説明

スパッタリングターゲット用ZnS粉末及びスパッタリングターゲット

【課題】スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性の向上可能なZnSを主成分とするスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】ターゲットの結晶粒が微細であり、密度が97%以上、さらには99%以上の高密度を備えた、アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有する焼結性に優れたスパッタリングターゲット用ZnS粉末を主成分とする粉末を焼結して形成されたスパッタリングターゲットで、アルカリ金属はNa又はKである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結性に優れたスパッタリングターゲット用ZnS粉末及びスパッタリングによって膜を形成する際に、アーキングやノジュールを低減でき、且つ高強度、高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させることのできる、ZnSを主成分とするスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドを必要とせずに書き換え可能な高密度光情報記録媒体である高密度記録光ディスク技術が開発され、急速に商品化されている。特に、CD−RWは、書き換え可能なCDとして1977年に登場し現在、最も普及している相変化光ディスクである。このCD−RWの書き換え回数は1000回程度である。
また、DVD用としてDVD−RWが開発され商品化されているが、このディスクの層構造は基本的にCD−RWと同じものである。この書き換え回数は1000〜10000回程度である。
【0003】
一般に、CD−RW又はDVD−RW等に使用される相変化光ディスクは、Ag−In−Sb−Te系又はGe−Sb−Te系等の記録薄膜層の両側を、ZnS−ケイ酸化物(ZnS・SiO)系の高融点誘電体の保護層で挟み、さらにアルミニウム合金反射膜を設けた四層構造となっている。また、繰返し回数を高めるために、必要に応じてメモリ層と保護層の間に界面層を加えることなどが行われている。
反射層と保護層は、記録層のアモルファス部と結晶部との反射率の差を増大させる光学的機能が要求されるほか、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件制御という機能が要求される(非特許文献1参照)。
【0004】
このように、高融点誘電体の保護層は昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である。この意味において誘電体保護層は重要な役割を有する。
上記誘電体保護層は、通常スパッタリング法によって形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなる基板とターゲットを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0005】
従来、相変化光ディスク用保護層は可視光域での透過性や耐熱性等を要求されるため、ZnS−SiO等のセラミックスターゲットを用いてスパッタリングし、100〜1000Å程度の薄膜が形成されている。
上記ZnS−ケイ酸化物(ZnS−SiO)ターゲットに使用されるSiOは、通常4N以上の高純度で平均粒径が0.1〜20μmのものが使用されており、700〜1200°Cで焼結して製造されている。
【0006】
しかし、このような温度範囲ではSiO自体の変形等は発生せず、ZnSとの反応も殆んど起こらないため、ZnSとSiOの間に空隙を生じ易く、またSiOを微細にするほど、それが顕著となり、ZnSの緻密化も阻害されるため、ターゲット密度が低下するという問題があった。
ターゲット焼結の際の密度低下は、特に重要な問題であり、スパッタリングによって膜を形成する際にアーキングを発生し易く、それが起因となってスパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールが発生し、成膜の均一性及び品質が低下するだけでなく、生産性が劣るという問題があった。また、ターゲット強度が低下し、割れ易いという問題もあった。
【0007】
従来の光ディスク保護膜形成用ターゲットとしては、硫酸根の含有量を200ppm以下に制限した硫化亜鉛を主成分とする焼結体からなる光記録媒体誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット及びそのために硫酸根の含有量を900ppm以下に制限した硫化亜鉛粉末(例えば、特許文献1参照)、添加物としてNa、K又はこれらの酸化物から選択した1種以上を0.001〜5wt%含有するZnS−SiOからなる光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲット(例えば、特許文献2参照)、ZnS−SiO系の焼結体ターゲット材において、焼結密度が3.4〜3.7g/ccであり、かつ最大気孔径が2〜4μm、熱膨張係数が3×10−6〜5×10−6/°Cである記録保護膜形成用焼結体ターゲットが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【非特許文献1】技術雑誌「光学」26巻1号、頁9〜15
【特許文献1】特開2000−144397号公報
【特許文献2】特開2002−309367号公報
【特許文献3】特開2002−309368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ、かつターゲットの結晶粒が微細であり、密度が97%以上、さらには99%以上の高密度を備え、平均曲げ強度25MPa以上の高い強度を有し、かつ均質なZnSを主成分とするスパッタリングターゲット及び焼結性に優れた該スパッタリングターゲット製造用ZnSを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、焼結性を高めるためには、微量のアルカリ金属を添加することが極めて有効であり、また保護膜としての特性も損なわず、さらにスパッタ時に発生するパーティクルやノジュールを低減させることが可能であり、さらに密度及び強度を向上させ、かつ均質な材料を得ることができるとの知見を得た。
【0010】
本発明はこの知見に基づき、1)アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有することを特徴とする焼結性に優れたスパッタリングターゲット用ZnS粉末、2)アルカリ金属がNa又はKであることを特徴とする上記1記載のスパッタリングターゲット用ZnS粉末、3)アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有するZnS粉末を主成分とする粉末を焼結して形成されたスパッタリングターゲット、4)アルカリ金属がNa又はKであることを特徴とする上記3記載のスパッタリングターゲット、5)アルカリ金属が0.5〜10wtppm以下、相対密度97%以上及びターゲットに含有されるSiOの平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする上記3又は4記載のスパッタリングターゲット、6)スパッタリングターゲット内より少なくとも10個サンプルを採取し、3点曲げ強度を測定(JIS R1601による)及び解析(JIS R1625による)したとき、その平均曲げ強度が25MPa以上、形状母数が15以上であることを特徴とする上記3〜5のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、焼結性が著しく改善され、ターゲットの密度が97%以上、さらには99%以上の高密度を備え、平均曲げ強度が25MPa以上、形状母数が15以上の、強度が高くかつ均質性が良好であるZnSを主成分とするスパッタリングターゲットを得ることが可能となる。これによって、該ターゲットを使用してZnSを主成分とする相変化型光ディスク保護膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のZnS(硫化亜鉛)粉末は、アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有する。これによって焼結性が一段と優れたZnS粉末が得られる。焼結原料となるZnS粉末に微量のアルカリ金属(0.5〜10wtppm)を含有することは、後述する実施例に示すように、焼結性を上げる上で極めて有効である。
0.5wtppm未満では、焼結性の改善効果は小さい。また10wtppmを超えると、焼結体ターゲットが変色する問題がある。したがって、0.5〜10wtppmの範囲で添加することが望ましい。
【0013】
さらに、アルカリ金属が5wtppm以下、相対密度97%以上、ターゲットに含有されるSiOの平均結晶粒径が10μm以下であることが望ましい。通常使用するアルカリ金属としては、ナトリウム及びカリウムが推奨される。
これによって、相対密度が97%以上、さらには99%以上の高密度及び平均曲げ強度が25MPa以上、形状母数が15以上であるターゲットを容易に得ることができる。さらに、スパッタリングの際にパーティクル(発塵)やノジュールをより低減させ、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。
形状母数は高いほど、すなわち強度の分布が小さいほど、そのバルク体が均質であることを意味するが、形状母数15以上とすることが望ましい。
【0014】
本発明のアルカリ金属を含有するZnS粉末の製造は、例えば次の工程によって行う。予め硫酸亜鉛溶液に硫化水素を吹き込み反応沈殿させる等の方法で作製したZnS粉末に、NaCl又はKCl等を微量添加し、さらに攪拌混合した後乾燥し、Na又はK等のアルカリ金属が均一に分散したZnS粉末を得る。
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法に際しては、上記のZnS及び所定量のSiO等の原料粉末を均一に混合し、ホットプレス又は熱間静水圧プレスにより、温度800〜1300°Cに加熱し、面圧100kg/cm以上の条件で焼結する。これによって、焼結体の相対密度97%以上であるZnSを主成分とするスパッタリングターゲットを製造することができる。
また、このようにして製造したスパッタリングターゲット内から、10個以上のサンプルを採取し、3点曲げ強度を測定(JIS R1601による)し、ワイブル統計解析法(JIS R1625による)で解析した場合、下記実施例に示すように、平均曲げ強度が25MPa以上、形状母数が15以上を達成することができる。強度及び均質性が向上し、ターゲットの取扱において割れが発生することなく、安全は操作が可能となる。
【0015】
本発明のZnSを主成分とするスパッタリングターゲットの著しい密度及び強度と均質性の向上は、主としてアルカリ金属の含有による。
このアルカリ金属の添加によって密度、強度及びは均質性が向上する原因は、必ずしも理論的に解明された訳ではないが、ZnS粉末に吸着されたアルカリ金属が粒子表面に欠陥を生成させ、均一に焼結を促進させるという効果をもたらすためと考えられる。
そして、これは後述するデータによって、アルカリ金属の添加と密度、強度及び均質性向上の関係から確認できた。
本発明のターゲットは上記密度、強度及び均質性の向上と共に、空孔を減少させ、ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができるので、スパッタリング時のパーティクルやノジュールを一段と低減させ、さらにターゲットライフも長くすることができるという著しい効果を有する。
【実施例】
【0016】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0017】
(実施例1−3)
2.0wtppmのNa金属(実施例1)、6wtppmのNa金属(実施例2)、8wtppmのK金属(実施例3)を含有する平均粒径5μmの純度4N(99.99%)であるZnS粉に、純度4N(99.99%)の平均粒径5μmの酸化ケイ素(SiO)粉を20mol%添加し均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧200kgf/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。
このようにして製造したスパッタリングターゲット内から、10個のサンプルを採取し、3点曲げ強度(JIS R1601による)及び密度を測定した。これらの結果の一覧を、表1に示す。
表1に示すように、実施例1については、平均曲げ強度が38MPa、形状母数が30、バルク体の相対密度が98%であった。
実施例2については、平均曲げ強度が39MPa、形状母数が52、バルク体の相対密度が99.5%であった。
実施例3については、平均曲げ強度が37MPa、形状母数が49、バルク体の相対密度が99.0%であった。
以上に示すとおり、実施例1−3のいずれの条件も、十分な平均曲げ強度、形状母数及び密度向上が達成できた。
【0018】
【表1】

【0019】
(比較例1)
0.1wtppmのNa金属を含有する純度4N(99.99%)であるZnS粉に、平均粒径5μmの酸化ケイ素(SiO)粉を20mol%添加し、均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧200kgf/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。
これを実施例と同様に、製造したスパッタリングターゲット内から、10個のサンプルを採取し、3点曲げ強度(JIS R1601による)及び密度を測定した。これらの結果の一覧を、表1に示す。
表1に示すように、比較例1については、平均曲げ強度が30MPa、形状母数が9、バルク体の相対密度が96%であった。
これによって得られたバルク体は、平均曲げ強度は良いが、形状母数、相対密度が悪く、また均質性が不十分であった。
【0020】
(比較例2)
0.1wtppmのK金属を含有する純度4N(99.99%)であるZnS粉に、平均粒径5μmの酸化ケイ素(SiO)粉を20mol%添加し、均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧200kgf/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。
これを実施例と同様に、製造したスパッタリングターゲット内から、10個のサンプルを採取し、3点曲げ強度(JIS R1601による)及び密度を測定した。これらの結果の一覧を、表1に示す。
表1に示すように、比較例2については、平均曲げ強度が23MPa、形状母数が7、バルク体の相対密度が95%であった。
これによって得られたバルク体は、平均曲げ強度、形状母数、相対密度も悪く十分な特性が得られなかった。
【0021】
図1に、Na添加量が、それぞれNa:0.1wtppm、Na:2wtppm、Na:6wtppmである場合のワイブルプロットにおける強度分布の指標を示す。
図1において、形状母数が高いほど、すなわち強度の分布が小さいほど、そのバルク体が均質であることを意味する。
図1において、直線状に立っている方が形状母数が高く均質であるが、Na:0.1wtppmに比べ、Na添加量:2wtppm、6wtppmの方が垂直に近くなり、より均質になっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、相対密度97%以上、さらには相対密度99%以上の高密度及び平均曲げ強度25MPa以上、形状母数15以上の高強度のZnSを主成分とするターゲットを製造することができるので、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができるという優れた効果を有し、このターゲットを使用してZnSを主成分とする相変化型光ディスク保護膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ワイブルプロットにおける強度分布の指標を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有することを特徴とする焼結性に優れたスパッタリングターゲット用ZnS粉末。
【請求項2】
アルカリ金属がNa又はKであることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット用ZnS粉末。
【請求項3】
アルカリ金属0.5〜10wtppmを含有するZnS粉末を主成分とする粉末を焼結して形成されたスパッタリングターゲット。
【請求項4】
アルカリ金属がNa又はKであることを特徴とする請求項3記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
アルカリ金属が0.5〜10wtppm以下、相対密度97%以上及びターゲットに含有されるSiOの平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項3又は4記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
スパッタリングターゲット内より少なくとも10個サンプルを採取し、3点曲げ強度を測定(JIS R1601による)及び解析(JIS R1625による)したとき、その平均曲げ強度が25MPa以上、形状母数が15以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−229551(P2010−229551A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113845(P2010−113845)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【分割の表示】特願2004−162699(P2004−162699)の分割
【原出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】