説明

スパッタリングターゲット、その製造方法およびターゲット材原料

【課題】安定したスパッタ運転を可能にし、優れた光学特性を有するSiO膜を製膜可能にするスパッタリングターゲット、その製造方法、ターゲット材原料を提供する。
【解決手段】加速粒子の衝突により金属成分を放出するスパッタリングターゲットであって、金属の基材と、前記基材の表面に、原子番号が11以下の金属が混合された金属シリコンで溶射により膜状に形成されたターゲット材とを備える。このように、原子番号が11以下の金属が混合された金属シリコンでターゲット材が形成されているため、抵抗率を低下させることができる。その結果、安定したスパッタ運転を可能にすることができる。そして、シリコンの純度を高めたターゲット材を用いてスパッタリングで作製したSiO膜について、原子番号が11以下の金属の含有は光学特性を低下させない。その結果、優れた光学特性を有するSiO膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属Si(シリコン)膜やSiO(酸化ケイ素)薄膜をスパッタリング法で製膜する際に薄膜製造装置で使用されるスパッタリングターゲット、その製造方法およびターゲット材原料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属Siのターゲット材を有するスパッタリング用ターゲットは、基材の表面にSiを溶射して生成される。基材には、円盤状のバッキングプレートまたは円筒状のバッキングチューブが用いられる。このような製造方法では、ステンレスの基材と金属Siのターゲット材との間に、双方の中間の熱膨張係数を有するアンダーコート層が溶射施工される。アンダーコート層には、例えば、ニッケル、チタン、タングステン、モリブデン等を含む材料が用いられる(特許文献1参照)。このようにして、基材とターゲット材との熱膨張係数の差異に起因する剥離を防止する技術が知られている。
【0003】
また、ターゲット材の熱膨張係数を基材の熱膨張係数に近づける方法も知られている。たとえば、金属シリコンにアルミニウムを混合したシリコン合金をターゲット材として用いることができる(特許文献2参照)。特許文献2には、ケイ素粉とケイ素・アルミニウム合金粉の混合粉を溶射原料として、ターゲット材を形成することにより、比抵抗を低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−086403号公報
【特許文献2】特開平05−086462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようにして製造されたシリコンのターゲット材中には、重金属が含有されることがある。これは、溶射施工中に既施工済みの溶射中間層からの金属拡散や、合金としたAlに含まれる少量の不純物の拡散によるものである。したがって、このようなターゲットを用いてスパッタリングで製膜されたSiO膜は、例えば消衰係数のような光学特性が劣化する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、安定したスパッタ運転を可能にし、優れた光学特性を有するSiO膜を製膜可能にするスパッタリングターゲット、その製造方法およびターゲット材原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のスパッタリングターゲットは、加速粒子の衝突により金属成分を放出するスパッタリングターゲットであって、金属の基材と、前記基材の表面に、原子番号が11以下の金属が含有された金属シリコンで溶射により膜状に形成されたターゲット材と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、原子番号が11以下の金属が含有された金属シリコンでターゲット材が形成されているため、抵抗率を低下させることができる。その結果、安定したスパッタ運転を可能にすることができる。そして、Si純度を高めたターゲット材を用いてスパッタリングで作製したSiO膜について、原子番号が11以下の金属の含有は光学特性を低下させない。その結果、優れた光学特性を有するSiO膜が得られる。
【0009】
(2)また、本発明のスパッタリングターゲットは、前記ターゲット材は、ホウ素が混合された金属シリコンで溶射により膜状に形成されていることを特徴としている。このように、ホウ素が混合された金属シリコンでターゲット材が形成されているため、スパッタリングで製膜されたSiO膜の光学特性を向上できる。
【0010】
(3)また、本発明のスパッタリングターゲットは、前記ターゲット材は、金属シリコンの純度が99.5%以上、相対密度が92%以上、体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴としている。
【0011】
このように、ターゲット材の抵抗は低く純度は高いため、スパッタリングにより優れた光学特性を有するSiO膜を製膜できる。また、相対密度が92%以上であるため、製膜装置内で真空引きしたときにターゲットからガスが発生するのを防止でき、装置内の高い真空度を維持できる。また、ターゲット材が均質になるため、アーキングを防止できる。その結果、装置の安定運転が可能となる。
【0012】
(4)また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、加速粒子の衝突により金属成分を放出するスパッタリングターゲットの製造方法であって、金属シリコンに原子番号が11以下の金属を含有させる工程と、前記混合材料を金属製の基材に溶射してターゲット材となる膜を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
このように、原子番号が11以下の金属が含有された金属シリコンでターゲット材を形成するため、ターゲット材の抵抗率を低下させることができる。そして、そのターゲット材を用いてスパッタリングを行うことで優れた光学特性を有するSiO膜を作製できる。
【0014】
(5)また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、前記膜形成は、複数パスの溶射により行い、1パスあたりの施工量を厚さ80μm以下にすることを特徴としている。これにより、シリコン溶射膜中に蓄積する残留応力を小さく抑えることができ、膜剥離を防止できる。アンダーコート層を形成せずに基材上に直接ターゲット材を設けており、膜剥離の防止が重要となる。
【0015】
(6)また、本発明のターゲット材原料は、上記のスパッタリングターゲットのターゲット材原料であって、抵抗率1Ω・cm以下で純度99.7%以上のシリコンに対して原子番号が11以下の金属をドープされた粉末であり、30μm以上200μm以下の上限および10μm以上60μm以下の下限の粒径を有することを特徴としている。
【0016】
このように、ターゲット材原料は、原子番号が11以下の金属がドープされた高純度の金属シリコンで形成されるため、抵抗率を低下させたターゲット材を製造することができ、このターゲット材でスパッタリングを行うことで、優れた光学特性を有するSiO膜を作製できる。また、適切な粒径を有するため、溶射時の未溶融や膜の密度低下を防止し、流動性を向上できる。
【0017】
(7)また、本発明のターゲット材原料の製造方法は、上記のスパッタリングターゲットのターゲット材原料であって、純度が99.7%以上の金属シリコンと純度が95%以上で平均粒径が5μm以下の金属ホウ素粉末とが混合された混合粉末であり、原子番号が11以下の金属を0.01wt%以上2wt%以下含有し、金属シリコンの粒子が30μm以上200μmの以下の上限値および10μm以上60μm以下の下限値の粒径を有することを特徴としている。
【0018】
このように、ターゲット材原料は、原子番号が11以下の金属が混合された高純度の金属シリコンで形成されるため、抵抗率を低下させたターゲット材を製造することができ、このターゲット材でスパッタリングを行うことで、優れた光学特性を有するSiO膜を作製できる。また、適切な粒径を有するため、溶射時の未溶融や膜の密度低下を防止し、流動性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安定したスパッタ運転を可能にし、優れた光学特性を有するSiO膜を製膜可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スパッタリングターゲットの実施例を示す表である。
【図2】スパッタリングターゲットの比較例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは鋭意検討した結果、スパッタ製膜装置において、安定した放電状態を保つことが可能で、かつ、消衰係数の低い良好なSiO膜を製膜できるスパッタリングターゲット、その製造方法、スパッタリングターゲットの製造に用いられるターゲット材原料およびその製造方法を見出した。以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
(スパッタリングターゲット)
本発明のスパッタリングターゲットは、平板または円筒状の金属の基材と、平板状の基材の片面、または円筒状の外周面に膜状に形成されたターゲット材とを備えている。平板状の基材は、いわゆるバッキングプレートであり、円筒状の基材はいわゆるバッキングチューブである。
【0023】
ターゲット材は、ホウ素が含有された金属シリコンで溶射により膜状に形成されている。このように、ホウ素が混合された金属シリコンでターゲット材が形成されているため、抵抗率を低下させることができ、シリコンの純度を高めることが可能になる。シリコンの純度を高めたターゲット材を用いてスパッタリングを行うことで優れた光学特性を有するSiO膜を作製できる。
【0024】
ターゲット材の金属シリコンの純度は、99.5%以上であることが好ましい。このように金属シリコンの純度を高め、スパッタリングに用いることで優れた光学特性を有するSiO膜を作製できる。さらに、ターゲット材の金属シリコンの純度は、99.8%以上であることが好ましい。
【0025】
そこで不純物を低減することで光学特性は改善するが、ターゲット材の抵抗率が上昇し、安定したスパッタ放電が妨げられる。そして、アーキングや放電停止の状況が発生すると、製膜装置の運転が不可能な状態になる。
【0026】
シリコンには種々の不純物を混合することで抵抗率を下げることができる。その中でも少量の添加で抵抗率の低下に効果があり、かつ、SiOに含有されてもその光学的な特性を損なうことのない添加物はホウ素である。ホウ素を添加したターゲット材を用いることで、安定したスパッタ運転が可能となり、良好な光学特性を持つSiO膜の製膜が可能になる。
【0027】
なお、ターゲット材には、原子番号11のナトリウムより重い金属の混入は好ましくない。スパッタリングで得られるSiO膜に混入された金属元素が多くなると、SiO膜は特定の波長の光を吸収する。その結果、消衰係数が大きくなり、光学特性が低下する。
【0028】
ターゲット材の相対密度は92%以上が好ましく、94%以上であればさらに好ましい。ターゲット材の相対密度は92%以上にすることで、製膜装置内で真空引きしたときにターゲットからガスが発生するのを防止でき、装置内の高い真空度を維持できる。また、ターゲット材が均質になるため、アーキングを防止できる。その結果、装置の安定運転が可能となる。
【0029】
ターゲット材の体積抵抗率は10Ω・cm以下であることが好ましく、1Ω・cm以下であればさらに好ましい。シリコンの体積抵抗率が10Ω・cm以下であることにより、スパッタ製膜時にターゲット表面に電荷が蓄積し難くなる。その結果、突然のアーキングを防止でき、不安定な放電が生じない。
【0030】
(ターゲット材原料)
使用するターゲット材原料(溶射原料)は、ホウ素がドープされたシリコンまたはシリコン粉末とホウ素粉末とが混合された混合粉末である。ホウ素以外の原子番号11以下の金属が含有されたシリコンであってもよい。シリコンには、シリコンウェハー製造時に端材として発生するシリコンを用いるのが好ましく、これを利用してホウ素がドープされたシリコン隗を元原料とするのが望ましい。また、ホウ素の単体に代えて、ホウ素を含んだ原料として、炭化ホウ素(BC)や酸化ホウ素(B)などの化合物をシリコンに混合してもよい。
【0031】
ホウ素を含んだシリコンの純度は99.7%以上が好ましく、99.8%以上であればさらに好ましい。抵抗率は、1Ω・cm以下であることが好ましい。抵抗率を1Ω・cm以下とすることで、シリコン溶射膜の抵抗率を低く維持して安定したスパッタ放電を行うことができる。ホウ素が混合された高純度の金属シリコンでターゲット材を形成するため、ターゲット材の抵抗率を低下させつつシリコンの純度を高めることができる。
【0032】
(ターゲット材原料の製造方法)
シリコン隗は、粉砕後、分級して溶射原料として用いる。シリコン隗の純度を確保するため、酸洗浄を実施し、粉砕工程や分級工程で混入した不純物を除去するのも有効である。粉砕粉は、30μm以上200μm以下の上限でオーバーカットし、粗い粒子を除去するのが好ましい。これにより、シリコン粒子を十分に溶融させることができ、溶射膜の密度を向上することができる。一方、10μm以上60μm以下の下限でアンダーカットをし、細かい粒子を除去することが好ましい。これにより、シリコン原料の流動性を高め、安定した溶射施工ができる。
【0033】
また、金属ホウ素粉末と、金属シリコン粒子を混合した粉末を用いることもできる。ここではホウ素粉末として、純度が95%以上、より好ましくは98%以上のものを用いる。純度を95%以上とすることで、溶射膜の高純度を維持できる。ホウ素粉末の平均粒径は、5μm以下であり、好ましくは3μm以下である。ホウ素粒子の粒径が5μm以下であるため、シリコン粒子との混合が均一になりやすい。
【0034】
金属シリコンは、上記と同様にシリコンウェハー製造時に発生する端材から得られたものを用いるが、この場合、元のシリコン隗はホウ素がドープされたものでなくても構わない。この2種類の粉末を、たとえばボールミルで混合できる。
【0035】
メカノケミカル法により、シリコン粒子の表面に、細かいホウ素粉末をせん断応力にて機械的に付着させてもよい。ホウ素の混合量は、0.05%以上3%以下であることが好ましい。これにより、ホウ素とシリコンの密着力が向上し、溶射時に両粉末が十分に混合する。ホウ素の混合量が0.05%以上であるため、溶射膜の抵抗率低く維持できる。また、ホウ素の混合量が3%以下であるため、溶射原料としての流動性を高め、施工性を向上させる。
【0036】
(スパッタリングターゲットの製造方法)
まず、金属シリコンにホウ素を混合する。これにより、金属シリコンの抵抗率を低下させることができ、シリコンの純度を高めることが可能になる。
【0037】
次に、混合材料を金属製の基材に溶射して膜状のターゲット材を形成し、施工時には膜を冷却しつつ膜形成する。冷却は、直接の空冷または基材裏側からの水冷を行う。シリコンのターゲット材を形成するために用いられる溶射装置は、フレーム温度が10000℃を超えるプラズマ溶射装置であることが好ましい。フレーム溶射では溶射フレーム温度が2000〜3000℃と低く、局所的にシリコン原料の未溶融部分が残存するなど、十分に緻密化した溶射膜とならない。また、冷却時は熱応力の発生を極力小さくするため、十分な冷却が必要である。特に、円筒においては、円筒外側からの冷却に加え、円筒内部からも冷却を実施し、基材温度の上昇を抑制することが必要である。このとき、アンダーコート層を形成せず基材上にターゲット材を設けるため、特に膜剥離の防止は重要である。
【0038】
1パスの施工膜厚は80μm以下に制御することが好ましく、50μm以下に制御できればさらに好ましい。1パスの施工膜厚が80μm以下とすることで、シリコン溶射膜中に蓄積する残留応力を小さく抑えることができ、膜剥離を防止することができる。このようにして得られるシリコンの純度を高めたターゲット材を用いて、スパッタリングを行うことができる。その結果、優れた光学特性を有するSiO膜を被処理基板上に作製できる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
シリコン原料として、ドープされていないシリコンインゴット端材を使用し、セラミックライニングの粉砕機を用いて粉砕し、120μmの標準篩によりメッシュパスを実施した。篩下の粉末をさらに45μmの標準篩を通した。メッシュ上の残分を塩酸による酸洗浄を行い、シリコン原料とした。
【0040】
ホウ素原料として、1級試薬のホウ素粉末(平均粒径1μm)を用いた。シリコン粉末に対し、ホウ素粉末を1.5wt%秤量し、ポットミルにより、24時間混合を行なって溶射原料とした。直径140mm、長さ600mm、肉厚6mmのSUS製バッキングチューブを回転させながら、プラズマ溶射機(エアロプラズマ製APS7100)により、出力110kWにて、1パス40μmにて溶射施工を実施し、溶射膜厚3mmのスパッタリング用ターゲットを作製した。なお、溶射中は円筒外面および内面双方に、強力に圧縮空気を吹きつけ、溶射膜、基材双方の温度上昇を抑制した。
【0041】
上記スパッタリングターゲットを、光学薄膜用スパッタ製膜装置に実装し、放電試験、および製膜試験を行なった。3時間の連続放電試験の結果、ターゲットの投入電圧のバラツキは、±0.5%以下であった。アーキングの発生や放電に伴う異常な電圧の変動は認められなかった。
【0042】
引続き、ホウ珪酸硝子基材にスパッタリングでSiO膜を製膜した。得られたサンプルを、分光光度計で分光測定した。測定には、分光エリプソメーター(大塚電子製FE−5000)を用いた。250〜800nmの波長領域においてエリプソパラメータを測定し、消衰係数を算出した。良好なSiO膜の場合、全波長領域でゼロとなるが、不純物に起因した光の吸収が発生する場合、消衰係数が大きくなる傾向がある。製膜試験の結果、消衰係数は全波長領域で0.0×10−5であり、良好な膜特性が得られた。
【0043】
(実施例2)
シリコン原料として、抵抗率が10Ω・cmのホウ素ドープのインゴット端材を用い、粒度を90/38μmに調整して、実施例1と同様の作製および評価を行った。
【0044】
(実施例3)
シリコン原料として、抵抗率が10−3Ω・cmのホウ素ドープのインゴット端材を用い、粒度を45/10μmに調整した。ホウ素粉末を混合せず、実施例1と同様の作製および評価を行った。
【0045】
(実施例4)
シリコン原料として、抵抗率が10−2Ω・cmのホウ素ドープのインゴット端材を用い、粒度を150/25μmに調整した。ホウ素粉末を混合せず、実施例1と同様の作製および評価を行った。
【0046】
(実施例5)
シリコン原料として、純度99.9%の粉末を用い、ホウ素粉末を0.8%混合した。粒度を100/32μmに調整して、実施例1と同様の作製および評価を行った。
【0047】
(実施例6)
シリコン原料として、純度99.9%の粉末を用い、乾式粒子複合化装置(ホソカワミクロン製AMS−LAB)を使用して、ホウ素粉末1.0%とのメカノケミカル混合を行った。粒度を120/20μmに調整して実施例1と同様の作製および評価を行った。
【0048】
以上、実施例2〜6においても、実施例1と同様に、ターゲット材として良好なシリコン溶射膜が得られ、スパッタリングにより良好なSiO膜を製膜できた。
【0049】
(比較例1)
ホウ素粉末を混合せず、粒度を45/10μmに調整した以外は、実施例1と同様の方法でターゲット材を形成した。また、実施例1と同様にターゲット材およびスパッタリングにより生成したSiO膜を評価した。ターゲット材としてシリコン溶射膜の抵抗率が高いため、安定したスパッタ放電を維持できず、アーキングが発生し、製膜できなかった。
【0050】
(比較例2)
シリコン原料として、純度98%の粉末を用い、粒度を120/20μmに調整した。また、ホウ素を1.0%混合して、溶射原料を作製した。そして、ターゲット材の形成およびスパッタリングを行い、実施例1と同様に作製および評価を行った。安定して製膜できたが、ターゲット材のシリコン溶射膜の純度が低かったため、一部の波長において光の吸収が観測され、SiO膜の特性は不十分であった。
【0051】
(比較例3)
粒度を75/40μmに調整して、フレーム溶射装置により溶射した以外は実施例3と同様に作製および評価を行った。溶射膜の密度が低く、スパッタ製膜装置の真空度の到達不良が発生し、製膜できなかった。
【0052】
(比較例4)
ホウ素を0.4%混合し、アンダーカットしない以外は、実施例6と同様に作製および評価を行った。溶射原料中に細かい粉末が多かったため、溶射装置の原料フィード量が不安定になったり、停止したりして溶射施工できなかった。
【0053】
(比較例5)
粒度を300/40μmに調整した以外は、実施例4と同様に作製および評価を行った。溶射施工はできたものの、シリコン膜の相対密度が低いため、スパッタ製膜装置の真空度の到達不良が発生し、製膜できなかった。
【0054】
(比較例6)
ホウ素粉末を3.5%混合し、粒度を90/38μmに調整した以外は、実施例5と同様に作製および評価を実施した。溶射原料中に細かい粉末が多かったため、溶射装置の原料フィーダー内で原料が固着してしまい、溶射施工できなかった。
【0055】
(比較例7)
1パスの施工膜厚を90μmとし、粒度を150/45mに調整した以外は、実施例3と同様に作製および評価を実施した。溶射施工が完了し、バッキングチューブを大気中で放冷する時点で、膜剥離が発生した。
【0056】
図1、図2は、それぞれスパッタリングターゲットの実施例、比較例を示す表である。以上により、実施例1〜6では安定したスパッタ運転を可能にし、優れた光学特性を有するSiO膜を製膜可能にすることが実証できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速粒子の衝突により金属成分を放出するスパッタリングターゲットであって、
金属の基材と、
前記基材の表面に、原子番号が11以下の金属が含有された金属シリコンで溶射により膜状に形成されたターゲット材と、を備えることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ターゲット材は、ホウ素が混合された金属シリコンで溶射により膜状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット材は、金属シリコンの純度が99.5%以上、相対密度が92%以上、体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
加速粒子の衝突により金属成分を放出するスパッタリングターゲットの製造方法であって、
金属シリコンに原子番号が11以下の金属を含有させる工程と、
前記混合材料を金属製の基材に溶射してターゲット材となる膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記膜形成は、複数パスの溶射により行い、1パスあたりの施工量を厚さ80μm以下にすることを特徴とする請求項4記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のスパッタリングターゲットのターゲット材原料であって、
抵抗率1Ω・cm以下で純度99.7%以上のシリコンに対して原子番号が11以下の金属をドープされた粉末であり、30μm以上200μm以下の上限および10μm以上60μm以下の下限の粒径を有することを特徴とするターゲット材原料。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のスパッタリングターゲットのターゲット材原料であって、
純度が99.7%以上の金属シリコンと純度が95%以上で平均粒径が5μm以下の金属ホウ素粉末とが混合された混合粉末であり、原子番号が11以下の金属を0.01wt%以上2wt%以下含有し、金属シリコンの粒子が30μm以上200μmの以下の上限値および10μm以上60μm以下の下限値の粒径を有することを特徴とするターゲット材原料。

【図1】
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【図2】
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