説明

スピンドルモータ、ディスク駆動装置、およびスピンドルモータの製造方法

【課題】外部衝撃により引き出し線と第2半田との境界部に応力が集中することを抑制して、引き出し線の破断を防止する。
【解決手段】コイルから延びる引き出し線70Aは、第1半田が被覆された第1半田部71Aを有している。引き出し線は、ベース抜け部61Aおよび基板抜け部62Aを通って下方へ延び、第1半田部が、回路基板33Aに、第2半田72Aで半田付けされている。第1半田部の上端部は、回路基板の上面より上方に位置している。第1半田部の上端部と回路基板の上面との軸方向の距離をd1、基板抜け部の開口幅をd2、引き出し線の直径をd3とすると、d1>(d2−d3)/2を満たしている。このような構造において、第2半田は、第1半田部に沿って、基板抜け部より上方へせり上がる。これにより、引き出し線と第2半田との接触面積が増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、およびスピンドルモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置には、磁気ディスクを回転させるためのスピンドルモータが、搭載されている。スピンドルモータは、装置のハウジングに固定される静止部と、磁気ディスクを保持しつつ回転する回転部とを有する。スピンドルモータは、静止部と回転部との間に発生する磁束により、中心軸を中心としたトルクを発生させ、静止部に対して回転部を回転させる。
【0003】
スピンドルモータの静止部は、磁束を発生させるためのコイルを有する。コイルを構成する導線の端部は、スピンドルモータの外部に引き出され、回路基板に半田付けされている。例えば、特開2009−110611号公報の段落0026には、コイル線の銅線部が、貫通孔から外部側に引き出され、フレキシブル回路基板のランド部に半田付けされることが、記載されている。
【特許文献1】特開2009−110611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピンドルモータの製造工程では、上記の半田付けの後に、異物を除去するための超音波洗浄を行う。しかしながら、上記構造のスピンドルモータを超音波洗浄すると、超音波振動による応力が、導線と半田との境界部に集中する場合がある。このような応力集中による導線の破断を防止するために、従来では、超音波振動の出力を抑制しつつ、スピンドルモータを洗浄していた。
【0005】
この問題に関して、特開2009−110611号公報には、半田部の外周をベースの貫通孔の径よりも大きく形成することで、コイル線の断線を防止することが、記載されている。しかしながら、この解決手段は、当該公報の段落0032に記載のように、フレキシブル回路基板の小径部および半田部の剛性を向上させて、これらの部位の振動自体を抑制しようとするものである。当該公報には、上記の応力集中に対する解決手段は、記載されていない。
【0006】
なお、上記の応力集中の要因としては、超音波洗浄時の振動だけではなく、運搬時の振動や使用時の振動のような、種々の外部衝撃が考えられる。
【0007】
本発明の目的は、引き出し線と半田との境界部における応力集中を抑制できるスピンドルモータおよびスピンドルモータの製造方法を、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の例示的な第1発明は、静止部と、上下に延びる中心軸を中心として、前記静止部に対して回転可能に支持される回転部とを備え、前記静止部は、前記中心軸の周囲において径方向に広がるベース部と、前記ベース部の上方に配置されたコイルと、前記ベース部の下面に固定された回路基板と、を有し、前記コイルから延びる引き出し線は、第1半田が被覆された第1半田部を有し、前記ベース部は、貫通孔で構成されるベース抜け部を有し、前記回路基板は、前記ベース抜け部と重なる位置に、貫通孔または切り欠きで構成される基板抜け部を有し、前記引き出し線は、前記ベース抜け部および前記基板抜け部を通って下方へ延び、前記第1半田部が前記回路基板に第2半田で半田付けされており、前記第1半田部の上端部は、前記回路基板の上面より上方に位置し、前記第1半田部の上端部と前記回路基板の上面との軸方向の距離をd1、前記基板抜け部の開口幅をd2、前記引き出し線の直径をd3とすると、d1>(d2−d3)/2を満たすスピンドルモータである。
【0009】
本願の例示的な第2発明は、上下に延びる中心軸の周囲において径方向に広がるベース部と、前記ベース部の上方に配置されるコイルと、前記ベース部の下面に固定される回路基板と、を有するスピンドルモータの製造方法において、引き出し線を有するコイルを準備する準備工程と、前記ベース部の上方に、前記コイルを配置するコイル取付工程と、前記回路基板の下面側へ引き出された前記引き出し線を、前記回路基板に半田付けする半田付け工程と、前記ベース部、前記コイル、および前記回路基板を含むユニットを液体中に浸漬し、前記液体に超音波振動を付与する超音波洗浄工程とを備え、前記引き出し線は、その先端部付近に、予め半田を被覆した第1半田部を有し、前記コイル取付工程では、前記ベース部に設けられた貫通孔であるベース抜け部および前記回路基板に設けられた貫通孔または切り欠きである基板抜け部を介して、前記引き出し線を下方へ引き出し、前記半田付け工程では、前記第1半田部の上端部と前記回路基板の上面との軸方向の距離をd1、前記基板抜け部の開口幅をd2、前記引き出し線の直径をd3として、d1>(d2−d3)/2を満たすように、引き出し線を位置決めする製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願の例示的な第1発明によれば、第2半田が、第1半田部に沿って、基板抜け部より上方へせり上がる。これにより、引き出し線と第2半田との接触面積が増大する。このため、外部衝撃により引き出し線と半田との境界部に応力が集中することが、抑制される。その結果、引き出し線の破断を防止できる。
【0011】
本願の例示的な第2発明によれば、半田付け工程において、半田が、第1半田部に沿って基板抜け部より上方へせり上がる。これにより、引き出し線と第2半田との接触面積が増大する。このため、外部衝撃により引き出し線と半田との境界部に応力が集中することが、抑制される。したがって、引き出し線の破断を防止しつつ、ベース部、コイル、および回路基板を含むユニットを、超音波洗浄できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、スピンドルモータの部分縦断面図である。
【図2】図2は、ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図3】図3は、スピンドルモータの縦断面図である。
【図4】図4は、静止部の部分縦断面図である。
【図5】図5は、回路基板および引き出し線の部分縦断面図である。
【図6】図6は、回路基板および引き出し線の部分縦断面図である。
【図7】図7は、スピンドルモータの部分下面図である。
【図8】図8は、スピンドルモータの製造工程の一部分を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、中心軸に沿う方向を上下方向とし、回路基板に対してコイル側を上として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、これは、説明の便宜のために上下方向を定義したものであって、本発明に係るスピンドルモータおよびディスク駆動装置の、使用時の姿勢を限定するものではない。
【0014】
<1.一実施形態に係るスピンドルモータ>
図1は、本発明の一実施形態に係るスピンドルモータ2Aの部分縦断面図である。図1に示すように、スピンドルモータ2Aは、静止部3Aと回転部4Aとを備えている。回転部4Aは、上下に延びる中心軸を中心として、静止部3Aに対して、回転可能に支持されている。
【0015】
静止部3Aは、ベース部31A、コイル37A、および回路基板33Aを、有している。ベース部31Aは、中心軸の周囲において、径方向に広がっている。コイル37Aは、ベース部31Aの上方に、配置されている。回路基板33Aは、ベース部31Aの下面に、固定されている。
【0016】
ベース部31Aは、貫通孔で構成されるベース抜け部61Aを有している。回路基板33Aは、ベース抜け部61Aと重なる位置に、貫通孔または切り欠きで構成される基板抜け部62Aを有している。コイル37Aから延びる引き出し線70Aは、第1半田が被覆された第1半田部71Aを有している。引き出し線70Aは、ベース抜け部61Aおよび基板抜け部62Aを通って、下方へ延びている。そして、第1半田部71Aが、回路基板33Aに第2半田72Aで半田付けされている。
【0017】
第1半田部71Aの上端部は、回路基板33Aの上面より上方に位置している。そして、第1半田部71Aの上端部と回路基板33Aの上面との軸方向の距離をd1、基板抜け部62Aの開口幅をd2、引き出し線の直径をd3とすると、d1>(d2−d3)/2を満たしている。
【0018】
スピンドルモータ2Aの製造時には、まず、引き出し線70Aを有するコイル37Aを準備する。引き出し線70Aは、その先端部付近に、予め半田を被覆した第1半田部71Aを有している。次に、ベース部31Aの上方に、コイル37Aを配置する。このとき、ベース抜け部61Aおよび基板抜け部62Aを介して、引き出し線70Aを下方へ引き出す。
【0019】
続いて、回路基板33Aの下面側へ引き出された引き出し線70Aを、回路基板33Aに半田付けする。半田付けの際には、上記のd1>(d2−d3)/2を満たすように、引き出し線70Aを位置決めしつつ、半田付けする。その後、ベース部31A、コイル37A、および回路基板33Aを含むユニットを液体中に浸漬し、液体に超音波振動を付与する。すなわち、当該ユニットを超音波洗浄する。
【0020】
本実施形態では、半田付けの際に、第2半田72Aが、第1半田部71Aに沿って、基板抜け部62Aより上方へせり上がる。これにより、引き出し線70Aと第2半田72Aとの接触面積が増大する。その結果、外部衝撃により引き出し線70Aと第2半田72Aとの境界部に応力が集中することが、抑制される。したがって、引き出し線70Aの破断を防止できる。超音波洗浄時には、引き出し線70Aの破断を防止しつつ、ベース部31A、コイル37A、および回路基板33Aを含むユニットに、超音波振動を付与できる。
【0021】
<2.より具体的な実施形態>
<2−1.ディスク駆動装置の構成>
続いて、本発明のより具体的な実施形態について説明する。
【0022】
図2は、ディスク駆動装置1の縦断面図である。ディスク駆動装置1は、磁気ディスク12を回転させつつ、磁気ディスク12に対して情報の読み出しおよび書き込みを行う装置である。図2に示すように、ディスク駆動装置1は、ハウジング11、2枚の磁気ディスク12、アクセス部13、およびスピンドルモータ2を備えている。
【0023】
ハウジング11は、2枚の磁気ディスク12、アクセス部13、およびスピンドルモータ2を内部に収容する筐体である。スピンドルモータ2は、2枚の磁気ディスク12を保持しつつ、これらの磁気ディスク12を、中心軸9を中心として回転させる。アクセス部13は、磁気ディスク12の記録面に沿ってヘッド131を移動させて、磁気ディスク12に対する情報の読み出しおよび書き込みを行う。なお、アクセス部13は、磁気ディスク12に対して、情報の読み出しおよび書き込みの一方のみを行うものであってもよい。
【0024】
<2−2.スピンドルモータの構成>
続いて、上記のスピンドルモータ2の構成について説明する。図3は、スピンドルモータ2の縦断面図である。図3に示すように、スピンドルモータ2は、静止部3と回転部4とを、備えている。静止部3は、ディスク駆動装置1のハウジング11に対して、相対的に静止している。回転部4は、静止部3に対して、回転可能に支持されている。
【0025】
本実施形態の静止部3は、ベース部材31、ステータユニット32、回路基板33、および静止軸受ユニット34を有している。
【0026】
ベース部材31は、ステータユニット32や静止軸受ユニット34を支持する基台となる部材である。本実施形態では、ハウジング11の受け部側の部材が、ベース部材31となっている。ただし、ベース部材31は、ハウジング11に取り付けられた他の部材であってもよい。ベース部材31は、例えば、アルミニウム合金等の金属の鋳造により得られる。
【0027】
図3に示すように、ベース部材31は、円筒部311および底部312を含んでいる。円筒部311は、中心軸9の周囲に設けられた略円筒状の部位である。底部312は、円筒部311の下端部から、径方向(中心軸9に直交する方向。以下同じ)外側へ向けて広がる、略平板状の部位である。
【0028】
ステータユニット32は、駆動電流に応じて磁束を発生させる部位である。ステータユニット32は、ステータコア36と、複数のコイル37と、を有する。ステータコア36は、複数の鋼板を軸方向(中心軸9に沿う方向。以下同じ)に積層した積層鋼板からなる。ステータコア36は、円環状のコアバック361と、コアバック361から径方向外側へ向けて突出した複数本のティース部362と、を有する。コアバック361は、ベース部材31の円筒部311に、固定されている。
【0029】
コイル37は、ベース部材31の底部312の上方に、配置されている。コイル37は、ティース部362の周囲に巻回された導線により、構成されている。導線の端部は、ベース部材31の下方へ引き出されて、回路基板33に接続されている。以下では、導線のうち、コイル37の巻線部分371より下方へ延びる部分を「引き出し線70」と称する。引き出し線70およびその近傍部位の詳細な構造については、後述する。
【0030】
回路基板33は、コイル37に対して駆動電流を与えるための電子回路を搭載した基板である。本実施形態では、回路基板33として、柔軟に変形可能なフレキシブルプリント基板(FPC)が、使用されている。回路基板33は、図3のように湾曲しつつ、ベース部材31の下面に、接着剤等で固定されている。なお、回路基板33として、柔軟性の低いリジッドプリント基板が、使用されていてもよい。
【0031】
静止軸受ユニット34は、回転部4側のシャフト41を回転自在に支持するための機構である。静止軸受ユニット34は、スリーブ341とキャップ342とを、有している。スリーブ341は、ベース部材31の円筒部311の内側に固定された、略円筒状の部材である。キャップ342は、スリーブ341の下部の開口を閉塞する部材である。スリーブ341の内周面とシャフト41の外周面との隙間や、キャップ342の上面とシャフト41の下面との隙間には、潤滑オイル51が充填されている。
【0032】
一方、本実施形態の回転部4は、シャフト41、ハブ42、およびロータマグネット43を有している。
【0033】
シャフト41は、中心軸9に沿って上下方向に延びる、略円柱状の部材である。シャフト41は、スリーブ341の内側に挿入され、静止軸受ユニット34によって、回転自在に支持されている。
【0034】
ハブ42は、シャフト41に固定されて、シャフト41とともに回転する部材である。ハブ42の外周部には、磁気ディスク12を保持するディスク保持部421が、設けられている。
【0035】
ロータマグネット43は、ハブ42に固定された円環状の磁石である。ロータマグネット43の内周面は、ステータコア36の複数のティース部362の径方向外側の端面と、径方向に対向する。また、ロータマグネット43の内周面は、N極とS極とが交互に配列された磁極面となっている。
【0036】
このようなスピンドルモータ2において、回路基板33を介してコイル37に駆動電流を与えると、ステータコア36の複数のティース部362に、径方向の磁束が発生する。そして、ティース部362とロータマグネット43との間の磁束の作用により、周方向のトルクが発生し、静止部3に対して回転部4が、中心軸9を中心として回転する。ハブ42のディスク保持部421に保持された磁気ディスク12は、回転部4とともに、中心軸9を中心として回転する。
【0037】
<2−3.引き出し線およびその近傍部位の構造>
続いて、引き出し線70およびその近傍部位の構造について、さらに説明する。図4は、引き出し線70の付近における静止部3の部分縦断面図である。
【0038】
図4に示すように、本実施形態のベース部材31は、第1貫通孔61を有している。第1貫通孔61は、ベース部材31の底部312を、上下に貫通している。また、本実施形態の回路基板33は、第2貫通孔62を有している。第2貫通孔62は、第1貫通孔61と軸方向に重なる位置において、回路基板33を上下に貫通している。図4の例では、第2貫通孔62の開口幅は、第1貫通孔61の開口幅より小さい。
【0039】
コイル37から延びる引き出し線70は、第1貫通孔61および第2貫通孔62を通って、回路基板33の下面側へ、引き出されている。そして、引き出し線70の下端部が、回路基板33の下面に、半田付けされている。
【0040】
また、本実施形態では、第1貫通孔61の縁部に、絶縁部材35が取り付けられている。絶縁部材35は、樹脂製の略筒状の部材である。引き出し線70は、絶縁部材35の内側を通って、下方へ延びている。このため、絶縁部材35によって、第1貫通孔61内の引き出し線70とベース部材31との直接的な接触が、防止されている。その結果、引き出し線70の損傷が抑制されるとともに、ベース部材31とコイル37との電気的接続も防止されている。
【0041】
コイル37の巻線部分371を構成する導線の表面には、絶縁膜が被覆されている。これにより、巻線部分371における導線同士の電気的短絡が、防止されている。一方、引き出し線70の先端部付近には、絶縁膜が被覆されておらず、絶縁膜に代えて、半田の膜が被覆されている。この半田の膜は、引き出し線70が回路基板33に半田付けされる前に、予め引き出し線70の先端部付近に形成されたものである。
【0042】
すなわち、引き出し線70は、その先端部付近に、予め第1半田が被覆された第1半田部71を、有している。そして、当該第1半田部71が、回路基板33の下面に、第2半田72で半田付けされている。第1半田および第2半田72は、鉛とスズとを含む旧来の半田であってもよく、環境保全に適した無鉛半田であってもよい。
【0043】
このような第1半田部71を設けておけば、第2半田72による半田付けの際に、絶縁膜を溶解する必要がない。このため、回路基板33への引き出し線70の半田付けを、迅速に行うことができる。また、第1半田部71に対する第2半田72の濡れ性は、絶縁膜に対する第2半田72の濡れ性より、大きい。このため、半田付けの際に、第2半田72を、第1半田部71に、容易に付着させることができる。
【0044】
図4のように、第1半田部71の上端部は、回路基板33の上面より上方に、位置している。このため、半田付けのときには、第2貫通孔62の付近に溶解された第2半田72が、第1半田部71に沿って、第2貫通孔62より上方の位置までせり上がる。そうすると、引き出し線70と第2半田72との接触面積が増大する。また、第2貫通孔62の上方において、第1半田部71の表面に付着する第2半田72の厚みは、上方へ向かうにつれて、漸次に減少する。このため、引き出し線70と第2半田72との境界部に、応力が集中しにくい構造となっている。
【0045】
図5および図6は、第1半田部71の上端部の高さ位置を、幾何学的に説明するための図である。図5の例では、引き出し線70が、第2貫通孔62の中央に、配置されている。第2半田72は、第1半田部71の表面に沿って、第2貫通孔62より上方へ、せり上がっている。
【0046】
ここで、第1半田部71の上端部と回路基板33の上面との軸方向の距離をd1、第2貫通孔62の開口幅をd2、引き出し線70の直径をd3、第2半田72のせり上がり面721の上端部と回路基板33の上面との軸方向の距離をd4、とする。第2半田72のせり上がり面721の傾きを45°と仮定すると、d4=(d2−d3)/2が成立する。そして、d1>d4であれば、引き出し線70の絶縁膜が、第2半田72に接触しないので、第2半田72を十分にせり上がらせることができる。したがって、d1>(d2−d3)/2を満たしていることが、好ましいと言える。
【0047】
この関係を満たせば、第2半田72が十分にせり上がり、上述した応力集中を抑制する効果が奏される。したがって、外部衝撃による引き出し線70の破断を、防止できる。特に、第1半田部71の上端部は、実際に硬化した後の第2半田72の上端部より、上方に配置されていることが、好ましい。
【0048】
なお、第1半田は、第2半田72の上端部付近における引き出し線70の強度を、向上させる役割も果たしている。引き出し線70の強度そのものが向上すれば、引き出し線70の破断は、より生じにくくなる。
【0049】
一方、図6の例では、引き出し線70が、第2貫通孔62の隅部に、配置されている。この場合には、第2半田72のせり上がり面721の傾きを45°と仮定すると、d4=d2−d3が成立する。したがって、図6の状態において、第2半田72を十分にせり上がらせるためには、d1>d2−d3を満たしていることが、好ましいと言える。
【0050】
この関係を満たせば、第2貫通孔62内における引き出し線70の位置に拘わらず、第2半田72を十分にせり上がらせることができる。したがって、引き出し線70と第2半田72との境界部における応力集中が、より生じにくくなる。その結果、外部衝撃による引き出し線70の破断が、さらに防止される。
【0051】
第2貫通孔62の開口幅d2は、小さすぎると、引き出し線70の挿入作業が困難となり、第2半田72のせり上がり量が微小となる。一方、第2貫通孔62の開口幅d2が大きすぎると、第2半田72の使用量が増加するとともに、第2半田72のせり上がり面721の角度が小さくなる。第2貫通孔62の開口幅d2は、これらの要素を考慮した適切な値に設定されることが、好ましい。具体的には、第2貫通孔62の開口幅d2は、0.4mm以上かつ0.8mm以下に設定されることが、好ましい。また、第2貫通孔62の開口幅d2は、0.5mm以上かつ0.7mm以下に設定されれば、より好ましい。
【0052】
引き出し線70の直径d3は、小さすぎると、電気抵抗が大きくなるとともに、破断が生じやすくなる。一方、引き出し線70の直径d3が大きすぎると、配線作業が困難となる。引き出し線70の直径d3は、これらの要素を考慮した適切な値に設定されることが、好ましい。具体的には、引き出し線70の直径d3は、0.14mm以上かつ0.2mm以下に設定されることが、好ましい。また、引き出し線70の直径d3は、0.15mm以上かつ0.17mm以下に設定されれば、より好ましい。
【0053】
図4に戻る。第1半田部71の上端部は、コイル37の巻線部分371の下端部より下方に、位置している。すなわち、第1半田部71は、コイル37の巻線部分371には、及んでいない。これにより、第1半田部71と導線の他の部位との接触が、抑制されている。コイル37の巻線部分371は、導線の絶縁膜に被覆された部分のみで構成され、導線同士の電気的絶縁が確保されている。
【0054】
また、本実施形態では、第1半田部71の上端部は、絶縁部材35の下端部より上方に、位置している。このため、仮に、絶縁部材35がなければ、第1半田部71または第2半田72とベース部材31とが接触し、両者の間に電気的導通が生じる虞がある。この点について、本実施形態では、第1貫通孔61の縁部に、絶縁部材35が取り付けられている。すなわち、第1半田部71の上端部を高い位置に配置しつつ、第1半田部71または第2半田72とベース部材31との電気的導通を、絶縁部材35により防止している。
【0055】
また、本実施形態では、第2半田72を利用して、ハウジング11の内部空間と外部空間との連通路である第2貫通孔62を、封止している。このため、第2貫通孔62を塞ぐための封止材を、第2半田72とは別に用意する必要はない。また、本実施形態では、第2貫通孔62の付近において、引き出し線70の全周に、第2半田72が接触している。このため、引き出し線70と第2半田72との境界部における応力集中が、さらに抑制される。
【0056】
図7は、スピンドルモータ2の部分下面図である。本実施形態では、三相交流の各電流を供給する3本の導線が、複数のコイル37を構成している。したがって、ベース部材31の下面側には、3本の引き出し線70が引き出されている。各引き出し線70は、先端部付近に第1半田部71を有している。ベース部材31は、3本の引き出し線70に対応する3つの第1貫通孔61を、有している。また、回路基板33は、3本の引き出し線70に対応する3つの第2貫通孔62を、有している。各引き出し線70の下端部は、第2貫通孔62の付近において、第2半田72で回路基板33に半田付けされている。
【0057】
本実施形態では、このような3本の引き出し線70のそれぞれについて、上述のd4=(d2−d3)/2の関係、望ましくはd4=d2−d3の関係が、満たされている。このため、3本の引き出し線70のそれぞれについて、外部衝撃による応力集中および破断が、抑制されている。
【0058】
<2−4.スピンドルモータの製造工程>
図8は、ベース部材31へのステータユニット32の取り付け、およびその前後の処理の流れを示した、フローチャートである。以下では、図8のフローチャートに沿って、スピンドルモータ2の製造工程の一部分について、説明する。
【0059】
図8の例では、まず、コイル37の引き出し線70に、第1半田部71を形成する(ステップS1)。ここでは、まず、ステータコア36とコイル37とを有するステータユニット32を用意する。そして、コイル37から延びる引き出し線70を、溶融された高温の第1半田の中に、浸漬させる。そうすると、引き出し線70の先端部付近において、絶縁膜が溶解されて導線が露出する。その後、ステータユニット32ごと引き出し線70を上方へ引き上げる。これにより、引き出し線70の先端部付近に付着した第1半田が硬化して、第1半田部71が形成される。
【0060】
次に、ステップS1の処理を終えたステータユニット32と、ベース部材31と、絶縁部材35と、を準備する(ステップS2)。ベース部材31の下面には、回路基板33が、接着剤で固定されている。ベース部材31の底部312は、第1貫通孔61を有している。また、回路基板33は、第1貫通孔61と重なる位置に、第2貫通孔62を有している。絶縁部材35は、ベース部材31の第1貫通孔61の縁部に、取り付けられる(ステップS3)。
【0061】
続いて、ベース部材31にステータユニット32を取り付ける(ステップS4)。ここでは、ベース部材31の円筒部311の外側に、ステータコア36のコアバック361を嵌め合わせ、両部材を接着剤で固定する。その結果、ベース部材31の底部312の上方位置に、コイル37が配置される。また、このとき、コイル37から延びる引き出し線70を、ベース部材31の第1貫通孔61および回路基板33の第2貫通孔62を通して、回路基板33の下方へ引き出す。
【0062】
その後、引き出し線70を、回路基板33に第2半田72で半田付けする(ステップS5)。ここでは、上述のd4=(d2−d3)/2の関係、望ましくはd4=d2−d3の関係を満たすように、第1半田部71の上端部を位置決めする。そして、第2貫通孔62の付近において、第1半田部71を第2半田72で半田付けする。第2半田72は、第1半田部71に沿って第2貫通孔62より上方へせり上がる。これにより、引き出し線70と第2半田72との接触面積が増大する。その結果、外部衝撃により引き出し線70と第2半田72との境界部に応力が集中することが、抑制される。
【0063】
また、このステップS5では、第1半田部71の上端部が、絶縁部材35の下端部より上方に位置するように、引き出し線70を位置決めすることが、好ましい。このようにすれば、第1半田部71の上端部を高い位置に配置しつつ、第1半田部71または第2半田72とベース部材31との電気的導通を、絶縁部材35により防止できる。
【0064】
半田付けが完了すると、最後に、超音波洗浄を行う(ステップS6)。ここでは、洗浄槽内に貯留された洗浄液の中に、ベース部材31、ステータユニット32、回路基板33、および絶縁部材35を含むユニットを、浸漬する。そして、洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を付与することにより、当該ユニットの各部に付着した微細な異物を除去する。上述の通り、本実施形態では、引き出し線70と第2半田72との境界部において、応力集中が抑制される構造となっている。このため、ステップS6では、引き出し線70の破断を防止しつつ、高い出力の超音波を付与することができる。
【0065】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0066】
本発明に係るスピンドルモータの製造方法は、必ずしも、上記のステップS1〜S6の全てを有している必要はない。例えば、スピンドルモータ1の製造者は、予め第1半田部71が形成されたステータユニット32の提供を受けて、上記のステップS2〜S6のみを実施してもよい。
【0067】
第1貫通孔61および第2貫通孔62は、コイル37の真下に配置されていてもよく、コイル37の真下から外れた位置に配置されていてもよい。また、本発明の基板抜け部は、上記実施形態のように周縁が閉じられた第2貫通孔62であってもよく、切り欠きであってもよい。
【0068】
また、スピンドルモータ2が有する引き出し線70の数は、1〜2本であってもよく、4本以上であってもよい。また、複数の引き出し線70が、共通の第1貫通孔61および第2貫通孔62を通って、回路基板33の下方へ引き出されていてもよい。
【0069】
また、本発明のスピンドルモータは、上記の実施形態のように、ステータユニット32の径方向外側にロータマグネット43が配置された、いわゆるアウタロータタイプのモータであってもよく、ステータユニットの径方向内側にロータマグネットが配置された、いわゆるインナロータタイプのモータであってもよい。
【0070】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、およびスピンドルモータの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 ディスク駆動装置
2,2A スピンドルモータ
3,3A 静止部
4 回転部
9 中心軸
11 ハウジング
12 磁気ディスク
13 アクセス部
31 ベース部材
31A ベース部
32 ステータユニット
33,33A 回路基板
34 静止軸受ユニット
35 絶縁部材
36 ステータコア
37,37A コイル
41 シャフト
42 ハブ
43 ロータマグネット
51 潤滑オイル
61 第1貫通孔
61A ベース抜け部
62 第2貫通孔
62A 基板抜け部
70,70A 引き出し線
71,71A 第1半田部
72,72A 第2半田

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止部と、
上下に延びる中心軸を中心として、前記静止部に対して回転可能に支持される回転部と
を備え、
前記静止部は、
前記中心軸の周囲において径方向に広がるベース部と、
前記ベース部の上方に配置されたコイルと、
前記ベース部の下面に固定された回路基板と、
を有し、
前記コイルから延びる引き出し線は、第1半田が被覆された第1半田部を有し、
前記ベース部は、貫通孔で構成されるベース抜け部を有し、
前記回路基板は、前記ベース抜け部と重なる位置に、貫通孔または切り欠きで構成される基板抜け部を有し、
前記引き出し線は、前記ベース抜け部および前記基板抜け部を通って下方へ延び、前記第1半田部が前記回路基板に第2半田で半田付けされており、
前記第1半田部の上端部は、前記回路基板の上面より上方に位置し、
前記第1半田部の上端部と前記回路基板の上面との軸方向の距離をd1、前記基板抜け部の開口幅をd2、前記引き出し線の直径をd3とすると、
d1>(d2−d3)/2
を満たすスピンドルモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のスピンドルモータにおいて、
d1>d2−d3
を満たすスピンドルモータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスピンドルモータにおいて、
前記第1半田部の上端部は、前記第2半田の上端部より上方に位置しているスピンドルモータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記第1半田部の上端部は、前記コイルの巻線部分の下端部より下方に位置しているスピンドルモータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記ベース部は金属製であり、
前記ベース抜け部の縁部に、樹脂製の絶縁部材が固定され、
前記第1半田部の上端部は、前記絶縁部材の下端部より上方に位置するスピンドルモータ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
前記基板抜け部は、周縁が閉じられた貫通孔であり、
前記第2半田が、前記基板抜け部を封止しているスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載のスピンドルモータにおいて、
複数の前記引き出し線と、複数の前記引き出し線に対応する複数の前記ベース抜け部および複数の前記基板抜け部とを有し、
複数の前記引き出し線のそれぞれについて、上記d1>(d2−d3)/2の関係が満たされているスピンドルモータ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載のスピンドルモータと、
前記スピンドルモータの前記回転部に支持されたディスクに対し、情報の読み出しおよび書き込みの少なくとも一方を行うアクセス部と、
前記スピンドルモータおよび前記アクセス部を収容するハウジングと、
を備えたディスク駆動装置。
【請求項9】
上下に延びる中心軸の周囲において径方向に広がるベース部と、前記ベース部の上方に配置されるコイルと、前記ベース部の下面に固定される回路基板と、を有するスピンドルモータの製造方法において、
引き出し線を有するコイルを準備する準備工程と、
前記ベース部の上方に、前記コイルを配置するコイル取付工程と、
前記回路基板の下面側へ引き出された前記引き出し線を、前記回路基板に半田付けする半田付け工程と、
前記ベース部、前記コイル、および前記回路基板を含むユニットを液体中に浸漬し、前記液体に超音波振動を付与する超音波洗浄工程と
を備え、
前記引き出し線は、その先端部付近に、予め半田を被覆した第1半田部を有し、
前記コイル取付工程では、前記ベース部に設けられた貫通孔であるベース抜け部および前記回路基板に設けられた貫通孔または切り欠きである基板抜け部を介して、前記引き出し線を下方へ引き出し、
前記半田付け工程では、前記第1半田部の上端部と前記回路基板の上面との軸方向の距離をd1、前記基板抜け部の開口幅をd2、前記引き出し線の直径をd3として、d1>(d2−d3)/2を満たすように、引き出し線を位置決めする製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法において、
前記半田付け工程では、d1>d2−d3を満たすように、引き出し線を位置決めする製造方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の製造方法において、
前記半田付け工程より前に、前記ベース抜け部の縁部に、樹脂製の絶縁部材を固定する絶縁部材取付工程をさらに備え、
前記半田付け工程では、前記第1半田部の上端部が、前記絶縁部材の下端部より上方に位置するように、引き出し線を位置決めする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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