説明

ストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法

本発明は、ストリップスチール表面上のコーティング膜厚の測定に関し、より詳しくは、以下のステップを有するクロムフリーコーティング膜厚の検出方法に関する:元素P、Ca、Ti、BaまたはSrを含有し、クロムフリーコーティング液と反応しない2つの水溶性化学物質を選択するステップ;選択した2つの水溶性化学物質をクロムフリーコーティング液に加えて、均質になるようにそれらを攪拌した後、コーティングフィルムの基準サンプルを作るステップ;オフライン膜厚検出計測器によって発せられた光線を用いて上記2つの水溶性化学物質を励起して特性スペクトラムを得て、フィッティングにより測定膜厚と厚み補正値との間の補正関数式を得るステップ;弱い特性スペクトラムを有する上記水溶性化学物質をクロムフリーコーティング液に加え、上記補正関数式を用いて実際の膜厚を求めるステップ。オンライン検出により、膜厚を効果的にモニターでき、高精度で、かつ、コーティング膜の付着性、耐腐食性、環境パフォーマンスに悪影響を与えることなく、コーティング処理を連続的に最適化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストリップスチール表面上のコーティング膜厚の測定に関し、より詳しくは、クロムフリーコーティング膜厚の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護への関心がますます高まる状況において、クロムフリーのグリーン製品を求める声が強くなってきている。世界の主要製鋼所は、それらの製品の膜に対してクロメートコーティングに代わるクロムフリーコーティングの開発を活発に行っている。
【0003】
クロムフリーコーティングフィルムをストリップスチール表面に塗布するのはかなり難しい。というのは、クロムフリーコーティング液の調製およびクロムフリーコーティング膜厚の検出のための良い方法も基準もないからである。特に大形電気機械については、何枚ものストリップスチールシートの積層板(laminates)が積み重ねられた後において、その中の1または複数の積層板のコーティングフィルムの不均一な厚みは、これら積層板の積層物全体の不均一な厚みとなる。したがって、如何にしてコーティング膜厚を精確に検出し、如何にしてコーティングフィルムの塗装処理を最適化するかということはいずれも、クロムフリーコーティングフィルムを有するストリップスチールの製造において大きな課題である。
【0004】
コーティング膜厚のオンライン検出の場合、先行技術は多くの場合、特性元素(characteristic element)を検査する光線検査(ray inspection)方法を用いる。あるいは、先行技術は、オンラインまたはオフライン検出を行うためにX線蛍光レミッタ(X ray fluorescence remitter)を用いる。しかし、これらの検出方法では、コーティング液がクロム等の何らかの特性元素(励起したとき簡単にX線蛍光を発するもの)を含有している必要があり、この元素の含有量は不変でなければならない。したがって、これらの方法で厚みが検出可能なコーティングフィルムはごく僅かしかなく、それ故、各検出計測器セットはたった1つの元素、したがって、たった1種類のコーティングフィルムの厚みを検出できるに過ぎない。種々のタイプのコーティングフィルムを生産するためには、多くの厚み検出計測器セットを備える必要があるが、それは大量生産においては不便である。また、たとえコーティングフィルムのタイプが変更されなくても、コーティングフィルムの異なるバッチ間の組成の相対的相違は、検出結果に無視できない影響を及ぼす。クロムフリーコーティングフィルムは特性元素Crを含有していない。したがって、これらの方法はオンライン検出には役に立たない。
【0005】
今日、クロムフリーコーティングフィルムの厚みはオンライン厚み検出計測器によって検出されることが多い。これらの厚み検出計測器は、検出を実行するために渦電流原理を大いに応用している。それは、スチールストリップの先端と末端から標本(specimens)を採取し、ワークサイド、中間サイド、そして被駆動サイドでの複数箇所で厚みを測定し、これらの全測定値の平均を、スチールストリップ上のコーティングフィルム全体の厚みとする。これらの方法の利点は、多くの箇所で測定を行うことが便利である点にあるが、しかし、典型サンプルを有する必要がある。加えて、オフライン検出システム自体も膜厚参照カード(film thickness reference card)もいずれも大きい誤差を持っており、オンラインモニタを実現することはできないので、それらの方法は、連続アニール炉を介してのスチールストリップを製造することには不適切であり、不均一な厚みをもたらしやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法を提供することである。この方法は、補正関数を得るために、そして、コーティングフィルムの厚みを得るために、正確な測定結果を有していないが、付着性、腐食防止、環境パフォーマンスに対しては影響しない弱い特性元素をクロムフリーコーティング液に加えるものである。
【0007】
上記目的は、以下のステップを備えるストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法によって達成できる。
【0008】
ステップ1:元素P、Ca、Ti、BaまたはSrを含有し、クロムフリーコーティング液と反応しない2つの水溶性化学物質を選択する。
【0009】
ステップ2:ステップ1で選択した2つの水溶性化学物質をクロムフリーコーティング液に加えて、均質になるようにそれらを攪拌した後、コーティングフィルムの基準サンプルを作る。
【0010】
ステップ3:オフライン膜厚検出計測器によって発せられた光線(ray)を用いて上記2つの水溶性化学物質をそれぞれ励起して、これら2つの水溶性化学物質の特性(特徴)スペクトラム(characteristic spectrum)を得ると共に、上記基準サンプルの厚みを得、強い特性(特徴)スペクトラム(intensive characteristic spectrum)を有する水溶性化学物質により決定されるコーティング膜厚を実際の膜厚とする一方、弱い特性(特徴)スペクトラム(weak characteristic spectrum)を有する水溶性化学物質により決定されるコーティング膜厚を測定膜厚とし、上記実際の膜厚と上記測定膜厚との差を厚み補正値とし、このような作業を多数回行うことで、多くの測定膜厚に対応する多くの厚み補正値を求め、これらの離散データにフィットする、上記測定膜厚と上記厚み補正値との間の補正関数式を求めることができる。
【0011】
ステップ4:弱い特性スペクトラムを有する上記水溶性化学物質を上記クロムフリーコーティング液に加え、オンライン膜厚検出計測器によって発せられた光線を用いて上記水溶性化学物質を励起すると共に測定膜厚を求めた後、上記補正関数式を用いて厚み補正値を求め、最後に、上記測定膜厚と上記厚み補正値とから実際の膜厚を求めることができる。
【0012】
上記クロムフリーコーティング液と反応しない水溶性化学物質は、β-グリセロりん酸ナトリウム(β-sodium glycerol-phosphate)、酢酸カルシウム、チタノセン錯体(titaniumocene complexes)、塩化バリウム、または酢酸ストロンチウムである。
【0013】
上記光線はχ線またはγ線である。ストリップスチール表面上のクロムフリー塗膜厚のオンライン検出方法は、弱い特性元素をクロムフリーコーティング液に添加して補正関数を得ることにより、時間内にコーティング膜厚を検出することができ、また、オンライン検出によって、効果的に膜厚をモニターしてコーティングプロセスを連続して最適化できる。一方で、この方法は、種々のタイプのクロムフリーコーティング液に対して高精度に適用可能であり、コーティング膜の付着性、耐腐食性、環境パフォーマンスに悪影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚の検出方法の実施形態1における測定厚みと補正厚みとの関数を表す曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態は本発明を説明するためだけに使用されるのであって、本発明の範囲を制限するためのものではない。また、当業者は、この明細書を読んだ後、本発明の精神と範囲から逸脱することなくいろいろな変更や修正を行うことができる。それ故、この明細書中の解決手段と同一または均等の如何なるものも特許請求の範囲で定義された範囲に属するものである。
【0016】
実施形態1
ストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚の検出方法は次のステップを備える。
【0017】
ステップ1:元素P、Ca、Ti、BaまたはSrを含有し、クロムフリーコーティング液と反応しない2つの水溶性化学物質を選択する。この実施形態では、水溶性化学物質は、β-グリセロりん酸ナトリウム(β-sodium glycerol-phosphate)、酢酸カルシウム、チタノセン錯体(titaniumocene complexes)、塩化バリウム、または酢酸ストロンチウムである。
【0018】
ステップ2:ステップ1で選択した2つの化学物質をクロムフリーコーティング液に加え、均質になるようにそれらを攪拌した後、上記コーティングフィルムの基準サンプル即ち基準フィルムサンプルを作る。
【0019】
ステップ3:オフライン膜厚検出計測器によって発せられたχ線またはγ線を用いて上記2つの化学物質を励起して特性スペクトラム(characteristic spectrums)を得、それにより、上記基準フィルムサンプル(reference film sample)のコーティング膜厚を求める。強い特性スペクトラムを有する添加物により決定されるコーティング膜厚を実際の膜厚Hとする一方、弱い特性スペクトラムを有する添加物により決定されるコーティング膜厚を測定膜厚hとし、実際の膜厚Hと測定膜厚hとの差を厚み補正値△Aとする。この作業を多数回行うことで、多くの測定膜厚に対応する多くの厚み補正値を得ることができる。測定膜厚hと厚み補正値△Aとの間の補正関数式は、これらの離散データに適合させること(fitting)で求めることができる。
【0020】
ステップ4:弱い特性スペクトラムを有する添加物をクロムフリーコーティング液に加え、オンライン膜厚計測器によって発せられた光線を用いて上記添加物を励起すると共に膜厚を求めた後、上記補正関数式を用いて厚み補正値を求め、最後に、測定膜厚と厚み補正値とから実際の膜厚を求めることができる。
【0021】
上記実施形態では、基準フィルムサンプルを作るために、上記化学物質、すなわち、元素Ca,Pを含む酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca・H2O)およびβ-グリセロりん酸ナトリウム(C3H7Na2O6P・5H2O)をクロムフリーコーティング液に0.1〜1重量%加え、上記2つの元素の特性スペクトラムをオフライン膜厚計測器を用いて検出して、以下の表1に示す測定膜厚と厚み補正値とを求める。

表1

【0022】
図1に示す曲線を、表1のデータに基づいてプロットし、その後、その曲線に適合させた関数式を求める:
厚み補正値△A=0.0600+0.0325h (1)
クロムフリーコーティングの量産においては、コーティング膜厚は、オンライン膜厚計測器によって発せられた光線を用いて元素Pを励起することによって検出される。ここで、上面での測定膜厚は3.16g/mであり、下面での測定膜厚は3.1g/mである。
【0023】
式(1)のhに上記上面および下面での測定膜厚をそれぞれ代入すると、上記上面および下面での実際の膜厚がそれぞれ3.32g/mおよび3.26g/mと求まる。
【0024】
スチールシートのコーティングフィルムの特性を、β-グリセロりん酸ナトリウム(C3H7Na2O6P・5H2O)がある場合とない場合とで比較することにより、β-グリセロりん酸ナトリウム(C3H7Na2O6P・5H2O)を添加しても、表2に示すように、付着性や耐腐食性等のフィルム特性に悪影響を与えないと結論づけられた。

表2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素P、Ca、Ti、BaまたはSrを含有し、クロムフリーコーティング液と反応しない2つの水溶性化学物質を選択するステップ1と、
ステップ1で選択した2つの水溶性化学物質をクロムフリーコーティング液に加えて、均質になるようにそれらを攪拌した後、コーティングフィルムの基準サンプルを作るステップ2と、
オフライン膜厚検出計測器によって発せられた光線を用いて上記2つの水溶性化学物質を励起して、これら2つの水溶性化学物質の特性スペクトラムを得て、上記基準サンプルのコーティング膜厚を得、強い特性スペクトラムを有する水溶性化学物質により決定されるコーティング膜厚を実際の膜厚とする一方、弱い特性スペクトラムを有する水溶性化学物質により決定されるコーティング膜厚を測定膜厚とし、上記実際の膜厚と上記測定膜厚との差を厚み補正値とし、この作業を多数回行うことで、多くの測定膜厚に対応する多くの厚み補正値を求め、上記測定膜厚と上記厚み補正値との間の補正関数式を、これらの離散データと測定膜厚に適合させることで、求めるステップ3と、
弱い特性スペクトラムを有する上記水溶性化学物質を上記クロムフリーコーティング液に加え、オンライン膜厚検出計測器によって発せられた光線を用いて上記化学物質を励起すると共に測定膜厚を求めた後、上記補正関数式を用いて厚み補正値を求め、最後に、上記測定膜厚と上記厚み補正値とから実際の膜厚を求めるステップ4と
を備えたことを特徴とするストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法。
【請求項2】
上記クロムフリーコーティング液と反応しない水溶性化学物質は、β-グリセロりん酸ナトリウム(β-sodium glycerol-phosphate)、酢酸カルシウム、チタノセン錯体(titaniumocene complexes)、塩化バリウム、または酢酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項1に記載のストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法。
【請求項3】
上記光線はχ線またはγ線であることを特徴とする請求項2に記載のストリップスチール表面上のクロムフリーコーティング膜厚のオンライン検出方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515246(P2013−515246A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545078(P2012−545078)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際出願番号】PCT/CN2011/073425
【国際公開番号】WO2012/068831
【国際公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(302022474)宝山鋼鉄股▲分▼有限公司 (17)
【Fターム(参考)】