説明

ステンレス鋼粉末

【課題】水噴霧されたステンレス鋼粉末に基づくものであり、改良された圧縮性(compressibity)を有するステンレス鋼粉末とこの粉末の製法を提供することである。
【解決手段】本発明は、本質的に炭素を含まない低酸素ステンレス鋼粉末の製法であって、鉄の他に、炭素とクロム少なくとも10重量%とを含有する溶融鋼を調製し;溶融物の炭素含量を、水噴霧後の予想酸素含量によって決定される値に調節し;溶融物を水噴霧し;次いで、噴霧粉末を制御された量の水を含有する還元性雰囲気下で少なくとも1120℃の温度においてアニーリングする;諸工程とを含む上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステンレス鋼粉末とこの粉末の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明による粉末は水噴霧されたステンレス鋼粉末に基づくものであり、改良された圧縮性(compressibity)を有する。この粉末から製造される成分(コンポーネント,components)は改良された機械的性質を有する。
噴霧方法は、金属粉末を製造するための最も一般的な方法である。噴霧は過熱された液体金属流の微細な小滴への破壊と、それらのその後の、典型的に150μm未満の固体粒子への凍結として定義される。
水噴霧は、鉄とステンレス鋼粉末の製造に施用された1950年代に商業的重要性を得ている。現在、水噴霧は多量で低価格の金属粉末生産のための最も有力な方法である。この方法を用いることの主な理由は、低い生産費用、不規則な粉末形状による良好な素地強さ、微結晶構造、高度な過飽和、準安定相を形成する可能性、マクロ偏析(マクロセグリゲーション,macrosegregation)が無いことと、粒子の顕微鏡組織と形状が噴霧変数によって制御することができることである。
水噴霧工程中に、液体金属の垂直流は高圧水ジェットのクロスファイアー(cross-fire)によって崩壊される。液体金属の小滴は何分の一秒間に凝固して、噴霧タンクの底に回収される。粉末表面の酸化を最小にするために、タンクは、窒素、アルゴン等の不活性ガスによってしばしばパージングされる。脱水後に、粉末を乾燥させ、場合によってはアニーリングによって、形成される表面酸化物は少なくとも部分的に還元される。水噴霧に伴う主要な欠点は、粉末の表面酸化である。この欠点は、粉末が例えばCr、Mn、V、Nb、B、Si等のような容易に酸化可能な元素を含有する場合には、更に一層顕著である。
水噴霧粉末のその後の精製の可能性が非常に限定されるという事実のために、水噴霧鋼粉末からのステンレス物質(Cr%>12%)を製造する慣用的な方法は通常、非常に純粋な、従って非常に高価な原料、例えば純粋なスクラップ又は精選されたスクラップを必要とする。クロムの添加のためにしばしば用いられる原料はフェロクロム(フェロクロミウム)であり、フェロクロムは種々な量の炭素を含有する種々な品質で入手可能であり、最も少ない炭素を含有する品質が最も高価である。最終粉末の炭素含量が0.03%を超えるべきでないことがしばしば要求されるので、最も高価なフェロクロム品質又は精選スクラップを選択すべきである。
水噴霧方法の他に、金属溶融物に対してガス噴霧を行うことが可能である。しかし、この方法は特定の目的のために行われ、粉末冶金技術の分野における主要な用途である、焼結又は焼結鍛造される鋼粉末の生産にはめったに用いられない。更に、ガス噴霧粉末は熱間等静水圧圧縮成形(HIP)を必要とし、この理由から、この種の粉末から製造される成分は非常に高価になる。
鋼粉末を製造するための油噴霧方法では、油が噴霧剤として用いられる。この方法は、鋼粉末の酸化が生じない、即ち、合金元素の酸化が生じないという点で水噴霧よりも優れている。しかし、得られる粉末の浸炭、即ち、炭素の油から粉末への拡散が噴霧中に生じて、次の工程で脱炭を行わなければならない。油噴霧はまた、環境の観点から水噴霧方法よりも受容されがたい。油噴霧粉末から低酸素、低炭素合金鋼粉末を製造する方法は、米国特許第4,448,746号明細書に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ステンレス鋼粉末が、例えばフェロクロム・カルビュレ(高炭素含有フェロクロム,ferrochrome carbure)、フェロクロム・スラフィネ(低炭素含有フェロクロム,ferrochrome suraffine)、銑鉄等の、広範囲な安価な原料からの水噴霧粉末から得ることができることが、今回、意外にも判明した。
慣用的に製造される、水噴霧に基づくステンレス鋼粉末に比べて、新規な粉末は特に焼結後の酸素に関してとある程度は硫黄に関しても非常に低い不純物含量を有する。低い酸素含量は、従来の水噴霧ステンレス鋼粉末を特徴付ける褐色を帯びた緑色の代りに金属光沢を粉末に与える。更に、新規な粉末から製造された素地(未焼成体,green body)の密度は、従来の水噴霧粉末から製造された素地の密度よりも非常に大きい。新規な粉末から製造される最終的焼結成分の、例えば引張強さと伸びのような、重要な性質は、本発明による新規な粉末を用いる場合と同様であるか又は一層良好である。他の利点は、現在の一般的なやり方よりも低い温度で焼結工程を実施することができることであり、この理由は炉の選択が増大するからである。更に、低い焼結温度と、水噴霧のための原料の溶融に必要な低い温度の両方の結果として、エネルギー消費量が減少する。低い溶融温度の他の結果は、炉ライニングと噴霧ノズル上の磨耗を減ずることができることである。重要な利点はこの場合も、上述したように、安価なクロム含有原料を用いることができることである。クロム含有原料の数も増加することができる。
米国特許第3,966,454号明細書は、炭素を鉄溶融物に加えてから、水噴霧を行って、水噴霧粉末をその後に誘導加熱する方法に関する。この既知方法は高いクロム含量、低い酸素と炭素含量によって特徴付けられるステンレス鋼製品の製造において遭遇される問題に関係しない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の重要な特徴は、噴霧工程後の予想酸素含量によって決定される値に、金属溶融物の炭素含量が水噴霧工程中に調節されることである。噴霧プロセス後の予測酸素含量は経験的に又は噴霧前のサンプルの採取によって決定される。鋼製造のための、金属溶融物を含有する、一般的な原料の酸素含量は、溶融物の0.4〜1.0重量%の範囲である。次に、約1.0〜3.0の酸素:炭素重量比が得られるまで、溶融物の炭素含量を調節する。通常、溶融物に炭素を加えなければならないが、この添加は黒鉛の添加を包含することができる。或いは、一層多くの炭素を含有する原料を選択することができる。溶融鋼並びに新規な水噴霧粉末の炭素含量は、0.2〜0.7重量%、好ましくは約0.4〜約0.6重量%の範囲であるべきである。当然、必要な場合には、炭素量は水噴霧後にも例えば黒鉛等の炭素の微量の添加によって微調整することができる。
上述した有利な性質を有する粉末を得るために、得られた炭素含有水噴霧化粉末に対して少なくとも1120℃、好ましくは少なくとも1160℃の温度においてアニーリング工程を行う。この工程は好ましくは還元性雰囲気下で水を制御添加しながら行われるが、窒素等の不活性雰囲気下又は真空下で行われることもできる。アニーリング温度の上限は約1260℃である。選択された温度に依存して、アニーリング時間は5分間〜数時間の範囲になりうる。通常のアニーリング時間は約15〜40分間である。アニーリングは、放射、対流、伝導若しくはこれらの組合わせに基づく炉において連続的に又はバッチ式に行われることができる。アニーリング工程に適した炉の例は、ベルト炉、回転加熱炉、室炉(chamber furnaces)又は箱形炉である。
炭素を減少するために必要な水量は、例えば、同時係属スウェーデン特許出願第9602835-2号明細書(WO98/03291)(これは言及することによって本明細書に援用する)に開示されているように、アニーリング工程中に形成される炭素酸化物の少なくとも1種の濃度の測定に基づいて算出することができる。湿ったHガス又は水蒸気の形で水を加えることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の最も好ましい実施態様は、少なくとも10重量%のクロム含量と、0.2重量%以下、好ましくは0.15重量%以下の酸素含量と、0.05重量%より低い、好ましくは0.3重量%以下、最も好ましくは0.015重量%以下の炭素含量とを有する、アニーリング済み水噴霧粉末の製造に関する。
好ましくは、本発明によるアニーリング済み粉末と水噴霧粉末は、クロム10〜30重量%と、モリブデン0〜5重量%と、ニッケル0〜15重量%と、ケイ素0〜1.5重量%と、マンガン0〜1.5重量%と、ニオブ0〜2重量%と、チタン0〜2重量%と、バナジウム0〜2重量%と、不可避的不純物多くとも0.3重量%とを包含することができ、最も好ましくは、10〜20重量%のクロムと、0〜3重量%のモリブデンと、0.1〜0.3重量%のケイ素と、0.1〜0.4重量%のマンガンと、0〜0.5重量%のニオブと、0〜0.5重量%のチタンと、0〜0.5重量%のバナジウムとを含み、ニッケルを本質的に含まないか又は7〜10重量%のニッケルを含むことができる。
下記非限定的実施例によって、本発明を更に説明する。
2種の原料粉末(等級410及び等級434)を、5重量%の炭素含量を有するフェロクロム・カルビュレと、低炭素ステンレス・スクラップとから成る鉄原料から製造した。この鉄原料を電気炉(誘導電気炉,electric charge furnace)に、水噴霧後の鋼粉末中に多くとも0.4%の炭素を生ずるように調節された量で装入した。溶融し、水噴霧した後に、2種類の原料粉末(等級410*及び等級434*)は、次の表に示す組成を有した。
【表1】


次に、本質的に水素ガスから成る雰囲気を有するベルト炉内で1200℃において、粉末をアニーリングした。湿った水素ガス、即ち、周囲温度においてHOで飽和された水素ガスと乾燥水素ガスとを加熱帯中に導入した。湿った水素ガス量をCO測定用に意図されたIRプローブによって調節した。このプローブと酸素センサーとを用いることによって、酸素と炭素との最適の減少が得られた。
次の表2には、本発明によるアニーリング工程後の表1による粉末の組成を、それぞれ、粉末410**と434**として開示する。
【表2】


粉末410対照及び434対照は、ベルギー、コールドストリーム(Coldstream)から商業的に入手可能である従来の粉末であり、いずれの粉末も噴霧のみされており、本発明によるアニーリングはされていない。
表1と2は、本発明によるアニーリング工程中に特に酸素含量が顕著に減少されることを示す。窒素含量に対する影響も明確である。
次の表3から、本発明によってアニーリングされた粉末が従来の粉末よりも少ないスラグ粒子を含有することを知ることができる。
【表3】


【表4】


上記表4は、水素(H)中及び解離アンモニア(D.A.)中で焼結した後の物質の機械的性質を示す。
表5は、素地密度、素地強さ及びスプリングバック(spring back)を示す。
【表5】


本発明によるアニーリング済み410**粉末は、従来の等級410対照の30〜35%に比べて約10%の微粉(〜45μm)含有量を有すると結論することができる。酸素含量も非常に低く、0.20〜0.30%に比べて0.10%未満である。介在物数も意外に低い。素地密度は410**と434**の両方に関して約0.25〜0.50%上昇する。焼結密度は約0.25〜0.35%上昇する。焼結中の酸化(oxygen pick up)は本発明による粉末では非常に低い。最後に、本発明による粉末粒子がより大きな金属光沢を示すことを観察することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に炭素を含まない低酸素ステンレス鋼粉末の製造方法であって、
鉄に加えて、炭素と少なくとも10重量%のクロムとを含有する溶融鋼を調製し、
溶融物の炭素含量を、水噴霧後の予想酸素含量によって決定される値に調節し、
溶融物を水噴霧し、次いで
噴霧粉末を少なくとも1120℃の温度においてアニーリングする、
諸工程を含む、上記方法。
【請求項2】
溶融鋼の炭素含量が0.2〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶融鋼がフェロクロム炭化物、フェロクロム・スラフィネ及び銑鉄から成る群から選択される炭素含有物質を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アニーリングは制御された量の水を含有する還元性雰囲気下で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アニーリングは水素含有雰囲気下で行う、請求項4項記載の方法。
【請求項6】
アニーリングは少なくとも1160℃の温度で行う請求項5項記載の方法。
【請求項7】
クロムを少なくとも10重量%含み;0.2〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%の炭素含量と;約1〜3の酸素/炭素重量比と;不純物を多くとも0.5重量%;有する、水噴霧鋼粉末。
【請求項8】
クロム10〜30重量%と、
モリブデン0〜5重量%と、
ニッケル0〜15重量%と、
ケイ素0〜1.5重量%と、
マンガン0〜1.5重量%と、
ニオブ0〜2重量%と、
チタン0〜2重量%と、
バナジウム0〜2重量%と、
不可避的不純物多くとも0.3重量%と、
を含み、残部が鉄である、請求項7記載の水噴霧粉末。
【請求項9】
クロム10〜20重量%と、
モリブデン0〜3重量%と、
ケイ素0.1〜0.3重量%と、
マンガン0.1〜0.4重量%と、
ニオブ0〜0.5%重量と、
チタン0〜0.5重量%と、
バナジウム0〜0.5重量%と、
を含み、ニッケルを本質的に含まず残部が鉄である、請求項8記載の水噴霧粉末。
【請求項10】
クロム10〜20重量%と、
モリブデン0〜3重量%と、
ケイ素0.1〜0.3重量%と、
マンガン0.1〜0.4重量%と、
ニオブ0〜0.5重量%と、
チタン0〜0.5重量%と、
バナジウム0〜0.5重量%と、
ニッケル7〜10重量%と
を含み、残部が鉄である、請求項8記載の水噴霧粉末。
【請求項11】
本質的に炭素を含まないアニーリング済み水噴霧ステンレス鋼粉末であって、鉄の他に、クロムを少なくとも10重量%;酸素を0.2重量%以下、好ましくは0.15重量%以下;炭素を0.05重量%以下、好ましくは0.02重量%以下、最も好ましくは0.015重量%以下;及び不純物を0.5%以下含む、上記粉末。
【請求項12】
クロム10〜30重量%と、
モリブデン0〜5重量%と、
ニッケル0〜15重量%と、
ケイ素0〜1.5重量%と、
マンガン0〜1.5重量%と、
ニオブ0〜2重量%と、
チタン0〜2重量%と、
バナジウム0〜2重量%と、
不可避的不純物多くとも0.3重量%と、
を含み、残部が鉄である、請求項11記載のアニーリング済み粉末。
【請求項13】
クロム10〜20重量%と、
モリブデン0〜3重量%と、
ケイ素0.1〜0.3重量%と、
マンガン0.1〜0.4重量%と、
ニオブ0〜0.5重量%と、
チタン0〜0.5重量%と、
バナジウム0〜0.5重量%と、
を含み、ニッケルを本質的に含まず残部が鉄である、請求項12記載のアニーリング済み粉末。
【請求項14】
クロム10〜20重量%と、
モリブデン0〜3重量%と、
ケイ素0.1〜0.3重量%と、
マンガン0.1〜0.4重量%と、
ニオブ0〜0.5重量%と、
チタン0〜0.5重量%と、
バナジウム0〜0.5重量%と、
ニッケル7〜10重量%と、
を含み、残部が鉄である、請求項12記載のアニーリング済み粉末。

【公開番号】特開2010−196171(P2010−196171A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78105(P2010−78105)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【分割の表示】特願平11−504306の分割
【原出願日】平成10年6月17日(1998.6.17)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】