1987, p.39-90(制御薬物送達のための封入について記載している)に記載されているポリマーを、本発明の薬物送達システムに使用しうる。
【0118】
さらに関心がもたれるのは、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸のポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)、および多糖である。関心がもたれるポリエステルは、D-乳酸、L-乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸のポリマー、ポリカプロラクトン、およびそれらの組合せを包含する。一般に、L-ラクテートまたはD-ラクテートを使用することによって、ゆっくり侵食されるポリマーまたはポリマー材料が得られ、侵食はラクテートラセミ体によって実質的に促進される。
【0119】
有用な多糖として挙げられるのは、アルギン酸カルシウムおよび官能化セルロース、特に、水不溶性を特徴とし、例えば約5kD〜500kDの分子量のカルボキシメチルセルロースエステルであるが、それらに限定されない。
【0120】
関心がもたれる他のポリマーは、生体適合性であり、かつ生分解性および/または生侵食性であってよいポリエステル、ポリエーテルおよびそれらの組合せを包含するが、それらに限定されない。
【0121】
本発明システムに使用されるポリマーまたはポリマー材料の、いくつかの好ましい特徴は、生体適合性;処置成分との適合性;本発明の薬物送達システムの製造におけるポリマー使用容易性;少なくとも約6時間、好ましくは約1日以上の、生理的環境における半減期;硝子体の粘度を有意に増加させないこと;および、水不溶性を包含しうる。
【0122】
マトリックスを形成するために含有される生分解性ポリマー材料は、望ましくは、酵素的または加水分解的不安定性に付される。水溶性ポリマーを加水分解的または生分解的不安定架橋で架橋して、有用な水不溶性ポリマーを得ることができる。安定度は、モノマーの選択;ホモポリマーまたはコポリマーのいずれを使用するか;ポリマー混合物の使用;および、ポリマーが末端酸基を有するかどうかに依存して、広く変化しうる。
【0123】
ポリマーの生分解性、従って、薬物送達システムの長時間放出プロフィールを調節するために、本発明システムに使用されるポリマー組成物の相対平均分子量も重要である。種々の分子量の同じかまたは異なるポリマー組成物をシステムに含有させて、放出プロフィールを調節しうる。特定のシステムにおいて、ポリマーの相対平均分子量は、約9〜約64kD、一般に約10〜約54kD、より一般的には約12〜約45kDである。
【0124】
いくつかの薬物送達システムにおいて、グリコール酸および乳酸のコポリマーが使用され、その場合、生分解の速度はグリコール酸/乳酸の比率によって調節される。最も急速に分解するコポリマーは、ほぼ同量のグリコール酸および乳酸を含有する。ホモポリマー、または等比率以外の比率を有するコポリマーは、分解に対して、より抵抗性である。グリコール酸/乳酸の比率はシステムの脆性にも影響を与え、より大きい形状には、より柔軟性のシステムまたはインプラントが望ましい。ポリ乳酸およびポリグリコール酸(PLGA)コポリマーにおけるポリ乳酸の%は、0〜100%、好ましくは約15〜85%、より好ましくは約35〜65%であってよい。いくつかのシステムにおいて、50/50PLGAコポリマーが使用される。
【0125】
本発明システムの生分解性ポリマーマトリックスは、2つ以上の生分解性ポリマーの混合物を含んで成ってよい。例えば、システムは、第一生分解性ポリマーおよび異なる第二生分解性ポリマーの混合物を含んでよい。1つ以上の生分解性ポリマーは、末端酸基を有しうる。
【0126】
侵食性ポリマーからの薬物の放出は、いくつかの機構、または機構の組合せの結果である。これらの機構のいくつかは、インプラント表面からの脱着、溶解、水和ポリマーの多孔質流路からの拡散、および侵食を包含する。侵食は、バルク侵食または表面侵食、またはその両方の組合せであってよい。処置成分の眼への放出が、拡散、侵食、溶解および浸透の1つ以上によって行なわれるように、本発明システムのポリマー成分が処置成分と組み合わせられると理解しうる。本明細書に記載されているように、眼内薬物送達システムのマトリックスは、眼への埋め込み後1週間を超える期間にわたって、ある量のGDの持続放出に有効な速度で薬物を放出しうる。特定のシステムにおいて、処置量のGDが約1ヶ月以上、さらには約12ヵ月以上にわたって放出される。例えば、システムを眼の内部に配置した後、約90日〜約1年の期間にわたって、処置成分を眼に放出することができる。
【0127】
生分解性ポリマーマトリックスを含んで成る薬物送達システムからのGDの放出は、初期放出バーストと、その後の放出されるGD量の漸増を包含しうるか、または該放出は、初期のGD放出遅延と、その後の放出増加を包含しうる。システムが実質的に完全に分解されたとき、それまでに放出されたGDのパーセントは約100%である。
【0128】
薬物送達システムの寿命にわたって、システムから処置剤が比較的一定の速度で放出されることが有利でありうる。例えば、システムの寿命にわたって、GDが、約0.01μg〜約2μg/日の量で放出されるのが望ましい。しかし、生分解性ポリマーマトリックスの調製に依存して、放出速度は速くまたは遅くなるように変化しうる。さらに、GDの放出プロフィールは、1つ以上の線形部分および/または1つ以上の非線形部分を有しうる。好ましくは、放出速度は、一旦システムが分解または侵食し始めたら、ゼロより大である。
【0129】
薬物送達システム、例えば眼内インプラントは、モノリシックであってよく、即ち、活性剤をポリマーマトリックスに均質に分布させるか、または封入してよく、その場合、活性剤のレザバーがポリマーマトリックスに封入される。製造容易性のために、モノリシックインプラントが封入形態より一般に好ましい。しかし、封入されたレザバー型インプラントによって得られるより優れた制御は、GDの処置レベルが狭い範囲にあるいくつかの場合において有利にでありうる。さらに、本明細書に記載されている処置剤を包含する処置成分を、不均質パターンでマトリックスに分布させてもよい。例えば、薬物送達システムは、システムの別の一部分と比較して、より高い濃度のGDを含有する部分を有しうる。
【0130】
本明細書に開示されているポリマーインプラントは、針での投与用に、約5μm〜約2mm、または約10μm〜約1mmの大きさを有し、外科的埋め込みによる投与用に、1mmより大、または2mmより大、例えば3mm、または10mmまでの大きさを有しうる。ヒトの硝子体腔は、例えば1〜10mmの長さを有する種々の形状の比較的大きいインプラントを収容できる。インプラントは、約2mm x 0.75mm直径の寸法を有する円柱形ペレット(例えばロッド)であってよい。または、インプラントは、長さ約7mm〜約10mm、直径約0.75mm〜約1.5mmの円柱形ペレットであってもよい。
【0131】
インプラントは、眼、例えば硝子体へのインプラントの挿入、およびインプラントの収容の両方を容易にするために、少なくとも幾分柔軟性であってもよい。インプラントの総重量は、一般に約250〜5000μg、より好ましくは約500〜1000μgである。例えば、インプラントは、約500μg、または約1000μgであってよい。しかし、より大きいインプラントを形成し、さらに加工してから眼に投与してもよい。さらに、より大きいインプラントは、比較的多量のGDをインプラントに与える場合に望ましくありうる。非ヒト個体の場合、インプラントの寸法および総重量は、個体の種類に依存して、より大きく、またはより小さくしうる。例えば、ヒトが約3.8mLの硝子体容量を有するのに対して、ウマは約30mLであり、ゾウは約60〜100mLである。ヒトに使用するための大きさのインプラントを、他の動物に応じて大きくするかまたは小さくすることができ、例えば、ウマ用インプラントは約8倍大きくし、またはゾウ用インプラントは約26倍大きくしうる。
【0132】
中心が1つの材料からなり、表面が同じかまたは異なる組成の1つ以上の層を有してよく、該層は架橋されてよく、または異なる分子量、異なる密度または多孔度等であってよい薬物送達システムを製造することができる。例えば、GDの初期ボーラスを急速に放出することが望ましい場合、中心は、ポリラクテート-ポリグリコレートコポリマーで被覆されたポリラクテートであってよく、それによって初期分解速度を速くすることができる。あるいは、中心がポリラクテートで被覆されたポリビニルアルコールであってよく、それによって外側のポリラクテートの分解時に、中心が溶解し、急速に眼から排出される。
【0133】
薬物送達システムは、ファイバー、シート、フィルム、ミクロスフェア、スフェア、円板、プラーク等を包含する任意の形状であってよい。システムの大きさの上限は、システムの忍容性、挿入時の大きさ制限、取扱い容易性等のような要因によって決まる。シートまたはフィルムが使用される場合、シートまたはフィルムは、取扱い容易性のために、少なくとも約0.5mm x 0.5mm、一般に約3〜10mm x 5〜10mmで、厚さ約0.1〜1.0mmでありうる。ファイバーが使用される場合、ファイバー直径は一般に約0.05〜3mmであり、ファイバー長さは一般に約0.5〜10mmでありうる。スフェアは直径約0.5μm〜4mmであり、他の形状の粒子に匹敵する容量を有しうる。
【0134】
システムの大きさおよび形は、放出速度、処置期間、および埋め込み部位の薬物濃度を調節するために利用することもできる。例えば、より大きいインプラントは比例的により多い用量を送達しうるが、表面積対質量比に依存して、より遅い放出速度を有しうる。システムの特定の粒度および形状は、埋め込み部位に適合するように選択される。
【0135】
GD含有処置剤、ポリマー、および任意の他の改質剤の比率は、例えばそのような成分の比率を変えていくつかのインプラントを製剤化することによって、経験的に決定しうる。USP認可の溶解または放出試験法を使用して、放出速度を測定できる(USP 23;NF 18(1995) p.1790-1798)。例えば、無限沈下法を使用して、インプラントの秤量試料を、水中0.9% NaCl含有溶液の測定量に添加する(該溶液量は、放出後の薬物濃度が飽和の5%未満になる量である)。混合物を37℃に維持し、ゆっくり撹拌して、インプラントを懸濁状態に維持する。時間の関数としての溶解薬物の出現を、当分野で既知の種々の方法、例えば、分光測光法、HPLC、質量分析法等によって、吸収が一定になるまでか、または薬物の90%以上が放出されるまで、追跡しうる。
【0136】
GD含有処置成分に加えて、本明細書に記載される組成物と同様に本明細書に開示されているポリマー薬物送達システムは、賦形剤成分を含有しうる。賦形剤成分は、可溶化剤、粘度誘導剤、緩衝剤、張度調節剤、防腐剤等を包含するものと理解しうる。
【0137】
さらに、米国特許第5869079号に記載されているような放出調節剤を、薬物送達システムに含有しうる。使用される放出調節剤の量は、所望の放出プロフィール、調節剤の活性、および調節剤の不存在下の処置剤の放出プロフィールに依存しうる。電解質、例えば塩化ナトリウムおよび塩化カリウムも、システムに含有させうる。緩衝剤または促進剤が親水性である場合、それは放出促進剤としても作用しうる。親水性添加剤は、薬物粒子周囲の材料のより速い溶解(これは、露出される薬物の表面積を増加させ、それによって薬物生侵食速度を増加させる)によって、放出速度を増加させるよう作用する。同様に、疎水性緩衝剤または促進剤は、よりゆっくり溶解し、薬物粒子の露出を遅らせ、それによって薬物生侵食速度を遅くする。
【0138】
種々の方法を使用して、そのような薬物送達システムを製造しうる。有用な方法は、下記の方法を包含するが、それらに必ずしも限定されない:溶媒蒸発法、相分離法、界面法、成形法、射出成形法、押出法、同時押出法、カーバープレス法、打抜き法、熱圧縮、それらの組合せ等。
【0139】
特定の方法が米国特許第4997652号に記載されている。押出法を使用して、製造における溶媒の必要性を回避しうる。押出法を使用した場合、ポリマーおよび薬物は、製造に必要とされる温度、一般に少なくとも約85℃で安定であるように選択される。押出法は、約25℃〜約150℃、より好ましくは約65℃〜約130℃の温度を使用する。インプラントは、薬物/ポリマー混合のために、約0〜1時間、0〜30分間、または5〜15分間にわたって、温度を約60℃〜約150℃、例えば約130℃にすることによって製造しうる。例えば、時間は、約10分間、好ましくは約0〜5分間であってよい。次に、インプラントを、約60℃〜約130℃、例えば約75℃の温度で押出す。
【0140】
さらに、インプラントの製造中に、コア領域を覆う被膜を形成するように、インプラントを同時押出してもよい。
【0141】
圧縮法を使用して、薬物送達システムを形成し、押出法より速い放出速度を有する構成要素を一般に生じうる。圧縮法は、約50〜150psi、より好ましくは約70〜80psi、さらに好ましくは約76psiの圧力、および約0℃〜約115℃、より好ましくは約25℃の温度を使用しうる。
【0142】
本発明の特定の実施形態において、持続放出眼内薬物送達システムの製造法は、GDおよびポリマー材料を合わして、個体の眼に配置するのに好適な薬物送達システムを形成することを含んで成る。得られる薬物送達システムは、長時間にわたって、眼にGDを放出するのに有効である。該方法は、GDおよびポリマー材料の粒子状混合物を押出して、押出組成物、例えば、フィラメント、シート等を形成する工程を含んで成りうる。
【0143】
ポリマー粒子が望まれる場合、該方法は、押出組成物を、本明細書に記載されているポリマー粒子の集団またはインプラントの集団に形成することを含んで成りうる。そのような方法は、押出組成物をカットする工程、押出組成物を粉砕する工程等の1つ以上の工程を含んでよい。
【0144】
本明細書に記載されているように、ポリマー材料は、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、またはそれらの組合せを含んで成ってよい。ポリマーの例は、先に特定した全てのポリマーおよび物質を包含する。
【0145】
本発明の実施形態は、本発明の薬物送達システムを含んで成る組成物にも関する。例えば、1つの実施形態において、組成物は、本発明の薬物送達システムおよび眼科的に許容される担体成分を含んで成ってよい。そのような担体成分は、水性組成物、例えば生理食塩液または燐酸塩緩衝液であってよい。
【0146】
別の実施形態は、GDを含んで成る眼用処置材料を製造する方法に関する。広い態様において、該方法は、GDを選択する工程、および選択したGDを液体担体成分またはポリマー成分と合わして、眼への投与に好適な材料を形成する工程を含んで成る。または、言い換えれば、本発明の材料を製造する方法は、低い房水/硝子体液濃度比および長い硝子体内半減期を有するGDを選択する工程を含んで成ってよい。
【0147】
該方法は、GDを選択するために一般に使用される下記の工程の1つ以上をさらに含んで成ってよい:GDを対象の眼に投与し、時間の関数としての硝子体液および房水の少なくとも1つにおけるGDの濃度を測定する工程;および、対象の眼にGDを投与し、硝子体内半減期および後眼房からのGDのクリアランスの少なくとも1つを測定する工程。
【0148】
該方法において形成される材料は、液体含有組成物、生分解性ポリマーインプラント、非生分解性ポリマーインプラント、ポリマー微粒子、またはそれらの組合せであってよい。本明細書に記載されているように、該材料は、固体インプラント、半固体インプラントおよび粘弾性インプラントの形態であってよい。特定の実施形態において、GDをポリマー成分と合わして混合物を形成し、該方法は混合物を押出すことをさらに含んで成る。
【0149】
本発明のさらなる実施形態は、患者の眼の視力を向上させるかまたは維持する方法に関する。一般に、該方法は、本発明の眼用処置材料を、必要とする個体の眼に投与するステップを含んで成る。本発明材料の投与、例えば硝子体内または眼周囲(または、それほど好ましくないが局所)投与は、前房に有意に影響を及ぼさずに後眼症状を処置するのに有効でありうる。本発明の材料は、網膜の炎症および浮腫を処置するのに特に有用となりうる。本発明材料の投与は、ブドウ膜、硝子体、網膜、脈絡膜、網膜色素上皮を包含する1つ以上の眼の後部構造物に、GDを送達するのに有効である。
【0150】
シリンジ器具を使用して本発明材料を投与する場合、器具は、適切なサイズの針、例えば27ゲージ針または30ゲージ針を有しうる。そのような器具は、ヒトまたは動物の眼の後区または眼周囲領域に本発明材料を注入するのに効果的に使用できる。針は、針の除去後に自己封止する開口を与えるのに充分な細さでありうる。
【0151】
本発明の方法は、眼の後区への単回注射を含んで成ってよく、または、例えば約1週間または約1ヶ月間または約3ヵ月間ないし約6ヶ月間または約1年間以上の期間にわたる反復注射を含んで成ってもよい。
【0152】
本発明の材料は、好ましくは、滅菌形態で患者に投与される。例えば、本発明の材料は貯蔵時に滅菌されていてよい。好適な任意の常套滅菌法を使用して、本発明材料を滅菌しうる。例えば、放射線を使用して本発明材料を滅菌しうる。好ましくは、滅菌法は、本発明システムの処置剤の活性または生物学的もしくは処置的活性を減少させない。
【0153】
本発明材料は、γ線照射によって滅菌できる。例えば、2.5〜4.0mradのγ線照射によって、薬物送達システムを滅菌できる。薬物送達システムは、投与器具、例えばシリンジアプリケーターを含む最終一次包装システムにおいて、最終的に滅菌できる。あるいは、薬物送達システムを単独で滅菌し、次に、アプリケーターシステムに滅菌包装することもできる。この場合、アプリケーターシステムを、γ線照射、エチレンオキシド(ETO)、加熱または他の手段によって滅菌できる。薬物送達システムは、低温でのγ線照射によって滅菌して安定性を高めることができ、または、アルゴン、窒素または他の手段によってガスシールして酸素を除去することができる。β線照射または電子線、また紫外線照射を使用して、インプラントを滅菌してもよい。任意の線源からの照射線量は、薬物送達システムの初期微生物量に依存して低くすることができ、2.5〜4.0mradよりかなり低くしうる。薬物送達システムは、無菌条件下に、滅菌出発成分から製造しうる。出発成分は、加熱、照射(γ、β、UV)、ETOまたは滅菌濾過によって滅菌しうる。半固体ポリマーまたはポリマー溶液は、薬物送達システムの形成およびGDの組込み前に、加熱滅菌濾過によって滅菌しうる。次に、滅菌ポリマーを使用して、滅菌薬物送達システムを無菌製造することができる。
【0154】
本発明の別の態様において、下記を含んで成る眼症状の処置用キットを提供する:a)本明細書に記載されているGDを含んで成る容器、例えばシリンジまたは他のアプリケーター;および、b)使用説明書。使用説明書は、材料の取扱い方法、材料の眼領域への挿入方法、材料の使用により予期されることがらを含みうる。容器は、単一用量のGDを含有しうる。
【0155】
実施例
以下の実施例は、本発明の態様を例示するものである。
【実施例1】
【0156】
水性GD製剤の生体内投与
液体グルココルチコイド誘導体製剤を使用して、生体内(ウサギの眼)実験を行なった。組換え血管内皮成長因子(VEGF)を供給業者(R&D Systems)から得た。雌ダッチベルトウサギに、イソフルラン吸入および局所0.5%塩酸プロパラカインで麻酔し、0.1%ウシ血清アルブミンを含有する滅菌燐酸塩緩衝生理食塩液(PBS)中のVEGF 500ngの硝子体内注射を、28ゲージ1/2インチ針で片方の眼に行なった。もう一方の眼には、VEGFを含まない同量のビヒクルを投与した。
【0157】
血液網膜関門および血液房水関門のVEGF誘発BRBおよびBAB崩壊の程度を、硝子体内注射後の種々の時間において、走査眼フルオロフォトメトリー(Fluorotron Master, Ocumetrics Inc.)によって測定した。このモデルにおいて、蛍光標識を静脈内投与し、次に、フルオレセインの前区および後区における量、ならびに虹彩および網膜漏出の兆候をそれぞれ測定する。
【0158】
正常状態において、血液網膜関門および血液房水関門は、血液中の溶質が硝子体に(および、それより幾分少ないが極めて有意な程度に、房水に)浸潤するのを防止する。これに対して、網膜疾患、例えば、黄斑変性、網膜症、黄斑浮腫、網膜血管新生等の存在において、網膜組織への血液漏出があり、蛍光トレーサーが硝子体および房水において見られる。VEGF注射は、この病的状態を模倣している。
【0159】
図2は、硝子体内VEGF注射の2日(48時間)後の片方の眼の、ウサギ網膜および虹彩のフルオレセイン漏出(任意蛍光単位)の代表的トレースを示す。生理食塩液1mL中のフルオレセインナトリウムを、50mg/kgの濃度で、耳介静脈に注射し、硝子体網膜腔および前房における眼フルオレセインレベルを50分後に測定した。
【0160】
正常非処置ウサギ眼と比較して、VEGFは、硝子体に含有されるフルオレセインの約18倍の増加、および房水に含有されるフルオレセインの約6倍の増加を生じ、これはそれぞれ、網膜漏出を生じる血液網膜関門(BRB)の崩壊、および虹彩漏出を生じる血液房水関門(BAB)の崩壊を反映する。
【0161】
これらの両反応は、コルチコステロイド(デキサメタゾン、トリアムシノロンおよびベクロメタゾン)を全身的または硝子体内に投与した場合に、完全に阻止された。下記、および参照により本明細書に組み入れられるEdelmanら、EXP. EYE RES. 80:249-258(2005)参照。このように、ステロイド処置後に、前房および後房の両方が、VEGF処置後のフルオレセイン漏出を有さず、これは、ステロイドが両眼房に有効に浸潤しうることを示す。
【0162】
5つのコルチコステロイド(デキサメタゾン、トリアムシノロン、フルチカゾンプロピオネート、ベクロメタゾンジプロピオネートおよびベクロメタゾン)を、Sigma-Aldrich Co.から購入し、このモデルシステムにおいて評価した。組合せにおいて、これらの化合物は最高水溶性〜最低水溶性のほぼ3対数単位(1000倍)の溶解度範囲、および1.95〜4.4の親油性係数(log P)範囲を規定する。
【0163】
10mgの各化合物を、1mLの滅菌燐酸塩緩衝生理食塩液(PBS;pH7.4)に添加する。第0日に、各ステロイドの10mg/mL懸濁液100μLを、ウサギの眼の硝子体に注射する。PBSビヒクルを、もう一方の眼に注射する。次に、VEGFを所定時間(1ヵ月)後に注射し、BRBおよびBAB崩壊を、Edelmanら、EXP. EYE RES. 80:249-258(2005)(その全内容は参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように48時間後に走査眼フルオロフォトメトリーによって測定した。
【0164】

【0165】
理解されるように、被験化合物のうちデキサメタゾン(DEX)は、5つの被験化合物の中で最も高い水溶性(100mg/mL)および最も低い親油性(log P=1.95)を有していた。PBS 100μLに懸濁した結晶デキサメタゾン1mgの硝子体内注射後に、デキサメタゾンは、後区および前区の両方への、静脈内フルオレセインのVEGF誘発漏出を完全に阻止した。このことは、硝子体内投与デキサメタゾンが後区および前区の両方に存在して、それぞれBRB崩壊およびBAB崩壊を阻止することを示す(図3)。BABは、BRBと比較して一般に相対的に漏出性であるので(図1参照)、デキサメタゾンで処置したウサギ眼の前房にいくらかの残留蛍光が観察される。
【0166】
この結果は、硝子体内投与デキサメタゾンが、硝子体内の結晶デポー剤から両方向に(網膜血管系に向かって後方に、および虹彩に向かって前方に)容易に拡散することを示している。これらの特徴により、両組織内で薬理的活性レベルがもたらされる。
【0167】
デキサメタゾンを用いた結果と同様に、水性懸濁液100μLに含有され、硝子体に注射された1mgのトリアムシノロンアセトニドも、VEGF誘発BRBおよびBAB崩壊を完全に阻害した(図4)。
【0168】
非置換グルココルチコイドの作用の最後の例として、水性ベクロメタゾン10mg/mL懸濁液100μLを、前記のようにウサギの眼の硝子体に注射し、次に、VEGFを注射した。デキサメタゾンおよびトリアムシノロンと同様に、ベクロメタゾンもVEGF誘発BRBおよびBAB崩壊を阻害した(図5)。
【0169】
これに対して、フルチカゾンプロピオネート(水溶性0.14mg/mL;log P=4.2)の10mg/mL懸濁液100μLのウサギの眼への硝子体内注射、次に、VEGFの硝子体内投与は、BRB崩壊を完全に阻止したが、BAB崩壊には作用を有さなかった(図6)。この結果は、硝子体内配置薬物が処置有効濃度で硝子体から網膜に向かって後方に拡散できるが、そのような濃度で後房から前房に拡散できないことを示している。
【0170】
同様に、別の低水溶性化合物ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(0.13mg/mL;log P=4.4)(BDP)も、VEGF誘発BRB崩壊を完全に阻止したが、BAB崩壊には作用を有さなかった(図7)。さらに、100μLの10mg/mL硝子体内ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネートは、VEGF仲介反応を3ヵ月より長く完全に阻害した。
【0171】
これらの結果は、1つ以上の疎水性C17および/またはC21置換(この場合、アシルモノエステル官能基、例えばプロピオネート)を有するGDは、減少した水溶性、増加した親油性を有し、主としてまたは専ら後区に関与する眼疾患、または前房要素を有さないかまたはほとんど有さない眼疾患を処置するための硝子体内送達用の優れたファーマコフォアであることを示している。従って、これらの化合物の硝子体内投与は、白内障、高IOPおよびステロイド誘発緑内障のような前区副作用をほとんど示さないか、減少させるか、または抑制する。これらの化合物の具体例は、下記の化合物である:デキサメタゾン17-アセテート、デキサメタゾン17,21-アセテート、デキサメタゾン21-アセテート、クロベタゾン17-ブチレート、ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート、フルチカゾン17-プロピオネート、クロベタゾール17-プロピオネート、ベタメタゾン17,21-ジプロピオネート、アルクロメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17-プロピオネート、ハロベタゾール17-プロピオネート、ベタメタゾン17-バレレート。これらの化合物は、乾燥型および滲出型ARMD、糖尿病性黄斑浮腫、増殖性糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎および眼腫瘍を包含するがそれらに限定されない後眼疾患の処置において、既存処置法と比較して有意な改善を与えうる。
【実施例2】
【0172】
固体GDインプラント
生分解性薬物送達システムは、ステンレス鋼乳鉢において、GDを生分解性ポリマー組成物と合わすことによって作製できる。合わしたものを、96RPMに設定したTurbulaシェーカーによって15分間混合する。粉末ブレンドを乳鉢の内壁からこすり取り、次に、さらに15分間再混合する。混合した粉末ブレンドを、特定温度で合計30分間わたって半溶融状態に加熱し、ポリマー/薬物メルトを形成する。
【0173】
ロッドを製造するには、9ゲージポリテトラフルオロエチレン(PTFE)管を使用して、ポリマー/薬物メルトをペレット化し、ペレットをバレルに装填し、材料を特定コア押出温度でフィラメントに押出す。次に、フィラメントを、約1mgの大きさのインプラントまたは薬物送達システムにカットする。ロッドは、約2mm長さ x 0.72mm直径の寸法を有する。ロッドインプラントの重さは約900μg〜1100μgである。
【0174】
ウエハは、ポリマーメルトを特定温度においてCarverプレスで平板化し、平板材料をそれぞれ約1mgのウエハにカットすることによって形成される。ウエハは、直径約2.5mm、厚さ約0.13mmである。ウエハインプラントの重さは約900μg〜約1100μgである。
【0175】
試験管内放出試験を、各ロットのインプラント(ロッドまたはウエハ)について行なうことができる。各インプラントを、37℃の燐酸塩緩衝生理食塩液10mLを含有する24mLのねじ蓋バイアルに入れ、第1日、第4日、第7日、第14日、第28日およびその後2週間ごとに、1mLアリコートを取り、同量の新しい媒質と交換する。
【0176】
薬物分析をHPLCによって行なうことができ、該HPLCは、Waters 2690分離モジュール(または2696)、およびWaters 2996フォトダイオードアレイ検出器から成る。30℃で加熱したUltrasphere, C-18(2), 4.6 x 150mmカラムを分離に使用でき、検出器は264nmに設定できる。移動相は、(10:90)MeOH-緩衝移動相で、流速1mL/分、全ラン時間12分/試料であってよい。緩衝移動相は、(68:0.75:0.25:31)13mM 1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム塩/氷酢酸/トリエチルアミン/メタノールを含んで成ってよい。放出速度は、時間の経過に伴って、所定量の媒質に放出された薬剤の量(□g/日)を計算することによって測定できる。
【0177】
インプラント用に選択されるポリマーは、例えば、Boehringer IngelheimまたはPurac Americaから入手できる。ポリマーの例は、RG502、RG752、R202H、R203およびR206、ならびにPurac PDLG(50/50)である。RG502は、(50:50)ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)であり;RG752は、(75:25)ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)であり;R202Hは、酸末端基または末端酸基を有する100%ポリ(D,L-ラクチド)であり;R203およびR206は、両方とも100%ポリ(D,L-ラクチド)である。Purac PDLG(50/50)は、(50/50)ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)である。RG502、RG752、R202H、R203、R206およびPurac PDLGの固有粘度は、それぞれ、0.2、0.2、0.2、0.3、1.0および0.2dL/gである。RG502、RG752、R202H、R203、R206およびPurac PDLGの平均分子量は、それぞれ、11700、11200、6500、14000、63300および9700ダルトンである。
【実施例3】
【0178】
2回押出固体GDインプラントの製造
2回押出法もGDインプラントの製造に使用しうる。そのようなインプラントは、下記のように、そして、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/918597号に記載のように、製造できる。
【0179】
30gのRG502を、ジェットミル(振動フィーダー)によって、プッシャーノズル、粉砕ノズルおよび粉砕ノズルについて、ぞれぞれ60psi、80psiおよび80psiの粉砕圧力で粉砕した。次に、60gのRG502Hを、ジェットミルによって、プッシャーノズル、粉砕ノズルおよび粉砕ノズルについて、ぞれぞれ20psi、40psiおよび40psiの粉砕圧力で粉砕した。RG502およびRG502Hの平均粒度は、TSI 3225 Aerosizer DSP粒度分析器によって測定される。両方の粉砕ポリマーは、20μm以下の平均粒度を有する。
【0180】
GDおよびPLGAのブレンディング:
48gのベクロメタゾンジプロピオネート(「DP」)、24gの粉砕RG502Hおよび8gの粉砕RG502を、96RPMに設定したTurbulaシェーカーで60分間ブレンドする。最初の押出のために、ブレンドした全80gのDP/RG502H/RG502混合物を、Haake二軸スクリュー押出機のホッパーに装填する。次に、Haake押出機を作動させ、下記のパラメーターを設定する:
バレル温度: 105℃
ノズル温度: 102℃
スクリュー速度: 120RPM
供給量設定: 250
ガイドプレート温度: 50〜55℃
循環水浴: 10℃
【0181】
押出フィラメントを収集する。第一フィラメントは、粉末ブレンドの装填後約15〜25分で押出を開始する。これらの設定で最初の5分間に押し出されたフィラメントを廃棄する。残りのフィラメントを、押出物がなくなるまで収集し、これは通常、3〜5時間を要する。
【0182】
得られたフィラメントを、96RPMに設定したTurbulaシェーカーおよび1個の19mmステンレス鋼球で5分間ペレット化する。
【0183】
第二押出において、先の段階からの全てのペレットを、同じホッパーに装填し、Haake押出機を作動させる。
押出機は下記のように設定される:
バレル温度: 107℃
ノズル温度: 90℃
スクリュー速度: 100RPM
ガイドプレート温度: 60〜65℃
循環水浴: 10℃
【0184】
全ての押出フィラメントを、押出物がなくなるまで収集する。これは、通常、約3時間を要する。バルクフィラメントを、所望の投与強度、例えば350μgおよび700μgを与えるように、適切な長さにカットする。単回または2回押出インプラントは、それぞれ下記の表1および表2に示される特徴を有する。
【0185】
【表1】

(1)目標重量のパーセンテージ
【0186】
【表2】

【実施例4】
【0187】
固体GDインプラントを用いる黄斑浮腫の治療
嚢胞性黄斑浮腫と診断された58歳男性を、患者の各眼への生分解性薬物送達システムの投与によって治療する。約1000μgのPLGAおよび約1000μgのベクロメタゾンジプロピオネートを含有する2mgの硝子体内インプラントを、男性の左眼の、視覚を妨害しない位置に配置する。同様のインプラントを、患者の右眼に、結膜下投与する。より急速な右眼の網膜厚さの減少は、インプラントの位置およびステロイドの活性によるものと考えられる。外科的処置から約3ヵ月後、男性の網膜は正常に見え、視神経の変性が減少したように見える。投与から1週間後に、眼内圧の増加は見られない。
【実施例5】
【0188】
粘性GD製剤を用いるARMDの治療
滲出型加齢性黄斑変性を有する62歳女性を、約1000μgのフルチカゾンプロピオネート結晶を懸濁状態で含有する100μLのヒアルロン酸溶液の硝子体内注入によって治療する。投与後1ヵ月以内に、患者は、血管新生および関連炎症の割合の満足できる減少を示す。患者は生活の質の全般的向上を報告する。
【実施例6】
【0189】
PLGAインプラントからのBDPの試験管内放出
2005年4月29日に出願された米国特許出願第11/118288号の実施例9は、種々のポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(「PLGA」)ポリマーおよびステロイドのベクロメタゾンジプロピオネート(「BDP」)を含んで成るインプラントを製造する溶融押出法を特に開示している。米国特許出願第11/118288号の実施例9は、37℃における、0.1%セチルトリメチルアンモニウムブロミドを含有するクエン酸燐酸緩衝液(CTAB緩衝液、pH5.5)への、PLGAインプラントからのBDPの28日間にわたる試験管内放出も開示している。該出願第11/118288号の図25は、5つのインプラントからのBDPの試験管内放出を示しており、各インプラントは50wt%BDPを含有するが、それぞれ異なるPLGAポリマーを使用して製造されている。
【0190】
該出願第11/118288号の実施例9および図25に示されている結果に加えて、本願の図8に示されているように、CTAB緩衝液へのBDPの試験管内放出を28日以上(即ち、93日まで)観察した場合に、以下のことが分かった:(1)752-50インプラントは、35〜93日の観察期間にわたって線形(一次)BDP放出動態を示し;(2)504-50インプラントも、28〜93日の観察期間にわたって線形BDP放出を示したが、504-50インプラントからのBDPの放出速度は、752-50インプラントからのBDPの放出速度より速かった。より速い放出速度は、生体内において、標的網膜組織に対してBDP活性剤のより速い利用能を生じることができ、それによってより速い処置反応が得られる。これらのPLGAインプラントによって示されたBDPの長期間の線形放出は、予想外であり、米国特許出願第11/118288号の図25に示されている28日の観察期間から得られたデータに照らして予測できないことであった。さらに、そのように長期間にわたりBDPが直線的に滑らかに少しずつ放出されることは、有害事象(例えば、高IOPまたは白内障形成)の低発生率での眼症状(例えば、後眼症状)の安全かつ有効な処置における、そのようなインプラントの有用性を示唆している。従って、インプラント752-50および504-50は、下記の実施例7に記載の生体内試験におけるさらなる実験用に選択された。
【実施例7】
【0191】
BDP-PLGAインプラントを使用する眼症状の処置
序説:
誘発眼症状の処置における硝子体内埋め込みベクロメタゾンジプロピオネート(「BDP」)含有PLGAインプラントの有効性を測定し、かつ、PLGAインプラントから放出されるBDPの哺乳動物眼における活性期間を測定するために、実験を行なった。
【0192】
硝子体内BDP処置の有効性および作用期間を、下記文献に記載のように、VEGF仲介血液網膜関門(「BRB」)崩壊、網膜浮腫および血液眼房関門(「BAB」)崩壊のウサギモデルを使用して生体内で評価した:Edelman J.ら、Corticosteroids Inhibit VEGF-Induced Vascular Leakage in a Rabbit Model of Blood-Retinal and Blood-Aqueous Barrier Breakdown, Experimental Eye Research, 80:249-258, 2005。
【0193】
この実験は、下記の有利な特性を有し、硝子体内送達後にBRB崩壊/網膜浮腫または脈絡膜血管新生のような網膜病変を選択的に処置できる特定コルチコステロイドとして、BDPを同定した:同用量の類似した抗炎症ステロイド、例えばトリアムシノロンアセトニドの硝子体内投与(同用量の類似した抗炎症ステロイドが、水性製剤においてまたは持続放出製剤として、硝子体内送達される)と比較して、前房のBDPへの暴露が最小限であり、またステロイド誘発白内障および高眼圧(高前房圧)の発生率が低い。理論に縛られるものではないが、特定のコルチコステロイド(グルココルチコイド)BDPは、硝子体内投与した場合に、極めて低い水溶性、高いlog P、および硝子体液のような水性媒質におけるBDPの遅い溶解速度により、これらの有利な特性を有すると考えられる。
【0194】
概説:
雌ダッチベルトウサギ(5〜6月齢)の片方の眼を、第0日に、BDP-PLGA製剤504-50(n=6動物)または752-50(n=6動物)で外科的埋め込みによって処置した。反対側の眼には擬似的外科処置を行なった。VEGF165を、+2週間および+6週間の時点において、埋め込みした眼および擬似的外科処置した眼の両方に、硝子体内注射した。
【0195】
詳説:
ウサギを、ケタミン50mg/kgおよびキシラジン10mg/kgの皮下注射によって麻酔した。眼表面を、1〜2滴の1%プロパラカインで麻酔した。眼瞼を開くために、ワイヤー開瞼器を挿入した。埋め込みのために眼を適切な位置に配置するために、縫合糸を眼上直筋に配置して留めた。巾着縫合糸を所定位置に配置し、12ブレードメスを使用して、結膜および強膜をカットした。次に、鉗子を使用して、この穴からポリマーインプラントを挿入し、次に、この穴を巾着縫合糸で閉じ、結膜を直線縫合で閉じた。擬似手術を、各ウサギの反対側の眼に行なった。
【0196】
血液網膜関門崩壊のEdelmanら2005のモデルを使用して、どちらかのBDPポリマー製剤のインプラント注入後の薬理学的作用期間を測定した。2週間後および6週間後の測定終点の2日前に、滅菌燐酸塩緩衝生理食塩液50μL中の、組換えヒト血管内皮成長因子(165アミノ酸変異体;VEGF165)500ngを、27G針で全ての眼に硝子体内注射した。VEGF注射から48時間後に、眼を10%フェニレフリンHClおよび1%シクロペントレートHClで散瞳させた。ケタミン50mg/kgおよびキシラジン10mg/kgの皮下注射によって麻酔をかけた。麻酔をかけた後、ウサギ眼底をZeiss網膜カメラで可視化し、眼底画像を得、パソコンに保存した。フルオレセインナトリウムを静脈内投与し(11.75mg/kg)、5〜10分後に後期相血管造影図を得た。フルオレセイン注射後50分において、血液網膜関門および血液房水関門完全性を、走査眼フルオロフォトメトリー(Fluorotron Master)によって測定した。反対側の眼に対する全身的作用の可能性のために、製剤を、非処置動物VEGF165対照と比較した。
【0197】
眼底画像を、3人のマスクされた観察者によって、等級1(正常)〜5(重度血管蛇行および大きい血管内径)で等級付けした。網膜フルオレセイン漏出を、マスクされた観察者によって、血管造影図から、等級1(フルオレセイン漏出なし=正常)〜5(最大フルオレセイン漏出)で等級付けした。血管造影図および眼底画像評点を、ノンパラメトリック・ウィルコクソン順位和/マンホイットニーU検定で比較した。フルオロフォトメトリー測定値(曲線下面積)を、両側スチューデントt検定で比較した。0.05未満のP値を有意と判断した。
【0198】
結果:
1.対照と比較して、BDP-PLGAインプラント製剤504-50で処置した眼は、2週間目における血管造影的漏出の完全な(約100%)阻害、および2週間目における硝子体網膜蛍光のほぼ完全な(約80%)阻害を示した。6週間目において、504-50で処置した眼は、血管造影的漏出および硝子体網膜フルオレセイン漏出の両方の完全な(約100%)阻害を示した。2週間目および6週間目の両方において、VEGF誘発網膜血管蛇行および内径の部分的(約50%)抑制が見られた。さらに、BDP-PLGAインプラント製剤504-50は、2週間目および6週間目の両方において、前房蛍光をほぼ完全に(約80〜100%)阻害した。
【0199】
2.対照と比較して、BDP-PLGA製剤752-50で処置した眼は、2週間目における血管造影的漏出の完全な(約90〜100%)阻害、および2週間目における硝子体網膜蛍光のほぼ完全な(約80%)阻害を示した。6週間目において、752-50は、血管造影的漏出を部分的に(約50%)阻害し、硝子体網膜フルオレセイン漏出をほぼ完全に(約100%)阻害した。2週間目および6週間目の両方において、752-50処置眼は、網膜血管蛇行および内径の有意であるが部分的な(40〜80%)抑制を示した。さらに、752-50は、2週間目において、前房蛍光を部分的に(約50%)阻害した。
【0200】
この試験は、コルチコステロイド(例えばBDP)が、眼症状、例えば、黄斑浮腫(糖尿病性網膜症に関連した黄斑浮腫を包含する)、増殖性糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、乾燥型および滲出型の加齢性黄斑変性を処置するのに有用でありうることを示した。
【実施例8】
【0201】
粘性BDP製剤
BDPおよび高分子量ポリマーヒアルロン酸(「HA」)の製剤を下記のように作製した。
【0202】
製剤A、BおよびC:
2%HA 1mLにつき6mg、3mgまたは1.5mgのBDPをそれぞれ含有する粘性HA製剤A、BおよびCを、下記のように作製した。BDPおよび燐酸塩緩衝生理食塩液(pH7.4)(「PBS」)を、Sigma Chemicalsから得た。2%HAゲルを、100mgのHA(Hyaluronから入手;使用したHAの平均分子量は140万ダルトンであった)と5mLのPBSとの混合によって調製した。2%HA中6mg/mL、3mg/mLおよび1.5mg/mLの分散液を、それぞれ、6mgのBDP、3mgのBDPまたは1.5mgのBDPと、1mLの2%HAゲルとの混合によって調製した。
【0203】
2%HAゲル中のBDP 6mg/mL(製剤A)、2%HAゲル中のBDP 3mg/mL(製剤B)、および2%HAゲル中のBDP 1.5mg/mL(製剤C)の分散液の50μLのアリコートは、それぞれ、300μgのBDP、150μgのBDP、および75μgのBDPを含有していた。
【0204】
製剤DおよびE:
表3に示す成分を含有するさらなる粘性HA製剤DおよびEを作製した。
【表3】

【0205】
製剤Dを実施例7の実験に使用した。製剤Eは、より高い粘度約224,000cps〜約300,000cpsを有するので、臨床使用に好ましい製剤である。最も好ましいのは、製剤Eの0.5wt%、1.0wt%および8wt%BDPバージョンである。
【0206】
Clemex Technology顕微鏡的手法を使用して、これらの製剤に使用したBDP粒子の80%が約6ミクロン以下の長さを有し、BDP粒子の約60%が約4ミクロン以下の長さを有し、BDP粒子の約90%が約4ミクロン以下の幅を有することが分かった。
【0207】
製剤Dの製造法:
ナトリウムヒアルロン酸(Hyaluron, Inc., Burlington, MA、発酵ナトリウムヒアルロン酸;平均分子量約140万ダルトン)を、蒸留脱イオン水を用いて作製した等張燐酸塩緩衝生理食塩液(pH7.4)に添加して、2%分散液を作製した。次に、分散液を0.2μmフィルターで滅菌濾過した。層流フード内で、18ゲージ針およびシリンジを用いて、BDPをそのゲルに混合し、均質化した。
【0208】
製剤Eの製造法:
パート1:
蒸留脱イオン水中のBDPの10%w/wスラリーを調製した。スラリーを121℃で45分間オートクレーブ処理した。
【0209】
パート2:
NaH2PO4-H2O、Na2HPO4-7H2Oおよび塩化ナトリウムを蒸留脱イオン水に添加し、溶液にした。次に、溶液をpH6.8に調節し、滅菌濾過した。パート1および2を合わし、2.5%w/w滅菌ヒアルロン酸粉末(Genzyme Corp, Cambridge, MA、滅菌ヒアルロン酸ナトリウム、平均分子量約190万ダルトンを有するEP等級)を添加した。そのゲルを6時間撹拌した。
【0210】
実施例8の組成物は、組成物の眼内注射時にゼラチン状のプラグまたは薬物デポーを形成するのに充分な濃度の、高分子量(即ち、ポリマー)ヒアルロン酸ナトリウムを含有する。好ましくは、使用されるヒアルロン酸塩の平均分子量は、約200万未満であり、より好ましくは、使用されるヒアルロン酸塩の平均分子量は約130万〜190万である。HAが生分解するまで、BDP粒子はこのヒアルロン酸塩の粘性プラグ内に捕捉または保持され、それによって、BDP-HA粘性製剤の眼内注射後に望ましくないプルーミング(pluming)が生じない。従って、例えばKenalog(登録商標)40のような水様粘性を有する組成物を使用した場合と比較して、BDP粒子が不都合に網膜組織に直接的に沈降するリスクが実質的に減少する。ヒアルロン酸ナトリウム溶液は劇的な剪断減粘(shear thinning)を受けるので、これらの製剤は27ゲージ、さらには30ゲージ針で容易に注射できる。
【0211】
実施例8および9の製剤に最も好ましい粘度は、25℃において0.1/秒の剪断速度において約300,000cpsである。
【実施例9】
【0212】
粘性BDP-HA製剤を用いる眼症状の処置
実験:
ヒアルロン酸ゲル製剤から放出される硝子体内ベクロメタゾンジプロピオネート(「BDP」)の、哺乳動物の眼における、誘発眼症状の処置有効性および活性期間を測定する実験を行なった。
【0213】
概説:
雌ダッチベルトウサギ(5〜6月齢)に、2%ヒアルロン酸ゲル(ビヒクル)、または2%ヒアルロン酸ゲル中300μg、150μg、75μg用量のBDP(それぞれ実施例8の製剤A、BおよびC)の、50μL硝子体内注射を行なった。薬物またはビヒクル投与の10日後に、全ての眼に硝子体内VEGF165注射を行ない、48時間後(第12日)に、薬理活性を、眼底写真、血管造影およびフルオロフォトメトリーによって測定した。
【0214】
詳説:
ウサギをイソフルラン吸入によって不動化し、1〜2滴の1%プロパラカインで眼表面麻酔した。動物を加熱パッドに置き、滅菌した布をかぶせた。眼をベタジン消毒剤で30秒間満たし、次に、滅菌生理食塩液で濯いだ。BDP-HAまたはHAビヒクルを30G針で注射した。針は、縁の約3mm後方に挿入し、下方後方に向けた。注射後、針をゆっくり除去して、BDPまたは硝子体漏出を最小限にした。
【0215】
血液網膜関門崩壊のEdelmanら2005のモデルを使用して、投与された3つのBDP-HA製剤の最少薬理活性用量を決定した。化合物の注射から4時間後に、50μL滅菌PBS中の500ng組換えヒト血管内皮成長因子-165(VEGF165)を、28G針で全ての眼に硝子体内注射した。
【0216】
VEGF注射から48時間後に、瞳孔を10%フェニレフリンHClおよび1%シクロペントレートHClで拡張した。ケタミン10mg/kgおよびキシラジン3mg/kgの静脈注射によって麻酔し、Zeiss網膜カメラを使用して眼底画像を得、パソコン(PC)に保存した。フルオレセインナトリウムを静脈内投与し(11.75mg/kg)、5〜10分後に後期相血管造影図を得、PCに保存した。
【0217】
一連の標準反応を前もって発生させ、3人のマスクされた観察者に画像を見せて、眼底画像における血管拡張/蛇行および血管造影図におけるフルオレセイン漏出の重症度について、等級1(正常)〜5(最も重度)で等級付けした。
【0218】
血管造影図および眼底画像によって示された反応の統計学的有意性を、対応のないノンパラメトリック・ウィルコクソン順位和/マンホイットニーU検定を使用して比較した。
【0219】
結果:
1.対照と比較して、2%HAゲル中のBDP用量75μg、150μgまたは300μgの硝子体内注射で処置した眼は、+12日における血管造影的漏出の完全な阻害(約90〜100%;300μg用量レベルにおいては100%阻害)、および、BDP用量300μgによる+30日における血管造影的漏出のほぼ完全な阻害(約90%)を示した。
【0220】
2.対照と比較して、2%HAゲル製剤中のBDP用量300μgの硝子体内注射で処置した眼は、+30日における網膜血管蛇行および内径の完全な(約90〜100%)抑制を示し、2%HAゲル中のBDP50μg中のBDP用量150μgで処置した眼は、+30日における網膜血管蛇行および内径のほぼ完全な(約80%)抑制を示した。
【0221】
この実験は、ヒアルロン酸(2%HA)および全てのBDP用量(BDP-HA)が、充分に忍容性であり、薬物またはビヒクル関連眼副作用または毒性を有さないことを示した。75〜300μg以上の用量で注射された硝子体内BDP-HAは、VEGF誘発血管造影的網膜フルオレセイン漏出の統計的に有意な阻害を示し、これらの用量で注射されたBDP-HAは、VEGFで誘発された網膜血管拡張および血管蛇行の増加も有意に抑制する。
【0222】
この実験は、コルチコステロイド(例えばBDP)が、眼症状、例えば、黄斑浮腫(糖尿病性網膜症に関連した黄斑浮腫を包含する)、増殖性糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、乾燥型および滲出型の加齢性黄斑変性を治療するのに有用でありうることを示した。
【実施例10】
【0223】
架橋ヒアルロン酸製剤
ヒアルロン酸水溶液の粘度は、使用されるヒアルロンモノマーの分子量、使用されるヒアルロンの濃度、使用されるモノマーの架橋密度、および使用される架橋剤の種類を包含する多くの要因に依存する。
【0224】
1)分子量
線状(非架橋)ヒアルロン酸の分子量は、約10,000〜20,000,000で変化しうる。静止状態において、HAポリマーは丸まり、高レベルの分子間絡み合いが存在し、これは、強い水素結合の存在と共に、高粘性溶液および有効なゲルを形成しうる。
【0225】
2)濃度
非架橋HAは、明らかに濃度依存性である粘度(即ち、分子間絡み合いおよび水素結合)のみによって、そのマトリックスに捕捉された薬物分子の拡散を遅らせうる。
【0226】
3)架橋密度
しかし、架橋HAの場合は、薬物粒子を、2次元または3次元網状構造によって効果的に捕捉することができる。使用されるHAゲルは、かなり多孔性の網状構造を有する。しかし、架橋HAゲルは、非溶解薬物粒子を捕捉することができる。架橋によって、HA、および捕捉された薬物粒子に、HAにおける一層長い滞留時間がもたらされる。ミクロスフェアおよび微粒子も架橋ゲルに捕捉することができ、HAからのデポーおよび微粒子の制御放出という利点が得られる。薬物の大きさが架橋HA構造の「孔寸法」より大きければ、薬物はマトリックスから出られず、HA主鎖が分解するかまたは架橋結合が化学的または酵素的反応によって切断されるまで待たなければならない。従って、低レベルの架橋(約5〜10%)を有する低分子量HAは、ペプチドおよび神経毒のような巨大分子を捕捉するのに極めて有効になりうる。小分子薬物の場合は、より高い架橋密度(20〜40%)が必要となりうる。
【0227】
4)架橋剤
HAのヒドロキシル基を結合させるのに使用できる多くの異なる種類の架橋剤があり、それらはエポキシド、ジビニルスルホン、カルボニル化剤、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドを包含する。
【0228】
架橋ヒアルロン酸製剤は、下記のように調製できる:
1)1gの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを、10gのヒアルロン酸(mw: 500,000)を含有する1Lの水溶液に添加し、撹拌しながらpH12に調整する。反応混合物を60℃で45分間インキュベートし、氷酢酸で中和する。得られた架橋HAは、約10%の架橋密度を有する。GD、例えばBDPを、架橋ヒアルロン酸に添加することができる。あるいは、塩化ナトリウム9mg、ヒトアルブミンUSP 5mg、および1,000マウスLD50単位のボツリヌス毒素A型複合体を含有する水溶液1mLに、10mgの架橋HAを添加する。最終溶液を6mLのI型ガラスバイアルにおいて凍結乾燥し、使用準備まで冷蔵庫に保存する。
【0229】
2)1gのジビニルスルホンを、10gのヒアルロン酸(mw: 200,000)を含有する500mLの水溶液に添加し、撹拌しながらpH14に調整する。反応混合物を40℃で8時間インキュベートし、氷酢酸で中和する。得られた架橋HAは、約7%の架橋密度を有する。GD、例えばBDPを、架橋ヒアルロン酸に添加することができる。あるいは、塩化ナトリウム9mg、ヒトアルブミンUSP 5mg、および1,000マウスLD50単位のボツリヌス毒素A型複合体を含有する水溶液1mLに、20mgの架橋HAを添加する。最終溶液を6mLのI型ガラスバイアルにおいて凍結乾燥し、使用準備まで冷蔵庫に保存する。
【0230】
本明細書に引用されている全ての文献、論文、刊行物、特許および特許出願に記載の内容は全て、参照により本明細書に組み入れられる。
本発明を、種々の特定の実施例および実施形態に関して説明したが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲内でさまざまに実施しうるものと理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グルココルチコイド誘導体(GD)であって、GDを後眼房に投与した際に、生物学的有意量のGDの前眼房への拡散を防止するのに有効な構造を有するグルココルチコイド誘導体;および
(b)生分解性ポリマーであって、インビトロで、該ポリマーから処置量のGDが線形放出速度で放出される生分解性ポリマー、
を含んで成る、固体眼用組成物。
【請求項2】
線形放出速度が少なくとも約50日間持続する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
GDが2.53より高い親油性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
GDが10μg/mLより低い水溶性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
GDが、デキサメタゾン17-アセテート、デキサメタゾン17,21-アセテート、デキサメタゾン21-アセテート、クロベタゾン17-ブチレート、ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP)、フルチカゾン17-プロピオネート、クロベタゾール17-プロピオネート、ベタメタゾン17,21-ジプロピオネート、アルクロメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17-プロピオネート、ハロベタゾール17-プロピオネート、およびベタメタゾン17-バレレート、ならびにそれらの塩、エステル、誘導体および組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
生分解性ポリマーが、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマー(PLGA)、ポリ-乳酸(PLA)、ポリ-グリコール酸(PGA)、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスフェートエステル)、ポリカプロラクトン、ゼラチンおよびコラーゲン、ならびにそれらの誘導体および組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
(a)ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP);および
(b)ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマー(PLGA)、
を含んで成る、眼用組成物。
【請求項8】
(a)グルココルチコイド誘導体(GD)であって、GDを後眼房に投与した際に、生物学的有意量のGDの前眼房への拡散を防止するのに有効な構造を有するグルココルチコイド誘導体;および
(b)生分解性粘度誘導成分、
を含んで成る、粘性眼用組成物。
【請求項9】
GDが、デキサメタゾン17-アセテート、デキサメタゾン17,21-アセテート、デキサメタゾン21-アセテート、クロベタゾン17-ブチレート、ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP)、フルチカゾン17-プロピオネート、クロベタゾール17-プロピオネート、ベタメタゾン17,21-ジプロピオネート、アルクロメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17,21-ジプロピオネート、デキサメタゾン17-プロピオネート、ハロベタゾール17-プロピオネート、およびベタメタゾン17-バレレート、ならびにそれらの塩、エステル、誘導体および組合せから成る群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
生分解性粘度誘導成分が、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸ナトリウムである、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
ベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP)およびヒアルロン酸またはヒアルロン酸ナトリウムを含んで成る、粘性眼用組成物。
【請求項12】
眼症状の処置方法であって、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)ポリマー(PLGA)またはヒアルロン酸と混合されたベクロメタゾン17,21-ジプロピオネート(BDP)を含んで成る眼用組成物を眼の後区に投与するステップを含んで成る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−540447(P2010−540447A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525964(P2010−525964)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/076837
【国際公開番号】WO2009/039262
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】