説明

スピネル構造を有する遷移金属酸化物の製造方法

【課題】スピネル構造の遷移金属酸化物を製造する新規方法を提供することである。
【解決手段】スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物を製造する。遷移金属酸化物を構成する各金属元素の各粉末の混合物を含むペーストを酸化性雰囲気中で加熱処理することによって、遷移金属酸化物を生成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル構造を有する遷移金属酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セパレータと電気化学セルを積層し、スタック構造の集合電池を形成するためには、セパレータと固体電解質型燃料電池の単電池との間にガスを通し、単電池の電極に対して燃料や酸化剤を供給する必要がある。これと同時に、セパレータと単電池との間に導電性接続部材(インターコネクター)を介在させることによって、単電池とセパレータとを電気的に直列接続する必要がある。このような導電性接続部材は、例えば燃料ガス通路に設置する場合には、還元性の燃料ガスに対して単電池の動作温度で安定でなければならない。また、燃料ガスが通過可能な隙間がなければならない。このような理由から、燃料ガス通路においては、いわゆるニッケルフェルトが一般的に使用されている。
【0003】
しかし、ニッケルフェルトを加圧した状態では通気性が低下し、発電効率が低下する傾向がある。このため、本出願人は、特許文献1(特開2007−265896)において、金属メッシュを切り欠き加工して細長い舌片を形成し、この舌片を電気化学セルの電極に対して押圧し、導通を図ることを開示した。これによって、通気性を確保でき、また電気化学セルへの押しつけ荷重を均等にできる。
【0004】
こうしたスタック構造では、セルの空気極、燃料極と、導電性接続部材とを接合することによって、接合部分の強度を高くし、電気的導通を安定化することが望ましい。しかし、導電性接続部材は通常、融点の高い耐熱性金属からなり、電極は導電性の比較的高いセラミックスからなる。一般的にこれら異種材料を1000℃以下において高い機械的強度で接合することは難しい。
【0005】
たとえば、特許文献2(特開2005−339904)では、インターコネクターとセルとを強固に接合する目的で、導電性セラミックスによって両者の接合を試みている。具体的には、La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型複合酸化物を用いている。
【0006】
また、特許文献3(特開2005−50636)では、銀粉体/銀合金とペロブスカイト型複合酸化物粉体との混合物によって、空気極用のコンタクト材料を形成することが記載されている。
【0007】
更に、特許文献4(特開2009−16351)では、マンガンスピネル化合物からなるカソードを,やはりマンガンスピネル化合物からなる接着剤によって金属インターコネクターと接合することが開示されている(0029)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−265896
【特許文献2】特開2005−339904
【特許文献3】特開2005−50636
【特許文献4】特開2009−16351
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2記載の接合剤では、十分な強度を発現させるために、1000°C以上の高温での熱処理が必要である。このような高温では、金属インターコネクターが極度に酸化されてしまい、クロミア(Cr2O3)の生成により、その接触抵抗が増加してしまう。一方、金属インターコネクターの酸化を抑制、防止するために、たとえば800〜900°Cの温度で熱処理すると、接合剤の焼結が十分に進まないため、所望の接合強度が得られず、セルの稼働中に接合部の破壊が生ずるおそれがある。また、接合剤の焼結が不十分なことに起因して、接触抵抗も大きい。
【0010】
また、特許文献3記載の接合剤では、低温での焼結性が向上し、金属インターコネクターの酸化による抵抗増加は抑制できる。しかし、銀は高価であるので、コストが高くなるという問題がある。
【0011】
特許文献4では、マンガンスピネル化合物からなるカソードを,やはりマンガンスピネル化合物からなる接着剤によって金属インターコネクターと接合することが開示されているが、具体的な実施例はない。一般に、マンガンスピネル化合物は、酸化マンガン粉末と酸化コバルト粉末などをスピネル比率で混合し、混合物を焼結させることで製造する。
【0012】
本発明者は、こうした製法によって、カソードとステンレス製インターコネクターとの間にマンガンスピネル化合物を生成させ、カソードとインターコネクターとを接合することを試みた。しかし、この製法では、1000℃未満の接合温度では、カソードとインターコネクターとの接合強度が低く、その上、接合強度の製造バラツキが大きいことがわかった。接合強度の製造時のバラツキが大きくなると、接合部分の信頼性が低く、導電性も失われる。
【0013】
本発明の課題は、スピネル構造の遷移金属酸化物を製造する新規方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物を製造する方法であって、
遷移金属酸化物を構成する各金属元素の各粉末の混合物を含むペーストを酸化性雰囲気中で加熱処理することによって、遷移金属酸化物を生成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スピネル構造の遷移金属酸化物を製造する新規方法を提供できる。本方法は、比較的低温における熱処理によって高い強度が得られ、しかも強度のバラツキが少ない製法である。これは、出発材料として金属粉末を使用することで、固化時の熱処理中の金属粉末の酸化反応に伴う自己発熱により、粉末の焼結進行を促進できることによって、低温での十分な焼結が可能となったものである。
【0016】
その酸化開始温度は、例えば被接着部材(例えばステンレス)の酸化温度とほぼ同じか、またはそれよりも低い温度とすることが可能であり,ステンレス部材などの酸化をも抑制して低温接合が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】セル6の電極6cとインターコネクターとの接合部分を拡大して示す断面図である。
【図2】電気化学セルを用いた発電装置を示す模式図である。
【図3】(a)は、空気極ディスクと金属ディスクとの接合体を示す正面図であり、(b)は、(a)の接合体を用いた接合強度の測定治具を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
スピネル構造の酸化物は、ABの組成式で示される酸化物であり、結晶中に、AサイトとBサイトという二つのサイトを持つ。スピネル構造の結晶は、等軸晶系であり、八面体の結晶である。
【0019】
スピネル構造の酸化物のAサイトとBサイトとを占める各金属元素が、いずれも遷移金属から選択される。ここで遷移金属は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が好ましい。
【0020】
好ましくは、Aサイト、Bサイトを占める金属元素が貴金属を除く遷移金属である。更に好ましくは、Aサイト、Bサイトを示す各金属元素が、以下から選択される。
Aサイト:鉄、マンガン、コバルト、銅、ニッケルおよび亜鉛
Bサイト:クロム、コバルト、マンガンおよび鉄
【0021】
特に好ましくは、金属元素Aが、マンガン、銅、ニッケルおよび亜鉛からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であり、Bが、コバルト、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれた一種以上の金属元素である。
【0022】
遷移金属酸化物の導電性は,具体的には、700℃〜1000℃の範囲で、1S/cm〜500S/cmが好ましい。
【0023】
遷移金属酸化物を製造する際には、金属元素Aの金属粉末と金属元素Bの金属粉末とを、スピネル酸化物の比率となるように混合して混合粉末を製造し、この混合粉末を加熱処理する。この混合物に対して溶媒およびバインダーを添加することでペーストとし、このペーストを加熱処理することが更に好ましい。また、ペーストを、所定の第一の部材と第二の部材との間に介在させ、両者に接触させ、加熱処理する。この加熱処理によって、スピネル構造を有する遷移金属酸化物を生成させることができる。
【0024】
好適な実施形態においては、各金属粉末の粒径がそれぞれ0.5μm以上、20μm以下である。これによって,生成する遷移金属酸化物の強度が一層向上し、かつ導電性も一層向上する。この観点からは、各金属粉末の粒径が0.8μm以上であることが更に好ましく、また、15μm以下であることが更に好ましい。
【0025】
加熱処理時には、加熱温度は、遷移金属酸化物の強度向上という観点からは、500°C以上が好ましく、700°C以上が更に好ましい。加熱温度の上限は、スピネル接合剤の過度の緻密化抑制という観点からは、1200℃以下が好ましい。スピネル接合剤においては、接合強度のみならず、空気供給のための気孔維持も必要な場合がある。過度に高い温度で焼結してしまうと、スピネルが緻密化してしまうことで、空気供給の障害になる可能性がある。また、後述するように、金属製のセパレータ、導電性接続部材のような金属材料の酸化劣化を防止する必要がある場合には、加熱温度は980°C以下が好ましく、900°C以下が更に好ましい。
【0026】
加熱処理時の雰囲気は酸化性雰囲気とする。酸化性雰囲気としては、大気雰囲気であってよく、あるいは酸素雰囲気であってよく、また酸素と不活性ガスからなる雰囲気であってよい。
【0027】
ペースト中には、必要に応じて、バインダー、溶媒および他の添加剤を添加することができる。また、ペーストには分散剤、可塑剤を添加しても良い。
【0028】
こうしたバインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)を例示できる。
【0029】
こうした溶媒としては、エタノール、ブタノール、テルピネオール、アセトン、キシレン、トルエンを例示できる。
【0030】
遷移金属酸化物のAサイトを構成する金属元素、Bサイトを構成する金属元素、ドープ元素のモル比率は、それぞれ目的とする最終組成に応じて決まる。ペーストにおけるバインダーの重量比率は、1〜20重量%が好ましい。また、ペーストにおける溶媒の重量比率は、2〜30重量%が好ましい。
【0031】
ペーストの混合手段は、ポットミル混合、ライカイ機混合、トリロール混合等を例示できる。
【0032】
なお、原料として、有機金属化合物の粉末を利用できる。例えば、マンガンであればジ―i―プロポキシマンガン(II)(化学式:Mn (O-i-C3H7)2)、コバルトであればジ―i―プロポキシコバルト(化学式:Co (O-i-C3H7)2)、銅であればビス(ジピバロイルメタナト)銅(化学式:Cu (C11H19O2)2)が挙げられる。
【0033】
(接合対象)
本発明の遷移金属酸化物は、第一の部材と第二の部材とにそれぞれペーストを接触させた状態で熱処理することで生成し、第一の部材と第二の部材とを接合する接合剤として作用する。
【0034】
第一の部材、第二の部材は、金属、セラミックス、金属とセラミックスとの複合材料であってよいが、少なくとも前記加熱処理温度で加熱処理雰囲気に安定である必要がある。特に好ましくは以下のものである。金属であれば、耐熱金属として、フェライト系ステンレス、インコネル600及びハステロイ等が開示できる。特に好ましくはSOFC用の耐熱合金である、ZMG材料(日立金属(株)の商品名)が用いられる。
【0035】
(電気化学セル)
電気化学セルは、電気化学的反応を実行するためのセルを意味している。例えば、電気化学セルは、酸素ポンプ、高温水蒸気電解セルである。高温水蒸気電解セルは、水素の製造装置に使用でき、また水蒸気の除去装置に使用できる。また、電気化学セルは、NOx、SOxの分解セルとして使用できる。この分解セルは、自動車、発電装置からの排ガスの浄化装置として使用できる。この場合には、固体電解質膜を通して排ガス中の酸素を除去するのと共に、NOxを電解して窒素と酸素とに分解し、この分解によって生成した酸素をも除去できる。また、このプロセスと共に、排ガス中の水蒸気が電解されて水素と酸素とを生じ、この水素がNOxをNへと還元する。また、好適な実施形態では、電気化学セルが、固体電解質形燃料電池である。
【0036】
一対の電極は、陰極および陽極である。また、一方のガス、他方のガスは、それぞれ、還元性ガスであってよく、酸化性ガスであってよい。
【0037】
固体電解質層の材料は特に限定されず、イットリア安定化ジルコニア又はイットリア部分安定化ジルコニアであってよい。また、NOx分解セルの場合には、酸化セリウムも好ましい。
【0038】
陽極の材質は、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物であることが好ましく、ランタンマンガナイト又はランタンコバルタイトであることが更に好ましく、ランタンマンガナイトが一層好ましい。ランタンコバルタイト及びランタンマンガナイトは、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等をドープしたものであってよい。また、パラジウム、白金、ルテニウム、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ルテニウム−ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム−酸化セリウムサーメットであってもよい。
【0039】
陰極の材質としては、ニッケル、パラジウム、白金、ニッケル−ジルコニアサーメット、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ニッケル−酸化セリウムサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム、ルテニウム−ジルコニアサーメット等が好ましい。
【0040】
電気化学セル間に、別体のセパレータを挟むこともできる。この場合には、セパレータの材質は、一方のガスおよび他方のガスに対して安定な材質で有れば良いが、例えば、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物であることが好ましく、ランタンクロマイトであることが更に好ましい。また金属セパレータの場合は、インコネル、ニクロムなどのニッケル基合金、ヘンズアロイなどのコバルト基合金、ステンレスなどの鉄基合金がある。還元性ガスに対して安定な材質としては、ニッケルおよびニッケル基合金がある。
【0041】
(導電性接続部材)
導電性接続部材の材質は、この部材が曝露されるガスに対して、電気化学セルの稼働温度において安定な材質である必要がある。具体的には、白金、銀、金、パラジウムやインコネル、ニクロムなどのニッケル基合金、ヘンズアロイなどのコバルト基合金、ステンレスなどの鉄基合金、ニッケルが好ましい。
【0042】
(スタックの例)
本発明を適用するべき電気化学セルのスタックは、特に限定されない。ここでは、図1、2の例を参照しつつ説明する。電気化学セル6は、空気極6c、固体電解質6b、燃料極6aからなる。燃料極と空気極とを入れ換えてもよい。セル6と導電性接続部材1とを、金属製の空気極インターコネクター5A、燃料極インターコネクター5Bによって挟み、スタックを作製する。20はシール材である。なお、空気極や燃料極の構造は、組成や材料が異なる複数の層が積層された形態でも良い。
【0043】
この時、空気極インターコネクター5Aとセル6との間、燃料極インターコネクター5Bとセル6との間に、それぞれ、通気性を有する導電性接続部材1を挿入する。そして、図1に示すように、各導電性接続部材1の先端部3を、セル6の各電極6a、6cに対して、本発明の接合剤9によって接合し、これによって導電性接続部材をセルに対して固定し、かつ電気的な導通を図る。なお、スタックの組み付け方法としては、ガラス接合でも良い。
【0044】
(スタックの製法)
まずセラミックスからなる電気化学セルを製造する。セルの製法は特に限定されない。次いで、セル6の電極と導電性接続部材1との間にペーストを設置し、接合する。そして、上下のインターコネクター5A、5Bの間に、セル6、導電性接続部材をはさみ、加圧してスタックを形成する。次いで水素雰囲気下でスタックを加熱し、燃料極を還元し、発電可能な状態とする。この加圧機構は特に限定されない。例えば、ボルト等の締結部材、バネ等の付勢機構であってよい。
【0045】
ここで,導電性接続部材1とセル6の電極6a、6cを接合する段階では、本発明の製法によって前記遷移金属酸化物を生成させる。
すなわち、金属元素Aの金属粉末と金属元素Bの金属粉末とを、スピネル酸化物の比率となるように混合して混合粉末を製造する。この混合粉末を含むペーストを、セルの電極と導電性接続部材との間に介在させ、両者に接触させる。この状態で加熱処理することで、スピネル型複合酸化物からなる接合剤9を生成させ、接続部材とセル電極とを接合する。
【実施例】
【0046】
[実験1:接合強度の評価]
図3(a)、(b)に示す組み立て体を利用することで、本発明例および比較例の導電性接合剤のセル電極に対する接合強度を評価した。
【0047】
(接合用ペーストの製造)
遷移金属1の酸化物粉末と遷移金属2の酸化物粉末とを、表1に示すモル比率で秤量し、ポットミルで24時間、混合および粉砕し、スラリーを得た。得られたスラリーを80℃のオーブンで乾燥させた後、大気雰囲気、800℃で1時間焼成し、スピネル型複合酸化物を合成した。合成されたスピネルを再度ポットミルで粉砕し、平均粒径0.5μmの複合酸化物粉末を得た。この粉末に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して接合用のペーストとした。
【0048】
また、遷移金属1の金属粉末と遷移金属2の金属粉末とを、表1に示すモル比率で秤量し、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して乳鉢で混合し、接合用のペーストとした。なお、酸化物粉末を出発原料とした例が比較例1〜5であり、金属粉末を出発原料とした例が実施例1〜5である(表2参照)。
【0049】
【表1】

【0050】
比較例6として、平均粒径0.5μmのLa0.6Sr0.4CO0.2Fe0.83粉末に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して接合用のペーストとした。La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83は、燃料電池の空気極材料としてよく用いられる材料であり、比較的低温でも焼結する材料である。
【0051】
(試験用空気極ディスクの作製)
燃料電池の空気極として用いられているLa0.75Sr0.2MnO3を一軸プレスで成型し、大気中、1200℃で2時間焼成して緻密体を作製した。得られた緻密体をφ20mm、厚み2mmのディスクに加工し、試験用のディスク11とした(図3(a))。
【0052】
実際の燃料電池セルの空気極を模擬するため、平均粒径0.5μmのLa0.75Sr0.2MnO3粉末と8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末を重量比1:1で混合し、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを加えペースト状にした。得られたペーストを、先に作製した空気極ディスク表面にφ10mmで印刷し、大気中1200℃で1時間焼成し、模擬空気極6cを形成した。
【0053】
(金属ディスクの作製)
高Cr含有(22%Cr)のフェライト系ステンレス材料をφ10mm、厚さ0.5mmの円形に加工し、金属ディスク10とした。
【0054】
(試験サンプルの作製)
作製した空気極ディスク11上の空気極6c表面と金属ディスク10の表面とに、接合用ペースト9を塗布し、両者を張り合わせ、100℃で1時間乾燥させた。その後、大気中、900℃で1時間焼成して両試験片を接合した(図3(a))。
【0055】
(評価方法)
図3(b)に示すような金属治具13を市販のエポキシ樹脂系接着剤(スリーボンド社のTB2222P材料)12で空気極ディスク11および金属ディスク10に対して接着し、引張試験により、各接合体の接合強度を求めた。各接合体について、n=5で試験し、接合強度の平均値を求めた。結果を表2に示す。表2には、各例の測定値の上限値と下限値も示した。
【0056】
【表2】

【0057】
従来のペロブスカイト材料であるLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83に比べて、種々のスピネル材料を用いた実施例1〜5においては、電極と金属との接合強度が著しく向上した。すなわち、本発明により、金属インターコネクターと電極とをより強固に接合することが可能であることを確認した。しかも、本発明の遷移金属酸化物は、比較例に対して強度のバラツキが著しく少ないことを確認した。
【0058】
[実験2:発電試験]
図2に模式的に示すようにして、燃料極を基板とする固体酸化物形燃料電池セルを作製した。
(燃料極基板の作製)
平均粒径1μmの酸化ニッケル粉末50重量部とイットリア安定化ジルコニア(8YSZ、TZ-8Y:東ソー)50重量部を混合し、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加してスラリーを作製した。このスラリーをスプレードライヤーで乾燥および造粒し、燃料極基板用粉末を得た。この造粒粉末を金型プレス成形法により成形し、直径120mm、厚さ1.5mmの円板を得た。その後、電気炉で空気中1400℃で円板を3時間焼成し、燃料極基板6aを得た。
【0059】
(固体電解質膜の形成)
8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末に水とバインダーを加え、ボールミルで16時間混合した。得られたスラリーを、前記の燃料極基板上に塗布、乾燥し、電気炉で空気中1400℃で2時間焼結して電解質厚さ10μmの燃料極/固体電解質焼結体を作製した。
【0060】
(空気極の形成)
空気極として、平均粒径0.5μmのLa0.75Sr0.2MnO3粉末と8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末を重量比1:1で混合しエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを加え、ペースト状にした。このペーストをスクリーン印刷で成膜・乾燥後1200℃で1時間で焼き付け、燃料極6a/固体電解質6b/空気極6cのセル6を作製した。
【0061】
(導電性接続部材の作製)
通気性を有する導電性接続部材1として、燃料極側にはNiメッシュ、空気極側にはフェライト系ステンレスメッシュを用いた。これらの各メッシュをレーザー加工することによって、舌状の切り目を入れ、その後、舌片をプレス加工することによって突起形状を付与した。舌片3の飛び出し高さは、セルの反りを吸収するため1.0mmとした。
【0062】
(接合)
作製したセル6の空気極6c表面と導電性接続部材1の舌片3に実施例1の接合用ペーストを塗布し、両者を張り合わせた。また、インターコネクター5Aの表面にも実施例1の接合用ペーストを塗布し、インターコネクター5Aと導電性接続部材1を接合した。 セル6の燃料極6a表面とインターコネクター5Bの表面にはNiペーストを塗布し、導電性接続部材1を間に挟んで張り合わた。その後、100℃で1時間乾燥させたのちに、大気中、900℃で1時間焼成して接合し、スタックを得た。
【0063】
比較例として、平均粒径0.5μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83に、バインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加した接合用のペーストを作製した。同様に大気中900℃で1時間焼成、接合してスタックを得た。
【0064】
(性能評価)
性能評価をするため電気炉に前記スタックをセットし、燃料極6a側に窒素ガス,空気極6c側にエアーを流しながら、800℃まで昇温し、800℃に達した時点で燃料極6a側に水素ガスを流して還元処理を行った。3時間の還元処理後、800℃において、スタックの電流−電圧特性評価と内部抵抗解析を実施した。
【0065】
この結果、本発明の導電性接合剤を用いたスタックでは最大出力密度は0.31W/cm2であり、オーミック抵抗は0.30Ω・cm2であった。 一方、比較例を用いたスタックでは最大出力密度が0.10W/cm2であり、オーミック抵抗は2.0Ω・cm2であった。
【0066】
すなわち、従来のペロブスカイト材料であるLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83に比べて、本発明は金属インターコネクターと電極とをより強固に接合することが可能になり、発電出力の向上とオーミックな内部抵抗を低減することができることを確認した。
【0067】
[実験3: 原料金属粉末の平均粒径と特性]
本実験においては、MnCoの場合におけるMn金属粉末、Co金属粉末の平均粒径に関する検討を実施した。
【0068】
表3に示したとおり、種々の粒径の組合せにおいて、スピネル組成となるように接合剤を調整した。
【0069】
すなわち、金属マンガン粉末とコバルト粉末との粒径を、表3に示すように変更した。マンガン粉末とコバルト粉末とをmol比で1:2の割合で混合した。これにバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールを添加して乳鉢で混合し、ペーストとした。このペーストを100℃で1時間乾燥させた。その後、大気中、900℃で1時間焼成した。
【0070】
また、各例のペーストを、実施例1で作製した空気極ディスク11上の空気極6c表面と金属ディスク10の表面とに塗布し、両者を張り合わせ、100℃で1時間乾燥させた。その後、大気中、900℃で1時間焼成して両試験片を接合した(図3(a))。そして接合強度を測定した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3の結果に示されたように、各粉末の平均粒径を0.5〜20μmとすることが好ましく、0.8μm以上、15μm以下とすることが更に好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1 インターコネクター 6 電気化学セル 6a、6c 電極 6b 固体電解質 9 接合剤 10 金属ディスク 11 空気極ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル結晶構造を有する遷移金属酸化物を製造する方法であって、
前記遷移金属酸化物を構成する各金属元素の各粉末の混合物を酸化性雰囲気中で加熱処理することによって、前記遷移金属酸化物を生成させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記混合物が、更に溶媒およびバインダーを含有するペーストであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属酸化物の主相がABの組成式を有しており、Aが、鉄、マンガン、コバルト、銅、ニッケルおよび亜鉛からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であり、Bが、クロム、コバルト、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれた一種以上の金属元素であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記各金属粉末の粒径がそれぞれ0.5μm以上、20μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項5】
第一の部材と第二の部材との間に前記混合物を介在させ,この混合物を前記酸化性雰囲気下で前記加熱処理して前記遷移金属酸化物を生成させることによって,前記第一の部材と前記第二の部材とを接合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一の部材が、固体電解質上に設けられている電極であり、前記第二の部材が、前記電極に対して電気的に接続されている導電性接続部材であることを特徴とする、請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202490(P2010−202490A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204489(P2009−204489)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】