説明

スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法

【課題】 リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造すること。
【解決手段】 本発明の製造方法は、(A)少なくともマンガン化合物を含みリチウム化合物を含まない原料をシート状に成形する、成形工程と、(B)前記成形工程によって成形されたシート状の成形体を焼成する、第一焼成工程と、(C)前記第一焼成工程によって得られた焼成体と、リチウム化合物と、の混合物を、前記第一焼成工程における焼成温度よりも低温で焼成する、第二焼成工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池と称されることもある)の正極活物質材料として、この種のスピネル型マンガン酸リチウムが知られている(例えば、特開平11−171551号公報、特開2000−30707号公報、特開2006−252940号公報、特開2007−294119号公報、等参照。)。このスピネル型マンガン酸リチウム正極活物質は、コバルト系酸化物やニッケル系酸化物からなる正極活物質に比べ、高安全性、高レート特性、及び低コスト、という特徴を有している。
【発明の概要】
【0003】
一方、スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質には、高温におけるサイクル特性の低下や、高温での保存特性の劣化など、耐久性に課題がある。この課題を解決するためには、例えば、スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質粒子の大粒径化(例えば粒径を10μm以上にすること)が有効である(例えば、特開2003−109592号公報の段落[0005]参照。)。
【0004】
スピネル型マンガン酸リチウム正極活物質粒子を製造する際には、一般に、高温で焼成することで、粒成長が促進され、大粒径の粒子が得られる。一方、焼成温度が高すぎると、スピネル型マンガン酸リチウムは、酸素を放出して、層状岩塩型マンガン酸リチウムと酸化マンガンとに分解してしまう。このように分解したものは、降温時に酸素を吸収することで、ふたたびスピネル型マンガン酸リチウムに戻る。しかしながら、このような過程を経た粒子は、酸素欠損を多く含むため、電池容量等の特性が低下する。
【0005】
このように、従来、リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で(すなわち不純物や欠陥が少なく)耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造することはできなかった。
【0006】
本発明の対象となる「少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウム」は、LiMnで表されるものに限定されない。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されスピネル構造を有するものに好適に適用される。
LiMMn2−x ・・・(1)
【0007】
上記一般式(1)中、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Zn、Al、Co、Cr、Si、Sn、P、V、Sb、Nb、Ta、Mo、及びWからなる群より選択される、少なくとも一種の元素(置換元素)を示す。なお、置換元素Mには、上述の少なくとも一種の元素と共に、Ti、Zr、Ceがさらに含まれていてもよい。
【0008】
上記一般式(1)中、x(0〜0.55)は、置換元素Mの置換数を示す。Liは+1価、Fe、Mn、Ni、Mg、Znは+2価、B、Al、Co、Crは+3価、Si、Ti、Sn、Zr、Ceは+4価、P、V、Sb、Nb、Taは+5価、Mo、Wは+6価のイオンとなり、いずれの元素も、理論上はLiMn中に固溶するものである。
【0009】
例えば、MがLiであり、xが0.1である場合、上記一般式(1)は下記化学式(2)のようになる。また、MがLi及びAl(M1=Li、M2=Al)であり、xがそれぞれ0.08及び0.09(x1[Li]=0.08、x2[Al]=0.09)である場合、上記一般式(1)は下記化学式(3)のようになる。
Li1.1Mn1.9 ・・・(2)
Li1.08Al0.09Mn1.83 ・・・(3)
【0010】
なお、Co、Snについては+2価の場合、Fe、Sb及びTiについては+3価の場合、Mnについては+3価や+4価の場合、Crについては+4価や+6価の場合もあり得る。したがって、置換元素Mは、混合原子価を有する状態で存在する場合がある。また、酸素原子組成については、必ずしも4であることを必要とせず、結晶構造が維持できる範囲内であれば、4に対して過不足があっても構わない。
【0011】
また、全Mnの25〜55mol%が、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等で置換されることで、高温サイクル特性に優れ、且つレート特性にも優れたリチウム二次電池を製造可能な、正極活物質が得られる。さらに、この場合、充放電電位を高くしてエネルギー密度を増加させることができるため、いわゆる5V級の起電力を有するリチウム二次電池を製造することができる。
【0012】
したがって、本発明の対象となるスピネル型マンガン酸リチウムは、下記一般式(4)で表されスピネル構造を有するものということができる。
Li1+aMn2−a−y4−σ ・・・(4)
(式中、0≦y≦0.5、0≦a≦0.3、0≦σ≦0.05)
【0013】
本発明の製造方法は、
(A)少なくともマンガン化合物を含みリチウム化合物を含まない原料をシート状に成形する、成形工程と、
(B)前記成形工程によって成形されたシート状の成形体を焼成する、第一焼成工程と、
(C)前記第一焼成工程によって得られた焼成体と、リチウム化合物と、の混合物を、前記第一焼成工程における焼成温度よりも低温で焼成する、第二焼成工程と、
を含む。
【0014】
具体的には、例えば、前記第一焼成工程における焼成温度は1000〜1300℃であり、前記第二焼成工程における焼成温度は500〜800℃である。
【0015】
なお、マンガンの一部がリチウム以外の置換元素Mで置換される場合、前記原料は、マンガン化合物と、置換元素Mの化合物と、を含む。また、前記原料は、前記第一焼成工程における焼成温度よりも低温の融点を有する粒成長促進助剤をさらに含んでいてもよい。
【0016】
本発明の製造方法においては、まず、前記成形工程にて、少なくともマンガン化合物を含みリチウム化合物を含まない前記原料をシート状に成形することで、前記成形体を得る。
【0017】
続いて、前記第一焼成工程にて、比較的高温で焼成することで、リチウム導入前のマンガン酸化物(Mn)が大粒径化される。ここで、前記第一焼成工程による焼成対象をシート状の前記成形体とすることで、当該成形体の厚さ方向への粒成長を制御することができる。これにより、前記成形体のほぼ全面が粒子表面となるため、粒子に酸素が導入されやすくなる。よって、酸素欠損が可及的に少ない良好な結晶体を合成することができる。
【0018】
その後、前記第二焼成工程にて、前記焼成体とリチウム化合物との混合物を比較的低温で焼成(熱処理)して前記焼成体に対するリチウム導入を行うことで、酸素欠損の発生を可及的に抑制しつつ、大粒径のスピネル型マンガン酸リチウムを得ることができる。
【0019】
このように、シート状の前記成形体をいわゆる二段焼成(仮焼成及びリチウム導入熱処理)する、本発明の製造方法によれば、結晶粒子中への酸素導入を生じやすくすることで酸素欠損の発生を可及的に抑制することができ、以て従来のもの(シート成形工程を経ない単なる二段焼成のものを含む)よりも高特性及び高耐久性を達成することができる。したがって、本発明によれば、リチウム二次電池の正極活物質材料として好適に用いられる、高特性で耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子を、工業的に(すなわち安定的に)製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池の一例の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池の他の一例の概略構成を示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示されている正極板の拡大断面図である。
【図4】本発明の製造方法の一実施例によって製造されたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(図3に示されている正極活物質粒子)の評価用のコインセルの概略構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を、実施例及び比較例を用いつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。
【0022】
よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態や実施例の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態や実施例に対して施され得る各種の変更(modification)の例示は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、可能な限り末尾にまとめて記載されている。
【0023】
1.リチウム二次電池の構成
図1は、本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池1の一例の概略構成を示す断面図である。図1を参照すると、このリチウム二次電池1は、いわゆる液体型であって、正極板2と、負極板3と、セパレータ4と、正極用タブ5と、負極用タブ6と、を備えている。
【0024】
正極板2と負極板3との間には、セパレータ4が設けられている。すなわち、正極板2と、セパレータ4と、負極板3とは、この順に積層されている。正極板2には、正極用タブ5が電気的に接続されている。同様に、負極板3には、負極用タブ6が電気的に接続されている。
【0025】
図1に示されているリチウム二次電池1は、正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層体と、リチウム化合物を電解質として含む電解液とを、所定の電池ケース(図示せず)内に液密的に封入することによって構成されている。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態の適用対象であるリチウム二次電池1の他の一例の概略構成を示す斜視図である。図1を参照すると、このリチウム二次電池1も、いわゆる液体型であって、正極板2と、負極板3と、セパレータ4と、正極用タブ5と、負極用タブ6と、巻芯7と、を備えている。
【0027】
図2に示されているリチウム二次電池1は、巻芯7を中心として正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層体を捲回してなる内部電極体と、上述の電解液とを、所定の電池ケース(図示せず)内に液密的に封入することによって構成されている。
【0028】
図3は、図1及び図2に示されている正極板2の拡大断面図である。図3を参照すると、正極板2は、正極集電体21と、正極層22と、を備えている。正極層22は、正極活物質粒子22aを結着材22b中に分散することによって構成されている。正極活物質粒子22aは、粒径の大きな(具体的には最大外径が10μm以上の)スピネル型マンガン酸リチウムの結晶粒子(一次粒子)である。
【0029】
2.正極活物質粒子の製造方法の概要
図3に示されている正極活物質粒子22aは、以下の4つの工程:(i)成形工程、(ii)第一焼成工程、(iii)解砕・分級工程、(iv)第二焼成工程、からなる製造方法によって製造されている。
【0030】
(i)成形工程
まず、少なくともマンガン化合物を含みリチウム化合物を含まない(リチウム化合物は後述する第二焼成工程にて添加される)原料粒子粉末を準備する。なお、マンガンをリチウム以外の置換元素で置換する場合には、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、セリウム化合物、クロム化合物、等が、原料粒子粉末中に含有される。
【0031】
原料粒子粉末は必要に応じて粉砕してもよい。粉末の粒径は10μm以下であることが好ましい。粉末の粒径が10μmより大きい場合、乾式又は湿式で粉砕して粒径を10μm以下にしてもよい。粉砕方法は特に限定されないが、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等を用いることができる。
【0032】
リチウム化合物としては、例えば、LiCO、LiNO、LiOH、Li、LiO、CHCOOLi、Li(OCH)、Li(OC)、Li(OC)、Li(OC)、Li(C1119)、Li、LiCl、等が用いられ得る。マンガン化合物としては、MnO、MnO、Mn、Mn、MnCO、MnOOH、Mn(OCH、Mn(OC、Mn(OC、MnC、Mn(CHCOO)、MnCl、Mn(NO、等が用いられ得る。
【0033】
マンガンをリチウム以外の置換元素で置換する場合のアルミニウム化合物としては、例えば、α−Al、γ−Al、AlOOH、Al(OH)、Al(OCH、Al(OC、Al(OC、Al(OC、AlOCl、Al(NO、等が用いられ得る。また、マグネシウム化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)、MgCO、Mg(OCH、Mg(OC、Mg(OC、Mg(OC、Mg(C1119、MgCl、Mg(C、Mg(NO、MgC、等が用いられ得る。
【0034】
ニッケル化合物としては、例えば、NiO、Ni(OH)、NiNO、Ni(C、NiC、NiCO、NiCl、等が用いられ得る。コバルト化合物としては、例えば、Co、CoO、Co(OH)、CoCO、CoC、CoCl、Co(NO、Co(OC、等が用いられ得る。チタン化合物としては、例えば、TiO、TiO、Ti、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Ti(OC、TiCl、等が用いられ得る。ジルコニウム化合物としては、例えば、ZrO、Zr(OH)、ZrO(NO、Zr(OCH、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OC、ZrOCl、等が用いられ得る。セリウム化合物としては、例えば、CeO、Ce(OH)、Ce(NO、等が用いられ得る。クロム化合物としては、例えば、Cr、Cr(OH)、等が用いられ得る。
【0035】
なお、原料粒子粉末には、必要に応じて粒成長促進助剤(フラックス助剤あるいは低融点助剤)が添加されてもよい。この粒成長促進助剤としては、低融点酸化物・塩化物・硼化物・炭酸塩・硝酸塩・水酸化物・蓚酸塩・酢酸塩、アルコキシド、過マンガン酸塩、等が用いられ得る。
【0036】
具体的には、粒成長促進助剤として、以下のものが用いられ得る:NaCl、NaClO、Na、NaBO、NaCO、NaHCO、NaNO、NaOH、Na、NaOCH、NaOC、NaOC、NaOC、KCl、K、KCO、KNO、KOH、K、KOCH、KOC、KOC、KOC、K(C1119)、CaCl、CaCO、Ca(NO、Ca(OH)、CaC、Ca(CHCOO)・HO、Ca(OCH、Ca(OC、Ca(OC、Ca(OC、MgCl、MgCO、Mg(NO)、Mg(OH)、MgC、Mg(OCH、Mg(OC、Mg(OC、Mg(OC、Mg(C1119、Bi、NaBiO、BiCl、BiOCl、Bi(NO、Bi(OH)、Bi(OC、Bi(OC)、Bi(OC11、Bi(C、Bi(C1119、PbO、PbCl、PbB、PbCO、Pb(NO、PbC、Pb(CHCOO)、Pb(OC、Pb(C1119、Sb、SbCl、SbOCl、Sb(OCH、Sb(OC、Sb(OC)、Sb(OC、KMnO、NaMnO、Ca(MnO、BiMn10、低融点ガラス(軟化点500〜800℃)、等。これらのうち、ナトリウム化合物(NaCl等)、カリウム化合物(KCl等)、及びビスマス化合物(Bi等)が好適である。
【0037】
上述の原料粒子粉末を用いて、適宜の成形方法によって、シート状(テープ状あるいは薄片状を含む)の成形体を得る。成形方法については、特に限定はなく、例えば、従来周知の成形方法を用いることが可能である。具体的には、
・ドクターブレード法
・スクリーン印刷法
・原料粒子粉末のスラリーを熱したドラム上に塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻き取る、ドラムドライヤ法
・原料粒子粉末のスラリーを熱した円板面上に塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻き取る、ディスクドライヤ法
・スリットを設けた口金に原料粒子粉末を含む粘土を押し出す、押出成形法
等の成形方法を利用することが可能である。なお、上述の成形方法で得られた成形体を更にローラー等で加圧することにより、その密度を高めるようにしてもよい。
【0038】
これらの成形方法の中でも、均一なシート状の成形体が得られるドクターブレード法が好ましい。このドクターブレード法は、例えば、可撓性を有する板(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の有機ポリマー板等)にスラリーを塗布し、塗布したスラリーを乾燥固化して成形体とすることによって行われる。そして、この成形体と板とを剥離することにより、焼成前の成形体が得られる。スラリーは、粘度が500〜4000mPa・sとなるように調製されるのが好ましく、また、減圧化で脱泡されるのが好ましい。
【0039】
シート状の成形体の厚さについては、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがさらに好ましく、5〜30μmがよりいっそう好ましい。シート厚さを適宜設定することで、当該成形体の厚さ方向への粒成長を制御することができる。これにより、成形体のほぼ全面が粒子表面となり、粒子と大気との接触面が広くなるため、粒子に酸素が導入されやすくなる。よって、酸素欠損の可及的に少ない良好な結晶体を合成することができる。
【0040】
また、中空状の造粒体(これも広義の意味でシート成形体ということができる)は、スプレードライヤーの条件を適宜設定することで作製することができる。また、ロール状の成形体を作製する方法としては、例えば、ドラムドライヤ法等を用いることができる。
【0041】
また、シート状の成形体を得るために、ゲルキャスト法等の鋳造法を用いてもよい。このような方法によって得られた成形体についても、広義の意味で、シート成形体と見なすことができる。
【0042】
(ii)第一焼成(熱処理)工程:上述の成形工程によって得られた成形体を、1000〜1300℃で焼成(熱処理)する。これにより、大粒径化された、リチウム導入前のマンガン酸化物(Mn)からなる焼成体が得られる。焼成方法としては特に制限はないが、シート間での重なりが小さくなるように、1枚ごとにセッターに載せて焼成する方法や、シートをくしゃくしゃに丸めてふたの開いた鞘に入れた状態で焼成する方法が好ましい。なお、焼成雰囲気は酸素雰囲気(酸素分圧の高い状態)であってもよい(この場合、酸素分圧は、例えば、焼成雰囲気の気圧の50%以上であることが好ましい。)。
【0043】
(iii)解砕・分級工程:上述の焼成工程によって得られた焼成体に、湿式あるいは乾式の解砕工程、及び分級工程を施すことで、所望サイズのリチウム導入前のマンガン酸化物(Mn)粒子からなる粉末が得られる。なお、この工程は、後述する第二焼成工程の後に行われてもよい。
【0044】
解砕方法については特に限定はなく、例えば、開口径10〜100μmのメッシュやスクリーンに押し当てて解砕する方法が用いられ得る。あるいは、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等が用いられ得る。分級方法についても特に限定はなく、例えば、開口径5〜100μmのメッシュで篩い分けする方法や水簸による方法が用いられ得る。あるいは、気流分級機、篩分級機、エルボージェット分級機等が用いられ得る。
【0045】
(iv)第二焼成工程:上述の焼成工程によって得られた大粒径のマンガン酸化物焼成体(上述の解砕・分級工程を経たもの)と、リチウム化合物とを、所定の比率で混合し、この混合物を、500〜800℃で焼成(熱処理)する。これにより、リチウム導入が行われ、酸素欠損の発生を可及的に抑制しつつ、大粒径のスピネル型マンガン酸リチウムが得られる。
【0046】
3.具体例
以下、上述の製造方法の具体例、及びかかる具体例によって製造された粒子の評価結果について、詳細に説明する。
【0047】
3−1.製造方法
(i)成形工程
マンガン化合物粒子を含む原料粒子粉末(必要に応じて置換元素の化合物及び/又は粒成長促進助剤が含まれる)100重量部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100重量部と、バインダーとしてのポリビニルブチラール(商品名「エスレック(登録商標)BM−2」、積水化学株式会社製)10重量部と、可塑剤(商品名「DOP」、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(商品名「レオドール(登録商標)SP−O30」、花王株式会社製)2重量部と、を添加・混合することで、成形用スラリーを得た。得られた成形用スラリーを減圧下で撹拌して脱泡することで、スラリーの粘度を4000mPa・sに調整した。
【0048】
なお、置換元素の化合物及び/又は粒成長促進助剤が含まれる場合、マンガン化合物粒子と置換元素の化合物及び/又は粒成長促進助剤とを所定量秤量し、この秤量物と上述の分散媒とを合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(直径5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行った。その後、上述のバインダー等を添加・混合した。
【0049】
このようにして調製したスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが所望の厚みとなるように、シート状に成形した。
【0050】
(ii)第一焼成(熱処理)工程
PETフィルムから剥離したシート状成形体をカッターで300mm角に切り、アルミナ製の鞘(寸法:90mm×90mm×高さ60mm)に、くしゃくしゃに丸めた状態で入れた。その後、フタをあけた状態で、600℃で2時間脱脂した後、焼成した。
【0051】
(iii)解砕・分級工程
焼成後のセラミックスシートを、容積1Lのポリプロピレンポット中で、直径10mmのナイロンボールを用いて10h解砕し、単一大型粒子からなる粉末を得た。解砕により得られた粉末をエタノールに分散し、超音波洗浄機にて超音波処理(38kHz、5分)した。その後、平均開口径5μmのポリエステル製メッシュを通し、メッシュ上に残った粉末を回収することで、焼成又は解砕時に発生した粒子径5μm以下の粒子を除去した。
【0052】
(iv)第二焼成(熱処理)工程
上述の解砕・分級工程を経て得られた所望の粒子径を有する粒子の粉末とリチウム化合物とを所定割合で混合し、所定の条件(温度・時間・焼成雰囲気:後述)で熱処理した。これにより、正極活物質粒子22a用のスピネル型マンガン酸リチウム粒子を得た。
【0053】
3−2.評価方法
図4は、本発明の製造方法の一実施例によって製造されたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(図3に示されている正極活物質粒子22a)の評価用のコインセル1cの概略構成を示す側断面図である。
【0054】
以下、図4に示されている評価用のコインセル1cの構成について説明すると、このコインセル1cは、正極集電体21と、正極層22と、セパレータ4と、負極層31と、負極集電体32と、を、この順に積層し、この積層体と電解質とを電池ケース10(正極側容器11と、負極側容器12と、絶縁ガスケット13と、を含む)内に液密的に封入することによって作製されたものである。
【0055】
具体的には、上述の製造方法によって得られたスピネル型マンガン酸リチウム粒子(正極活物質)5mgと、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、質量比で5:5:1となるように混合することで、正極材料を調製した。調製した正極材料を直径15mmのアルミメッシュ上に載せ、プレス機により10kNの力でプレス成形することで、正極層22を作製した。
【0056】
そして、作製した正極層22と、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解して調製した電解液と、リチウム金属板からなる負極層31と、ステンレス板からなる負極集電体32と、リチウムイオン透過性を有するポリエチレンフィルムからなるセパレータ4と、を用いて、コインセル1cを作製した。
【0057】
(A)初期容量(mAh/g)
試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて1Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、初期容量とした。
【0058】
(B)レート特性(%)
試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて0.1Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、放電容量C(0.1C)とした。
【0059】
次いで、試験温度20℃において、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電し、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて10Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後、10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量の測定値を、放電容量C(10C)とした。そして、放電容量C(10C)を放電容量C(0.1C)で除した値を百分率で表したもの(容量維持率)を、レート特性として算出した。
【0060】
(C)サイクル特性(%)
試験温度を45℃とし、1Cレートの定電流−定電圧で4.3Vまで充電、及び1Cレートの定電流で3.0Vまでの放電を繰り返すサイクル充放電を行った。100回のサイクル充放電終了後の電池の放電容量を初期容量で除した値を百分率で表した値を、サイクル特性(耐久性)として算出した。
【0061】
3−3.評価結果
実施例1(リチウム以外の置換元素なし:Li1.1Mn1.9
マンガン化合物原料としてのMnO2粉末(東ソー株式会社製 電解二酸化マンガン FMグレード 平均粒径5μm 純度95%)に20wt%の割合で粒成長促進助剤としてのBi23(粒径0.3μm、太陽鉱工株式会社製)を添加し、これと上述の分散媒、バインダー、可塑剤、及び分散剤とを混合してスラリーを調製した。この調製したスラリーを用いて上述のように厚さ20μmにシート成形し、シート状の成形体を大気雰囲気中・1000℃で10時間焼成した。焼成後の結晶相は、Mnに相転移していた。
【0062】
解砕・分級工程を経て得られたMn粉末と、Li2CO3粉末(関東化学株式会社製)とを、熱処理(リチウム導入)後のリチウムとマンガンとのモル比がLi1.1Mn1.9となるように混合し、酸素雰囲気中・700℃で10時間熱処理することで、リチウム導入を行った。得られた粉末を結晶粒子に塩酸を加えて加圧分解することで調製した溶液試料を、ICP発光分光分析装置(株式会社堀場製作所製 製品名ULTIMA2)に投入して、リチウム及びマンガンの定量分析を行うことで、リチウム導入後の粉末の組成を確認したところ、Li1.1Mn1.9であった。
【0063】
正方晶のルチル構造を有するMnO2は、530℃で立方晶の酸化スカンジウム型構造を有するα−Mnに相転移し、さらに、940℃(酸素雰囲気中では1090℃)で正方晶スピネル構造を有するMnに相転移する。この正方晶スピネル構造を有するMnは、LiMn(立方晶スピネル構造)と同様のスピネル構造を有するため、比較的低温の熱処理によってもリチウムが良好に導入される。
【0064】
上述の実施例1に対して、各種製造条件を表1のように変化させて実験した結果を、表2に示す。
【表1】

【表2】

【0065】
なお、表1及び2における比較例1は、シート成形工程を経ない場合の例である。すなわち、比較例1においては、MnOに10重量%のBiを加えた混合粉末を1100℃で10時間、酸素雰囲気下で焼成し、焼成後の粉末にLiOHを加えて700℃で10時間、酸素雰囲気下で熱処理した。
【0066】
表1及び表2に示されているように、成形工程により得られたシート状の成形体を第一焼成工程にて1000〜1300℃でリチウム導入前原料粒子粉末を焼成し、その後、第二焼成工程にて焼成体とリチウム化合物との混合物を500〜800℃で焼成(熱処理)する、という、二段階焼成によって得られた実施例1〜7においては、良好な初期容量、レート特性、及びサイクル特性が得られた。
【0067】
すなわち、シート状の成形体を二段焼成(仮焼成及びリチウム導入熱処理)する、本実施形態の製造方法によれば、結晶粒子中への酸素導入を生じやすくすることで酸素欠損の発生を可及的に抑制することができ、以て従来のものよりも高特性及び高耐久性を達成することができる。これに対し、シート成形工程を経ずに単に二段焼成のみを行った比較例1においては、レート特性及びサイクル特性が低くなった。
【0068】
第一焼成工程における焼成温度が比較的低い実施例B1においては、解砕・分級後のMnの粒径が小さいことからも明らかなように、相対的に粒成長が不十分となり、サイクル特性が低くなった。一方、第一焼成工程における焼成温度が比較的高い実施例B3においては、相対的にレート特性及びサイクル特性が低くなった。これは、第一焼成工程における焼成温度が高温になったため酸素欠損が生じ、その後の第二焼成工程が酸素雰囲気で行われたにもかかわらず酸素欠損が相対的に充分には回復しなかったことが原因であると考えられる。また、第二焼成工程における焼成温度が適切な温度範囲内にない実施例B2及び実施例B4おいては、レート特性及びサイクル特性が相対的に低くなった。
【0069】
シート厚さが比較的薄い実施例B5については、粒成長が不十分であるため、サイクル特性が相対的に低くなった。シート厚さが比較的厚い実施例B6については、解砕時に結晶性が損なわれたため、相対的にレート特性及び耐久性が低くなった。
【0070】
表3及び表4は、マンガンの一部をアルミニウムで置換した組成(具体的にはLi1.08Al0.09Mn1.83)の場合についての実験結果(表3は製造条件、表4は評価結果)を示すものである。表5及び表6は、マンガンの一部をマグネシウムで置換した組成(具体的にはLi1.08Mg0.06Mn1.86)の場合についての実験結果(表5は製造条件、表6は評価結果)を示すものである。表3〜表6から明らかなように、これらの組成の場合についても、リチウム以外の置換元素のない場合と同様の結果が得られた。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0071】
表7及び表8は、実施例1よりもリチウム量を少なくすることによって高容量化した組成(具体的にはLi1.06Mn1.94)の場合についての実験結果(表7は製造条件、表8は評価結果)を示すものである。表9及び表10は、これについてマンガンの一部をアルミニウムで置換した組成(具体的にはLi1.03Al0.04Mn1.93)の場合についての実験結果(表9は製造条件、表10は評価結果)を示すものである。表11及び表12は、マンガンの一部をマグネシウムで置換した組成(具体的にはLi1.04Mg0.02Mn1.94)の場合についての実験結果(表11は製造条件、表12は評価結果)を示すものである。
【0072】
これらのような高容量化組成においては、酸素欠損が発生しやすく、耐久性が特に問題となる。この点、表7〜表12から明らかなように、これらの組成の場合についても、上述と同様に、二段階焼成によって、高特性で耐久性の高いスピネル型マンガン酸リチウム粒子が得られた。
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【0073】
なお、シート成形体の厚さに関しては、表3〜12の各組成においても、上述の表1及び表2の場合と同様であった。
【0074】
3.変形例の例示
なお、上述の実施形態や具体例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0075】
以下、変形例について幾つか例示する。もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0076】
また、上述の実施形態、及び下記の各変形例に記載された内容の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0077】
(1)本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された構成に何ら限定されない。すなわち、本発明の適用対象は、図1、図2、及び図4に示された具体的な電池構成に何ら限定されない。また、正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層数も、特段の限定はない。
【0078】
(2)本発明は、上述の実施形態にて具体的に開示された製造方法に何ら限定されない。例えば、粒成長促進助剤の添加は、必須ではない。また、焼成工程は、ロータリーキルンを用いて行われてもよい。これにより、ビスマス化合物等の粒成長促進助剤が添加された場合の、当該助剤の成分(ビスマス等)の除去が、より効率的に行われる。
【0079】
ビスマス化合物が粒成長促進助剤として用いられる場合、ビスマスとマンガンとの化合物(例えばBiMn10)も好適に用いられ得る(Biが用いられた場合でも、焼成途中ではBiMn10が生成している場合がある。)。この場合、焼成時にビスマスが蒸散するとともに、マンガンがマンガン酸リチウムになり、過剰に固溶したリチウムが吸収される。これにより、不純物のより少ないスピネル型マンガン酸リチウム(正極活物質)が得られる。
【0080】
(3)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0081】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0082】
1 … リチウム二次電池 10 … 電池ケース 11 … 正極側容器
12 … 負極側容器 13 … 絶縁ガスケット
2 … 正極板 21 … 正極集電体 22 … 正極層
22a… 正極活物質粒子 22b… 結着材
3 … 負極板 31 … 負極層 32 … 負極集電体
4 … セパレータ 5 … 正極用タブ 6 … 負極用タブ
7 … 巻芯
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開平11−171551号公報
【特許文献2】特開2000−30707号公報
【特許文献3】特開2003−109592号公報
【特許文献4】特開2006−252940号公報
【特許文献5】特開2007−294119号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウムとマンガンとを構成元素として含みスピネル構造を有する酸化物である、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
少なくともマンガン化合物を含みリチウム化合物を含まない原料をシート状に成形する、成形工程と、
前記成形工程によって成形されたシート状の成形体を焼成する、第一焼成工程と、
前記第一焼成工程によって得られた焼成体と、リチウム化合物と、の混合物を、前記第一焼成工程における焼成温度よりも低温で焼成する、第二焼成工程と、
を含むことを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
前記第一焼成工程における焼成温度は1000〜1300℃であり、
前記第二焼成工程における焼成温度は500〜800℃であることを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法であって、
前記原料は、マンガン化合物と、前記第一焼成工程における焼成温度よりも低温の融点を有する粒成長促進助剤と、を含むことを特徴とする、スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260792(P2010−260792A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−184986(P2010−184986)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】