説明

スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法

【課題】 リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造すること。
【解決手段】 本発明の製造方法は、(A)少なくともマンガン化合物を含む原料混合物を調製する原料調製工程と、(B)前記原料調製工程によって調製された前記原料混合物を成形することで、長手方向の寸法をL、前記長手方向と直交する方向(太さ方向)における最大寸法をRとした場合に、L/Rの値が3以上となる成形体を得る、成形工程と、(C)前記成形工程によって得られた前記成形体を焼成する、焼成工程と、(D)前記焼成工程によって得られた前記焼成体を解砕する、解砕工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池と称されることもある)の正極活物質材料として、この種のスピネル型マンガン酸リチウムが知られている(例えば、特開平11−171551号公報、特開2000−30707号公報、特開2006−252940号公報、特開2007−294119号公報、等参照。)。このスピネル型マンガン酸リチウム正極活物質は、コバルト系酸化物やニッケル系酸化物からなる正極活物質に比べ、高安全性、高レート特性、及び低コスト、という特徴を有している。
【発明の概要】
【0003】
一方、スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質には、高温におけるサイクル特性の低下や、高温での保存特性の劣化など、耐久性に課題がある。この課題を解決するためには、例えば、スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質粒子の大粒径化(例えば粒径を10μm以上にすること)が有効である(例えば、特開2003−109592号公報の段落[0005]参照。)。
【0004】
スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質粒子を製造する際には、一般に、高温で焼成することで、粒成長が促進され、大粒径の粒子が得られる。一方、焼成温度が高すぎると、スピネル型マンガン酸リチウムは、酸素を放出して、層状岩塩型マンガン酸リチウムと酸化マンガンとに分解してしまう。このように分解したものは、降温時に酸素を吸収することで、ふたたびスピネル型マンガン酸リチウムに戻る。しかしながら、このような過程を経た粒子は、酸素欠損を多く含むため、電池容量等の特性が低下する。
【0005】
このように、従来、リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で(すなわち不純物や欠陥が少なく)耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造することはできなかった。
【0006】
本発明の対象となる「少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウム」は、LiMnで表されるものに限定されない。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されスピネル構造を有するものに好適に適用される。
LiMMn2−x ・・・(1)
【0007】
上記一般式(1)中、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Al、Co、Cr、Si、Sn、P、V、Sb、Nb、Ta、Mo、及びWからなる群より選択される、少なくとも一種の元素(置換元素)を示す。なお、置換元素Mには、上述の少なくとも一種の元素と共に、Ti、Zr、Ceがさらに含まれていてもよい。
【0008】
上記一般式(1)中、x(0〜0.55)は、置換元素Mの置換数を示す。Liは+1価、Fe、Mn、Ni、Mg、Znは+2価、B、Al、Co、Crは+3価、Si、Ti、Sn、Zr、Ceは+4価、P、V、Sb、Nb、Taは+5価、Mo、Wは+6価のイオンとなり、いずれの元素も、理論上はLiMn中に固溶するものである。
【0009】
例えば、MがLiであり、xが0.1である場合、上記一般式(1)は下記化学式(2)のようになる。また、MがLi及びAl(M1=Li、M2=Al)であり、xがそれぞれ0.08及び0.09(x1[Li]=0.08、x2[Al]=0.09)である場合、上記一般式(1)は下記化学式(3)のようになる。
Li1.1Mn1.9 ・・・(2)
Li1.08Al0.09Mn1.83 ・・・(3)
【0010】
なお、Co、Snについては+2価の場合、Fe、Sb及びTiについては+3価の場合、Mnについては+3価や+4価の場合、Crについては+4価や+6価の場合もあり得る。したがって、置換元素Mは、混合原子価を有する状態で存在する場合がある。また、酸素原子組成については、必ずしも4であることを必要とせず、結晶構造が維持できる範囲内であれば、4に対して過不足があっても構わない。
【0011】
また、全Mnの25〜55mol%が、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等で置換されることで、高温サイクル特性に優れ、且つレート特性にも優れたリチウム二次電池を製造可能な、正極活物質が得られる。さらに、この場合、充放電電位を高くしてエネルギー密度を増加させることができるため、いわゆる5V級の起電力を有するリチウム二次電池を製造することができる。
【0012】
したがって、本発明の対象となるスピネル型マンガン酸リチウムは、下記一般式(4)で表され、スピネル構造を有するものということができる。
Li1+aMn2−a−y4−σ ・・・(4)
(式中、0≦y≦0.5、0≦a≦0.3、0≦σ≦0.05)
【0013】
本発明の製造方法は、
(A)少なくともマンガン化合物を含む原料混合物を調製する原料調製工程と、
(B)前記原料調製工程によって調製された前記原料混合物を用いて成形することで、長手方向の寸法をL、前記長手方向と直交する方向(太さ方向)における最大寸法をRとした場合に、L/Rの値が3以上となる成形体を得る、成形工程と、
(C)前記成形工程によって得られた前記成形体を焼成する、焼成工程と、
(D)前記焼成工程によって得られた前記焼成体を解砕する、解砕工程と、
を含む。
【0014】
具体的には、前記原料には、リチウム化合物とマンガン化合物とが含まれ得る。また、前記成形工程は、L/Rの値が3以上であり且つR=7〜30μmとなる前記成形体を成形する工程であってもよい。
【0015】
本発明の製造方法においては、前記成形工程により、長手方向を有する長尺状(棒状、針状、あるいは繊維状)の前記成形体が得られる。このような形状の前記成形体を焼成した場合、前記長手方向に比して前記太さ方向に存在する原料量が極めて少ないために、前記太さ方向の粒成長が制限される(すなわち、太さの寸法を超えて粒成長しない)。前記焼成工程においては、前記成形体の前記太さ方向に結晶粒が1個となるまで粒成長させることが好ましい。この場合、長手方向の粒成長も抑制される。すなわち、太さ方向の寸法で、粒径を制御することができる。
【0016】
このとき、或る結晶粒の成長過程において、他の(隣接する)粒子は前記長手方向に沿ってのみ存在する。このため、例えば、結晶粒が立方体形状である場合、当該他の粒子に束縛される面は2面(前記長手方向とほぼ垂直に交差し当該長手方向に沿って配列する両面)となり、他の粒子に束縛されない自由面は4面となる。よって、前記成形体が他の形状(バルク状、板状、多面体状、球状、等)である場合よりも、自由面が多くなる。したがって、自形(結晶が自由に成長することで現れる本来の形状)が現れ、結晶性の良好な結晶粒が、良好に形成され得る。また、成形体に粒成長促進助剤を添加しなくても、粒成長する。また、焼成体は、前記長手方向に沿って配列する粒界で一次粒子まで良好に解砕され得る。
【0017】
例えば、立方体形状の結晶粒が長手方向に連なっている場合、他の粒子で束縛されている面(粒界)は2面であり、解砕されるべき面も2面である。これに対し、例えば、立方体形状の結晶粒が上下左右に連なっている場合、他の粒子で束縛されている面(粒界)は6面であり、解砕されるべき面は6面もある。このような場合、本発明に対応する前者は、後者と比べて、解砕のエネルギーを弱くすることができるため、解砕により得られる粒子(粉末)の結晶性が高くなる。したがって、前記成形体の太さ(R)を例えば7〜30μm程度に調整することで、高特性な大粒径の粒子が良好に得られる。
【0018】
このように、本発明によれば、粒径を制御しつつ、焼成体の解砕が容易であり、結晶性の良好なスピネル型マンガン酸リチウム粒子を得ることができる。つまり、本発明の製造方法によれば、リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池の一例の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池の他の一例の概略構成を示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示されている正極板の拡大断面図である。
【図4】本発明の製造方法の一実施例によって製造されたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(図3に示されている正極活物質粒子)の評価用のコインセルの概略構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を、実施例及び比較例を用いつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。
【0021】
よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態や実施例の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態や実施例に対して施され得る各種の変更(modification)の例示は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、可能な限り末尾にまとめて記載されている。
【0022】
1.リチウム二次電池の構成
図1は、本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池1の一例の概略構成を示す断面図である。図1を参照すると、このリチウム二次電池1は、いわゆる液体型であって、正極板2と、負極板3と、セパレータ4と、正極用タブ5と、負極用タブ6と、を備えている。
【0023】
正極板2と負極板3との間には、セパレータ4が設けられている。すなわち、正極板2と、セパレータ4と、負極板3とは、この順に積層されている。正極板2には、正極用タブ5が電気的に接続されている。同様に、負極板3には、負極用タブ6が電気的に接続されている。
【0024】
図1に示されているリチウム二次電池1は、正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層体と、リチウム化合物を電解質として含む電解液とを、所定の電池ケース(図示せず)内に液密的に封入することによって構成されている。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池1の他の一例の概略構成を示す斜視図である。図1を参照すると、このリチウム二次電池1も、いわゆる液体型であって、正極板2と、負極板3と、セパレータ4と、正極用タブ5と、負極用タブ6と、巻芯7と、を備えている。
【0026】
図2に示されているリチウム二次電池1は、巻芯7を中心として正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層体を捲回してなる内部電極体と、上述の電解液とを、所定の電池ケース(図示せず)内に液密的に封入することによって構成されている。
【0027】
図3は、図1及び図2に示されている正極板2の拡大断面図である。図3を参照すると、正極板2は、正極集電体21と、正極層22と、を備えている。正極層22は、正極活物質粒子22aを結着材22b中に分散することによって構成されている。正極活物質粒子22aは、粒径の大きな(具体的には最大外径が10μm以上の)スピネル型マンガン酸リチウムの結晶粒子(一次粒子)である。
【0028】
2.正極活物質粒子の製造方法
図3に示されている正極活物質粒子22aは、以下の4つの工程:(i)原料調製工程、(ii)成形工程、(iii)焼成工程、(iv)解砕・分級工程、からなる製造方法によって製造されている。
【0029】
(i)原料調製工程:マンガン化合物を少なくとも含む混合粉末原料を調製する。リチウム化合物を含む場合もある。なお、マンガンをリチウム以外の置換元素で置換する場合には、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、セリウム化合物等が、混合粉末原料中に含有される。また、予め合成されたスピネル型のマンガン酸リチウムを原料として調製しても良い。
【0030】
リチウム化合物としては、例えば、LiCO、LiNO、LiOH、Li、LiO、CHCOOLi、Li(OCH)、Li(OC)、Li(OC)、Li(OC)、Li(C1119)、Li、LiCl、等が用いられ得る。マンガン化合物としては、MnO、MnO、Mn、Mn、MnCO、MnOOH、Mn(OCH、Mn(OC、Mn(OC、MnC、Mn(CHCOO)、MnCl、Mn(NO、等が用いられ得る。
【0031】
マンガンをリチウム以外の置換元素で置換する場合のアルミニウム化合物としては、例えば、α−Al、γ−Al、AlOOH、Al(OH)、Al(OCH、Al(OC、Al(OC、Al(OC、AlOCl、Al(NO、等が用いられ得る。また、マグネシウム化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)、MgCO、Mg(OCH、Mg(OC、Mg(OC、Mg(OC、Mg(C1119、MgCl、Mg(C、Mg(NO、MgC、等が用いられ得る。
【0032】
ニッケル化合物としては、例えば、NiO、Ni(OH)、NiNO、Ni(C、NiC、NiCO、NiCl、等が用いられ得る。コバルト化合物としては、例えば、Co、CoO、Co(OH)、CoCO、CoC、CoCl、Co(NO、Co(OC、等が用いられ得る。チタン化合物としては、例えば、TiO、TiO、Ti、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Ti(OC、TiCl、等が用いられ得る。ジルコニウム化合物としては、例えば、ZrO、Zr(OH)、ZrO(NO、Zr(OCH、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OC、ZrOCl、等が用いられ得る。セリウム化合物としては、例えば、CeO、Ce(OH)、Ce(NO、等が用いられ得る。
【0033】
なお、混合粉末原料には、必要に応じて粒成長促進助剤(フラックス助剤あるいは低融点助剤)が添加されてもよい。この粒成長促進助剤としては、低融点酸化物・塩化物・硼化物・炭酸塩・硝酸塩・水酸化物・蓚酸塩・酢酸塩、アルコキシド、過マンガン酸塩、等が用いられ得る。
【0034】
具体的には、粒成長促進助剤として、以下のものが用いられ得る:NaCl、NaClO、Na、NaBO、NaCO、NaHCO、NaNO、NaOH、Na、NaOCH、NaOC、NaOC、NaOC、KCl、K、KCO、KNO、KOH、K、KOCH、KOC、KOC、KOC、K(C1119)、CaCl、CaCO、Ca(NO、Ca(OH)、CaC、Ca(CHCOO)・HO、Ca(OCH、Ca(OC、Ca(OC、Ca(OC、MgCl、MgCO、Mg(NO)、Mg(OH)、MgC、Mg(OCH、Mg(OC、Mg(OC、Mg(OC、Mg(C1119、Bi、NaBiO、BiCl、BiOCl、Bi(NO、Bi(OH)、Bi(OC、Bi(OC)、Bi(OC11、Bi(C、Bi(C1119、PbO、PbCl、PbB、PbCO、Pb(NO、PbC、Pb(CHCOO)、Pb(OC、Pb(C1119、Sb、SbCl、SbOCl、Sb(OCH、Sb(OC、Sb(OC)、Sb(OC、KMnO、NaMnO、Ca(MnO、BiMn10、低融点ガラス(軟化点500〜800℃)、等。これらのうち、ナトリウム化合物(NaCl等)、カリウム化合物(KCl等)、及びビスマス化合物(Bi等)が好適である。
【0035】
また、混合粉末原料には、必要に応じて、スピネル構造のマンガン酸リチウムからなる種結晶が、粒成長の核として添加され得る。この種結晶については、粒径は0.1〜10μm(好ましくは1〜6μm)であり、焼成後に得られるマンガン酸リチウム焼成体の全量に対して、添加量は1〜25vol%(好ましくは2〜20vol%)である。種結晶の製造方法については、特段の限定はない。例えば、後述の分級工程によって、所望サイズの粒子(正極活物質粒子22a)からふるい分けられた微粉が、好適に用いられ得る。
【0036】
なお、本発明の製造方法においては、粒成長促進助剤や種結晶の添加がなくても、高特性で耐久性の高い、所望サイズ(粒径)のスピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)粒子を得ることができるが、結晶性や収率をよりいっそう高める目的で、これらの一方又は双方が適宜添加され得る。種結晶と粒成長促進助剤とが複合して添加される場合、粒成長促進助剤は、種結晶とは別々に添加されてもよいし、種結晶に付着させた状態で添加されてもよい。
【0037】
混合粉末は必要に応じて粉砕しても良い。混合粉末の粒径は、10μm以下であることが好ましい。混合粉末の粒径が10μmより大きい場合、乾式又は湿式で粉砕して粒径を10μm以下にしてもよい。粉砕方法は特に限定されないが、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等を用いる方法を用いることができる。
【0038】
(ii)成形工程:上述の原料調製工程によって調製された混合粉末原料を用いて、長手方向を有する長尺状(棒状、針状、あるいは繊維状)の成形体を成形する。この成形体は、長手方向の寸法をL、長手方向と直交する方向(太さ方向)における最大寸法をR(太さ)とした場合に、アスペクト比(L/R)の値が3以上となるように成形される。
【0039】
成形方法については特に限定はなく、例えば、押出成形、ゲルキャスト法、等が用いられ得る。押出成形を用いる場合、口金を通過して押し出されたワイヤ状の成形体は、乾燥前に巻き取りリール等によって巻き取られてもよい。また、ドクターブレード法やドラムドライヤ法等によって得られた一次成形体(シート状、若しくは、薄片状の成形体)を長尺状に切断することによっても、上述の長尺状の成形体が得られる。さらに、ゾル状の前駆体を棒状あるいは繊維状に成形後、ゲル化することによっても、上述の長尺状の成形体が得られる。なお、この場合、前駆体による一次成形体は、ゲル化前に巻き取りリール等によって巻き取られてもよい。
【0040】
(iii)焼成(熱処理)工程:上述の成形工程によって得られた成形体を、830〜1050℃で焼成(熱処理)する。これにより、成形体は、スピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)の焼成体となる。焼成の際に、上述の成形体が坩堝や鞘内に投入される場合は、上述の成形体は、アスペクト比(L/R)の値が3以上になるよう、適当な長さあるいは形状になるように予め加工(折り曲げや切断等)され得る。
【0041】
焼成温度が830℃未満であると、粒成長が不十分な場合がある。一方、焼成温度が1050℃を超える(例えば1100℃程度にまで達する)と、スピネル型マンガン酸リチウムが、酸素を放出することで、層状岩塩構造のマンガン酸リチウムと酸化マンガンとに分解する場合がある。
【0042】
なお、焼成雰囲気は酸素雰囲気(酸素分圧の高い状態)であってもよい(この場合、酸素分圧は、例えば、焼成雰囲気の気圧の50%以上であることが好ましい。)。これにより、スピネル型マンガン酸リチウムの酸素放出が起こりにくくなり、以て上述のような酸素欠損の発生や分解が効果的に抑制される。また、焼成において、上述の粒成長促進助剤や種結晶が存在することで、焼成温度が比較的低温(例えば900℃程度)でも粒成長が促進され、以て結晶性が高められる等の効果が奏されると推察される。
【0043】
焼成する際、昇温速度を調節することにより、焼成後の一次粒子の粒子径を均一化することができる。この際、昇温速度としては、例えば、50〜500℃/時とすることができる。また、低温度域で温度を保ち、その後焼成温度で焼成することにより、一次粒子を均一に粒成長させることができる。この際、低温度域としては、例えば、焼成温度が900℃の材料の場合、400〜800℃とすることができる。また、焼成温度よりも高い温度に保ち、結晶の核を形成させた後に焼成温度で焼成することによっても、一次粒子を均一に粒成長させることができる。この際、焼成温度よりも高い温度としては、例えば、焼成温度が900℃の材料の場合、1000℃等とすることができる。
【0044】
(iv)解砕・分級工程:上述の焼成工程によって得られたスピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)の焼成体に、湿式あるいは乾式の解砕工程、及び分級工程を施すことで、所望サイズのスピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)粒子からなる粉末が得られる。
【0045】
解砕方法については特に限定はなく、例えば、開口径5〜100μmのメッシュやスクリーンに押し当てて解砕する方法が用いられ得る。あるいは、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等が用いられ得る。分級方法についても特に限定はなく、例えば、開口径5〜100μmのメッシュで篩い分けする方法や水簸による方法が用いられ得る。あるいは、気流分級機、篩分級機、エルボージェット分級機等が用いられ得る。
【0046】
なお、得られた所望サイズの粒子は、上述の焼成温度よりも低い温度で再度熱処理されてもよい(例えば、600〜750℃・3〜48時間・大気中又は酸素雰囲気中)。これにより、酸素欠損が修復されるとともに、解砕時の結晶性の乱れが回復する。上記再熱処理は、解砕処理の前、すなわち第一の焼成における降温時に、所望の温度で一定時間保持することでも、焼成温度から所望の温度(例えば、600〜750℃)までの降温速度を遅くすることでも(例えば、5〜100℃/h)、酸素欠損の修復においては効果があり、行うことが可能である。解砕処理後(又は分級処理後)に再熱処理をする場合、再熱処理した粉末を再び解砕・分級処理しても良い。解砕・分級処理は、前述した方法等を用いることができる。
【0047】
以下、上述の製造方法の具体例、及びかかる具体例によって製造された粒子の評価結果について、詳細に説明する。
【0048】
2−1.押出成形・リチウム以外の置換元素なし
2−1−1.製造方法
(i)原料調製工程
Li1.1Mn1.9の組成比となるように、LiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製 ファイングレード 平均粒径3μm)、及びMnO粉末(東ソー株式会社製 電解二酸化マンガン FMグレード 平均粒径5μm 純度95%)を秤量した。
【0049】
この秤量物100重量部と、分散媒としての水120重量部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(直径5mmのジルコニアボール)で湿式混合及び粉砕を行った。得られたスラリーを乾燥し、メジアン径0.5〜3μmの混合原料粉末を得た。メジアン径は、ボールミルによる湿式混合時間で調整した。
【0050】
この混合原料粉末100重量部に対して、有機バインダーとしてメチルセルロース5〜10重量部、界面活性剤0.1〜1重量部、及び水を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。水の重量部は、坏土の硬度が8〜25mmになる様、調整した。坏土の硬度は、粘土硬度計(日本碍子株式会社製、商品名「粘土硬度計」)にて評価した。
【0051】
(ii)成形工程(押出工程)
この坏土を押出成形機にて、棒状の成形体を得た。得られた成形体を乾燥機にて乾燥した。この棒状成形体の太さ(後述の表1参照)は、口金の開口径等の押出条件を適宜調整することによって制御した。
【0052】
(iii)焼成(熱処理)工程
乾燥後の棒状成形体を所定の長さ(後述の表1参照)に折り、アルミナ製の鞘(寸法:90mm×90mm×高さ60mm)内に投入し、フタをあけた状態で、600℃で2時間脱脂し、その後、所定の条件(温度・時間・焼成雰囲気:後述の表1参照)で焼成した。
【0053】
表1に示した、実施例1〜8においては、成形体の太さが7〜30μm、アスペクト比が3以上の例であり、焼成後の焼成体の太さは、5〜20μmであった。更に、焼成体の太さ方向に結晶粒が1個となるまで粒成長し、且つ、長手方向の粒成長が太さ方向の径に抑制されていた。すなわち、粒径5〜20μmの大型の結晶粒が長手方向に複数個連なった焼成体であった。
【0054】
比較例1では、成形体の太さが5μm、アスペクト比が3未満の例であり、粒径が3μm程度の小型の結晶粒が長手方向に2個程度連なった焼成体であった。比較例2では、成形体の太さが5μm、アスペクト比が3以上の例であり、粒径が3μm程度の小型の結晶粒が長手方向に多数個連なった焼成体であった。比較例3〜4では、成形体の太さが32μmと太い例である。この場合、太さ方向の結晶粒の数は1個とはならず、結晶粒が太さ方向に複数個連なった焼成体となった。これは、成形体が太く、粒成長の起点となる核が太さ方向に複数個生成する為と推察される。
【0055】
(iv)解砕・分級工程
焼成(熱処理)工程によって得られた棒状の焼成体を、開口径5〜100μmのポリエステル製メッシュの上に載置するとともに、ヘラで軽くメッシュに押し付けて解砕した。
【0056】
比較例1〜2、実施例1〜8では、焼成体の太さに対応した粒径を有する、結晶粒が長手方向に複数個連なった焼成体であり、他の(隣接する)粒子は長手方向のみに沿って存在した。すなわち、ある結晶粒子が他の粒子に束縛される面(粒界)は2面のみと少ない為、上記方法で容易に解砕可能であった。また、解砕のエネルギーが弱かった為、良好な結晶性を有する粒子(粉末)が得られた。
【0057】
比較例3〜4では、太さ方向に結晶粒が複数個連なった焼成体であり、他の(隣接する)粒子は、長手方向のみならず、太さ方向に沿っても存在した。すなわち、ある結晶粒子が他の粒子に束縛される面(粒界)は3面以上と多い為、上記方法では解砕が不十分であった。
【0058】
解砕により得られた粉末をエタノールに分散し、超音波洗浄機にて超音波処理(38kHz、5分)した。その後、比較例1〜2の場合、平均開口径5μmのポリエステル製メッシュを通し、メッシュを通過した粉末を回収することで、解砕不十分な焼成体を除去した。実施例1〜8、及び、比較例3〜4の場合、平均開口径5μmのポリエステル製メッシュを通し、メッシュ上に残った粉末を回収することで、焼成又は解砕時に発生した粒子径5μm以下の粒子を除去した。
【0059】
(v)再熱処理工程
上述の解砕・分級工程を経て得られた、所望の粒子径を有する粒子粉末を、大気中、650℃で24時間熱処理した。これにより、Li1.1Mn1.9の組成を有する、正極活物質粒子22a用のスピネル型マンガン酸リチウム粒子を得た。
【0060】
2−1−2.評価方法
図4は、本発明の製造方法の一実施例によって製造されたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(図3に示されている正極活物質粒子22a)の評価用のコインセル1cの概略構成を示す側断面図である。
【0061】
以下、図4に示されている評価用のコインセル1cの構成について説明すると、このコインセル1cは、正極集電体21と、正極層22と、セパレータ4と、負極層31と、負極集電体32と、を、この順に積層し、この積層体と電解質とを電池ケース10(正極側容器11と、負極側容器12と、絶縁ガスケット13と、を含む)内に液密的に封入することによって作製されたものである。
【0062】
具体的には、上述の製造方法によって得られたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(正極活物質)5mgと、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、質量比で5:5:1となるように混合することで、正極材料を調製した。調製した正極材料を直径15mmのアルミメッシュ上に載せ、プレス機により10kNの力でプレス成形することで、正極層22を作製した。
【0063】
そして、作製した正極層22と、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して調製した電解液と、リチウム金属板からなる負極層31と、ステンレス板からなる負極集電体32と、リチウムイオン透過性を有するポリエチレンフィルムからなるセパレータ4と、を用いて、コインセル1cを作製した。
【0064】
(A)初期容量(mAh/g)
試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて1Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、初期容量とした。
【0065】
(B)レート特性(%)
試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて0.1Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、放電容量C(0.1C)とした。
【0066】
次いで、試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて10Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後、10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、放電容量C(10C)とした。そして、放電容量C(10C)を放電容量C(0.1C)で除した値を百分率で表したもの(容量維持率)を、レート特性として算出した。
【0067】
(C)サイクル特性(%)
試験温度を45℃とし、1Cレートの定電流−定電圧で4.3Vまで充電、及び1Cレートの定電流で3.0Vまでの放電を繰り返すサイクル充放電を行った。100回のサイクル充放電終了後の電池の放電容量を初期容量で除した値を百分率で表した値を、サイクル特性(耐久性)として算出した。
【0068】
2−1−3.評価結果
表1は、成形工程及び焼成工程における条件を変化させた場合の実験結果を示すものである。
【表1】

【0069】
表1に示されているように、棒状成形体の太さが7〜30μmであり、且つアスペクト比が3以上となる実施例1〜8においては、良好な初期容量、レート特性、及びサイクル特性が得られた。これは、焼成体の解砕が容易であったことから、粒界を有さない単一粒子が多く、解砕による結晶性劣化が抑制され、且つ、結晶粒の粒径が5〜20μmと大きかったためである。
【0070】
これに対し、棒状成形体の太さ及びアスペクト比が小さすぎる比較例1、太さが小さすぎる比較例2においては、サイクル特性が低くなった。これは、粒径が3μm程度と小さかったためである。また、太さが大きすぎる比較例3〜4においては、レート特性が低くなった。これは、解砕が不十分であり、粒界を有する連結粒子が多かった為である。メッシュによる解砕より、解砕のエネルギーが大きい方法(例えば、ジェットミル)を用いれば、十分解砕できたが、結晶性が悪化した。この場合、レート特性は良くなったが、サイクル特性が大幅に悪化した。
【0071】
2−2.押出成形・リチウム以外の置換元素あり
2−2−1.製造方法
Li1.08Al0.09Mn1.83の組成比となるように、LiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製 ファイングレード 平均粒径3μm)、MnO粉末(東ソー株式会社製 電解二酸化マンガン FMグレード 平均粒径5μm 純度95%)、及びAl(OH)粉末(昭和電工株式会社製 商品名「ハイジライト(登録商標)H−43M」、平均粒径0.8μm)を秤量した。
【0072】
この秤量物100重量部と、分散媒としての水120重量部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(直径5mmのジルコニアボール)で湿式混合及び粉砕を行った。得られたスラリーを乾燥し、メジアン径0.5〜3μmの混合原料粉末を得た。メジアン径は、ボールミルによる湿式混合時間で調整した。
【0073】
この湿式混合及び粉砕を経た混合粉末原料を用いて、上述と同様に、坏土を調製し、成形工程(押出工程)、焼成(熱処理)工程、解砕・分級工程、及び再熱処理工程を行うことで、Li1.08Al0.09Mn1.83の組成を有する、正極活物質粒子22a用のスピネル型マンガン酸リチウム粒子を得た。
【0074】
2−2−2.評価結果
表2は、上述と同様に、成形工程(押出工程)及び焼成工程における条件を変化させた場合の実験結果を示すものである。表2に示されているように、Mnの一部がリチウム及びアルミニウムに置換されている場合であっても、表1の場合と同様の結果となった。
【表2】

【0075】
2−3.テープ成形(比較例)
2−3−1.製造方法
(i)原料調製工程
Li1.1Mn1.9、または、Li1.08Al0.09Mn1.83の組成比となるように、LiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製 ファイングレード 平均粒径3μm)、MnO粉末(東ソー株式会社製 電解二酸化マンガン FMグレード 平均粒径5μm 純度95%)、及びAl(OH)粉末(昭和電工株式会社製 商品名「ハイジライト(登録商標)H−43M」、平均粒径0.8μm)を秤量した。
【0076】
この秤量物100重量部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロパノールを等量混合した混合液)100重量部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(直径5mmのジルコニアボール)で湿式混合及び粉砕を行った。
【0077】
(ii)成形工程(テープ成形工程)
この湿式混合・粉砕を経たものに対して、バインダーとしてのポリビニルブチラール(商品名「エスレックBM-2」、積水化学株式会社製)10重量部と、可塑剤(商品名「DOP」、黒金化成株式会社製)4質量部と、分散剤(商品名「レオドールSP−030」、花王株式会社製)2質量部と、を添加・混合することで、スラリー状成形原料を得た。得られたスラリー状成形原料を減圧下で撹拌して脱泡することで、スラリーの粘土を4000mPa・sとした。粘度を調整したスラリー状成形原料を、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に成形してシート状成形体を得た。なお、乾燥後のシート状成形体の厚みは20μmであった。
【0078】
(iii)焼成(熱処理)工程
PETフィルムから剥離したシート状成形体をカッターで300mm角に切り、アルミナ製の鞘(寸法:90mm×90mm×高さ60mm)内に、くしゃくしゃに丸めた状態で入れ、フタをあけた状態(すなわち大気雰囲気中)で、600℃で2時間脱脂し、その後、900℃で10時間焼成した。
【0079】
(iv)解砕・分級工程
焼成(熱処理)工程によって得られたシート状の焼成体を、棒状の焼成体の場合と同様に、ポリエステル製メッシュの上に載置するとともに、ヘラで軽くメッシュに押し付けて解砕を試みた。しかし、焼成体に微粒が多く、粒界強度が強かった為、解砕が十分できなかった。
【0080】
解砕により得られた粉末をエタノールに分散し、超音波洗浄機にて超音波処理(38kHz、5分)した。その後、平均開口径5μmのポリエステル製メッシュを通し、メッシュ上に残った粉末を回収することで、焼成又は解砕時に発生した粒子径5μm以下の粒子を除去した。
【0081】
(v)再熱処理工程
上述と同様に、再熱処理工程を行うことで、Li1.1Mn1.9、または、Li1.08Al0.09Mn1.83の組成比を有する、正極活物質粒子22a用のスピネル型マンガン酸リチウム粒子を得た。
【0082】
2−3−2.評価結果
上述と同様に、コインセル1cを作製し、上述の電池特性を評価したが、マンガン酸リチウム焼成体の解砕が不十分で、粗大な多結晶粒子が多数含まれていた為、評価すらできなかった。メッシュによる解砕より、解砕のエネルギーが大きい方法(例えば、ジェットミル)を用いれば、十分解砕できたが、結晶性が悪化した。この場合、レート特性は良かったが、サイクル特性が大幅に悪かった。
【0083】
なお、ゲルキャスト成形を用いた場合であっても、押出成形の場合と同様の結果となった。
【0084】
3.変形例の例示
なお、上述の実施形態や具体例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0085】
以下、変形例について幾つか例示する。もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0086】
また、上述の実施形態、及び下記の各変形例に記載された内容の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0087】
(1)本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された構成に何ら限定されない。すなわち、本発明の適用対象は、図1、図2、及び図4に示された具体的な電池構成に何ら限定されない。また、正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層数も、特段の限定はない。
【0088】
(2)本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された製造方法に何ら限定されない。例えば、焼成工程は、ロータリーキルンを用いて行われてもよい。これにより、ビスマス化合物等の粒成長促進助剤が添加された場合の、当該助剤の成分(ビスマス等)の除去が、より効率的に行われる。
【0089】
ビスマス化合物が粒成長促進助剤として用いられる場合、ビスマスとマンガンとの化合物(例えばBiMn10)も好適に用いられ得る(Biが用いられた場合でも、焼成途中ではBiMn10が生成している場合がある。)。この場合、焼成時にビスマスが蒸散するとともに、マンガンがマンガン酸リチウムになり、過剰に固溶したリチウムが吸収される。これにより、不純物のより少ないスピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)が得られる。
【0090】
上述の再熱処理工程は、リチウム導入工程を兼ねていてもよい。すなわち、リチウム化合物は、成形工程の前ではなく、再熱処理工程の際に添加されてもよい。この場合、リチウム導入工程における熱処理温度は、500℃〜800℃であることが好ましい。
【0091】
具体的には、例えば、酸化マンガン及びアルミナの混合粉末を長尺状(棒状、針状、あるいは繊維状)に成形して焼成した後、リチウム化合物を添加して更に焼成することにより、マンガン酸リチウムを形成することができる。また、リチウム含有率が高いマンガン酸リチウム結晶を形成した後、酸化マンガンやアルミナを添加して更に焼成することにより、マンガン酸リチウムを形成することもできる。
【0092】
(3)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0093】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0094】
1 … リチウム二次電池 10 … 電池ケース 11 … 正極側容器
12 … 負極側容器 13 … 絶縁ガスケット
2 … 正極板 21 … 正極集電体 22 … 正極層
22a… 正極活物質粒子 22b… 結着材
3 … 負極板 31 … 負極層 32 … 負極集電体
4 … セパレータ 5 … 正極用タブ 6 … 負極用タブ
7 … 巻芯
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特開平11−171551号公報
【特許文献2】特開2000−30707号公報
【特許文献3】特開2003−109592号公報
【特許文献4】特開2006−252940号公報
【特許文献5】特開2007−294119号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
少なくともマンガン化合物を含む原料混合物を調製する、原料調製工程と、
前記原料調製工程によって調製された前記原料混合物を用いて成形することで、長手方向の寸法をL、前記長手方向と直交する方向における最大寸法をRとした場合に、L/Rの値が3以上となる成形体を得る、成形工程と、
前記成形工程によって得られた前記成形体を焼成する、焼成工程と、
前記焼成工程によって得られた焼成体を解砕する、解砕工程と、
を含むことを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
前記成形工程は、
L/Rの値が3以上であり且つR=7〜30μmとなる前記成形体を成形する工程であることを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
前記原料調製工程は、
少なくともリチウム化合物とマンガン化合物とを含む前記原料混合物を調製する工程であることを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
前記原料調製工程は、
少なくともマンガン酸リチウムを含む前記原料混合物を調製する工程であることを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260791(P2010−260791A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−184981(P2010−184981)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】