説明

ストレッチ性仮撚加工糸およびポリエステル布帛

【課題】スパン感に優れたサイドバイサイド型コンジュゲート糸のストレッチ性仮撚加工糸を提供すること。
【解決手段】オルソクロロフェノール溶媒中、30℃で測定される固有粘度の差が0.1〜0.4dL/gの範囲にある2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート糸の仮撚加工糸であって、該仮撚加工糸の熱収縮応力ピーク温度が100〜170℃であり、該仮撚加工糸を構成する全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合が50〜95%であるストレッチ性仮撚加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性に優れた仮撚加工糸に関する。さらに詳細には、コンジュゲート糸を用いたストレッチ性仮撚加工糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伸縮性に優れたスパナイズ布帛を得る方法として、(1)ポリウレタンなどの弾性糸を利用する方法、(2)捲縮力を高めた仮撚り捲縮糸を利用する方法、(3)サイドバイサイド糸を利用する方法などが知られている。
このうち(1)の弾性糸を利用する方法は、30〜200%の超高伸縮性能が出せる反面、染色堅牢度や耐薬品性、熱セット性などの点でおとり、かつコストが高くなる、という問題があることから、主として水着や下着、スポーツなどの分野で特に高い伸縮性が要求される用途に限定されて用いられている。
また、(2)の仮撚捲縮糸を利用する方法は、コストが安いことから広く利用されている反面、単繊維のクリンプ形態がランダムになるため、伸縮性をともに高いバルキー性が併発する。そして、この高いバルキー感によるふかつき感は基本的に受け入れられないので、その風合い改良が多くの用途で望まれている。
さらに、(3)のコンジュゲート糸を利用する方法は、一般に単繊維のクリンプ形態が同サイズであるため、ヤーン全体としてスパイラル状に集束しやすく、単繊維同士のランダムな乱れも少ないので、フラットヤーン風でスパナイズ感に欠ける欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、スパン感に優れたサイドバイサイド型コンジュゲート糸のストレッチ性仮撚加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み検討を重ねた結果、サイドバイサイド型コンジュゲート糸を仮撚り加工を行う際、未延伸糸を用いて行い、しかもその仮撚加工条件の選定することによって、品位が良好で、ソフト感だけでなく、スパン感、ドレープ性、反発性にも優れ、全てにおいてバランスの取れた布帛が得られることを見出した。
かくして、本発明によれば、オルソクロロフェノール溶媒中、30℃で測定される固有粘度(以下「固有粘度」ともいう)の差が0.1〜0.4dL/gの範囲にある2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート糸の仮撚加工糸であって、該仮撚加工糸の熱収縮応力ピーク温度が100〜170℃であり、該仮撚加工糸を構成する全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合が50〜95%であることを特徴とするストレッチ性仮撚加工糸が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、スパン感に優れたサイドバイサイド型コンジュゲート糸からなるストレッチ性仮撚加工糸が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のポリエステル仮撚加工糸を構成するポリエステルは、芳香環を重合体の主たる繰り返し単位に有する芳香族ポリエステルである。好ましい芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。テレフタル酸成分および/またはエチレングリコール成分以外の成分を少量共重合したものであっても良い。
なお、これらポリエステルは、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、酸化チタン、着色剤、不活性微粒子などの任意の添加剤を含有していても良い。
【0007】
本発明のポリエステルコンジュゲート糸は、互いに固有粘度が異なる上記のポリエステル2種類が溶融紡糸されサイドバイサイド型に貼り合わされた繊維横断面を有する。2種類のポリエステルの固有粘度差は、0.1〜0.4dL/g、好ましくは0.15〜0.30dL/gである。固有粘度差が0.1dL/g未満の場合は、貼り合わせ成分間の熱収縮差が不十分であり、コンジュゲート糸としての潜在捲縮性能が不十分となる。一方、固有粘度差が0.4dL/gを超えると、安定した製糸が困難となる。
なお、低粘度サイドのポリエステルの固有粘度は0.4〜0.7dL/g、高粘度サイドのポリエステル固有粘度は0.6〜0.9dL/gの範囲とすると、ポリマーの吐出状態がより安定するので望ましい。
【0008】
また、2種類のポリエステルの貼り合わせ重量比は、40/60〜60/40、より好ましくは55/45〜45/55の範囲にするのが適当である。高粘度側のポリエステル重量比率が60を超える場合には、得られるポリエステルコンジュゲート糸の潜在捲縮性が低下する傾向にあり、一方低粘度側のポリエステル重量比率が60を超える場合には、繊維の強度が低くなったり、毛羽が増える傾向にある。
【0009】
本発明においては、上記の仮撚加工糸の熱応力ピーク温度が100〜170℃、仮撚加工糸を構成する全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合が50〜95%であることが肝要である。これにより、仮撚加工糸の捲縮が不均一になりドライ感を向上させることが可能であるため品位が良好であり、しかも、ソフト感、ドライ感、ドレープ性、反発性の全ての点でバランスのとれた布帛を得ることができる。
【0010】
仮撚加工糸の熱応力ピーク温度が170℃を超える場合は、リラックス、プリセット、アルカリ減量、および、染色などの工程、あるいは染色後にファイナルセットする工程において、布帛の収縮が増大しすぎて目的とするソフト感、ドライ感、ドレープ性が得られず、布帛の品位も悪くなる。一方、熱応力ピーク温度が100℃未満では、逆に布帛の収縮が小さすぎるため目的とする風合いを得ることができない。熱応力ピーク温度は、以上の観点から好ましくは100〜160℃以下であり、より好ましくは120〜150℃の範囲である。
上記熱応力ピーク温度は、後記するように、仮より条件の加工倍率およびヒータ温度により調整することができる。
【0011】
また、全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合が、50%未満の場合は、仮撚加工糸のドライ感が不良となり、品位が悪くなる。逆に、上記割合が、95%を超える場合は、ドレープ性、反発性、ドライ感がいずれも乏しい布帛しか得られない。上記空間が捲縮を有する単繊維の割合としては、60〜90%の範囲が好ましく、より好ましくは70〜90%の範囲である。
捲縮を有する単繊維の割合を上記の範囲内にするには、後記するように、仮撚り条件の加工倍率およびヒータ温度により調整することができる。
【0012】
本発明の仮撚加工糸においては、以上に説明したように、熱収縮が比較的低温に設計されていることと、捲縮を有していない単繊維が適度に含まれていることの両方の効果によって、該仮撚加工糸を布帛としてリラックス、プリセット、アルカリ減量、染色などで目が詰まらず、しかも繊維レベルで見ても捲縮を有する単繊維とそれを有していない単繊維との間で空間を形成され、単繊維同士も動き易くなって、布帛全体のソフト感、ドレープ性が向上する。
さらに、上記のように、本発明の仮撚加工糸を用いた布帛は、アルカリ処理して、ストレッチ繊維からなる布帛となる。その際、単繊維自身が細くなり、ややもすると布帛全体として膨らみ感や反発性に欠けペーパーライクになるが、上記の空間の効果により反発性が生まれる。また、膨らみ感のある布帛から捲縮を有するフィブリル繊維が適度に布帛表面に出てドライ感が向上すると推定される。
【0013】
本発明の仮撚加工糸は、例えば以下の方法により製造することができる。
すなわち、前述のポリエステルコンジュゲート糸は、固有粘度の異なる2種類のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを各々定法で乾燥し、2基の溶融押出し機を装備した通常の複合紡糸装置で、溶融し、通常のサイドバイサイド型複合紡糸口金を用いて、2種のポリマー流を複合し、冷却、固化後、油剤を付与して、500〜2,500m/分、好ましくは800〜1,500m/分で引き取り、ワインダーで巻き取って未延伸糸とする。ここで、溶融温度は、275〜300℃の範囲が、紡糸安定性の観点より好ましい。
【0014】
本発明の仮撚加工糸は、上記未延伸糸を原糸とし、これを非仮撚状態で80〜140℃、好ましくは90〜130℃の加熱ローラに接触させて加熱した後、該加熱終了点(加熱ローラから糸が離れる点)を仮撚開始点として同時延伸仮撚することによって得ることができる。
ここで、上記加熱ローラの温度が80℃未満の場合は、熱応力ピーク温度が170℃を超えやすく、得られた仮撚加工糸の延伸斑が発生しやすくなる傾向にある。一方、上記加熱ローラの温度が140℃を超える場合は、糸が融着してしまい、本発明の糸を得ることができない。
【0015】
また、一般に、仮撚加工糸には、その原糸として部分配向糸(POY)を用いるが、上記のように未延伸糸を用い、さらに加熱ローラ温度を上記の温度範囲に調整することによって、仮撚加工糸を構成する全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合を50〜95%に容易にコントロールすることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法より測定した。
【0017】
(1)熱収縮応力
カネボウエンジニアリング社製、熱応力測定機(タイプKE−2S)を用い、試料の長さ10cmのループ状にして、昇温速度2.3℃/秒の条件で温度−熱応力曲線をチャートに記録した。この測定を3回繰り返し、チャート上から熱応力ピーク温度を読み取って、その平均値を熱収縮応力とした。
【0018】
(2)捲縮を有する単繊維の割合(捲縮割合)
糸長方向で任意に3ヶ所、糸側面の写真をとり、1山/10mm以上の捲縮がある単繊維の本数を数え、その平均値を求めた。さらに、その平均値を全単糸数で割って、全単繊維に対する捲縮を有する単繊維の割合とした。
【0019】
(3)風合い(品位、ソフト感、ドライ感、ドレープ性、反発性)
ポリエステル仮撚加工糸を織物とした後、常法に従い、ボイルオフ、プレセットしたあと、常法によって18%のアルカリ減量を行って、さらに、120℃、30分で染色し、自然乾燥を行い、160℃で45秒ファイナルセットした。得られた織物の品位は、熟練者5人による外観評価を行い、ストレッチ性が良く品位の高いものを「きわめて良好」とし、ストレッチ性が不十分で筋状の斑が多く見えるものを「不良」とし、その間をさらに2段階にわけ、その平均値で、「きわめて良好」、「良好」、「やや不良」、「不良」の4段階にランク付けした。また、その他の風合いは、上記と同様に熟練者5人による官能評価で行い、その平均値で、「きわめて良好」、「良好」、「やや不良」、「不良」の4段階に、それぞれランク付けした。
【0020】
実施例1
イソフタル酸を 10モル%共重合した固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートと、固有粘度0.42のポリエチレンテレフタレートを重量比50/50をサイドバイサイドに貼り合わせたコンジュゲート糸を紡糸速度1400m/minで一旦巻き取り、335dtex/24フィラメントの未延伸糸を得た。
加熱ローラ、接触型ヒータ、3軸摩擦型のディスク式仮撚装置、延伸ローラの順で配置した延伸同時仮撚装置を用い、上記未延伸糸を、非加撚状態で加熱ローラに接触させて加熱した後、該加熱終了点を仮撚開始点として同時延伸仮撚加工する方法で行った。この際、加熱ローラ速度を217m/min、接触型ヒータ温度を230℃、延伸ローラ速度を500m/min、仮撚装置のディスク周速度を1,100m/min、加熱ローラの表面温度を108℃、延伸ローラは非加熱とした。
得られた仮撚加工糸を、常法により製織して織物とし、前述の(3)織物の風合いの評価方法にしたがって、染色、ファイナルセットした。結果を表1に示す。
【0021】
実施例2〜7、比較例1〜3
コンジュゲートを構成する各ポリマーの固有粘度、加熱ローラの表面温度を、表1のように変更した以外は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のポリエステル系コンジュゲート糸を用いた仮撚加工糸は、ストレッチ性のみならず、品位、ソフト感、ドライ感、ドレープ性、反発性といった風合の点でもバランスよく優れているので、下着やスポーウェアーだけでなく、優れた風合いが要求されるアウター用途にも有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルソクロロフェノール溶媒中、30℃で測定される固有粘度の差が0.1〜0.4dL/gの範囲にある2種類のポリエステルがサイドバイサイド型に貼り合わされたコンジュゲート糸の仮撚加工糸であって、該仮撚加工糸の熱収縮応力ピーク温度が100〜170℃であり、該仮撚加工糸を構成する全単繊維のうち捲縮を有する単繊維の割合が50〜95%であることを特徴とするストレッチ性仮撚加工糸。
【請求項2】
2種類のポリエステルの貼り合わせ重量比が40/60〜60/40である、請求項1記載のストレッチ性仮撚加工糸。
【請求項3】
請求項1または2記載のストレッチ性仮撚加工糸を含むことを特徴とするポリエステル布帛。

【公開番号】特開2006−336124(P2006−336124A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159348(P2005−159348)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】